バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第五十四話 貫け! 魔導砲!

「了解っ! 魔導砲、発射用意(スタンバイ)!」

「…………魔導砲、発射用意(スタンバイ)

 

 秀吉とムッツリーニが復唱する。その返事に迷いはない。つまり2人はその”魔導砲”という物についての説明を受けているのだろう。よく分からないけど、名前からして砲撃の類いな気がする。いや、きっとそうに違いない!

 

「艦内電源遮断! 非常弁閉鎖! 魔導伝導路切り替え完了じゃ!」

「…………魔導コア圧力上昇。魔導エネルギー充填開始。5%……10%……17%……」

「よォし! キングアルカディス号、変形(フォームチェンジ)! 砲撃形態(キャノンモード)!」

「「ィエッサー!!」」

 

 へ、変形!? マジで!? なんかすっごいワクワクしてきた!!

 

「ね、ねぇマッコイさん! 何か僕にできることない!? 僕にも手伝わせてよ!」

 

 マッコイ爺さんの元に駆け寄り僕は願った。だってこんな貴重な経験、現実世界じゃ絶対にできないし!

 

「フ……悪いがヨシイに手伝うてもらうことはない。そこでしっかり見ておけ! キングアルカディス号の勇姿をな!」

「そんなぁ……」

 

 ちぇっ。秀吉とムッツリーニだけなんて、ずるいじゃないか。

 

「おぉーーぃぃ! サカモトォ!」

 

『おう! なんだぁーーっ!』

 

「そこをどけェーーッ! 開くぞォーーッ!」

 

『あァ? 開く? 何が――』

 

 ――ガコン

 

『おわっ!?』

 

 突然、雄二の足下付近の甲板に亀裂が入った。亀裂は船の前方を切り離すかのごとく真横一線に入り、ゴゴゴゴという音と共に開いていく。

 

『うぉぉぉぉッッ!! な、なんだこりゃぁぁっっ!?』

 

 雄二が泡食った顔で必死に駆け戻ってくる。その姿はゴリラが慌てて走っているようで、思わず吹き出してしまいそうなくらいに滑稽(こっけい)だった。

 

「ぜぇっぜぇっぜぇっ……い、一体なんだってんだ!」

 

 冷や汗を垂らしながら息を切らせる雄二。この時、船首は既に2メートルほど前方に切り離された感じに開いていた。そして今度はその船首部分がグォングォングォンという音を轟かせながら左右に割れていく。

 

「ね、ねぇちょっとアキ、何なのよこれ……」

 

 美波が僕の右腕を掴んで揺さぶる。驚くというか、少し怯えているような感じだ。

 

「大丈夫。心配いらないよ。きっとこの船が僕らの活路を切り開いてくれるんだよ」

「活路?」

「うん。きっとね」

 

 船首部分はしばらくして動きを止めた。すると今度は左右2つに割れた間から黒くてドでかい筒がせり出してきた。直径3メートルくらいあるだろうか。とてつもなく巨大な砲身だ。

 

「あ、あの……これって大砲みたいにみえるんですけど……も、もしかしてあの島に向かってこの大砲を撃つんですか?」

 

 左腕には姫路さんがしがみつき、不安げな表情を見せている。

 

「うん。だぶんそうだと思う」

「そ、そんな! 大砲なんか撃って大丈夫なんですか!?」

「どうだろう。マッコイさんも秀吉もムッツリーニも本気みたいだし、たぶん大丈夫なんじゃないかな」

 

 大砲を撃つ衝撃で船が壊れないか心配するなんて、姫路さんは心配性だなぁ。やっぱり女の子には男の浪漫なんて分からないのかな。っていうかさ、2人ともなんで僕に聞くのさ。僕が説明を受けていないのは2人とも知ってるよね?

 

「変形完了ですぞい! 船長!」

「キノシタ! 座標修正! 右、回頭5度! 照準固定(ターゲットロック)!」

「了解じゃ!」

 

 そんな彼女らの動揺はおかまいなしに彼らは真面目な顔をして準備を進めている。

 

「……船長、これは何?」

 

 その時、唐突に落ち着いた声が隣で聞こえた。やっぱり霧島さんは冷静だ。僕に聞いても分からないことくらい知ってるんだね。

 

「こいつぁ魔導砲と言ってな。魔障壁のエネルギーを凝縮して弾にして撃ち出す装置よ」

「……魔障壁のエネルギー?」

「そうだ。あのバリヤーみたいなモンは人間を拒むらしいじゃねぇか。つまり魔障壁とは逆の働きをするモンってこった。なら魔障壁エネルギーをブチ当ててやれば相殺(そうさい)して消えちまうってェ寸法だ」

「な、なるほどな……そいつは考えもしなかったぜ。っつーか船長、いつの間にこんなモンを作ったんだ?」

「おめぇらと別れてカノーラに戻ってすぐ着手した。思わず徹夜しちまったがな。カッカッカッ!」

「あんた、やっぱすげぇよ……」

「フン。男などに褒められても嬉しくもなんともねぇよ」

「へーへー。そうですかっと」

 

 徹夜しただけでこれだけの物を作ってしまうマッコイさんって、やっぱり天才なんじゃないだろうか。色々と性格に問題はありそうだけど。

 

「…………エネルギー充填90%」

「マッコイ殿! そろそろ準備をしてくだされ!」

「おっと、こうしちゃいられねぇ。おめぇら、ちょっと離れてろ」

 

 僕たちは指示に従い、数歩下がる。それを確認するとマッコイさんは操舵台の脇に付いていたレバーをぐっと引いた。

 

 ――ヴィーッ! ヴィーッ! ヴィーッ! ヴィーッ!

 

 警告音が鳴り響き、舵が床にズズズと沈んでいく。

 

「フッフッフッ……まさかもうコイツを使う時が来るとはな」

 

 腕組みをしながら不気味な笑みを浮かべるマッコイさん。そんな彼の目の前では舵に代わり、別の台が床からズズズとせり上がってきている。その台はとても特徴的な形をしていた。

 

 教卓のような木製の台。その上に備え付けられた……マイク? いや、マイクではない。あの形は以前この世界でも見たことがある。ドライヤーのような形をした機械。作った人はあれを”春風機(しゅんぷうき)”と呼んでいた。銀色の、まるで銃のような形をした機械。それが教卓の上に取り付けられているのだ。

 

「ターゲットスコープオープン! 目標! 前方、扉の島!」

 

 マッコイ船長はそう叫びながら教卓の銃を両手で握る。すると銃の上でカパッと透明な板が起き上がった。この光景……前にどこかで見たことがある。確か昔見たテレビアニメのワンシーンだった気がする。

 

「…………エネルギー充填120%」

「各部異常なし! 対衝撃制御準備よし! マッコイ殿!」

「よォォッし! 野郎どもォ! どこかに掴まってな! ブッぱなすぜェェ!!」

 

 ついに発射か! 凄い! 凄いぞ! これは僕の人生においてとても貴重な経験になるに違いない!

 

  がしっ! ←抱きつくように僕の首にしがみつく美波

 

  ひしっ! ←同じように僕のお腹に腕を回す姫路さん

 

「ちょっ! なんで僕に掴まるの!?」

「しょーがないでしょ! 他に手頃な物が無いんだから!」

「そうですっ! 一番安定してそうな所がここなんです!」

「そんなわけないよ!? 2人とも手すりに掴まってよ!」

「もう間に合わないわ! アキ! ちゃんと足を踏ん張りなさい!」

「お願いします明久君!」

「そ、そんな無茶言わないでよーーっ!」

 

 なんて言い合いをしているうちにマッコイさんが高らかに発射の合図をした。

 

「魔導砲ォォ! 発ッ射ァァ!!」

 

 ――ッッドォォォォン!!

 

 マッコイさんの掛け声とほぼ同時に爆発音が轟き、床がガクンと大きく傾いた。

 

「ぐっ……! ぐぬぬぬぬぬっっ!!」

 

 ここで転べば美波と姫路さんに怪我をさせてしまう。僕は両足をぐっと踏ん張り、腰を低くしてガニ股で激しい揺れに耐えた。

 

「おわぁーーっ! っとっとっとっとぉぉっっ!」

 

 船は大きく揺れ、まるでバイクがウイリーをするような形で大きく後ろに傾く。この激しい揺れの中でバランスを保つのは容易ではなかった。なんとか体勢を立て直そうと片足で踏ん張るものの、どうしても重力に引っ張られてしまう。僕は2人を抱えたまま歌舞伎のように片足で甲板の上を跳ねていった。

 

「…………着弾まで5秒、4、3、2、1」

 

 そんな僕の横ではムッツリーニが机のモニターを見ながらカウントダウンをしていた。

 

 ――ズンッ……

 

 ムッツリーニがゼロをコールした瞬間、船の下の方から小さく爆発音が聞こえてきた。たぶん弾が当たった音だ。

 

「アキ」

「うん。見に行こう!」

「私も行きます!」

 

 僕たち3人は甲板を走り、船の右端から揃って身を乗り出した。手すりに掴まりながらぐっと背を伸ばして島の様子を見つめる僕たち。見えた海上には灰色の煙が吹き上がっていた。けれど完全に煙に包まれてしまっていて、あの黒い魔障壁がどうなったのか分からない。

 

「煙で隠れてしまって何も見えませんね……」

「ね、ねぇ……島ごと全部吹っ飛ばしちゃった……なんてこと、無いわよね……?」

「え……ど、どうなんだろう……」

 

 確かにあんなに凄いエネルギー砲で攻撃したら、跡形も無く吹き飛んでも不思議は無い。島ごと消えちゃったら帰れなくなっちゃうんじゃないのか?

 

「…………状況報告。防壁は健在」

 

 机上のモニターを見ながらムッツリーニが呟くように言った。よかった。島は無事か。

 

 

 ………防壁?

 

 

「ちょっと待ってムッツリーニ! 今防壁が残ってるって言った!?」

「…………魔障壁は消えていない」

「そ、そんなぁ……」

 

 こんなにでっかい大砲の攻撃でもダメだなんて……姫路さんの熱線も軽々と弾き返されてしまったし、もう力ずくでこじ開けるのは無理なのかな。でもじゃあどうしたらいいんだろう……。

 

「おい、どうすんだ船長。自慢の大砲でもビクともしねぇじゃねぇか」

「そう慌てるなサカモト。おいツチヤ! よく見てみろ! 本当に健在か?」

「…………? 了解。再確認」

 

 再びムッツリーニが机上のボタンをピッピッと押し始める。僕は再び船体の横から身を乗り出し、島の様子を確認してみた。しかし濛々(もうもう)たる煙が吹き上がり、島の様子どころかバリヤーがどうなったのかも見えない。

 

「あっ! 見てください明久君! あそこに穴が開いてます!」

「穴? どこどこ!?」

「あそこです! 島の一番手前の辺りです!」

「ちょ、ちょっと瑞希、そんなに身を乗り出したら危ないわよ!」

 

 姫路さんは興奮気味に島を指差している。その方角をじっと見つめると……。

 

「ほ、ホントだ!」

 

 風で煙が飛ばされ、徐々に島の様子が見えてきた。煙の合間からは黒い魔障壁(バリヤー)が見えている。けれどその一番手前の一部にぽっかりと穴が開いているのだ。

 

「…………魔障壁の一部の消滅を確認」

「どうやら目標が少しズレちまったみてぇだな。だがあれくらいの穴が開けばおめぇらも入れるだろ」

「さすがじゃマッコイ殿! これでワシらの目的も果たせるぞい!」

「フッ……礼などいらん。そんなことより早く行け。グズグズしてるとすぐに魔障壁が復活してしまうかもしれんぞ」

「そうじゃな。では船を降下させますぞい」

 

 今度は秀吉がピッピッと机上のボタンを押し始める。すると船はゆっくりと高度を下げ始め、島に近付き始めた。

 

「やったぁ! これでウチら帰れるのね!」

「私のせいでとんだ寄り道をしてしまいました……すみません」

「いいのよ瑞希。”終わりよければすべてよし”って言うじゃない」

「そうだよ姫路さん。美波の言う通りさ。よし、それじゃ島に上陸の準――」

 

 ――ドガァァン!!

 

 突然、耳のすぐ横で爆発音がして、バラバラと何かの破片が飛んできて僕らを襲った。

 

「いてっ! いてててっ!」

「何!? なんなの!?」

 

 薄目を開けて辺りの様子を伺う僕。すると――

 

「げっ!?」

 

 僕は思わず声をあげた。それは翼に付いているエンジンから煙が上がっていたからだ。しかもそのエンジンの先の翼はポッキリと折れ、なくなっている。

 

「えっ? えっ? な、なんですかこれ!?」

「ちょっとアキ! どういうことよ! どうして翼が無くなってるのよ!」

「そ、そんなの僕に聞かないでよ!」

 

『地上からの攻撃じゃ! 右舷破損! 推力低下! 姿勢制御不能! このままでは海面に激突してしまうぞい!』

 

『『『な、なんだってェーーッ!?』』』

 

 あ、あわわわ! ど、どどどどうしよう! そ、そうだ! 脱出だ! パラシュートか何かで脱出するんだ!

 

「チッ、やられたか。おいサカモト、あの島には敵がおるんか?」

「いや。そういう話は聞いていない。だが攻撃された以上そう考えなきゃならねぇだろうな」

 

 って船長も雄二も何を落ち着いて話してんのーーーーッ!?

 

「ねぇ船長! 何をノンビリしてるのさ! この船落っこちてるんだよ!?」

「そりゃ動力炉をやられたら落ちるのが道理ってもモンだ」

「そういう話じゃないってば! とにかく脱出しようよ!」

「まぁ落ち着け。騒いだところでどうにもなんねぇよ」

「あぁもうっ! その落ち着きっぷりはなんなのさ!」

 

 マッコイ船長とそんな話をしているうちに船はどんどん落下速度を上げていく。

 

「うわぁぁーっ! お、落ちるぅぅーっ!」

 

「「きゃーっ!」」

 

 美波と姫路さんも同じように叫びをあげる。ただ、彼女らの”きゃー”は心なしか喜びの声のように思えた。

 

 ――まるでジェットコースターを楽しむように。

 

「うわあぁぁぁーーーーっ!」

「「きゃぁぁーーっ」」

 

 

 ――――――

 ――――

 ――

 


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