バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第三十六話 はじまる異変

「ふぅ~……やっぱり汗を流すと気持ちいいなぁ」

 

 大浴場で1日の汗を洗い流し、さっぱりした僕はホテルの中をそそくさと歩いていた。

 

 え? 覗きがバレて逃げているんだろうって? いやだなぁ。僕がそんなことをするわけないじゃないか。そんなことをしたら美波に殺されるし、そもそもここは不特定多数の人が泊まる場所。あの時のような騒動を起こせば今度は警察に突き出されてしまうからね。この世界に警察があるのか知らないけど。

 

「あれ……カジノ?」

 

 2階に降りた僕はガッカリしてしまった。理由は単純。期待したものがそこに無かったからだ。

 

 この世界では僕が遊べるような娯楽がほぼない。ボール遊びや公園の遊具などはあるのだけど、携帯できる遊ぶものと言えばトランプカードゲームくらいしかない。いつも遊んでいたような携帯ゲーム機などの類いがないのは寂しい。だからさっき1階で”娯楽施設”の字を見た瞬間、行こうと決めていたのだ。そのために風呂も”烏の行水(カラスのぎょうすい)”並にして出てきたというのに、これでは期待外れもいいところだ。

 

「ちぇっ。これじゃ楽しめそうにないや」

 

 カジノやビリヤードに興味は無いんだよね。クレーンゲームやビデオゲームとかのゲームセンターを期待していたのにな。しょうがない。他を見てみるか。

 

 早速2階をぐるりと歩き回ってみる。しかし2階には巨大なカジノの他に遊べるような施設はなく、あとは客室だけだった。これ以上2階を歩き回っても面白くなさそうだ。そんなわけで3階に戻り、歩き回ってみることにした。

 

 ……よく考えたらこの世界には電気がないんだからテレビゲームの類いなんてあるわけないか。我ながら無駄な期待をしたものだ。

 

「ん? これは……」

 

 3階の廊下でふと目にした看板。そこにはこう書かれていた。

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

   ↑大展望台 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 

 このホテルは確か3階建て。この先は屋上だ。つまり屋上が展望台になってるってことか。

 

 ”展望台”という文字になんだか不思議な魅力を感じる。娯楽施設の内容が残念だったことも影響しているのだろうか。

 

(……行ってみようかな)

 

 僕は看板の横の階段を上り始めた。階段は1段が低く作られていて緩やかだった。そんな階段を上っていくと、開け放されている扉が見えた。扉の外からは橙色の光が斜めに、まるで空間を切るかのように差し込んでいる。

 

 誘われるようにしてそこから出てみると、そこは月の光で溢れていた。周囲には魔石灯も備えられ、月の光と相まって綺麗な夜景を作り出している。

 

 屋上の周囲には手すり付きの柵が張り巡らされ、バルコニー状になっていた。背後には2本の大きな塔が聳え立ち、その天辺からは薄緑色の光が吹き出している。どうやら屋上全体が展望台になっているようだ。この広い空間にはいくつものベンチが置かれ、何人もの客が腰掛けて空を見上げている。皆この夜景を楽しんでいるようだ。

 

「ん~っ……! ふぅ……」

 

 僕も近くのベンチに腰掛け、天を仰ぐように伸びをしてみた。うん。気持ちいい。砂漠の暑さが嘘のように涼しい。まるでハルニア王国の夜のようだ。

 

 空には大きな満月が登り、柔らかな光を注いでいる。現実世界と同じか少し大きいくらいの満月だ。そういえば今まで気にしなかったけど、この世界にも月があるんだな。

 

「……」

 

 やや緑がかった黒い空を見上げ、僕は思った。

 

 ここは召喚獣の世界が変異した世界。この世界に来てから今日で33日目。もう1ヶ月以上が経過している。姉さんはどうしているだろう。やはり僕のことを心配しているのだろうか。色々と理不尽なことをする姉だけど、こうして離れてみると寂しくも感じる。美波や姫路さんの家族、それに他の皆の家族だって心配しているだろう。

 

 普通に考えたら、家族が1ヶ月間も帰らなければ警察に届ける。あの非常識な姉さんだってきっとそうするだろう。もしかしたら既に行方不明事件として警察が捜索しているかもしれない。……いや、学園長は僕らがここにいることを知っている。もし警察沙汰になれば学園長も困るだろうし、きっと皆の家族に説明してくれているはずだ。

 

 ……

 

 説明してくれてる……よね?

 

「みーつけたっ」

 

 ぼんやりと夜空を眺めていると不意に横から声をかけられた。

 

「こんな所で何してるの?」

 

 赤いミニスカートに黒のブレザー。黄色いリボンでまとめ上げたポニーテール。吊り上がった大きな瞳に整った睫毛。この女の子の名は島田美波。僕の彼女だ。

 

「ちょっと長湯しちゃってね。夜風に当たって少し冷やそうかと思ってさ」

「ふ~ん……それにしては深刻そうな顔してたけど?」

「そう?」

 

 確かに考え事をしていたけど、そんなに深刻な顔をしてたかな。

 

「隣、座っていい?」

「うん」

 

 ベンチの隣に美波が腰掛ける。するとサァッと風が吹き、彼女の髪をなびかせた。目を細めて髪を押さえる美波。

 

 シャンプーはいつもと違うはずだ。この世界に美波の使っていたシャンプーがあるはずもないから。けれど風に舞う彼女の髪はいつもと変わらず、とても綺麗だった。

 

「ウチね。最近思ったの」

「ん? 何を?」

「アキに頼りすぎてたって」

「ほぇ? 頼りすぎ? そんなことないと思うけど?」

 

 むしろ僕の方が頼っていると思う。実際、あの魔人との戦いも美波の力が無ければ勝てなかった。他にも色々な局面において、彼女の機転が無ければ進まなかったことだって多い。

 

「ミロードの町に1人で放り出された時ね、ウチ何もできなかったの。どうすることもできなくて、ただ泣いてた」

「あれ? あの時、”泣いてない”って言ってなかったっけ?」

「そ、それは……! その……かっこ悪いかなって、思って……」

 

 別にかっこ悪いなんて思わないけどな。何の前触れもなく突然こんな異世界に飛ばされたんじゃ不安に押し潰されそうになっても仕方ないと思う。僕だって泣きたかったんだから。

 

「ウチね、この世界でどうしたらいいか分からなくて……ジェシカさんに拾われてからもどうしていいか分からなくて、薦められるままメイドの仕事をしてた。それでアキが来てくれた時に気付いたの。ウチって1人じゃ何もできないんだって。アキは1人でも元の世界に帰ろうって頑張ってたのに、ウチは何も考えられなかったから」

 

「……」

 

 何も言えなかった。

 

 こんな時、気の利いた彼氏なら勇気付ける言葉のひとつでも掛けるのだろう。けれど僕は黙って彼女の告白に耳を傾けることしかできなかった。情けない。男として本当に情けない。この時、僕は自分の未熟さを改めて思い知った。

 

「だからウチ思ったの。もっと強くならなきゃって。もっと自分から行動しなくちゃって」

 

 違うんだ。僕は無我夢中で、ただじっとしていられなくて行動しただけなんだ。計画性なんてあったもんじゃない。こんな風に褒められること自体、間違っているんだ。

 

 それに美波は弱くなんてない。明るくて心が強くて、度胸もいい。こうして自分を戒めることができるのも心が強いからだ。

 

「……美波」

「うん」

「えっと……大丈夫。美波は自分が思ってるよりずっと強いよ。だから自信を持っていいと思うんだ」

 

 これが僕の精一杯の言葉だった。でもこんなことで励ましになるわけがない。言った後で僕は自らの発言を後悔した。けれど美波はそんな僕を見て、にっこりと微笑んでくれた。

 

「ありがと。アンタっていつでもどこでも変わらないのね」

「そうかな?」

「うん。いつでもどんな時でもアキはアキ。昔から変わらないわ」

「それって全然成長してないってことだよね……」

「そうとも言うわね」

「はっきり言わないでよ! 結構気にしてるんだから!」

「ふふ……いいじゃない。ウチはアンタのそんなところが……」

 

 美波はそこで言葉を止め、急に黙り込んでしまった。

 

「そんなところが、何?」

「……ううん、なんでもないっ」

 

 あはは、と愛想笑いを見せる美波。何を言いたかったんだろう。

 

『ママーお空が真っ黒ー』

『あら本当、お月様がこんなはっきり見えるなんて初めてだわ』

 

 その時、隣のベンチから親子の会話が聞こえてきた。ホテルの客のようだ。空? 空がどうしたというのだろう? 流れ星もで出たのかな?

 

 そう思って空を見上げてみると、先程と変わらぬ大きな月が目に入ってきた。ただ、先程より鮮明に見えるような……?

 

『お、おい、ちょっと待てよ。なんか様子がおかしくないか?』

『おかしいって、何がだ?』

『なんつーかよ、ほら、アレだよアレ。アレが無いんだよ』

『あれじゃわかんねーよ。ハッキリ言えよ』

 

 他の人のそんな会話も耳に入ってくる。アレが無いって何のことだろう?

 

「ねぇアキ、なんかおかしいわよ? 魔障壁がなくなってるみたい」

「え……な、なんだって!? そんなバカな!?」

 

 慌てて周囲を見渡すと、確かに見えていた緑色の膜がない。真上を見ても、先程まであった巨大なシャボン玉のような膜がなくなっている。

 

「たっ、大変だ! すぐに皆に知らせないと!!」

 

 慌てて立ち上がり、僕は入り口に向かって走り出す。

 

「あっ! 待ってよアキ!」

 

 美波もそんな僕の後を追って走り出した。

 

『おいやべぇぞ! 魔障壁がなくなってる!』

『えぇっ!? そんな! どうしてよ!』

『俺が知るかよ! とにかくなくなってるんだよ!』

『このホテルは王家が出資してるから対策は万全なんじゃなかったの!?』

『いいから早く建物の中に入れ! 魔獣が襲ってくるぞ!』

 

 屋上を走っていると、その場にいた多くの人たちが騒ぎ始めた。皆異変に気付き始めたようだ。まずいぞ。これは大混乱になりそうだ。

 

『緊急事態! 緊急事態! 魔障壁装置に異常発生! 館外の方は至急館内に避難してください!! 繰り返します! 魔障壁装置に異常発生! 至急避難してください!!』

 

 3階に降りた途端、館内にこんな放送が流れた。鬼気迫る声での放送。この声を聞いた人たちは皆恐怖に顔を引きつらせ、館内は騒然となった。

 

「ちょっ……! な、なんだよ! 装置に異常ってどういうことだよ!」

「何が起こってるの!? 誰か教えて!!」

「冗談じゃねぇ! こんなところで死んでたまるか! 俺は逃げるぞ!」

「逃げろったってどこに逃げろってんだよ! こんな山奥じゃ逃げ場なんてねぇじゃねぇか!」

 

 ホテルの客たちは右往左往。文字通り廊下を右へ左へと走り回っている。皆どこへ逃げたらいいのか分からないのだ。

 

「皆さん落ち着いてください! 落ち着いて職員の指示に従ってください!」

 

 すると下の階から従業員らしき男が駆け上がってきて、皆にそう伝えた。

 

「これが落ち着いていられるか! お前ホテルの責任者か!? 早くなんとかしろ!!」

「とにかく状況を説明しろ! 装置はすぐに直るのか!?」

「あーーん! ママぁーー! ママぁーー!」

「現在職員が全力で対応に当たっています! 皆さんは万が一に備えて2階に避難してください!」

「いいからどういう状況なのか説明しろ! 俺は金を払ってんだぞ!」

「ですから今確認中です! とにかく指示に――――」

「ふざけるな! 魔獣に襲われたらこんな建物簡単に壊されちまうだろ! さっさと馬車を用意しろ!」

 

 男の怒鳴り声。

 女の悲鳴。

 親を求めて泣きじゃくる子供の声。

 

 様々な声が飛び交い、ホテル従業員の声をかき消してしまう。そうしているうちに騒ぎはますます大きくなり、館内はあっという間にパニック状態に陥ってしまった。

 

「アキ、ウチらも坂本たちと合流しましょ」

「う、うん!」

 

 美波に言われ、僕は廊下を走りはじめた。するとその時、

 

「明久! ここにいたか!」

 

 怒号の飛び交う中、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「雄二!」

「お前こんな所で何やってんだ! まだ風呂に入ってるのかと思ったじゃねぇか!」

「美波ちゃんも一緒だったんですね。良かった……」

「……美波。吉井。心配した」

「ご、ごめん! それよりも雄二、これどうなってんの??」

「詳しいことは分からん。だが魔障壁が消えたという話が聞こえた」

「やっぱり!」

「なんだと? お前知ってるのか!?」

「いや、屋上で景色を眺めてたら急に見晴らしが良くなってさ、それで魔障壁がなくなったのが分かったんだ」

「そういうことか。しかしなぜ消えたかが分からねぇな」

「さっきから職員の人が一生懸命説明してるんだけど、周りがうるさくて何も聞こえないんだ」

「聞いたところで無駄だぜ。彼らもまだ原因を掴んじゃいない」

「そうだったのか……でもなんで魔障壁が消えたんだろう」

「…………また盗まれたか」

「分からん。だが気になるのはつい先日も同じような状況があったことだ」

「メランダの町だね」

「そうだ。あれは魔人が首謀者だったが……」

「まさか……! 雄二はまた魔人の仕業だって言うのか!?」

「だから分からんと言ってるだろ。とにかく今は情報が足りない」

「推測してもはじまらぬ。支配人に聞いてみるのはどうじゃ?」

「説明を求める人がひしめき合っている光景が目に浮かぶが……とにかく行ってみるか」

 

 早速全員で1階の管理人室の前まで行ってみると、雄二の予想通り既に人の壁ができあがっていた。部屋の前は状況を聞き出そうと詰め寄る人々でスシ詰め状態だ。

 

『押さないでください! 非常に危険です! 今から状況を説明しますので、お静かに願います!』

 

 人垣の向こうから従業員と思しき男の必死な声が聞こえてくる。その男の説明によると、魔導コアが故障し、装置が動かなくなってしまったらしい。しかし修理できる者はおらず、現状では他の町から取り寄せるしかないそうだ。

 

『取り寄せている間どうするんだ! 馬車を全速で走らせても往復で6時間はかかるんだぞ!』

 

 と詰め寄る客に従業員の男は説明した。今、管理室には馬車用の魔障壁装置が3つある。3つだけではホテル全体を守ることはできないが、身を寄せ合って補修品の到着まで持ち堪えるということらしい。この状況。ますますメランダの時にそっくりだ。

 

「まずいな。あんな馬車用の小さな装置3つじゃ200人を超す客全員なんてカバーしきれねぇぞ」

「どうする雄二?」

 

 雄二は顎に拳を当て、苦々しい表情を見せる。こういう顔をするのはヤツの頭がフル回転している時だ。きっと最善の策を練り出すだろう。

 

「……明久」

「うん」

「この状況、お前ならどうする?」

 

 まさか雄二に尋ねられるとは思わなかった。けれど僕だってただ雄二の回答を待っていたわけではない。僕なりにやれることを考えていたのだ。

 

「見た感じ、お客さんの中で戦えるような人はいなかった。たぶん皆観光か商売で来てるんだと思う。だから戦えるのは僕らだけと思った方がいい」

「このホテルは元は王妃の別荘ゆえ、防壁は堅牢じゃ。衛兵など必要なかったのじゃろうな」

「うん。でも馬車用の魔障壁装置は3個って言ってたよね。そのうち1個を馬車に使うとしたら、残りは2個ってことになる」

「ほう。お前も一応算数はできるようだな」

 

 バカにされているようだが、今はそんなことで言い争っている時間は無い。僕は冷静に話を続けた。

 

「たぶん2個じゃこの建物の半分もカバーできないと思う。だったら3個全部を建物に使って、それで……馬車の方は……」

 

 夜は魔獣の動きが活発になる。魔障壁装置なしに馬を走らせれば襲われるのは必至。……そうか、それは誰かが守りながら走ればなんとかなるかもしれない。問題は簡易装置3個で全員を守り切れるほどの魔障壁を展開できるのか。これは僕にも分からないな……。

 

「よくやった明久。そこまで聞ければ十分だ」

 

 言葉に詰まっていた僕を雄二が褒める。こいつ、もしかして既に案が頭にあったんじゃないのか? この緊急事態にのんきな奴だ。

 

「俺も同じ考えだ。3個をホテルの守りに充て、馬車は俺たちのうち誰かが護衛する。ただし、それでもこの建物全部は守りきれねぇ。だから残りのメンバーで守りを固める」

 

 なるほど。やはり馬車に警護をつけるのか。そういえばハルニア王国では馬車に警護という職があったけど、ここサラス王国ではそういった類いの乗客は見かけなかった。あのウォーレンさんのような職はこの国には無いのだろうか。

 

「反対意見はあるか?」

 

 雄二の提案に異を唱える者はいなかった。僕ら7人、誰もが事態を理解しているのだ。

 

「決まりだな。で、誰が馬車の護衛に当たるかだが……」

 

 そんなことは相談するまでもなく、高速な馬車を守りながら走れるような人なんて1人しかいない。

 

「ムッツリーニ。頼めるか」

 

 ムッツリーニの腕輪は高速移動(アクセル)の力を持っている。その気になれば全力疾走する馬車に追いつくことだってできるだろう。

 

「…………任せろ」

「頼むぞ。翔子はこのことを支配人に伝えてきてくれ」

「……分かった」

「残りはパニックに陥っている人の誘導と各門の守りだ」

 

 それなら姫路さんや美波には誘導に当たってもらおう。戦いは僕や雄二、それにちょっと気が引けるが秀吉の役目だ。

 

「分かりました! それじゃ私、正門を守りに行きます!」

 

 姫路さんは力強くそう言うと、タタッと駆けて行ってしまった。

 

「あ! ちょっと姫路さん!?」

 

 思わぬ彼女の行動。呼び止めた時には既にその姿は無かった。

 

「姫路のやつ張り切ってやがるな。秀吉、客の避難誘導を頼む」

「承知した」

「ムッツリーニ、翔子と一緒に行って支配人に遣いの馬車を出してもらえ。翔子は説明が終わったら避難誘導に当たれ」

「…………(コクリ)」

「……行ってくる」

 

 秀吉と霧島さんは指令を受け、それぞれの役目を果たしに向かった。

 

「それじゃウチは東門を守るわ」

「ちょっと待って美波。東門には僕が行くよ。美波には姫路さんを手伝ってほしいんだ」

「ううん、瑞希の所にはアキが行ってあげて。ウチは1人でも大丈夫よ」

「え? でも――――」

「いいからっ! それじゃ任せたわよ!」

 

 美波はそう言い放つと、あっという間に人混みの中に消えてしまった。もしかしてさっき屋上で言ってた”強くならなきゃ”っていうのを意識してるんだろうか。だからと言ってあんまり危険なことをしてほしくないんだけど……。

 

「じゃあ俺は西門の守りにつく。どちらの応援に行くかはお前に任せる。しっかり守れよ!」

 

 そう言い放って雄二は廊下を駆けて行く。さて、僕はどうすればいいだろう。

 

 正門を守りに行った姫路さん。

 東門を守りに行った美波。

 

 美波は「姫路さんの所に行け」と言っていたが、美波のことも心配だ。うぅっ、こ、困った。本当にどうしよう。こんな時、僕の腕輪効果が分身だったら両方を助けに行けたのに……。

 


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