バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第三章 僕と仲間と異世界冒険記!
第一話 集う仲間たち


「すみませんっ! 遅くなりました!」

 

 弾むような声で部屋に入ってきたのは姫路さんだった。マフラーとコートを羽織った彼女は、寒そうに白い息を吐きながら深々と頭を下げていた。その後ろには同じ格好をした秀吉とムッツリーニの姿も見える。

 

「瑞希! 遅かったじゃない!」

「おかえりなさい姫路さん。秀吉とムッツリーニもおかえり」

「んむ。ただいまじゃ」

「…………ただいま」

 

 3人を迎えるのは僕と美波。

 

「よく戻ったな姫路。無事で何よりだ」

「……瑞希。おかえり」

 

 それに雄二と霧島さん。チームを分け、ここサンジェスタで解散してから10日目の夜のことだった。

 

「ホント3人とも無事で良かった。なかなか帰ってこないから僕ら心配してたんだよ?」

「そうよ瑞希。ウチらすっごく心配したんだからね!」

 

 僕と美波は前日のうちに帰還していた。その時、雄二と霧島さんはホテルで僕らを待っていた。残るは姫路さんたち3人。ところが待ち合わせ期限である今日になってもなかなか姫路さんたちが姿を現さない。何か事故に遭ったのではないか? もしや事件に巻き込まれているのでは?

 

 僕は心配した。だが雄二は迎えに行こうとする僕を制し「信じて待て」と言う。確かに今飛び出して行っても入れ違いになってしまう可能性もある。雄二の意見が正しいと判断した僕はひとまず待つことにした。

 

 だが午後になっても姫路さんたちは一向に姿を見せない。そして夜になり、さすがに遅すぎると心配して迎えに行こうとした矢先、部屋の扉をノックする音が響いたというわけだ。

 

「まぁ待てお前ら。まずは姫路たちを入らせてやれ」

「ほぇ? あ、そうだね」

「おつかれさま瑞希。寒かったでしょ? さぁ入って。すぐにホットミルクを入れるわね」

「はい。ありがとうございます美波ちゃん」

「秀吉、ムッツリーニ。ご苦労だったな。首尾はどうだ?」

「すまぬがその前にワシらにも暖かいものをくれぬか。ガルバランドの夜は冷えるわい」

「…………体の芯まで冷えた」

 

 そう言う秀吉とムッツリーニは白い顔をしていた。特にムッツリーニが寒そうだ。ガチガチと歯を鳴らさんばかりに震えている。秀吉も寒そうにはしていたが、表情はいつものポーカーフェイスだった。

 

「秀吉もムッツリーニもマント着てるじゃん。それでも寒いの?」

「これは乾燥地帯用じゃ。寒冷地ではあまり役には立たんのじゃ」

「へぇ。そんなのにも違いがあるんだ」

「おい明久、そんな話は後にしてそいつらを座らせてやれ」

「あ、そうだった。ゴメン、座ってよ2人とも」

「んむ」

 

 こうして僕たちは再び7人揃うことができた。

 

 僕と美波のチームアキ。

 雄二と霧島さんのチームしょうゆ。

 そして姫路さん、秀吉、ムッツリーニのチームひみこ。

 3つのチームが帰還。全員無事だ。

 

 問題は白金の腕輪が確保できたかどうか。それについてはこの後、報告会を開き、じっくり話すことになった。

 

 

 

          ☆

 

 

 

「よし、それじゃ報告会を始めるぞ。まずは俺と翔子の状況から報告する。姫路たちは飲みながらでいいから聞いてくれ」

 

 雄二はここガルバランド王国での出来事について語り始めた。

 

 もともとこの国にあるとされていた腕輪は2つ。その2つのうち1つは既に僕がアレンさんから貰っていて、姫路さんが持っている。つまり雄二たちが確保すべきは1つのみ。1つならば確保は簡単だろう。誰もがそんな風に楽観的に考えていた。けれど雄二の説明は重苦しかった。

 

 確かに2つ目の腕輪は存在していたらしい。ところがその腕輪はある女の手に渡っていて、しかもその女の人は行方不明になっているというのだ。更にはその人の旦那さんもが行方をくらますという異常事態。これ以上踏み込むのは危険と判断した雄二は探索を断念し、女の人の捜索を国の機関に任せ、僕らの帰りを待っていたそうだ。

 

 なるほど。どうりで昨日雄二が話したがらなかったわけだ。何度聞いても「全員揃ってから話す」と言っていたのはこういうことだったのか。きっと腕輪が入手できなかったことが悔しいんだ。だから何度も話したくなかったのだろう。

 

「そんなわけで俺たちの役目は果たせなかったんだ。すまん」

 

 珍しく雄二が頭を下げて謝っている。いや、珍しいというか初めてかもしれない。もし腕輪を手に入れてなかったら思う存分いびり倒してやろうと思っていたけど、こんなに素直に謝られたらそうもいかないじゃないか。

 

「私、この国でそんな事件が起きてるなんて知りませんでした……」

「そんな話はワシも今初めて知ったぞい。奇っ怪なこともあるものじゃな」

「ウチは坂本の判断は正しいと思うわ。そんな危険なことに首を突っ込むべきじゃないもの。ね、アキ?」

「えっ? う、うん。そう……だね……?」

 

 おかしいな。つい数日前に魔人と本気で命のやりとりをした気がするんだけど? アレは危険じゃなかったとでも言いたげな口調じゃないか。それとも美波はあの死闘を忘れてしまったのだろうか。

 

「以上で俺の話は終わりだ。次は明久、お前の番だ」

「僕? フフン。しょうがないなぁ。それじゃ説明しよう」

 

 この時、僕は少し天狗になっていた。なぜなら雄二が果たせなかった腕輪の回収を、僕は完璧に果たして帰還したのだから。

 

「まず結果から言うと、腕輪2つはこの通り回収済みさ」

 

 僕は上着の両側のポケットから1つずつ腕輪を取り出し、それぞれを指に引っかけてくるくると回して見せた。

 

「明久! 大事な腕輪を粗末に扱うんじゃねぇ!」

 

 すると突然雄二が怒鳴り散らした。ハハーン? 僕が完璧に任務を(こな)したのが気に入らないんだな? 雄二も大人げないなぁ。

 

「別にいいだろ。これくらいで壊れたりしないよ」

「そういう問題じゃねぇ!」

「そうガミガミ怒るなよ雄二。もっと心にゆとりを持たなくちゃ」

「アキ。やめなさい。怒るわよ」

「う……わ、分かったよ」

 

 美波に叱られては仕方がない。確かにちょっと調子に乗りすぎたかもしれないな。これくらいにしておくか。

 

「えーっと、それじゃまず1つ目の入手から」

 

 僕は腕輪入手の経緯について話し始めた。

 

 ハルニア王国1つ目の腕輪があったのは最南端の町、ラドン。この世界に来て最初にお世話になったマルコさんご夫妻のところにあった。それにしてもまさかルミナさんが王女様だったなんて、今でも信じられない。でもよく考えると物腰や話し方には気品があったし、言われてみれば納得する部分も多い。それに王家に伝わる腕輪を持っていたことが何よりの証拠だ。

 

 結局レナードさんはルミナさんに会いに行ったのだろうか。今は2人の親子関係が少しでも元に戻ることを祈るばかりだ。

 

「なるほどのう……お主はつくづく王家に縁があるようじゃな」

「もしかしたら明久君は王様の素質があるのかもしれませんね」

「へ? 僕が? あははっ! ないない。そんな素質、僕になんかにあるわけないじゃないか」

「そうだな。お前には王の素質があるかもしれん」

「雄二まで何言ってんのさ。そんなにおだててもおごってやんないよ?」

「裸の王様の素質がな」

「黙れこの唐変木」

「……吉井。2つ目は?」

「あ、うん。それじゃ2つ目を説明するよ」

 

 2つ目は本当に苦労した。ラドンからレオンドバーグに戻って王様に聞いたら湖に落としたと言うし。探しに行ったら魔人がまた襲ってくるし……。

 

 あいつ……本当に何者なんだろう。

 

 あの容姿からして、まず人間ではない。でも僕には人間以外の知り合いなんていない。ましてや、あんな素行の悪いお友達なんているわけがない。けどまぁ、今となってはどうでもいいことだ。

 

 結局、湖の底に沈んでいた腕輪は美波の力で引き上げることができた。本当ならこの時点でここに戻るべきだったのだが、僕らはもう1日ハルニア王国に滞在した。ま、この辺りは言わないでおこう。ハルニア祭で1日遊んだってことは皆に内緒って約束してるし。

 

「おい明久」

「ん? 何? 雄二」

「お前、俺が言ったことを覚えていないのか?」

「雄二の言ったこと?」

「そうだ。10日前にこの部屋で作戦会議を開いただろ。あの時言ったはずだ」

「作戦会議?」

 

 はて。何か言われたっけ? 10日前の作戦会議というと、チーム分けして探そうって話をした時のことかな? 白金の腕輪が元の世界に戻るための鍵になるって話は聞いたけど……。でもそのことじゃなさそうだ。

 

「なんだっけ? 忘れちゃった」

「やれやれ……お前は本当にAkihisafulだな」

「はぁ? 何だよそれ」

「お前はバカだって言ってんだよ!」

「そんなこと分かってるよ! だからどうして僕がバカなのさ!」

「…………自覚しているらしい」

「意外じゃな」

 

 ……なんか墓穴を掘ったような気がする。って、そうじゃなくて。

 

「ちゃんと約束通り2つの腕輪を手に入れてきたんだぞ! それがどうしてバカなのさ!」

「いいか明久。俺はあの時言ったはずだ」

「? 何を?」

「道中は何があるか分からん。絶対に無理はするな。危険を感じたらすぐに戻れ。とな」

「……あ」

 

 そうだ。確かに言ってた。

 

「そ……それは……! 言ってたかも……しれないけど……

 

 すっかり忘れてた。あの時は僕が魔人に襲われたことを知って雄二が注意を促したんだった。

 

「……ゴメン」

「ゴメンじゃ済まねぇんだよ! 命があったからいいようなものを! お前みたいなバカはどうでもいい! だが島田の身に何かあったらお前はどう責任を取るつもりだ!!」

「ぐ……」

 

 ”責任”と言われて僕はすっかり萎縮してしまった。雄二の言うとおりだ。

 

 あの時もし美波が魔人にやられていたら、僕は葉月ちゃんや美波のご両親になんと報告すれば良いのか。それ以前に美波という掛け替えのない人を失ったら……僕は……。

 

「あ、あのね坂本、その件についてアキに非は無いの。だからあんまり責めないで」

「いいや! このバカはどれだけ言ってもすぐ忘れやがる! 言う時は徹底的に言って頭に叩き込まねぇといけねぇんだよ!」

「そうじゃないの! あの時はウチが先に戦ってたの! アキはウチに加勢しただけなの!」

「何? おい明久、それは本当か?」

「……」

 

 僕は返事ができなかった。美波の言うことは本当だけど、命の危険があったことは確かなのだから。そしてチームリーダーである僕は危険を避けるべきだったんだ。

 

「本当かって聞いてんだよ! 返事をしやがれ!」

 

 雄二がいきり立ち、僕の胸倉をガッと掴んで怒鳴る。

 

「……美波は悪くない。僕の責任だ」

 

 僕は殴られる覚悟で雄二をじっと見据えた。こいつのことだ。けじめのために一発くらい殴ってくるだろう。そう思って雄二の次の言葉を待っていた。

 

「「……………………」」

 

 雄二と僕は瞬きひとつせず睨み合う。お互いの顔の距離は約20センチ。けれどガンを飛ばし合っているわけではない。大真面目な顔でお互いの目を見つめていた。

 

「明久」

「なんだ」

 

 雄二はフッと笑みを浮かべ、意外な言葉を口にした。

 

「ちょっと見ない間にいい顔をするようになったじゃねぇか」

「……は?」

 

 何を言ってるんだろうこいつ。いい顔になった? 僅か10日の間に人相が変わったりするわけないじゃないか。そんなことよりも僕を殴るつもりで胸倉を掴んだんじゃないのか?

 

「ようやくお前にも責任ってやつが分かるようになってきたようだな」

 

 雄二は掴んだ胸倉を放し、背を向ける。格好付けてるつもりらしい。

 

「いいか明久。リーダーに必要なのは、いかなる時でも責任を負う覚悟だ。これだけは肝に銘じておけ」

「? うん」

 

 言うことは理解できるけど、なんで僕にそんなことを言うんだろう。ま、いいか。よく分からないけど雄二のやつ機嫌が良いみたいだし。

 

「えっと、まぁそんなわけで2つの腕輪はちゃんと持ち帰ってきたよ」

「あぁ。よくやった明久。それじゃ最後は姫路、お前たちの状況を報告してくれ」

「はいっ、分かりました」

 

 姫路さんが立ち上がり、元気に返事をする。彼女の雰囲気は以前と変わらない。けれど話し始めた姫路さんの言葉には、以前より力強さを感じるような気がした。この旅で何か得るものがあったのだろうか。

 

 姫路さんたちチームひみこの担当は腕輪3つ。結果から言うと、そのうち2つの入手に成功したそうだ。その2つはサラス王家に保管されていたらしく、洞窟に住み着いた魔獣の討伐およびレスター氏を連れてくるという交換条件により得たという。

 

 ……

 

 あれ? レスター? どこかで聞いたような?

 

(ねぇアキ、レスターさんって……)

「なんかどこかで聞いたよね。どこだっけ?」

 

 つい最近聞いたような気がするんだけど……と記憶を探っていると、美波が更に耳打ちしてきた。

 

(ほら、マクレガーさんのファッションショーよ)

 

「あぁ! レスターってあの出っ歯の人のファッショ――」

(バカっ! 声が大きいわよ!)

「むぐっ……」

 

 突然美波に口を塞がれる僕。し、しまった。ハルニア祭で遊んだことは皆に内緒なんだった……。

 

「レスターさんを知ってるんですか? 明久君」

「い、いや! えっと、その……ま、まぁね。ちょっと町でその名前を耳にしてね。あはははっ!」

「そうなんですか。世界的に有名なお方なのでハルニア国でも噂になっていたのかもしれませんね。ふふ……」

「そ、そうだね! あはははっ!」

 

 ふぅ。ヤバイヤバイ。余裕があったから美波とデートしてた、なんて知られたら何を言われるか分かったもんじゃないからな。

 

「ところで姫路。なぜ2つなんだ? 3つ目はどうした」

「えっと……それはですね……」

 

 雄二の問いに対して、姫路さんは答え辛そうに俯いた。何か事情がありそうだ。

 

「それは、なんだ? ハッキリ言え」

「えと……砂漠に……」

「砂漠? 砂漠がどうした」

「……」

「おい姫路、砂漠がどうしたってんだ。黙ってないで言え!」

 

 詰め寄る雄二。姫路さんは辛そうに俯き、唇を噛み締めて押し黙っている。これでは姫路さんが可哀想だ。

 

「……雄二」

「ん? なんだ翔子?」

「……そんなに強く言ってはダメ」

「強く……? お。そ、そうだな。すまん姫路」

 

 と思っていたら霧島さんが止めに入ってくれた。やれやれ。雄二のやつ、何を焦ってるんだ。

 

「雄二よ。続きはワシから説明しよう」

「あっ……木下君、私が……」

「よいのじゃ。ここはワシに任せい」

「……はい。お願いします」

 

 ここで姫路さんから秀吉にバトンタッチらしい。秀吉は事の経緯を語り始めた。

 

 サラス王家に保管されていたのは2つだけだったこと。残る1つが砂漠の藻屑と化していたこと。それを追って砂上船の船長に会いに行ったこと。その砂上船が運航停止状態であったこと。

 

 語り部口調でひとつひとつ、丁寧に説明していった。

 

「なるほど。そういうことだったか」

「やっぱり秀吉の説明は聞きやすいね」

「すみません。私、喋るのはそんなに得意じゃなくて……」

「あっ! 姫路さんの説明が聞きづらかったわけじゃないよ!? 大丈夫! 姫路さんの説明も上手だったから!」

「……吉井の言うとおり。瑞希はもっと自信を持っていい」

「そうですか? ……ありがとうございます」

 

 姫路さんは柔らかな微笑みを浮かべる。この感じ、やっぱりルミナさんとよく似てるな。

 

「しかし砂漠とはまいったな。それこそ砂漠から米粒を探すようなモンじゃねぇか」

「すみません……」

「謝る必要はねぇよ。お前のせいじゃねぇんだからな」

「それは……そうかもしれませんけど……」

「まぁ気にするな。それに米粒よりは遙かに大きいしな。ひとまず状況は大体把握した。皆、報告ご苦労だった。それじゃ集めた腕輪をテーブルに置いてくれ」

 

 僕は美波から預かっている腕輪と、湖で見つけた腕輪をテーブルに置いた。

 

「こっちは美波に反応したから違うと思うよ」

「分かった。姫路、お前のもここに置いてくれ」

「はい。これがサラス王家から頂いた物で……それから……これが明久君から頂いた腕輪です」

 

 姫路さんは3つの腕輪をテーブルの上に置いた。

 

「全部で5つだな」

「サラス王国で頂いた2つは木下君と土屋君に反応しました。だから白金の腕輪じゃないと思うんです」

「何? 本当か? 秀吉」

「んむ。片方はアクセル。もう片方はイリュージョンという文字が出ておった」

「美波のはサイクロンって文字が出てたよ。すっごい風を巻き起こすんだ」

「美波ちゃんは風の魔法使いというわけですね」

「それなら瑞希は火の魔法使いってとこかしら」

「そうかもしれませんね。ふふ……」

「明久、もう1つのはお前に反応したのか?」

「いや、それが僕にも美波にも反応しなかったんだ」

「ほう? なら可能性はあるな」

 

 5つのうち、4つは雄二以外の誰かに反応している。もし腕輪が1人につき1個あるのだとしたら、持っていない僕、雄二、霧島さんの誰かということになる。確率は3分の1だ。

 

「坂本、試してみてよ」

「言われるまでもねぇ。明久、どっちだ?」

「こっちだね」

 

 僕は湖で拾った腕輪を取り、雄二に手渡した。

 

「他の腕輪とデザインはまったく同じだな。どれ」

 

 雄二は腕輪を右腕に装着。サイズはぴったりのようだ。

 

「おぉっ!? 見るのじゃ! う、腕輪が光っておるぞ!」

「ほ、ホントだ!? 雄二! これって……!」

「あぁ! こいつぁ当たりかもしれねぇ!」

「坂本! 早く使ってみなさいよ!」

「確か腕輪の効果は装着しなきゃいけねぇんだよな。そんじゃ――試獣装着(サモン)!」

 

 雄二の足下から光の柱が吹き出し、一瞬にしてあいつの体を飲み込む。光はすぐに消え去り、中から白い特攻服を来たゴリラが姿を現した。

 

「間違いねぇ! 白金の腕輪だ!」

 

 一層輝きを増している腕輪を見ながら雄二が歓喜の声をあげる。

 

「やったぁーっ! ウチらこれで帰れるのね!」

「坂本君! 早く帰りましょう! 私たちの世界に!」

「おう! じゃあいくぜ!」

 

 皆が目を輝かせながら雄二を見守る。この不思議な世界に飛ばされて26日。やっと自分たちの世界に帰れる。この時、誰もがそう思っていた。

 

「――起動(アウェイクン)!」

 

 雄二が右腕を掲げ、声高らかに叫ぶ。

 

 

 ――ガコン

 

 

 どこからともなく、そんな音がした。

 その瞬間、視界が真っ暗になった。

 


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