バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第三十四話 薔薇の宿町

 ――――こんなことになるなんて夢にも思わなかった。

 

 

 アルミッタに到着後、僕たちはすぐに町を出て、宿町と呼ばれる”ローゼスコート”に向かった。移動はもちろん馬車。馬車道はとても細く、山岳の合間を縫うように走っていた。

 

 似たような地形はガルバランドでも見ている。だが決定的に違うものがある。それは気温だ。ガルバランド王国の山岳は吐く息すら凍り付きそうなくらいに寒かった。それに対し、ここサラス王国は気温がやたらと高い。温度計が無いので詳しくは分からないが、37、8度くらいあるのではないだろうか。乾燥しているのがせめてもの救いか。もしこれで熱帯のようにジメジメしていたら人間は暮らせないかもしれない。

 

 そんな気候の中、馬車は僕たちを乗せ、曲がりくねる山道をひた走る。馬車内は左右両側に座席があり、乗客は綺麗に並んで座っている。それも肩が触れ合うほどに狭いため、ほぼ身動きが取れない。乗客は僕たちの他にも数人が乗っていて、14人席は満席だ。おかげで横に美波やムッツリーニが座っていても大きな声で話すわけにもいかない。心身共に窮屈な時間だった。

 

 そしてアルミッタを出発してから4時間ほど経過した頃、先頭の馬2頭がヒヒィンと嘶いた。

 

「到着かしら?」

「そうなのかな?」

 

 しばらくすると馬車は次第に速度を落としていった。覗き窓から首を出してみると、前方の岩山の合間に城のような建物が見えた。きっとあれがローゼスコートだ。美波の言う通り到着のようだ。

 

 そして馬車は程なくして停止。僕たちは客車を降りた。

 

「わぁ……」

「綺麗……」

 

 姫路さんや美波が感嘆の声を漏らす。

 

 赤、白、黄色、ピンク。色鮮やかな花が咲き乱れる(その)が、そこにはあった。

 

「これはまた見事な庭園じゃのう」

「…………薔薇しか見えない」

 

 その町は他の町同様、円形の外周壁で囲まれていた。町の上空には薄緑色の膜が張られ、魔障壁が存在をアピールしている。これだけの説明では他の町と変わりはない。だがこのローゼスコートは他の町と比べて大きく違う部分があった。

 

 それは建物の数。町とは人や家屋が集まって成すもの。ところがこの町には建物が1つしかない。広大な敷地内の真ん中にドンと、まるで宮殿のようなに大きな建物が1つ。この町にはそれしかないのだ。果たしてこれが町と呼べるのだろうか。

 

 そして大きな違いがもう1つ。僕たちが降りた場所は町の端。外周壁を入っですぐのところだ。ここからは町内――いや、むしろ園内か。この園内に敷かれた石畳の道を進み、あの宮殿まで行くことになるようだ。

 

 今までも、目的地が町の中でそこまで徒歩で行くことは何度もあった。けれどそこまでの道がこれほど花で満たされていることは一度も無かった。しかもこの道は無駄と思えるほど曲がりくねり、遠回りをさせるようになっている。恐らくは薔薇の花道を楽しませるがための構造なのだろう。

 

「……薔薇園」

「あぁ。しかし見事に薔薇しかねぇな」

「……とっても綺麗」

「そうだな」

「……雄二はどの花を贈ってくれるの?」

「なんの話だ」

「……私への愛の証」

「何を寝ぼけたこと言ってやがる。俺が花なんかを贈るガラじゃねぇのは分かってんだろ」

「……私は赤が好き」

「聞けよ!」

「……赤は情熱の色。私は緋色の薔薇がいい」

「ホントお前って話を聞かないよな……」

「……じゃあ緋色の薔薇をプレゼントしてくれる?」

「あぁ分かった分かった。また今度な」

「……本当に?」

「あぁ。覚えてたらな」

「……楽しみにしてる」

 

 前を歩く雄二と霧島さんがそんな会話をしている。雄二のやつ、意図的に忘れるつもりだな? バカだなあ。霧島さんにそんなのが通用するわけがないのに。

 

「いい香りですね」

「ホントね。それに色も鮮やかでとっても綺麗」

「そうですね。私、こんな山の上でこんなにも綺麗なお花を見られるなんて思いませんでした」

「砂漠と違って気温があんまり高くないからお花も咲くのかしら」

「あ、そういえばここって暑くないですね。むしろ涼しいくらいです」

「過ごしやすくていいわね」

「いつもの制服でいられるのって楽でいいですよね。ふふふ……」

 

 僕の後ろでは美波と姫路さんが楽しげに話をしている。2人とも薔薇園内の散歩を楽しんでいるようだ。本当は散歩しているわけじゃなくて今夜の宿に向かっているのだけどね。

 

「…………腹が減った」

「そうじゃな。今日は朝食以降何も食うておらぬからのう」

「…………この薔薇は食えるのか?」

「バカを言うでない。このようなものを食せば腹を壊してしまうぞい?」

「…………食用の薔薇もある」

「なんと……それは本当か?」

「…………エディブルという」

「お主も妙なことに詳しいのう」

「…………今の問題はこの花が食えるかどうかだ」

「やめておいた方が良いと思うぞ? どう見てもこれは観賞用じゃ」

「…………腹が減った……」

「宿に着いたらまずは食事じゃな」

 

 最後尾を歩く秀吉とムッツリーニはこんな会話をしながら歩いている。むう。秀吉たちがあんな話をしているから僕もお腹が空いてきちゃったじゃないか。だいぶ日も暮れてきたし、秀吉の言うとおりホテルに入ったらご飯かな。

 

 

 

 ――そんなこんなで30分後

 

 

 

 僕たちはようやく中央に聳えている建物に到着した。

 

「やれやれ。近くに見えていたわりに時間が掛かったのう」

「あれだけ回り道させられたら時間が掛かるのは当然だろ」

「……観光用だから当然」

「ま、そうなんだけどな」

「それにしても大きなホテルね。まるでお城じゃない」

「うん。ホントだね……」

 

 こうして目の前で見ると、本当に城のようだ。入り口の木製の扉は高さおよそ3メートル。幅は4、5メートルほどありそうだ。トラックでもまるごと入れそうなくらいの大きさだ。

 

 よく見ればこの扉には薔薇模様が刻まれ、所々に金色の飾りが施されている。なんと豪華な入り口だろう。上を見上げると縦に並んだ窓が3つ見える。どうやらこのホテルは3階建てらしい。そしてその更に上には、天を貫くかと思うほどに高い2つの塔が立っている。これを城と言わずして何というのか。

 

「これはまた巨大なホテルじゃのう……」

「…………元は王妃の別荘だったらしい」

「なんと。それはまことか? ムッツリーニよ」

「…………この前依頼の花を届けに行った時に聞いた」

「へぇ~、どうりで大きいと思ったわ。こんな豪華なホテルなんて見たことないもの」

「こ、こいつが別荘だってのか? なんて規模だ……贅沢にも程があるだろ……」

 

 よく大きさのたとえとして、ドーム球場3個分といった表現がある。これに習って言うならば、このホテルは文月学園の校舎2個分といったところだろうか。縦も横も2倍ずつあるような感じだ。しかもこれが別荘だなんて、雄二が驚く気持ちもよく分かる。

 

 ……ん? 待てよ? 縦横2倍って建物2個分でいいんだっけ? なんだか分からなくなってきちゃった……。ま、まぁいいや。とにかくそれくらい大きいってこと!

 

「しかし解せぬのう。何故王妃殿の別荘がホテルなどやっておるのじゃ?」

「…………それも聞いてきた」

「ほぅ。さすがじゃな。して、その理由とは何じゃ?」

「…………一度使って飽きたらしい」

 

 

 ―― どんだけ()(まま)な人なんだ ――

 

 

 僕ら全員の心が一致した瞬間だった。

 

「あ、あの……坂本君?」

「なんだ姫路?」

「ここってもしかしてすっごく高いホテルなんじゃないですか……?」

 

 姫路さんが恐る恐るといった様子で尋ねる。それは僕も感じていた不安だ。こんなにも豪華なホテルだと宿泊料がもの凄いことになっていそうだ。手持ちの魔石やお金(ジン)で足りるだろうか……。

 

「大丈夫よ瑞希」

「えっ? どうしてですか?」

「実はウチね、メランダで町を守っていた時に魔石を沢山拾っておいたの。これを売ればかなりのお金になるはずよ」

「拾ったのは僕だけどね」

「う、うるさいわね! どっちだっていいじゃない!」

「リュックに入れて持ってるのも僕なんだけど……」

「と、とにかくそういうこと! だから少しくらい高くても大丈夫のはずよ!」

 

 魔石を持ち帰ろうって言ったのも僕なんだけどな。まぁいいか。2人で集めたことには違いないんだし。

 

「あ、そういえば私も少し拾ってきましたよ」

「ワシもじゃ」

「…………俺も」

「なんだ、結局皆資金源は持ってるんじゃないか。なら問題無いよね、雄二」

「あぁ。今回はそいつを頼りにさせてもらうぜ。じゃあ行くか」

 

 雄二は巨大な扉の取っ手に手を掛け、引いていく。

 

 

 ――ギ、ギ、ギィィ……

 

 

 木の扉が音を立てて開いていく。そう古くないように見えるのにこんな音を立てるのは、扉そのものの重量のためだろうか。

 

 そしてロビーに入って再び驚いた。

 

 両側の壁に設置された、眩しいと感じるほどに明るい魔石灯の灯り。その光を反射し、キラキラと輝く天井から吊された巨大なシャンデリア。他にも様々な装飾が施され、すべてが煌めいていた。床には真っ赤なじゅうたんが敷き詰められ、その豪華な造りは王宮を思わせる。そしてこのロビー内にも沢山の薔薇の花が飾られ、室内は花の香りで満ちていた。

 

「ほぇ……」

 

 表現するならば、”開いた口が塞がらない”だろう。こんなにも立派な宿は初めて見た。まるで高級ホテルだ。

 

「何してんのアキ。行くわよ」

 

 ……ハッ!

 

「わわっ、ま、待ってよ皆!」

 

 気付けば皆は既に奥の受付に移動していた。慌てて後を追う僕。

 

「思ったほど高くはないようじゃの」

「あぁ。町中のホテルに比べて若干高いくらいだな」

 

 秀吉と雄二が受付カウンターで何かを覗き込んでいる。話からして料金表だろう。

 

「どれどれ、僕にも見せて」

 

 

  シングル    8000

  ダブル    10000

  ツイン    12000

  クァルテット 20000

 

 

 非常にシンプルな料金表だった。

 

「あれ? ホントだ、そんなに高くない?」

 

 自分の目が悪くなったのかな? と思って目を擦ってみても、丸の数は変わらなかった。ガルバランド王国の王都サンジェスタで借りてた部屋より少し高いくらいの値段だ。

 

 受付の蝶ネクタイの男性に聞いてみると、どうやらこの値段は管理人の方針らしい。彼らはこの別荘を維持するために雇われた国の職員だという。しかし王妃がここを使ったのは過去に1度だけ。それも1週間ほど使った程度だという。それ以来王妃はここを訪れることもなく、彼らはただこの施設を維持しているだけだった。

 

 この別荘の部屋は大小合わせて100ほどあり、数百人規模の食事を用意できるキッチンや大きな風呂もある。これらはすべて王妃一行を迎え入れるためのものであるという。これほどの施設をただ維持するだけではもったいない。地理的にもアルミッタとマリナポート港のちょうど中間地点に位置する。そこで管理人はこの別荘を景観が変わらない程度に改造。旅人の憩いの場として宿の経営を始めたという。

 

 つまり、王家から維持費を貰っているのでこの程度の値段で運営できるということらしい。

 

「へぇ~……そういうことだったのか」

「良心的じゃのう」

「…………腹が減った」

「とりあえず部屋の契約だな。幸い部屋はそこそこ空いているようだ。問題はどう割り振るかだが……」

「やっぱり男子と女子で分けるのがいいんじゃないかな」

「また秀吉も一緒にすんのか?」

「ワシも男なのじゃが……」

 

 なんて相談をしていると、受付の方から霧島さんの声が聞こえてきた。

 

「……ダブルを一部屋」

「ダブルをお一つですね。ディナーはお付けしますか?」

「……部屋で食べられる?」

「もちろんお部屋にお持ちすることも可能です」

「じゃあそれも付けて」

「かしこまりました」

 

 ん? 霧島さんがもう部屋の契約を始めている?

 

「ちょっと待てぇぇーー!!」

 

 血相を変えて受付に飛んでいく雄二。

 

「お前何を勝手に契約してんだよ!」

「……お金に心配はない」

「そうじゃねぇよ! なんでダブル借りようとしてんだよ! 俺たちは7人だろうが!」

「……雄二と2人で過ごすため」

「それじゃ残りの5人はどうすんだよ!!」

「……?」

「そこでなぜ不思議そうな顔をするんだお前は……」

 

 キョトンとした顔をしながら霧島さんはもうひとつの受付カウンターを指差した。

 

「えっと、ダブルもうひと部屋ありますか?」

 

 隣のカウンターでは、赤い髪をまとめ上げた女の子が受付の女性に向かって話し掛けていた。

 

「ちょっと待って! 美波まで何やってんの!?」

 

「えっ? えっと……じょ、冗談よ冗談! ダブルってどんな部屋かなーって見てみたかっただけよ!」

 

 あははと愛想笑いをしてみせる美波。でも今「ありますか?」って聞いてたよね。本当は借りるつもりだったんじゃないの?

 

「お前らな……いくら金に余裕があると言っても無駄遣いするなよ」

「……残念」

「はぁ~い」

 

 美波と霧島さんは不服そうだ。そりゃあ僕だって美波と2人で綺麗な夜景を見たりとかしたいけど、今は姫路さんたちもいるからね……。

 

「うん? 君はもしかして……」

 

 そんな話をしていると、不意に後ろから声を掛けられた。まさかこんなところで生き別れの兄さんが!? なんてね。僕には姉さんしかいないさ。それにここは召喚獣の世界なんだから姉さんがいるわけがない。でもそうすると誰なんだろう?

 

 後ろを振り返ってみると、短い真っ白な髪を逆立てた四角い顔のお爺さんが立っていた。知らない人だ。もしかして人違いかな?

 

「おぉ! やっぱり君たちか! 俺だ、レスターだ!」

「レスターさん!?」

「いやぁ、どこかで見た服だと思った。まさかこんな所で会うとはね」

「お元気そうで何よりです。あら? そういえば王妃様はどうされたんですか?」

「うん? あぁ、逃げ出してきた」

「えぇっ!? ほ、本当ですか!?」

「ガハハッ! 冗談だ冗談!」

「そ、そうなんですか……びっくりしました……」

 

 突然現れたお爺さんは姫路さんと楽しそうに話し始めた。この人がレスターさん? あのファッションショーの妖精風のドレスや天使風のドレスを作った? こんな(いか)つい顔をしたお爺さんが? し、信じられない……。

 

「…………久しぶり……です」

「レスター殿、その節は世話になり申した」

「おう。キノシタにツチヤも一緒か。皆元気そうで何よりだ」

 

 レスターを名乗ったお爺さんは腕を組みながらうんうんと頷いている。このお爺さんがあのキラキラした女の子用の衣装を作ったなんて、やっぱり信じられない。どう見ても肉体労働系の人にしか見えないよ……。

 

「なんだ姫路、知り合いか?」

「あ、はい。そうなんです。腕輪を探している時にちょっとご縁がありまして。こちらレスターさんです」

「はじめまして。代表の坂本雄二と申します。仲間が大変お世話になりまして……深く感謝いたします」

 

 雄二は姿勢を正し、深く頭を下げる。こいつが頭を下げる所は今までも何度か見ている。けれどその度に強い違和感を覚えてしまう。たぶん胸を張って皆に指示をする姿ばかりを見ていたからだと思う。

 

「そうか、君がヒメジ君の言っていたサカモトか。なぁにそう(かしこ)まるな。世話になったのはこちらも同じ。お互い様ってこった。ガッハッハッ!」

 

 レスターさんは腰に両手を当てて豪快に笑い飛ばす。う~ん……イメージと全然違うなぁ……。

 

「ところでレスターさんはどうしてこんな所にいるんですか?」

「うん? それはこっちの台詞だ。君たちこそ腕輪を手に入れて元の世界に帰ったんじゃなかったのか?」

「色々と事情がありましてのう。これからなのじゃ」

「フーン……そうか。色々と事情か。まぁ深くは聞かねぇよ。俺は王妃の依頼品を作るための材料を買いに行くところでな」

「材料って、ドレスを作るための、ですか?」

「もちろんだ。俺が食材や雑貨を買うためにこんなところまで来ると思うか?」

「そうですよね……」

「しかしこの先は港町じゃぞ? そんなところにドレスの材料があるのかの?」

「染料のための貝がマリナポートで取れるんだよ」

「貝が染料になるんですか?」

「あぁ。貝紫(かいむらさき)と言ってな。いい紫色が取れるんだぜ」

「へぇ~……私、知りませんでした」

「実はこれも王妃の指示でな」

「えっ? 王妃様の? でもさっき逃げてきたって……」

「それは冗談と言っただろ。まぁ今回ばかりは言うことを聞いてやろうと思ってな。ヒメジ君の面目もあるからな」

「そうなんですね……すみません。ありがとうございます」

「まぁいいってことよ! ガッハッハッ!」

 

 ふ~ん……姫路さんとレスターさんって仲が良いんだな。こんなに歳が離れているのに。そういえば秀吉もマッコイさんと仲が良かったっけ。皆年上と上手くやれてるんだな。

 

 学園長は大人との接し方を学ばせると言っていた。こうして見ると皆は学園長の思惑どおり成長しているように思う。僕は……どうなんだろう。自信は無いな……。

 

「皆、チェックインしたわよ」

 

 そこへ美波が2つの鍵を手に戻ってきた。どうやら部屋と取ってくれていたようだ。そうか、レスターさんが来て皆が話し込んでしまったから気を利かせてくれたのか。

 

「ん? 君たちもこれからチェックインか。では俺も一旦部屋に戻るとしよう」

「はいっ、ありがとうございました」

 

 こうして僕たちはレスターさんと別れ、借りた部屋に移動した。

 

 

 

 城内――もとい。宿町の中はとても賑やかだった。借りた部屋に向かう途中、絶えず人とすれ違う。しかも誰もが笑顔を弾ませ、楽しそうに話しながら歩いて行くのだ。

 

「なんだか楽しそうですね。明久君」

「ん? 僕? そう?」

「はい。とっても」

「へへっ、なんか皆楽しそうだなって思ってね」

「そうですね。きっとお花が皆さんを笑顔にしてくれるんだと思いますよ」

「なるほど。そうかもしれないね」

 

 こうして話している最中も何組もの家族連れとすれ違う。はしゃいで廊下を駆けていく子供たち。それを窘めながら歩いて行く夫婦。そんな人々の笑顔を見ていると、僕まで楽しくなってきてしまう。

 

 ……王妃様の()(まま)もたまには人の役に立つんだね。

 

 そんなことを考えながら、僕は笑みをこぼすのであった。

 

 

 

 ――――この後あんな事態に陥るなんて、夢にも思わずに。

 


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