仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

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ウッホッホウッホ!
角居裕也・アーマードライダー鎧武オルタネイティヴがオレンジインベスを倒したことにより、沢芽市中にクラックが出現、大量のインベスが溢れ出してきた。
一方、目を覚ました初瀬亮二は、戦極ドライバーと二つのロックシードで、アーマードライダーレイドワイルドに変身し、インベスと戦う!


第21話「呉島の男」

もたもたしてる時間は無い。

俺は、オレンジインベスの言葉を思い出した。

 

『そのチェリーのロックシードはな、すっげー速く動けるようになるんだ!』

 

集中、集中だ、集中して、

―――走る!

 

「うおおおおおお?!」

 

次の瞬間、俺は、すっげー速く動いてた。

当たり前だけど、こんなの初体験だ。

今、自分の脚がどんなことになってんのか、よくわからねえけど、なんでもいい、この勢いを活かして、レイドワイルドの溜まり場へ向かおう。

 

道中、行く手を塞ぐインベスは、赤い弓で攻撃してどかす。

これには刃も付いてるみたいで、接近戦でも使える、らしい。

とにかく、すげー便利ってことだ。わかるのはそれだけでいい。

 

やはり、どこもクラックだらけだ。

角居いわく、ヘルヘイムとかいう森に繋がる、空間の裂け目。

そんなものがたくさん開いて、この町は、これからどうなっちまうんだ。

とりあえず、今は、あいつらの元へ急がなきゃ。

もうすぐ、もうすぐだ。

見えた!

 

俺は、レイドワイルドの溜まり場に駆け込み、メンバーの姿を探す。

 

―――いない。

 

人っ子ひとりいやしない。

レイドワイルドのポスターが壁中に貼ってある、打ち捨てられた建物の一角。

小さなクラックが、幾つか開いている。

人が通れる大きさとは思えない。

テーブルの上には、飲みかけの飲み物が幾つか。

灰皿には、山盛りの煙草の吸い殻。

あいつらがここにいたのは間違いない。

だが、どうも、この場所に、生気を感じない。

なんてゆーか、こう、…人がいたようには思えない。

 

「おい!隠れてんなら出てこい!初瀬だ!」

 

俺は、大声で叫んだ。

返事は、無く、空しくエコーする。

 

「どこにいんだよ…?」

 

ここにいないってことは、もうどこかへ逃げたのか。

だが、今の沢芽市から出る手段は無いはずだ。

そして、これは当たってほしくない直感だが、町のどこへ行っても、インベスだらけだろう。

まさか、もう―――。

最悪の予想が頭をよぎって、俺は、それを振り払うように、再び走り出した。

その時、

 

「うわっ!」

 

目の前に、インベスが姿を表した。

 

その体は、猫とも鳥とも言えるような真っ白い体毛に包まれて、少しもさもさしてるようだった。

ところどころに走るのは、黄緑色の網目のような模様。

色合いは全く違うが、なんとなく、虎を思い出した。

鷹を連想させる顔には、黄緑色の鋭い目が収まり、光を放ってるように見えた。

両手には鉤爪、左手の甲の皮膚が、妙に膨れ上がっていて、まるで盾のように見えた。

胸ポケット(?)からは緑色のハンカチ(?)が覗いていた。

 

ああ、こいつはヤバそうだ。

第六感が告げてる。

 

俺は、咄嗟に赤い弓をそいつに向け、ピコン、という音と共に、引く。

 

「よせ!」

 

そのインベスは、言葉を話した。

―――つまり、もっとヤバイやつってことだな。

 

「はぁっ!」

 

俺は、矢を放つ。

だが、そいつはそれを事も無げに躱し、俺に迫り、俺から弓を取り上げた。

一瞬の出来事だった。

 

「よせと言っている!私は、お前を助けに来た!」

 

そいつは、まるで叱りつけるような怒声を上げる。

俺を、助けに来ただって?

なんで?

 

「とりあえず、落ち着け。信頼できなければ、変身は解かなくてもいい。

とにかく、私の話を聞け。

…私は、ユグドラシルの、呉島貴虎という」

 

呉島貴虎。

確か、あのブドウインベスの兄貴で、ユグドラシルの幹部、そう―――

角居は、メロンインベス、と言っていた。

メロンインベスは、落ち着き払った低い声で、こう続けた。

 

「お前は、確か、初瀬亮二だな。

葛葉から話は聞いている。

人の声がしたから来てみたんだが…ここにいるのは、お前だけか?」

 

見た目は、確かに怪物。

だが、ブドウインベスのような、嫌な威圧感は持ってなかった。

不思議と、こいつとは話せるかもしれない、そんなことを思ったが―――

いや、こいつは頭が変になった化け物だ。

角居がそう言ってた。

とにかく、油断しない方がいい。

俺は、慎重に口を開いた。

 

「ああ、ここにいるのは、俺だけだ」

 

「そうか…。インベスが、突如、大量に発生した。

人々を避難させようと走り回ったが、町に、人がいない」

 

「え?」

 

人がいない?

 

「ああ。出くわすのは、インベスだらけだ。

どうやら、この町の人口は、俺が思っていたよりも、だいぶ少なかったらしいな…」

 

メロンインベスは、いつの間にこんなに過疎化したんだ、と言って、何やら悔しそうな雰囲気を出した。

えっと、こいつは冗談を言ってるのか?

ここは笑うとこなのか?

 

「―――それでも俺は、人類救済のためにこの身を捧げようと思う。

故に、この町に残っている者は、皆救う。

それが、呉島を継ぐ者である俺が果たすべき責任なのだから。

その想いはお前も同じだろう、光実。

俺たちは、望んで呉島に生まれたわけではない。

だが、力とは、往々にしてそういうものだ。

望んだ、望まないに関わらず、力を手にした者は、その責任を果たさねばならない。

―――今はまだ、俺の言うことがわからなくてもいい。

だが、俺に着いてこい。

そして、この兄の生きざまを、しかとその目に焼き付けるんだ。

そうすることで、お前もきっと、人類の導き手としての意識に目覚めることだろう。

人類の未来を切り開くのが、俺たち兄弟に託された使命だ。

さあ、俺に続け、光実!はい!人類救済!

声が聞こえないぞ光…なんだと!

光実がいない!

光実!どこへ行った!光実!光実ェーッ!」

 

ああ、頭がおかしいだけか。

メロンインベスは、光実ェーッ!と叫び、膝から崩れ落ち、しばらく慟哭していた。

俺は、その場を後にすることにした。

 

「待て、初瀬亮二」

 

メロンインベスが俺を呼び止める。なんだよもう。

 

「…きっと、光実は、どこかで戦っているはずだ。

あいつが、そう簡単に死ぬわけはない。

なぜならあいつは、呉島の男、この貴虎の弟なのだから。

光実は、俺から離れ、自分の手で、自分の成すべきことを始めたんだ。

ただ、隣に立つだけが、共に戦うということでもあるまい。

これが、兄離れというものか…ふふ。

いや、弟離れできていなかったのは、俺の方かもしれないな。

俺は、俺の成すべきことをする。

初瀬亮二、俺は、人類を救済する。

この呉島貴虎が、お前の盾となろう。

待て!どこへ行く、初瀬亮二!待て!俺から離れるんじゃない!

外は危険だ!初瀬亮二!」

 

つづく


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