第5話「戦極凌馬の手記」
【2013年10月6日、研究室にて】
※ユグドラシルタワー上部、戦極凌馬の研究室にて、呉島貴虎の手により、焼け残りが奇跡的に発見された。
想定の範囲外だ。
本日は、モルモット第1号である角居裕也にシドが戦極ドライバーを渡し、その後、私が市内の監視映像をモニタリング、そしてドライバーから送られてくるデータを解析する、という手筈になっていた。
そちらは滞りなく進み、全て想定の範囲内だった。
改めて私の才能に戦慄した。戦慄凌馬だ。
その後が問題だった。角居裕也と、その友人・葛葉紘汰の前に、クラックが開いていたのだ。
彼らはクラックの中に入ってゆき、葛葉紘汰は、ヘルヘイム果実をあろうことか肛門から摂取した。
葛葉紘汰は、知性を保ったままインベスになった。
その発想は無かった。
その発想は無かった。
なぜ、今までその視点を損なっていたのだろう。
私が求める禁断の果実―それを制御するために、私はドライバーを開発してきた。
もしも肛門からの摂取により、ヘルヘイム果実の力だけを引き出すことができるのならば、ドライバーなどもう必要無い。
その後、彼らはシドが許せない、という旨のことを叫ぶと、クラックから一目散に飛び出していった。
監視映像によると、その後、シドも同様に尻から果実を摂取し、述べ17個摂取したところで息を引き取った。
亡骸はこちらで回収した。
うん、どこからどう見てもインベスだった。
彼が生涯童貞を貫いたことと、それに因んで彼に与える予定だったロックシードの名前を借り、このインベスには「チェリーインベス」と名付けた。
なお、彼はプロジェクト・アークの全容とオーバーロードの件、そして彼の野望と私がホモだという旨のことを叫んでいたが、まあ誰も気に留めないだろう。
何はともあれ、葛葉紘汰(同行していた角居裕也のロックシードに因み、「オレンジインベス」と名付けた)の動向に注視する必要がある。
貴虎を使って捕獲するのが手っ取り早いのだが、彼にこの件が知れたら、全人類総インベス化計画などと言い出しかねない。
プロジェクト・アナルなどと言い出しかねない。
率先してインベスになりかねない。
その場合、シドの例に倣って「メロンインベス」だろうか。
すぐに脱線するのがいけない。
私の悪い癖だ。
幸い、オレンジインベスに遭遇した者は、彼を葛葉紘汰として認識しているようで、今のところ大きな騒ぎにはなっていない。
それも意味がわからない話なのだが、ここに関しては深く考えたら本当に頭がおかしくなると思ったので、考えないことにした。
とにかく、貴虎には伏せたまま、上手く対処にあたらなくては。
スカラー兵器、もしくはマスターインテリジェントシステムの発動も視野に入れなくてはならない。
湊くんにこの件を相談してみた。
森でのオレンジインベスとチェリーインベスの蛮行の映像を見せたところ、「彼こそが王の器…」などと呟き、小刻みに痙攣していた。
こいつ頭おかしいんじゃねえの?
今日はもう寝る。
【2013年10月7日、脱出ロケット内部にて】
※精神的に追い詰められた戦極凌馬が、ロケットに積んであったノートに記入。
想定の範囲外だ。
こんなものを書いている場合ではないのかもしれないが、書いてまとめないと頭がおかしくなりそうだ。
まず、朝一番で湊くんからの辞表が机の上に置いてあるのを発見したのだが、それはもうどうでもいい。
オレンジインベスがユグドラシルに襲撃をかけてきた。
何アイツ、マジ怖い。
正面から堂々と乗り込んできて、狙い済ましたかのように私の研究室にやってきた。
お前が戦極凌馬か、とすぐさま私のズボンを脱がしにかかり、ここからは俺のステージだ、という旨のことを叫ぶと、私の尻にヘルヘイム果実をねじ込んだ。
―――パンツを履かない習慣が仇となった。
もう一枚あれば、もう少し違っただろう。
かくして私はインベスになってしまった。
この人、本当に何がしたいんだろうと、朦朧とした意識の中で考えていたら、貴虎が助けに来た。
なお、貴虎はしっかり私を私と認識した。何なのこの現象。
貴虎がオレンジインベスの相手をしている隙に、私は脱出ロケットで逃げることにした。
(当該の場面をユグドラシルタワー基部に転送された監視映像から抜粋)
―――凌馬!何をしている!
―――貴虎…
―――こいつを捕らえるぞ!お前も戦え!
―――ていうか…
―――あ?
―――ていうか…
―――ていうか、なんだ!
―――ていうかフォーエバー
(ロケット発射)
―――凌馬ァァァ!!!
―――私の計画がぁぁぁ!
お陰さまで私の計画がおじゃんだ。
こんな何の準備も出来ていない状態でロケットを使う羽目になるとは思わなかった。
書いてまとめたら余計に頭が痛くなってきた。
しばらく何も考えたくない。
このままずっとフワフワと空を飛んでいたい。
領空侵犯で狙撃されませんように。
今日はもう寝る。
つづく