東方帽子屋   作:納豆チーズV

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七.出くわすは二人目の猛者

 一昔前の繁華街と言った表現が妥当だろうか。道のあちこちで灯篭の火が煌めき、和風の街並みと合わさって暗闇の世界に一種の芸術を作り出している。人間嫌いだとか忌み嫌われる妖怪ばかりだとか聞いていたので地底にはどこか暗いイメージを抱いていたのだが、そこそこ活気立っているところを見て、その印象に若干の修正を施した。

 そんな都は視界の果てを越えて、余すことなく続いている。紫が言うには、地底界自体が地上の幻想郷と比べて圧倒的に広大であるらしい。同時に無法者ばかりだとも文句を漏らしていたが、順応さえしてしまえたら、もしかすれば地上よりも生きやすいところなのかもしれない。

 

「こいし、街の近くを飛びませんか? 初めて来る場所ですし、景色を眺めながら行きたいです」

「えー」

「ダメならいいです」

「どうせなら歩こうよ。中途半端はつまんないもん」

 

 と、こいしは俺の手を引いてさっさと街道に降りた。彼女の方から積極的に来てくれたことに少々驚いたものの、もしかしたら彼女のこの行動の裏には、自身の故郷を実際に歩いて知ってほしいという思いがあったのかもしれない。

 上から眺めるのと実際に見て歩くのとでは、やはり臨場感に違いがあった。

 そうして目的地である地霊殿へ向かいながらも、キョロキョロと都の観光を始める。当初のイメージ通り根暗っぽい妖怪もたくさん見かけたが、昼間のくせに――地底だから地上の時間帯なんて気にしないのかもしれないが――豪快に酒の飲み比べをしているような輩も多くいた。よく見たらそのほとんどが鬼だったけれど。

 聞くところによれば、かつて妖怪の山の頂点に君臨していた鬼たちは、この地獄が旧地獄へと変わると同時に住み移り、我が物顔で都市を築き始めたらしい。幻想郷に鬼がいないのも、実質的には今は天狗が山の実権を握っているのも、そうして急に鬼がいなくなったことが原因のようだ。

 

「しかしこんなに鬼がいるなんて、なんというか……よく考えたら恐ろしいところですね、地底って」

 

 吸血鬼異変の際、吸血鬼たちは地上でしか暴れることはなかった。もしもこの地底界へ侵入を試みたりなんてしていたら、紫や藍が出てくるまでもなくコテンパンにやられていたことだろう。

 

「そうだねぇ。あ、河童もいるよ? ほら、あそこ」

 

 こいしが指差す先には鋭い目線で客を眺める、片目に傷を負った一人の女性店主。腕を組み、どこか威圧感さえ放っていそうな雰囲気を纏う彼女は、妖力や魔力がさほど多くないだろうにも拘わらず凄味のようなものを感じさせてくる。

 

「……前に河童のバザーに行ったことあるんですけど、なんというか……私の知ってる河童と全然違うというか」

「地上の河童は平和ボケしてるんだよ」

 

 地上のカッパにも商売をやっておきながらなかなか口が悪いやつもいた記憶があるが、なるほど。不良とヤクザ、張りぼてと本物の違いとでも言うべきか。

 時々怒鳴るような大声が聞こえてきたりしてビクビクしつつも、地底独特の自由な雰囲気や景色を味わっていた。

 

「ん、こいし、あれはなんですか?」

 

 どこか広場のようなところに出て、多くの妖怪――主に鬼――が集まっているところを見つける。まるでなにか大きなものを囲むかのように不自然な形で密集しているようなので、なにがあるのかと妙に気になった。

 

「なんか最近流行ってるみたい。私はやったことないんだけど、どんな名前だったかなぁ。確か……サッカー、だっけ?」

「え」

 

 こいしが発した思いがけない単語に、体が硬直する。さらに予想外なことは重なるようで、それと同時に妖怪の人波が急に左右に分かれた。どうして、と。そんな考えを抱くよりも早く、事態は急速に展開する。

 流れ球か、とてつもない速度のサッカーボールが妖怪の集まりの中央を横切って、俺たちに直撃コースで迫ってきたのだ。なんて不運だ。突然のことに思考が停止する――直前に、こいしを守らなければという感情が単純な思考さえできなくなりかけた脳内を占める。

 半ば反射的にこいしの手を離し、その体を突き飛ばす。即座に俺もその場を離れようとして、しかしその頃には目前にまでサッカーボールが接近していた。

 咄嗟に両腕を顔の前で交差すると同時、強烈な衝撃がそれに襲いかかる。普通ならばここでボールが跳ね返って終わりなのだが、地底の妖怪が行うようなサッカーはそんな生易しいものではなかった。勢いの収まらないサッカーボールは両足で踏ん張る暇もなかった俺をふわりと浮かせ、力のままに後方へと突き飛ばした。

 刹那に視界が過ぎ去り、そして一瞬で止まる。突如背中から全身へと痛みと振動が走り、息が止まった。

 

「う……」

 

 けほっけほっ、と咳をする。シャットしかける頭を横に振ってどうにか持ち直し、よろよろと立ち上がった。

 どうやら幸運なことに俺が衝突したのは建物ではなく塀だったようだ。というか、よく見ると辺りの建物のほとんどに塀があった。なるほど、よくボールが飛んでくるから、それが当たらないようにしているのだろう。

 ……多少なりとも人間に近くなっているから、反応が遅れた。耐久力が下がっている。完全な吸血鬼の形態だったなら最初のサッカーボールは余裕を持って容易に受け止められたはずだし、この程度の激しさで塀にぶつかったところでわずかに怯みもしなかっただろう。もしかしたら人間化魔法は、俺が想像している以上に自身の弱体化に繋がっているのかもしれない。

 ざわざわと、騒々しさが辺りを占め始めた。頭に手を運び、仮面が外れていないことを確認して、ほっと息を吐いて周囲を見渡す。

 さきほどまでサッカーを観戦していた妖怪たちが物珍しげな様子で俺を観察していた。彼らの頭はおそらく、なぜ人間がこんなところにという疑問と、どうして今の一撃を人間が受けて無事なのかという疑惑に溢れていることだろう。

 こいしが人ごみの上を飛び越えて、俺に近づいてくるのが窺えた。いくら彼女の能力でもこれだけの人数に注目された状態で一気に注目を離せるとは思えない。いったんここを離れて、全員から視線を外した上でこいしに気配を消してもらわないと……。

 

「ありゃりゃ、誰かに当たってたか。そこのあんた、大丈夫?」

「……ええ、大丈夫です。気にしないでください」

 

 近寄ってきては俺のすぐそばに落ちていたサッカーボールを拾った鬼が、表情に興味の色を見せて俺の体を労わってくる。

 鬼を無視するのはいろいろとリスクが高いので反応したのだが、すぐにそのことを後悔した。

 

「あれ、レーツェル?」

「す、萃香……」

 

 捻じれくねった二本の長い角と、両手と腰に巻いた鎖と分銅が特徴的だ。無限に酒が出てくるらしい瓢箪を片手に持っている小さな鬼は、俺の姿を認めて訝しげに眼を細めた。

 

「な、なんでこんなところに萃香が?」

「いやいや、ここは鬼が住まうところだよ。私がいてもなんらおかしくない。そんなことよりレーツェルの方こそ、どうしてこんなところにいるのさ。なんかいつもより気配が弱々しいっていうか、翼ないし」

「えーっと、その……」

 

 さっさと身を翻して逃げればよかった。一度顔を合わせてしまったら、人攫いのエキスパートである鬼の中でも四天王とまで呼ばれた萃香から逃亡することはかなわないだろう。

 なにより萃香は俺が吸血鬼であることを知っている。このまま一緒にいたら、果てしなく都合の悪い事態に発展しかねない。

 

「ちょ、ちょっと用事があって地底に来てただけですよ。もう帰りますので、それじゃ」

 

 たとえ逃げ切れる可能性が低いとしても、逃げないでいるわけにはいかない。地上の妖怪である俺が侵入したことがバレるということは、紫に迷惑がかかると同時に幻想郷全体の問題に繋がるのだ。

 萃香に俺がいるところを見られてしまったが、実際に取り押さえられたりしたわけでないのならいくらでもやりようがある。萃香一人しか目撃者がいないのなら、見間違い等でどうとでもなる可能性はある。

 

「あ、ちょっと待っ――」

 

 萃香が俺に手を伸ばしてくる。能力で『密と疎を操る程度の能力』で直接萃められる『答え』をなくし、全力疾走をするために脚に力を込めた。

 しかしその瞬間、ぐいっ、と首根っこを誰かに掴まれる。

 

「待ちなさいな。人間のくせに萃香と知り合いだなんて面白い。このまま去るのは一旦やめてもらうよ」

 

 身長的に差があるのか、ふわりと体が二〇センチくらい浮かされた。

 問題は起こしたくなかったけど――右腕の肘に魔力と霊力を集め、背後にいる人物に全力で肘打ちをする。

 完全に不意をつけたかと思ったのだが、パシン、と。おそらくは俺の襟を持っているのとは逆の手で呆気なく受け止められた。

 

「大人しくしてもらおうか」

「いっ……!?」

 

 ミシミシと掴まれた肘が悲鳴を上げる。思わず苦悶の声が出て、策そうとしていた思考が強制的に遮断された。

 これはもう、どうにもできないか。さすがに諦めるしかない。

 そう思いかけたところで、最近聞き慣れた一人の少女の声がこの場に響いた。

 ――――ねぇ。

 

「なっ!?」

 

 背後にいた妖怪がなぜか俺から手を離し、体が地に落とされる。ふらつきながらもなんとか着地して、なにが起こったのかと周囲を見やった。

 俺を囲んで、守るようにして妖力で作られた茨と薔薇が咲き乱れている。少し離れた位置である萃香の隣に背の高い鬼の女性が警戒した様子でこちらを見据えており、おそらくは彼女が一度俺を捕らえた妖怪の正体なのだろう。

 上は前世で言う体操服のような簡素な服で、下半身は紅蓮のラインが入った半透明のロングスカートを着用している。金髪のロングに赤い瞳、手首には萃香と同様に手枷があるものの、分銅はついていない。そしてなによりも特徴的なのは、黄色い星が描かれた赤の一本角だ。

 

「レーチェルに手を出さないでよ。私の友達なんだから」

 

 茨と薔薇が空気に溶けて消え、ふわり、と俺の横にこいしが降りてきた。鋭い目線で一本角の鬼を睨んでおり、怪しい動きを見せたら容赦なく攻撃するという雰囲気が嫌でも伝わってくる。ここまで真剣で敵対的なこいしの顔は初めて見た。

 

「勇儀、やめなよ。これ以上やり合うとなると都が滅茶苦茶になりかねない」

「へえ、そんなにあの人間は強いのかい?」

「うん? レーツェルは人間じゃなくて吸血鬼だよ。こいしちゃんもそんな殺気立たないでってば」

 

 萃香が仲裁に入る。俺もこいしをどうにか宥め、それから両手を上げて相手側にももう逃げる意思がないことを示した。

 もうこれ以上抵抗するのは無意味に近い。大人しく投降するに限る。

 

「……そうだねぇ。なにか訳ありのようだし、ここで話をするには少々人目が多すぎるか」

 

 一本角の鬼――勇儀が辺りの人目の多さを確認し、肩を竦めた。「待ってろ」と俺に一言釘を刺し、彼女は萃香からボールを受け取って踵を返す。

 代わりに萃香が近寄って来て、俺の頭を小突いた。

 

「往生際が悪いわよ。素直に捕まっておけばよかったのに」

「……本来、地上の妖怪はここに来ちゃいけないんですよ」

「そうだねぇ。でもまぁ、悪いようにはしないって」

 

 それにしてもこいしちゃんと知り合いだったとはねぇ、と萃香がこいしに視線を向ける。萃香は鬼で、こいしも地底に住んでいるのだから、二人が知り合いでも驚きはしない。こいしは首を傾げていて、あんまり覚えていない風であるが。

 

「それで、あの鬼はなにをしに行ったんです?」

「ああ、サッカーをやってたからね。たぶん私と自分の途中退場を知らせてくるんじゃないかな。レーツェルと話をするために」

 

 ……やっぱり面倒なことになった。もう一度逃げ出そうとしたい気持ちに駆られながら、小さくため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 

「あっはっはっはっは、そうかそうか! あの時の地震はあんたと萃香が喧嘩してたからか! 通りで妙に血が滾ったわけだ!」

「もう二度と戦いたくありませんけど」

「えー。また今度戦おうって約束したじゃないか」

「してません。萃香が一方的に言ってるだけです」

「レーツェルって結構強かったんだねー」

 

 場所をカフェのような店に移動し、俺の隣にはこいし、向かい側には萃香と勇儀という席順で席についていた。二人の鬼は注文した酒を幾度と口に含み、俺をそれに誘ってくるが首を横に振る。この後に地霊殿に行くという用事が残っているのだ。酒が入った状態で友達の家に上がるのは失礼に当たる。

 

「それで、どうして人間になんて化けてるんだい? 萃香の言うことが本当なら、今とは比べ物にならないくらい強いんだろう?」

「本当だよ」

「……ここは地底ですから。吸血鬼のままじゃ、いろいろと問題があるでしょう」

「そういえば条約があったね。ま、決定的な証拠をさらさなきゃ破ったことにはならないさ」

 

 それは暗に「黙認してやるから話に付き合え」と言っているのだろうか。きっとそう言ってるのだろうな、とニヤケ面の勇儀を眺めつつ、ちょうど届いた紅茶のカップを手に取った。

 

「萃香と引き分けるくらいだからねぇ、なんだかワクワクしてきたよ。どう? 今度私とも勝負をしてみないかい? ここじゃいろいろと問題があるから、ちょっと外れの方でさ」

「鬼とはもう戦いたくないです。一発でもまともに受けたら戦闘不能確実ですし、戦ってる時いっつも笑ってて怖いですし」

「そりゃあ、強いやつとやり合うことが楽しくないわけがないからね」

「私は楽しくないですって」

 

 言い返しながら、うずうずとした様子の勇儀に目を向ける。

 彼女は伊吹萃香と同じく、鬼の中でも山の四天王の一人とされるほどの実力者なんだとか。萃香との勝負を思い返せば、彼女と同等クラスの力を備える勇儀と争って無事で済む保障がないことはすぐに理解できる。進んで神経を削るほど俺は被虐趣味ではない。

 

「そうそう、強いと言ったらあんたの隣の古明地こいし。本能で危険を感じなかったら間違いなくあの茨の攻撃を食らってたよ。私をむやみに攻め込ませないくらいの殺気を放てる割に、今はもう目を離せば見失ってしまいそうなくらい気配が薄い……本当はいったいどれくらい強いんだい?」

「私? 私はそんなに強くないよー。お姉ちゃんより強いのは確かだけどね」

 

 サトリが強いという話はあまり聞かないというか、そもそも妖怪の強弱の話題でサトリなんて名前はほとんど耳にしない。だからおそらくこいしの言っていることは真実なのだろうが、さきほど俺を助けてくれた彼女の雰囲気を思い出せば、そこらに溢れているような中級妖怪などとは一線を画していることは確かだった。

 そもそもこいしは存在感が希薄すぎるせいで、正しく強さを推し量ることができない。本来なら注意して観察するだけでもある程度の強さは察せられるはずなのだけど……。

 

「で、結局レーツェルはなにしに旧都に来たのさ。肝心なところ聞いてないよ」

 

 酒を飲み干し、あいかわらずの酔っぱらった声で萃香が俺に問いかけてくる。

 

「こいしの家に遊びに誘われたので、行く途中だったんです。なんかいきなりボールが飛んできて突き飛ばされましたけど」

「あ。レーチェル、あの時助けてくれてありがとうね」

「どういたしまして。あとレーツェルです」

「たぶん私反応できたけど」

 

 ……コメントしづらい一言が追加された。もしかしたらあの時、手を離さずにいた方が無事に済んでいたんじゃないか。そう思うも、すでに過ぎ去ったことにIFを求めてもしかたがない。

 

「あはははは! ぼーっとしてる方が悪い。当たる方が悪いんだよ」

「理不尽です」

「それが地底のルールさ。やられる方が悪い、やられたらやり返せ。単純でわかりやすいだろう?」

 

 勇儀は俺に、ボールを当てられて謝りもしないことにムカつくなら私にやり返せ、とでも言いたいのだろうか。きっと言っているのだろうな、とニヤケ面の彼女を眺めながら「やり返しませんよ」とだけ告げて、再度紅茶を口に運ぶ。やり返したらやり返したで一発は一発だとか吐かれて殴られるなりなんなりされるに決まってる。

 

「それでサトリの家となると、地霊殿か。いくら誘われたからってあんなところに自分から向かおうとするなんて、変わってるねぇ」

「なんでです? なにか悪い噂でもあるんですか?」

「悪い噂って、サトリが住んでるってこと自体が悪い噂じゃないか。心を読まれるなんて誰しもされたくなんてない」

 

 そう称する割に勇儀の言葉に悪感情は見受けられない。そのことを追及すると「鬼は正直だからね」と返ってきた。隠すようなことはない、ということか。

 

「それにしてもレーツェル、まだ悩んでるの?」

「悩んでるって、なんのことです?」

「ほら、両親殺したんだっけ? そのことだよ」

 

 勇儀の目が面白そうに細まり、こいしがパチパチと目を瞬かせて俺の顔を見る。余計なことを、と思いながら萃香を睨むと、彼女はニヤリと悪気のある表情を浮かべることでそれに答えた。

 

「だから悩んでなんていませんって。今回もこいしが呼んでくれたので行くって言ったばっかじゃないですか」

「あいかわらず嘘ばっかりだねぇ。いや、半分は本当なのかな。でも残りの半分は違う」

 

 彼女もまた、あいかわらず俺のすべてを見透かしているかのような口調で語りかけてくる。

 

「前よりはうまく隠せてるけど、まだまだなっちゃいない。レーツェルは今、期待を抱いてる。心が読めるというサトリなら自分の寂しさに絶対に気づいてくれるって、きっと自分の気持ちを察してくれるって――」

「ごちそうさまでしたっ」

 

 これ以上萃香と話していたら気分が悪くなるのは明白だ。かつて萃香と戦うような事態になったのもどうしてかイライラしたのが原因だし、このままじゃあの時の二の舞になる。

 というか、これは萃香の挑発だ。地底なら幻想郷での紫の約束なんて関係ないから、俺を怒らせてその気にさせて、勝負にまで話を持っていこうとしている。これから地霊殿に向かうという用事があるのだからそれに乗っかるわけにはいかない。

 行きましょう、とこいしの手を取ってさっさと二人の鬼に背を向ける。「振られちゃったねぇ」と勇儀が萃香に笑いかけてるのが後方から聞こえてきた。

 金は、たぶん萃香と勇儀が払ってくれるだろう。

 カフェらしき店を出て、こいしに向き直った。

 

「こいし、さっさと地霊殿に行きましょうか。歩いてるとまた不運に襲われるかもしれないので、今度はきちんと飛んで」

「りょーかーい」

 

 地霊殿は旧都の中央にあるらしい。そしてそちらに向かえば向かうほどに、見かける妖怪は少なくなっていく。

 中央近くに嫌われるような妖怪が多くいるからか、それとは別の要因があるのか。

 なんだかんだで歩いている時に結構進んでいたようで、目的の建物はすぐに視界の奥に見えてきた。

 ポツンと建てられた洋風の屋敷はあまり和風の都と似合っていない。


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