仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

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第39話「Farewell dear...」

―――オルタネイティヴオレンジアームズ!

花道アナザーステージ!

 

「来いよ、フレズベルグ。

ここからは俺のステージだ」

 

俺は、左手の青い刀を、フレズベルグに向けた。

 

「青い、オレンジアームズ…!」

 

紘汰が、後ろで呟くのが聴こえた。

俺は、腰を深く落とし、戦いの構えを取る。

 

―――この、"オルタネイティブオレンジ"のロックシードの正体は、正直、俺にもわからない。

どうも、"ブラッドオレンジ"という代物があるらしいが、それに近い、オレンジの亜種だろう、というくらいの推測しかできない。

 

ただ、感覚的にわかることが、一つ。

―――このロックシードは、"本物の沢芽市"において、俺が食べてしまったヘルヘイム果実が変化したものだ、ということ。

 

この鎧は、俺の決意の証だ。

個を奪い、全に取り込もうとするような、そんな思想との戦いに身を投じる、その決意の証なんだ。

 

―――たとえば、それが、自己の存在否定に繋がるとしてもだ。

 

「―――角居、祐也ァァァッ!」

 

フレズベルグが、怒りの雄叫びを上げ、放つのは、

―――衝撃波。

 

「祐也ッ!」

 

紘汰が、咄嗟に叫ぶ。

フレズベルグの内側から見ていた。

その攻撃は、紘汰のオレンジアームズに、多大なダメージを負わせた一撃だ。

心配するのも、無理は無い。

―――だが、

 

 

俺は、その耐え方を教わったんだよ。

もうひとりの紘汰から。

 

 

―――体幹を意識して、踏みとどまる。

今ならわかる。

オレンジインベスは、世界を統治するにあたり、ラタトスクの力の一部を利用していたんだ。

だから、これは、

―――あの戦いのとき、オレンジインベスが使ったのと、同じ力!

 

「なっ―――」

 

フレズベルグが、踏みとどまった俺に対し、驚愕の声を上げる。

―――俺の体が盾となり、紘汰に影響はないようだった。

 

そうだ、このレベルの衝撃波は、一瞬。

そこを耐えれば、次の瞬間は、

 

「はぁぁっ!」

 

「ぐああっ!」

 

―――俺のもんだろ。

俺は、右手で左腰の刀を抜きざまに、フレズベルグを素早く切りつけると、左手の刀で、追撃を食らわせる。

手応えを感じた。

効いている。

 

「なっ、なぜっ」

 

「オラァァァッ!」

 

何が何だかわからない、といったフレズベルグに、俺は、こいつも持ってけ、と、全力の蹴りを入れる。

 

―――なぜ、苗床が、これほどの力を!

 

フレズベルグが言いたかったのは、そんなところだろうよ。

そう、俺は、今、合鍵の力を、使っているわけではない。

あの力は、出てくる時に使い果たしたから。

だから、こいつからしたら、今の俺は、ただの出涸らし。

なぜ、その出涸らしの攻撃が、これほどまでに効くのか、わからないんだろう。

 

―――答えを、教えてやるよ!

 

「ハァァァッ!!!」

 

「うっ!?」

 

俺は、"奴から奪った"力を使う。

使い方は、知ってる。

中で、ずっと見てたから。

―――衝撃波。

 

フレズベルグは、予測できなかったであろうその攻撃に、対処できず、吹き飛んだ。

 

「祐也、その力…!」

 

「…ああ」

 

紘汰が、驚きの声を漏らす。

―――そう、

 

「あいつから出てくる時に、ついでに奪ってきたんだ。

力の、幾らかをな」

 

「………お?おう………」

 

―――よくわからなかったらしい。

無理もないな。

まあ、言ったままだ。

 

だから、単に俺が強くなっている、というだけではない。

奪われた分、奴が弱くなってもいるのだ。

フレズベルグは、それに気付いていなかったようだが。

 

―――今の俺の中には、煉獄の力がある!

 

「お、おのれ」

 

フレズベルグが、よろよろと立ち上がりながら、言う。

ただでさえ、紘汰との戦いで、だいぶやられてたんだろ。

お前もそろそろ、限界の筈だ。

 

「はあっ!」

 

フレズベルグは、再び、衝撃波を放つ。

今度は、耐えない。

―――代わりに、

 

「ハァァァッ!!!」

 

俺も、衝撃波で対抗してやる。

絶対に押し負けたりしない、という確信。

何故なら、

 

「―――ここは、俺のステージだからな」

 

「ぐうっ!」

 

吹き飛んだのは、フレズベルグの方だった。

俺は、戦極ドライバーのブレードを、降り下ろす。

 

―――オルタネイティヴオレンジスカッシュ!

 

「そろそろ終演だ、フレズベルグ」

 

「っく…角居祐也!わかっているのか!」

 

フレズベルグが、苦し紛れに叫ぶ。

 

「何をだ!目的語をハッキリさせな!」

 

「我々に牙を剥くことの意味を、わかっているのか!」

 

「ああ、」

 

その話か。

そんなの、とっくに腹は決まってんだよ。

 

「死んだ奴が死ぬ、当たり前のことじゃねえか。

今更何言ってんだ?」

 

俺は、走り出す。

 

―――じゃあな、フレズベルグ。

お前の中、最悪だったぜ。

 

どっちにしろ、死んだようなもんだろ、俺は。

だったら、俺の在り方は、俺が決める。

俺が踊るステージは、俺が決める。

 

俺は、大地を蹴り、雨空に、跳ぶ。

 

「うおおおおおッ!」

 

―――お前らの苗床なんか、やめてやるよッ!

 

必殺、

 

「だああああああああああッ!!!」

 

「ぐああああああああああああああッ!!!」

 

―――辞表キック。

鷲の巨人、フレズベルグは、物凄いスピードで吹き飛び、そのまま、雨の中に爆発して、消滅した。

 

体に、何かが流れ込んでくるのを感じる。

恐らくこれは、フレズベルグ側に残っていた力だ。

俺は、フレズベルグを、完全に取り込んだ、ということか。

 

―――やってることが、ラタトスクと同じだな。

だから、尚更早く、決着を着けないと。

 

俺は、変身を解除して、紘汰に向き直る。

 

「………紘汰」

 

「祐也………」

 

ただいま、

 

 

 

そう言おうとして、思い留まった。

 

 

 

「―――俺は、もう行くよ」

 

「祐也、待ってくれ!

一体、何が起こって………

つーか、せっかくまた会えたんだ!

話を………」

 

「………だめだよ、紘汰」

 

「祐也………」

 

「………もう、こんなことが起きないように、俺は―――」

 

「祐也ッ!」

 

紘汰が、大声を出す。

 

しばらく、雨の音しか、しなくなる。

 

紘汰は、よろめきながら、立ち上がる。

 

「お、おい、怪我してんだろうが、無理すんじゃねえって」

 

「無理してんのは、お前だろ、祐也」

 

紘汰は、そのまま俺の方に歩いてくると、

―――俺の体を、抱き締める。

 

「お、おい、やめろよ、きもちわりいな」

 

「なんだっていい。

そうやって、一人で抱え込むなよ、祐也。

今度こそ、お前の力にならせてくれよッ、祐也!」

 

―――おまえなら、そう言うって、わかってたよ。

 

 

 

おまえなら、そう言うってわかってたから、

 

こう言ってるんだろうが………!

 

 

 

抱き締める力が、強い。

 

もう、どこにも行くな、そんな声が、聴こえてくるような気がして、

 

俺は、辛かった。

 

雨の音。

 

第一、ひとりで抱え込んでたのは、どこのどいつだよ。

 

俺が不用意に実を食ったりしたせいで、友達殺しの罪を背負って、

 

無意識に世界まるごと創っちまうほど、抱え込んでたのは、どこのどいつだよ。

 

皆の前では吹っ切ったように振る舞って、

守るために必死で戦って、

それでも、苦しみ続けてたのは、どこのどいつだよ。

 

―――これから俺がしようとしてることを知れば、おまえは、もうひとつ、その苦しみを背負う羽目になるじゃねえかよ。

だって、だってよ、ラタトスクを倒せば、俺は―――!

 

だから、

俺は、この手を、振り切らなきゃ、

 

振り切って、戦わないといけないのに―――

 

「紘汰ッ………!」

 

 

涙が、止まらないんだ。

 

 

「紘汰、ごめん………!

俺のせいで、おまえは、おまえは………!」

 

「祐也、祐也ッ………!」

 

―――理屈では、割り切れないことだって、あるから。

 

もう少しだけ、こうしていたい。

もう少しだけ、こいつを、側に感じていたい。

 

偽りのものでも、俺にまだ、命があるうちに。

 

 

 

あと一分だけ、こうしたら。

俺は、行くよ、紘汰。

 

 

 

「じゃあな、紘汰」

 

 

 

―――そうして俺は、この手でクラックを開き、紘汰に別れを告げると、その制止を振り払って、ヘルヘイムの森へと、歩き出した。

 

つづく


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