ドルーパーズを出た俺たちは、ユグドラシルタワーを見据えた。
次の瞬間、ユグドラシルタワーからロケットのようなものが射出され、「私の計画がぁぁぁ!」という叫び声が聴こえたかと思ったら、タワー上部で謎の大爆発が起こった。
何が起こったかはわからなかったが、大体わかった。
「たぶん、紘汰が勝ったな」
「俺の復讐が…」
「今から行っても遅いだろ。店に戻ろう」
「ああ…」
戒斗はだいぶ落ち込んでいたが、戒斗のダンスの脚は上がっている、と誉めちぎったら少しだけ元気になった。
「しかし、目標がなくなってしまったな…」
「ダンスしてたのも、ユグドラシルと戦うためか?」
「そうだ」
「なんでダンスなの?」
「…」
「好きだったからだろ?ダンス。ユグドラシルがどうとかじゃなくて、お前がダンス好きだったんだろ」
「黙れ、ダンスなど手段に過ぎない」
「いや、だからなんでダンスなの?」
「…」
戒斗はまた考え込んでしまった。
「なあ戒斗、ストリートはいつの間にか随分ややこしいことになってるけど、俺たちは踊れればそれだけで良かったんじゃないのか?
強いとか弱いとかじゃなくて、みんなでさ」
「今更、どうすればいい」
「簡単だよ。俺が用心棒としてバロンに入る。
そんで変身して、他の全チームをインベスゲームで倒す。
全部のロックシードを回収して、インベスゲームを終わらせるんだ。あとは皆で好きに踊れるようにすればいい。
全部、元に戻すんだ」
「お前が変身するというのが気に食わない」
「仕方ないだろ、お前は出来ないんだから。乗るか?戒斗」
「…わかった。懐刀を持つ、これもまた一つの強さの形だ」
危なかった。戒斗がインベスゲームへのモチベーションを失ったら返金させられかねないからな。
175000円は、用心棒代ということにすればいいだろう。
「そういうことなら、とりあえずメンバーに連絡するよ」
「ああ」
舞に電話したが出ない。生理だろうか。
仕方なくミッチに電話した。
「もしもし、ミッチか?」
「裕也さん?どうしました?」
「鎧武やめる。バロン入るわ」
「そうですか。わかりました。ところで今、ユグドラシルが大変な騒ぎになってますね」
「ああ、紘汰がカチコミかけてるらしいんだ」
「そうなんですか?紘汰さん、心配ですね」
「あとお前、舞と紘汰で抜いてたよな」
「どうしてそれを?」
「路上で見たって紘汰が言ってた」
「葛葉紘汰…許さない…」
「次のリーダーは舞に任せるって言っておいてくれ」
電話を切った。
時を同じくして、紘汰が窓を破って店に入ってきた。
「おい紘汰、窓割るなよ。マジで」
店長は目が笑っていなかった。
「おかえり紘汰。どうだった?」
「ああ、すげえザルな警備だったから、楽勝だったよ。タカトラは強かったけど、尻に果実入れたら大人しくなったよ」
「タカトラ?」
―――貴様!何者だ!何故インベスが言葉を話す!
―――俺はインベスじゃない!葛葉紘汰だ!
―――何だと!ぐわあああ!
―――尻から果実を入れてやる!
―――やめろ!離せ!離せ!うわあああああ!
―――ここからは俺のステージだ!
(爆発するユグドラシルタワー)
―――私の体がインベスに…!
―――参ったか!
―――そうか、尻から摂取すれば、知性を保ったままインベスになれる。
これなら、全人類を救うことも…!
葛葉紘汰。絶望以外の選択肢をもたらしてくれたこと、感謝する。
―――よくわからねえけど、みんな尻からこれ食えばいいんだな?!
―――ああ。私の名前は貴虎。さっそくプロジェクトに取り掛かろう。プロジェクト名は―――
「そんなわけで、プロジェクト・アナルが始動するんだ」
「へえー。ってことは、まずは果実を70億揃えるところからか」
「ああ。数が揃い次第、各地の病院で施術してくってよ。これで人類は救われるな」
「そうか。良かった。これでお前もアルバイトに専念できるな、紘汰」
「ああ、それなんだけど、俺、ユグドラシルに雇ってもらうことに決まったんだ」
「え!マジか!良いなあ」
「裕也も来るか?人手足りないし、あいつら俺に逆らえないから」
「本当か!頼んでもいいか?」
「ああ!」
「おい!」
ここで戒斗が話に入ってきた。
「俺もユグドラシルに入れろ」
「誰、この人?」
「ああ、チームバロンの戒斗だ」
「あ、この人が。何、ユグドラシル入りたいの?」
「うん」
「いいよ」
「ありがとう!」
「戒斗、ビートライダーズのことはいいの?あと、復讐は?」
「もうどうでもいい。それよりも―――」
―――正規雇用と定収入こそが強さだ。
戒斗はそう言って、今日一番のキメ顔を見せてくれた。俺たちビートライダーズ(元)の心が通じあった瞬間だった。
つづく