―――裕也は去った。
紘汰は、戦いでボロボロに傷付いたその身体を、雨から庇おうともせずに、冷たいアスファルトに座り込んでいる。
「裕也…」
―――夢だったのだろうか。
何かの幻だったのだろうか。
死んだはずの裕也が目の前に現れ、また、消えていった。
クラックの向こう側へと。
違う。
夢幻じゃない。
紘汰は、確かに、裕也の体温を感じた。
確かに、裕也は、ここにいた。
恐らく、裕也は、追い掛けたところで追い付けない場所へ、行ってしまった。
紘汰の直感がそう告げている。
このままここでじっとしていれば、もう、二度と、裕也に会うことは出来ない。
そんな予感もまた、紘汰の頭をもたげていた。
だが、追い掛けたとて、
―――何ができるだろうか。
何が起きているかは、皆目検討が付かなかったが、裕也の言わんとしていたこと、そして裕也が言わなかったことを、なんとなく、察することができた。
それは、煉獄に干渉した彼の無意識がそう教えていたのか、それとも、裕也との、所謂"絆"がそうさせたのか、それは、わからない。
裕也は、決死の覚悟でここを後にした。
その想いは、痛いほどに伝わってきた。
だから、紘汰は、―――動けなくなっていた。
「葛葉!」
紘汰は、背後から、聞き慣れた声を耳にする。
声の主は、傷だらけの鎧で走ってくる、―――アーマードライダーバロン。
駆紋戒斗だった。
戒斗は、紘汰の傍らに立つ。
「戒斗」
「葛葉、奴はどうした」
「ああ…」
奴。
フレズベルグのことだ。
フレズベルグなら………
「裕也が、倒した」
「なに?」
「裕也が、あいつの中から出てきたんだ」
「…鎧武の、元リーダーの、角居のことか?」
「ああ」
戒斗は、もう周囲に敵がいないことを確認すると、変身を解除する。
現れた素顔は、己の吐いた血液に汚れ、また、怪訝な顔を浮かべてもいた。
裕也の行方不明について、戒斗は、ことの真相を紘汰たちに問い質したことは無かったが、状況や彼らの言動から鑑みて、自ずと、ある程度の推測は立てていた。
角居裕也もまた、インベスとなって死んだのだろう、と。
もしくは、ヘルヘイムの森でインベスに殺された。
いずれにせよ、まず生きてはいないであろう、その角居裕也が、あの怪物の中から現れたと言うのだ。
「それで、角居はどうした」
「裕也は―――」
「角居裕也は、煉獄に向かった」
―――声がした。
かつて彼らが視聴していた、ネット配信の番組、"ビートライダーホットライン"のメインパーソナリティの、声。
ヘルヘイム騒動が加速する中、しばしば現れ、彼らを焚き付けるような言動を繰り返した、その声。
サガラが、いつの間にか、彼らの視界の端に立っていた。
「サガラ」
「貴様、何をしに来た」
「駆紋戒斗。悪いが、今回は、お前は蚊帳の外だな」
「なんだと」
「サガラ!何か知ってるのか?」
紘汰は、呻き声を上げながら立ち上がり、サガラに歩み寄ってゆく。
「そう、今回は、おまえの問題と言えるだろうな、葛葉紘汰」
「どういうことだ、説明してくれ、サガラ!」
「まあ待て、少し込み入った話になる。順を追って話そうじゃないか」
サガラはここで、一見、人懐っこい笑顔を浮かべ、そして、こう続けた。
「―――答え合わせ、だな」
雨足が、少し弱まった。
「………さっさと始めてくれ」
対する紘汰は、真剣そのものの眼差しで、サガラを見上げた。
サガラは、あいよ、と言うと、"答え合わせ"を始める。
「―――まず、これは理屈抜きで納得しろ。ヘルヘイムの森には、"煉獄"がある」
「煉獄?」
「ああ。まあ、おまえたちに合わせて、便宜上、そう呼んでるだけだ。―――噛み砕いて言うと、ヘルヘイム果実を喰ってインベスになり、そして死んだ知的生命体、その魂が集められた場所だ」
「魂って…」
「何のためにあるのかは知らん。いつから存在するのかもわからん。ただ、とにかく、ある。今はその意味を考えるな。まず、それを受け入れろ」
「………ああ」
「これはわかったな?じゃあ、次行くぞ」
戒斗は、腕を組んで沈黙を守っている。
蚊帳の外、という言葉がトサカに来ているのだろうか、痛む身体を休めようともしなかった。
サガラが、続ける。
「そこには、"煉獄の樹"と呼ばれる大樹があり、そこに住まう魔物がいる。そいつの名は、"ラタトスク"」
「ラタトスク…」
「おまえたちがさっき戦ったフレズベルグと、同種の存在だ。また、ラタトスクは煉獄の樹、そのものでもあり、煉獄の樹は、煉獄そのものだ」
「つまり…どういうことだよ」
「そのままさ。色々名前が上がったが、全て同じ存在、ってことだ。…それで、ラタトスクは、自我を持ってるんだな。ただ、極端だ」
「極端?」
「ラタトスクには、生存の欲求しかない。生きるためにしか生きていない。そういう存在だ。おまえたちには、考えが及ばないだろうな」
「…生きるためにしか、生きてない」
「そうだ。ここで、さっきの話に戻る。煉獄には、インベスになって死んだ者の魂が集まる。その魂だけが、ラタトスクの糧となるんだ」
「な、なんだよ、それ」
「おまえたち人間が動植物を食うようにだ。ラタトスクの主食は、インベスになり、死んだ者の魂。わかりやすく言えば、そういうことになる」
「おい、待てよ、なんでだ、なんで、そんな―――」
「これも、理屈抜きで飲み込め。理由は俺も知らんよ。…続けるぞ。正確に言うと、ラタトスクは、魂を食ってるわけじゃない。放っといたらすぐに消滅する死者の魂を、自らの中で保護し、その対価として、栄養分を吸い上げている。それは、尽きることのないエネルギーさ。人類がこれまで成し得ていない、いわば、永久機関だな」
「………つ、つまり、裕也も、初瀬も」
「ああ。二人とも、今はラタトスクの栄養分さ。ラタトスクの中にいる限り、魂は消滅を許されない。ただ、存在そのものを搾られるような苦痛、それを、これから先、ラタトスクが存在する限り、ずっと味わい続けることになる」
「な、なんだよ、それッ!おかしいだろッ!」
紘汰が、サガラの胸ぐらを掴もうとするが、ひょいとかわされ、その腕は空を切る。
サガラは、余裕綽々の表情だ。
「そうか?本当なら消えてるところを、ラタトスクが助けてるとも言えるんだぜ。痛みしかなくても、支配の中でも、存在だけは許されてる。必要とされているんだ。それは、ある意味で、幸せとも言えるんじゃないか?」
「そんな筈があるかッ!死んじまった後まで、苦しみ続けるなんて、そんなッ―――」
「…話が進まない。今は聞け。いいな?…で、ラタトスクはだな、さっきも言ったが、自分が生きてさえいりゃいいんだ。実のところ、その苗床は、魂ひとつもありゃ足りる。何せ、永久機関だからな。それだけで、ラタトスクは生きられる。なのに、インベスになって死んだ魂を、ラタトスクは、一つ残らずかき集めてんだ。どうしてだと思う?」
「………知らねえよ」
「わからねえよな。…怖いんだよ」
「怖い?」
「ああ。一つだけじゃ足りないかもしれない、二つだけじゃ足りないかもしれない、そう言って気が付いたら大所帯だ。保険、ってやつだな。備えあれば憂いなし。お陰で、ラタトスクは、何をするでも無いのに、巨大な力を得た。オーバーロードに匹敵する、いや、超える力だ。無数の魂を苗床に、ラタトスクは"進化"した。―――だが、それだけだ。ラタトスクには、外敵がいなかった。そりゃそうだよな、ただひとり、煉獄に閉じ籠ってて、生きた存在は相手にしないんだから。たまに、外の様子を伺いに出るようにはなったが、その頃には、奴の命を脅かす者はいなかった。力の上でなら拮抗する者もいたが、その場合、向こうにラタトスクと戦う理由が無かった。なにせ、生者にとっては全くの無害なんだからな。まあ、デェムシュなんかはケンカを売ったもんだが、ラタトスクには、まるで及ばなかった」
「デェムシュ…あいつを…」
「だが、そんなラタトスクに、生まれて初めての外敵が現れた。なあ、そいつは、誰だと思う?」
「…誰だよ」
「―――アーマードライダー鎧武。おまえだよ、葛葉紘汰。ラタトスクは、今日、おまえを倒すために、フレズベルグという分身を創りだし、はるばる、この世界まで遣わしたってわけだ」
紘汰は、困惑の表情を浮かべる。
―――それもそのはず、紘汰は、
「おまえは、無意識のうちに、ラタトスクを脅かしてたんだ」
「どういうことだよ!わけわかんねえぞ!」
「俺がお前に渡した、鍵のロックシード」
紘汰は、回想する。
サガラ曰く、オーバーロードになるための力、世界を己の色に染め上げる力。
―――極ロックシード。
腰の戦極ドライバーに付いたままだ。
それが、どうしたというのか。
「どうやら、そいつの力が、おまえの預かり知らぬところで暴発したらしい。おまえの無意識の願望を汲み取ってな」
「俺の、願望?」
「おまえがその力に手を出したとき、心に描いた想いは、なんだ?」
―――思い出すまでもない。
『俺は前に進む。そう裕也に誓ったんだ!』
二度と、裕也の悲劇を繰り返してしまわぬように、紘汰は、極アームズへの初めての変身で、その決意を新たにしたのだ。
「そうだな、角居裕也、そして初瀬亮二のことだろう。自分を、何かを生かすために生じた犠牲、おまえはそれを心に想い、変身した。だが、わかるか、人が過去を想う時、どれだけ振り切ったつもりでいようと、消せない想いがある」
「………何が言いたいんだよ」
「"もしも"」
サガラは、そう言うと、少し間を空けて、続けた。
「もしも、角居裕也が、初瀬亮二がインベスにならなかったら。そう考えたことが、ないとは言えないだろう」
「…そりゃ、」
そうだけど。
紘汰は、顔を落とす。
でも、それを考えていたら、前には進めなかった。
もしも、ifを考えていたら、目の前の大切なものを守れなかった。
世界が、状況が、紘汰にそれを許さなかった。
「だが、おまえはその想いを抑え付けてきた。目の前の敵と戦うためにだ。想いはやがて肥大化し、おまえのなかに、一つの世界を描くに至った」
「一つの、世界」
「あるいは、それは夢として、おまえの意識に上ることがあったかもしれない。だが、少なくともおまえは、現実としてそれを認識することがなかった、そんな世界だ。―――わかるか」
夢。
そう言われて、紘汰は思い出す。
―――初瀬の死、そして裕也の真相を知ってから、暫くの間、紘汰は悪夢に苛まれた。
その時々によって違いはあったが、おおまかに言うと、初瀬や裕也が紘汰の目の前でインベスになり、それを、変身した紘汰が倒す。
そんな夢だった。
舞に裕也の件を打ち明けてから、少し心が軽くなったこともあってか、悪夢は鳴りを潜めた。
その代わりに、違う夢を、よく見るようになった。
それは、裕也も、初瀬も、インベスになることなく、人間として暮らすことが出来る、そんな夢だった。
「―――心当たりがあるようだな。その夢は、"反転"していなかったか?」
反転。
そうだ。
インベスになった裕也と初瀬が、人間として。
そして、アーマードライダーとして。
だが、その代わりに、紘汰自身を含む、アーマードライダーとなった者たちが、皆、
―――夢の中で、インベスになっていた。
紘汰は、少しずつ思い出しながら、サガラにそれを伝える。
「おまえの中では、象徴的なことの筈だ。本来、その戦極ドライバーのオーナーとして選ばれたのは、角居裕也だった。その角居裕也がインベスになり、おまえがアーマードライダーになった。―――逆になる可能性もあった、そう考えたことがあるだろう」
サガラの言うことは、正しかった。
紘汰は、心のどこかで、そうだったら良かった、と望んでもいたのだから。
自分と裕也が、逆ならよかった。
自分が死ねばよかった。
そのような想いが、紘汰に、その夢を見させていた。
また、その夢には、もう一つ、特別なことがあった。
舞が、いないのだ。
舞だけが、いつも出てこない。
「―――それは、おまえの中で、角居裕也と高司舞が、二者択一の存在だからだろうな」
サガラは、言う。
紘汰は、舞を守るために、裕也の命を奪った。
裕也と戦わなければ、代わりに舞が死んでいた。
―――それもまた、紘汰の中、確かにある想いだった。
「思い出してきたみたいだな。話を進めるぞ。―――それで、その、鍵のロックシードは、ヘルヘイムの森、そのものに関わる力を持っている。おまえが初めてそれを使うとき、おまえの無意識と共鳴し、暴発した。そして、煉獄の扉を、開いたんだ」
「それで、何が起こったんだ!」
「それは、世界を己の色に染め上げる力。この場合にも、例外じゃあない。―――おまえは、角居たちの魂の在りか、煉獄を感じ取り、それを塗り替えることで、心に抱いた夢の世界を、現実のものにしようとしたんだ」
紘汰には、信じられなかった。
自分が、無意識にそんなことをしていただなんて。
叫びたい衝動に駆られたが、サガラの視線から無言の圧力を感じ、なんとか抑える。
「一つの世界の創世だ。おまえの意識から離れたその力は、この沢芽市の過去、そして今のあらゆる情報を取り込んだ。そして、ラタトスクの中から、角居裕也と初瀬亮二の魂を引っ張り出して、煉獄を、無理矢理、沢芽市のレプリカに塗り替えようとした。ラタトスクは、当然、抵抗した。だが、勝ったのはおまえだ。ラタトスクは封じ込められ、おまえの理想郷は完成した」
「そんなことって…」
「そんなことができるのが、おまえに与えられた力だ。―――ラタトスクの抵抗は、全くの無意味だったわけじゃあない。それは世界のところどころに綻びを生み、その偽物の沢芽市は、矛盾や理不尽、不条理に満ちた、ある種のタガが外れた世界になった。偽物の沢芽市を守るために、おまえは、自らの偽物に、そのロックシードの合鍵を託し、世界の管理を任せた。だが、結局、その綻びから、少しずつ偽物の沢芽市は崩壊した。こちらの世界におけるアーマードライダーたちの偽物を残して、―――これはイメージの強さの問題だろうな―――住人は徐々に消え、やがて世界としての体裁を保てなくなって、ラタトスクは甦った」
サガラは、喋り疲れる様子もなく、大袈裟な身ぶり手振りを交えながら、続ける。
「ラタトスクは、それが怖かったのさ。―――自分の世界を、煉獄を、無理矢理に抑え付けて、塗り替えてしまえるような、おまえの力が。だから、奴はおまえを倒すために、あのフレズベルグを遣わしたのさ」
「…待てよ、じゃあ、一体裕也は、どうなったんだ!さっき現れた裕也は…」
「角居裕也は、偽物の沢芽市の崩壊に伴って、再びラタトスクに吸収された。だが、おまえの偽物が角居に託した合鍵を使って、ラタトスク―――この場合はフレズベルグだったが、その中から一時的に脱出することに成功した。それが、おまえの見た光景だよ」
「じゃあ、あの裕也は、ほんとうに―――」
「ああ。おまえの知る、角居裕也だ」
紘汰は、それを改めて確信し、安堵の笑みを浮かべたのも束の間、
―――顔を引き締めて、サガラに問う。
「―――それで、裕也は、何をしようとしてるんだ」
「おまえにしては察しがいいじゃないか。大体、おまえの予想通りだよ」
「…ああ」
ここまでの話で、裕也がすることは、もう、ひとつしか無いだろう。
「ラタトスクを、倒しに行ったんだな」
「そうだ。ラタトスクを葬れば、奴に囚われた魂は、全て、一緒に消滅する。角居裕也も、初瀬亮二も」
「………そうか」
「意外だな。おまえなら、もう一度、煉獄を作り替えると言い出すかと思ったんだが」
「………そんなこと、できないよ」
「ほう?」
「やり方がまるでわからないし、何より、」
―――そんなこと、裕也が、望むはずないだろ。
どうあれ、裕也は、誰かに守られて、生かされるような世界を望む奴じゃないんだ。
それが、俺の創った偽物の世界でも、ラタトスクの煉獄でも。
それは、馬鹿な俺でも、わかるから。
「………なんて、頭ではわかってても、心がわかってないから、こんなことになったのかもしんねえけど」
「なら、おまえはこれからどうする?」
サガラが、真剣な顔付きで、紘汰に問う。
「鍵は開けられてしまった。たとえ無意識であろうと、おまえが開いた扉だ。その中で、角居裕也も、初瀬亮二も、偽物の駆紋戒斗や呉島光実たちも、そして葛葉紘汰も、それぞれがもがき、それぞれの戦いを選んだ。わかるか、それぞれが選んだことなんだ、だから、おまえが、それに罪悪感を感じる必要は無い。責任も糞も本当はありゃしない。角居裕也が勝てば、放っといても煉獄は消える。角居裕也が負ければ、ラタトスクがまたおまえを潰しに来るだろうが、おまえはきっと、もう、ラタトスクには負けない。それだけのことだ。どっちにしろ、煉獄は消えるだろうよ。それなら、おまえは、どうする?」
「………俺は…」
「どう落とし前を付ける?葛葉紘汰。―――おまえだけに、訊いてるんだ。どう壊すのか。どうやって、煉獄を終わらせるのか」
「―――戒斗」
紘汰は、戒斗の方を振り向いた。
「少しの間、皆を頼むよ」
「ふん。精々、死なんようにな」
「ああ」
戒斗は、踵を返し、コートを翻しながら、その場を後にした。
怪我のせいか、覚束ない足取りが心配であったが、紘汰は、意識を切り替えた。
「サガラ」
「なんだ?」
「どうして、俺にこのことを教えてくれた?」
「………なんだ、裏を疑ってんのか?前にも言ったが、俺は、100%の善意で動いてるわけじゃないさ。俺にも俺の目的がある」
「それは、なんだ」
「…言っても、わからないだろうよ。ただ、何のためにあるか、わからないようなものならば、無くても一緒じゃねえか?無駄を削ぎ落とすのも、進化のひとつだ。森も、進化する必要がある」
「ああ、まるでわかんねえ」
「だろ。………行くのか?」
「ああ」
「そうか。それなら、こいつは餞別だ」
サガラは、何か、新しいロックシードを紘汰に差し出す。
「このロックシードは―――」
「いらねえ」
紘汰は、サガラの目を見て、ハッキリと言い放った。
サガラは、紘汰のその目の中に、覚悟を感じ取った。
今、持てる限りの力で。
今、自分の中にあるだけのもので、戦う。
それも、一つの覚悟だ。
「―――そうかい。それなら、今回は、道案内だけだ」
サガラはそう言うと、クラックを開いた。
その奥は、ヘルヘイムの森ではなく、何か、薄暗いトンネルのようになっていた。
「煉獄直通のトンネルを開いてやった。ここをひたすら走れ。その先が煉獄だ。鍵のロックシードがあれば、入れる」
「ああ」
「…余計な世話かもしれねえが、ほらよ」
―――サガラが念じると、紘汰は、身体が軽くなってゆくのを感じる。
傷が、癒えた。
前にも一度、こんなことがあった。
「じゃあな、葛葉紘汰。俺は見守ってるぜ」
サガラは、そう言うと、まるでホログラムのようになり、そのまま姿を消した。
―――あいつ、本当に何者なんだ。
紘汰は、その疑問を即座に打ち消すと、戦極ドライバーの刃を、思いっきり降り下ろした。
―――極アームズ!
―――待ってろ。
裕也。
全ての真実を知り、葛葉紘汰は、今、何を想うのか。
その表情は、銀色の仮面に覆われ、見えなくなった。
だが、紘汰は走り出した。
友のもとへ。
そして、アーマードライダー鎧武の、煉獄を巡る最後の戦いは、その幕を開ける。
つづく
作中の謎は、今回で全て明かしました。
ですが、不備があるかもしれません。
何か疑問に思うことがあれば、メッセージ、感想、どのような形でもよろしいので、訊ねて頂ければ、お答えします。
あと二回です。
最後まで、よろしくお願いします。