仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

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沢芽市。
光実、レデュエ、そしてフレズベルグによる紘汰抹殺計画が、遂に動き出そうとしていた。
バナナインベスが、駆紋戒斗と別れ、また、数時間の時が流れて―――


第34話「葛葉紘汰オンステージ」

「………どうせ、行くと言い出すんだろう」

 

「当たり前だろ!ミッチが来てくれって言ってんだぞ」

 

「奴は、先のオーバーロードとの戦いにも現れなかったんだぞ」

 

「それは、何か事情があったんだろ。何が言いたいんだよ、戒斗」

 

「信用ならない、と言っている。…まあ、貴様には、何を言っても、無駄か」

 

「わけわかんねえこと言うな。大体、あいつが俺を騙して、何になるって言うんだよ?」

 

「…もういい。勝手にしろ」

 

「ああ、勝手にするよ。戒斗、舞たちを頼む。ザックたちも、もうすぐ戻ってくると思うから。

今日は、勝手にいなくなんなよ!

心配したんだからな!

―――板東さん、ごちそうさま」

 

「おい、ちゃんと食ってけよ。晩飯までもたねえぞ」

 

「ごめん。なんか、思ったほど食えなくて」

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、ドライバーもあるし、大丈夫。ありがとう。

―――行ってくる」

 

 

昼過ぎ、"本物の"沢芽市の一角。

 

白いアーマードライダーに変身した呉島光実と、レデュエ、そして、フレズベルグは、待っていた。

―――"主役"の登場を。

 

これより、開戦する。

目的は、ただ一つ。

アーマードライダー鎧武、葛葉紘汰の抹殺だ。

 

その時、彼らの前に、ひとりの男、―――そう、男である―――が現れた。

 

「あら、あーたたち、何をしてるのかしら?」

 

―――彼の名は、凰蓮・ピエール・アルフォンゾ。

沢芽市の洋菓子店、シャルモンのカリスマ店長、パティシエであり、いわゆる、

 

「また会ったわね、偽物くん?」

 

―――オカマであった。

凰蓮は、彼らが待っていた"主役"ではない。

 

光実は、舌打ちを一つ。

そう。

あの男は、何やら、兄・貴虎に入れ込んでいるらしく、先の戦いで、兄のゲネシスドライバーで変身した自分を、偽物だ、と看破した。

凰蓮は、"本物"へのこだわりが強い。

そのこだわり故に、かつては、アマチュアダンサーであるところのビートライダーズにケチを付け、インベスゲームにおいて敵対していた。

だが、最近は、町の危機を受けて、彼らと共に戦っているようだ。

光実は、凰蓮に興味は無かったが、ただ、良い印象を持ってはいない。

つまり、もしもこの男が自らの邪魔をしようとするのならば、

 

―――消えて構わない。

 

「メロンの君を騙る偽物。今日こそ、化けの皮を剥いであげるわぁ!」

 

三対一。

数の上で、凰蓮は、圧倒的に不利な状況にあった。

それでも、凰蓮は笑顔でそう言ったのだ。

フランス軍に従軍した経験のある凰蓮は、己の実力に、多大な信頼を寄せていた。

―――己の力を、疑わない。

それが、彼の信ずるところの、プロフェッショナル。

本物の戦士の流儀であった。

 

「変身!」

 

―――ドリアン!

 

凰蓮は、ロックシードを解錠する。

凰蓮・ピエール・アルフォンゾ。

またの名を、

 

―――ドリアンアームズ!

ミスターデンジャラス!

 

アーマードライダー"ブラーボ"!

凰蓮は、両手に現れた一対の鋸を構え、光実たちに突っ込んでゆき、

 

―――それを、フレズベルグの放つ衝撃波が阻んだ。

衝撃波は、凰蓮を吹き飛ばす。

 

「邪魔を、するな」

 

フレズベルグは、冷静だった。

目の前の男は、何の脅威にもならない。

つまり、生きていようが、死んでいようが、どちらでも構わないのだ。

 

その様子を、一歩退いて見ていたレデュエが、くつくつと笑う。

そして、―――瞬時に振り向き、その背中を狙って放たれたであろう矢を、勢いよく叩き落とした。

 

レデュエは、その矢が描いた軌道の起点に立つ戦士を、見据える。

視線の先にいたのは、桃色のアーマードライダー。

かつて、ユグドラシルで、戦極凌馬の秘書として活動し、今では、凰蓮と同じく、ビートライダーズの味方についた女性。

アーマードライダー"マリカ"。

湊耀子だった。

―――彼女もまた、"主役"ではない。

 

光実も振り返り、彼女の姿を認めると、再び、舌を打つ。

また、嫌な奴が来た。

戦極たちの兄への裏切りに荷担した湊は、貴虎の不在を知っている。

自分の正体にも、自ずと辿り着くことだろう、いや、もう気付いていると思った方がいい。

いずれにせよ、湊は、あの駆紋戒斗と同じく、自分に容赦なく攻撃を加える人間のひとりだ。

 

湊は、弓を引きながら走り出す。

光実もまた、弓を引き、彼女めがけて一閃。

湊は、前転を加えてそれを回避、今度は、光実に向けて矢を放った。

みすみす射たれる光実ではない、上体を反らして回避する。

湊は、跳躍すると、三人を飛び越えて、凰蓮の傍に着地した。

 

「凰蓮さん、大丈夫?」

 

「ええ、少し、驚いただけよ」

 

凰蓮は、体を起こすと、仮面の下で、いつもの笑顔を作る。

二人は、並び立ち、光実たちを見据えて、身構える。

 

「目的は何かしら?」

 

湊が、彼女が敵と見定めた者に相対する時特有の、威圧的な声で問う。

それに応じたのは、レデュエであった。

 

「今日は手伝いをしてるだけだよ。

紹介するよ、彼は、フレズベルグ」

 

「フレズベルグ?」

 

凰蓮と湊は、改めて、フレズベルグの姿を見る。

鷲のごとき相貌の巨人。

インベスとも、オーバーロードとも違った印象を受けるそれは、ただ、沈黙を守り、そこに立っていた。

「凰蓮さん!」

 

「湊さんッ!」

 

凰蓮たちの背後から、二人の青年の声がする。

声の主は、アーマードライダー、"グリドン"こと、城乃内秀保。

そして、アーマードライダー"ナックル"こと、ザックであった。

だが、彼らも、やはり"主役"ではない。

 

城乃内は、かつてはダンスチーム・インヴィットを率いていたが、現在は凰蓮の店で、パティシエの下働きをしている。

師である凰蓮に付き添い、町のパトロールを行っていたところ、少しの間、手分けをすることになったのだ。

 

そして、チーム・バロンの現行リーダーである、ザックと遭遇。

何やら騒ぎを聞き付けて駆け付けたところ、この状況だ。

―――昔の城乃内なら、それを遠巻きに見ているか、尻尾を巻いて逃げ出していたに違いない。

だが、凰蓮に師事し、心身ともに鍛えられた彼は、今や、立派な戦士になっていた。

そして、ザックは、もとより、悪を前にして逃げ出すような男ではない。

 

「あいつらァ、今度は何企んでやがる!」

 

「こ、怖くねえからな!」

 

「無駄口叩いてる場合かしら?気を引き締めなさい」

 

「あら、余裕も大事よ、お嬢さん?」

 

これで、四対三。

数の上では、優位に立った。

そう、

 

あくまでも、数の上では、だが。

 

フレズベルグが、消える。

正確には、消えたかのように見えた。

 

―――フレズベルグは、凄まじい速さで動き、凰蓮たちの目と鼻の先に、瞬時に移動したのだ。

フレズベルグは、そのまま、両の手の鉤爪を振り抜くと、何が起きたかわかっていない城乃内の鎧を、一撃で引き裂いた。

 

「うわあああッ!」

 

一瞬にして変身を解かれた城乃内は、あまりの衝撃に、口から血を吐き出しながら、後方へ吹き飛んだ。

 

「坊やッ!」

 

凰蓮がそれを案じた隙を突き、フレズベルグは、同じように、鉤爪で攻撃を仕掛ける。

その結果もまた、城乃内と同じだ。

鎧の奥、肉体までその攻撃は届いたらしい。

辺り一面のアスファルトを、二人分の血が汚す。

 

「ッ…!」

 

湊とザックは、目の前にいる敵の恐ろしさを、理解する。

―――人間が戦える相手ではないかもしれない。

フレズベルグは、今度は、湊に向けて蹴りを放つ。

湊は、左腕を使ってそれをガードするが、激痛と共に弓を落とし、そのまま横凪ぎに吹き飛ばされる。

 

「てめぇッ!」

 

ザックは、その巨大な拳で、フレズベルグに殴りかかるが、片手で軽く受け止められてしまう。

―――刹那、フレズベルグの攻撃が、アーマードライダーナックルの鎧を、打ち砕く。

 

「ぐあああッ!」

 

―――ザックたちのことが心配だが、今は、そっちに気を取られてはいけない。

戦士としての判断を下した湊は、痛みを堪え、咄嗟に体勢を立て直すと、フレズベルグの腹に蹴りを入れることに成功するが、これは、避けられなかったわけではない。

続けざまに蹴りを放つが、手応えがまるで無い、つまり、フレズベルグには、避ける必用がなかったのだ。

フレズベルグは、またも鉤爪を振りかぶり、一発、二発、三発と、斬撃を叩き込む。

 

―――やはり、結果は、同じ。

アスファルトの血が、四人分になっただけのことだ。

 

戦極凌馬自慢のゲネシスドライバーでさえ、フレズベルグの攻撃の前には、長くはもたなかった。

城乃内、凰蓮、湊、ザック。

四人のアーマードライダーは、皆、一様に変身を解かれ、倒れ伏した。

 

光実は、想像を遥かに超えたフレズベルグの実力に戦慄する。

事も無げに、これほどの力を。

更に、聞いた話によると、これでも、フレズベルグは、ラタトスクという存在から、力を分割して生まれたらしい。

―――葛葉紘汰の抹殺が、ますます現実味を帯びてきたようだ。

 

「余興にもならない。実につまらないよ」

 

レデュエが、彼らを嘲笑し、言う。

 

「もう、主役は呼んであるんだ。そこで、大人しく待つんだね」

 

「主役…だと…?」

 

ザックが、苦しそうに声を上げる。

隣の城乃内は、あまりの激痛に、涙を流してしまっていた。

凰蓮が、自らの痛みを堪えながらも、それを小さな声で叱りつけている。

湊は、咳き込み、血を吐く。

 

光実は、仮面の下で、にやりと笑い、それとは対照的に、レデュエは、愉しそうな笑い声を上げる。

そして、フレズベルグは、ただ、待っていた。

彼が、やって来るのを。

 

 

 

 

―――足音。

忙しなく、走る。

 

 

 

 

 

「来た、来た」

 

レデュエは、その並外れた感覚能力で、その者の気配を捉える。

光実は、無意識に拳を握る。

―――宿敵の、到来。

 

フレズベルグは、思考する。

生存のため、頭の中いっぱいに、智を張り巡らせて、思考する。

 

奴は、己の存在を脅かす、生まれて初めて出会う天敵。

大きな力を手にした、ちっぽけな一人の人間が、姿を現す。

 

ザックたちは、足音に振り返り、その姿を認めると、少し、安堵したようになった。

―――彼らは、その力を知っている。

その心を知っている。

彼もまた、血にまみれ、倒れるザックたち四人の姿を見ると、血相を変えて、そちらに一目散に走り寄った。

 

四人の生存を確認すると、たちまち、強い怒りをその目に宿し、立ちはだかる三人の敵を、しかと見据えた。

 

―――その腰には、戦極ドライバー。

その右手には、オレンジのロックシード。

 

 

 

「よくも、よくもみんなを………!」

 

 

 

そう、彼こそが、フレズベルグたちの待っていた"主役"。

彼の名は―――

 

 

 

「………ぜってえ許さねえ…!」

 

 

 

―――葛葉紘汰。

そう、彼は、"本物の"葛葉紘汰。

 

 

 

「変身!」

 

 

 

―――オレンジアームズ!

花道オンステージ!

 

 

 

本物の、アーマードライダー"鎧武"だ。

 

つづく


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