仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

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第35話「Escalation」

「ぜってえ許さねえ…!変身!」

 

―――オレンジアームズ!

花道オンステージ!

 

本物の葛葉紘汰、―――アーマードライダー鎧武は、二本の刀を構え、三人の敵を見据える。

 

ひとりは、白いアーマードライダー。

―――貴虎を騙る偽物だ。紘汰はその正体を知らないが、オーバーロードと手を組み、何かを企んでいる。

 

ひとりは、そのオーバーロード、レデュエ。

かつて、ヘルヘイムの森で一度戦ったことがある。

玩具が欲しい、といったことを、拙い日本語で話していたことを思い出す。

 

そして、もうひとり、鳥のような顔をした巨人。

―――こちらは、見当が付かなかった。

新たなオーバーロードか。

それとも、知性なきインベスか。

そのどちらでもないような気がした。

 

―――紘汰は、多くの場合、戦いの始めには、オレンジのロックシードを選ぶ。

鎧の性能の高さだけで選ぶのなら、オレンジは、紘汰の所持するロックシードの中では、最低のランクに属するものだ。

 

しかし、紘汰は本能的に知っている。

三つのSランクロックシードや、サガラから渡された二つのロックシードが、己には過ぎた力であることを。

故に、ほぼ無自覚に、その力を過度に使うことを、恐れてもいた。

ただ、彼の身の丈に最も合うオレンジアームズでさえも、命の奪い合いをするレベルの力ではあるのだが。

 

しかし、敵は、三人。

その上、面白半分のレデュエを除いた二人が、本気で紘汰の命を狙っている。

―――この状況下での、オレンジアームズという選択が、正解であったかといえば―――

 

「ぐあああっ!」

 

―――否。

フレズベルグは、例のごとく衝撃波を放ち、紘汰を吹き飛ばす。

その隙に、光実はその弓を引き、光の矢を放つ。

紘汰が怯んだ隙に、フレズベルグは一瞬で彼に肉薄、先刻、四人のアーマードライダーの鎧を打ち砕いた攻撃を行う。

―――オレンジアームズは、一瞬にして砕け散り、紘汰は、変身を解除されて、弾き飛ばされた。

 

「紘汰ァッ!」

 

ザックが、叫ぶ。

―――そして紘汰は、今回の敵の異常性を察する。

あれは、馬鹿みたいに強い。

血の味がする。

フレズベルグは、その隙を逃さない。

再び、全速力で彼に迫り、命を奪うための一撃を加えようとするが―――

 

ピコン!

 

―――妨害。

先程、光実が放った矢と全く同じものが、フレズベルグを射つ。

目の前の紘汰に全神経を集中していたフレズベルグは、思わず怯み、動きを止める。

一瞬の、フリーズ。

 

矢を放ったのは、―――駆紋戒斗だ。

アーマードライダーバロン、レモンエナジーアームズが、走って現れる。

―――文句を言いながらも、結局は紘汰を助けに現れる。

駆紋戒斗は、そういう男だ。

 

「駆紋戒斗…!」

 

光実が、仮面の下で顔を歪め、すぐに次の射撃の準備に入る。

 

「葛葉!」

 

「戒斗!」

 

「死ぬぞッ!」

 

全力で疾走する戒斗は、再びフレズベルグに矢を放つ。

 

「仕方ない坊やねッ!」

 

―――時は、少し遡る。

紘汰がやられた様子を見ていた凰蓮は、傷を負った体で、無理を押して、再び変身していた。

ドリアンアームズ、ミスターデンジャラス。

彼は、光実に向けてその武器を投擲し、見事に命中、無防備な紘汰に放たれた矢の軌道を反らすことに成功した。

 

―――ピーチエナジーアームズ!

戦闘のプロは、凰蓮だけではない。

湊もまた、彼と同じ判断を下した。

今、この場でフレズベルグを倒せるのは、

―――デェムシュを倒した、あの銀色のアームズだけだ。

彼女の信ずる戒斗でさえ、あれは倒せない。

フレズベルグの目的はわからないが、ここで紘汰を死なせるわけにはいかない。

フレズベルグの動きが止まったところを逃がさず、咳き込んで、仮面の内側を血で汚しながらも、全力でその弓を引いた。

 

「はぁっ!」

 

その矢は、フレズベルグに届き、

―――紘汰に、約二秒の時間を与えた。

 

紘汰は、察する。

甘かった。

持てる力の限りをぶつけなくてはならない。

―――力を、恐れている場合ではない!

 

「変身!」

 

紘汰は、サガラに託された二つのロックシードを、同時に構え、変身する!

 

―――カチドキアームズ!

いざ出陣!

エイエイオー!

 

彼の持つ中で、最も固く、そして重い鎧が、紘汰の身を包む。

カチドキアームズ。

ロックシードに纏わる全事項を把握していた筈の戦極凌馬にとっても、全く未知の変化形態である。

 

この鎧は、特別な鎧。

紘汰は、

―――初めての戦いで、インベスと化した角居祐也の命を奪っていた。

その真実に後から気が付き、親友殺しの罪に心が折れかけた時、彼は、世界の理不尽そのものと戦う決意を固め、この鎧を纏った。

前に進む、戦い続けると、亡き親友に誓った。

 

そして、そのロックシードに、"鍵"を差し込み、回す。

―――ロックオープン!

 

空に、大量のクラックが開く。

その中から、無数のアームズが現れ、紘汰を中心に、軌道を描く惑星のように、飛び回る。

やがてそれは、その中心点に向けて収束し、

―――鎧武は、その最強の姿に変身する!

 

―――極アームズ!

大・大・大・大・大将軍!

 

勝鬨の鎧が弾け飛び、現れたのは、銀色のアームズ。

深紅のマント。

虹を模したような眼。

あらゆるロックシードの力をその身に宿したアーマードライダー。

鎧武、極アームズ。

 

―――ここで、フレズベルグのフリーズが解ける。

 

これまでで最大の衝撃波を、フレズベルグは放つ。

それは紘汰に向けてレンジを絞られたものであったが、その発生の余波が、近くにいた戒斗たち、そして味方である光実たちをも巻き込み、吹き飛ばす。

凰蓮と湊は、咄嗟に、変身していない城乃内とザックの盾となり、再び、変身を解除され、倒れた。

凄まじい威力、しかし、その衝撃波は、

―――極アームズには通じない!

 

「戒斗!みんなを安全な場所に!」

 

「…わかった!」

 

紘汰は、一歩も動じることなく、その身に、フレズベルグの全力の衝撃波を受け続ける。

フレズベルグ、焦燥。

フレズベルグは思考する。

この力だ。

この力こそが、自らの存在を脅かす、知恵の実の力だ。

 

―――バナスピアー!

 

紘汰は、ドライバーにセットされた鍵を回す。

すると、バナナロックシードの武器、バナスピアーが紘汰の手に出現する。

 

「うおおおおッ!」

 

紘汰は、それをフレズベルグに向けて構えると、襲い来る衝撃波をものともせず、一直線に疾走。

フレズベルグの体を、突く!

 

耐えきれなかったフレズベルグは、そのまま仰け反る。

紘汰は、バナスピアーを投げ捨てると、新たな武器を召喚する。

―――イチゴクナイ!

両手に、イチゴを模したクナイが現れ、フレズベルグの懐で、紘汰は乱舞する。

一撃一撃は、軽いものかもしれない。

だが、繰り返される連続攻撃が、フレズベルグの抵抗力を徐々に削いでゆき、ついに、長かった衝撃波は止まった。

紘汰は、体が軽くなったのを感じる。

―――テンポが変わる瞬間。加速するBPMに身を委ねるように、体中でリズムを刻むように。

紘汰は、攻撃の手を止めない。

 

―――本人が気付いているかどうかはわからないが、倒すべき敵に相対した時の紘汰は、迷いを捨てた紘汰は、その、生半可ではない戦闘のセンスを発揮する。

それは、彼が持って生まれ、また培ってきた高い身体能力、そして度胸の産物である。

 

―――新たな武器が召喚される。

それは、Sランクロックシードから生成される武器。

戒斗と光実の手にあるものと、同じものだった。

戦極凌馬が付けた名前は、創世弓ソニックアロー。

刃が付いており、敵とのレンジを問わず戦うことのできる、万能武器。

ロックシードの武器の中でも、最高位の威力を持つその刃を、紘汰は、力一杯に振り抜く!

―――フレズベルグは、恐怖で回らなくなりつつある頭で、思考する。

目の前の天敵を倒す手段を、考える。

 

―――この間、ほんの数秒。

起き上がった光実は、仮面の下で、その顔に失望の色を浮かべていた。

 

「思ったより使えない奴だな…!」

 

「ふふふ」

 

レデュエが、笑う。

 

「レデュエ!

…真面目にやる気がないなら、駆紋戒斗を抑えてろ」

 

「はい、はい」

 

光実は、苛立ちを露にしながら、弓を引き、紘汰とフレズベルグの元へ走ってゆく。

怒ってる、怒ってる。

レデュエは、また、くつくつと笑い、その視線を駆紋戒斗に移す。

戒斗は、まず最も傷の深い凰蓮に肩を貸そうとしていたが、本人からの進言により、その対象を城乃内に移す。

―――あれが終わるまで待っててやろうか。

レデュエは、気まぐれだ。

気まぐれだから、理由の無い情けをかけることもあるし、その逆もあり得る。

―――最も手を組んではいけない質の性格なのだ。

光実は、その危険性に、あまり深く考えが及んでいない。

レデュエは、くつくつと笑う。

 

「はぁッ!」

 

光実は、フレズベルグへの攻撃を続ける紘汰に、矢を一閃。

避け損ない、その身に矢を食らった紘汰は、白いアーマードライダーを一瞥、そこに、一瞬の精神的な隙が生まれる。

―――違う、あれは貴虎じゃない!

一瞬でそう思い直した紘汰は、フレズベルグに斬撃を加えると、光実に向けて弓を引く。

ピコン!

電子音が鳴り響き、直後、矢は放たれた。

光実はそれを自らの弓で振り払うと、紘汰に肉薄、鍔迫り合いになる。

 

「お前は一体何者だッ!」

 

「………!」

 

先日と同じようなやりとりを一瞬挟み、吹き荒れるは剣戟の嵐。

だが、紘汰が押している。

鎧そのものの性能も、装着者の身体能力も、紘汰が上だ。

光実の鎧に、紘汰の渾身の一撃が入り、光実は吹き飛ぶ。

だが―――

 

ここで、フレズベルグが復帰する。

思考能力が低下しているのは相変わらずだ。

さながら、負荷がかかり、データの処理に時間を食う、重くなったコンピュータのように。

それでも、フレズベルグは、生存本能だけで戦う。

白いアーマードライダーに気を取られた紘汰の背後から、一撃。

先程、凰蓮たちの鎧を砕いた攻撃だ。

いかに極アームズとはいえ、まったく平気というわけにはいかない。

 

「ぐああっ!」

 

その隙に、光実は体勢を立て直し、紘汰への反撃を行う。

ピコン!

矢は真っ直ぐな軌道を描き、紘汰の胸元へ。

火花。

連撃。

フレズベルグは、その爪で紘汰を斬りつける。

―――二対一だ、有利な筈が無い。

攻撃のリズムを崩された紘汰は、劣勢に陥る。

 

「くそッ!」

 

光実は、フレズベルグを横目に見る。

―――かなり狼狽しているな。

だが、やはり地の戦闘能力は高いらしい。

このまま押しきる。

目の前の、忌まわしき男を葬り去る。

そうだ。

無駄を排除する。

僕の人生から。

そうすることで、僕の人生は完璧なものに近付くんだ。

―――誰かがこんなことを言っていたような気がするが、誰でもいいか。

取るに足らないことだ。

それこそ、無駄なことだ。

今は、目の前のこいつを、消しさえすればいい。

必要なものだけを、選択し、人生に残す。

世界に残す。

それが、僕が手にした力の意味。

 

―――なぜか、昨日葬った、僕を騙るインベスの姿が、ちらつく。

 

『ふざけるなぁぁぁ!』

 

奴は、僕ではない。

だって、僕なら、わかるだろ。

僕の考えてることが、正しいってことくらい。

こうすれば、舞さんが笑ってくれる、ってことくらい。

ねえ。

そうでしょ。

僕の頭の中から消えろ。

偽物。

 

―――そして、僕の目の前から消えろ、葛葉紘汰!

 

―――メロンエナジースカッシュ!

 

光実は、ゲネシスドライバーのレバーを引く。

それは、必殺の一撃、そのチャージを意味する動作。

 

―――今の紘汰では、避けられないことだろう。

フレズベルグの猛攻を防ぐので精一杯だ。

この一撃が命中すれば、紘汰の流れは、完全に途絶え、そこからは、終曲まで一直線だ。

変わるリズム、そして、転調。

メジャーコードから、マイナーコードへ。

そうして、ここは、悪意の支配するステージに変わる。

 

光実は、ソニックアローを、勢いよく振りかぶり、紘汰に向けて、大地を蹴る。

 

次の瞬間には。

光実は、己の勝利を確信する。

 

「消えろォォォッ!」

 

―――それは、彼の悪い癖だ。

大事なところで、詰めが甘くなる。

故に、彼の計画は、しばしば失敗に終わる。

それは、今回もまた、同じ。

 

「ぐああっ!」

 

光実は、高速で割り込んできたそれに斬り付けられ、攻撃を中断させられた。

あまりの威力に、光実は吹き飛び、転げる。

―――起き上がり、その姿を認める。

 

「な…何…?」

 

それは。

光実のそれとはまた違う、メロンを模した鎧を纏った、白いアーマードライダー。

戦極ドライバーに、メロンのロックシード。

まさか。

そんな。

死んだはずだ。

あんたは、あのとき、崖から落ちて、死んだはずだ。

なのに、なぜ。

なぜ、今になって、こんな、こんなタイミングで、邪魔をするのか。

 

もう一人の白いアーマードライダーは、吹き飛んだ光実にゆっくりと、威厳を放つように歩み寄って、その剣を構える。

 

「………お前は、何者だ?」

 

それは、低い声で、光実に問い掛ける。

光実は、言葉を発することができない。

ただ、心の中で、呟く。

 

―――兄さん。

 

「貴虎!?」

 

貴虎なのか!?

―――フレズベルグの相手をしながらも、紘汰は、驚きの声を上げる。

 

もう一人の白いアーマードライダーは、その問い掛けに答えることはなく。

ただ、その声を聞いて、安心したように、囁く。

 

―――そうか。こっちのお前は、無事か。葛葉。

 

アーマードライダー・斬月。

"呉島貴虎"にイニシャライズされた戦極ドライバーが生成するライドウェア。

そう、呉島貴虎だけが使えるもの。

ならば、偽物の呉島貴虎も、また―――。

 

スペシャルゲスト。

偽物の呉島貴虎。

―――メロンインベスが、ステージに現れた。




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ごめんなさい。

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