バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第十四話 メイドの土産

 峠町サントリアを出発してから約2時間。馬車は西の王都ガラムバーグに到着した。降り立った僕は早速町の様子に目を向ける。

 

 正面には整った白い石畳の道。その両側にずらりと立ち並ぶ背の高い建物。道には一定の間隔で緑の葉を茂らせた街路樹が植えられている。町の様子はドルムバーグと同じような感じだ。というか僕には見分けが付かない。

 

 通りを歩いている人は(まば)ら。普段どれだけの人通りがあるのか分からないが、人通りが少ないように感じる。この世界の人の夜は早い。日が暮れ始めるとあっという間に町中から人が消えるのだ。太陽はもう建物の陰に隠れ、空は黒く染まりつつある。もうすぐこの道からも人の姿が消えるだろう。

 

「やっぱり聞いて回るしかないよね……」

 

 もっと効率の良い方法があれば良いのだが、他に思いつかないしノンビリもしていられない。僕は急ぎ付近の人に聞いて回ることにした。

 

 もし仲間がこの町に来ているのなら、きっと馬車を使っているだろう。ならば馬車を降りたところを誰かに目撃されている可能性が高い。そう思い、店員や周囲を歩いている人に手当たり次第に聞いて回った。だが誰に聞いても答えは「見たことないねぇ」ばかり。老若男女、誰に聞いても同じ答えを返すばかりだった。

 

「ハァ……」

 

 20件目の店を出たところで僕は大きく溜め息をつく。ここまで何の手がかりも得られていない。ただ時間だけが過ぎ去るのみだった。この時点で道を歩く人はほとんどおらず、片方の手で数えられる程度の人数しかいない。

 

「今日はもう無理かな……」

 

 僕は独り呟き、天を見上げる。空は既に暗闇に包まれていた。うっすらと見える緑色の膜のようなものは魔障壁だろう。

 

 なんだかこの世界に来てから捜し物ばかりしている気がする。もしここがゲームの世界なのだとしたら僕の行動は”クエスト”に当たるのだろう。でもここまで僕が辿ってきた道はゲームには存在しない出来事ばかりだ。これがもう少しゲームに関係した内容だったら少しは進め方も思いつくのだけど……。

 

「ハァ……」

 

 ……こうして溜め息をついていても何も解決しないか。もう少しだけ頑張ってみよう。

 

 僕は再び町を歩き始めた。足が(だる)くなってきて、もう足を運ぶのも辛い。でも諦められない。

 

 どうしてこんなにも躍起になっているのか自分でもよく分からなかった。ドルムバーグにおいての失敗が僕を(あせ)らせていたのかもしれない。あの失敗のせいで大きな時間のロスをしてしまった。失った時間を取り戻したい。心のどこかでそんな思いがあったのは確かだった。

 

 だが努力の甲斐なく日は暮れ、ついに町は暗闇に包まれてしまった。道路脇に灯った松明の火が街灯のように道を照らし、幸いなことに完全な暗闇にはなっていない。しかしこの頃にはもう誰も道を歩いてはいなかった。

 

「さすがにもう無理か……」

 

 歩き疲れてもう足が棒のようだ。体力も限界に近い。

 

「ハァ……」

 

 再び深い溜め息を吐く。この時の僕は心身共に疲れ果てていた。どうしてこうも上手くいかないんだろう。疫病神でも憑いてるんだろうか。そんなことを思いながら天を仰いでいた。頭上の空は漆黒の闇。だが視界がやけに明るい。理由は単純だった。すぐ右側に巨大な建物が立っているのだ。下の方から照らし上げる光はまるで白い柱のようだった。巨大なその建物は数本の白い光でライトアップされ、神秘的な雰囲気を(かも)し出している。

 

 この建物の感じ……ドルムバーグのあの城と同じだ。確かこの町はリオン王子の住む町。じゃあこれも王宮? いつの間にか王宮の前に来ていたのか。

 

 その時、ムッツリーニの言っていた戦争の話や、あのハーミルから馬車に同乗した親子の話を思い出した。

 

 血を分けた実の兄弟同士の国を二分する戦争。

 戦争に連れて行かれてしまった父と残された母と子。

 

 こうした戦争がどれだけの悲劇を生むのか、授業で聞いて知っていた。あの親子は無事にお父さんに会えたのだろうか。ライナス王子のあの発言からして、戦争のために人を集めているのは確かだと思う。だとしたらサーヤちゃんのお父さんも兵士として戦争への参加を強要されているんじゃないだろうか。そんなことを考えていたら、胸の中でずっと(くすぶ)っていた思いがまとまり、ひとつの意思となった。

 

 ――この戦争、なんとかして止めたい。

 

 相手は言葉の通じる人間だ。きっと話せば分かってくれる。ちゃんと腹を割って話せば理解してくれるんじゃないだろうか。考えながら僕は建物をなぞるように視線を下ろす。城は周囲を高い塀で囲まれていた。その塀をずっと辿っていくと、槍を持った2人の兵士が見えてきた。どうやら門の番をしているようだ。

 

 ……

 

 戦争を止めるには直接王子に頼むのが確実だ。でも僕の話なんて聞いてくれるだろうか。昨日のライナス王子は部下の話でさえ聞く耳を持たない感じだった。リオン王子も同じような性格だとしたら、やはり聞いてくれないような気がする。もしまた失敗して捕えられたりすれば今度こそ終わりだ。ムッツリーニは既にレオンドバーグに到着している頃だろう。待ち合わせもその町にしている今、あいつが助けに来ることはない。だからもう絶対に失敗はできない。

 

 ……とにかく話だけでも聞いてもらおう。もしかしたらちゃんと話を聞いてくれる人かもしれない。大丈夫。暴れたり暴言を吐いたりしなければ捕まったりしないはずだ。よし……。

 

 僕は思い切って門の警備をしている兵士に話し掛けてみた。

 

「あの、すみません」

「ん? どうしたこんな時間に」

「リオン王子……殿下にお会いしたいのですが」

「殿下に何用だ」

「実は殿下にお願いしたいことがあるんです」

「願い? 申してみよ」

「それは……」

 

 正直に”戦争をやめてほしい”なんて言っても取り入ってもらえないかもしれない。だけど嘘を言って入らせてもらったとしても、今度は信用してもらえなくなる。やはりここは正直に言うべきだろう。

 

「戦争が始まるという噂を聞きました。公表されてないみたいですけど、町の多くの人がそう噂しています。戦争なんて沢山の血が流れて悲しい思いをする人が増えるだけです。駆り出される兵士の人たちには家族がいる人も多いと思います。もし父親が戦争に行って帰ってこなかったら、その子供たちはどうしたらいいんでしょう。だから……戦争なんかやめてほしいんです」

 

 僕は願いを真剣に伝えた。兵士の目をじっと見つめ、心の底から訴えかけた。

 

「「……」」

 

 2人の兵士は何も言わず困ったように顔を見合わせる。そして片方の兵士が目を閉じ、静かに首を横に振った。もう一方の兵士はそれを見て頷き、

 

「お前の願いは分かった。だがこれは殿下のお決めになられること。お前が意見するようなことではない」

 

 と、やんわりと断られてしまった。庶民の意見など聞く耳持たないということか。どうして分かってくれないんだろう。戦争なんて悲しみを増やすだけで良いことなんか何も無いというのに……。

 

 昨日はここで頭に来て失敗した。今やるべきことは怒りをぶち撒けることじゃない。誠実に、思いを込めて心の底から願うことだ。

 

 僕は両膝を折り、地面に着ける。そして両手も地面に突き、両肘を曲げて頭を下げる。これは一般的に”土下座”と呼ばれる行為だ。

 

「お願いします! どうか殿下と話をさせてください!」

 

 (ひたい)を地面に擦り付けるほどに下げ、僕はひれ伏す。

 

「お、おい、やめんか! そんなことをしても殿下に会わせるわけにはいかんのだ!」

「お願いします!」

「えぇい! やめろと言うのが分からんのか! これ以上続けるなら排除するぞ!」

「話を聞いてもらうだけでいいんです! だからお願いします!!」

「貴様! しつこいぞ!」

 

 ライナス王子は僕と同じくらいの年だった。その弟と言うからにはリオン王子も同い年かちょっと下くらいだろう。同年代ならばきっと話せば分かってくれる。確信は無かったが僕はこの可能性に賭けたかった。

 

「止むを得ん。おい、排除するぞ」

「おう」

 

 2人の兵士のそんな声が頭の上から聞こえてくる。やはりダメなのか……。僕にはどうすることもできないのか……。無力な自分を呪い始めたその時、突然後ろから声を掛けられた。

 

「なんだい? この騒ぎは」

 

 それはよく通る”女性の声”だった。誰だろう? 振り向くと、すぐ後ろにメイド風の黒いロングスカート姿の女性が立っていた。

 

 僕もこんな感じのメイド服を無理やり着せられた経験がある。姫路さんや美波はその僕を見て「可愛い」と言っていたが、それは間違いだ。メイド服とは女の子が着てこそ真価を発揮するもの。僕みたいな男が着て可愛いものであるはずがない。こういう服は姫路さんや美波のような可愛い女の子が着るべきなのだ。

 

 と、この瞬間までは思っていた。しかしこの女性を見た瞬間、僕の理論は間違っていたと気付かされた。

 

 そこにいたメイド服を着た人は確かに女性だった。ただ、身長は僕と同じかそれ以上。加えて大きなお腹と大きな胸。もちろん子を宿しているからではない。4、50代の太った――もとい。ふくよかな体型の女性がそこにいたのだ。

 

 こう言っては失礼だが、お世辞にも可愛いとは言えない容姿だった。けれどそのメイド服姿はこれ以上無いくらいに似合っていた。これが本場のメイドというものなのだろうか。

 

「これはジェシカ様。お帰りなさいませ」

「あぁ、すっかり遅くなっちまったね。ところで何を騒いでるんだい?」

「実はこの者が突然現れ、殿下に会わせろと言うのです。しかしこのような素性の知れない者を通すわけにもいかず、我々も説得を試みたのですが、何度言っても聞かずこうして勝手に頭を下げている次第でありまして……」

 

 兵士のうち1人がメイド服の女性に説明する。その説明に嘘偽りは無く、まさに言う通りだった。

 

「フ~ン……そうかい」

 

 おばさんはそう言ってじっと僕を見下ろす。遠近法効果もあってか、まるで鉄人に睨まれているかのような凄い迫力だった。この人にかかったら僕なんて猫の如く首根っこをつままれて放り投げられてしまいそうだ。内心怯えながらそんなことを考えていたら、このおばさんはこんなことを言ってきた。

 

「男がここまでしてるんだ。話くらい聞いてやったらどうなんだい?」

「しかしこのような素性の知れない者を殿下の元へお通しするわけには……」

「アタシがいいって言ってるんだからいいんだよ。それともアタシの言うことが聞けないっていうのかい?」

「い、いえ! 決してそのようなことは! ですが――」

 

「男がグズグズ言うんじゃないよ! ほら、さっさと道を開けな!」

 

「「は、はいっ! かしこまりましたっ!」」

 

 2人の兵士はメイドおばさんの怒鳴り声に圧倒されたのか、慌てて門を開け始めた。このおばさん、何者なんだろう。メイドって番兵より身分が上なんだっけ?

 

「ほらアンタもいつまでも座ってないで立ちな。殿下の所に連れてってやるよ」

「へ? ほ、ほんとですか!?」

「あぁ本当だとも。けど、くれぐれも失礼な真似をするんじゃないよ。アタシの権限にも限界はあるんだからね」

「はいっ! ありがとうございます!」

 

 ゆっくりと門の中に入っていくメイドのおばさん。これで王子に直接話ができるぞ! と僕は上機嫌で後に続く。

 

 ……

 

 しかしこのおばさん、でっかいな。こうして後ろを歩いていると、見えるのはブラウンの髪を真っ直ぐ伸ばしたストレートヘアと白いカチューシャ。それと紺色のメイド服だけだ。まるでプロレスラーか相撲取りの後ろを歩いている気分だ。

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

 真っ直ぐに伸びる真紅のじゅうたん。体育館のように高い天井。眩しいくらいにキラキラと光るシャンデリアや、金色に輝く壁の装飾品。王宮の中は”豪華”という言葉以外つけようがないくらいに豪華だった。

 

「ほへぇ……」

 

 僕は溜め息にも似た声を発しながら宮殿内を歩く。

 

「アンタ名前は何ていうんだい?」

「へ? あ、吉井です。吉井明久といいます」

「ヨシイだね。じゃあヨシイ聞くけど、アンタどうしてそんなに殿下に会いたいんだい?」

 

 それを知らずに僕を入れたの? そんなことして大丈夫なんだろうか……。

 

「えっと、実はある人から戦争が始まるって話を聞いたんです。そんなのが始まったら沢山の血が流れるし、大勢の人が悲しむと思うんです。だからどうしても戦争をやめてほしくて……」

「フ~ン……なるほどねぇ」

 

 そっけない返事をしてじゅうたんの上を歩き続けるおばさん。あまり関心が無いのだろうか。

 

「アンタの気持ちはよく分かった。けど殿下にそれを言っても止められるかどうか分からないよ?」

「……はい。でも話してみたいんです。少しでも可能性があるのなら……」

「そうかい。まぁとにかく話してみな。けどアタシは案内するだけだよ」

「はい。それで十分です」

 

 程なくして僕らは大きな扉の前に辿り着いた。どうやらこの先に王子がいるらしい。メイド服の彼女は警備していた兵士に言葉を掛け、扉を開けさせた。正面の大きな扉が開かれ、僕は大きな部屋に通される。

 

「うん? ジェシカではないか。どうしたこんな時分(じぶん)に」

 

 その部屋の中央には大きな椅子が置かれていた。今喋ったのはその椅子に座る男性だ。椅子は彼の座高に対してあまりに大きく、まるで幼児が大人用の椅子に座らされているようにも見える。だがその男は幼児ではない。ぱっと見、僕と同い年くらいに見える。

 

 どうやらあれがリオン王子のようだ。鼻が高くキリッとした顔立ちは兄のライナス王子にそっくりだ。しかし前髪を上げて(ひたい)を出したヘアスタイルのせいか、兄とは全然違う印象を受ける。

 

「殿下、お会いしたいという者をお連れしました」

 

 メイドのおばさんは(うやうや)しく礼をして王子にそう伝える。僕は慌ててピシッと身を引き締め、頭を下げた。

 

「ほう、お前が客人を連れてくるとは珍しいな。して、何用だ?」

 

 この台詞を聞いた瞬間、僕はホッと胸をなで下ろした。良かった。この様子なら話を聞いてくれそうだ。

 

(ほらヨシイ、あとはお前さん次第だよ。頑張んな)

 

 おばさんは僕の耳元でそう囁くと、部屋の脇の方へと下がっていった。僕は今一度ピッと背筋を伸ばし、足を揃えて姿勢を整える。礼儀正しく、失礼の無いように――――!

 

「は、はじめまして! 吉井といいます! 今日は殿下にお願いがあって参りました!」

 

 こんなに緊張したのはいつ以来だろうか。噛まずにハッキリと言えたのは奇跡に近い。

 

「うむ。申してみよ」

 

 王子は聞く体勢だ。これなら望みはあるかもしれない。意を決した僕は戦争について話し始めた。ハーミルから同乗したあの親子のことを伝え、何度も頭を下げ、精一杯かつ丁寧にお願いした。だが僕の願いは聞き入れてもらえなかった。

 

「仕掛けてきたのは兄貴の方だ。こちらも黙ってやられるわけにはいかん。それにここで下手(したて)に出れば兄貴はますます調子に乗るだろう。だがそうはいかん。今度こそ弟だからとなめている兄貴に思い知らせてやるのだ!」

 

 リオン王子は鼻息荒く熱弁する。でもそれってやっぱりただの兄弟喧嘩じゃないか。

 

「戦争なんて悲しみを生むだけです! もし父親が戦いで命を落とすようなことがあったらあの子はどうしたらいいんですか! あの子だけじゃありません! 他にも沢山の家族が悲しい思いをするんです! どうか思い止まってください!」

 

 僕はサーヤちゃんやお母さんの悲しげな顔を思い、必死に食い下がる。だがそれでも王子は「それは悲しいことだ」と言いながらも受け入れてはくれなかった。そして「話は終わりだ」と僕を追い出そうとする。

 

「ま、待ってください! どうか考え直してください! お願いします!」

「えぇい、やかましい! 話は終わりだと言っておろう! 衛兵! つまみ出せ!」

「「はっ!」」

 

 鎧を着た2人の兵士が両側に立ち、僕は両脇を抱えられる。

 

「くっそぉぉ! 放せ! 放せよ! まだ話が終わってないんだ!」

「こら大人しくしろ。これ以上世話を焼かせるな」

 

 2人の屈強な男が僕の両脇を軽々しく持ち上げる。そしてまさに連れ出されようという時、

 

『お待ちください殿下ァ!』

 

 メイドのおばさんが急に大声をあげた。鼓膜にビリビリ響く。なんてでっかい声だ。

 

「なんだジェシカ。お前も俺に意見しようというのか?」

「いえ。メイドである(わたくし)めにそのような越権行為が許されるはずもありません」

「では何だというのだ」

「はい、この者を私に預からせていただけないでしょうか」

「こやつを? どうしようというのだ?」

「見ず知らずの者のために土下座までしてこのガラムバーグ王宮に単身乗り込んで来るなど、なかなかできることではありません。この者と少し話をしてみたくなりました」

「ふむ……」

 

 おばさんの申し出に王子は目を閉じ、何かを考えるような仕草を見せる。

 

「……よかろう。お前の好きにするがよい」

「ありがとうございます。殿下」

「今日は寝るぞ。寝室の準備をせい!」

 

 王子はすっくと立ち上がり、赤いマントを翻しながら王の間を去っていく。なんだか良く分からないけど追い出されるのだけは避けられたようだ。でもやっぱり戦争は止められなかった。悔しいな……。

 

「さてと。それじゃ――っと、そういえばまだ名乗ってなかったね。アタシはジェシカ。ここでメイド長をやってるんだよ」

 

 メイドのおばさんが自己紹介をする。このおばさんがジェシカという名前だというのは、周りの人が呼んでいたので既に知っていた。それにしても、

 

「メイド長……ですか?」

「そうだよ。この城で働くメイドたちを取り仕切るのが仕事さ」

 

 なるほど。メイドさんたちのリーダー的存在ということか。メイドにそんな階級があるなんて知らなかったな。

 

「ところでアンタ、この町のモンじゃないね。どこから来たんだい?」

 

 ここに来るまでに同じような質問は幾度となく受けてきた。だからこの時にはもう”異世界の住民”であると説明することに躊躇いはなかった。

 

「実は僕、違う世界から飛ばされて来たんです」

「フ~ン……そうかい」

 

 あれ? それだけ? 疑ったりしないの? 今までこう答えると変な顔をされるか、信じてもらえないか、どちらかだったのに。

 

「それで今夜の宿は決まってるのかい?」

「あっ……」

 

 そういえば何も考えてなかった。仲間捜しに夢中で完全に忘れてた……。

 

「えっと……実はこの町に来てからずっと人捜しをしていまして、まだ宿とかは決めてないんです」

 

 返答を聞いたジェシカさんはニッと笑顔を作ると「ちょっと待ってな」と言って、先程入ってきた扉の方へと歩いて行った。そして扉の前で警備をしていた兵士の元へと行くと、ボソボソと何かを話し始めた。”うんうん”といった様子で話を聞いていた兵士は敬礼をして廊下を走って行く。一体何を話していたんだろう? そう思って眺めていると、ジェシカさんが戻って来た。

 

「待たせたね。それじゃ行こうか」

「ほぇ? 行くって、どこへですか?」

「アンタの部屋だよ」

「僕の部屋?」

 

 おかしいな。こんな所に僕の部屋なんてあるわけないんだけど……。何を言ってるんだろこのおばさん。

 

「客室をひとつお前さん用に確保してやったのさ。今夜は泊まっていきな」

「えぇっ!? い、いいんですか!?」

 

「ジェシカ様! 勝手にそのようなことをされては困ります!」

「そうです! 殿下の許可もなくそのようなことをされては我々がお叱りを受けてしまいます!」

 

 驚く僕の後ろで急に大声をあげる兵士たち。その反応も当然だろう。だって僕は王子に「つまみ出せ」とまで言われたわけだし。

 

「アタシは殿下からこいつの処置を任されたんだ。ダメとは言わせないよ」

「し、しかしそのような待遇はあまりにも――――」

「あぁうっさいね! あんまりガタガタ言ってるとメイド全員でストライキを起してやるよ!?」

「うぐっ……! そ、それは……もっと困ります……」

「なら文句は無いね?」

「は、はい……」

 

 メイド長には逆らえないのだろうか。兵士たちはジェシカさんに言い(くる)められ、すっかり大人しくなってしまった。

 

「よし、それじゃヨシイ、アタシについてきな」

 

 ジェシカさんは意気揚々と王の間を去って行く。僕は気まずく思いながらも彼女のあとを追い、王の間を後にした。

 


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