仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

40 / 44
第40話「World is mine」

―――雨が、降り始めたらしい。

だが、そんなことは関係ない。

 

空がどうであれ、その下に立つのは、俺だ。

風がどうであれ、その中に立つのは、俺だ。

 

揺るがないことは、それだけ。

確かなことは、それだけだ。

 

俺は、バナナオブスピアーを構え、再び、緑色のオーバーロードに突撃してゆく。

 

「はあああっ!」

 

ピコン。

横目に、"もうひとりの駆紋戒斗"が、赤い弓を引くのが見えた。

緑色のオーバーロードはというと、だいぶダメージが蓄積してきたか、動きが遅くなっている。

 

「く、くく、しぶといね、おまえたち」

 

言葉でこそ余裕を見せてはいるが、息が切れている。

もう、反撃の隙は与えん。

一気に叩き潰す!

 

―――こいつは、俺を舐めていた。

何が起こるかわからない戦いの場で、相手を侮った。

今を、疎かにした。

だから、こいつは、弱者。

この俺の道を阻むには至らない、弱き者だ。

俺は、戦いを通じて、それを確信していた。

 

「ハァッ!」

 

―――いま、弓を射ったこいつもまた、似たようなことを思ったのではないか。

わからないが、わかるような気がする。

こいつと、俺は、似ているから。

―――サガラの言った言葉を、思い出す。

 

『おまえは、駆紋戒斗の、偽物』

 

―――あるいは、そうなのかもしれない。

俺は、こいつを模して造られた、偽物なのかもしれない。

そう考えると、辻褄が合う部分もある。

 

「セイッ!」

 

「うぐっ!」

 

―――だが、辻褄を合わせて、何になる?

俺がこいつの偽物だとして、それが何だ?

 

本物も偽物も、知ったことか。

俺は今、ここにいる。

ここに、確かに存在している。

 

俺の頭で考えて、俺の体を動かして、俺は今、確かに、戦っている。

 

それだけ、揺るがなければいい。

それだけ、確かならばいい。

 

「ぐあっ!」

 

「くくく、はぁっ!」

 

「ハァッ!」

 

―――俺には、戦う意思と、そのための力がある。

必要なものは、他には何もない。

 

外の世界への、存在の証明は必要ない。

内の世界への、存在の確立も必要ない。

俺はただ、ここにいる、そのありのままを、ひとつの魂で、ひとつの体で、感じてゆく。

チリチリと焦げ付くようなこの熱を、感じ続けてゆく。

 

生きるために戦っている。

戦うために生きている。

相反するようなその二つが、俺の中では、しっかりと、形を持って輪を成している。

俺は、駆紋戒斗。

誰が何と言おうと、そこにいるそいつが駆紋戒斗であろうと、俺は、駆紋戒斗だ。

 

俺は、今を疎かにしない。

俺は、今に甘んじない。

昨日より遠く、今日より高く、明日より速く。

それが、俺の信ずる、強さ!

 

―――レモンエナジースカッシュ!

 

奴が、必殺の一撃の構えに入る。

俺もまた、バナナオブスピアーの強度を上げる。

仕留めてやる。

覚悟しろ、緑色のオーバーロード!

 

「セイーッ!」

 

「セイーッ!」

 

俺と奴の声が一つになり、それぞれの攻撃が、一直線に緑色のオーバーロードを狙う。

 

「くっ!」

 

―――緑色のオーバーロードは、苦し紛れの声を上げると、自らの周囲に緑色の竜巻を起こし、攻撃を回避した。

 

俺は、即座に次の攻撃の準備に移る。

もうひとりの駆紋戒斗も、再び、弓を引く。

 

だが、

―――声がする。

 

「おまえたち、中々楽しませてもらったよ。

今日は、これまでだ」

 

緑色のオーバーロードの声がそう告げ、その高笑いが雨音に混じり、沢芽市の空に響くと、緑色の竜巻は、そのまま、どこかへ消えていった。

 

「―――逃げたか」

 

奴が、肩で息をしながら、そう呟く。

その金色の鎧は、傷だらけだ。

マントも、ところどころが破れている。

 

俺もまた、痛みを感覚する。

 

―――奴が、振り向く。

視線が、交差する。

 

痛みには、慣れている。

それは、奴もきっと同じだろう。

 

「―――約束したな」

 

奴が、口を開いた。

 

「次に会うとき、決着を付けると」

 

「ああ」

 

そうだ。

痛みなど、関係ない。

 

今、すべきことは、ひとつ。

お互いに、それを感じ取った。

それだけのことだ。

 

「―――来い」

 

俺は、バナナオブスピアーを構える。

奴もまた、その弓を。

 

こいつは、駆紋戒斗は、敵ではない。

邪魔者でもない。

ならば、戦う理由などない。

―――と、この世界の大部分、腑抜け共は、そう考えることだろう。

 

だが、俺は違う。

敵でなくとも。

邪魔者でなくとも。

戦わなくてはならない相手は、いるのだ。

その戦いから背を向ければ、己の過去と、今と、未来からも、同じように背を向けてしまう。

そんな戦いが、あるのだ。

 

だから、俺は、こいつを倒す。

こいつを超える。

 

―――もう、こいつとの間に、言葉はいらないだろう。

 

どう転んでも。

最後に、これだけは言っておこう。

 

 

 

さらばだ。

駆紋戒斗。

 

 

 

「はあああああッ!」

 

「はあああああッ!」

 

 

 

―――決着は、一瞬で付いた。

 

全力での、正面からの、激突。

 

一撃、先に届いた方の勝利。

 

それだけの、この上なくシンプルな戦い。

 

俺好みだ。

 

駆紋戒斗。

 

貴様と戦えて、良かったぞ。

 

俺の、バナナオブスピアーは、

 

奴に届く、その寸前、

 

粉々に崩れ落ちていた。

 

何故なら。

 

この身を、

 

奴の弓、その刃が、

 

横一閃、切り裂いていたからだ。

 

俺は、仰向けに、倒れた。

 

雨。

 

雨が、降っている。

 

だが、やはり、そんなことは、どうでもよく、

 

俺は、

 

満たされていた。

 

満たされてしまった。

 

駆紋戒斗が、そのまま、立ち去ってゆく足音が、聴こえる。

 

俺に、言葉を、掛けることもなく。

 

―――そうか。

 

貴様は、まだ満たされないか。

 

それが、勝敗を分けたのかもな。

 

それだけが、俺たちの、違いだったのかもな。

 

だが、

 

俺は、俺で、俺しかいない。

 

俺もまた、本物だ。

 

事実がどうあれ。

 

俺は、駆紋戒斗だ。

 

意識が、薄れてゆく。

 

ああ。

 

俺は、死ぬ。

 

それだけのことだ。

 

―――きっと、あと、何十秒も無いだろう。

 

ならば、最後くらいは、いいだろうか。

 

俺は、幼い頃、まだ、この世界を憎んでいなかった、あの頃のことを、思い返す。

 

この記憶も、ちゃんと、俺のものだ。

 

この安らぎも、ちゃんと、俺のものだ。

 

 

 

そうだ。

この生と、この死と、この世界は、ちゃんと、俺のものだ。

 

つづく


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。