仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

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第24話「煉獄の扉」

俺、駆紋戒斗は、チーム・バロンのアジトに赴く途中で、ザックの遺体を見付けた。

 

「ザック」

 

「…友達かしら?戒斗」

 

湊が、遠慮がちに問う。

 

「俺のチームの、ナンバーツーだった男だ。

今では、こいつにリーダーを任せていた」

 

インベスに襲われ、逃げたところをやられたのだろう。

うつ伏せに倒れ、背中には大きな切り傷があり、そこから大量の血が滲み出ていた。

バロンの衣装である、赤と黒のロングコート。ストリートの強者の証。

それが、ぼろぼろに引き裂かれていた。

 

「葛葉といい、貴様といい、あっけないものだな」

 

俺は、呟く。

 

力の無いものが、負ける。

そして、命を落とす。

それが、この世界の理だ。

 

俺の実家の製作所が、ユグドラシルに潰されたように。

強い方が、弱い方を圧する、それがこの世界だ。

 

今は、それに何の不満も無い。

負けたくなければ、強くなる。

強さを求めない者に、明日は無い。

勝とうとしない者に、勝利は無い。

 

だが―――

俺の知る限り、葛葉は強者であった。

俺の知る限り、ザックは強くなろうとしていた。

 

世界は残酷だ。

強くても、強くあろうとしても、容赦なく、命を奪う。

突然の理不尽が、勝者と敗者を分ける。

 

弱い方が、負ける。

負けた方が、弱い。

そう思わないことには、俺は、立ち上がることができなかった。

それは、今でも変わらないことだろう。

 

だから、ザック。葛葉。

俺は、お前たちのために、泣いたりなどしない。

お前たちを、哀れだとも思わない。

そう思うことは、貴様らへの冒涜だ。

そして、俺自身の、信念への冒涜だ。

 

俺は、ザックの遺体を担ぎ上げた。

 

「アジトまで連れていく。良いな?」

 

「ええ。戒斗、」

 

あなたは、強い。

湊は、そう続けた。

そうだ。

俺は、強い。

 

弱かったからこそ、俺は、強い。

行く手を塞いだインベスを、湊が蹴り砕いた。

 

 

―――ねえ、紘汰さん。

あなたは、主人公では無かったのですね。

僕は、それならそれで仕方がない、と思ってました。

物語があなたを主人公に選ぶのなら、僕なんかでは、到底、及ばないと思ったから。

 

僕とあなたは、違う。

きっと、根本から、違うんだ。

だからこそ僕は、あなたに憧れました。

あなたのように生きられたら、どんなに素晴らしいことだろう、と、そうも思っていました。

 

でもね、不思議でしょう?

あまり、羨んでいたわけではないんです。

あなたになりたかったわけではなかった。

あなたの傍で、ノンプレイヤーキャラクターとして、あなたの物語を見ていたかった。

だから、あなたの物語を壊そうとした裕也さんに、牙を剥きました。

 

でも、違った。

あなたは、主人公では無かった。

いや、そもそもこれは、物語でもなんでもなかった。

 

ただの、狂った偽物。

全てが紛い物。

僕も、あなたも、それを取り囲む世界も、僕の想いも、全て、全て。

 

僕は、チーム鎧武のガレージで、みんなで撮った集合写真の中の紘汰さんに語りかけている。

この写真も、偽物だ。

これに写ってるのは、僕じゃない。あなたじゃない。

これを撮った記憶なら、あるけれど、それは、僕のものじゃない。

本物の、呉島光実のものだ。

 

写真の中で、笑顔を浮かべる、舞さん。

そう、この世界には、僕の大切な舞さんがいない。

 

紘汰さん。

舞さん。

チームのみんな。

会いたい。

 

みんな、いなくなってしまった。

ここにだって、誰もいない。

僕の居場所は、なくなってしまった。

 

ふざけるな。

そんなこと、認めてたまるか。

僕は、足掻く。

必ず、取り戻す。

僕の毎日を。

みんなの笑顔を。

必ず、取り戻してやる。

―――僕は、僕が、呉島光実だ。

 

紘汰さん。

僕は、ヘルヘイムの森へ行きます。

 

森には、知性を持ったインベスがいるそうですね。

そして、戦極凌馬の手記や、シドの証言からすると、全ての不可能を可能にする、禁断の果実がある、と。

 

僕は、それを手に入れて、全てを取り戻します。

紘汰さん。

舞さん。

待っててください。

今、迎えに行きます。

 

 

―――なあ、お前さんが作りたかったのは、こんな世界なのかい。

酷い有り様じゃないか。

生き残ってんのは、駆紋戒斗、呉島光実、呉島貴虎、湊耀子、初瀬亮二、そして、角居裕也だけだ。

 

…ああ、わかってるよ。

こんな風にしたかったはず、ねェよな。

でも、この世界は、こんな風になっちまったんだ。

 

お前の優しさが。

お前の優しさが、お前の救おうとした奴に、もっと残酷な選択をさせようとしてんだ。

 

この世界は、もうすぐ終わる。

もう、お前の力も及ばない。

この化け物たちに、居場所が無くなるんだ。

 

それを、お前は、どうすんだ。

どうやって決着をつけるんだ。

―――なんて言っても、わかんねェか。

 

ああ、お前のせいじゃねえ。

これに関しては、誰が悪いわけじゃねえ。

でも、鍵は開けられてしまった。

こんなにおかしなことになってんだ。

あいつは、あいつらは、もうすぐ、全てに気が付く筈さ。

ヒントは出揃ってんだぜ。

 

さあ、どうやって落とし前をつける?

どうやって、開かれちまった扉を、閉じる?

 

この、煉獄の扉を。

 

つづく


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