東方帽子屋   作:納豆チーズV

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一一.幽冥楼閣の亡霊少女

「やっぱりあんたか。で、あの転がってるあれはなに? あんたがやったの?」

「やっぱり私よ。もちろん私がやったわ。あれは春を、あなたがその袖の中に入れている桜の花びらを集めていたみたいね。あとは西行妖を満開にしたいとか言っていたわ」

「花びらか。私も帽子に入れて持って来てるぜ。というかあのちっこいのが元凶なのか? なんかひ弱そうだけど」

「違うでしょうね。おそらくあれは召使いかなにか……ただ、黒幕はこの先にいると見て間違いないはずよ」

 

 屋敷の門を眺め、咲夜が言う。三人とも妖夢のことをナチュラルに「あれ」扱いしていて割とひどい。いつものことではあるが。

 霊夢と魔理沙が屋敷の方に向き直ったので、俺も改めて正対してみた。妖怪としての気を張り巡らせて、この先にあるはずの西行妖の妖力へと意識を向ける。

 

「……これは」

 

 封印を解こうとしていることも影響しているのか、かなり濃厚な死の気配を纏った妖力が感じ取れた。ぶるりと震え、即座に頬に触れて無表情であることを確認することで、湧き上がったゾクリとした感覚(恐怖)を押しとどめる。

 紫にもどうにもできないくらいとはどれほどのものなのかと思っていたけれど、吸血鬼である俺がここまでの危険を感じ取ってしまうほどか。思い返せば、転生してからは生命の危機に対する恐怖を味わったことは幼い頃に飛行を失敗した時しかなかった気がする。あまりにも純粋な死の色が宿った妖力――さすがは、数多の人々を幾度となく死へと誘った桜と言うべきだ。

 ふと、これはまずいんじゃないかという思考が頭の中を駆け巡る。

 いざとなれば俺がどうにかするつもりだった。確かに多少のトラブルなら吸血鬼の俺がいれば対処はできるであろうが、もしもなにか不都合が起こって西行妖が復活してしまった場合はどうだろう。遠くに在っても俺に畏れを抱かせるほどの妖怪桜だ。おそらく能力を使えばある程度は無力化できるとは思うけれど、人間である霊夢と魔理沙、咲夜が近くにいて平気だとはとても思えない。

 

「……霊夢、魔理沙、咲夜」

「なに?」

「なんだ?」

「どうしました? レーツェルお嬢さま」

 

 なにが最善だ? ここで三人を冥界から帰らせることか、全員で西行妖のもとへ向かうことか。

 前者にした場合は、当然ながらフランに危ないことはさせられないので、異変の解決を俺だけで行うことになる。全員の危険を考えるとこれが一番最善だとは思うのだが、元々異変解決のために来た人間のお三方がそう簡単に受け入れてくれるとは思えない。霊夢と魔理沙は頑として譲らないだろうし、咲夜も急に帰ってくれと言い出した俺を訝しむに決まってる。

 スペルカードを挑んで無理矢理に追い返すか? いや、さすがに三人を同時に打倒できるほど力があると己惚れてはいない。それならばなんでも言うことを聞いてくれると約束したフランと一緒に……ダメだ。あれは形だけのものなのだ。俺の自分勝手な考えに大切な妹を利用するなんて論外である。

 言葉だけでは追い返せない、弾幕ごっこで勝てない――すなわち、前者を選ぶなら少なからず『ルール』を破る必要がある。能力で契約を無効化し、全力を持ってして全員を相手にする必要がある。その後はさらに元凶と対峙しなければいけないわけで、異変を解決できる確率も大幅に下がってしまう。

 

「桜の花びらを、すべて私にくれませんか? 影で飲み込んで消し去ります」

 

 ここは後者の『全員で西行妖のもとへ向かう』選択をしよう。原作通りなら西行妖は、それを封印し続けている人物と現在封印を解こうとしている人物が同一(・・)である以上は復活しない……はずだ。とは言え原作で平気だったのだから大丈夫だろうという考えは、吸血鬼異変という前例があるので気安く抱くことはできない。それでも今回の異変は俺はあまり関係していないし、原作以上に状況を悪くしなければ大丈夫だと思う。

 ただし、万が一のことも考えて桜の花びらだけは消去しておくべきだ。用心はできるだけしているに越したことはない。

 咲夜は快く渡してくれたが、霊夢と魔理沙には渋られた。なので霊夢にはコタツの件、魔理沙には返還期限を過ぎても本を返さなかった時のこと――パチュリーが怒っていたので、俺が出向いてスペルカードでボコボコにした――をだしにする。正直、こういうことは好きではないのだが、今回ばかりは利用させてもらう。

 二人もまた、しかたがないかという気持ちがありありと出た表情で、桜の花びらを渡してくれた。集めた花びらをまとめて周囲の影で飲み込む。冥界は薄暗く、大量に影があったので非常に助かった。

 同化。飲み込んだすべてを影へと変換し、霧散させた。

 

「これで、西行妖が復活する可能性はなくなったわけです。安心して異変解決に臨めますね」

 

 安心の気持ちを乗せて放った俺の一言に、霊夢と魔理沙が口を尖らせる。

 

「結構綺麗だったのになぁ……」

「お前さんは吸血鬼だってのにちょっと怯えすぎじゃないか? 西行妖ってのがなんなのかは知らんが、聞く限りだとどうせただの桜の木なんだろ?」

 

 霊夢は単純に名残惜しそうに、魔理沙はせっかく集めていた桜を消されたからか不満げに、それぞれ言葉を漏らした。

 そんな二人をフランが「ふんっ」と鼻で笑う。というよりも、どこか少しだけ怒っているように見えた。

 

「お姉さまは万が一、億が一にもあなたたちを死なせたくないから言い出したのよ? そんな文句を言うのはお門違いだわ」

「だからその慎重さが臆病だって言ってるんだ。人間なんて妖怪と違っていつでもどこでもあっという間に死ぬもんだぜ。私も霊夢もそれを承知の上でいろいろ行動してるんだからな。花びら集めもその一つだ」

「いや、私は別に死にたがりじゃないけど」

「死にやすいことと死んでいることには天と地ほどの差があるわ」

「天なんて飛んでいけばすぐに届くぜ」

 

 魔理沙の言う通り、妖怪よりも強い人間はおれど、妖怪よりも丈夫な人間はいない。いつだって予期せぬことで命を落としてしまう危険が付き纏い、そして幻想郷という妖怪が闊歩する世界では人間は常に死を意識して生きているのだろう。

 霊夢たちからしてみればレミリアとの勝負も命がけで、それをわかっていてもなお挑んでいたのだ。今更命の危険があるからと言って引き下がる選択肢があるはずもない。今回の俺のお節介だって、本当にただ迷惑なだけなのだろう。

 でも、それでいい。

 俺がどうなろうと、俺がどう思われようと知ったことではない。それだけで霊夢たちを危険から遠ざけられるのなら安いものである。いくらでも傷つくし、いくらでも嫌われよう。俺自身は幸せじゃなくても構わない。

 今回は正史への影響を最低限に抑え、今後の異変のためにいくらかの危機は享受しなければいけないが、いつなにが起きてもいいように俺がここにいるのだ。それに元々、霊夢たちの力ならばおそらくは俺がいなくても突破できるだろう。

 

「フラン、そんなにカッカしないでください。私は気にしてませんから」

「……私は気にする」

「フラン」

「お姉さまは魔理沙たちのことを心配して言ったのに、それを迷惑だとか怯えすぎだとか文句しか言わないなんて気に入らない! お姉さまはなんにも悪くないのにっ!」

 

 マズイ――あと一歩で元凶にたどりつく、異変解決の一歩だというのに仲間割れなんてしていては。

 

「魔理沙! 霊夢! 私と弾幕ごっこで勝負よ! お姉さまは正しい……私が勝ったら、お姉さまに謝ってもらうから!」

「ってことは……いつかの二対二での引き分けの決着をここでつけるってことでいいのか? はっ、それなら私は別に構わないぜ。お前らに勝つために、私もいくつか新しいスペルカードを開発してきたんだ」

「ちょっと、私は参加しないわよ? レーツェル、悪かったわ。今年は全然桜を見なかったから名残惜しくて……」

「私が勝手にしたことですから。それより、私はフランを止めるので霊夢は魔理沙の方をお願いします。敵の本拠地(こんなところ)で喧嘩なんて洒落になりません」

 

 頷いた霊夢とともに、それぞれの相方を止めに行こうとして、咲夜に「レーツェルお嬢さま、あちらを」と止められた。

 こんな時になにが、と言われた通りに咲夜が注意を向けている方向へ目をやってみる。屋敷の敷地内へと続く、開かれた両開きの扉があった。そこから、ひたりひたりと一人の女性がこちらに歩み寄ってきている。

 目の前の騒ぎに対処することに頭がいっぱいで、今の今まで気づけなかった。目を凝らして何者なのかを確認し、舌打ちを漏らしたい気分になる。

 

「あらあら、面白いことになってるじゃない」

 

 聞き慣れないその声に、俺と咲夜以外の視線も彼女へと集まった。

 桃色の髪を揺らして歩きながら、同色のその瞳は楽しそうなものを眺めているように細まっている。口元は手に持つ蝶の扇子で覆い隠してはいるものの、笑っていることは火を見るよりも明らかだ。

 桜花の模様が施された淡い水色の着物を身に纏い、頭にはナイトキャップを被っている。特徴的なのはその帽子に、死に装束に使われるような白布の三角頭巾が巻かれているところだ。

 幽冥楼閣の亡霊少女、西行寺幽々子。西行妖を満開にさせるために幻想郷から春を奪い、今もなお春度を集め続けている今回の異変の元凶である。

 

「……あんたが黒幕か」

 

 チラリと魔理沙を見て、しかし霊夢は幽々子に対応する方が優先順位が高いと判断したらしい。向き直ると、いつでもお札を取り出せるような態勢で問いかけた。

 

「どうしてそう思ったのかしら?」

「吸血鬼が二人もいるのに平気そうに近づいてくるやつなんて、よほどのバカか実力に自信があるやつのどちらかに限られてるのよ。どうせ幻想郷から春を奪ったの、あんたでしょう?」

「そうよ。西行妖を満開にしたくてねぇ……そう、まだまだ春が足りないのよ。あなた、花びらは持っていないの? あとほんの少しの春があれば満開にさせられるはずなのだけど」

 

 魔理沙とフランは、今のところは休戦にするということでそれぞれ落ちついたようだ。頭に血が上った状態でも、異変を巻き起こせるほどの力を備えている者を前にして身内同士で争い続けるのは愚策だとわかっているらしい。

 後々がまた大変であろうが、今ここで争われるよりはずっといい。なにせ相手は西行寺幽々子、人間も妖怪も関係なしにすべての生命を終焉へと誘う『死を操る程度の能力』を備えた亡霊の姫君なのだ。

 

「それは悪いわね。さっきそこの吸血鬼が全部消しちゃったわよ」

「あら、もうちょっと早く来ればよかったのね」

 

 幽々子の視線がこちらを向いた。怒っているのか、訝しんでいるのか。ずっと笑っているせいでなにを考えているかわからない。

 

「西行妖の危険性にこの距離から気づいて、復活させないためにいち早く消去したのかしら。やってくれたわねぇ、歴史のない新参の悪魔風情が」

「……歴史以前に肉体すらない亡霊に文句なんて言われたくありません」

「うふふ、肉体なんてなくても大して困らないわ。それにどう言い返そうと、あなたが西行妖を畏れて桜を消した事実は変わらない。人に恐怖を与える妖怪のはずのあなたが、ね」

「恐怖なんて私の前ではなんの意味も持ちません。すべてを無に帰す私の能力は恐怖だけでなく、死という究極の終わりでさえもなくしてしまいますから」

 

 霊夢と魔理沙が驚いた顔でこちらを見たのが横目で窺えた。そういえば、二人には俺の能力のことを話したことがなかった気がする。教えずにいる理由もないので、もしも今度聞かれたら答えてあげることにしよう。

 俺の返答に、幽々子の笑みが消えた。扇子を閉じ、まるでなにかを見通すようにじっと俺を凝視してくる。

 

「……吸血鬼。あなた、名前は?」

「レーツェル・スカーレットです」

「私は西行寺幽々子よ。レーツェル・スカーレット……なるほど、あなたが紫が言っていた『私に勝利した妖怪』ね。そのずっと変わらない表情に翼の特徴、両方とも聞いた話と一致してるわ」

 

 幽々子と紫。この二人が知り合いであることは原作からの知識であらかじめ知っていた。

 しかし、紫は俺のことまで教えていたのか。紫が油断していたからどうにかなっただけなのに。

 

「いえ、あれはたまたま」

「偶然で勝てるほど紫は弱くないわよ。そして、私もね」

 

 その瞬間、ズズ、と空気が変わった。幽々子から溢れ出した莫大な霊力が解き放たれ、辺りの重力が何倍にも膨れ上がったような気分を味わった。

 西行妖とは八雲紫ですらどうにもできなかった妖怪桜であり、西行妖を封印しているのは西行寺幽々子の死体である。備えた能力の関連性や存在を持ってしての封印等のいくつかの優位条件はあれど、妖怪の賢者ですら手も足も出なかった西行妖を封印した事実は変わらない。

 ひたり、と幽々子が一歩を踏み出した。実際には普通に歩いただけなのだけれど、どうにも時間が遅く感じる。辺りを埋め尽くす冷たい力が俺の警戒心を高め、無意識に集中してしまっているのだ。

 先手を打たれてはたまらない。まずはなにが来てもいいように体内の魔力を循環させ、能力と弾幕の準備を――。

 

「待ちなさい」

 

 そんな一触即発の空気をぶった切ったのは、呆れたと言った顔をしている霊夢であった。幽々子が放つ異様な霊力をものともせず、俺と幽々子を結ぶ直線の間に歩いてきては陣取ってくる。

 

「私が先に戦うわ。異変解決は私の仕事だもの。レーツェルは私を応援してくれていればそれでいい」

「え? ですが」

「ですがじゃない。私は、最初からそのつもりだった。それに、先に戦うって言ってるだけで戦わせないとは言ってないわよ。私がやられてからあなたが戦えばいいのよ」

 

 負けるつもりなんて欠片もないくせに、よく言う。

 とは言え、よくよく思い返せば元々俺もそのつもりだったはずだ。思っていたよりも幽々子が強そうで、ちょっと強張ってしまっただけである。

 当初の予定通り、基本は正史を重視して、霊夢たちが危なくなったら俺が出張ってどうにかすることにしよう。紫の知り合いなのだから、幻想郷の外である冥界の住人と言っても、弾幕ごっこの体裁は保ってくれるとは思う。

 

「おいおい、私も戦うぜ。霊夢こそ応援してろよな。私の後にやらせてやるから」

「あんたはフランとのバトルが待ってるでしょうが。それともなに? この亡霊と戦った後に吸血鬼と全力でやり合えるほどの力が残ってると思う?」

「……それを言われちゃ、思わないと言うしかないな。フラン、勝負は明日とかじゃダメか?」

「ふざけてるの?」

「だよなぁ……ちくしょう、いくら桜を問答無用で消されたからって、悪気どころか善意しかなかったんだから素直に謝っておくべきだったぜ……」

 

 正直な話、フランが俺のことで怒るなんてまったく想定していなかったので、俺も相当混乱していた。どう対処すればいいのかわからないので、俺としては魔理沙と戦って丸く収まるのならばそれに越したことはないと考えていたりもする。

 悔しそうに表情を歪める魔理沙を見ては幽々子が笑みを浮かべ、扇子を広げた。

 

「そうねぇ。妖夢、妖夢ー。そんなところで寝てないで、そろそろ起きなさい」

「……う、うぅん……幽々子、さま?」

 

 倒れていた少女の名前を幽々子が呼ぶと、それがトリガーとなってか咲夜に飛ばされていた意識が元ってきたらしい。寝ぼけ眼で薄く瞼を開けて、幽々子の後に俺たちの姿を視界に入れて、目を見開いて飛び起きた。

 

「ッ! 申しわけありません、幽々子さま! 侵入者にやられて――」

「そんなの見ればわかるわよ。そうじゃなくて、私と一緒に戦ってもらえる?」

「は? 一緒に、ですか?」

「ええ、そう。一緒に。ちなみに拒否権はないわ」

「疑問形なのにですか……」

 

 最低限のことを話し終えた幽々子が、「どう?」と今度は俺たちの方に向く。「これでこちらも二人よ。そこの黒白と紅白、一緒にかかってきなさいな」。

 

「お、いいのか?」

「だからあんたはダメだっつってんでしょうが。今はよくても後で死ぬわよ」

「でも誘われたぜ」

「あんたがいてもいなくてもどうせ大して変わんないわよ。私一人で十分」

「ほほう? 霊夢は先日私に負けたじゃないか。忘れたわけじゃないだろ?」

「勝率は断然私の方が上じゃないの。まぐれ勝ちなんてなんの意味もないわ」

「実力だぜ。私の全力がお前を上回ったんだ」

「あら、それなら私は全力じゃなかったわ。あの日はちょっと調子が悪くてねぇ」

「私も調子が悪かったぜ」

「嘘つけ」

「嘘つきは霊夢だろ」

 

 敵を前にしてぎゃーぎゃーと言い合う二人。幽々子は相変わらず面白そうに、妖夢は目を点にして眺めている。

 そろそろ仲裁に入ろうかと思った矢先、俺の横を咲夜が通りすぎて行った。

 

「それなら魔理沙の代わりに私がやらせてもらうわ。倒れてた方は一度倒してるから役に立つと思うわよ」

「あー、まぁ、一緒に戦うなら魔理沙よりあんたの方がいいかも。五十歩百歩だけど」

 

 そりゃないぜ、と魔理沙が口を尖らせる。その後も言い合いが少しばかり続いたが、最終的には霊夢と咲夜が幽々子と妖夢の二人を相手にするという結論に落ちついたようだった。

 咲夜は、俺とフランに向き直ると「申しわけありません」と頭を下げた。

 

「咲夜」

「どうか、ここは私に任せてくださいませんか? 紅魔館のメイドとして、恥ずべき結果は決して残しません」

 

 確かに、吸血鬼でさえも捉えることが難しい一撃を防ぎ、妖夢を下した咲夜ならば十中八九平気であろう。それでもどうしても心配してしまうのは最早クセというか、習性というか。

 咲夜は十分に信頼できる。それも霊夢と組むのだから、きっと大丈夫だ。そう自分に言い聞かせて、こくりと咲夜に頷きを返した。

 

「ですが……恥ずべき結果だとか、どうでもいいですから、絶対に無事に帰ってきてください」

「ええ、もちろんですわ。ありがとうございます、レーツェルお嬢さま」

 

 咲夜が背を向けて歩いていき、霊夢の隣に並んだ。

 

「……よかったの? お姉さま」

「咲夜なら平気ですよ」

「まぁ、私もそう思うけどねー」

 

 咲夜が代わりに出ることに未だ難色を示す魔理沙と、少しばかり不機嫌そうな自分の妹を引きつれて、勝負に巻き込まれない位置まで歩いて移動する。

 いざ本当に危ない事態になりかけた時は『光の翼』で突っ込むつもりなので、事前に衝撃波やら反動やらの『答え』をなくしておく。霊夢と咲夜の二人ならば幽々子と妖夢にも勝てると思うけれど、念のためだ。

 

「さて、幻想郷の春を返してもらおうかしら」

「そうね。返して貰おうかしら、暖気を」

「最初からそう言えばいいのに」

「えっと、なんだか状況がよくわからないけど……とにかく、この侵入者どもを倒せばいいのね?」

 

 四人がそれぞれ空へと飛び上がった。霊夢は手にお札を、周囲に二つの陰陽玉を浮かべ、咲夜は両手にナイフを構える。

 幽々子は変わらず扇子を広げたまま。妖夢は二刀の柄に手をかけて、いつでも抜ける態勢を取った。

 

「花の下に還るがいいわ、春の亡霊と半分幽霊!」

「花の下で眠るがいいわ、紅白の蝶に悪魔の犬!」

「必ず地上で花見を行うわ、姫の亡骸とその従者!」

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまりない!」


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