仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

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第42話「答え合わせ」

―――裕也は去った。

紘汰は、戦いでボロボロに傷付いたその身体を、雨から庇おうともせずに、冷たいアスファルトに座り込んでいる。

 

「裕也…」

 

―――夢だったのだろうか。

何かの幻だったのだろうか。

死んだはずの裕也が目の前に現れ、また、消えていった。

クラックの向こう側へと。

 

違う。

夢幻じゃない。

紘汰は、確かに、裕也の体温を感じた。

確かに、裕也は、ここにいた。

 

恐らく、裕也は、追い掛けたところで追い付けない場所へ、行ってしまった。

紘汰の直感がそう告げている。

このままここでじっとしていれば、もう、二度と、裕也に会うことは出来ない。

そんな予感もまた、紘汰の頭をもたげていた。

 

だが、追い掛けたとて、

―――何ができるだろうか。

 

何が起きているかは、皆目検討が付かなかったが、裕也の言わんとしていたこと、そして裕也が言わなかったことを、なんとなく、察することができた。

それは、煉獄に干渉した彼の無意識がそう教えていたのか、それとも、裕也との、所謂"絆"がそうさせたのか、それは、わからない。

 

裕也は、決死の覚悟でここを後にした。

その想いは、痛いほどに伝わってきた。

だから、紘汰は、―――動けなくなっていた。

 

「葛葉!」

 

紘汰は、背後から、聞き慣れた声を耳にする。

声の主は、傷だらけの鎧で走ってくる、―――アーマードライダーバロン。

駆紋戒斗だった。

戒斗は、紘汰の傍らに立つ。

 

「戒斗」

 

「葛葉、奴はどうした」

 

「ああ…」

 

奴。

フレズベルグのことだ。

フレズベルグなら………

 

「裕也が、倒した」

 

「なに?」

 

「裕也が、あいつの中から出てきたんだ」

 

「…鎧武の、元リーダーの、角居のことか?」

 

「ああ」

 

戒斗は、もう周囲に敵がいないことを確認すると、変身を解除する。

現れた素顔は、己の吐いた血液に汚れ、また、怪訝な顔を浮かべてもいた。

 

裕也の行方不明について、戒斗は、ことの真相を紘汰たちに問い質したことは無かったが、状況や彼らの言動から鑑みて、自ずと、ある程度の推測は立てていた。

角居裕也もまた、インベスとなって死んだのだろう、と。

もしくは、ヘルヘイムの森でインベスに殺された。

いずれにせよ、まず生きてはいないであろう、その角居裕也が、あの怪物の中から現れたと言うのだ。

 

「それで、角居はどうした」

 

「裕也は―――」

 

 

 

「角居裕也は、煉獄に向かった」

 

 

―――声がした。

かつて彼らが視聴していた、ネット配信の番組、"ビートライダーホットライン"のメインパーソナリティの、声。

ヘルヘイム騒動が加速する中、しばしば現れ、彼らを焚き付けるような言動を繰り返した、その声。

 

サガラが、いつの間にか、彼らの視界の端に立っていた。

 

「サガラ」

 

「貴様、何をしに来た」

 

「駆紋戒斗。悪いが、今回は、お前は蚊帳の外だな」

 

「なんだと」

 

「サガラ!何か知ってるのか?」

 

紘汰は、呻き声を上げながら立ち上がり、サガラに歩み寄ってゆく。

 

「そう、今回は、おまえの問題と言えるだろうな、葛葉紘汰」

 

「どういうことだ、説明してくれ、サガラ!」

 

「まあ待て、少し込み入った話になる。順を追って話そうじゃないか」

 

サガラはここで、一見、人懐っこい笑顔を浮かべ、そして、こう続けた。

 

「―――答え合わせ、だな」

 

雨足が、少し弱まった。

 

「………さっさと始めてくれ」

 

対する紘汰は、真剣そのものの眼差しで、サガラを見上げた。

サガラは、あいよ、と言うと、"答え合わせ"を始める。

 

「―――まず、これは理屈抜きで納得しろ。ヘルヘイムの森には、"煉獄"がある」

 

「煉獄?」

 

「ああ。まあ、おまえたちに合わせて、便宜上、そう呼んでるだけだ。―――噛み砕いて言うと、ヘルヘイム果実を喰ってインベスになり、そして死んだ知的生命体、その魂が集められた場所だ」

 

「魂って…」

 

「何のためにあるのかは知らん。いつから存在するのかもわからん。ただ、とにかく、ある。今はその意味を考えるな。まず、それを受け入れろ」

 

「………ああ」

 

「これはわかったな?じゃあ、次行くぞ」

 

戒斗は、腕を組んで沈黙を守っている。

蚊帳の外、という言葉がトサカに来ているのだろうか、痛む身体を休めようともしなかった。

 

サガラが、続ける。

 

「そこには、"煉獄の樹"と呼ばれる大樹があり、そこに住まう魔物がいる。そいつの名は、"ラタトスク"」

 

「ラタトスク…」

 

「おまえたちがさっき戦ったフレズベルグと、同種の存在だ。また、ラタトスクは煉獄の樹、そのものでもあり、煉獄の樹は、煉獄そのものだ」

 

「つまり…どういうことだよ」

 

「そのままさ。色々名前が上がったが、全て同じ存在、ってことだ。…それで、ラタトスクは、自我を持ってるんだな。ただ、極端だ」

 

「極端?」

 

「ラタトスクには、生存の欲求しかない。生きるためにしか生きていない。そういう存在だ。おまえたちには、考えが及ばないだろうな」

 

「…生きるためにしか、生きてない」

 

「そうだ。ここで、さっきの話に戻る。煉獄には、インベスになって死んだ者の魂が集まる。その魂だけが、ラタトスクの糧となるんだ」

 

「な、なんだよ、それ」

 

「おまえたち人間が動植物を食うようにだ。ラタトスクの主食は、インベスになり、死んだ者の魂。わかりやすく言えば、そういうことになる」

 

「おい、待てよ、なんでだ、なんで、そんな―――」

 

「これも、理屈抜きで飲み込め。理由は俺も知らんよ。…続けるぞ。正確に言うと、ラタトスクは、魂を食ってるわけじゃない。放っといたらすぐに消滅する死者の魂を、自らの中で保護し、その対価として、栄養分を吸い上げている。それは、尽きることのないエネルギーさ。人類がこれまで成し得ていない、いわば、永久機関だな」

 

「………つ、つまり、裕也も、初瀬も」

 

「ああ。二人とも、今はラタトスクの栄養分さ。ラタトスクの中にいる限り、魂は消滅を許されない。ただ、存在そのものを搾られるような苦痛、それを、これから先、ラタトスクが存在する限り、ずっと味わい続けることになる」

 

「な、なんだよ、それッ!おかしいだろッ!」

 

紘汰が、サガラの胸ぐらを掴もうとするが、ひょいとかわされ、その腕は空を切る。

サガラは、余裕綽々の表情だ。

 

「そうか?本当なら消えてるところを、ラタトスクが助けてるとも言えるんだぜ。痛みしかなくても、支配の中でも、存在だけは許されてる。必要とされているんだ。それは、ある意味で、幸せとも言えるんじゃないか?」

 

「そんな筈があるかッ!死んじまった後まで、苦しみ続けるなんて、そんなッ―――」

 

「…話が進まない。今は聞け。いいな?…で、ラタトスクはだな、さっきも言ったが、自分が生きてさえいりゃいいんだ。実のところ、その苗床は、魂ひとつもありゃ足りる。何せ、永久機関だからな。それだけで、ラタトスクは生きられる。なのに、インベスになって死んだ魂を、ラタトスクは、一つ残らずかき集めてんだ。どうしてだと思う?」

 

「………知らねえよ」

 

「わからねえよな。…怖いんだよ」

 

「怖い?」

 

「ああ。一つだけじゃ足りないかもしれない、二つだけじゃ足りないかもしれない、そう言って気が付いたら大所帯だ。保険、ってやつだな。備えあれば憂いなし。お陰で、ラタトスクは、何をするでも無いのに、巨大な力を得た。オーバーロードに匹敵する、いや、超える力だ。無数の魂を苗床に、ラタトスクは"進化"した。―――だが、それだけだ。ラタトスクには、外敵がいなかった。そりゃそうだよな、ただひとり、煉獄に閉じ籠ってて、生きた存在は相手にしないんだから。たまに、外の様子を伺いに出るようにはなったが、その頃には、奴の命を脅かす者はいなかった。力の上でなら拮抗する者もいたが、その場合、向こうにラタトスクと戦う理由が無かった。なにせ、生者にとっては全くの無害なんだからな。まあ、デェムシュなんかはケンカを売ったもんだが、ラタトスクには、まるで及ばなかった」

 

「デェムシュ…あいつを…」

 

「だが、そんなラタトスクに、生まれて初めての外敵が現れた。なあ、そいつは、誰だと思う?」

 

「…誰だよ」

 

「―――アーマードライダー鎧武。おまえだよ、葛葉紘汰。ラタトスクは、今日、おまえを倒すために、フレズベルグという分身を創りだし、はるばる、この世界まで遣わしたってわけだ」

 

紘汰は、困惑の表情を浮かべる。

―――それもそのはず、紘汰は、

 

「おまえは、無意識のうちに、ラタトスクを脅かしてたんだ」

 

「どういうことだよ!わけわかんねえぞ!」

 

「俺がお前に渡した、鍵のロックシード」

 

紘汰は、回想する。

サガラ曰く、オーバーロードになるための力、世界を己の色に染め上げる力。

―――極ロックシード。

腰の戦極ドライバーに付いたままだ。

それが、どうしたというのか。

 

「どうやら、そいつの力が、おまえの預かり知らぬところで暴発したらしい。おまえの無意識の願望を汲み取ってな」

 

「俺の、願望?」

 

「おまえがその力に手を出したとき、心に描いた想いは、なんだ?」

 

―――思い出すまでもない。

 

『俺は前に進む。そう裕也に誓ったんだ!』

 

二度と、裕也の悲劇を繰り返してしまわぬように、紘汰は、極アームズへの初めての変身で、その決意を新たにしたのだ。

 

「そうだな、角居裕也、そして初瀬亮二のことだろう。自分を、何かを生かすために生じた犠牲、おまえはそれを心に想い、変身した。だが、わかるか、人が過去を想う時、どれだけ振り切ったつもりでいようと、消せない想いがある」

 

「………何が言いたいんだよ」

 

「"もしも"」

 

サガラは、そう言うと、少し間を空けて、続けた。

 

「もしも、角居裕也が、初瀬亮二がインベスにならなかったら。そう考えたことが、ないとは言えないだろう」

 

「…そりゃ、」

 

そうだけど。

紘汰は、顔を落とす。

でも、それを考えていたら、前には進めなかった。

もしも、ifを考えていたら、目の前の大切なものを守れなかった。

世界が、状況が、紘汰にそれを許さなかった。

 

「だが、おまえはその想いを抑え付けてきた。目の前の敵と戦うためにだ。想いはやがて肥大化し、おまえのなかに、一つの世界を描くに至った」

 

「一つの、世界」

 

「あるいは、それは夢として、おまえの意識に上ることがあったかもしれない。だが、少なくともおまえは、現実としてそれを認識することがなかった、そんな世界だ。―――わかるか」

 

夢。

そう言われて、紘汰は思い出す。

 

 

 

―――初瀬の死、そして裕也の真相を知ってから、暫くの間、紘汰は悪夢に苛まれた。

その時々によって違いはあったが、おおまかに言うと、初瀬や裕也が紘汰の目の前でインベスになり、それを、変身した紘汰が倒す。

そんな夢だった。

 

舞に裕也の件を打ち明けてから、少し心が軽くなったこともあってか、悪夢は鳴りを潜めた。

その代わりに、違う夢を、よく見るようになった。

 

それは、裕也も、初瀬も、インベスになることなく、人間として暮らすことが出来る、そんな夢だった。

 

「―――心当たりがあるようだな。その夢は、"反転"していなかったか?」

 

反転。

 

そうだ。

 

インベスになった裕也と初瀬が、人間として。

そして、アーマードライダーとして。

だが、その代わりに、紘汰自身を含む、アーマードライダーとなった者たちが、皆、

―――夢の中で、インベスになっていた。

紘汰は、少しずつ思い出しながら、サガラにそれを伝える。

 

「おまえの中では、象徴的なことの筈だ。本来、その戦極ドライバーのオーナーとして選ばれたのは、角居裕也だった。その角居裕也がインベスになり、おまえがアーマードライダーになった。―――逆になる可能性もあった、そう考えたことがあるだろう」

 

サガラの言うことは、正しかった。

紘汰は、心のどこかで、そうだったら良かった、と望んでもいたのだから。

自分と裕也が、逆ならよかった。

自分が死ねばよかった。

そのような想いが、紘汰に、その夢を見させていた。

 

また、その夢には、もう一つ、特別なことがあった。

 

 

 

舞が、いないのだ。

舞だけが、いつも出てこない。

 

 

 

「―――それは、おまえの中で、角居裕也と高司舞が、二者択一の存在だからだろうな」

 

サガラは、言う。

 

紘汰は、舞を守るために、裕也の命を奪った。

裕也と戦わなければ、代わりに舞が死んでいた。

 

―――それもまた、紘汰の中、確かにある想いだった。

 

「思い出してきたみたいだな。話を進めるぞ。―――それで、その、鍵のロックシードは、ヘルヘイムの森、そのものに関わる力を持っている。おまえが初めてそれを使うとき、おまえの無意識と共鳴し、暴発した。そして、煉獄の扉を、開いたんだ」

 

「それで、何が起こったんだ!」

 

「それは、世界を己の色に染め上げる力。この場合にも、例外じゃあない。―――おまえは、角居たちの魂の在りか、煉獄を感じ取り、それを塗り替えることで、心に抱いた夢の世界を、現実のものにしようとしたんだ」

 

紘汰には、信じられなかった。

自分が、無意識にそんなことをしていただなんて。

叫びたい衝動に駆られたが、サガラの視線から無言の圧力を感じ、なんとか抑える。

 

「一つの世界の創世だ。おまえの意識から離れたその力は、この沢芽市の過去、そして今のあらゆる情報を取り込んだ。そして、ラタトスクの中から、角居裕也と初瀬亮二の魂を引っ張り出して、煉獄を、無理矢理、沢芽市のレプリカに塗り替えようとした。ラタトスクは、当然、抵抗した。だが、勝ったのはおまえだ。ラタトスクは封じ込められ、おまえの理想郷は完成した」

 

「そんなことって…」

 

「そんなことができるのが、おまえに与えられた力だ。―――ラタトスクの抵抗は、全くの無意味だったわけじゃあない。それは世界のところどころに綻びを生み、その偽物の沢芽市は、矛盾や理不尽、不条理に満ちた、ある種のタガが外れた世界になった。偽物の沢芽市を守るために、おまえは、自らの偽物に、そのロックシードの合鍵を託し、世界の管理を任せた。だが、結局、その綻びから、少しずつ偽物の沢芽市は崩壊した。こちらの世界におけるアーマードライダーたちの偽物を残して、―――これはイメージの強さの問題だろうな―――住人は徐々に消え、やがて世界としての体裁を保てなくなって、ラタトスクは甦った」

 

サガラは、喋り疲れる様子もなく、大袈裟な身ぶり手振りを交えながら、続ける。

 

「ラタトスクは、それが怖かったのさ。―――自分の世界を、煉獄を、無理矢理に抑え付けて、塗り替えてしまえるような、おまえの力が。だから、奴はおまえを倒すために、あのフレズベルグを遣わしたのさ」

 

「…待てよ、じゃあ、一体裕也は、どうなったんだ!さっき現れた裕也は…」

 

「角居裕也は、偽物の沢芽市の崩壊に伴って、再びラタトスクに吸収された。だが、おまえの偽物が角居に託した合鍵を使って、ラタトスク―――この場合はフレズベルグだったが、その中から一時的に脱出することに成功した。それが、おまえの見た光景だよ」

 

「じゃあ、あの裕也は、ほんとうに―――」

 

「ああ。おまえの知る、角居裕也だ」

 

紘汰は、それを改めて確信し、安堵の笑みを浮かべたのも束の間、

―――顔を引き締めて、サガラに問う。

 

「―――それで、裕也は、何をしようとしてるんだ」

 

「おまえにしては察しがいいじゃないか。大体、おまえの予想通りだよ」

 

「…ああ」

 

ここまでの話で、裕也がすることは、もう、ひとつしか無いだろう。

 

「ラタトスクを、倒しに行ったんだな」

 

「そうだ。ラタトスクを葬れば、奴に囚われた魂は、全て、一緒に消滅する。角居裕也も、初瀬亮二も」

 

「………そうか」

 

「意外だな。おまえなら、もう一度、煉獄を作り替えると言い出すかと思ったんだが」

 

「………そんなこと、できないよ」

 

「ほう?」

 

「やり方がまるでわからないし、何より、」

 

―――そんなこと、裕也が、望むはずないだろ。

 

どうあれ、裕也は、誰かに守られて、生かされるような世界を望む奴じゃないんだ。

それが、俺の創った偽物の世界でも、ラタトスクの煉獄でも。

それは、馬鹿な俺でも、わかるから。

 

「………なんて、頭ではわかってても、心がわかってないから、こんなことになったのかもしんねえけど」

 

「なら、おまえはこれからどうする?」

 

サガラが、真剣な顔付きで、紘汰に問う。

 

「鍵は開けられてしまった。たとえ無意識であろうと、おまえが開いた扉だ。その中で、角居裕也も、初瀬亮二も、偽物の駆紋戒斗や呉島光実たちも、そして葛葉紘汰も、それぞれがもがき、それぞれの戦いを選んだ。わかるか、それぞれが選んだことなんだ、だから、おまえが、それに罪悪感を感じる必要は無い。責任も糞も本当はありゃしない。角居裕也が勝てば、放っといても煉獄は消える。角居裕也が負ければ、ラタトスクがまたおまえを潰しに来るだろうが、おまえはきっと、もう、ラタトスクには負けない。それだけのことだ。どっちにしろ、煉獄は消えるだろうよ。それなら、おまえは、どうする?」

 

「………俺は…」

 

「どう落とし前を付ける?葛葉紘汰。―――おまえだけに、訊いてるんだ。どう壊すのか。どうやって、煉獄を終わらせるのか」

 

「―――戒斗」

 

紘汰は、戒斗の方を振り向いた。

 

「少しの間、皆を頼むよ」

 

「ふん。精々、死なんようにな」

 

「ああ」

 

戒斗は、踵を返し、コートを翻しながら、その場を後にした。

怪我のせいか、覚束ない足取りが心配であったが、紘汰は、意識を切り替えた。

 

「サガラ」

 

「なんだ?」

 

「どうして、俺にこのことを教えてくれた?」

 

「………なんだ、裏を疑ってんのか?前にも言ったが、俺は、100%の善意で動いてるわけじゃないさ。俺にも俺の目的がある」

 

「それは、なんだ」

 

「…言っても、わからないだろうよ。ただ、何のためにあるか、わからないようなものならば、無くても一緒じゃねえか?無駄を削ぎ落とすのも、進化のひとつだ。森も、進化する必要がある」

 

「ああ、まるでわかんねえ」

 

「だろ。………行くのか?」

 

「ああ」

 

「そうか。それなら、こいつは餞別だ」

 

サガラは、何か、新しいロックシードを紘汰に差し出す。

 

「このロックシードは―――」

 

「いらねえ」

 

紘汰は、サガラの目を見て、ハッキリと言い放った。

 

サガラは、紘汰のその目の中に、覚悟を感じ取った。

今、持てる限りの力で。

今、自分の中にあるだけのもので、戦う。

それも、一つの覚悟だ。

 

「―――そうかい。それなら、今回は、道案内だけだ」

 

サガラはそう言うと、クラックを開いた。

その奥は、ヘルヘイムの森ではなく、何か、薄暗いトンネルのようになっていた。

 

「煉獄直通のトンネルを開いてやった。ここをひたすら走れ。その先が煉獄だ。鍵のロックシードがあれば、入れる」

 

「ああ」

 

「…余計な世話かもしれねえが、ほらよ」

 

―――サガラが念じると、紘汰は、身体が軽くなってゆくのを感じる。

傷が、癒えた。

前にも一度、こんなことがあった。

 

「じゃあな、葛葉紘汰。俺は見守ってるぜ」

 

サガラは、そう言うと、まるでホログラムのようになり、そのまま姿を消した。

 

―――あいつ、本当に何者なんだ。

紘汰は、その疑問を即座に打ち消すと、戦極ドライバーの刃を、思いっきり降り下ろした。

 

―――極アームズ!

 

―――待ってろ。

裕也。

 

全ての真実を知り、葛葉紘汰は、今、何を想うのか。

その表情は、銀色の仮面に覆われ、見えなくなった。

 

だが、紘汰は走り出した。

友のもとへ。

 

そして、アーマードライダー鎧武の、煉獄を巡る最後の戦いは、その幕を開ける。

 

つづく

 




作中の謎は、今回で全て明かしました。
ですが、不備があるかもしれません。
何か疑問に思うことがあれば、メッセージ、感想、どのような形でもよろしいので、訊ねて頂ければ、お答えします。
あと二回です。
最後まで、よろしくお願いします。

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