バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第四十八話 再始動

「へぇ~そうかいそうかい。それにしてもアンタよく生きてたねぇ」

「……そうですね。自分でもそう思います」

 

 ガラガラと騒々しい車輪の音の中での会話。あまり気乗りしない会話だった。

 

 魔人との戦いの後、僕は美波と共に近くの町を探すことにした。と言っても町がどの方角にあるのかなんて分かるわけがない。だからまず道を探すことにしたのだ。

 

 土手を上がって見えたのは、緑豊かな山がいくつも連なる壮大な光景。この辺りは海岸から少し内陸に入るとすぐに山脈になっているようだ。そして僕たちの求める”道”はその山脈に沿うように作られていた。

 

 路面には幾重にも重なった車輪跡。間違いない。これは馬車道だ。きっとこの道沿いに進めばどこかの町に着く。そう判断した僕たちはこの道を歩きはじめた。するとそこへちょうど馬車が通りかかったので、無理矢理止めて乗せてもらったというわけだ。

 

「それでその一緒に海に投げ出されたっていうお友達はどうなったんだい?」

 

 今話している相手はもともと馬車に乗っていたお婆さんだ。なんだかやたらと親しげに話し掛けてくる。正直言ってこの時の僕はあまり話したい気分ではなかった。先程の魔人のことが頭から離れなかったからだ。けれど乗客は僕と美波、それとこのお婆さんの3人のみ。このような状況で冷たくあしらうわけにもいかなかった。

 

「それが分からないんです。僕と美波は砂浜に打ち上げられていたんですけど、他の皆はいませんでした」

「そうかい……無事だといいね」

「……はい。でもきっと大丈夫です。僕だってこうして助かったんですから。きっと皆無事だと思います」

 

 なんて言ったものの、実際無事かどうかは分からない。でもそれを知る術がない以上、僕にできることは皆を信じて町に向かうことだけだ。

 

「そうだね。そう思うのは大事だね。……おや、お連れさんはお疲れかな?」

「ふぇ?」

 

 お婆さんの目線は僕の右隣に向けられていた。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

 気付けば隣に座っている美波が僕の肩に頭を乗せ、寝息をたてていた。ずるい……僕だって寝たいのに……。

 

「ふふふ……可愛い寝顔だねぇ。妹さんかい?」

「へ? あ……いえ。妹じゃないんです」

「おや、そうなのかい? あぁ、お嫁さんだったのかい。こりゃ悪かったねぇ。オホホッ」

 

 ぶっ!?

 

「ち、ちちち違います! 美波はお嫁さんなんかじゃなくて! なくて……その……なんというか……」

 

 眠ってるみたいだし、いいか……。

 

「えっと……ぼ、僕の一番大切な人……って感じで……」

 

 は、恥ずかしい……って、なんで見ず知らずの人にこんな紹介しちゃったんだろう。普通に仲間だって言えばいいじゃないか。バカだな僕……。

 

「そうかいそうかい。つまり将来を誓い合った仲というわけだね?」

「いや、まだそこまでは……」

「なんだい、だらしないねぇ。さっさとモノにしちまいなよ」

「も、モノってそんな……美波はモノじゃないし……そ、それにそういうのはお互いの意思がですね……」

 

 ホント、何言ってるんだろう僕。なんだかこの世界に来てからこうやって冷やかされることが多い気がする。まさかこれも学園長の仕業じゃないだろうな。もしそうだったら1年間呪ってやる!

 

「いいかいアンタ。言うべき時は言わんといかんよ? 人生何が起こるか分からないんだ。今日だって船が壊れて溺れ死にそうになったんだろう?」

「それは……そうかもしれないけど……」

「だったらちゃんと言ってやんな。この子だってきっとそれを待ってるよ」

「は、はい……」

 

 つまり将来の話をしろってことだよね。確かに僕たちは付き合っている。僕は美波のことが好きで、美波も僕を慕ってくれている。でもどうなんだろう。美波は霧島さんみたいに”結婚したい”とか思ってるんだろうか。そういえば似たようなことをウォーレンさんにも言われたっけ。”後悔だけはするな”とか。そりゃ僕だって後悔したくはないけどさ……。

 

 ……

 

 そうだね……お婆さんの言う通りかもしれないな。

 

「分かりました。タイミングをみて伝えることにします」

「それがえぇ。しっかりやんな」

「はい。……ふぁ……」

 

 心を決めたら気が緩んだのか、思わず大あくびをしてしまった。

 

「アンタもお疲れみたいだね。アタシに気を遣わんでえぇ。少し眠んな。マリナポートに着いたら起こしてあげるよ」

「すみません。それじゃお言葉に甘え……させて……」

 

 僕の記憶はそこで途切れている。どうやらすぐに眠りに落ちてしまったらしい。次に目を覚ました時、そこは町の中だった。

 

 

 

 〔 タイムリミットまであと3日 〕

 

 

 

「思ったより早く戻って来られたわね」

「うん。でも問題はこれからさ」

「そうね。瑞希や坂本たちを探さなくちゃ」

 

 馬車から降りた僕たちはまず他の皆を探すことにした。美波は姫路さんたちが無事だと信じているようだ。でもあれほどの爆発に巻き込まれたのに無事なんだろうか。

 

 あの状況で生還するには、まず”浮き”が必要だ。けれど僕たちは救命具の類いは持っていなかった。召喚獣の力を使えばなんとかなるかもしれないが、姫路さんは以前に「水に浮くくらいしかできない」と言っていた。それにたとえ召喚獣を装着して泳いだとしても、岸の方角が分からないはず。最悪の場合、力尽きて海に沈んでしまったなんてことも……。

 

『明久く~んっ! 美波ちゃ~んっ!』

 

 あれ? おかしいな。姫路さんの声が聞こえる。考えすぎて耳までおかしくなってきたんだろうか。それとも気付かないうちに天国に……? なんてことを考えていると、横を美波が猛ダッシュで駆け抜けて行った。

 

「瑞希~っっ!」

 

 右手とポニーテールをブンブン振りながら駆けて行く美波。その向こう側からも走ってくるひとつの人影が。黒い上着に赤いミニスカートの……女の子? まさか……!

 

「お~い! 姫路さ~~~ん!!」

 

 僕は美波の後を追うように走り出した。

 

 あの長くてふわっとした髪。あの”たゆんたゆん”と揺れる凶悪な胸部。間違いない! 姫路さんだ! 無事だったんだ!

 

「美波ちゃん! 無事だったんですね! 良かった……本当に良かったです……」

「それはこっちの台詞よ! アンタこそよくあの爆発で無事だったわね!」

「たまたま通りかかった船の漁師さんに助けていただいたんです。でも本当に良かった……凄く、すっごく心配したんですよ? 気付いたら美波ちゃんと明久君がいないんですから……」

「ウチだって一杯、いーーっぱい心配したんだからね! でもウチは大丈夫よ。この通りピンピンしてるんだから」

「ふふ……そうみたいですね。さすが美波ちゃんです。あっ! 明久君!」

 

 姫路さんはこちらに気付いたようで、タタッと駆け寄ってきた。

 

「明久君。ご無事で何よりです。もうダメかと思っちゃいました……」

 

 彼女は目にキラリと光るものを浮かべながら両手で僕の手を握ってきた。そんなに心配してくれたのか。やっぱり姫路さんは優しいなぁ。

 

「心配してくれてありがとう姫路さん。僕もこの通りなんとか生きてるよ」

「もう……当たり前です……明久君にもしものことがあったら私……私……」

 

 ポロポロと涙を溢し始めてしまう姫路さん。ど、どうしよう……心配してくれるのは嬉しいけど泣かれると困ってしまう。こんな時はどう言ったらいいんだろう……。

 

「えと、ご、ごめんね姫路さん。心配かけちゃったね」

 

 姫路さんは体を震わせ、僕の左手を握ったまま放さない。うぅっ……こ、困った。これ以上言葉が見つからない……。

 

「姫路よ、それくらいで手を放してやるのじゃ。明久が困っておるぞい?」

 

 困惑していると姫路さんの後ろから美少女の声が聞こえてきた。この声に似つかわしくない爺言葉は間違いようがない。

 

「秀吉! 秀吉も無事だったんだね!」

「んむ。ワシだけではないぞい」

 

 気付くと秀吉の周りにも数人が立っていた。全員同じ格好。文月学園の制服を着て。

 

「霧島さん! ムッツリーニ! 無事だったんだね! それに雄二も!」

 

 そっか、全員無事だったのか。本当に良かった……。

 

「おい明久、なんか俺だけ”おまけ”扱いしてねぇか?」

「ん? そんなことないよ? たぶん」

「だぶんじゃねーよ! まぁいい。とにかくこれで全員揃ったわけだな」

「そうだね。……って、なんで美波まで僕の手を握ってるのさ」

 

 左手を姫路さんに両手でぎゅっと握られ、右手は美波にぎゅっと両手で握られ。なんだろう。この状況。

 

「えっ? そ、それはその……ほらあれよあれ! そう! ウチは瑞希の手を握りたかったのよ! でもアンタが瑞希の手を握ってるから仕方なくウチはアンタの手を握ってるの!」

 

 何がどうしてそういう発想になった。美波って時々理論的におかしなこと言うんだよな。でもまぁ、そんなところも可愛いんだけどさ。

 

「……雄二」

「ん? どうした翔子」

「……ここにいると通行の邪魔」

「おっと。そうだな。姫路、再開を喜ぶのは後だ。ひとまず広い所に移動するぞ」

「あ、はいっ」

 

 そんなわけで僕たちは町の中心付近にある広場に移動した。そこは樹木で円形に囲われた、公園のような場所だった。地面は土がむき出しで舗装されていない。いくつかのベンチが設置され、その下では数匹の猫が背を丸くして寝ている姿も見える。なんとものどかな風景だ。

 

「さてと。明久、島田、よく無事に帰ってきたな。さすがに心配したぞ」

 

 雄二が片手をポケットに突っ込んで言う。いつもと変わらない偉そうな態度。いつもならここで少しイラッとするところだが、今回はさほど感じなかった。仲間が全員無事であったという安堵の気持ちが大きかったからだろう。

 

「心配したのは僕たちだって同じさ」

「そうよ。気付いたらウチとアキ2人だけだったんだから。そういえば漁師の人に助けてもらったって言ってたわよね?」

「そうだな。まずは俺たちの方から状況を説明しよう」

 

 雄二はここまでの経緯を順を追って説明してくれた。

 

 あの爆発は水蒸気爆発。熱線によって海水が急激に熱せられたことにより発生した爆発現象らしい。これにより王妃様より譲り受けた船は大破。粉々になって海の藻屑と化したそうだ。

 

 乗っていた僕たち7人はその爆風によって吹き飛ばされ、海に放り出されてしまった。雄二たちはなんとか船の破片に掴まって潮に流されずに済んだという。泳げない姫路さんはムッツリーニが救出したらしい。ただ、その後鼻血を吹いて動けなくなってしまったそうだが。何にしてもグッジョブだムッツリーニ。

 

 どうやらその時、僕と美波は皆とは違う方向に飛ばされていたようだ。僕ら2人が板に掴まっているのを雄二が見たらしい。しかし潮の流れで僕たちはどんどん離されていく。雄二が呼びかけても僕の返事はなく、救う手立てもなかったらしい。そうして手を(こまね)いているうちに僕たちは波の彼方へと消えてしまったという。そんな状態でよく助かったな……僕たち……。

 

 一方、雄二たちはというと、その後しばらくして救助されたらしい。たまたま漁船が通りかかり、漁師のおじさんたちに引き上げてもらったのだそうだ。いっそ装着してバタ足で岸まで泳ぐかと覚悟を決めようとしていた時だという。

 

「すみません! また私のせいでこんなことに……! 本当にすみません!」

 

 姫路さんはベンチから立ち上がり、深々と頭を下げる。まるで立位体前屈をしているような姿勢だった。

 

「なぁに気にするでない。済んだことじゃ。むしろ今考えるべきはこれからどうするか、じゃ」

「秀吉の言う通りだ。ただし今後は落ち着いて考えてから行動してくれ。もう時間的に失敗する余裕は無いからな」

「はい……」

「で、明久。お前らはどうやってここまで戻ってきたんだ?」

「えっとね、僕たちの方は――」

 

 僕はここまでの経緯を説明した。気付いたら砂浜に打ち上げられていたこと。ミノタウロスと化した魔人ギルベイトが襲ってきたこと。そして奴との戦いに勝利したことを。

 

「そうか。そんなことがあったのか」

「お主らよく無事じゃったな……」

 

 僕もそう思う。まず、無事に海岸に流れ着いたことが奇跡に近い。意識を失いながらも板に掴まり、尚且つ美波の手も離さなかった自分を褒め称えたい。それと偶然通りかかった馬車。あの馬車が来なければこれほど短時間で町に戻ることはできなかっただろう。

 

 ただ、悔やむべきは魔人の襲撃。やむを得ず応戦してしまったけど、やはり目くらましをするか隠れるかして逃げるべきだったのかもしれない。そうすればあいつの命を奪うことだってなかったのだから……。

 

「……美波。元気ない」

「えっ? そ、そんなことないわよ? こうして皆無事だったんだもん。嬉しいに決まってるじゃない」

「……でも浮かない顔をしてる」

「き、気のせいよ気のせい! あはっ」

 

 いや、霧島さんの感じていることは正しい。美波の表情は僕から見ても暗く沈んでいるように見える。今こうして笑って見せているのは作り笑いだ。きっと先程の魔人との戦いにおいて、あいつが煙となって消えてしまったことを気にしているのだろう。その気持ちは痛いほど分かる。

 

「それで明久、その魔人はどうなったんだ?」

「……」

「? どうした。また逃げたのか?」

「いや。勝ったよ。完全勝利さ。でもあいつ……消えちゃったんだ……」

「消えた? どういうことだ?」

「魔獣みたいに煙になって……フワフワって空を飛んで……消えてしまったんだ……」

「なんだと? 本当か? 島田」

「うん……」

「ならば良かったではないか。これ以上襲われる心配がないのであろう? なぜそのように深刻な顔をしておるのじゃ?」

「そうなんだけどさ……なんか、これで良かったのかなって……思ってさ……」

「明久君……」

 

 この時、僕はまだ迷っていた。自分のやったことは正しかったんだろうか。とんでもない罪を犯してしまったんじゃないだろうか……と。

 

「なぁ、明久」

「……うん」

「俺思うんだがな、魔人ってのはもしかしたら魔獣がなんらかの変異を起こしたモンなんじゃねぇのかな」

「え……?」

「だってよ、煙になって消えたんだろ? それって魔獣と同じじゃねぇか」

「違うよ。魔獣はただの獣さ。でもあいつには意思が……会話する知性があったんだ……」

 

 魔獣はただ本能のみで動くゾンビのようなもの。でもあいつは……魔人は僕らと同じように意思を持っていた。確かに酷く乱暴で好戦的で、命を軽んじていた。けれど言葉を交わし、言い争うことができた。もっと話し合えばもしかしたらお互いに理解できたんじゃないだろうか。そう思うと、やるせない気持ちで一杯になってしまうんだ。

 

「確かに奴には言葉を交わすほどの知性があった。けどな明久、煙になって消えたということは恐らくは魔獣と同質のものだ。だとしたら奴もまた遺体から作られた可能性が高い」

「遺体……」

「そうだ。つまりゾンビだ」

「それじゃあいつは元は人間だったって言うのか?」

「これは俺の推測に過ぎない。だが確度は高いと思っている。この謎を解く鍵を持っているのは恐らくそいつが言っていた”(あるじ)”って奴だ」

「……」

「その主って奴が魔人を作った張本人。俺はそう思うんだ」

 

 そうだ。確かにあいつは”(あるじ)に作られた”と言っていた。だとすると雄二の言う通り遺体から作られたゾンビの類いなのかもしれない。でも雄二の出会った魔人……ネロス……だっけか。あの魔人は墓荒らしをしてゾンビを作っていたと聞く。じゃあゾンビがゾンビを作っていたということになるのか? そんなことってあるんだろうか。

 

 ……

 

 ダメだ。僕の頭じゃ考えても分からない。この謎を解くには、やはり魔人の(あるじ)に会うのが一番早くて確実だ。それにギルベイトは自分の代わりに一発ぶん殴っておけと言っていた。僕もその願いは叶えてやりたいと思っている。

 

「おっと。明久、変な気を起こすんじゃねぇぞ。俺たちの目的を忘れるなよ」

「へ? 目的?」

「そうだ。俺たちが何のためここまで来たと思っている」

「そりゃもちろん元の世界に帰るためさ」

「分かってるならいい。いいか、魔人の正体が何であろうと俺たちの進むべき道は変わらねぇ。そのことを忘れるな」

「……そうだね」

 

 雄二の言う通りだ。これ以上悩むのはやめよう。タイムリミットまであと3日しかないのだから。

 

「島田もいいな?」

「えっ……? う、うん」

「よし、そんじゃこれからのことを決めるぞ」

「そうは言うてもどうするのじゃ? 船を(うしの)うてしもうた以上、海に出ることは叶わぬと思うのじゃが……」

「決まってンだろ。船を借りるんだ」

「じゃがワシらは今無一文じゃぞ? なにしろ荷物はすべて海に沈んでしもうたからな」

「あ……そういえば僕のリュックも無いや……」

「問題はそこだ。だからまずは金を得る必要があると思っている。このままじゃ晩飯すら買えねぇからな」

「本当にすみません……私が考え無しに腕輪の力を使ったりしたから……」

「姫路、それはもういいと言っただろ。今は金を得るために知恵を貸してくれ」

「はいっ!」

「でも雄二、お金って一体どれくらいあればいいのさ。バイトするにしたってもう日数がないよ?」

「時間がないことなど百も承知だ。けど船を調達できるくらいの金は必要だ」

「なるほど。船か」

 

 ……ん?

 

「ちょっと待って雄二。それってすっごく高いんじゃないの?」

「だろうな。100万ジンくらい必要かもしれねぇ」

「ひゃ、ひゃくまんんん!? そんなにバイトで稼げるわけないじゃんか!」

「いちいちうるせぇな。だから手段を考えようとしてんじゃねぇか」

「そ、そっか。そりゃそうだよね……」

 

 しかし100万とは……そんな大金、この2、3日中に稼げるわけないじゃないか。一体どうすりゃいいのさ……。

 

「あ。そういえばウチ、魔石持ってるわよ」

「何!? 本当か島田!?」

「うん。ほら」

 

 美波はそう言ってポケットから数個の石を取り出した。それは赤く輝く、3センチほどの小さな魔石だった。

 

「でかしたぞ島田! けどちょっと少ないな。持ってるのはこれで全部か?」

「そうよ。他は全部アキのリュックに入れてたから今はこれしか無いわ」

「そうか……この大きさじゃ船を借りるほどの金にはなりそうにねぇな」

「でもホテル代と夕食代くらいにはなると思うわよ」

「まぁ、そうだな」

「…………なら魔獣退治して稼ぐか」

「それも考えたが、できれば避けたい。召喚獣の力があるとはいえ危険を伴うからな」

「…………そうか」

「よし、まずは船を譲ってもらえる人を探すぞ。新品じゃなくてもいい。どうせ乗り捨てるからな」

「なるほど。それなら安く譲ってくれる人もいるかもしれないね」

「そういうことだ。手分けして漁師を当たるぞ」

 

 早速僕たちは手分けして町中の漁師を手当たり次第に当たった。

 

 この町の人たちは愛想の良い人が多く、ほとんどの人が僕の話に耳を傾けてくれた。けれど行き先を告げると誰もが断り、やめておけと言うばかりだった。理由を聞くと「あれは魔獣の巣だ。悪いことは言わんからやめておけ」と漁師たちは口を揃えて言う。でもあの島って魔獣の巣なんだろうか? 前回見た時は生物が居るようには見えなかった。それに僕たちにとっては元の世界に帰る重要なポイントなのだけど……。

 

 ところで今回は7人全員がバラバラに行動している。そう広くない町であり、タイムリミットが迫っていることもあるからだ。雄二からの指令は”乗り捨てて良い船を格安で譲ってもらえ”。見れば船着き場には多数の帆船が接岸されている。どれもわりと小型で、王妃様から譲り受けた船によく似たサイズの物もある。

 

 でも誰に聞いても答えはノー。結局、何ひとつ良い返事を聞けないまま夕暮れを迎えてしまった。

 

「……吉井」

「あ、霧島さん。もう戻ってたんだね、どうだった?」

「……駄目だった」

「そっか……僕の方も収穫なしだよ」

「……そう……どうしよう」

「んー。ひとまず雄二を待とうか。あいつなら何か考えてるかもしれないし」

「……分かった」

「っと、皆戻ってきたみたいだね」

 

 姫路さん、秀吉、美波。皆が次々に中央公園に戻ってくる。その誰もが暗く沈んだ浮かない顔をしていた。あの様子からすると良い結果は期待はできないかもしれない。

 

「どうだったお前ら」

 

 続いてムッツリーニと雄二も戻ってきたようだ。これで全員だ。

 

「その様子だとどうやら結果を聞くまでもなさそうだな」

「うん。収穫なしさ」

「ウチもダメだったわ。余ってる船なんて無いって言われちゃった」

「私もです……」

「ワシは使っていない船はあるが譲れぬと言われてしもうた」

「…………扉の島に行くと言ったら断られた」

「あ、それ僕も言われた」

「翔子、お前はどうだった?」

「……皆と同じ」

「そうか……やっぱ難しいな」

「どうする雄二? やっぱりお金作る?」

「いや、いくら金を積んだところで恐らく譲っては貰えないだろう。何か別の手を考えるべきだな」

「別の手……ですか? 何か考えがあるんですか?」

「いや。無い」

「えっ? そ、それじゃどうするんですか!?」

「まぁ落ち着け。とりあえず今日は休まねぇか?」

「そうじゃな。さすがにワシも疲れたわい」

「…………賛成」

「僕も賛成。今日は色々と疲れたよ」

 

 でも雄二のやつ、どうしたんだろう。いつもだったらすぐに何か代案を出してくるのに、今日はもう休もうだなんて。しかもあんなに曇った表情をして。それほどまでに今の状況が深刻ってことなんだろうか。あぁでも今日は本当に疲れた……とにかく体を休めたい。

 

「ウチさっき魔石を売っておいたの。このお金でホテルに泊まりましょ」

「ありがとうございます。美波ちゃん」

「困った時はお互い様よ瑞希。ふふ……」

 

 そんなわけで僕たちは宿を取ることにした。場所は昨日泊まったホテル。広場から少し南下した所にあるし、何より値段が安いからだ。

 

 早速部屋を借り、簡単に夕食を済ませた僕たちは風呂で汗を洗い流し、すぐにベッドに入った。余程疲れていたのだろう。ベッドに横になった数秒後、僕は深い眠りに落ちていった。

 

 夜が明ければ残り時間はあと2日。なんとかしなくちゃ……。

 

 夢の中でそんなことを考えながら。

 


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