角居裕也・アーマードライダー鎧武オルタネイティヴがオレンジインベスを倒したことにより、沢芽市中にクラックが出現、大量のインベスが溢れ出してきた。
一方、目を覚ました初瀬亮二は、戦極ドライバーと二つのロックシードで、アーマードライダーレイドワイルドに変身し、インベスと戦う!
もたもたしてる時間は無い。
俺は、オレンジインベスの言葉を思い出した。
『そのチェリーのロックシードはな、すっげー速く動けるようになるんだ!』
集中、集中だ、集中して、
―――走る!
「うおおおおおお?!」
次の瞬間、俺は、すっげー速く動いてた。
当たり前だけど、こんなの初体験だ。
今、自分の脚がどんなことになってんのか、よくわからねえけど、なんでもいい、この勢いを活かして、レイドワイルドの溜まり場へ向かおう。
道中、行く手を塞ぐインベスは、赤い弓で攻撃してどかす。
これには刃も付いてるみたいで、接近戦でも使える、らしい。
とにかく、すげー便利ってことだ。わかるのはそれだけでいい。
やはり、どこもクラックだらけだ。
角居いわく、ヘルヘイムとかいう森に繋がる、空間の裂け目。
そんなものがたくさん開いて、この町は、これからどうなっちまうんだ。
とりあえず、今は、あいつらの元へ急がなきゃ。
もうすぐ、もうすぐだ。
見えた!
俺は、レイドワイルドの溜まり場に駆け込み、メンバーの姿を探す。
―――いない。
人っ子ひとりいやしない。
レイドワイルドのポスターが壁中に貼ってある、打ち捨てられた建物の一角。
小さなクラックが、幾つか開いている。
人が通れる大きさとは思えない。
テーブルの上には、飲みかけの飲み物が幾つか。
灰皿には、山盛りの煙草の吸い殻。
あいつらがここにいたのは間違いない。
だが、どうも、この場所に、生気を感じない。
なんてゆーか、こう、…人がいたようには思えない。
「おい!隠れてんなら出てこい!初瀬だ!」
俺は、大声で叫んだ。
返事は、無く、空しくエコーする。
「どこにいんだよ…?」
ここにいないってことは、もうどこかへ逃げたのか。
だが、今の沢芽市から出る手段は無いはずだ。
そして、これは当たってほしくない直感だが、町のどこへ行っても、インベスだらけだろう。
まさか、もう―――。
最悪の予想が頭をよぎって、俺は、それを振り払うように、再び走り出した。
その時、
「うわっ!」
目の前に、インベスが姿を表した。
その体は、猫とも鳥とも言えるような真っ白い体毛に包まれて、少しもさもさしてるようだった。
ところどころに走るのは、黄緑色の網目のような模様。
色合いは全く違うが、なんとなく、虎を思い出した。
鷹を連想させる顔には、黄緑色の鋭い目が収まり、光を放ってるように見えた。
両手には鉤爪、左手の甲の皮膚が、妙に膨れ上がっていて、まるで盾のように見えた。
胸ポケット(?)からは緑色のハンカチ(?)が覗いていた。
ああ、こいつはヤバそうだ。
第六感が告げてる。
俺は、咄嗟に赤い弓をそいつに向け、ピコン、という音と共に、引く。
「よせ!」
そのインベスは、言葉を話した。
―――つまり、もっとヤバイやつってことだな。
「はぁっ!」
俺は、矢を放つ。
だが、そいつはそれを事も無げに躱し、俺に迫り、俺から弓を取り上げた。
一瞬の出来事だった。
「よせと言っている!私は、お前を助けに来た!」
そいつは、まるで叱りつけるような怒声を上げる。
俺を、助けに来ただって?
なんで?
「とりあえず、落ち着け。信頼できなければ、変身は解かなくてもいい。
とにかく、私の話を聞け。
…私は、ユグドラシルの、呉島貴虎という」
呉島貴虎。
確か、あのブドウインベスの兄貴で、ユグドラシルの幹部、そう―――
角居は、メロンインベス、と言っていた。
メロンインベスは、落ち着き払った低い声で、こう続けた。
「お前は、確か、初瀬亮二だな。
葛葉から話は聞いている。
人の声がしたから来てみたんだが…ここにいるのは、お前だけか?」
見た目は、確かに怪物。
だが、ブドウインベスのような、嫌な威圧感は持ってなかった。
不思議と、こいつとは話せるかもしれない、そんなことを思ったが―――
いや、こいつは頭が変になった化け物だ。
角居がそう言ってた。
とにかく、油断しない方がいい。
俺は、慎重に口を開いた。
「ああ、ここにいるのは、俺だけだ」
「そうか…。インベスが、突如、大量に発生した。
人々を避難させようと走り回ったが、町に、人がいない」
「え?」
人がいない?
「ああ。出くわすのは、インベスだらけだ。
どうやら、この町の人口は、俺が思っていたよりも、だいぶ少なかったらしいな…」
メロンインベスは、いつの間にこんなに過疎化したんだ、と言って、何やら悔しそうな雰囲気を出した。
えっと、こいつは冗談を言ってるのか?
ここは笑うとこなのか?
「―――それでも俺は、人類救済のためにこの身を捧げようと思う。
故に、この町に残っている者は、皆救う。
それが、呉島を継ぐ者である俺が果たすべき責任なのだから。
その想いはお前も同じだろう、光実。
俺たちは、望んで呉島に生まれたわけではない。
だが、力とは、往々にしてそういうものだ。
望んだ、望まないに関わらず、力を手にした者は、その責任を果たさねばならない。
―――今はまだ、俺の言うことがわからなくてもいい。
だが、俺に着いてこい。
そして、この兄の生きざまを、しかとその目に焼き付けるんだ。
そうすることで、お前もきっと、人類の導き手としての意識に目覚めることだろう。
人類の未来を切り開くのが、俺たち兄弟に託された使命だ。
さあ、俺に続け、光実!はい!人類救済!
声が聞こえないぞ光…なんだと!
光実がいない!
光実!どこへ行った!光実!光実ェーッ!」
ああ、頭がおかしいだけか。
メロンインベスは、光実ェーッ!と叫び、膝から崩れ落ち、しばらく慟哭していた。
俺は、その場を後にすることにした。
「待て、初瀬亮二」
メロンインベスが俺を呼び止める。なんだよもう。
「…きっと、光実は、どこかで戦っているはずだ。
あいつが、そう簡単に死ぬわけはない。
なぜならあいつは、呉島の男、この貴虎の弟なのだから。
光実は、俺から離れ、自分の手で、自分の成すべきことを始めたんだ。
ただ、隣に立つだけが、共に戦うということでもあるまい。
これが、兄離れというものか…ふふ。
いや、弟離れできていなかったのは、俺の方かもしれないな。
俺は、俺の成すべきことをする。
初瀬亮二、俺は、人類を救済する。
この呉島貴虎が、お前の盾となろう。
待て!どこへ行く、初瀬亮二!待て!俺から離れるんじゃない!
外は危険だ!初瀬亮二!」
つづく