「ぜってえ許さねえ…!変身!」
―――オレンジアームズ!
花道オンステージ!
本物の葛葉紘汰、―――アーマードライダー鎧武は、二本の刀を構え、三人の敵を見据える。
ひとりは、白いアーマードライダー。
―――貴虎を騙る偽物だ。紘汰はその正体を知らないが、オーバーロードと手を組み、何かを企んでいる。
ひとりは、そのオーバーロード、レデュエ。
かつて、ヘルヘイムの森で一度戦ったことがある。
玩具が欲しい、といったことを、拙い日本語で話していたことを思い出す。
そして、もうひとり、鳥のような顔をした巨人。
―――こちらは、見当が付かなかった。
新たなオーバーロードか。
それとも、知性なきインベスか。
そのどちらでもないような気がした。
―――紘汰は、多くの場合、戦いの始めには、オレンジのロックシードを選ぶ。
鎧の性能の高さだけで選ぶのなら、オレンジは、紘汰の所持するロックシードの中では、最低のランクに属するものだ。
しかし、紘汰は本能的に知っている。
三つのSランクロックシードや、サガラから渡された二つのロックシードが、己には過ぎた力であることを。
故に、ほぼ無自覚に、その力を過度に使うことを、恐れてもいた。
ただ、彼の身の丈に最も合うオレンジアームズでさえも、命の奪い合いをするレベルの力ではあるのだが。
しかし、敵は、三人。
その上、面白半分のレデュエを除いた二人が、本気で紘汰の命を狙っている。
―――この状況下での、オレンジアームズという選択が、正解であったかといえば―――
「ぐあああっ!」
―――否。
フレズベルグは、例のごとく衝撃波を放ち、紘汰を吹き飛ばす。
その隙に、光実はその弓を引き、光の矢を放つ。
紘汰が怯んだ隙に、フレズベルグは一瞬で彼に肉薄、先刻、四人のアーマードライダーの鎧を打ち砕いた攻撃を行う。
―――オレンジアームズは、一瞬にして砕け散り、紘汰は、変身を解除されて、弾き飛ばされた。
「紘汰ァッ!」
ザックが、叫ぶ。
―――そして紘汰は、今回の敵の異常性を察する。
あれは、馬鹿みたいに強い。
血の味がする。
フレズベルグは、その隙を逃さない。
再び、全速力で彼に迫り、命を奪うための一撃を加えようとするが―――
ピコン!
―――妨害。
先程、光実が放った矢と全く同じものが、フレズベルグを射つ。
目の前の紘汰に全神経を集中していたフレズベルグは、思わず怯み、動きを止める。
一瞬の、フリーズ。
矢を放ったのは、―――駆紋戒斗だ。
アーマードライダーバロン、レモンエナジーアームズが、走って現れる。
―――文句を言いながらも、結局は紘汰を助けに現れる。
駆紋戒斗は、そういう男だ。
「駆紋戒斗…!」
光実が、仮面の下で顔を歪め、すぐに次の射撃の準備に入る。
「葛葉!」
「戒斗!」
「死ぬぞッ!」
全力で疾走する戒斗は、再びフレズベルグに矢を放つ。
「仕方ない坊やねッ!」
―――時は、少し遡る。
紘汰がやられた様子を見ていた凰蓮は、傷を負った体で、無理を押して、再び変身していた。
ドリアンアームズ、ミスターデンジャラス。
彼は、光実に向けてその武器を投擲し、見事に命中、無防備な紘汰に放たれた矢の軌道を反らすことに成功した。
―――ピーチエナジーアームズ!
戦闘のプロは、凰蓮だけではない。
湊もまた、彼と同じ判断を下した。
今、この場でフレズベルグを倒せるのは、
―――デェムシュを倒した、あの銀色のアームズだけだ。
彼女の信ずる戒斗でさえ、あれは倒せない。
フレズベルグの目的はわからないが、ここで紘汰を死なせるわけにはいかない。
フレズベルグの動きが止まったところを逃がさず、咳き込んで、仮面の内側を血で汚しながらも、全力でその弓を引いた。
「はぁっ!」
その矢は、フレズベルグに届き、
―――紘汰に、約二秒の時間を与えた。
紘汰は、察する。
甘かった。
持てる力の限りをぶつけなくてはならない。
―――力を、恐れている場合ではない!
「変身!」
紘汰は、サガラに託された二つのロックシードを、同時に構え、変身する!
―――カチドキアームズ!
いざ出陣!
エイエイオー!
彼の持つ中で、最も固く、そして重い鎧が、紘汰の身を包む。
カチドキアームズ。
ロックシードに纏わる全事項を把握していた筈の戦極凌馬にとっても、全く未知の変化形態である。
この鎧は、特別な鎧。
紘汰は、
―――初めての戦いで、インベスと化した角居祐也の命を奪っていた。
その真実に後から気が付き、親友殺しの罪に心が折れかけた時、彼は、世界の理不尽そのものと戦う決意を固め、この鎧を纏った。
前に進む、戦い続けると、亡き親友に誓った。
そして、そのロックシードに、"鍵"を差し込み、回す。
―――ロックオープン!
空に、大量のクラックが開く。
その中から、無数のアームズが現れ、紘汰を中心に、軌道を描く惑星のように、飛び回る。
やがてそれは、その中心点に向けて収束し、
―――鎧武は、その最強の姿に変身する!
―――極アームズ!
大・大・大・大・大将軍!
勝鬨の鎧が弾け飛び、現れたのは、銀色のアームズ。
深紅のマント。
虹を模したような眼。
あらゆるロックシードの力をその身に宿したアーマードライダー。
鎧武、極アームズ。
―――ここで、フレズベルグのフリーズが解ける。
これまでで最大の衝撃波を、フレズベルグは放つ。
それは紘汰に向けてレンジを絞られたものであったが、その発生の余波が、近くにいた戒斗たち、そして味方である光実たちをも巻き込み、吹き飛ばす。
凰蓮と湊は、咄嗟に、変身していない城乃内とザックの盾となり、再び、変身を解除され、倒れた。
凄まじい威力、しかし、その衝撃波は、
―――極アームズには通じない!
「戒斗!みんなを安全な場所に!」
「…わかった!」
紘汰は、一歩も動じることなく、その身に、フレズベルグの全力の衝撃波を受け続ける。
フレズベルグ、焦燥。
フレズベルグは思考する。
この力だ。
この力こそが、自らの存在を脅かす、知恵の実の力だ。
―――バナスピアー!
紘汰は、ドライバーにセットされた鍵を回す。
すると、バナナロックシードの武器、バナスピアーが紘汰の手に出現する。
「うおおおおッ!」
紘汰は、それをフレズベルグに向けて構えると、襲い来る衝撃波をものともせず、一直線に疾走。
フレズベルグの体を、突く!
耐えきれなかったフレズベルグは、そのまま仰け反る。
紘汰は、バナスピアーを投げ捨てると、新たな武器を召喚する。
―――イチゴクナイ!
両手に、イチゴを模したクナイが現れ、フレズベルグの懐で、紘汰は乱舞する。
一撃一撃は、軽いものかもしれない。
だが、繰り返される連続攻撃が、フレズベルグの抵抗力を徐々に削いでゆき、ついに、長かった衝撃波は止まった。
紘汰は、体が軽くなったのを感じる。
―――テンポが変わる瞬間。加速するBPMに身を委ねるように、体中でリズムを刻むように。
紘汰は、攻撃の手を止めない。
―――本人が気付いているかどうかはわからないが、倒すべき敵に相対した時の紘汰は、迷いを捨てた紘汰は、その、生半可ではない戦闘のセンスを発揮する。
それは、彼が持って生まれ、また培ってきた高い身体能力、そして度胸の産物である。
―――新たな武器が召喚される。
それは、Sランクロックシードから生成される武器。
戒斗と光実の手にあるものと、同じものだった。
戦極凌馬が付けた名前は、創世弓ソニックアロー。
刃が付いており、敵とのレンジを問わず戦うことのできる、万能武器。
ロックシードの武器の中でも、最高位の威力を持つその刃を、紘汰は、力一杯に振り抜く!
―――フレズベルグは、恐怖で回らなくなりつつある頭で、思考する。
目の前の天敵を倒す手段を、考える。
―――この間、ほんの数秒。
起き上がった光実は、仮面の下で、その顔に失望の色を浮かべていた。
「思ったより使えない奴だな…!」
「ふふふ」
レデュエが、笑う。
「レデュエ!
…真面目にやる気がないなら、駆紋戒斗を抑えてろ」
「はい、はい」
光実は、苛立ちを露にしながら、弓を引き、紘汰とフレズベルグの元へ走ってゆく。
怒ってる、怒ってる。
レデュエは、また、くつくつと笑い、その視線を駆紋戒斗に移す。
戒斗は、まず最も傷の深い凰蓮に肩を貸そうとしていたが、本人からの進言により、その対象を城乃内に移す。
―――あれが終わるまで待っててやろうか。
レデュエは、気まぐれだ。
気まぐれだから、理由の無い情けをかけることもあるし、その逆もあり得る。
―――最も手を組んではいけない質の性格なのだ。
光実は、その危険性に、あまり深く考えが及んでいない。
レデュエは、くつくつと笑う。
「はぁッ!」
光実は、フレズベルグへの攻撃を続ける紘汰に、矢を一閃。
避け損ない、その身に矢を食らった紘汰は、白いアーマードライダーを一瞥、そこに、一瞬の精神的な隙が生まれる。
―――違う、あれは貴虎じゃない!
一瞬でそう思い直した紘汰は、フレズベルグに斬撃を加えると、光実に向けて弓を引く。
ピコン!
電子音が鳴り響き、直後、矢は放たれた。
光実はそれを自らの弓で振り払うと、紘汰に肉薄、鍔迫り合いになる。
「お前は一体何者だッ!」
「………!」
先日と同じようなやりとりを一瞬挟み、吹き荒れるは剣戟の嵐。
だが、紘汰が押している。
鎧そのものの性能も、装着者の身体能力も、紘汰が上だ。
光実の鎧に、紘汰の渾身の一撃が入り、光実は吹き飛ぶ。
だが―――
ここで、フレズベルグが復帰する。
思考能力が低下しているのは相変わらずだ。
さながら、負荷がかかり、データの処理に時間を食う、重くなったコンピュータのように。
それでも、フレズベルグは、生存本能だけで戦う。
白いアーマードライダーに気を取られた紘汰の背後から、一撃。
先程、凰蓮たちの鎧を砕いた攻撃だ。
いかに極アームズとはいえ、まったく平気というわけにはいかない。
「ぐああっ!」
その隙に、光実は体勢を立て直し、紘汰への反撃を行う。
ピコン!
矢は真っ直ぐな軌道を描き、紘汰の胸元へ。
火花。
連撃。
フレズベルグは、その爪で紘汰を斬りつける。
―――二対一だ、有利な筈が無い。
攻撃のリズムを崩された紘汰は、劣勢に陥る。
「くそッ!」
光実は、フレズベルグを横目に見る。
―――かなり狼狽しているな。
だが、やはり地の戦闘能力は高いらしい。
このまま押しきる。
目の前の、忌まわしき男を葬り去る。
そうだ。
無駄を排除する。
僕の人生から。
そうすることで、僕の人生は完璧なものに近付くんだ。
―――誰かがこんなことを言っていたような気がするが、誰でもいいか。
取るに足らないことだ。
それこそ、無駄なことだ。
今は、目の前のこいつを、消しさえすればいい。
必要なものだけを、選択し、人生に残す。
世界に残す。
それが、僕が手にした力の意味。
―――なぜか、昨日葬った、僕を騙るインベスの姿が、ちらつく。
『ふざけるなぁぁぁ!』
奴は、僕ではない。
だって、僕なら、わかるだろ。
僕の考えてることが、正しいってことくらい。
こうすれば、舞さんが笑ってくれる、ってことくらい。
ねえ。
そうでしょ。
僕の頭の中から消えろ。
偽物。
―――そして、僕の目の前から消えろ、葛葉紘汰!
―――メロンエナジースカッシュ!
光実は、ゲネシスドライバーのレバーを引く。
それは、必殺の一撃、そのチャージを意味する動作。
―――今の紘汰では、避けられないことだろう。
フレズベルグの猛攻を防ぐので精一杯だ。
この一撃が命中すれば、紘汰の流れは、完全に途絶え、そこからは、終曲まで一直線だ。
変わるリズム、そして、転調。
メジャーコードから、マイナーコードへ。
そうして、ここは、悪意の支配するステージに変わる。
光実は、ソニックアローを、勢いよく振りかぶり、紘汰に向けて、大地を蹴る。
次の瞬間には。
光実は、己の勝利を確信する。
「消えろォォォッ!」
―――それは、彼の悪い癖だ。
大事なところで、詰めが甘くなる。
故に、彼の計画は、しばしば失敗に終わる。
それは、今回もまた、同じ。
「ぐああっ!」
光実は、高速で割り込んできたそれに斬り付けられ、攻撃を中断させられた。
あまりの威力に、光実は吹き飛び、転げる。
―――起き上がり、その姿を認める。
「な…何…?」
それは。
光実のそれとはまた違う、メロンを模した鎧を纏った、白いアーマードライダー。
戦極ドライバーに、メロンのロックシード。
まさか。
そんな。
死んだはずだ。
あんたは、あのとき、崖から落ちて、死んだはずだ。
なのに、なぜ。
なぜ、今になって、こんな、こんなタイミングで、邪魔をするのか。
もう一人の白いアーマードライダーは、吹き飛んだ光実にゆっくりと、威厳を放つように歩み寄って、その剣を構える。
「………お前は、何者だ?」
それは、低い声で、光実に問い掛ける。
光実は、言葉を発することができない。
ただ、心の中で、呟く。
―――兄さん。
「貴虎!?」
貴虎なのか!?
―――フレズベルグの相手をしながらも、紘汰は、驚きの声を上げる。
もう一人の白いアーマードライダーは、その問い掛けに答えることはなく。
ただ、その声を聞いて、安心したように、囁く。
―――そうか。こっちのお前は、無事か。葛葉。
アーマードライダー・斬月。
"呉島貴虎"にイニシャライズされた戦極ドライバーが生成するライドウェア。
そう、呉島貴虎だけが使えるもの。
ならば、偽物の呉島貴虎も、また―――。
スペシャルゲスト。
偽物の呉島貴虎。
―――メロンインベスが、ステージに現れた。
更新が遅くなりました。
ごめんなさい。