仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

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第33話「三国同盟」

―――フレズベルグは、思考する。

人間たちの世界まで、あと少し。

 

鷲の如き相貌と、2mをゆうに超える巨体。

鋭い鉤爪の付いた足で、ヘルヘイムの土壌を踏みしめ、歩く。

 

やがて、フレズベルグの目の前に、大きなクラックが現れた。

本物の沢芽市、神木を通じてユグドラシルタワー内部に繋がる、固定クラックだ。

かつて、ユグドラシルの研究員たちが、研究のために使っていたものである。

フレズベルグに、その知識は無い。

だが、

―――向こうに、気配を感じる。

この気配に、覚えがある。

理由はわからないが、恐らく、奴が向こうにいるのだろう。

 

フレズベルグは、クラックを通り抜け、ユグドラシルタワー内部に侵入する。

それを、訝しげな顔で出迎えた、人間の少年がひとり。

そして、緑の体を持つ、フェムシンムがひとり。

―――呉島光実と、レデュエだ。

 

「レデョデェグルンベリャファンフィ、ラタトスク。ダファデュションジョロ?」

 

レデュエが、フェムシンムの言葉で、フレズベルグに声を掛ける。

 

「コジョデェロ、フレズベルグ」

 

フレズベルグも、フェムシンムの言語で、それに応じる。

―――久しぶりだね、ラタトスク。その姿は?

―――私は、フレズベルグ。

人間の言葉に直せば、二人はそう言ったわけだが、フェムシンムの言葉がわからない光実は、眉を潜めるばかりだ。

 

「今度は、君の仲間か?レデュエ」

 

「いや、彼もフェムシンムではない。彼は、ラタトスク」

 

「私は、フレズベルグだ」

 

フレズベルグが、今度は人間の言葉を使って、つまり、光実にもわかるように言う。

 

「僕らの言葉が使えるなら、そっちで話してくれると助かるよ」

 

光実は、語気を強くそう言うと、椅子にもたれた。

あれから一度仮眠を取ったとはいえ、数時間前の、呉島光実を名乗るインベスとの戦いの疲れがまだ抜けていない。

―――あれは、ただでさえ、不愉快な出来事であった。

わけのわからない来訪者が立て続けに現れたことで、光実の機嫌は、ますます悪くなっていた。

そもそも、こいつも、さっきのインベスも、何者かわからない。

フェムシンム以外の知的生命体が、ヘルヘイムの森に?

光実はフレズベルグを睨み付け、レデュエは、くつくつと笑いながら、口を開く。

 

「わかったよ。で、フレズベルグ。君は、何をしに来たんだい?」

 

「葛葉紘汰を抹殺する」

 

光実が、眉をぴくりと動かす。

―――葛葉紘汰の抹殺。

それは、本質を見失い、暴走を続ける光実の悲願であった。

レデュエが、また、くつくつと笑う。

 

「どういうことだ?フレズベルグ、何故君が紘汰さんを?」

 

光実は、組んでいた脚を組み替えて、フレズベルグに問い掛ける。

フレズベルグは、感情の籠らない声で、

 

「葛葉紘汰の力は、私の存在を脅かす」

 

「…レデュエ、説明してくれ。彼は、一体何者だ?」

 

フレズベルグの要領を得ない返答にしびれを切らした光実は、レデュエに説明を要求する。

 

「彼は、私たちの森の奥地、閉ざされた扉の向こうにある煉獄の住人だよ。

何度か、私たちの前に姿を現している」

 

「煉獄?なんだ、それは」

 

「君たちの世界で言うところの"知性なきインベス"になって死んだ者の魂の行く先だ。

ラタトスクは、それを餌にして生きている」

 

「ふーん」

 

わけのわからない話だったが、そもそも、ヘルヘイムの森自体、ものの数ヵ月前の光実からしたら、わけのわからない話であった。

ここでレデュエたちが嘘をつく必要性は特に無いだろう、との判断を下し、光実は煉獄の存在を受け入れた。

 

「さっき来たアレも、その煉獄から来たものか?」

 

「君の偽物のことかい?さあね」

 

レデュエの言い方が癇に障り、光実は、舌打ちを一つ。

椅子から立ち上がり、再び、フレズベルグに話しかける。

 

「とにかく、狙いは葛葉紘汰なんだな?」

 

「そうだ」

 

「君の、力の程は?紘汰さんは、強いよ?」

 

光実は、回想する。

兄の遺したゲネシスドライバーで変身し、何度か戦いを重ねた。

記憶にある中での紘汰との最後の戦い、

―――レデュエの配下である、デュデュオンシュと共に戦った時のことを思い出す。

どこで手に入れたかわからない、鍵のようなロックシードで変身した、白銀のアームズ。

複数のロックシードの武器を使い、圧倒的な力でデュデュオンシュを葬った、その姿のことが頭を掠める。

 

「大丈夫、ラタトスクは強い。以前、デェムシュが手も足も出なかった」

 

レデュエが、口を添える。

太鼓判を押したつもりなのだろうが、紘汰は、そのデェムシュを倒しているのだ。

 

―――まあ、いいか。

 

こいつも、利用するだけ利用してみよう。

光実の表情は一気に冷えきる。

レデュエが、その様子を見て、光実の考えを察したのか、嬉しそうな声で言う。

 

「そういうことなら、私たちも手伝うよ、フレズベルグ」

 

「紘汰さんは、僕たちにとっても邪魔者だからね。

でも、僕が選んだ人には手を出さないでね。

それでいいなら、よろしく頼むよ、フレズベルグ」

 

「構わない」

 

フレズベルグは、やはり無感情な声で、そう返す。

そして、ラタトスクとの交信。

―――情報を、共有する。

 

「それじゃ、計画を立てようか。何かアイディアはあるかい?」

 

人間、フェムシンム、煉獄の魔物。

ここに、三者三様の思惑を孕んだ、三国同盟が結成された。

 

―――それから、一晩。

人間の世界の夜は、明ける。

 

 

―――眩しい。

目が覚めたら、朝になっていた。

裏路地に、朝の日差しが差し込んでいる。

もうひとりの駆紋戒斗との戦いを終えた俺は、不用心にも、その場で眠ってしまったらしい。

インベスに襲われなかったことは幸いと言うべきか。

体の節々は依然として痛むが、ゆっくりと眠ったお陰か、疲労はだいぶ回復しているようだった。

 

「目が覚めたようだな」

 

後方から、足音と、声が聞こえる。

これは、―――もうひとりの駆紋戒斗のものだ。

俺は、振り返る。

 

「何ィッ」

 

「なんだ、急に」

 

―――そこに立っていたのは、俺だった。

いや、正確には、尻からバナナロックシードを摂取し、この姿になる前の、俺だった。

赤と黒、チームバロンのトレードマークである、ロングコート。

茶色い髪の毛に、精悍な顔立ち。

毎日鏡で見ていたそれが、今、目の前にいるのだ。

 

頭の中、電流が走る。

俺は、ある、恐るべき可能性に思い至る。

こいつは、こいつは、俺の―――

 

 

 

 

 

―――そっくりさん!

 

「ふん、名前のみならず、顔まで俺と一緒とはな」

 

「貴様、俺を馬鹿にしているのか?

俺は、そんなバナナのような顔はしていない」

 

この男との間には、やはり、ただならぬ因縁を感じる。

いや、バロンのコートを着ているところを見るに、もしかしたらかつての俺のファンだったのかもしれない。

俺は、改めて、こいつと決着を付ける決意を固めた。

 

それにしても、こいつ、あれだけの戦いの後に、もう動けるのか。

見たところ、奴は、角居と同じように、ドライバーとロックシードで変身をしていたようだ。

つまり、元々の体は人間、ということ。

それでいて、インベスの体を持つ、この俺と同じレベル、いや、もしかしたらそれ以上の回復力を見せるとは―――

 

「とりあえず、これを食え。人間の食い物は食えるか?」

 

駆紋戒斗は、手に持っていたビニール袋から、コンビニエンスストアでよく見掛けるタイプの、包装されたおにぎりと、緑茶のペットボトルを取り出して、順番に俺に投げてよこした。

 

「貴様、これを俺のために?」

 

「勘違いするな。腹が減ったから、調達してきた。貴様の分は、ついでだ」

 

奴はそう言うと、今度は自分用のおにぎりの包装をはがして、むしゃむしゃと食べ始めた。

 

「ふん。礼は言っておこう」

 

「いつまで、こうして、ものが食っていられるか」

 

「何の話だ?」

 

「わからんなら、いい」

 

奴は、よくわからないことを言うと、俺のより大きい緑茶のペットボトルの蓋を開けた。

―――俺もあっちが良かった。

 

俺も、おにぎりにかじりつく。

思えば、バナナ以外のものを食べるのは久しぶりだ。

バナナが一番だと思っていたが、使い分け(?)も重要だということか。

 

一通り腹ごしらえが終わった頃、奴は、立ち上がって、こう言った。

 

「俺は一度、ガレージへ戻る。貴様は?」

 

「俺は、ラタトスクの手掛かりを探す。

ラタトスクを倒すのは、俺だ」

 

「ふん。精々、気を付けることだな」

 

奴は、コートを翻しつつ、裏路地から出ていった。

 

さて、手掛かりを探す、とはいえ、これから、どうするか。

とりあえず、町の様子を見る必要がある。

俺は、奴とは反対方向に路地を抜けて、町へと繰り出した。

 

つづく




時系列について補足します。
このお話の中の"本物の沢芽市"は、原作第33話と第34話の間を想定しています。
極アームズvs斬月・真&デュデュオンシュ以降、戦略ミサイル発射以前ですね。

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