バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第五十三話 バリヤーを打ち破れ!

 町に戻った僕は美波と姫路さんを探し、合流した。”探した”と言っても待ち合わせの場所は中央の公園と決めていたので、探し回るようなことはなかった。2人を連れ、僕はすぐに砂上船――いや、飛行艇(ひこうてい)キングアルカディス号の元へと向かった。

 

「まったく、どうして翔子をそんな危ないことに付き合わせたのよ」

「いや僕に言われても困るんだけど……」

「別にアンタには言ってないわよ」

「え。でも僕の方を見ながら言ってるよね?」

「アンタを見てるけどウチは坂本の話をしてるの!」

「そ、そっか。ならいいんだけど」

 

 それなら雄二の前で言ってほしいんだけどな……。

 

「とにかく急ぎましょう。皆さんが待ってますから」

「そうね。ちょっと走るわよ。ちゃんとついてくるのよ瑞希」

「はいっ! がんばります!」

 

 僕たちは駆け足で西門に向かった。そして門を出て馬車道を西に向かって走っていくと、すぐに黄金色(こがねいろ)の船体が見えてきた。

 

「見えてきた! あれだよ!」

「ほ、ホントに砂上船だわ!」

「でもなんだか様子が変ですよ?」

「そうなんだ。翼が生えて飛行機みたいになってるでしょ? ホント凄いよね!」

「あ、いえ。そうではなくて、何か声が聞こえませんか?」

「ほえ? 声?」

 

 言われて耳を澄ませてみると、確かに人の声が聞こえてくるようだ。それも話し合っているとかの声ではなく怒鳴り声のようなものが。

 

『おい! 早くこのデカブツをどかせっつってんだよ! こんなモンどこから持ってきたんだ! おら持ち主出てこい! 馬車が通れねぇだろうが!』

 

 どうやら船の向こう側から聞こえてくるようだ。「通れない」ということは、この道を通行する者。それも馬車の定期便のようだ。そういえばここ馬車道だっけ。そりゃ怒るよね。

 

「道を塞いでしまっていてご迷惑になっているみたいですね」

「うん。急ごう!」

 

 

 

      ☆

 

 

 

「お待たせ! 2人を連れてきたよ!」

 

 乗船口から駆け込み、客室に入った僕たち。そこでは雄二たちがテーブルを取り囲んで話し合っていた。

 

「来たか。待っていたぞ」

「すみません。私、走るのが遅くて……」

「気にするな。とにかく座れ。今あのバリヤーの突破方法を検討しているところだ」

「ちょっと待って雄二。その前にこの船動かさないとヤバイよ」

「あ? なんでだ?」

「なんか馬車が立ち往生してるみたいなんだ。この船が道塞いじゃってるからさ」

「そういやそうだな。よしムッツリーニ、船長に全員揃ったと伝えてこい」

「…………了解」

 

 とムッツリーニが席を立った瞬間、

 

『聞こえてるぜェ! そんじゃ出港だ! 野郎どもォ!』

 

 船室内のスピーカーから怒鳴り声が聞こえてきた。この声はマッコイさんだ。っていうか、また口調変わってるし。

 

「お、おう……頼むぜ船長」

 

『おうッ! 任せろ! よッしゃ行っくぜぇぇッ! 魔導エンジン始動ォ! 出力最大! 離陸(テイク・オフ)!』

 

 どこでそんな言葉を覚えてきたんだろう……なんてことを一瞬思ったけど、マッコイさんの言動をいちいち気にしていたらキリが無さそうなので気にしないことにした。

 

  キュィィィィン……

 

 船内に例の金属音が響き始める。その直後、船体がガクンと揺れた。滑走をはじめたようだ。

 

  ドゥッ!

 

 しばらくして船内に爆発音が響く。それと同時に大きく船体が揺れ、傾いた。この感覚は飛行機が離陸する時に近い。つまり船が離陸したのだろう。

 

「おい船長! もうちょっとやんわりと頼むぜ!」

 

『あァ? チンタラやってられるわけねぇだろ! 空が俺を呼んでるんだからよォ!』

 

 何言ってるんだろう、この爺さん。もうわけが分からない。

 

「ったく、調子に乗りすぎだろ……まぁいい。とりあえず会議を続けるぞ。お前ら席に着け」

 

 実は僕ら全員ずっこけているのだ。理由はもちろん離陸の衝撃で船内が激しく揺れたからだ。いや、揺れたというより”ひっくり返った”という表現が適しているかもしれない。

 

「いっててて……酷い揺れだった。み、みんな大丈夫?」

「もう、大丈夫じゃないわよ。思いっきりお尻打っちゃったじゃない」

「わ、私もです……」

「き……霧島よ……どいてくれぬか……く、苦しいのじゃ……」

「……ごめんなさい」

 

 どうやら秀吉は霧島さんの下敷きになっていたようだ。それにしても今の衝撃で転ばないなんて雄二とムッツリーニは足腰が強いな。

 

「やれやれ……シートベルト無しがこれほど心許ないとは思わなかったぞい」

「そうですね。これから飛行機に乗る時はもっとしっかりシートベルトを確認するようにします」

「そういった話は後だ。とにかく話を進めるぞ」

「ねぇ雄二、会議って言うけど議題は?」

「さっき言っただろ。扉の島を取り囲んでいるバリヤーの破り方だ」

「あ、そっか」

 

 昨日、僕たちは海洋上で扉の島を見つけた。最初は近付こうとするといつの間にか場所が移動しているという状況であった。しかしその幻覚は霧島さんの腕輪の力で払うことができた。ところが姿を現した扉の島は、魔障壁のようなバリヤーで覆われていたのだ。

 

「ウチがそのバリヤーに触れた時はバチッって感じで電気が走ったわ」

「私の熱線は(はじ)かれてしまいました。本当にすみません……」

「もういいんだよ姫路さん。腕輪の力でも破れないってことが分かって良かったじゃないか」

「そうよ瑞希。もうくよくよするのはやめなさい」

「はい、ありがとうございます」

「しかし姫路の力でも破れないってことは、それ以上の力で打ち破るしか無いってことになるわけだが……」

「…………霧島か」

「じゃが昨日、霧島の力で幻は排除しておるが、バリヤーは残っておったぞい?」

「でもやってみる価値はあるんじゃない? あっ! そうだ! ウチの風の力も合わせてみるっていうのはどう?」

 

 んー。ゲームだとこういう場合は解除する(すべ)が用意されてるんだよね。たとえば……そう、たとえばバリヤー発生装置が島の周囲にあって、それを壊すと消えるとか。

 

「まぁ待てお前ら。俺はもっと単純な方法であのバリヤーを排除できるんじゃないかと思ってるんだ」

「えっ? それじゃ坂本君はあれを破る方法を知ってるんですか?」

「知っているわけじゃない。これは想像なんだがな、俺は魔障壁の発生装置――つまり魔壁塔を破壊すればいいと思っているんだ」

「あ。それ僕も同じ意見。きっとあの島の真ん中に立ってる細い山を崩せばバリヤーは消えると思うんだよね」

「だが問題はあれをどうやって壊すか、だ」

「え? そんなのあの山の天辺に下ろしてもらってぶっ壊せばいいんじゃないの?」

「バーカ。バリヤーは島の上空にも展開されてるんだぞ。電撃で黒焦げになりてぇのか?」

「あ、そっか……じゃあどうしたらいいんだろう?」

 

『『『う~ん……』』』

 

 皆は唸ったまま黙り込んでしまった。誰も手段が思いつかないのだろう。なにしろバリヤーに触れない上に姫路さんの熱線(ブラスト)すら効かなかったのだから。

 

 でもここで諦めるわけにはいかない。きっと何か方法があるはずだ。もしかしたら皆の腕輪の力をよく考えたら何か手が見つかるかもしれない。よし、皆の腕輪の力を考えてみよう。

 

 まず、僕の腕輪の効果は二重召喚(ダブル)。試召戦争では召喚獣が2体になるものだけど、この世界での効果は『武器が2つになる』だ。でも武器が2つになったところでバリヤーを打ち破れるわけがない。僕の腕輪は論外だ。

 

 次に美波。彼女の腕輪は大きな風を巻き起こす大旋風(サイクロン)。その力は湖の水をすべて空中に巻き上げてしまうほど強力だ。けれど姫路さんの腕輪の力、熱線(ブラスト)でも弾かれてしまったのだから、風がバリヤー内に入り込めるとは思えない。

 

 あとはムッツリーニの加速(アクセル)、秀吉の幻惑の光(イリュージョン)。加速したところでバリヤーに凄い勢いでぶつかるだけだし、秀吉の誘惑の力は僕ら男子にとって非常に危険だ。そもそもバリヤーなんかを幻惑できるわけがない。

 

 残るは雄二と霧島さん。霧島さんの力、閃光(フラッシャー)は幻を払ってくれた。けれどバリヤーを打ち破るには至っていない。雄二の腕輪は扉を開けるだけなので、ここではまったくの役立たずだ。

 

 うーん……こうして考えてみると可能性があるのはやっぱり霧島さんの力なんじゃないだろうか。とはいえ、美波の言う「力を合わせる」というのは霧島さんの力が強すぎて危険だ。

 

「ねぇ雄二、やっぱり霧島さんの腕輪をもう一度試してみるべきなんじゃないかな」

「そうだな。俺もそう思っていたところだ」

「……私の力でバリヤーを破れる?」

「分からん。だが試してみる価値はあると思う」

「……じゃあやってみる」

 

 これでダメだったら本当に打つ手が無くなってしまうなぁ……。

 

『なァおめぇら。その扉の島ってやつに入るには何かぶっ壊さねぇといけねぇのか?』

 

 その時、船室内の隅からマッコイさんの声が聞こえてきた。いや、船室内というか潜望鏡型のスピーカーを通じて。

 

「あぁ。実は扉の島には魔障壁型のバリヤーが張られていてな。前回はそいつに阻まれて入れなかったんだ」

 

『魔障壁か。それで塔をぶっ壊してェってんだな?』

 

「まぁそういうことだ」

 

『よォし! そンなら俺に任せろ! いい考えがあるぜェ!』

 

「何だと!? 本当か船長!」

 

『あァ! だがそれには手が足りねェ! キノシタ! それとツチヤ! 甲板に来い!』

 

「ワシらを指名とは、一体なんじゃろうな」

「…………行ってみれば分かる」

「それもそうじゃな。ではちと行ってくるぞい」

 

 2人は席を立ち、甲板に上がる階段の方へと歩いて行く。あの2人で何をするんだろう? ちょっと気になるな。

 

「俺たちも行ってみようぜ」

「へ? 僕らも行っていいの?」

「別に来るなとは言われてねぇだろ?」

「まぁそりゃそうだけど……」

「ウチらも行きましょ瑞希、翔子」

「そうですね。何をするのか気になりますからね」

「……私も」

 

 結局、僕たちは全員で甲板に行ってみることにした。ぞろぞろと階段を上っていく僕たち。扉を開けて甲板に出てみると、そこで待っていたのは眩しい太陽の光だった。

 

『――――。――――――』

『――? ――――――』

 

 甲板の後方から話し声が聞こえてくる。見ると操舵台の脇に机と椅子のようなものが設置されていて、秀吉がそこに座っていた。

 

 更によく見ると、操舵台を隔てた反対側にも机と椅子がもう一台設置され、そちらにはムッツリーニが座っていた。2人は机の上で何かを見ているようだ。それにマッコイさんは秀吉とムッツリーニの間を行ったり来たりして、何かを教えているように見える。

 

「木下たち、何をしてるのかしら」

「何か説明を受けてるみたいだね」

「ふ~ん。でもあんな机なんて前にあったかしら?」

「ん~……よく覚えてないけど、確か無かったと思うよ」

「2人とも忙しそうですね」

「よく分からんが俺たちが入ると邪魔になりそうだな」

「そうですね。話が終わるまで待ちましょうか」

 

 姫路さんの言う通り、僕たちは彼らの話が終わるまで待つことにした。とはいえ、ただ待っているのも暇だ。そこで甲板の上を歩いてぐるりと回ってみた。

 

 構造は以前乗せてもらった時とそれほど変わらない。甲板中央の(マスト)が無いのと、秀吉やムッツリーニが座っている机が追加されていること。それに船体横に大きな翼が付いていること以外は同じようだ。

 

「……いい風」

 

 甲板で各々(おのおの)が見学をしていると、霧島さんが呟いた。言われてみると確かにいい風だ。

 

 空を飛んでいるのだからもっと激しい風が吹いていてもおかしくない。けれどこの甲板には女子3人の髪をなびかせるくらいの風が吹くのみ。気温もそれほど高くない。前回と比べて風に乗る潮の香りがちょっと気になる程度で、とても快適な空間だった。そもそも砂漠の過酷な気候と比べること自体が間違っているのかもしれないけど。

 

『よっしゃァ! そんじゃ準備はいいな! キノシタ! ツチヤ!』

 

 突然、甲板の後方から大きな声が聞こえた。マッコイさんの威勢のいい声だ。どうやら説明が終わったようだ。

 

「行ってみましょアキ」

「うん」

 

 早速操舵台に向かう僕たち。雄二たちも集まってきたようだ。

 

「秀吉、何を教わってたの?」

「ふっふっふ……それは秘密じゃ!」

 

 秀吉はニコニコと笑顔を見せながら断ってきた。なんだか楽しそうだ。でもこんな笑顔で言われると尚更知りたくなる。

 

「何よそれ。教えてくれたっていいじゃない」

「そうですよ木下君。私たちだって知りたいんですから」

「まぁ楽しみは後に取っておくのがよかろう」

「楽しいことなんですか?」

「そうじゃな。少なくともワシは楽しみじゃ」

 

 鼻歌でも歌い出しそうなくらいに嬉しそうな秀吉。くそう……秀吉は口が堅いから聞き出すのは難しそうだ。じゃあムッツリーニはどうだろう?

 

『なぁいいじゃねぇかムッツリーニ、教えろよ』

『…………守秘義務』

『俺は仲間の受けた仕事は把握しておきたいんだ。いいだろ?』

『…………後で分かる』

『チッ、お前意外と頭固ぇんだな』

『…………頭突き勝負で明久に勝てる』

『そういう固さじゃねぇよ!』

 

 どうやらムッツリーニも教えてくれないようだ。仲間に秘密にされるというのはちょっと寂しいな……。

 

「よーし! おめぇら! そろそろ目的地だ! 前に行ってその目で確かめろ!」

 

 えっ? もう着いたの!?

 

「船長、もう着いたのか? やけに早くねぇか?」

 

 雄二も同じ疑問を抱いたようだ。確か昨日船で行った時は1時間ほど掛かっていたはず。それが今回はマリナポートの町を発ってから30分も経っていないのだ。

 

「ったりめーだろ。こいつぁ空を飛んでんだぜ? 水をかき分けて進むより早いに決まってンだろ」

「そりゃそうだな」

「いいから早く見てこい。おめぇらの目的地で間違いねぇのかどうかをよ」

「あぁ、分かった」

 

 雄二はタッタッタッと船首の方へと走っていく。そして一番前の手すりに手を置いて身を乗り出す。

 

『見えた! 間違いねぇ! 扉の島だ!』

 

「よォォし! 時は来た! キノシタ! ツチヤ! アレの出番だァ!」

 

「「ィエッサー!!」」

 

 秀吉とムッツリーニの2人が元気良く返事をする。ムッツリーニがこんなに元気よく返事をするのを僕は初めて見た(エロ以外で)。でもアレって何だろう?

 

「魔導砲ォ! 発射準備(スタンバイ)!!」

 

「「ィエッサー!!」」

 

 

 

 ……

 

 

 

 えっ? 何? マドーホー?

 

 何それ!? なんか凄そうなんだけど!?

 


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