バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第十四話 傷だらけの英雄

「遅いわね。坂本と翔子。一体どこまで行ったのかしら」

 

 隣で体育座りをしている美波がハァと溜め息をついた。ひとしきり魔獣を追い払い、僕たちは休憩中だ。

 

「う~ん。道に迷ってんのかなぁ」

 

 行き先は僕も知らない。知っているのは西の方角に向かったということだけだ。この町から出ている道は西と東の1本ずつ。だからあいつが帰ってくるとしたらこの道のはずだ。けれどあいつは一向に姿を見せない。あれからもう3時間が経とうというのに。

 

「翔子がいるから道に迷うってことはないと思うけど……」

「そうだね。雄二1人だけだったらどうか分かんないけどね。……ん? あれは?」

「えっ? 何?」

「ほら、道の向こうから何か来るみたいなんだ」

 

 正面の道の先に、ゆらゆらと揺れながらこちらに向かってくる黒い物体が見える。馬車……じゃ、なさそうだ。何だろうアレ?

 

「……何かしら。あれ」

「さぁ?」

 

 真っ直ぐに伸びた西の道を僕はじっと見つめる。けれどその正体はまったく分からなかった。僕のすべての記憶を総動員しても類似する物が見つからないのだ。

 

「美波。用心して」

「そうね」

 

 僕たちは立ち上がり身構える。また魔獣が襲ってきたのかもしれない。でも今までの魔獣とは少し違うようだ。あんな黒くて四角い魔獣なんて見たことが――って。

 

「待ってアキ! あれって翔子たちじゃない!?」

「うん! そうみたいだ!」

 

 見えてきた黒い物体は箱のようなものであった。その物体の下には人影が2つ。町の外を歩いてくるなんて、あの2人以外に考えられない。そうだ! 間違いない! 雄二たちが帰ってきたんだ!

 

「おぉぉーーーーい! 雄じえぇぇぇぇぇぇえーーーー!?」

 

 彼らの元へと走り出してすぐに驚いた。黒い箱を抱え上げていたのは武者鎧姿の霧島さんだったのだ。しかもその箱の大きさは霧島さんの身長とほぼ同じ。あんな大きな物を霧島さんは片手で支えながら肩に乗せているのだ。

 

「翔子ぉ~~っ!!」

 

 驚く僕の横を美波が風のように駆け抜けていく。あの状況に驚かない美波も凄いな……まぁいいや。僕も行こうっと。

 

「お~~い! 霧島さ~~ん! 雄二ぃ~~っ!」

 

 駆け寄ってみて僕は再び驚いた。驚いたのは霧島さんに対してではない。その隣で腕をだらりと下げ、憔悴しきった顔をしている雄二に対してだ。

 

「な、なんだよ雄二! その姿は! 一体何があったんだよ!?」

 

 あいつはボロ雑巾のようにボロボロだった。黒かった制服はあちこちが赤く染まり、顔には酷い切り傷や打撲の跡が見える。いつもはツンと逆立った髪もぐしゃぐしゃで、(ひたい)からは血も流れていた。

 

「へ、へへ…………ちょいと大立ち回りを……な」

「大立ち回りって……酷い怪我じゃないか! 何をしたらそんな怪我になるんだよ!」

 

 いつもなら雄二の怪我など心配しないが、さすがにこの状況ではそうはいかない。僕も以前、同じようにボロボロになるまで叩きのめされたことがあるから、これがどれほど深刻な状況か分かるのだ。

 

「とにかく手当てしないと! 霧島さん! 美波! 雄二を早く医者に!」

「……うん。分かってる」

「翔子はここで待ってて。ウチが探してくる!」

「ま、待て……!」

 

 霧島さんの肩に掴まりながら雄二が呻くように言う。

 

「い、医者は……呼ぶな……っ!」

「はぁ!? こんな時に何意地張ってんだよ! とにかく町に入るぞ! 霧島さん、雄二をこっちに!」

「い……嫌だね……」

「バカ言ってんなよ! お前、自分の状態が分かってないのかよ!」

「誰がなんと言おうと……お、俺は……この町のモンの世話には……ならねぇ……っ!!」

 

 苦悶の表情を浮かべながらギリッと歯を食いしばる雄二。何がお前をそこまでさせるんだ。そう思ったが、こいつの顔を見ていたら、その意思が相当に硬いものだということが分かった。

 

「まったく……強情な奴だなぁ」

 

 雄二の気持ちも分からないではない。僕だってこの町の人たちを好きにはなれない。人の話を聞こうともせず、女の子に対して石を投げつけるような人たちなのだから。

 

「美波。治療帯ってまだあったよね?」

「えぇ、あるわよ」

「それじゃ雄二の手当てを頼める?」

「オッケー。任せて」

「……私も治療帯持ってる」

「霧島さんも? そりゃ丁度良いや。雄二をそれでぐるぐる巻きにしてやってよ」

「……分かった。――装着解除(アウト)

 

 霧島さんは黒い箱と雄二を下ろし、装着を解いた。

 

「坂本。上着、脱がすわよ」

「あ、あぁ……」

 

 雄二は地面に座らされ、上着とワイシャツを剥がれて上半身を裸にされた。するとあいつの怪我の状態が想像を遙かに超えるものであることが分かった。身体には無数の切り傷が刻まれ、赤く腫れ上がった打撲傷も多数ある。しかもそれら無数の傷からは今もジワジワと真っ赤な血が流れ出しているのだ。なんて酷い傷だ……これは治療のプロが必要だ。そう、秀吉の力が要る。

 

「美波、霧島さん、雄二を任せたよ。僕は秀吉を呼んでくる!」

 

 秀吉は姫路さんムッツリーニと共に東門を守っている。もし必要なら僕と秀吉がバトンタッチすればいい。そう思い、僕は町の中に向かって駆け出した。

 

「……吉井。待って」

「ん? 何?」

「……これ、返してきて」

 

 そう言って霧島さんは横に置いた大きな黒い箱を指差した。これって……そうか! これが盗まれた魔石タンクか! 雄二はやっぱりこれを取り返しに行ったんだ! さすが雄二。やるときはやるもんだ。

 

「分かった! 魔壁塔に返してくればいいんだね!」

「……うん」

「よし、任せてよ。これで誤解も解けるってもんだね!」

 

 これを返して町の人たちに説明すればきっと分かってくれる。石を投げたことも謝ってくれるさ!

 

「あ……甘いな……明久……」

 

 ところがこの考えを雄二は否定した。

 

「何でだよ。これを返せば町の皆だって納得してくれるだろ?」

「俺はそうは……思わん。犯行がバレて……こ、怖くなって返しに来たと……思われる……だけだ。いっつつ……」

「じっとしてなさい坂本。包帯が巻けないでしょ」

「……すまねぇ」

 

 苦しそうな雄二の表情。そこまで言うのなら、お前はなんでこの魔石タンクを取り返しに行ったのさ……。

 

「じゃあ、こっそり返してくるよ。それでいいだろ?」

「あぁ……それでいい」

 

 ちぇっ。誤解が解ければ皆が笑顔になれると思うんだけどな。まぁいいや。とにかくこれを返して秀吉を呼んでこなくちゃ。

 

「じゃあ行ってくる。……ふんぬっ……!!」

 

 黒い箱の(はじ)に指を差し込み、思いっきり力を込めてみる。けれど箱はピクリとも動かなかった。

 

「ぐぬぬぬ……!!」

 

 腰を落として更に力を込める僕。僅かに(はじ)が持ち上がったが、2、3センチ持ち上げるので精一杯だ。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァ……! ちょ、ちょっと待って! こんなのどうやって運べばいいのさ!」

「アンタバカね。装着すればいいじゃない。翔子だってそうしてたでしょ?」

「あ。そうか」

 

 我ながら愚かしい真似をした。こんなの召喚獣の力なしで運べるわけないね。

 

「それじゃ――試獣装着(サモン)!」

 

 僕は召喚獣を装着。これで力も数倍だ。木刀は……とりあえず腰のベルトに挿しておくか。

 

「美波、霧島さん、まだ魔獣が出るかもしれないから気をつけて」

「分かってるわ。アンタこそそれを落っことして壊すんじゃないわよ」

「あぁ分かってるさ! じゃあ行ってくる!」

 

 僕は黒い箱――魔石タンクを肩に抱え上げ、町の中へと駆け出した。さすが召喚獣の力。軽い軽い。

 

 

 

          ☆

 

 

 

「……人がいっぱい居るなぁ」

 

 僕は今物陰に隠れ、魔壁塔の様子を伺っている。誰もいないと思っていた魔壁塔の周辺は何人もの老人たちが剣や斧を手に警備をしていた。

 

 こっそり返すって言ったって、これじゃこっそりやりようがないじゃないか。う~ん……どうしたらいいんだろう……って、あんまりノンビリもしていられないな。すぐに秀吉を連れてこないと。

 

 えぇい、面倒だ。あの人たちの前に放り出して逃げるか。そうだ、それがいい。

 

「うんしょっ……と」

 

 僕は魔石タンクを抱え上げ、バランスを確認した。さすがにこのサイズの箱を抱えて走ると、落として壊してしまう可能性がある。放り出すにしても慎重にやらないと。

 

「……こんなもんかな。よぉし、行くぞっ!!」

 

 

 ――シュッ ←俊足を活かして道を駆ける僕

 

 

 ――ゴトン ←箱を道端に放り出す

 

 

 ――シュッ ←そのまま一瞬で駆け抜ける僕

 

 

 電光石火。自分で言うのもなんだけど、我ながら完璧な動きだったと思う。この早業を皆にも見てもらいたいくらいだ。

 

『? なんじゃこれは?』

『なぬ!? こ、こいつは盗まれた魔石タンクじゃなかんべか!?』

『ほ、本当じゃ! 間違いない! 一体どこから出てきたんじゃ!?』

『と、とにかく皆に報告すんべ!』

『そうじゃな! よし、ではワシがこいつを見守っておるからお主は皆を呼んできてくれ!』

『よっしゃ! すぐ呼んでくるだ!』

 

 お爺さんたちのやりとりを物陰からじっと見つめる僕。ふっふっふ。完璧だ。これで魔障壁も元通りになるだろう。

 

 あの人たちの驚く顔をもっと眺めていたかったが、ノンビリもしていられない。留まりたい気持ちをぐっと抑え、僕は走り出した。目指すは東門。装着した僕なら1分ほどで着くだろう。

 

 

 

          ☆

 

 

 

 ――シュッ

 

「姫路さん! 秀吉! ムッツリーニ!」

 

 東門に到着すると休憩中の3人の姿を発見。僕はすぐさま声をかけた。

 

「あ、明久君!? 西門はどうしたんですか!?」

「えっと……と、とりあえず後で説明する! 秀吉、雄二が酷い怪我をしたんだ! 見てくれないか!」

「ワシは医者ではないのじゃが……」

「とにかく見てほしいんだ! 今、西門で美波と霧島さんが手当てしてる!」

「その2人と聞くとツープラトンの構図しか思い浮かばぬな」

 

 それはちょっと酷いと思う。美波だってもう殴ったり蹴ったり関節()めたりはしない。……と、思う。

 

「ワシとて専門家ではない。対処できるか分からぬが……しかしその様子からするとただ事ではなさそうじゃな。急ぐとしよう」

「助かるよ秀吉!」

「…………なぜ怪我を負った」

「それも後で説明するよムッツリーニ。とにかく急ご――」

 

 ――ヴンッ

 

 秀吉たちと話していると後ろの方でそんな音がした。振り返ってみると、薄緑色の膜が上空から降り注ぎ、町全体を覆っていた。

 

「えっ? これって……魔障壁……ですか?」

 

 姫路さんの言う通り、これは魔障壁だ。きっと僕が置いていった魔石タンクを元の場所に戻したのだろう。これで町はもう大丈夫だ。

 

「どうやら戻ったようじゃな」

「じゃあ私たちの任務もおしまいですね」

「んむ。そういうことじゃな。明久よ、案内せい」

「うん!」

「私たちも行きましょう。土屋君」

「…………うむ」

 

「「「――試獣装着(サモン)!」」」

 

 3人は同時に召喚獣を装着。姫路さんは赤いドレス風のワンピースに銀の胸当て。秀吉は胴着に袴姿に薙刀。ムッツリーニは忍び装束姿に変身した。

 

「さっき雄二と霧島さんが帰ってきたんだけど、どうも何かと戦ったみたいでさ、雄二が全身傷だらけで帰ってきたんだ」

 

 僕は町中を疾走しながら3人に状況を説明した。

 

「坂本君がそんな酷い怪我をするなんて……私信じられないです……」

「僕だって信じられなかったさ。でも実際に血だらけで帰ってきたんだ」

「そうなんですね……ところで魔障壁がこんなに早く戻ったということは、もしかして盗まれた物が戻ったんですか?」

「うん。それは雄二たちが取り返したんだ。それでさっき僕が魔壁塔の所に返してきたのさ」

「そうだったんですか。翔子ちゃんは大丈夫なんですか?」

「霧島さんは無傷みたいだったよ」

「きっと坂本君が守ってくれたんですね」

「そうかもしれない。でもあんなボロボロの雄二なんて見たことがないんだ。だからちょっと……」

「心配なんですね」

「う……」

 

 ここで”心配だ”などと言うと負けた気がする。でも自分の気持ちに嘘はつけない。

 

「明久よ、雄二は何故そのような傷を負ったのじゃ?」

「それが僕にも分からないんだ。理由もまだ聞いてなくてさ」

「…………魔獣と戦った?」

「そうかもしれないけど……でもあの雄二が苦戦する魔獣ってどんなやつなんだろ?」

「事情は坂本君ご本人に聞くのが一番かもしれませんね」

「そうだね。急ごう!」

 

 昼下がりの町。まるでゴーストタウンの町を、僕たちは風の如く駆け抜けた。

 

 

 

          ☆

 

 

 

 西門に辿り着くと門は閉められ、雄二たちは町の中で座り込んでいた。

 

「いた! あれだよ!」

 

 超特急で駆けつけた僕たちは急停止。雄二の元へと駆け寄った。

 

「坂本君! 大丈夫ですか!?」

「秀吉、早速で悪いけど見てくれる?」

「承知した」

 

 既に雄二は全身を白い包帯でぐるぐる巻きにされていた。どこからどう見てもミイラ男だ。

 

「……島田に霧島よ」

「何?」

「……?」

「手厚い手当てに文句を付けるつもりはない。じゃがひとつだけ言わせてほしいのじゃ」

「えっ? 何? ウチ何か間違ってた?」

「……吉井に言われた通り巻いた」

「いや、それは構わぬのじゃが……」

「なによ。言いたいことがあるのならハッキリ言いなさいよ」

「んむ。せめて鼻と口は開けてやってくれぬかの」

 

「「……あ」」

 

 うん。雄二のやつ、顔まで包帯でぐるぐる巻きにされてる。どうりで大人しいと思ったら、失神してたのか。

 

「これで良いじゃろ」

「し、死ぬかと思ったぜ……」

 

 秀吉によって包帯が巻き直され、雄二は息を吹き返した。無事でなによりだよ雄二……。

 

「ご、ゴメンね坂本。夢中で巻いてて気付かなかったのよ」

「……ごめんなさい」

「ったく、勘弁してくれ……治療どころか殺されかけたぞ……」

 

 でもさっき見た時よりは元気になったような気がする。さっきは本当に苦しそうな顔をしていたけど、今は普通に話せるみたいだ。

 

「ふむ。どうやら諸々片付いたようじゃの」

「……あぁ。片付いたぜ。色々とな」

 

 雄二はそう言って顔に巻かれた包帯の隙間から笑みを溢す。朝に町を出て行った時の険しい表情とはまるで違う。この数時間で何があったんだろう?

 

「ねぇ雄二、教えてよ。一体何があったのさ」

「そうだな。一応話しておくか。けどその前にこの町を出るぞ」

「え……そんな状態で? それはちょっと無理しすぎだよ」

「俺なら大丈夫だ。いいから行くぞ。忘れ物すんなよ」

「ちょっと待ってよ雄二。少し傷を癒した方がいいって。何をそんなに慌ててるのさ」

「明久、お前忘れたのか? 俺たちに残された時間はあと12日なんだぞ?」

「それは知ってるけど……」

「俺たちには時間がねぇんだ。ここでゆっくり休んでる暇なんかねぇんだよ。……それにこの町は……嫌いだ」

 

 雄二はそう言うと立ち上がり、フラフラと歩きはじめた。”大丈夫”とは程遠い状態だ。無理をして怪我が悪化したらどうするんだ。

 

(ねぇアキ、坂本どうしたの?)

(それが僕にも分からないんだ。なんでこんなに意固地になってるんだろう)

(あんな状態で移動なんて無理よ。休ませなくちゃ)

(僕もそう思う。よぉし、僕に考えがある)

(どうするの?)

(へへっ、任せてよ)

 

 恐らく今の雄二には何を言っても無駄だろう。きっと馬車すら使わずラミール港へ向かうつもりだ。けど、そんな無茶ができるわけがない。ここはなんとしても馬車に乗ってもらうぞ。

 

「ムッツリーニ、ちょっと頼みがあるんだ」

「…………なんだ」

「ちょっと耳貸して」

 

(……ゴニョゴニョゴニョ……)

 

「…………任せろ」

「頼んだよムッツリーニ」

 

 ムッツリーニはコクリと頷き、後ろから雄二の元へと忍び寄る。

 

「明久君、土屋君に何をお願いしたんですか?」

「まぁ見ててよ。あいつならうまくやってくれるからさ」

「?」

 

 ムッツリーニは足音ひとつたてずに近付いていく。まるで忍者のようだ。そしてあいつは雄二の真後ろまで行くと、ツンツンと肩をつついた。

 

「あぁ? なん――」

 

 ――ポンッ

 

 雄二が振り向くのと同時に、ムッツリーニは何かの袋をあいつの鼻先で破裂させた。すると雄二はカクンと膝を折り、その場に崩れ落ちた。

 

「グッジョブ。ムッツリーニ」

「…………うむ」

 

 互いにグッと親指を立て、僕らは成功を祝う。

 

「……何をしたの」

「あ、霧島さん。安心して。ムッツリーニに頼んで眠らせてもらっただけだから」

「……そうなの」

「うん。こうでもしないと無茶苦茶しそうだったからね」

「……ありがとう吉井」

「へへっ、礼ならムッツリーニに言ってよ。止められたのはムッツリーニのおかげなんだからさ」

「……うん。ありがとう土屋」

「…………あいつがいないと俺も困る」

「そうね。坂本のおかげで帰る方法が分かったわけだし。きっとこれからも必要になるわよね」

「そうですね。ふふ……」

 

 結局みんな雄二のことを信頼してるんだな。まぁ僕もあいつの知恵に頼ってるってことは、必要としてるってことなのかもしれないな。

 

「それじゃ皆、雄二を運んでしまおうか」

「ではワシが連れて行こう」

「へ? 秀吉が? 大丈夫なの?」

「お主ではこやつの体重を持ち上げられまい。召喚獣も既に時間切れじゃろう?」

「あ……ホントだ」

 

 いつの間にか装着が解けている。雄二が帰ってくる直前まで魔獣と戦ってたからエネルギー残量がほとんど無かったのだろう。でもこうなると運ぶのは大変だ。雄二は体が大きいから。

 

「それじゃ秀吉、任せていい?」

「んむ。構わぬぞい。……どれ」

 

 秀吉はスヤスヤと眠る雄二の両腕を掴み、ぐいっと担ぎ上げる。そしてやや前傾姿勢になり、一歩ずつゆっくりと歩き始めた。しかし秀吉の身長は低い。その身長差のため、雄二の足はずるずると地面に引きずる形になってしまっている。なんだか泥酔した父を運ぶ子供の姿を見ている気分だ。

 

「ウチらも行きましょ瑞希、翔子」

「はいっ。これでやっとラミールに向かうことができますね」

「とんだ寄り道だったわね」

「……私はいい寄り道だったと思う」

「何か良いことでもあったんですか? 翔子ちゃん」

「……内緒」

「なによ。水くさいじゃない。教えなさいよ」

「そうですよ。私も何があったのか知りたいです」

「……じゃあ、後で」

「そうこなくっちゃ。ふふ……楽しみね」

「そうですね。それじゃ行きましょう」

 

 こうして僕らは雄二という荷物を抱え、東側の馬車乗り場に向かった。目指すはラミール港。そこから船でサラス王国に向かうのだ。

 


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