仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

30 / 44
第30話「邂逅の時」

いつの間にか、呉島貴虎がいなくなっていた。

俺の速さに着いてこれなくなったのか。

だらしない奴め。

 

俺、駆紋戒斗は、ヘルヘイムの森を爆進していた。

オーバーロードを探して。

 

「どこだ!

どこにいる、オーバーロード!

出てこい!」

 

気合い充分に叫びながら探しているのだが、オーバーロードが出てくる気配は無い。

しばしば現れるインベスは、バナナを投げつけて撃退する。

 

そのような行軍を、しばらく続けていたのだが―――

 

「あれは、クラックか?」

 

俺は、クラックを発見する。

向こう側は、俺の見知った、沢芽市のようだった。

 

ここで、少し考える。

この間まで俺がいた沢芽市は、確かラタトスクによって閉じられた筈だ。

そう、俺たちは締め出された。

そして、目の前にはクラックが開いている。

即ち―――

 

「ラタトスク!貴様は俺が倒す!」

 

このクラックの向こうには、ラタトスクがいるということだ。

奴め、このクラックは閉じるのを忘れたな。

オーバーロードに会うまでもなかった。

このクラックを通り抜け、ラタトスクを倒す!

 

沢芽市は、妙に静かだった。

人の気配が無い。

いや、それは元々そうだったか。

葛葉が倒れてから、数人を除いて、沢芽市から、人がいなくなったのだ。

俺は、威風堂々と町を歩く。

 

「さあ、ラタトスク!

出てこい!俺と勝負をしろ!」

 

町を見渡す。

ユグドラシルタワーが目に入った。

おかしい。

あれは、確か、巨大な樹に変わったはずだった。

まあ、細かいことはいい。

細かいことを気にする奴は、弱者だ。

 

俺は、自慢のバナナを揺らしながら、勝手知ったる町を歩いて回る。

たまにインベスがいるので、バナナをぶつけて倒す。

どこだ、どこにいる、ラタトスク。

お前を倒すために、この俺が、駆紋戒斗が戻ってきたぞ!

 

―――戦いの音がする。

 

ここからは見えないが、すぐ近くに見える建物の陰で、何かと何かが戦いを繰り広げている。

俺くらいの強者になると、もう、音でわかる。

ラタトスクに違いない。

何者かとラタトスクが戦っているのだ。

 

俺は、己の中の闘争心に歯止めが効かなくなる。

今日は、歩き疲れているとはいえ、最高のコンディションだ。

今の俺ならば、勝てる。

ここ数日で、ふくらはぎの辺りにかなり筋肉が付いたような気がする。

今の俺は、あのときよりも、格段に強いはずだ。

今行くぞ、ラタトスク!

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

俺は、気合いの雄叫びを上げながら、その物陰に突っ込んでいった。

 

 

 

赤いオーバーロードがいた。

 

 

 

少し、驚いた。

物陰で戦っていたのは、あのとき森で見た赤いオーバーロードと、数体のインベスだった。

何故、貴様がここにいる?

 

「バナッ…!?」

 

赤いオーバーロードは、俺の方を振り向くなり、驚いたように言う。

 

―――因果なものだな。

探すことをやめたときに見付かるとは!

 

「バナナ…?」

 

オーバーロードは、今度は、少し困惑したような声で言った。

 

ああ、そうだ、

 

「バナナだ!」

 

「何ィッ」

 

俺は、勢いよく走り出す。

まずは、邪魔なインベスをどかす。

バナナをぶつけ、殴り、蹴る。

一瞬呆気に取られたようになったオーバーロードは、すぐに気を取り直し、インベスとの戦いを再開した。

そこから、全てのインベスを片付けるまでに、あまり時間は掛からなかった。

 

次は、―――お前だ。

 

「また会ったな、オーバーロード!」

 

俺は、宣戦布告を始める。

オーバーロードは、怒ったような声で、

 

「誰がオーバーロードだ!」

 

お前がオーバーロードだ!

 

赤い体、マント、間違いない、俺が、この間森で出逢った、オーバーロードだ!

 

「ラタトスクのことを教えてもらおうか!」

 

「何の話だ!」

 

俺は、オーバーロードに殴りかかる。

今回は、何を言っているかわりと聞き取ることが出来ている。

どうやら、未知の言語を話していたわけではなかったらしい。

単に滑舌があまり良くないのだろう。

 

「しらを切るつもりだな!

ならば、力づくだ!」

 

オーバーロードは、手に持っていた武器を、俺に向けて振り切ろうとする。

俺は、そのために奴が踏み込んだところにバナナを仕掛け、体勢を崩すことに成功した。

 

「バナッ…」

 

「はぁっ!」

 

俺は、その隙を逃さず、キックを繰り出す。

オーバーロードは、それを咄嗟にガード。

しかし、甘い。

ガードしきれていないな!

もう一撃―――

そう思ったところで、奴は、崩れた体勢を無理矢理直しがてら、俺を、武器で一発、切りつけた。

 

「くっ!」

 

奴は、少し距離を取る。

 

俺も、それに倣うように、いや倣ったわけではない、倣ったわけではないが、距離を取る。

 

「………!」

 

剣呑な雰囲気を感じる。

強者だけが感じることのできる、そう、刃のような、鋭い空気だ。

 

きっと、奴も俺と同じことを考えている。

 

―――こいつ、強者だ!

 

森で会った時の直感は、間違ってはいなかった。

目の前にいるこいつは、間違いなく、強者。

俺は、言う。

 

「名前を、訊いておこうか」

 

意味は無い。

ただ、知りたくなったのだ。

 

この男は、きっと、俺によく似ている。

身体的な意味だけではない、精神の意味においても、この男は、強さを追い求め、強さを第一に考える、求道者だ。

その名前を、知っておきたかった。

 

「ふん、いいだろう。

よく覚えておけ」

 

赤いオーバーロードは、堂々と口を開く。

 

「駆紋戒斗、という」

 

「そうか。俺は、駆紋戒斗だ」

 

「何ィッ」

 

「何ィッ」

 

聞き間違えただろうか。

駆紋戒斗、と聞こえた。

 

「もう一度、ハッキリ発音しろ」

 

「ク・モ・ン・カ・イ・ト。お前は?」

 

「 ク・モ・ン・カ・イ・ト 」

 

「何ィッ」

 

「何ィッ」

 

音が同じだけかもしれない。

 

「漢字だとどう書く?」

 

「四輪駆動の駆」

 

「ふむ」

 

「紋章の紋」

 

「ふむ」

 

「戒めの戒」

 

「ふむ」

 

「そして、強そうな斗だ」

 

「何ィッ」

 

「貴様は?」

 

「同じだ」

 

「何ィッ」

 

漢字まで一緒だと。

つまり。

つまり、こいつは―――!

 

 

 

 

 

―――同姓同名!

 

 

 

 

 

 

「なるほど…」

 

俺は、因縁を感じた。

俺と同じ名前を持つ、このオーバーロード。

赤い体と、黄金のマント、そして、赤い弓のような武器。

どうやら、俺の、宿命の敵、らしいな!

 

「面白い!」

 

「来い!」

 

奴も、同じことを感じたのだろう。

俺たちは、同じタイミングで大地を蹴り出し、戦いを再開した。

 

 

駆紋戒斗が、少し休憩を取ろうと言った俺の話を聞かず、走って姿を消してからもうだいぶ経つ。

あいつのことは、もう、いいか。

俺は、独自にオーバーロードとやらを探すことにしよう。

 

少し、疲れていた。

俺は、地面に腰を下ろす。

―――ここ最近、色々なことが、起こりすぎたと思う。

俺を含めた、皆のインベス化。

町の異変。

シドの死。

凌馬の逃走、そして、死。

葛葉の死。

湊の死。

初瀬の死。

そして恐らく、角居も―――

 

俺にもっと力があれば、救えた命もあっただろうか。

サガラが言ったことが気掛かりだ。

俺は、本物の呉島貴虎の、アバターだと。

本物の呉島貴虎ならば、何とか出来ただろうか。

 

自覚がある。

俺は、おかしくなっている。

10/6頃から。

それは、サガラの言ったことと、そして、ラタトスクという存在に、関係があるに違いない。

だが、それ以上を考えることができなかった。

まるで、それを許されていないかのように。

 

光実は、大丈夫だろうか。

今も、あの沢芽市にいるのだろう。

ラタトスクに、殺されてはいないだろうか。

光実。

 

―――こうしてはいられない。

すぐにでも、あそこに戻る必要がある。

 

そのためには、オーバーロードに接触する必要がある。

俺は、再び足取りを早くして、森を歩き始める。

 

しばらく歩くと、特徴的な一角にたどり着いた。

―――遺跡のようだ。

ヘルヘイムの森には、かつて、文明があったが、それは、ヘルヘイム植物によって滅び去った。

その中の、一つだろう。

 

俺は、朽ち果てた建物の中に、入ってゆく。

住み処にはうってつけの場所だ。

ここに、オーバーロードがいる可能性がある。

 

俺は、声を出した。

 

「おい、誰か、いないか」

 

 

 

「なんだ」

 

 

 

声が、返ってきた。

―――本当に、いたのか。

 

「入っても、構わないか」

 

「好きにしろ」

 

重々しい響きの声だった。

俺は、声の主の方へ、歩いてゆく。

 

―――白いインベスが、祭壇のような場所に、立っていた。

 

「―――驚いた。人間かと、思ったが」

 

白いインベスは、俺を見ると、ゆっくりと、落ち着きのある声でそう言った。

 

「驚かせて、すまない。

この姿をしているが、人間だ。

あなたが、オーバーロードか?」

 

「オーバーロード…

そう呼ばれているようだな。

私は、フェムシンムの王。

名を、」

 

ロシュオ。

その男は、そう名乗った。

 

「それで、私に何の用だ?」

 

「ああ、一つ、訊きたいことが―――」

 

俺がそこまで言うと、物陰から、一人の人間が現れた。

 

上半身に、何やら包帯のようなものを巻き付け、怪我をしているのか、動きづらそうにしている。

 

 

―――その顔を見て、俺は、全てを察した。

 

 

「人の声がするが、誰か…」

 

その男は、そこまで言って、俺の姿を認めると、やや身構えた。

 

「オーバーロード…!」

 

「違う、この男は、フェムシンムではない。

人間、だそうだ」

 

男の声に、ロシュオが応じる。

 

「人間…?」

 

男が、俺をまじまじと見つめ、

 

「………名前を、訪ねてもいいか?」

 

そう言った。

 

俺は、答えた。

 

「………斬月、という」

 

「斬月………」

 

この男に、本名を名乗るわけにはいかない、と思った。

故に、俺は、その名前を名乗った。

こいつは、覚えているだろうか。

かつて、戦極ドライバーの実験中、俺が変身した姿に、凌馬が与えたコードネームを。

そんなものはいらん、と、切って捨てたが。

 

反応を見るに、覚えがあるらしかった。

 

「そうか。…私は、呉島貴虎という。

あなたは、どうやってそのような姿に?」

 

―――本物の呉島貴虎は、言った。

 

つづく




バナナインベスと戒斗の出会いについては、第9話に戻っていただくとわかりやすいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。