バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第三十二話 思いがけない報酬?

「ね、ねぇアキ、どうなったの? あの気持ち悪いのはどこにいったの?」

「こんなに魔石が転がっているということは……倒したん……ですよね??」

 

 (すが)るような目で僕を見つめる美波と姫路さん。この怯えた様子。ああいった虫が心底苦手なのだろう。まぁどちらかというと僕だって好きでは無い。むしろ苦手な部類だ。

 

「大丈夫だよ。もう2匹とも倒しちゃったから」

「えぇっ!? あ、あんなのが2匹も居たの!? じょ、冗談じゃないわ……」

「ふぅ……」

 

 美波は自らの身体を抱くようにしてガタガタと震えだす。姫路さんは膝の力が抜けたようにヘナヘナと座り込んでしまった。おかしいな。もう安心だよって伝えたつもりなんだけど……。

 

「おい明久、遊んでないで手伝え」

「遊んでるわけじゃないよ。見てよ、美波と姫路さんがすっかり怯えちゃってさ」

「なんだよだらしねぇな。おい姫路に島田、心配するな。もう虫はいねぇよ」

「うぅ……ほ、本当に?」

「あぁ、嘘はつかねぇよ。それにもしまた出ても倒してやるよ。明久がな」

「なんで僕なのさ。雄二がやればいいだろ」

「嫌だね。あんなデカブツを相手にするなんざ金輪際お断りだ」

「嫌なものを人に押しつけるなよ! 僕だってお断りだよ!」

 

『おーいお主ら、遊んでないで船に運ぶのを手伝うのじゃ』

 

「「……」」

 

「ま、やるべきことをやるか」

「そうだね。美波と姫路さんも手伝ってくれる?」

「ウチらは何をすればいいの?」

「この散乱している物の中から壊れていないものを袋に詰めてほしいんだ」

「オッケー。役に立てなかった分、挽回しなくちゃ。ね、瑞希」

「はいっ、そうですね」

 

 どうやら美波と姫路さんもいつもの調子を取り戻したようだ。やれやれ。これで一件落着かな。しかし先代砂上船の破片が出てきたということは、以前マッコイさんを襲ったのはあのサンドワームだったのかな? だとしたら本当に仇を討てたことになる。マッコイさんにとっても良い一日になったに違いない。僕は最初の1個の魔石を割っただけで、結局ほとんど何もしてないけどね。

 

『…………?』

『どうしたのじゃ? ムッツリーニ』

『…………腕輪を発掘した』

『なんじゃと? どれ、ワシにも見せてくれぬか』

『…………これだ』

 

 ん? 秀吉とムッツリーニのやつ何をしてるんだ? 何か玩具(おもちゃ)でも見つけたのかな? 行ってみようっと。

 

「2人ともどうしたの? 何か面白いものでも見つけた?」

 

 早速彼らの元へ駆け寄ってみると、秀吉がリング状の物を手にしていた。

 

「おい秀吉、そいつは白金の腕輪じゃねぇのか?」

「んむ。ワシにもそう見える」

 

 もちろん僕にも白金の腕輪に見える。学園長に貰って何度も使っているから見間違えるはずがない。

 

「俺らの中でまだ腕輪が無いのは明久、お前だけだ」

「つまりこれは明久の腕輪ということかの?」

「ほぇ? そうなの?」

「それしか考えられねぇだろ」

「明久よ、持ってみるのじゃ。これがお主の腕輪ならば何かしらの反応を示すはずじゃ」

「うん」

 

 秀吉が腕輪を手渡してきたので、僕は言われるがままそれを受け取ってみた。ちょうど(てのひら)に収まるくらいのサイズ。それは僕の手に渡るとすぐに怪しげな光を放ち始めた。

 

「ふむ。光っておるな」

「間違いねぇな。明久、そいつはお前の腕輪だ」

「マジで!? いやったぁーーっ!」

 

 やっと僕にも腕輪が! と喜び飛び跳ねる僕。その腕輪には小さくDOUBLEという文字が刻まれている。もはや疑いようがない。これは僕の使っていた白金の腕輪だ。

 

「良かったわねアキ」

「うん! これでやっと底辺から脱却できるってもんさ!」

「バーカ。腕輪を手に入れたところでお前の底辺は揺るがねぇよ」

「なんだとバカ雄二! なら今ここで僕の力を見せてやろうか!」

「あァ? 俺とやろうってのか? いい度胸だ。返り討ちにしてやるぜ!」

「あとで吠え面をかくなよ!」

 

 僕は腕輪を握りしめ、砂地に足を踏ん張って身構える。雄二もグッと拳を握り、ボクシングスタイルのファイティングポーズをとった。

 

 僕の召喚獣の力は先程切れてしまった。今は装着も解かれているが、この腕輪の力があれば再び装着が可能なはずだ。なにしろ持続力が20倍にも跳ね上がるのだから。

 

「ちょっと! やめなさいよ2人とも! 今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!」

「うるせぇ! 男にはやんなきゃいけねぇ時ってモンがあンだよ!」

「そうだよ美波。こいつとはいつか決着をつけないといけないと思ってたんだ。今がその時なのさ!」

「もう……バカなんだから。男子ってどうしてこう好戦的なのかしら。ね、瑞希」

「あ、あはは……そ、そうですね……」

 

 さぁ、雄二はどう出てくる? 足下が砂で踏ん張りがきかないのはあいつも同じはず。いつもの軽いフットワークは使えないはずだ。そうなると恐らく知恵を使って意表を突いた攻撃をしてくるだろう。ならば小細工をされる前に装着して一気に勝負をつけてやる!

 

試獣(サモ)――」

「ちょっと待て明久。お前の腕輪って確か二重召喚だよな」

「なんだよ突然! 緊張感が削がれちゃったじゃないか! そうだよ二重召喚だよ!」

「ということはお前が2人になるのか?」

「へ? 2人? ん~~……どうなんだろう。やってみないと分かんないな」

 

 と雄二と話をしていると妙な視線を感じた。その視線は僕の後ろから注がれているようだ。気になって振り向くと、そこでは姫路さんと美波が祈るように手を合わせ、キラキラと目を輝かせていた。

 

「どうしたのさ2人とも。そんなに期待に満ちた目をしちゃって」

「えっ? そ、そんなことないですよ? ね! 美波ちゃんっ!」

「ふぇっ!? そそそそうよ! べ、別にアキが2人になったら色々と問題が解決するなんて思ってないんだからね!」

「は? 問題?」

「ななななんでもないっ! いいからアンタはさっさと腕輪を使いなさいっ!」

「んん? まぁ、いいけど……」

 

 なんなんだ……ま、いいか。それじゃ――

 

試獣装着(サモン)っ!」

 

 僕は召喚獣を喚び出し、装着。赤いインナーシャツに黒い学ラン姿に変身した。この姿になるのは何度目だろう。文月学園の制服も良いけど、このスタイルもわりと好きだ。

 

「よぉし!」

 

 気合いを入れて僕は白金の腕輪を右腕に通す。

 

「……えっと……」

 

 後ろからの視線が一層激しくなる。な、何だろう。この妙な緊張感……僕は何を期待されてるんだろうか。まぁ、とりあえず――――

 

「――だ、二重召喚(ダブル)!」

 

 僕の掛け声と共に、右腕の腕輪が激しく光りだした。ついに僕の腕輪の力が発動だ!

 

「あ、あれ?」

 

 と思ったら、シュンと腕輪の輝きがすぐに治まってしまった。

 

「おっかしいなぁ」

「なんだ? 何も変わってねぇじゃねぇか」

 

 辺りを見回しても分身の姿はどこにもない。それに二重召喚すれば2体分の感覚が頭に流れ込んでくるはず。けれど今はそんな感覚もない。

 

「う~ん……故障かなぁ」

 

 試しに腕を振り回したり、木刀でコンコンと腕輪を叩いてみても何の変化もない。見たところ先程見せた輝きも完全に失われているようだ。

 

「魔獣に食われて力を(うしの)うてしもうたのかのう」

「う~ん……そうなのかな」

「なんだよ。結局スカかよ。ガッカリさせやがるぜ」

「ちぇっ。もし2人になれれば片方で勉強して、もう片方で遊ぶとかできたのにな」

「バカ言え。お前の分身だぞ? 両方遊ぶに決まってんだろ」

「失礼な! 僕に限ってそんなことあるわけないだろ!」

「お前のその自信はどこから来るんだ……」

「違うわよ坂本。アキは2人になったら2人で勉強して2倍覚えるのよ」

「ゴメン美波。さすがにそれは勘弁してほしいな……」

 

 ただでさえ2体の召喚獣の操作は頭が混乱するのに、この状態で更に勉強なんて冗談じゃない。そんなことをしたら僕の頭が壊れてしまう。

 

 というか、なんかすっかり冷めちゃったな。さっきまでアツくなってた自分がバカみたいだ。今雄二と争ってもしょうが無いし、やめておくか。

 

「……二刀流」

 

 その時、霧島さんがポツリと呟いた。

 

「あ? 何がだ?」

「……吉井の武器。2つになってる」

「ほぇ? 僕の武器?」

 

 言われて改めて手元を見てみる僕。左手にはいつもの木刀。緩やかに湾曲した刀を模した焦げ茶色の木の棒。そして右手には……同じ形をした木の棒が一本?

 

「ほ、ホントだ! いつの間にか両手に木刀持ってる!?」

「…………なぜ気付かない」

「い、いやほら! てっきり分身が出てくると思ってたからさ! っていうか気付いてたんなら教えてよムッツリーニ!」

「…………気付いていないとは思わなかった」

「だってこんな能力だなんて夢にも思わなかったし……」

「なるほどのう。明久の腕輪は武器がダブルなのじゃな」

「うん。そういうことみたいだね。でもこれ全然重くないし、なんかかっこいいかも」

 

 僕は両手に持った木刀をそれぞれ振り回してみる。ビュンビュンと空気を裂くように振れる。まるでお祭りとかで売っている玩具の刀のように軽いのだ。へへっ、こいつはいいや。2本の武器で攻撃力もアップだ。魔獣との戦いも楽になるかな。もう戦いたくはないけどね……。

 

 なんてことを考えながら2本の木刀を振り回していたら、姫路さんを慰めている美波の姿が目に入った。

 

「ごめんね瑞希……」

「いえ、いいんです……明久君が期待の斜め上を行くのはいつものことですから……」

「こういうところは全然変わらないのよねぇ……」

「明久君ですからね……」

「「はぁ……」」

 

 なぜ僕を見て溜め息をついているんだろう。僕、何か期待外れなことでも言ったっけ? などと考えていると、

 

『野郎どもォーーッ! 出航すんぞーッ! 早くしねぇと置いてくぞォーーッッ!!』

 

 どこからかマッコイさんの声が聞こえてきた。というか、口調がまた変わってる。……ん? 置いてく?

 

 ハッと気付いて船の方を見ると、マッコイさんが船首から身を乗り出し、呼びかけていた。大変だ! こんなところに置いて行かれたら干からびてしまうぞ!?

 

「わーっ! 待って待って! 今行きまーす!」

「急ぐわよ瑞希!」

「はいっ!」

 

 こうして黄色い悪魔との戦いを終えた僕たちは砂上船での旅を再開した。マッコイさんが言うにはこのペースで行けばアルミッタまであと4時間ほどらしい。恐らく日が暮れる前に到着するだろう。東側に渡ればゴールは目前だ。

 

 それにしても意外な収穫があったものだ。まさかここで僕の腕輪が見つかるとはね。これで僕の装着時間も皆と同じくらいになる。効果は分身ではなかったけど、これはこれで悪くはないし、結果オーライだ。

 


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