仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

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第32話「駆紋戒斗は敵ではない」

―――俺と赤いオーバーロードの戦いは、佳境に突入していた。

 

「はあっ、はあっ…」

 

「貴様、しぶといな…」

 

実力は拮抗している。

まさに互角、一進一退の攻防をどれだけ続けたことだろう。

お互い、これ以上戦いを続ける体力は、もうあまり残っていない。

初めての経験だが、俺のバナナ生成能力も、使用回数の限界に達しつつあるようだ。

 

間もなく、勝敗は決する。

 

互角の戦いならば、勝つのは、限界を超えた方だ。

限界の壁から、より遠くへ、遠くへ、その刃を届かせることができる方だ。

 

―――俺は、バナナオブスピアーを構え、力を込める。

その形状を維持することが難しくなりつつあるバナナオブスピアーを、新たなバナナを生成し、無理矢理補強する。

もっと固く。大きく。

 

奴は、腰の赤いベルトからロックシード―――先程気付いたことだが、何故オーバーロードがロックシードを―――を外し、その弓に装着する。

 

―――レモンエナジー!

 

あの攻撃は、これで二度目だ。

先程は、なんとか回避することに成功したが、今、あれが直撃すれば、俺の体はもたないだろう。

 

だが、それは奴も同じ。

次に俺が放つ一撃は、限界を超える、最強の一撃だ。

俺がそう決めた。

だから、そうに決まっている。

 

沈黙。

もう、言葉はいらない。

俺は、腰を深く落とす。

奴は、弓を引く。

ピコピコとやかましい電子音声が、奴の弓から聞こえる。

奴との距離は、目測5m。

踏み込めば、一瞬で詰められる距離だ。

リーチの違いは、もう問題ではない。

問題は、いつ仕掛けるか。

 

じりじり、じりじりと、見えない火花が散っている。

先に仕掛けた方、もしくは後に仕掛けた方が負ける。

つまり、どうなるかはわからないということだ。

ここだ、という一瞬に耳を澄まして、この目で見定め、放つ。

それだけだ。

 

―――なかなか楽しかったぞ、赤いオーバーロード。

だが、これで終わりだ。

 

勝つのは―――

 

「はぁぁぁぁぁッ!」

 

俺だッ!

 

俺は、バナナオブスピアーを突き出し、全力で大地を蹴って、奴の懐めがけて飛び込む。

奴は、気合いの雄叫びと共に、その矢を放つ。

―――俺のバナナと、奴の矢が、衝突する。

 

凄まじいエネルギーだ。

どちらかといえば、打ち負けている。

バナナオブスピアーが、少しずつ崩壊してゆく。

 

だが、負けない。

目の前が、光に包まれる。

巨大なエネルギー同士がぶつかる、その光。

黄金の光だ。

 

「うおおおおッ!」

 

俺は、更にバナナを生成、バナナオブスピアーの補強を図る。

もう、限度などとうに超えたことだろう。

いや、超えたのならば、

―――限界など、ない!

 

壁を、超える。

その先に、また壁がある。

生きるとはそういうことだ。

それを繰り返し、目の前から一切の壁が無くなった時―――

その時が、俺の望む強さに至った瞬間だ。

 

それまでは、全て、過程に過ぎない。

最強への過程に過ぎない。

俺は、決して、今に甘んじない。

俺は、決して、今を疎かにしない。

 

頭が、やけにクリアーだ。

命を賭けた戦いの中で、俺は、何か、

―――自分の中の歪みを、そう、疑うことの出来なかった弱さのようなものを、晴らすことが出来たような気がしている。

 

それは、目の前にいる、こいつのお陰かもしれない。

立ちはだかった強者。

奇しくも、俺と同じ名を持つ男。

 

―――もうひとりの駆紋戒斗。

貴様に敬意を表する。

だから、この一撃を、受け取れッ!

 

「はああああああああッ!」

 

もっと固く!

もっと大きく!

貫け!俺のバナナ!

 

―――目の前が、一気に開けた。

俺は、壁を壊した。

 

 

 

―――レモンエナジースカッシュ!

 

 

 

音がした。

 

奴の矢を破壊したその先で、奴は、オーラを宿した弓を逆手に持ち、待ち構えていた。

 

「俺の、勝ちだッ!」

 

奴が叫び、その刃を振り抜く。

 

―――それと衝突したバナナオブスピアーは、粉々に、瓦解してゆく。

 

再び、閃光。

 

「はあああああああッ!」

 

奴の刃が、俺の体に迫り―――

 

爆発。

 

 

「ぐあああああっ!」

「ぐあああああっ!」

 

 

―――呻き声は、俺と奴の二人分。

 

奴の刃は、俺に届いてはいない。

 

バナナオブスピアーを構成していたバナナを、すべて、瞬時にバナナ爆弾に再構成した。

瓦解してゆくバナナオブスピアー、そのものが、巨大な爆弾となったのだ。

 

爆炎。

俺は、その衝撃に吹き飛ばされ、宙を舞う。

 

―――どうだ。

見たか。

これが、俺の強さだ。

 

俺の体は、派手に地面に叩きつけられた。

 

ひとけの無い裏路地に、静寂が戻る。

 

俺は、勝ったのだろうか。

硝煙は、徐々に晴れ、

 

―――その中から、奴が姿を表す。

少し遠くに、俺と同じく、倒れているようだ。

姿は、よく見えない。

だが、生きてはいるようだ。

 

―――引き分け、ということか。

奴も、もう戦えまい。

 

「…おい!」

 

奴が、苦しそうに大声を上げる。

俺は空を仰ぐように、仰向けになって、全身を弛緩させながら、それに応じる。

声を出すと、全身の骨に響き、それが、堪らない苦痛を生み出す。

 

「なんだ!」

 

「…決着は、次だ!」

 

「…いいだろう!」

 

「貴様、何が目的だ!」

 

「ラタトスクの手掛かりを探している!

貴様なら、知っているだろう!」

 

「ラタトスクだと?知らんな!」

 

「とぼけるな!貴様、オーバーロードだろう!」

 

「誰がオーバーロードだ!貴様こそ、オーバーロードの仲間だろう!」

 

「誰がオーバーロードだ!俺はバナナだ」

 

「バナナはもういい!その、ラタトスクとはなんだ!」

 

「俺もよくは知らん!だが、強大な強い強者だ。俺は、ラタトスクを倒す」

 

「そのラタトスクは、それほどまでに強いのか!」

 

「桁違いの強さだ!」

 

「面白い!ならば、ラタトスクは、俺が倒す!」

 

「貴様、ラタトスクの居場所を知っているのか!」

 

「知らんと言っただろう!とにかく、この町に危害を加える気はないんだな?」

 

「当たり前だ!そんなことをして何になる」

 

「そうか、ならば、貴様は、」

 

―――敵では、ないな。

奴は、そう続けた。

俺も、そう思う。

奴は、超えるべき壁ではあるが、

―――あの駆紋戒斗は、敵ではない。

 

 

フレズベルグは、思考する。

 

その巨体で、ヘルヘイムの森を、ゆっくりと歩いてゆく。

人間たちの世界を目指して。

葛葉紘汰のいる世界を目指して。

もう、それほど遠くはない。

 

フレズベルグは、思考する。

葛葉紘汰を倒す算段を組み立てる。

生存のための最適解を求め続ける。

 

フレズベルグは、ラタトスクと、交信を行う。

 

「葛葉紘汰についての情報を、再度確認する」

 

「葛葉紘汰についての情報を確認する」

 

「奴は、知恵の実の力を持っている」

 

「確定事項。知恵の実による干渉を感じる」

 

「ただし、知恵の実の力、全てではない」

 

「確定事項。知恵の実の力、全てではない」

 

「葛葉紘汰は、知恵の実を持っている」

 

「不確定事項。知恵の実、そのものを持っているとは限らない」

 

「葛葉紘汰は、意図的に我々に干渉した」

 

「不確定事項。葛葉紘汰は、意図的に我々に干渉したとは限らない」

 

「提唱。葛葉紘汰が我々に無意識的に干渉した場合、それは、最悪のケースと言える」

 

「否。最悪のケースは、葛葉紘汰が知恵の実そのものを所持し、なおかつ、意識してその力を制限した上で、我々に干渉した場合」

 

「提唱。その可能性は、高い」

 

「否。あまりにも不完全かつ無軌道な干渉であった。ただし、可能性の否定には至らない」

 

「提案。角居裕也の記憶を、再度、閲覧する」

 

「意義なし。角居裕也の記憶を、再度、閲覧する」

 

―――フレズベルグは、思考する。

人間たちの世界まで、あと少し。

 

つづく


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