メランダから馬車に乗り、約2時間半。僕たちはついにラミール港に到着した。
「う~っ……! さ、寒う~っ……!」
馬車から降りた美波が風に煽られる髪を押さえ、身を縮込ませている。春のような陽気のハルニア王国に対し、ここガルバランド王国は真冬のような気候だ。防寒用のマントを羽織っていてもこの寒さは身にしみる。しかもここは港町。頬に張り付く潮風はまるで氷を当てられたかのように冷く、”凍てつく”という表現がもっとも適しているとさえ思える。
「ったく、なんで俺がこんな目に……」
僕に続いて降りてきた雄二がボヤく。
「な~に言ってんのよ坂本。そんなこと須川に言ってみなさい。アンタ校舎の屋上から吊されるわよ?」
「そうじゃねぇよ。俺が言ってるのは眠らされたことに関してだ」
雄二が言っているのはメランダの町で眠らされて馬車に連れ込まれたこと。対して美波が言っているのは、雄二が馬車の中で霧島さんの膝枕で寝ていたことのようだ。
メランダの町でムッツリーニに眠らされて以降、雄二はずっと眠り続けていた。それはもう泥のように。目を覚ましたのは馬車がラミールに到着する10分ほど前のことだった。
「それじゃ翔子ちゃんの膝枕は気持ち良かったんですね。良かったですね。翔子ちゃんっ」
「……とても嬉しい」
「これ、姫路に霧島よ。そこで立ち止まってはワシらが降りられぬではないか」
「あっ、すみません木下君」
更に姫路さんと霧島さん、それに秀吉とムッツリーニも馬車から降りてきた。これで全員だ。
それにしても治療帯の効果は改めて凄いと思う。あれほど傷だらけで憔悴しきっていた雄二が、今ではすっかり元通り元気な姿を見せているのだから。
「まぁいいじゃんか雄二。少し予定より遅れたけど、こうして全員無事にラミールに着いたんだからさ」
「チッ。人の気も知らねぇで……」
「そりゃ知らないさ。言ってくれなきゃ分かるわけないだろ? 言いたいことがあるならハッキリ言えよ」
「坂本君。過ぎたことをくどくど言うのは男らしくありませんよ?」
「なんだよ姫路まで……わーったよ。もう言わねぇよ!」
「はいっ。よくできました」
「くそっ……」
姫路さんも最近雄二の扱いに慣れてきたかな? 前は一方的に雄二の方が命令するだけって感じだったのにな。今回の旅で成長してるってことなんだろうか。僕も頑張らなくちゃいけないな。
「って、あれ? 美波は?」
気付いたら美波の姿がない。最初に降りたはずだから馬車に残っているはずは無い。どこに行ったんだ?
――トントン
美波の姿を探していると、肩をつつかれた。
「ん? 何? ムッツリーニ」
「…………あそこだ」
ムッツリーニが海の方角を指差して言う。そこには大きな帆船がドンと聳えていた。よく見てみると、その船の前でペコリと頭を下げる女の子の姿がある。あの赤みがかった髪は美波だ。その前には、船員風の帽子をかぶった男が立っているのが見えた。
美波は頭を上げると、ポニーテールをピコピコと揺らせながらこちらに走ってくる。どうやら船員の人に何かを聞いていたようだ。こんなに寒いのに元気だな美波は。
「ねぇ皆、サラス王国行きの船は出港まであと2時間くらいあるみたいよ」
彼女は白い息を吐きながら言う。なるほど。出港時間を聞いていたのか。
「そうか。だいぶ時間があるな」
「どうする? 雄二」
「そうだな……」
包帯の取れた顔で真剣な表情を見せる雄二。こういう表情を見ていると、いつもの雄二が戻ってきたようでちょっと安心する。
「よし、皆聞いてくれ。今から時間の許す限り情報収集に当たる」
「情報収集? 何の情報を集めるのさ」
「決まってんだろ。扉の島の位置だ」
「あぁ、なるほど」
扉の島。それは僕らが元の世界に帰るための扉が開く場所。学園長の話では、島はサラス王国の南東にあるという。しかしその具体的な位置については聞かされていない。
「えっと、島の位置を聞いてくればいいんですね?」
「そうだ。それとそこへ行く航路もだ」
「分かりました。じゃあ行ってきますね」
「あぁ待て姫路」
「はい? なんですか?」
「1人で行くな。2人以上で行け」
「2人以上……ですか?」
「そうだ。この港町は狭いと言ってもそれなりの広さがある。迷子になりかねんからな」
「雄二も心配性だなぁ。皆この世界でもう20日以上暮らしているんだから誰も迷子になったりしないよ」
「明久、お前が一番心配だ」
「やれやれ。僕には雄二が何を言っているのかさっぱり分からないよ。僕が迷子になる? そんなことあるわけないじゃんか」
「お前のその自信はどこから来るんだ……」
いつもながら失礼な奴だ。この歳で迷子になるわけがないだろ。
「大丈夫よ坂本。アキはウチがしっかり見張ってるから」
「おう。頼むぞ島田」
むう。今ひとつ釈然としないけど……まぁ美波が一緒に行くのならいいか。
「翔子ちゃんはどうしますか?」
「翔子、お前は姫路と一緒に行ってこい」
霧島さんは黙って首を横に振る。
「……私は雄二の傍にいる」
そう言いながら霧島さんは雄二に寄り添った。
「そうですね。翔子ちゃんは坂本君についていてあげてください。坂本君の傷も完全には癒えていませんからね」
「いや、俺も聞き込みに出る。お前らに任せっきりにはできねぇからな」
「いいえ。ダメですよ坂本君。今はしっかり休んで傷を癒してください」
「そうはいかねぇよ。人に指示しておいて自分だけ休んでるわけにいかねぇだろ」
「翔子ちゃん、しっかり見張っていてくださいね」
「……うん。頑張る」
「っておい! 聞けよ! っつーか何を頑張るんだ!」
翻弄される雄二が珍しい。っていうか、面白い。
「チッ……しゃーねぇ。そんじゃ俺はここで荷物番でもするか」
「では姫路にはワシがついて行こう。ムッツリーニよ、お主はどうする?」
「…………俺は1人でいい」
「じゃが雄二はペア以上と言うておるぞ?」
「あぁ、ムッツリーニは1人でもいいだろ。俺らの中じゃ一番土地勘があるしな」
雄二に褒められて無表情でブイサインをするムッツリーニが憎い。これじゃまるで僕が一番子供みたいじゃないか。
「ほらアキ、そんな顔してないで行くわよ」
「うわっ! ちょっ、美波!? マントの襟を引っ張ったら首がっ……!」
「何してんのよ。しっかり歩きなさいよ」
「後ろ向きに引っ張られたら歩けるわけないじゃんか!」
「後ろ向きでもなんでもいいからちゃんと歩きなさい」
「そんな無茶苦茶なぁ~っ!」
こうして僕は美波に引きずられるようにして賑やかな店の建ち並ぶ方面へと向かった。そう。ラミールの町は賑やかだった。老人ばかりのメランダの町とはまるで違う。小さな子供を連れた夫婦や、行商風のおじさん。それにハチマキを巻いた漁師のような人の姿が見える。ただ、僕らと同世代の者は1人も見かけなかった。やはり学園長の「年上ばかりにしておいた」という言葉は本当のようだ。それにしたってここまで徹底しなくたっていいのに。
そんなことを思いながら僕たちは島についての情報を求め、町の人たちに声を掛けまくった。だが町の人は誰もが首を横に振り、そんな島の話は聞いたことがないと言う。やはりサラス王国の島だからこの国の人には知られていないのだろうか。
そして聞き込みをするうちにあっという間に時は流れ、1時間が経過。
「ん~……ダメだね……」
「そうね。まったく手がかりなしだわ……」
「どうする? 一旦雄二の所に戻る?」
「そうしましょ。瑞希たちが何か見つけてるかもしれないし」
「よし、それじゃ戻ろうか」
僕たちは聞き込みを打ち切り、荷物番をしている雄二の元へと戻ることにした。
☆
「ただいま~」
「おう明久。どうだった」
「全然ダメだね。誰に聞いてもそんな島は聞いたことがないってさ」
「そうか……」
「姫路さんたちは?」
「まだ戻ってないぞ」
「そっか」
さて、どうするかな。姫路さんたちもまだ頑張ってるみたいだし、もう一度聞き込みに行った方がいいんだろうか。
「あっ、そうそう。ウチらサンドイッチ買ってきたのよ。食べるでしょ?」
そう言って美波が持っていた茶色い紙袋を差し出した。
「……ありがとう。美波は気が利く」
「ううん。これはウチじゃなくてアキが買おうって言い出したの」
「……そうなの? 吉井」
「ん。えっと、ま、まぁそうだね」
今日は朝からトラブル続きで、僕らはここまでろくに食事をしていない。
朝、ホテルを出た瞬間から泥棒扱いされ、そのまま逃走。町中を逃げ回っていたら町の人たちがどんどん出て行ってゴーストタウンになって。魔障壁が消えてからは町を守るために西門と東門で防衛線を張り、雄二が盗まれた魔石タンクは取り戻しはしたけど、結局メランダの町を逃げるように出てしまった。
僕と美波は西門を守っていた時におにぎりを貰ったから大丈夫。でも、他の皆は何も食べていない状態のはずだ。既にランチタイムは過ぎ、夕方に差し掛かろうとしている。きっと皆お腹を空かしてるに違いない。そう思って僕はサンドイッチを5人分買ったのだ。
「……吉井は優しい」
「そ、そうかな? あ、あははっ」
なんかちょっと恥ずかしいや……。
「助かったぜ明久。俺もハラペコだったんだ。ありがたく貰うぜ」
「うん。あ、でも皆の分残しておけよ? お前だけに買ってきたわけじゃないんだからな」
「わーかってるよ」
雄二は紙袋からサンドイッチを取り出すと、むさぼるように食べ始めた。大きめのサンドイッチだというのに、ほぼ2口で平らげてしまった。そういえば治療帯で傷が治った後ってお腹が空くんだっけ。きっと傷の治癒には栄養が要るんだろうな。
「翔子も食べて。お腹すいたでしょ?」
「……うん」
霧島さんもサンドイッチを取り出し、食べ始めた。雄二と違いゆっくりと。
『明久く~んっ! 美波ちゃ~ん!』
するとその時、遠くから僕たちを呼ぶ声が聞こえてきた。あの声は姫路さんだ。声のする方を見ると、駆け足でこちらに向かってくる姫路さんが見えた。後ろからは秀吉も来ている。どうしたんだろう。心なしか2人とも明るい表情をしている気がする。
「瑞希たちも戻ってきたみたいね」
「うん。なんか嬉しそうだね。もしかして何か手がかり見つけたのかな」
「えっ? ホントに!?」
「いや、そんな風に見えただけだから……聞いてみなきゃ分かんないよ」
「なぁんだ。がっかり。期待させないでよ」
「いやだからまだ分かんないってば……」
美波も早とちりだなぁ。
「ハァ、ハァ、ハァ……お、お二人とももう戻っていたんですね」
息を弾ませて姫路さんが言う。かなり息苦しそうだ。余程慌てて走ってきたのだろう。
「どうだった姫路さん? 何か良い情報聞けた?」
「直接の情報じゃないんですけど、知っているかもしれない人がいるんです!」
「マジで!? お手柄だよ姫路さん!」
「はいっ! 私もびっくりですっ!」
「それでどんな情報なの? 瑞希、早く教えてよ」
「その前にお水を一杯いただけますか? 喉がカラカラなんです……」
「わ、ワシにも一杯頼む。それと腹が減ってたまらぬ。誰か食べ物を持っておらぬか……?」
秀吉は上半身を支えるように両膝に手を置き、肩で息をしている。やっぱり何も食べてなかったんだね。サンドイッチを買ってきて良かったよ。
「秀吉、ちょうどサンドイッチがあるんだ。これ食べてよ」
「ほ、本当か!? 助かるぞい……」
息も絶え絶えに秀吉は頭を上げる。誰がどう見ても疲労困憊という表情をしている。でもひとつ疑問がある。
「ねぇ姫路さん」
「はい? なんでしょう?」
「姫路さんも朝から何も食べてないんだよね?」
「はい、そうですよ?」
「それにしては元気だよね。秀吉はこんなに腹ペコなのに」
「そうですね……私はダイエットで食事を減らしたり抜いたりしているので平気なのかもしれません」
なるほど。そういうことか。そういえば僕も以前は食費を切り詰めてだいぶ無茶な食生活をしたな。姉さんが帰ってきてからはちゃんと食べるようにしてるけどね。あと、美波にも「ちゃんと食事をしなさい」って叱られたし。
「な、なんですか美波ちゃん? そんなに見つめられると恥ずかしいです……」
気付くと隣で美波が目を細め、じっと姫路さんの方を見つめていた。姫路さんというか……〔姫路さんの胸部〕を。
「ふ~ん……」
「どうしてそんな目をするんですかっ!? 私、嘘なんかついてませんよっ!」
「アンタが平気なのはその胸に栄養を蓄えてるからなんじゃないの?」
「ふぇっ!? 何を言ってるんですか美波ちゃんっ!? そ、そんなわけないじゃないですか!」
「ふんっ。どーせウチには蓄えなんかありませんよーだっ」
顔を真っ赤にして胸を押さえる姫路さん。これに対して美波は頬をぷぅっと膨らませ、ツンとそっぽを向いて拗ねている。美波が拗ねている理由は分かる。でもこんな時ってどうフォローしたらいいんだろう……?
「あー。話し中悪いんだが、姫路の得た情報を教えてくれないだろうか」
そこへ雄二の一言。ナイスだ雄二!
「あ、そうですね。でも土屋君が戻ってませんけど……いいんですか?」
「構わん。ムッツリーニには戻ってきたら伝えればいい」
「分かりました。ではお話ししますね」
姫路さんは得た情報について話しはじめた。
情報を得たのは漁師の人だったという。その人はこの近海で魚を捕り、生計を立てている人だった。港で網の手入れをしていた所に姫路さんが声をかけたらしい。その人が言うには、サラス王国のリットン港に知り合いがいて、その人も漁師をしているという。そしてその知り合いの漁師は大きな漁船を所持していて、何度も遠洋に出ているそうだ。だからその人なら何か有力な情報を持っているかもしれない。
姫路さんと秀吉の得た情報とは、そういうものだった。
「なぁんだ。結局先に進むしかないのね」
「ま、そういうことだな」
先に進めばいいのであれば好都合だ。もし”情報を持っている人がサンジェスタにいる”なんてことになったら、Uターンしなくちゃいけない。そんなのはまっぴらゴメンだ。
「それにしてもさ、こういう展開ってホントゲームみたいだよね」
「もともとこの世界は召喚システムとゲームプログラムが混じって出来たものだからな。当然とも言えるだろう」
「でもそうなるとさ、やっぱりゲームオーバーとかもあるのかな」
「そりゃ俺たちが時間までに目的地までに行けない、もしくは全滅する時だろうな」
全滅……つまり死ぬってことか。そういえばこの世界で死んだらどうなるんだろう? 学園長の話では、僕たちの身体は意識不明状態で元の世界にあるという。つまり意識だけがこの世界に来ているわけで……だからここで死ぬと……どうなるんだ?
「全滅なんて絶対にダメです! 私たちは全員一緒に帰るんです! 元の世界に!」
「瑞希の言う通りよ! やっと帰る方法が分かってここまで来たっていうのに全滅なんて冗談じゃないわ!」
赤いコート姿の姫路さん、それにベージュのマントを纏った美波が興奮気味に抗議する。
「待て待てお前ら。もしもゲームオーバーと言える時があるとしたらの話だ。たとえ話なんだよ」
「あっ、そうなんですね。すみません。早とちりしました……」
「なによ。それならそうと早く言いなさいよ」
「お前らが勝手に勘違いしただけだろうが……」
確かに雄二の言う通り、今の話はたとえ話だ。
でも……。
「美波、姫路さん」
”もしも”なんて状況はあってはいけないんだ。
「はい、なんですか明久君?」
「なぁにアキ?」
そうだ。僕らは絶対に……。
「大丈夫だよ。僕らは元の世界に帰るんだ。全員で。絶対にね」
僕は魔人に負け、一度大切な人を失いかけている。あの時の絶望感。もう二度とあんな気持ちを味わいたくない。誰にも味合わせたくない。
そうだ。誰が欠けてもダメなんだ。美波はもちろん、姫路さん、秀吉、ムッツリーニ、雄二と霧島さんだって欠けちゃダメなんだ。7人全員揃って元の世界に帰る。これが僕らの絶対達成しなければならない目標なんだ!
「なーに一人で盛り上がってんだよ。バーカ」
――コツン
「いてっ」
いきなり後ろから頭を小突かれた。それほど……というかほとんど痛くなかったが、なんだかバカにされたような叩かれ方だったので少しムッとしたのだ。
「痛いなぁ。何すんだよ雄二」
「そんなことお前に言われるまでもねぇんだよ。ったく、格好つけやがって」
「別に格好つけてるつもりなんてないよ。ただ、もし何かあったら僕も頑張らなくちゃって思っただけでさ」
「バーーーカ。俺らの中じゃお前が一番弱いんだ。お前に守られるようなことはねぇよ」
ムカッ
「そんなの分かんないだろ! この先何があるか分からないんだぞ!」
「この先何も起きないとは言ってねぇよ。ただな、何かあった時、一番危険なのはお前だ。腕輪が無いのはお前だけなんだからな」
「うっ……そ、そりゃそうかもしんないけどさ……」
ん? 腕輪が無いのは僕だけ?
「ちょっと待ってよ雄二。腕輪が無いのは霧島さんもだろ?」
「いや、翔子の腕輪は既にあるぞ」
「へっ? なんで?」
「なんでってお前、そりゃ手に入れたからに決まってんだろ」
「いや、そうじゃなくてさ、いつの間に手に入れたのさ」
「ん? 言ってなかったか? メランダ西の城でちょいとな」
「そんなの聞いてないよ!?」
だって話を聞こうとしたら雄二のやつ寝ちゃって全然目を覚まさなかったし。まぁ眠らせるようにムッツリーニに頼んだのは僕なんだけどね。
「そうか。言ってなかったか」
「翔子ちゃんの腕輪も見つかったんですね」
「……うん」
「ねぇねぇ翔子、その腕輪ってどんな力があるの? 教えてっ!」
「……よく分からない」
「あ、まだ使ってみてないんですね」
「……ううん。使ってみたけどよく分からない」
「ふ~ん……そうなの。それじゃここで使ってみない? ウチも見てみたいし」
「おいおい。こんなところで使うなよ翔子」
「……ダメ?」
「やめておけ。お前の腕輪はもしかしたら俺らの中でも最強かもしれん」
霧島さんの腕輪が最強……。確かに学年主席だし、総合得点は姫路さんより上だ。一体どんな力なんだろう。気になるけど、町を破壊するくらいの威力だったらマズいよな……。
「取り込み中すまぬ。ムッツリーニが戻ったのじゃが……」
気付いたら秀吉の隣にムッツリーニが立っていた。
「あ、おかえりムッツリーニ」
「お帰り土屋」
「おかえりなさい土屋君」
「…………手がかりなし」
「あぁそれなんだけどね、姫路さんがひとつ情報を持ち帰ったんだ」
「…………そうか」
「雄二、皆揃ったし、船に乗らない? 霧島さんの腕輪の話も聞きたいし」
「そうだな。そうすっか」
というわけで、僕たちはサラス王国行きの船に乗ることにした。早速乗船券を購入して船に乗り込む僕たち。もちろん部屋は一番安いやつにしておいた。
しばらくして船は出航。サラス王国リットン港に向けての航海がはじまった。そしてその船室で、僕らはメランダ西の森で何があったのかを聞かされた。
ネロスという魔人。魔獣は魔人が作っていたものであり、動物の死骸を元にしていたこと。人間の遺体を
雄二は静かに、とても静かに語った。だがその目の奥には怒りの炎が熱く燃え上がっているように見えた。こんなにも静かに怒る雄二を見たのは初めてだった。
霧島さんの腕輪については、魔人の城で監禁されていた赤毛の女性から貰ったらしい。魔人は赤髪の女リンナとその夫トーラスの失踪にも関わっていたそうだ。あの時の雄二の怪我は、魔人というより、ゾンビとの戦いによるもの。ゾンビ軍団については霧島さんが腕輪の力で一掃。そして魔人ネロスについては雄二が撃退したのだという。
この話を聞き終えた時、僕の中に新たな疑問が生まれた。
僕を襲ってきた魔人ギルベイトは
「なんて奴なの……」
「亡くなった方を無理矢理操るなんて……酷いです……」
最初はゾンビと聞いて青い顔をしていた姫路さんと美波。けれど聞き終わる頃には2人とも両手に拳を作り、唇をぎゅっと噛み締めていた。
「安心しろ。あの野郎は俺がブチのめしてやった。これに懲りて当面は大人しくしてるだろ」
雄二はそう締めくくり、報告会を終わりにした。
魔人……か。
ギルベイトは2度目の対峙において、僕と美波で撃退している。けれど去り際の奴の顔を見た限りでは、まだ諦めていないようにも思う。この先また僕の前に立ち塞がることがあるのだろうか。できるならもう二度と会いたくはないものだ。
「どうしたのアキ? 深刻な顔しちゃって」
「ん? そう?」
「あの魔人のことを考えていたの?」
美波にはお見通しってわけか。……そうだな。万が一もう一度出会ったら、今度はなんとしても逃げてやろう。もうこれ以上美波を危険な目に遭わせたくないし。
「ううん。なんでもないよ」
「ホントに?」
「うん。ホントさ。ところで皆、晩ご飯にしない?」
「そうですね。さすがに私もお腹が空いてきました」
「確かこの船には食堂があったと思ったのじゃが……」
「……中央ホールの隣」
「よし、そんじゃ皆で行くとすっか」
こうして僕たちは旅を再開した。
目指すはサラス王国リットン港。
気になるのは扉の島の場所だ。今はまだその場所の特定には至っていない。リットン港にいるという漁師は本当に島の場所を知っているのだろうか。多少の不安はあるが、今はその人を頼りにするしかない。まともに話ができる人だと良いのだけど……。