東方帽子屋   作:納豆チーズV

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後日談その三。緋想天におけるレーツェルくんの気質が吸血鬼からしてみるとあまりにひどすぎて引きこもっているしかないお話。
実は緋想天要素は前半の五分の一くらいしかないのは内緒。


三.天気雨の如く揺らぐ心模様

 すでに梅雨の時期はとっくに過ぎ去り、今では暑い夏に突入している。雨が多く降る時期も、日差しが異様に強いくせに夜の時間までも短くなってしまう時期も、吸血鬼にとってはいい迷惑以外のなにものでもない。

 俺は紅魔館のテラスで、傘を差しながらぼうっと空を眺めていた。

 どう見ても晴れている。太陽が爛々と顔を見せている、はずだ。見ようとすると瞳を焼かれるから直視はできないけれど、日の光がそこら中に落ちてきていることは直接見ずとも明白だった。

 そのはずなのに、どういうわけか、日差しと一緒にざぁざぁと騒がしく雨も一緒に降ってきている。日光と流水という吸血鬼への弱点二連コンボだ。日光は日傘や霖之助製ローブでどうにかなるにせよ、雨の方は今の俺ではさすがにどうにもできない。傘で多少は防げようが、もしも吹き飛んでしまったりすれば目も当てられないから出かけられない。

 『答えをなくす程度の能力』を持っていた頃なら簡単に対処できたのだけど、と嘆息する。俺にはあまりに過ぎた力だったが、便利だったことには変わりないのだ。

 

「まだ力があれば、私も今回の異変の解決に尽力できたんですが」

 

 日光や流水の弱点を無力化さえできれば間違いなく出かけられる。昔の俺なら、必ずそれを行っていたことだろう。

 この晴れたまま雨が降っているという現象は、ここ数か月間俺の周りでずっと起こり続けていた。梅雨の時期から、外に出ようとするといきなり空が晴れ、そのくせして雨が降ってくる。こういう天気のことを狐の嫁入りだとか、天気雨だとかいうらしい。

 確か、と思い返そうとしてみる。この異変は、その人の気質だとかなんだとかが表に出て、その人の周りが常にその天気になってしまうという感じの異変だったはずだ。平行して博麗神社が壊れたり、再建したと思ったらまた壊れたりすることが記憶にあるが、今がどういう状態なのかは紅魔館を出ることができない俺に確かめるすべはない。

 前世の記憶が他の記憶と同じものになってしまってから、すでに半年。まだ完全に忘れたわけではないが、原作知識もずいぶんと曖昧になってきてしまっていた。

 

「異変解決は人間の仕事。早く霊夢が異変を終わらせてくれることを願って、私は今日も館に閉じこもっているとしましょうか」

 

 身を翻すと、俺はテラスから館の内部へ戻った。最近は大図書館でレミリアが咲夜と探偵ごっこをしているので、俺はもっぱらフランとボードゲームやらカードゲームやら弾幕ごっこやらをして遊んでいる。

 それにしても……俺の気質は天気雨か。雨が地面にたどりつくよりも先に雲がどこかへ行ってしまった結果に起こる、本来はごくごく短い時間にしか訪れないという変わった天気。

 なんとなく妥当であるような気もしていた。

 かつては常に無表情をこの顔に貼りつけてすべての自らの感情に嘘をつき続けてきた俺だが、今はもう自分の感情をごまかすことができない。それがたとえ快晴のように晴れやかな喜びだろうと、雨のようにどんよりとした悲しみだろうと、雲も誰ももうなにも隠してくれない。拒絶も目をそらすことも許されず、すべてを受け入れることでしか前に進めなくなってしまった。

 もしも未だ俺が能力を持ったまま、レミリアたちに救われていなかったら、この俺の気質とやらは変わっていたのだろうか。

 なんだかほんの少しだけ、そんなことが気になった。

 

 

 

 

 

 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 

「お姉さま、最近元気ないねぇ」

「え?」

 

 フランの部屋で、なにをするでもなく二人でぼーっと寝転がっていたら、ふいとフランがそんなことを言ってきた。

 むくりっ、と視界の端でフランが上半身を起こしたのが見える。唐突な質問に彼女は目をぱちぱちとさせている俺に、こてんと首を傾けてみせた。

 

「やっぱり、その天気雨とかいうやつのせいで、あのさとりとかいう変な目の妖怪のところに遊びに行けてないから?」

「……どうでしょう。確かに最近は会いに行こうとしても会えませんし、ちょっと寂しい気はするかもしれません」

 

 俺の感情はもはや俺の制御の意思など関係なしに表情に出てきてしまう。これまでどうにか矯正しようかとかげでいろいろやってもみたのだが、未だ成果はない。

 フランからみて最近の俺は元気がないように見えるということは、きっとそうなのだろう。かつて自分自身を騙しすぎた影響で、たまに自分がなにを感じているのかすらわからなくなってしまうこともある俺よりも、俺のことをよく見てくれているレミリアやフランなどの方がきっと俺の感情をわかってくれている。

 

「お姉さまさぁ」

 

 四つん這いでフランが俺の方に近づいてくる。俺の頭のすぐそばで止まると、寝転んだままの俺の顔を覗き込んできた。

 なんだかどこか、不満そうな表情をしているようにも見える。

 

「あのさとりって妖怪のこと好きなの?」

 

 うん? と今度は俺が小首を傾げた。

 

「そりゃあ好きですけど。親友ですし」

「や、そういう意味じゃなくて」

「こいしだって、もちろんフランのこともそれ以上に好きですよ?」

「う、うん。それは嬉しいんだけど」

 

 フランの翼がぱたぱたと意味もなく動いていた。これは、彼女が恥ずかしがっていたりはしゃいでいたりする証拠だ。

 俺の視線に気がついたのか、彼女は翼を自分の体の影に入るようにして意図的に隠してきた。最近に至って、彼女はようやく自分の感情が翼に現れてしまうことがあることに気がついたらしい。俺が彼女の後ろの方に視線をやっていることに気づくと、いつも翼を隠そうとしてくる。

 

「あの、えっと、親愛だとかなんだとか、そういう意味じゃなくて……こう、恋愛的な意味で、とか……」

 

 もじもじと、段々としぼんでいく言葉。けれどこの静かな部屋で、吸血鬼として高い聴力を備える俺からしてみれば、容易に聞き取れる声量だった。

 

「恋愛、ですか。うーん……」

 

 さとりの姿を頭の中に思い浮かべてみる。半眼で、本のおかげで実はいろいろと博識で、俺の相談相手になってくれたりして。かつて俺が起こした異変以来は、以前以上に無邪気な笑顔をよく見せてくれるようになった彼女。

 親愛的な意味で、さとりのことが好きなことは間違いない。それは自信を持って言える。

 でも恋愛的な意味でどうか、と言われれば口をつぐまざるをえない。たまに彼女の微笑みに見惚れることはあるけれど、それが直接的に恋だとかなんだとかには繋がらない。というかそういうことは、まだこの幼い体には早過ぎると思うのだ。それ以前にそもそも性別が一緒だし。

 俺の表情から、フランも俺がさとりへは特に恋愛的感情は抱いていないことを察したらしい。ほっ、と安心したように息を吐いた後、けれどまた引き締めてはずいっと顔を近づけて次の質問を投げ出してくる。

 

「じゃあ、こいしは? お姉さま、こいしのことはどう思ってるの?」

「こいしですか?」

 

 さとりと同じようにこいしのことも思い浮かべてみる。いつも楽しそうに笑みを浮かべていて、突拍子もない言動で周囲を驚かせたり楽しませたり。無垢で無邪気で天真爛漫な彼女は、そばにいるだけでいつもこちらを笑顔にしてくれる。

 こちらは考え込まなくともすぐに答えは出た。

 

「こいしは手のかかる妹とか、後輩みたいな感じですよ。一緒にいると元気をもらえるみたいでとっても楽しいですけど、恋愛とは違う気がします」

「ふぅむ……」

「あ、妹とは言っても、フランが手のかからないだとかそういうわけじゃないですよ。手のかかるって言うと失礼かもしれないですけど……私がなにかしたらフランが喜んでくれるのが嬉しくて、私が勝手にやってるだけですから」

「だ、だから私のことはいいってっ」

 

 本心のままに笑顔を浮かべてみせると、彼女はこそばゆいと感じたのか、頬を赤らめてさっと視線をそらしてきた。もう彼女との付き合いも五〇〇年近くになるのに、こういう反応は未だ初々しいまま変わらない。

 にやにやと微笑ましいものを見るような目で眺めてしまっていたらしい。フランはむっと頬を膨らませると、恨めしげに俺を睨みながら額を突いてくる。地味に痛かった。

 

「じゃあ、えっと……レミリアお姉さま、は?」

 

 三回目の問いかけは、とても自信なさげに、不安げに行われた。

 どうしてフランがこの質問をするのにこんな顔をしてしまうのかは、俺にはどうも見当がつかない。だけど、真剣に聞いてきているという雰囲気は察していた。だから俺も同じように真面目に考えてみる。

 レミリア。かつてこの世界に生まれ落ちたばかりの俺にとって、彼女は唯一の救いの光だった。

 ただ泣きわめくだけでなんの価値もなかったはずのまがい物だった俺に、生きようと思う意思を与えてくれた。自分も辛いくせに、悲痛に沈みかけた俺を強く、優しく抱きしめてくれた。暗い暗い海の底に沈んだ俺を引き上げようと何百年も必死に頑張ってくれていた。

 初めて彼女をお姉さまと呼んだ日、どこまでもくだらなくも、単純で、あまりにも優しい見栄を張る彼女に、強い憧れと恋にも似た思いを抱いたことを覚えている。

 その感情は今も変わらない。俺は彼女に姉としても家族としても、異性としても好意を抱いている。

 

「……好きですよ。親愛的な意味でももちろんですけど、恋愛的な意味でも」

「そう……やっぱりそうなんだ」

「……ただ」

 

 しぼんだように目を伏せるフラン。どうして彼女が落ち込んでしまっているのかはわからないが、けれど俺の心にも、同じように不安や恐怖といった念が大量に生まれ出てきていた。

 

「お姉さまは、こんな私を受け入れてくれるでしょうか」

「え?」

「だって、姉妹ですよ。それにほら、よく考えなくても異性じゃないですし、性別一緒ですし……私は前世があれなので、そんな気はあんまりしないんですけど、お姉さまは違うじゃないですか。だから……もしも拒絶されたり、気持ち悪がられたりしたら……あはは。何年か、何十年かは立ち直れなさそうですね、その時は」

 

 呆然としているフランを、ふと、俺も弾かれたように見つめ返した。

 

「フランは……私のこと、気持ちが悪いとか思いますか? お姉さまが親愛以外の気持ちでも好きだって言う私に、引いたりしませんか?」

「……お姉さまってさぁ。もしかしていつもそんなくだらないこと考えてたの? もうお姉さまに隠しごとなんてできやしないのに……なんでいつも、今もそうやって、自分一人でいろんなこと抱え込もうとするのかなぁ」

「ふ、フラン?」

 

 フランの肩がわなわなと震えていた。怒っている? なんで?

 彼女は俺の肩をその両手で強く掴み、床に押しつけると、自身の体を素早く動かして俺の上に馬乗りになってきた。急なことに一切反応できず、されるがままになってしまう。

 

「お姉さま、四つ目の質問よ。さとりやこいし、レミリアお姉さまはわかった。でも、私のことはどう思ってるの?」

「ふ、フラン? えぇっと、なにか嫌に思うこと言ったなら謝りますから……その、そんなに怒らないでほしいというか」

「いいから答えて」

 

 有無を言わさないフランの視線に、思わず「は、はい」と答えてしまった。なにがなんなのかわからないが、彼女が考えてみろと言うのなら、そうしてみよう。

 フランドール・スカーレット。彼女の姿は、頭の中に思い浮かべるまでもない。いま目の前にいる少女こそがフランなのだから。

 生まれた時からずっと甘えん坊で、こいしと同じくらい天真爛漫で、俺のこともよく思ってくれている。かつて両親や義理の母をその手にかけたのはフラン自身だけれど、きっと今の理性的な彼女が同じ頃に戻ったりすれば、あんなことを意味もなくしでかすことはしないだろう。俺もレミリアも、フランに対して怨みや憎しみと言った感情は一切抱いていない。

 レミリアと同じように五〇〇年近くの時を一緒に過ごしてきて、なににも代えがたい愛情を抱いていることは自覚している。俺をめいっぱいに慕ってくれる、たった一人の妹なのだ。大切に思わないわけがない。

 でも、それが恋なのかと聞かれれば、俺は。

 

「フランのことは、好きです。大好きです。心の底から愛してます。でも、それが恋愛だとか異性的な意味だとかと聞かれると……わかりません」

「そう。お姉さまの気持ちはそうなのね。それじゃあ次は、私の気持ちを言うわ」

「え?」

「私はね」

 

 少しだけ言いよどんで、けれど次に俺をまっすぐに見据えてきた時には、その目に強い意志のようなものが宿っているような気がした。

 

「お姉さまのことが好きよ。大好き。心の底から愛してる。それは親愛的な意味でもそうだし……恋愛的な意味合いとしてもそう」

「ふ、フラン……?」

「お姉さまはこんな私を気持ち悪いと思う? 嫌いだとかなんだとか、そんな風に感じる?」

 

 初めは困惑してしまっていたが、ここに至って、ようやくフランがなにを言いたいのかを理解できた。

 俺が「お姉さまが好きな私は気持ち悪いんですか?」なんていかにも不安そうに聞いてしまったものだから、だったら、逆に聞かれる立場になったらどう思うのか。俺が抱いた気持ちが、自分のそれと同じなのだと。彼女はそう伝えたいのだ。

 その『答え』はすぐに出た。

 

「気持ち悪いなんて、思うはずありません。嫌いになんてなるわけがありません。フランのことは、変わらずずっと好きなままです」

「……うん。そう、たとえなにを言われようがなにをされようが、()()()()ずっと好きなまま。それは私もおんなじなの。だからお姉さま」

 

 ずいっ、と彼女が俺の顔に自分のそれを近づけてきた。瞳の奥底まで覗き込めそうなほどに接近し、俺の視界いっぱいに、フランの宝石のように綺麗な紅色の瞳が広がる。

 

「もう嫌いになるだとかなんだとか、あんなこと言うのはやめて。そんな程度のことで私がお姉さまを嫌いになるだなんて、少しも思ったりしないで。じゃないと、お姉さまが相手でも私は容赦しないよ」

「……ふふ。怖い、ですね。もしもそうなったら、私はいったいなにをされるんでしょうか」

「少しだけ体験してみる? 今、ここで」

「遠慮しておきます。命も心も、まだ……いえ。今はもう、私にとって惜しいものなんですから」

 

 俺の命か、心か。フランは、そのどちらを壊すか選択を迫られて、それでもそれが気に入らないものだったから、その選択肢自体をぶち壊して第三の『答え』を選んでくれた。

 チカラを壊された時に感じた悲痛は、この世のどんな痛みよりも耐えがたいものだったことを覚えている。地獄の熱さだとか、無へと転化する恐怖だとか、そんな生易しいものじゃない。レミリアが抱きしめてくれなければ、どんな手段を用いてでも必ず自分を殺していただろう。命も、心も、そんな区別もなく。

 でも――。

 ふいと、気がついた。

 俺はこの世に生まれ落ちた時、その心をレミリアに救われた。くだらなくも、子どもっぽくも、誰よりも単純で純真だった見栄に、ただただ憧れた。

 俺が異変を起こした時も最後は彼女に助けられたように感じたけれど、もしかしたら、今の俺を創り出してくれたのは本当はフランだったのかもしれない。

 レミリアが抱きしめてくれた感覚が嘘だとは思わない。むしろなによりも大切なものだったと感じている。

 でも、願いを込めるしかできなかったレミリアとは違って、フランはその手で選ぶことができたはずなんだ。前世の記憶をなにもかも忘れて、今の俺みたいに心にわずかだろうと悔恨なんて抱えていない、前に進むレーツェル・スカーレットの未来を。

 俺は今も悩み続けている。今俺がしていることが正しいのかどうか。能力を失ったことが本当にいいことだったのか、どうか。心の底では、まだ完全には判断がつかないでいる。

 優柔不断なんだ。いつだって。

 異変を起こす時だって、その一年前にはもう準備が整っていたのに、まだレミリアたちともっと一緒にいたいなんて思ってしまって、無駄に長引かせてしまって。結局その異変だって、未来を見たくないがために起こしただけのまったく意味をなさないもので。

 あの日から強くなろうとがんばると決めたけれど、まだ俺はこんなにもどうしようもない。フランは、こんな俺で満足してくれるのだろうか――いや。

 こういう思考をするなと言われたんだっけか。

 なんとなく、苦笑がこぼれ出た。

 

「ありがとうございます、フラン。少し、元気が出てきてきました」

「ん」

 

 フランが俺の上に馬乗りになっていたのをやめて、俺のすぐ隣に寝転がった。

 自然と会話が終わって、また、ぼーっと天井を眺めるだけの時間が続きそうになる。五〇〇年近くも一緒に過ごしていると、たまにやることがなくて、こうしてなにもしないで転がっているだけという日が、幻想郷に来る前はしょっちゅうあった。ここ数か月は外に出れておらず、もっぱらフランと一緒に過ごしていることもあって、久しぶりにフランと一緒に床に寝ているだけのことを何度かしていた。

 そういえば、と思う。なんとはなしに、フランの方に顔を向ける。

 

「あの……フラン」

「うん? なにー?」

 

 なんとなく神妙な風に声をかけてしまったが、彼女はいつも通り気軽に返事をしてくる。その空気が逆に俺が問いかけようとする事柄を邪魔しようとしてくるが、どうにか振り切って、遅々として進まないながらもしっかりとそれを口にした。

 

「さっきの、その……恋愛的な意味合いで私のことが好き、って……本気、なんですか?」

 

 フランが、俺に聞かれた時にどんな気持ちを抱いたかを伝えたいことはわかった。気持ち悪いなんて思わない、嫌いになんて感じない。だとすれば、それを伝えてくれるために言った俺へと向けたあの言葉は、彼女にとって本気だったのかどうか。

 どうにも判断がつかないでいる俺を、フランは目を瞬かせて見つめていた。そしてしばらくすると、くすくすと口元を押さえて笑い出す。

 

「さぁ、どうかしら。お姉さまはほんっとうに鈍感の天然だもんねぇ。本とかに登場人物として出てたら思わずムカついちゃうだろうくらい。雰囲気に流されやすかったりもするしー? ふふ、お姉さまはどっちだと思う?」

「わ、わかりませんよ。わからないから聞いてるんです」

「じゃあ私もわかんなーい。お姉さまにわかんないことが私にわかるわけないもん」

「そんな嘘が――」

「でもねぇ」

 

 俺の言葉を遮って、いつもの無邪気なものとは少し違った、小悪魔じみた満面の笑みをフランは俺に見せてきた。

 

「お姉さまのことが大好きなのはほんとよ。それこそ心の底からね」

「む、むぐぅ」

 

 そんなことを直球で言われたら、もう、それを疑うようなことを問いただすことはできなくなってしまう。

 からかいにからかわれたせいで、結局フランが本当はどう思っているかを知ることができなかった。少しだけ不満げにため息を吐いて、体の向きを元に戻すと天井を見つめ直した。

 初めに俺を救ってくれたのはレミリアで。この五〇〇年、彼女は俺のためにずっとがんばってくれていて。

 でも、あの異変の時に俺のために一番がんばって、俺を本当の意味で救ってくれたのは、きっとフランで。

 いつもはこうしてぼーっとしていると穏やかな気分になれるはずなのに、どうしてか今は、いろんなことを考え込んでしまって、胸のうちがもやもやと落ちつかなかった。

 俺のことを大好きだと言った、さっきの小悪魔じみたフランの笑顔が頭の中から離れない。

 今、俺はどんな顔をしてしまっているんだろうか。俺にはわからない。でも、フランにはわかってしまうかもしれない。

 それがなんだか異様にこっ恥ずかしくて、寝転がったままフランに背を向けると、顔を隠すように両手を当てる。

 手のひらで触れた頬が、なんだかいつもより熱を持っているような気がした。




なんだこのムカつく鈍感系主人公、からの変化球……になってるといいなと思ってます(ーωー )
次回更新は2月25日。実はレーツェルくんの誕生日だったり。

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