バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第八話 もう一人の坂本雄二

「ハァ~……ムッツリーニ遅いねぇ」

 

 明久が地面に座り込んで溜め息を吐く。明久はもともとせっかちな性格をしている。だから遅いと感じているのかもしれないが、この時はさすがに俺も遅いと思い始めていた。ムッツリーニが偵察に出てからもう1時間が経とうとしている。ムッツリーニがこれほど時間を掛けるのは珍しい。

 

()しものムッツリーニも今回ばかりは厳しいのやもしれぬな」

 

 俺の指示は「駅馬車の様子と、犯人についての情報を探れ」だ。このような情報収集はムッツリーニが適任だが、秀吉の言うように今回ばかりはあいつ1人では難しいかもしれない。

 

「あの……私も行って来ましょうか? いつも土屋君ばかりにお任せするのも心苦しいですし……」

「そうね。確かに頼り過ぎかもしれないわね」

「はい。それじゃ私、行ってきますね」

「待ちなさい瑞希」

「はい? 何ですか?」

「瑞希が行くのならウチも行くわ」

「えっ? でも美波ちゃんは怪我を……」

「こんなの怪我のうちに入らないわ。それにアンタ1人じゃ迷子になっちゃいそうだからね」

「ひ、ひどいです美波ちゃんっ! 私、そんなに簡単に迷子になったりしませんっ!」

「ふふ……冗談よ。でも1人で行くのは危険よ。だからウチも行くわ」

 

 まずいな。姫路と島田がその気になっている。もしノコノコ出て行って先程の老人どもに見つかったら、今度はタンコブどころじゃ済まないかもしれん。

 

「待てお前ら。今はムッツリーニに任せておけ」

「でも皆で探せばそれだけ見つかる可能性も高いはずです」

「そうよ坂本。ここは皆で手分けして探すべきよ」

「だから待てと言ってるだろ。お前らさっき石を投げつけられたのを忘れたのか?」

「それは……忘れてないけど……」

「もしお前が本当に怪我をしてみろ。このバカが何をするか分からんだろ」

「へ? 僕?」

 

 このバカが。何をすっとぼけてやがる。さっき老人をぶっ飛ばそうとしたのはどこのどいつだ。しかしムッツリーニだけに負担が掛かっているのも事実だな。仕方ない。

 

「とにかくお前らはここで大人しくしていろ。代わりに俺が行ってくる」

「坂本が? 1人で行くつもりなの?」

「あぁ。ぞろぞろと大人数で行くと目立つからな。ここは俺に任せろ」

「アンタがそう言うのなら反対はしないけど……」

「いいんですか坂本君? さっきの人たちに見つかったら坂本君だって危ないんじゃないですか?」

「俺1人ならどうとでもできる。翔子、お前もここで待機だ。理由は分かるな?」

「……うん」

「ま、ついでに何か食べるものを調達してくるぜ。朝食もまだだからな」

「分かりました。坂本君、すみませんがよろしくお願いします」

「あぁ。そんじゃ行ってくるぜ」

 

 と、そんなわけで隠れていた空き地を出て単身町の中へと繰り出したわけだが……さて、どうするか。行き先はラミール港になるわけだから、交通手段があるとすれば町の東側だろう。だが当然そこはムッツリーニが調べている。ならば俺は敢えて西側を当たってみるか。意外な所に手段が残されているかもしれないからな。

 

 早速俺は町の西側に向かって歩き始めた。この辺りは民家ばかりのようだ。だが町中が騒々しい。それはもちろん町から逃げ出そうとする者が慌てて駆けて行くからだ。

 

 荷台に家具や大量の生活品を積み込んだ馬車が何台も駆け抜けて行く。あれらは自前の馬車なのだろうか。彼らは皆西方向に向かって走り去って行く。ここから西にということは奥地のバルハトールに避難するつもりなのだろう。しかしあの様子からすると簡易魔障壁を備えているようには見えない。そもそも険しい山道をあんな軽装備で越えられるとは思えないのだが……いや、どうしようが彼らの勝手だ。俺が気にするようなことではない。それに西に行く者に用は無いからな。

 

 ……ん? どうやらこの道の先に商店があるようだな。ちょうどいい。朝食に何か食べるものを調達するとしよう。

 

「あのー、すんません。店やってないんスか?」

 

 扉の開いていたパン屋を覗き込んで尋ねてみると、「それどころではない!」と怒鳴られてしまった。なんでも逃げ出す準備をしていて開店どころの話ではないらしい。どうやら他の店もすべてが休業状態のようだ。まぁ魔障壁が無くなった今、商売などやっている場合ではないのだろう。

 

「チッ、しゃーねぇな……」

 

 食い物の調達を断念した俺は移動手段を探すことにした。現時点で移動手段として考えられるのは2つだ。

 

 1つは、町を脱出しようとする馬車に便乗することだ。今もこうして何台もの馬車が目の前を通り過ぎていく。彼らの目的は別の町への避難だ。ここからの避難先として考えられる町は、東のラミールと西のバルハトール。つまり東に向かう馬車に便乗すれば良いわけだ。

 

 だがこの方法には無理があるようだ。なぜなら俺たちの人数は7人。見た感じでは7人を追加で乗せられるような馬車は1台も見かけない。やはり個人所有の馬車にこの人数で乗るのは無理だ。

 

 となれば考えられるのはもう1つの手段。取り残されている馬を利用して馬車を作ることだ。問題は馬を操る技術を持っている者が俺たちの中にいないことだが……まぁ見よう見まねでなんとかなるかもしれん。

 

 と、いうわけで町中をゆっくりと歩きながら見て回ったわけだが……さすがに捨てられている馬など見かけないな。けど諦めるわけにはいかねぇんだ。この際、犬ぞりだって構いやしない。とにかく何かしらの移動手段を――――

 

「おいあんた! 何をしとるんじゃ!」

 

 道を歩いていると突然後ろから声をかけられた。振り向いてみると、大きな風呂敷を背負った白髪白髭の爺さんがそこにいた。爺さんはじっとこちらを見つめている。別の誰かに話し掛けているものと思ったが、この場には俺と爺さん以外誰もいない。ということはやはり俺に言っているのだろうか。

 

「あー。俺ッスか?」

「そう、あんたじゃよ! 今この町がどういう状態か知らんのか!? 魔獣が襲ってくるんじゃよ! だからお前さんも早く逃げんか!」

 

 鬼気迫る表情で喚き散らす爺さん。見ず知らずの俺にそんな忠告をするとは、お人好しの爺さんだ。

 

「サンキューな爺さん。逃げ出したいのは山々なんだが、そう簡単には行かなくてな。今はその手段を模索している最中だ」

「何を悠長なことを言っておる! もはや一刻の猶予も……?」

 

 まくし立てていた爺さんが突然、口を開けたまま固まった。と思ったら、すぐに顎をフルフルと震わせはじめた。何なんだこの爺さん?

 

「背が高くて……襟に青い布を巻いて……短い髪を逆立てた……若い男……お、お前さん……もしや……」

 

 ブルブルと手を震わせながら俺を指差す爺さん。だから何だというのだ。

 

「何だ? 俺の顔に何か付いてるか?」

「い、いや、そうではない! あ、あんた名前は!? 名は何というのじゃ!?」

「は? 坂本雄二だが……」

 

 何気なく返事をすると、その瞬間、爺さんの態度が一変した。

 

「さっ……サカモトユウジじゃとぉぉぉぉ!?」

 

 くわっと目を見開き、信じられないくらいに大きな声で喚く爺さん。

 

『なんだって!? サカモトユウジだと!?』

『どこだ!? どいつがサカモトユウジだ!?』

 

 突然ざわつく町の人たち。なんだかヤバイ感じだ……。

 

「こ、こいつじゃ! この男が今サカモトユウジと名乗ったのじゃ!!」

 

 ビッと俺を指差して爺さんは周囲の者に言いふらす。この感じ、どんなにポジティブに解釈しても歓迎されているようには思えない。こんな時は逃げるに限る!!

 

『あっ!? こら逃げるでない! だ、誰か奴を捕まえてくれぇーーっ!!』

 

 捕まってたまるかってんだ!

 

 俺は全力でその場を離れ、無人となった家の垣根裏に隠れることにした。

 

『いたか!?』

『いや、こっちにはいない!』

『探せ! まだこの辺りにいるはずだ!』

『ま、待ってくれ。わしらももう避難した方がよいのではないか?』

『そうよ。あたしたちだってここに居ちゃ危険なんじゃないの?』

『……確かにそうかもしれん。よし、わしらも避難するとしよう』

 

 道の方からそんな声がして、パタパタと駆けて行く足音が聞こえてきた。どうやら諦めてくれたようだ。けどこの様子だと馬を探すどころの話じゃねぇな。もう皆の所に戻るしかなさそうだ。やれやれ……この町では妙なことにばかり巻き込まれるな……。

 

 

 

          ☆

 

 

 

「あ、おかえり雄二。どうだった?」

 

 とぼけた顔で迎えたのは明久だ。俺がどんな目に遭ってきたかも知らずに、のん気な奴だ。

 

「ダメだ。馬の調達どころか朝飯すら得られなかった」

「えぇ~……何だよ期待してたのにさ」

「しょうがねぇだろ。町中大騒ぎで話なんかマトモに出来なかったんだからよ」

「ちぇっ、役立たず」

「ぐっ……」

 

 さすがにこの言葉にはグサッと来た。ここ最近、ずっと俺自信が抱えてきた悩みをストレートに示した言葉だからだ。

 

「アキ。やめなさい。坂本だって頑張ってるんだからそんなことを言うのは失礼よ」

「だってさぁ……」

「そうですよ明久君。お友達でも礼儀は尽くさないとダメです」

「わ、分かったよ……ごめん雄二。言い過ぎたよ」

「あ、あぁ……」

 

 くそっ……謝られたところでこのモヤモヤした気分は晴れやしねぇ。

 

「あ。ムッツリーニも帰ってきたみたいだよ」

「ん? そうか」

 

 そうこうしているうちにムッツリーニが帰還したようだ。良い知らせを持ち帰っていれば良いのだが……。

 

「おかえりムッツリーニ。どうだった?」

「…………全線ストップしていた」

「そっか……やっぱりね……」

 

 魔障壁の無い町に人は住めない。皆この町から逃げ出そうとするだろう。そうなれば唯一の交通手段である馬車は奪い合いになる。このような状態で運転すれば、些細なことでいざこざが生まれる。だから無用なトラブルを回避するため、運転をすべて取りやめる。まぁ当然の判断だろう。

 

 しかし予想はしていたとはいえ、こいつはまいったな……。

 

「ムッツリーニ、魔壁塔の状態は分かるか?」

「…………すぐに機能を失うわけではないらしい。だが徐々に魔障壁は小さくなっているらしい」

「あとどれくらい保つんだ?」

「…………聞いた話ではあと1、2時間」

「そ、それじゃもうすぐ魔獣が町に入ってきちゃうんじゃないんですか!?」

「まだ町から逃げていない人だっているのよ!? そんなことになったらその人たちはどうなっちゃうのよ!」

「…………そうならないように馬車用の小型魔障壁を一ヶ所に集中するらしい」

「なるほどのう。一ヶ所に身を寄せ合って守ろうというのじゃな。それなら安心じゃな」

 

 果たして本当に安心できるだろうか。魔壁塔から発せられる光は町全体を覆っていた。だが馬車用の簡易魔障壁はかなり小さい。馬車1台を守れば良いだけなので当然だ。そんなものを組み合わせた程度で残った者たちを守り切れるんだろうか?

 

「…………補修品を取り寄せるまでの時間を凌ぐらしい」

「なるほど。一時凌ぎってことか。ところでムッツリーニ、犯人の行方についてはどうだ?」

「…………それについては2つ情報を得た」

「何っ! 本当か!? 言ってみろ!」

「…………お婆さんが夜中に大きな箱を抱え上げた男を見ている」

「大きな箱……きっとそいつに違いねぇ! どこで見たんだ!?」

「…………俺たちの泊まったホテルから西に少し行った所」

「俺も怪しい人影が西の方角に向かうのを見ている。間違いない! でかしたぞムッツリーニ!」

 

 問題は犯人の行方だ。魔石タンクというのがどのくらいの大きさなのか俺は知らない。だがあれだけの大きさの魔壁塔に備え付けられているのなら、相当な大きさのはず。そんなものを運べるのは恐らくは大人の男、もしくは俺たちくらいの年代の者だろう。

 

 だが学園長の話が正しければ、同世代の人間はこの世界にはいないはず。となれば、やはり大人の男性ということになる。若い男がいるならばジジババばかりのこの町では目立つはず。そいつを探し出して盗んだものを取り戻すのが一番の近道かもしれん。

 

 ――トントン

 

 と、思案に暮れていると、肩をつつかれた。

 

「ん? なんだムッツリーニ。まだ何かあるのか?」

「…………情報は2つあると言った」

「そうだったな。もう1つは何だ?」

「…………犯人の名前」

「な、なんだと!? 本当か!?」

「…………目撃者のお婆さんが名前を聞いたらしい」

「マジか!? で、なんて名前のヤツなんだ!?」

 

 思わぬ吉報に興奮する俺。だがムッツリーニの答えは俺の予想を遙かに超えるものだった。

 

「…………サカモトユウジ」

 

『『『は?』』』

 

 きっとこの場にいる全員が我が耳を疑ったことだろう。当然俺も聞き違いかと思った。

 

「すまんムッツリーニ。今なんと言った?」

「…………サカモトユウジと言った」

 

 どうやら聞き違いではないらしい。

 

「えっ? な、なんで雄二? えっ? えっ? じゃあ、じゃあ、えーっと……やっぱり雄二が泥棒の犯人ってこと!?」

「ンなわけあるかっ!!」

「見損なったわ坂本! 結局アンタが犯人だったなんて!」

「坂本君……私、信じていたのに……!」

「……雄二。自首して」

「ちょっと待てお前ら! おかしいと思わないのか!? 俺がそんなものを盗む理由が無いだろうが!! おいムッツリーニ! どういうことなんだ!」

「…………お婆さんがそう答えた」

「そんなバカな!! じゃあ俺と同じ名前の奴がこの町にいるってのか!?」

「嫌だなあ。雄二の名前が世に2人いたら気持ち悪いだけじゃないか」

「お前はちょっと黙ってろ!」

 

 クソっ! どこのどいつだ! 俺の名を語りやがって! 見つけ出してぶん殴ってやる!

 

「ムッツリーニ! その婆さんはどこにいる! 俺が直接話しを聞く!」

「…………もういない」

「なんだと!? 何故だ!」

「…………さっきここに戻ってくる時にすれ違った。町を出ると言っていた」

「っ……!!」

 

 なんてこった……唯一の手がかりが……! どうしたらいい。考えろ俺。このままじゃ本当に俺が犯人になっちまう。考えろ……考えろ……考えろ……!

 

 ――トントン

 

「ンだよ。今考え事してンだから邪魔すんな」

 

 ――チョンチョン

 

「だから邪魔すんなっつってんだろ!」

 

 ――ツンツンツン

 

「なんだムッツリーニ! 何か用か!」

「…………話には続きがある」

「あ? 続きだと?」

「…………続きだ」

「ったく、今はこの濡れ衣をどう晴らすかの方が大事なんだが……まぁいい。言ってみろ」

「…………その男は町を出て西に行ったところに住んでいるらしい」

「何!? それを早く言え!」

 

 って、ちょっと待て。町を出て西だと? そんなバカな。町の外に人が住めるはずがない。もしや奥地のバルハトールのことか?

 

「なぁムッツリーニ、それはバルハトールって町のことか?」

「…………そこまでは聞いていない」

「そうか……」

「…………森の中の城に住んでいると言っていたらしい」

 

 森の中……。

 

 ……

 

 まさか……。

 

「ねぇ、どうすんのさ雄二。このままじゃ僕ら完全に足止め状態だよ?」

「うっせぇ! 黙ってろ!」

「な、なんだよ急にマジな顔になっちゃってさ……」

 

 森の中。

 城。

 このメランダから西。

 

 これらキーワードすべてに一致する場所が一ヶ所だけある。そう、翔子が見つけたあの怪しい城だ。あの城にはひょろっとした金髪の男が住んでいた。

 

 なるほど……読めてきたぜ。

 

 俺の名を語ったことも。敢えて森の城という情報を漏らしたことも。

 

 ケッ…………上等だぜ!

 

「そういえばさ、簡易魔障壁って凄く小さいよね」

「そうじゃな。大きく見積もっても直径10メートルをカバーするのが精一杯じゃろうな」

「んー。そしたらさ、そんな小さいのをいくつ組み合わせても町全体を覆うなんてできないんじゃない?」

「等間隔に並べて隙間無く敷き詰める感じなんじゃないでしょうか?」

「でもそんなに数があるようには思えないわね。あれって凄く高いらしいし……」

「そうなんですか? 美波ちゃん」

「うん。前にお店で見たことがあるんだけど、ゼロがいっぱい並んでたわ」

「…………魔壁塔を中心にしてある程度の範囲に敷き詰めるらしい」

「あ、そうなんだ。じゃあ姫路さんが正解だね」

 

 理由は分からんが、どうやら俺は喧嘩を売られたようだ。まさかこんな異世界に来てまで喧嘩を吹っ掛けられるとは思ってもみなかったぜ。

 

「じゃあ町の中心だけ守ってあとは見捨てるってことなのかな」

「そういうことになるのじゃろうな」

「家、壊されちゃうよね……」

「そうね……」

「でも日中は魔獣の活動は控えめだって聞きましたよ?」

「どうなんだろう。僕、大きな熊の魔獣に出会ったことがあるんだけど、昼間だったよ?」

「あ、そうでしたね」

 

 どうやら明久が余計なことを考えているようだな。この話の流れからして、恐らくあいつが余計なことを言い出すだろう。

 

「ねぇ、皆。ひとつ提案があるんだけど……」

「なんですか? 明久君」

「補修品が届くまで何時間もかかるんだよね?」

「そうね」

「それまでは町の中心しか守れないんだよね?」

「そうじゃな」

「じゃあさ、僕らで町を守れないかな」

「私たちで……ですか?」

「うん。だって僕らには召喚獣の力があるし」

「確かにワシらには魔獣と戦う力がある。じゃが良いのか? ここにはワシらに石を投げつけた者たちがおるのじゃぞ? あれほど疑われ、(ののし)られても尚あやつらの家を守るというのか?」

「それはそれ、これはこれさ。だってこのままじゃ帰る家がなくなっちゃうかもしれないんだろ? そんなの放っておけないじゃん」

「やれやれ。お主は相当なバカじゃな」

「でもそういう所、明久君らしいです。私は賛成です」

「ウチも賛成。襲われるって分かっていて見て見ぬふりなんてできないわ」

「…………同意」

「あははっ! な~んだ、結局皆バカなんだね」

 

 やはりこういう流れになったか。こいつらとの付き合いも2年弱になるが、こういう所は出会った当初と何一つ変わってねぇな。

 

「あーあ。バカは単純でいいよな」

「なんだよ。じゃあ雄二は町が魔獣に襲われるのを黙って見てろって言うのかよ」

「そのとおりだ。前にも言っただろ。俺たちはこの世界の出来事にかかわるべきじゃねぇんだよ。それに俺たちの目的はどうなる。タイムリミットがあるんだぞ? 元の世界に帰れなくなってもいいってのか?」

「う……それは……」

 

 姫路と島田も俯いて黙り込んでいる。ムッツリーニと秀吉も返す言葉が無いようだ。ま、正論を言ったのだから当然だな。

 

「俺はまっぴらゴメンだね。どうしても守るって言うのならお前らだけでやるんだな」

 

 冗談じゃねぇぜ。こんな馬鹿げた話に付き合っていられるか。

 

「坂本君……? どこに行くんですか?」

「……ちょいと知り合いに野暮用だ」

「なんだよ雄二。逃げるのかよ。あ、分かった。石を投げられたのを根に持ってるんだろ。しょうがないなぁ雄二は。いいかげん大人になれよ」

「お前がそれを言うか!?」

 

 ったく、さっきまでジジイをぶっ飛ばすと息巻いてたのはどこのどいつだよ。

 

「悪いが俺はお前らの提案には乗れねぇんだ。じゃあな」

「あっ! おい雄二!」

 

 俺は歩きながら腕を上げ、ぶらぶらと手を振る。すると後ろから翔子の声が聞こえてきた。

 

『……吉井、皆、町をお願い』

 

 その(のち)、タッタッタッと足音が近付いてくる。翔子のやつめ……。

 

「来るな!」

「……あの城に行くつもり?」

「あぁ。ちょいと行ってくるからお前は明久たちと一緒に待っていろ」

「……私も行く」

「ダメだ。前にも言っただろ。危険過ぎる」

「……それなら尚更。雄二を1人で危険な場所に行かせられない。私も一緒に行く」

「ダメだっつったらダメなんだよ!」

「……どうしてダメなの」

「危険だからって言ってンだろ!」

「……どうして危険だと私が行っちゃいけないの」

「だっ、だから、それは……お前を危険な目に遭わせるわけには……」

「……自分の身は自分で守れる。雄二の足手まといにはならない」

「しかしだな……」

「……学園長先生も言ってた。この中で一番強いのは私」

「確かにそうかもしれねぇが……」

「……雄二は私が信じられない?」

「ンなことねぇよ。ただ――――」

「……私も雄二と同じ気持ち。だから私も行く」

 

 あぁもう! めんどくせぇな!

 

「か、勝手にしろ!」

「……うん。勝手にする」

 

 もう説得するのも面倒だ。翔子の抜刀は以前に一度見ている。猪の魔獣を一振りで両断したあの強さがあればなんとかなるだろう。

 

「町を出たら装着して一気に城まで駆け抜ける。いいな」

「……うん」

 

 俺は翔子を連れ、西の方角に歩き始めた。

 

 今回の事件で犯人は俺の名を語っている。この世界で俺の名を知っているのは大臣のパトラスケイルと、バルハトールの町のトーラス。それとあの怪しい森の城主だけだ。大臣やトーラスが俺の名を語るとは思えない。だとすると、残るはあの男だけだ。

 

 前回あの城を訪れた時も生臭いような、妙に陰湿な感じがしていやがった。それにあの城主からも生気が感じられなかった。奴にはきっと何かある。今回の事件の犯人も恐らくは奴がかかわっている。

 

 だから真意を確かめに行く。すべてに関して見て見ぬフリをしてラミールに向かおうと考えていたが、喧嘩を売られたとなれば話は別だ。

 

『明久君、止めなくていいんですか? 2人とも行っちゃいますよ?』

『そうよアキ、あの2人がいないんじゃ戦力もかなり落ちるわよ?』

『いいんだよ。雄二は犯人を捕まえに行ったんだから』

『そうなんですか?』

『うん。あいつならきっと真犯人を見つけてくるさ』

『そういうことであればここはワシらで守らねばならぬな』

『よし、町の周囲を手分けして警備しよう』

 

 俺の耳にはあいつらのそんな会話が届いていた。フ……明久、お前も少しはリーダーらしくなったじゃねぇか。そっちは任せたぜ。俺は俺のけじめを付けてくるぜ!

 


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