バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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―― タイムリミットまであと5日 ――



第二十九話 いざ、大海原へ!

『『『………………』』』

 

 

 僕たちが言葉を失っているのには理由がある。

 

 今日は約束の日。砂上船に乗せてもらい、東の町アルミッタへと向かう日だ。

 

 期待に胸を膨らませ、僕たちは駆け足でマッコイさんの家に向かった。乾いた大地を蹴り、砂埃を巻き上げながら町中を疾走する。僕や雄二はもとより、姫路さんまでもが、それはもう競い合うように走った。そしてトップで到着した僕が扉を叩くと、家の中から出てきたのは見たこともない人物だった。

 

「えっと……誰??」

 

 映画などでよく見る、海賊の船長がかぶっているようなドクロが描かれた黒い三角帽子。羽織っているのはカカトまで届きそうなくらいに長い真っ黒なロングコート。足には膝丈のロングブーツを履き、そしてなぜか左目には黒い眼帯を巻いていた。

 

「マッコイじゃ!」

 

 なんだ、やっぱりマッコイさんなのか。変な格好をしてるから分からなかった。

 

「マッコイ殿。その格好は何なのじゃ?」

 

 ナイスな質問だ秀吉。たぶん僕だけじゃなくて全員が同じ疑問を持っていたと思うし。

 

「何を言うておる。ワシは船長なのだぞ? 船長と言えばこの格好に決まっておろう」

 

『『『………………』』』

 

 再び言葉を失う僕たち。なんかこのお爺さん、もの凄く偏見に満ちた思考回路を持ってるのかもしれない。

 

「ほれ、ボサっとしとらんで入るのじゃ。既に準備はできておる」

 

 そう言うとマッコイさんはくるりと身を返し、家の中へと戻っていく。

 

(ねぇちょっとアキ、あれどういうことなの? まるで海賊スタイルじゃない)

(なんかあれが船長スタイルだって思い込んでるみたいだね。凄く勘違いしてると思うけど……)

(あんな調子で大丈夫なのかしら)

(う~ん……どうなんだろう。でもマッコイさん以外に頼る人もいないし、信じるしかないんじゃないかな)

(それもそうね)

 

「明久、島田。さっさと来い」

「うん。今行くよ」

 

 僕たちは家に上がらせてもらい、昨日のように地下ドックへと向かった。暗くて狭い階段を慎重に下る僕たち。階段の幅は狭くて1人が通るのがやっとだ。しかも天井が低く、雄二だと頭を擦りそうなくらいだ。そんな細い道をしばらく下ると重そうな金属の扉が見えてくる。これが地下ドックへの入り口だ。

 

「さぁ見るが良い! これがワシの砂上船、”キングアルカディス号”じゃ!」

 

 マッコイさんは扉をゆっくりと開けていく。暗かった階段にパァッと光が溢れる。あまりの眩しさに目を開けていられないくらいだ。

 

「こ、こいつぁ凄ぇぜ……」

 

 すぐ隣で雄二の感嘆の声が聞こえる。雄二が驚くほど凄い物なのか? 僕は思い切って目を開けてみた。

 

 目の前にドンと聳える巨大な船体。奥行きは20メートルほどあるだろうか。木で作られた船体の上部には1本の(マスト)が突き立てられている。見た目は前回来た時とあまり……というか、ほとんど変わらないようだ。

 

「マッコイさん、これが砂上船なんですか……?」

 

 姫路さんが問いたくなる気持ちも分かる。それはこの船がどう見ても教科書に載っていた普通の帆船だったからだ。砂の上を走るのだからもっと特別な形をしていると思ったのだけど……。

 

「砂上船はもともと老朽化した帆船を改造したものなのじゃよ。故に見た目はさほど変わらん」

「そうだったんですか。それじゃこれで海も走れるんですか?」

「いンや。海用の装備はすべて外してしもうた。もうこいつは砂漠専用じゃよ」

 

 う~ん……見た感じ普通の船みたいだなぁ。なんかちょっと拍子抜けだ。これだと普通の船旅になっちゃいそうだ。

 

「ところでマッコイ殿。ひとつ聞いていいかの?」

「なんじゃ? キノシタ」

「ここは地下なのじゃろう? このように大きな船をどうやって地上に出すのじゃ?」

「……フ」

 

 にやりと片頬を吊り上げ、マッコイさんは不敵な笑みを浮かべる。よくぞ聞いてくれたとでも言いたいのだろうか。

 

「……」

 

 あ。また雄二がイラついてる。

 

「そう言うと思うとった。なぁにすぐに見せてやるわい。ふぉふぉふぉ」

 

 マッコイ爺さんは満足げに笑いながら歩いて行く。見たところ天井は塞がっているし、この巨大な部屋には窓もない。あるのは壁に空いた通気口と思しき数個の穴のみ。こんな密閉空間からどうやって出すつもりなんだろう?

 

「何をしておる。(はよ)う来い」

 

 皆は不思議そうに顔を見合わせ、歩き出した。

 

 乗船口は船の後ろ側らしい。僕たちは船体を見上げながら脇をゆっくりと歩いた。船体を構成しているのは張り合わされた木の板。高さは7、8メートルほどあるだろうか。それに何か特殊な加工がしてあるのか、船全体が魔石灯の光を反射している。まるで船そのものが輝いているかのようだ。

 

「なんだかキラキラしていてとっても綺麗ですね」

「そうね。普通の木で作られてるみたいだけど、金色に光ってるみたいね」

 

 姫路さんや美波が左の船体を見上げながら言う。確かに照明でキラキラしてるけど、僕にとってあんまり感動は無いな。

 

 ちょっぴり残念な気持ちで歩く僕。この時、朝の町を疾走していた頃の高揚感は既に失われていた。しかし船体の最後尾に到着した時、この気持ちは一変した。

 

「ほぇ……」

 

 乗船口から見上げた船の最後尾には、美波が持っていたドライヤーが2機取り付けられていたのだ。と言ってもサイズが根本的に違う。レナードさんが作った機械は直径10センチほどの円筒形。だがこの船に取り付けられているそれはどう見ても直径2メートルを超えていた。

 

「…………邪魔だ」

「ほぇ?」

「…………立ち止まるな。俺が入れない」

「あ。ごめん」

 

 ムッツリーニに声を掛けられて気付いた。どうやら僕はポカンと口を開けてこの船を見上げていたらしい。

 

「…………早く行け」

「わ、分かってるよ」

 

 船内に入ってみると、そこはとても綺麗な部屋だった。壁、椅子、テーブル。すべてが明るい木目調で統一された配色。壁や天井には魔石灯が輝き、橙色の炎が揺らめいている。

 

「わぁ……とっても素敵なお部屋ですね」

「ホント、すっごく綺麗ね」

「……今までの船旅の中で最高」

 

 女子3人の評価は上々のようだ。飾り気がないのが少々残念ではあるが、言われてみれば確かに綺麗な内装だ。なにより新品というのは気持ちが良いものだ。

 

「なぁ爺さん、甲板に出てみてもいいか?」

「…………俺も」

「ワシも見てみたいぞい」

 

 男子+秀吉の興味の対象は部屋より甲板のようだ。

 

「ふぉふぉふぉ、構わんぞい。むしろそこでこのキングアルカディス号の出航を刮目するがよい」

「サンキュー爺さん!」

 

 雄二たちは嬉々として部屋脇の階段を駆け上がって行った。

 

「あっ! ちょっとアンタたち! ちゃんと荷物をまとめてから行きなさいよ!」

 

 なんていう美波の言葉も聞かずに。

 

「まったくもう……だらしないんだから」

「いいじゃないですか美波ちゃん。きっと皆さん嬉しくて堪らないんですよ」

「それはそれ、これはこれよ。しょうがないわね……アキ、ちょっと手伝ってくれる?」

「えー。なんで僕が……」

「当然でしょ。これはアンタたち男子の荷物なんだから」

「そんなの雄二たちに言えばいいじゃないか」

「つべこべ言わない!」

「わ、分かったよ。もう……」

 

 とほほ……美波にはかなわないや。

 

 

 

      ☆

 

 

 

 荷物の片付けが終わった僕は美波たち女子と共に甲板に上がってみた。

 

「凄ぇな。まさにジェットエンジンだぜ」

「んむ。見事に巨大化しておるな」

 

 甲板の後方では雄二たちが備え付けられた春風機(しゅんぷうき)を見上げ、感嘆の声を漏らしていた。なるほど、近くで見ると凄い迫力だ。しかし本当に巨大なドライヤーを2つ付けたような感じだな。

 

(……計器異常なし……魔石エネルギー伝送開始……魔導エンジン出力上昇……)

 

 雄二のすぐ横の舵が付いた台座ではマッコイさんがなにやら呟いている。これはもしかして……既に出航準備を進めている?

 

「お主ら! そろそろ離れるのじゃ! まもなくエンジン始動じゃ!」

 

 マッコイさんの指示に従い、雄二たちは甲板の前方に移動した。もちろん僕や女子3人も一緒に。

 

 ――キュィィィン……ィィン……ィィン……

 

 すぐに2機のジェットエンジンから唸るような金属音が聞こえはじめる。この感じ、春風機(しゅんぷうき)とまったく同じだ。

 

「魔導エンジン出力80%……90%……よぉし! そろそろ出航じゃ! 危ないから何かに掴まっておれ!」

 

 皆は言われるがまま柱や手摺りに掴まる。それを見届けると、マッコイさんは巨大なハンドルのような形をした舵をぐっと握った。すると急にマッコイさんの目付きがギラリと鋭くなり――?

 

「うぉっしゃぁぁぁ! 行っくぜぇぇぇ!! 上部ハッチ! オーープゥゥンンン!!」

 

 !?

 

「な、何? ど、どどどういうこと!?」

 

 マッコイ爺さんの豹変っぷりに驚く僕。いや、驚いていたのは僕だけじゃないようだ。見れば雄二や秀吉、それに女子3人も全員が唖然とした様子で舵輪台を見つめているようだった。

 

 

 ――ガコン ギ、ギギギギ、ギ、ギ、ギ……

 

 

 頭上からそんな音が聞こえ、パァッと光が差し込んできた。それは太陽の輝きだった。

 

「て、天井が……開いてく……」

 

 きしむ音を立てながら天井が左右に割れていき、開いた天井の両側からはザザァッと大量の砂が落ち始める。そ、そうか! ここって町からはみ出して砂漠の地下だったんだ!

 

「しっかり掴まってな! 傾くぜェェーーッ!!」

 

「あ? 傾くって――――おわっ!?」

 

 雄二が尋ねるのが早いか、船体が大きく傾いた。

 

「う、うぉぉっ!? な、なんだこりゃぁ!?」

 

 甲板を滑り落ちていく雄二。船はドッドッドッという音を立てながら次第に傾きを増していく。まるで車の先頭がジャッキで持ち上げられるかの如く。

 

 そして40度くらい傾いただろうか。船首が大きく持ち上がり、天を仰ぐ形になったところで動きは止まった。

 

「きゃーっ! きゃーっ! きゃーっ!? な、なんなんですかこれーーっ!?」

「瑞希! しっかり掴まりなさいよ!」

「そ、そんなこと言ってもこんなに傾いたら落ちちゃいますっ!」

「アンタがそんなに重い物を胸にぶら下げてるからよ! 少しウチによこしなさい!」

「そんな! 重いだなんて美波ちゃん酷いですっ!」

 

 姫路さんは美波がサポートしてくれている。さすが美波。こんな時でも冷静だ。交わされている言葉については触れないでおこう。

 

「…………見え……見え……!」

「や、やめんかムッツリーニ! こんな状況では手当てもできぬぞ!?」

 

 甲板の後方では姫路さんのスカートの中が見えているのか、ムッツリーニが真っ赤な顔をしていて、秀吉が必死にそれを押さえようとしている。

 

 一方、雄二は、

 

「こ、こら翔子! ズボンを引っ張るんじゃねぇ!」

「……夫の脱ぎ捨てた服を片付けるのは妻の役目」

「脱ぎ捨ててねぇよ! 脱がそうとしてんのはお前だろうが!」

「……雄二は恥ずかしがり屋」

「恥ずかしいに決まってンだろ!! あっ、こら! ベルトを外すなって!」

「……不慮の事故」

「事故を装うなぁぁーーっ!」

 

 ズボンを半脱ぎ状態で手摺りにしがみついていた。僕はこの時、この恥ずかしい絵を写真に収めておきたいと心底思った。もちろん後日脅迫に使えそうだから。

 

「あまり喋らん方がいいぜェ! 舌噛むからよ! 魔導エネルギー充填120%! 滑走路展開! 魔導エンジン始動!!」

 

 ――キィィィィイイン……!!

 

 後方のエンジンの音が更に大きなうねりをあげる。それと共に船体がガタガタと激しく震えだした。――って! ちょっと待て! この船、あの春風機(しゅんぷうき)と同じ勢いで飛び出すのか!?

 

「み、皆! 強く掴まるんだ! この船飛ぶぞ!!」

「何ぃ!? と、飛ぶだとォ!?」

 

 僕は目を強く瞑り、手摺りを握る手に力を込める。

 

「キングアルカディス号! ()ッッ(シン)ッッ!」

 

  ドンッ!!

 

 マッコイさんの掛け声と共に、ものすごい衝撃が僕たちの身体を襲う。軽く脳震盪を起こしそうだった。ふわふわと身体が浮くような感覚は天国への旅立ちか。目を開けると視界は青かった。

 

 

 ……

 

 

 あぁ……。

 

 

 世界って、こんなにも青かったんだ……。

 

 

 そんな感情が芽生えたと思ったら、今度はジェットコースターの下りにも似た嫌な感覚が襲ってきた。

 

「○▼☆♪δ◆√Σ!? い゛ゃぁぁーーっ! 落ちるぅーっ!? 落ちる落ちる落ちるうぅーーっっ!!」

 

 思わず叫び声を上げてしまう僕。後で思い返しても最悪にかっこ悪い醜態を晒したと思う。そして叫んでいるうちに、

 

  ドォン!!

 

 と再び衝撃が襲ってきて、掴まっていた手を放してしまった。そのせいで僕は甲板に放り出され、尻をしたたかに打ち付けてしまった。

 

「いっ……て、て、てぇ……」

 

 今の衝撃は……そうか、船体が着水したのか。いや、この場合は”着砂(ちゃくすな)”と言うべきなんだろうか。そんなことはどうでもいい、とにかく僕は生きているようだ。

 

「な、なんという乱暴な船出じゃ。寿命が縮まったぞい……」

「いってて……こら翔子! ズボンを返しやがれ!」

「……夫の服は妻のもの」

「わけ分からんこと言ってんじゃねぇっ!」

「いったたぁ……瑞希、大丈夫?」

「は、はい、なんとか……」

 

 どうやら皆無事のようだ。やれやれ……それにしても酷い船出だった。

 

「ハッハッハァーッ!! 見たかおめぇらァ! キングアルカディス号の勇姿をよォ!!」

 

 マッコイさんのバカでかい声が耳にガンガンと響く。ホントにどうなってるんだこの人……と思いながら、僕は改めて周囲の様子に目を配ってみた。

 

 青い空。

 黄色い大地。

 その間にある地平線。

 

 それしかなかった。右を見ても左を見ても砂漠、砂漠、砂漠。そこには砂と空以外、何も存在していなかった。

 

 船はそんな砂漠のド真ん中をもの凄い勢いで突き進んでいる。正面からはビュウビュウと風が吹き込み、圧迫感を感じるほどだった。

 

「こ、これが……砂上船……」

 

 あまりに壮大な光景に僕は呆気にとられてしまった。ここまで何度か海を渡るのに船は使ってきたが、その時には特に何も感じるものはなかった。それは恐らく僕らの現実世界でも経験があるからだろう。

 

 けれども、この砂漠の上で風を切って走る感覚は経験が無い。この未知の体験が僕の心に感動を呼び起こしているのかもしれない。

 

「なぁ明久」

「ん? あ、雄二。何?」

「俺、こんな経験初めてだぜ」

「僕だってそうさ。そもそも砂漠なんて所に入ったのも初めてなんだから」

「あぁ。俺もだ。けどなんか……凄ぇって、思うよな!」

 

 キラキラと目を輝かせ、正面を見据える雄二。あいつはまるで童心に返ったかのような綺麗な目をしていた。こんなに嬉しそうな顔を見せる雄二も珍しい。

 

 ただし、その下半身はパンツ一丁だ。

 

「ちょ、ちょっと坂本! アンタそれ隠しなさいよ!」

「おわっ!? そ、そうだった!」

「翔子ちゃんっ! 坂本君にズボンを返してあげてくださいっ!」

「……瑞希がそう言うのなら」

 

 姫路さんに言われ、渋々とズボンを差し出す霧島さん。

 

「くそっ! 早くよこせっ!」

 

 雄二はズボンをひったくると、慌てて履き始めた。でも慌てているせいか、なかなか上手く履けないようだ。か……かっこ悪いぞ。雄二……。

 

「ぃよっしゃァーーッ! そんじゃぁ行こうぜェ! 俺たちの大海原によォ!!」

 

 再びドでかい声で言い放つマッコイ爺さん。それにしてもマッコイさんってこんなに荒っぽい性格だっけ? なんか性格ずいぶん変わってない?

 

「マッコイ殿、楽しそうじゃな」

「最初に会った時はただの白髪のお爺さんだったわよね」

「でもマッコイさんのお気持ち分かります。だって一度なくした夢を取り戻したんですから。嬉しいに決まってます」

 

 なるほど。夢を取り戻した、か。そりゃ嬉しいに決まってるよね。まぁ喜び方は人それぞれだけど。

 

 夢か……僕の夢ってなんだろうな。今までただ毎日をなんとなく過ごして来たから、特に夢って無いんだよな。

 

「…………ひ」

 

 唐突にムッツリーニが1文字を呟き、ペタリと座り込んだ。

 

「土屋君!? どうしたんですか!?」

 

 姫路さんをそれを見て慌てて駆け寄った。

 

「土屋君!? しっかりしてください! どうしたんですか!? 気分が悪いんですか!?」

「…………ひ」

「ひ? ひってなんですか!? 土屋君っ!」

「…………ひ……ひ」

「ヒヒ? オナガザル科のヒヒがどうかしましたか!?」

「…………ち、違う……」

「違うんですか?? じゃあヒヒって何のことですか?」

「…………ひ、日差し……が……痛い……」

「えっ? 日差し? あ……そ、そう……ですか……」

 

 どうやらムッツリーニにはこの照りつける太陽が痛いらしい。いつも日の当たる所には出ないあいつには堪えるのだろう。人騒がせな……。

 

「こいつぁいけねぇ。おぅおめぇら、そのボウズを連れて船室に戻んな。そんな格好で甲板にいたら熱でくたばっちまうぜ」

「んむ。そうさせてもらうぞい」

「おうよ、さっき案内してやった部屋で待ってな。アルミッタの町までカッ飛ばしてやっからよ!」

「あ、あの、ひとつ聞いていいですか?」

 

 そう言って手を上げたのは姫路さんだ。

 

「うん? なんだ? 嬢ちゃん」

「最初から中に入っていれば振り落とされそうになることも、熱にやられることもなかったと思うんですけど……」

 

 うん。尤もな意見だと思う。

 

「ん? おぉ、そいつぁ気付かなかったな。嬢ちゃん頭がいいな! ハッハッハッ!」

「笑い事じゃないんですけど……」

「まぁ男なら細けぇこと気にすンな!」

「女ですっ!」

「カッカッカッ! まぁいいじゃねぇか! ほれ! その垂れ目のボウズを中に連れてってやんな!」

 

 ホント何なんだろうこの人……車でハンドルを握ると性格が変わるとか、そういう類いの人なのか? まぁいいや。深く考えるのはやめよう。考えているとこっちが疲れそうだ……。

 

 そんなこんなで僕たちの船旅は始まった。無茶苦茶な出発だったけど、全員で砂漠越えができるのだから贅沢は言えない。目指すは東の町、アルミッタ。そこまで行けばゴールは目前だ!

 


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