バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第十九話 女たちの機転

 翌朝。僕たちはすぐに行動を開始した。

 

 今回は少し変則の3チーム構成。ひとつは美波と姫路さん、それに霧島さんの女子チーム。もうひとつは僕と雄二、秀吉のトリオという男女に分かれた構成だ。今回もムッツリーニは自ら単独行動を望んだ。なお、僕たちの組には秀吉が入っているので男子チームとは呼べない。

 

 この構成を決めた後、僕たちは2時間後にこのホテル前に集合することを約束して散開した。

 

 

 ――そして1時間後

 

 

「なぁ……雄二」

「あー?」

「これからどうする?」

「……それを今考えてんだよ」

「サンジェスタで休憩しておらんで、すぐに出れば間に合ったのかのう」

「今さらそれを言っても仕方ねぇだろ。とにかく今は別の手を考えるしかねぇよ」

「そうじゃな。しかし困ったのう……」

 

 僕たち3人はホテル前の道に座り込み、揃って溜め息をついていた。

 

 女子チームと別れた後、真っ先に確認したのは北の経路に関する情報だ。その情報はすぐに手に入った。しかしそれは僕たちの期待する内容ではなかった。

 

 リットンからマリナポートまでの日数。いくつかの断片的な情報から雄二が算出した所要日数は10日間だった。結局、懸念していた通りの結果だったのだ。他にもバダンからアルミッタ、アルミッタからマリナポートの間に1つずつ小さな宿町があることが分かったが、既にどうでもいいことだった。

 

 次に確認したのは南の海路について。しかしこれについて町の人に聞いたところ「あんな断崖絶壁から船を出すなんて無理無理」と笑われてしまった。更にここリットンから船で行く手段を尋ねると、「そんな危険を冒す物好きはいない」と、これも笑われてしまった。どうやらこの国の海は全体的に人の進入を拒むかのような過酷な環境のようだ。

 

 それならばと一縷(いちる)の望みを掛けて砂漠横断の手段を聞いてみるも、やはり砂上船が運行していない今、手段は無いに等しいという。一応ラクダを使った横断という手がないこともないが、魔獣が出るので非常に危険だという。そもそも時間が掛かりすぎて論外だったのだが。

 

 こうなってしまうと、もはや八方塞がりだ。でもだからといって諦めるわけにはいかない。元の世界に帰るためには、なんとしても東側に渡る必要があるのだ。そこで僕たちは何か別の方法が無いかと知恵を寄せ合った。

 

 現状、陸海がダメ。ならば空から行くしかない。だがこの世界には飛行機や気球なんて技術は無い。アニメや漫画のように自ら空を飛ぶなんてことも当然できない。空を飛ぶと言えば美波の腕輪の力だが、仮に彼女の腕輪の力を使って全員を飛ばしたとしても数分しかもたない。砂漠を飛び越えるなど不可能なのだ。何度も繰り返し力を使って移動する方法も考えたが、腕輪は力を使うと大きく体力を消耗する。美波にそんな無茶をさせるわけにはいかない。

 

 ダメだ……一体どうしたらいいんだ……。

 

「「「ハァ……」」」

 

 もうこの世界で暮らしていくしかないんだろうか。姉さん心配してるかな……葉月ちゃんや美波のご両親も心配してるだろうな……でもどうにもなんないよな……これ……。

 

「ねぇ秀吉。何かいい案ない?」

「すまぬがワシも打つ手なしじゃ……」

「雄二は?」

「手があればとっくに行動している」

「だよねぇ……」

 

「「「ハァ……」」」

 

 座り込んで何度も溜め息を吐く僕たち3人。

 

『アキ~~っ!』

 

 するとその時、道の向こうから聞き慣れた声が聞こえてきた。あの弾むような声は美波だ。彼女はマントから片腕を出し、元気に手を振りながら走ってくる。

 

「美波~ おかえり~」

 

 僕は手を振り返し、彼女を迎える。後ろから姫路さんと霧島さんも走ってくるようだ。3人とも表情が明るい。何か見つけたんだろうか?

 

「ねぇねぇ聞いてアキ! ウチら間に合うかもしれないのよ!」

 

 戻ってきた美波が息を切らせながら、嬉々とした表情で言う。

 

「へ? 間に合う? どういうこと?」

「北の経路を使わなくても東に行く方法があるのよ!」

「えぇっ!? ま、マジで!?」

「本当か島田! どういうことか説明しろ!」

「もしや砂漠を抜ける他の方法が見つかったのか!?」

 

 思わぬ吉報に飛び上がってしまう僕たち。そこへ姫路さんと霧島さんが到着した。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……み、美波ちゃん、早すぎですよぉ~……」

「……瑞希。ゆっくり深呼吸して」

「は、はい……すぅ~……はぁ~……すぅ~……はぁ~……」

「……そう。その調子」

「瑞希、アンタ運動不足よ? ちょっと走っただけでそんなに息が上がっちゃうなんて」

「ちょっとじゃないですよ美波ちゃん……」

 

 うん。それはきっと抱えているものの質量が違うせいもあるんじゃないかな。

 

 ……主に胸に。

 

「島田よ、早く話すのじゃ。どういうことなのじゃ?」

「あっ、そうね。えっと、まず北の経路なんだけどね、やっぱり10日かかるって話みたい。だからこの経路は使えないわ」

「うん。それは僕たちも聞いたよ。それと南側から船を出すのも無理だってさ。だから何か他に手が無いかって探したんだけど……」

「それでウチ思ったの。だったらもうここから行くしかないんじゃないかって」

「ここ? ここって?」

「ここよここ。この町の港」

「つまりこの町の港から船で行くってこと?」

「そう! だってこの町から5日で行った実績はあるんでしょ?」

 

 5日で行った実績とはハリーさんの話のことだろう。つまりハリーさんの取った海路を使おうということか。

 

「確かに5日だって話は聞いたけどさ、でもハリーさんあんなに嫌がってたじゃん。あんな状態じゃ頼んでも聞いてくれないと思うよ?」

「分かってるわよ。ハリーさんには頼まないわ」

「へ? どういうこと?」

「ハリーさんが行くのが嫌だったら、船だけ借りればいいのよ」

「船だけ? それじゃ操舵士なしで僕らだけで行けってこと?」

「そう。ウチらだけで行けばいいのよ。そしたら誰にも迷惑かけないでしょ?」

 

 なるほど……その発想はなかった。でもそれって無理があるような気がする。

 

「待つのじゃ島田よ。ワシらは船など操れんぞい?」

「そうだよ美波。船舶って免許がいるはずだよ? そんなもの誰も持ってないと思うんだけど」

「いや待て明久。それは俺たちの世界での常識であって、この世界では通用しない可能性が高い」

「それはそうかもしれないけど……じゃあ雄二は操縦できるの?」

「できるわけねぇだろ」

「だよねぇ」

「だが船のみの調達というのはいい案だぞ島田。操舵士は手当たり次第に探す。最悪は俺たちが運転方法を学べばいい」

 

 う~ん……そんなに上手く行くだろうか。

 

「さすが坂本ね。話が早いわ。それでね、ウチら3人で聞きに行ったの。空いてる船が無いかって」

「聞きに行った? 誰にさ」

「もちろんハリーさんよ」

「え……そうなの? ちゃんと答えてもらえた?」

「えぇ。もちろんよ」

 

 へぇ。昨日の様子からして口も聞いてくれないかと思った。もしかしたら相手が女の子だと話を聞いてくれるのかな?

 

「でもね、やっぱり空いてる船は無いんだって言うの」

「そりゃそうだ。船ってのは維持費がかかるんだ。無駄に遊ばせておくほどの余裕はねぇだろ」

「坂本君、それがですね、ひとつだけ可能性があるんです」

 

 ここで姫路さんが話に加わってきた。乱れていた息も整い、いつもの喋り方に戻っている。

 

「どういうことだ? 姫路」

「美波ちゃん、ここからは私が話しますね」

「うん。いいわよ」

「私たち、ハリーさんに船を貸してくださいってお願いしたんです。最初はそんな船は無いって断られました。でも一生懸命お願いしたら、船は貸せないけど放置されているであろう船ならあるって教えてくださったんです」

 

「「「は??」」」

 

 僕ら男子3人は揃って頭にクエスチョンマークを浮かべた。姫路さんが何を言っているのか分からない……。

 

「なぁ姫路。その”放置されてるであろう”ってのはどういう意味だ?」

「実は以前、王妃様がこちらにいらして、漁船を1隻ご所望されたそうです。海釣りをしたいという理由だったそうです。それで漁師の方たちで小型船を1隻王家に納品されたらしいんですが……」

「なるほどな。読めたぞ姫路。その船が恐らく使われずに放置されてるってことだな?」

「はい、そうなんです」

「つまりその船を貰おうということじゃな」

「はいっ! そうなんです!」

「んー……でもさ、そんなに簡単に譲ってくれるのかな。この前も腕輪を譲ってもらうために姫路さんたち凄く苦労したんだよね?」

「確かにあれこれと注文を付けられはしたが、話が分からぬ御人ではないと思うぞい。最終的には腕輪も譲ってもらえたのじゃからな」

「そうですね。ちゃんと筋道を通して話せば分かっていただけると思います」

「……つまり対価の支払い」

「要するに金がいるってことか。相場が分からねぇな……」

「いえ。たぶんお金では解決できないと思います」

「なんだと? それじゃ何を対価にすりゃいいんだ?」

「私たちが腕輪の交渉をした時も物ではなく、行動を求められました。船についてお願いしたら同じように行動を求めるかもしれません。とにかくお願いしてみる価値はあると思うんです」

「そうか。分かった。でかしたぞお前ら。僅かだが光が見えてきやがったぜ」

 

 雄二の顔にはいつもの不敵な笑みが戻っていた。先程までのどんよりとした曇り顔とは雲泥の差だ。なんて思いながらも、僕の口元にも自然と笑みが浮かんでしまう。

 

「よし、ムッツリーニが戻り次第移動するぞ。姫路、王妃への取り次ぎはお前に任せる。いいな?」

「はいっ! もちろんです!」

 

 こうして僕らの方針は決まった。まだ王妃様から船を譲ってもらえると決まったわけではない。けれど今はこれに賭けるしかなさそうだ。

 

 それにしてもまさか美波たちがこんな機転を利かせてくるとは思わなかった。僕ら男子は雄二含めてノーアイデアだったというのに。今までは雄二ばかりに作戦立案を任せていたけど、昨夜にも言われた通りこれからは皆で考えた方がより良い案が出てくるかもしれないな。

 

 もちろん試召戦争の話だけど。

 

 

 

      ☆

 

 

 

 僕たちはムッツリーニの戻りを待ち、リットン港を出発した。行き先はこの国の王都”モンテマール”。もちろん王妃様から小型船舶を譲ってもらうためだ。モンテマールまでは馬車で3時間ほど。地図上では距離があるように見えるが、意外に早く着くようだ。

 

 しかし馬車乗り場は非常に混雑していて、到着してすぐの便には乗れなかった。定員があと2名だったからだ。そこで僕たちは次の便を待つことにした。

 

 そして次の便でモンテマールまで移動する僕たち。王都モンテマールも例に(たが)わず、上空から見ると真円を描く形をしていた。当然魔障壁も完備だ。

 

 馬車が到着したのは町の南側。姫路さんの話によると、王宮までは停車駅から徒歩で1時間ほどかかるらしい。時刻は昼過ぎ。そこで僕たちは町に入ってすぐのところの飲食店でまず腹ごしらえをすることにした。

 

「ねぇ姫路さん、もしかして王宮ってアレ?」

 

 飲食店の窓から見えた一際大きな建物を指差して僕は尋ねる。

 

「はい、そうですよ」

「結構近そうに見えるね」

「あれは大きいから近いように見えるんですよ。実際に歩いてみたら1時間かかりましたから」

「ふ~ん、そうなんだ」

 

 屋根が丸っこい感じでどことなくアラビア風な感じがする建物だ。やっぱり住んでる人たちもアラビア風なんだろうか。

 

「おい明久、さっさと食え。時間がなくなるだろうが」

「わ、分かってるよ」

 

 雄二にせかされ、急ぎのランチを終えた僕たちは王宮へと向かった。それにしてもなんだか埃っぽい町だ。道は舗装されておらず、土と砂で固められたもので、歩くと砂埃が舞い上がる。気温も高めで歩いていると汗が垂れてきてしまうくらいだ。これがサラス王国の気候か……ガルバランド王国と違って乾燥地域のような気候だな。

 

 そんな王都の町を歩くこと1時間。僕たちはようやく王宮前に到着した。

 

 目の前には巨大な建物が(そび)え立っている。飲食店の窓から見えた建物そのものだが、近くで見るとその大きさに改めて驚く。他の国の王宮が中世ヨーロッパを彷彿させる城の形をしているのに対し、この国の王宮は先程も感じたとおりアラビア風だ。

 

 それにしてもでかい……地上何階まであるんだろう。まるで巨人の城のようだ。

 

「じゃあ行ってきますね。明久君たちはここで待っていてください」

「以前のメンバーで行った方が良いじゃろう。ワシとムッツリーニも行こう」

「…………俺も行くのか」

「そうじゃ。面識のある3人で行った方が良いじゃろう?」

「…………分かった」

「それじゃ荷物はウチらが預かるわね」

「あ、そうですね。お願いします。美波ちゃん」

 

 鞄やリュックなど、姫路さんたちの荷物を預かる美波。

 

「はいアキ、そっちにまとめておいて」

「へいへいっと」

 

 そして僕はその荷物を受け取り、バケツリレーの要領で道の脇にまとめる。

 

「……瑞希、頑張って」

「はいっ! 任せてください! なんとしても交渉を成功させてみせます!」

 

 姫路さんは気合い十分。この様子なら期待できそうだ。

 

「では行ってくるぞい」

 

 姫路さんと秀吉、それにムッツリーニは並んで正門の方へと歩き出した。その姿を見て僕は思った。あの3人、堂々としていて格好良いな……と。勇ましい感じのBGMを流してやりたい気分だ。

 

 しかし僕らだけで船旅か。こんな経験初めてだ。本当に僕らだけで行けるんだろうか。まぁこの世界での経験なんて、すべてが初めてなんだけどね。


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