「えっ!? 何!? 何なの!?」
「き、急に真っ暗になっちゃいましたよ!? 坂本君! どうなってるんですか!?」
「落ち着け島田。姫路も慌てるな。こいつはひょっとするかもしれねぇぞ?」
「なによそれ! どういうことよ!」
「いいから落ち着けって」
真っ黒な空間に雄二の冷静な声が響き渡る。この声の反響、明らかに先程のホテルの一室ではない。それにさっきのガコンという音に聞き覚えがある。
そう、あのブレーカーが落ちるような音。あの時、僕がゲーム機の電源ケーブルに足を引っかけた時に聞こえた音と同じだ。ということはつまり……。
「翔子! 秀吉! ムッツリーニ! 居るか!」
「……うん」
「ここにおるぞい」
「…………俺はここだ」
各自が自分の位置を報告すると、それぞれの姿がスゥッと暗闇に浮かび上がってきた。美波や姫路さんは先程叫んだ時に既に見えている。全員がこの空間にいるようだ。
「雄二よ、これはどういうことなのじゃ? 何も見えぬが……」
「……相殺されて召喚フィールドが消えた?」
「分からん。前にもこの腕輪で相殺したことがあるが、あの時と様子が違うようだ。恐らくこの空間に何か仕掛け――」
と、雄二が何かを言いかけた時、その言葉を遮るように誰かの声が響いた。
《あーあー、あー。聞こえるかいジャリども》
明らかに僕ら7人の声ではない。けれど聞き慣れた声。それは耳からではなく、直接頭の中に響いて聞こえた。
『『『(ババァ)(学園)長!?』』』
その場の全員が同時に叫ぶ。そう、このしゃがれた声は間違いなくあの妖怪ババァの声だ。
《坂本と吉井の2人は留年したいようだね》
「「なぜにっ!?」」
「ちょっと待ってください! どうして僕が留年なんですか!」
「そうだ! 明久のバカはともかく俺の出席日数はまだ足りてるはずだぞ!」
「失礼な! 僕だって出席日数は足りてるはずだよ!」
《やれやれ……少しは大人への礼儀を覚えたかと思ったけど全然進歩しないねぇ》
「へ? 大人への礼儀? 何それ?」
《いい機会だから社会のなんたるかを教えてやろうと思ったんだが、アンタらにゃ無駄だったかもしれないね》
「はぁ?」
何を言ってるんだろこのババァ。僕らがこんなに苦しんでいるのに社会がどうとか、何を悠長なことを――
「学園長先生! 学園長先生なんですよね? 私です! 姫路です!」
《あぁ分かってるよ。姫路、坂本、吉井、島田、木下、土屋、それに霧島。ひとまず揃っているようだね》
暗闇の中、ババァ長の声だけが響き渡る。皆はキョロキョロと辺りを見回している。全員ババァ長の姿が見えていないようだ。そういう僕にも見えていない。一体どこから話しかけてるんだろう……?
「学園長殿、ここはどこなのじゃ? ワシらは一体どうなってしまったのじゃ?」
「学園長先生! 早くウチらを元の世界に帰してください!」
《まぁ待ちなジャリども。すぐにというわけにはいかないんだよ》
「どうしてですか!? ウチらもう20日以上もこんな所に閉じ込められてるんですよ!?」
秀吉と美波は見えない相手に向かって話しかけている。見えないけど、ババァの反応からするとこちらの声も向こうに届いているようだ。
「島田。俺に話をさせろ」
「えっ? う、うん。いいけど……」
「学園長。まず俺たちの置かれている状況について説明してくれ。ここが現実世界じゃねぇってことは分かってる。じゃあこの世界は何なんだ? 召喚システムとゲームが融合した世界なのか? 召喚システム。つまり召喚フィールドでできた世界なのか?」
そうだ。10日前の作戦会議で雄二はこの世界をこう位置付けた。この世界が”ゲームと召喚システムが融合してできた世界”であると。僕らはこの前提のもと、白金の腕輪を探したのだ。召喚フィールドで組成されているであろう、”次元の壁”を打ち破るために。
《さすが神童と呼ばれただけのことはあるね。半分正解といったところだね》
「半分? 半分ってのはどういうことだ? ここが召喚フィールドでできた世界だから、白金の腕輪でフィールドを破壊できたんじゃないのか?」
《もしそうだとしたらアンタらはもうこっちの世界に戻ってるはずだろう?》
「そうだ。だが戻っていない。だから聞いているんだ」
《いいかいよく聞きな。確かにアンタらのいる世界は召喚システムが関係している。けど召喚フィールドでできた世界じゃないんだよ》
「なんだと? じゃあこの世界は一体何なんだ?」
《召喚獣はどこから来ているか、考えたことはあるかい?》
召喚獣がどこから来たかって? そんなこと考えたこともなかったな。科学とオカルトの融合でよく分からないシステムだって話は聞いたけど。
「……別次元の世界」
《正解だよ霧島。つまりアンタらの居るそこはアタシらのいる世界とは別次元の世界ってわけさ》
「ど、どういうことなんですか学園長先生!?」
《聞いてのとおりさ。姫路はこういった話には疎いかね。要するにそこは元は召喚獣の住んでいた世界ってことさ》
『『な、なんだってぇぇーーっ!?』』』
じゃ、じゃあ僕がいつも呼びだしていた召喚獣はここに住んでいたってこと!? こんな中世ヨーロッパのような世界で、あの可愛らしい召喚獣たちが暮らしていたってこと!?
「そ、それじゃウチらが今まで会ってきた人たちってみんな召喚獣なんですか!?」
美波が驚きながら声をあげる。ババァ長の言うことが本当だとしたら、ルミナさんもマルコさんもレナードさんもウォーレンさんも、町で会った全員が皆召喚獣だったということになる。
でも皆普通の人間の姿をしていたじゃないか。召喚獣って3頭身の小さい体をしてるんじゃないの?? し、信じられない……。
《そいつはちょっと違うね。彼らはもともとこの世界には居なかった者たちさ》
へ……?
「学園長。もったいぶらずにちゃんと説明してくれ。明久のバカにも分かるようにな」
《難しいことを言うね。善処してみるがね》
ムカッ
「失敬な! 僕だってちゃんと理解できるよ!」
「いいから黙って聞け。あのひねくれババァが素直に説明するっつってんだからよ」
「ぐ……わ、分かったよ……」
《坂本。アンタはその世界に残りたいようだね》
「はぁっ!? なんで俺だけ!?」
「やーいやーい。ざまぁみろ~」
「明久てめぇ!」
「なんだよ! 雄二が僕をバカにするからだろ!」
「…………静かにしろ。話が進まない」
!?
「「お、おう……」」
びっくりした……まさかムッツリーニに叱られるとは思わなかった……。
《土屋は早く帰りたいようだね。いいかいジャリども、よくお聞き。あまり時間がないので一度しか言わないよ》
「時間? どういうことだ?」
《いいから聞けと言ってるだろう。まずアンタらが置かれている状況だがね、さっきも言った通りそこは召喚獣の世界さ。なぜそんな所に居るのかはそこにいるバカに聞いてみな》
ギクッ!
「明久君、何か知ってるんですか?」
「い、いや何にも!? っていうか”バカ”でどうして僕だって分かるのさ!?」
「やっぱりアキなのね?」
「あ……」
バカっ! 僕のバカっ! これじゃ自分が犯人だって言ってるようなもんじゃないか!
「白状しなさいアキ! アンタ何を知ってるの!」
「そうですよ明久君! 何か知ってるのなら言ってください!」
「し、知らないよ! 何にも知らない! ホントだって!」
「嘘おっしゃい! さぁ正直に言いなさい!」
「いや、だって……」
ど、どうしよう……本当のことを話したら絶対怒るよね。美波も怖いけど、怒った姫路さんはそれ以上に怖いし……。
《吉井を吊し上げるのは後にしな。時間が無いから話を続けるよ》
「そ、そうだよ皆! とにかく今は学園長の話を聞くべきだよ!」
「うっ……そ、そうね。でも後でしっかり白状してもらうからね!」
「仕方ありませんね」
た、助かった……。でも時間って何だろう?
《その世界の細かいことについては後回しにするとして、先に帰り方から説明するよ。まずアンタらがその世界から戻るためには腕輪の力がいる。坂本、アンタが持っている腕輪さ》
「やはりこいつか。で、こいつをどうすればいいんだ?」
《普通に力を発動させればいい。けど残念だけどすぐには戻れないよ》
「何? なぜだ?」
《まぁこっちにも色々と準備が必要でね。それに今アンタらが居る場所ではダメなのさ》
「この場所ではダメ? どういうことだ?」
《そこでは力が発揮できないからさ》
「じゃあどこなら力が発揮できるんだ?」
《アタシが指定する場所に行って腕輪の力を発動させな。そうしたらこっちから扉を開いてやるよ》
指定した場所に行って腕輪を使え……か。ますますもってゲームらしくなってきたな。
「学園長殿、その場所とはどこなのじゃ?」
《その世界で言う……なんと言ったかね……そうそう。サラスって国さ。この国の南東の海に島がある。その島の中央がその場所さね》
「サラス王国ですか……あの国は大陸が中央砂漠で分断されているんですよね……」
「ちょっと待て。学園長、島に行けってことはそこに行く船があるってことか?」
《さぁね。そこまでは知らないよ》
「えぇっ!? それじゃウチら泳いで行かなくちゃいけないんですか!?」
「そんな! 私、海を泳いで渡るなんてできませんよ!?」
「どっ、どうしよう……ウチ、水着なんて持ってきてないし……」
「私もです……それにダイエットしなくちゃ……」
「何を言ってるんだお前ら……。船を調達するに決まってんだろ」
あ、そうなんだ。ビックリした……。てっきりトライアスロン並に遠泳しなくちゃいけないのかと思ったよ。
「なぁんだ。そうなのね。それを早く言いなさいよ坂本」
「お前らが早とちりしただけだろうか……。で、学園長。俺たちがその島に辿り着いたとして、正確な場所を把握するにはどうしたらいいんだ?」
《場所が近くなったらその腕輪が光って教えてくれるだろうよ。さっきも光っただろう?》
「つまり歩き回ってみて一番強く光る場所が指定の場所ってわけか」
《ま、そういうことさね》
要するに白金の腕輪は鍵であると共にレーダーでもあるってことか。あの腕輪は雄二しか使えないみたいだし、雄二の責任は重大だな。
《そろそろ時間が無くなってきたね。他に質問はあるかい》
「学園長殿、その時間とは何なのじゃ?」
《白金の腕輪の力の持続時間さ。こうして話ができるのは腕輪の力が持続している間だけさね》
「そういうことであったか。なるほどのう」
「ウチも質問! 学園長先生! ウチらのこの腕輪って学園長先生が作ったものなんですか? 100年以上前に作られたって聞いたんですけど」
《あぁ。そいつは確かにアタシが作った物さ》
「じゃ、じゃあ学園長先生って100歳を超えてるんですか!?」
《島田……お前さんも吉井の影響を受けてるのかい? アタシが100歳なわけがないだろう? その世界ではそういう設定にしてあるのさ》
「設定? 設定ってなんですか?」
《その世界にアタシはいないんだよ。だから特別な設定を与えてあるのさ》
「???」
《まぁフィクションってことさ。そう思っておくれ》
「フィクション……ですか?」
美波は”わけが分からない”という顔をしている。この世界は仮想空間。つまり架空の世界だ。きっとこの世界でのババァ長の役割は
《あぁそれとね、その腕輪には特別な力を与えてあるよ》
『『『特別な力?』』』
《アンタらも知ってるだろう? もともと腕輪の力は400点を超えた者にのみ許可したものさ。それを特別にアンタら自身が使えるようにしたのがその腕輪ってわけさ》
「へぇ~……それで瑞希が火を出せたのね」
「私の召喚獣の力そのものですね」
《島田は風の力、土屋は速度を増す力、木下には幻を操る力を与えてある》
「じゃあウチの召喚獣も400点を超えたらこんな風の力が使えるのね」
「ワシのは幻を見せるのか。これは試召戦争で役に立ちそうじゃのう」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕の力は!? まだ腕輪も無いんだけど!?」
「……私も無い」
《吉井は白金の腕輪の力さ。何度も使ってるだろう? 霧島には光を操る力を与えてあるよ。まぁ運が良ければどこかで手に入るだろうさ》
「そっか。やっぱり
できればもっと別の力がほしかったな。美波が風で姫路さんが火だから、僕は雷とか氷とか。敵に雷撃を落とすとかカッコイイよね。でも絶対零度の氷でクールに決めるってのも捨てがたいな。
「学園長、俺は?」
《坂本は扉を開く役さ。それ以外の力は必要ないだろう?》
「俺はただの鍵役だってのか……」
がっくりと項垂れる雄二。ははっ、いい役目じゃないか。戦闘ではまるで役に立たないけどね!
「ん? ちょっと待て。学園長、そんなに色々と設定を入れ込んでるってことは、あんたはこの世界に干渉できるのか?」
《あぁ、できるよ。けど微妙なバランスで成立してる不安定な世界だから無茶なことはできないのさ》
「微妙なバランス? そういえばなぜこの世界ができたんだ? さっきも明久に聞けとか言っていたが、それはどういう意味だ?」
うっ……! や、ヤバい!
《原因はそこのバカが妙な機械を召喚システムに繋いだせいさ。そのプログラムが逆流してシステムに障害を起こしたってわけさ》
「ちょっとアキ! やっぱりアンタのせいだったのね! なんてことしてくれるのよ!」
「そうですよ明久君っ! 黙ってるなんて酷いです!」
「ご、ごごごめんっ! こんなことになるなんて知らなかったんだ!」
「やれやれ。元凶は明久じゃったか」
「…………許すまじ」
「だ、だからごめんってばぁ~っ!」
そんなに皆して責めなくたっていいじゃないか……。悪気があってやったわけじゃないんだからさぁ……。
「学園長。召喚システムはどうなったんだ?」
皆が僕を責める中、雄二だけは暗闇の天を見上げながら質問を続けていた。相変わらずこいつは冷静だな。
《システムの異常に気付いてすぐに停止したんだがね。結局間に合わずシステムの一部が浸食されてしまったんだよ。おかげで電源を切るわけにもいかず困ってるのさ》
「なぜ電源を切れないんだ?」
《そりゃアンタらが入ってるからさ》
……は?
「えっ? ちょ、ちょっと待って? それってもしかして僕らがコンピューターの中に入っちゃったってこと?」
《そう聞こえなかったかい?》
「ま、マジでぇ!?」
し、信じられない……まさかそんなことが現実に起こりうるなんて……そんなのフィクションの世界だけかと思ってた……。
「明久君、どういうことなんですか? 私さっぱり分からないんですけど……」
「え、え~っと、それはつまりだね、コンピューターの中に僕らがデータになって取り込まれちゃって異次元な世界を作り出したって感じで……」
「?? すみません……よく分からないです……」
困った。これ以上どう分かりやすく説明したらいいんだろう。なんとなく理解はできていても言葉にできない……。
《つまりこういうことさ。アンタらのいる世界は召喚システムの異常に伴って発生した異次元の世界。召喚システムとそこのバカが繋いだゲームが複雑に絡み合った世界さ。アンタらの意識はそこに電子データとして取り込まれてしまったってことさ》
「えっと……それじゃウチらがここから出ない限り召喚システムを止められないってことですか?」
《そういうこと。だからさっさと出てきな。緊急用の予備電源だけで動いてるからそう長くは持たないよ》
「どれくらいもつのじゃ?」
《そうさね……アンタらの世界で10日……長く保たせても12日間ってとこかねぇ》
12日間か……そんなに猶予は無いな。のんびりしていると出席日数もヤバくなってきそうだ。それにしても緊急用の電源って12日も動かせる物なんだね。てっきり2、3時間が限度かと思ってたよ。
「…………俺の体はどうなっている」
《こっちの世界で眠ってるよ。意識不明の昏睡状態でね。でも安心しな。命に別状は無いよ。……今のところはね》
「…………今のところ?」
《アンタらがそこから出られなければどうなるか分からないねぇ》
「え……それってまさか、このままだと僕ら死んじゃうかもしれないってこと?」
《そういうことになるね》
「えぇっ!? そんなの冗談じゃないぞ! 早くなんとかしてくれよ! あんたシステムの開発者なんだろ!?」
《やれやれ。一体どの口が言うのかねぇ。お前さんの引き起こした事態だってことを忘れたのかい?》
「そうよアキ。アンタに学園長先生を責める資格は無いわ」
「そ、そうかもしれないけどさぁ……」
「ダメですよ明久君。ちゃんと謝ってください」
「う、う~ん……」
美波と姫路さんにこう言われてしまうと弱いなぁ……。
「わ、分かったよ…………ゴメンなさい。反省します」
ペコリと頭を下げ、僕は謝った。確かに今回は僕のせいみたいだし、責任を感じなくもない。
「学園長先生、アキもこうして謝っていることですし、許してあげてもらえませんか?」
《フン、いいだろう。まぁアタシにも保護責任ってやつがあるからね。責任をもってこっちに帰してやるよ。けどアンタらが動いてくれないとアタシにもどうにもならないんだ。だからしっかり頼むよ》
「俺たちだって元の世界に帰りてぇんだ。約束は果たすぜ」
《よし、それじゃもういいかい。通信を切るよ》
「ちょっと待ってほしいのじゃ」
《なんだい木下》
「ひとつ質問じゃ。召喚獣の衣装はなぜ一学期のものなのじゃ?」
《気に入らないかい?》
「いや、気に入らないわけではないのじゃが……。二学期で新しい衣装に変わったのに、なぜ旧式なのじゃろう? と疑問に思ったのじゃ」
《そりゃバックアップから取り出したデータだからさ。繋がっているサーバーに最新のデータは入ってないんだよ》
「ふむ……なるほどのう。では頭に付くバイザーのようなものは何じゃ? 召喚獣にあのような装備は無かったと思うが?」
《アンタらが使えるようにした時に追加したモンさ。召喚獣の力にも限りがある。それを視覚的に分かるようにするために作ったのさ。そいつに黄色いゲージが表示されていただろう? それが召喚獣のエネルギーを示しているのさ。そいつが切れると召喚獣の力は消えるよ。力を使わずにほっとけば回復していくがね》
へぇ、やっぱりエネルギーゲージだったのか。確かにこれなら分かりやすい。妖怪ババァも結構僕らのことを考えてくれてるんだな。
「あの、学園長先生、私からも質問いいですか?」
《今度は姫路か。なんだい?》
「召喚獣の力って個人の学力で大きく差がありますよね? この試獣装着って仕組みにも差があるんですか?」
《一応あるよ。科目の概念は無くて総合力だけだがね》
「じゃあ、この中では翔子ちゃんの力が一番強いんですか?」
《そういうことになるね。けどこのシステムにはもう一つ特徴があるのさ》
「特徴……ですか?」
《熟練度というステータスを追加しておいたんだよ》
熟練度? ホントにゲーム染みてきたな……。でもなんだかこういうのを聞くとワクワクしてきちゃうな。
《召喚獣の力は総合力が高ければ力も強い。それに対して熟練度が高ければ回復力が高いようにしてあるのさ》
「なるほどな。瞬発力と持続力ってわけか。面白いじゃねぇか」
ふ~ん……。でももう召喚獣を使うことも無いだろうし、関係無いかな。
《それと腕輪にはもう一つ効果を加えてある。身につけていれば召喚獣の持続力を飛躍的に向上させることができるのさ》
「飛躍的? どれくらい?」
質問した僕は、せいぜい2、3倍ってとこだろうなんて思っていた。ところが学園長の回答はとんでもないものだった。
《ざっと20倍ってとこかね》
「にっ、20倍いぃ!?」
「元が10分ならば200分。つまり3時間弱ということじゃな」
「チート級じゃねぇか……」
「…………ゲーム性の破綻」
《文句があるのなら削除したっていいんだよ?》
「「「「すいませんっしたぁーー!!」」」」
僕ら男子全員の心が一つになった瞬間だった。
「もう……何やってんのよアンタたち……」
「あ、あはは……」
この様子を見て呆れる美波と苦笑いをする姫路さん。霧島さんは変わらず無表情だ。
「ところで学園長。俺からも質問いいか?」
《なんだい。早くしな》
「先程社会勉強がどうとか言っていたが、どういうことだ?」
《お前さんも細かいことをよく覚えてるねぇ》
「ちょいと気になったんでな」
《アンタらは学校生活で教師か同世代の者とばかり話をしているだろう? アンタら――特に坂本と吉井は目上の者に対する礼儀がまるでなっちゃいない。だからその世界での主要人物はほとんど大人にしておいたのさ。事を進めるに当たり、どうしても大人と接しなければならないようにね。まぁ少し調整を誤ったような気がしないでもないがね》
主要人物を大人に……? そういえば今まで高校生くらいの人に全然会わなかった気がする。同世代くらいの人で思い当たるのは2人の王子くらいだ。
「そういえば町の人たちって大人ばかりだったわ」
「私もサラスで会った方は大人の人ばかりでした」
「……私も」
そうか、子供や大人ばかりだったのはそういうことだったのか。てっきりこの世界にも学校があってそこに行ってるのかと思ってた。でもよく考えたら朝や夜も一切学生風の人を見なかったな。
「ちょっと待て。学園長、そこまでできるのなら俺たちを元の世界に戻すくらい、どうってことないんじゃねぇのか?」
《だからさっきも言っただろう? あまり無茶なデータを放り込むとシステムがハングアップしてしまうんだよ。そうなったらもう修復はできない。アンタらはデータの藻屑さ。そうなりたいのかい?》
「冗談じゃねぇ! こんな所で死んでたまるか!」
「そうだよ! 僕だってまだまだ色々とやりたいことがあるんだ!」
まだ観察処分者の汚名を返上していないし、このまま学園に名を残すなんて冗談じゃない! っと、そうだ! 僕も一つ聞きたいことがあった!
「学園長! 僕からも質問いいですか!」
《今度は吉井かい。しつこいねぇ。早くしな》
「この召喚獣って通信機能とか無いの? 離れた場所で会話できると凄く便利なんだけど」
《そんな機能は無いね》
「なんで無いのさ。それがあれば離れていてもすぐ連絡が取れるじゃないか」
《急ごしらえでそんな機能を付けてる余裕があると思うかい? 魔獣と戦う力があるだけでもありがたく思いな》
「ちぇっ。ケチ」
《何か言ったかい!》
「な、なんでもないです!」
地獄耳め……。
《もうそろそろタイムリミットのようだね。質問は以上でいいかい?》
「ちょっと待って! もう一つ質問! 魔獣って何なの!?」
《お前さんの繋いだ機械から流れ込んだデータが作り出したものさ。おかげでアタシらもとんでもない苦労してるんだ。少しは反省しな》
「ぐ……も、もう一つ! 魔人ってやつ! あいつもゲームが作り出したの??」
《あー。時間切れだね。いいかいジャリども。12日間のうちにサラス南東の島に来るんだよ。いいね》
「あっ! ちょ、ちょっと待って! まだ答えを聞いてないんだけど!?」
《…………》
「ねぇ! 学園長! 学園長ってば! このくそババァーっ!!」
叫んでいるうちに辺りが次第に白くなっていき、徐々に元のホテルの部屋の風景に戻っていく。どうやら本当に時間切れのようだ。