仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

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第20話「初瀬、決意の変身!」

―――俺は、自室で目を覚ました。

 

夢を見てた。妙な夢だった。

沢芽市中にチャックが開いてて、キモい実を付けたキモい植物が生えてて、空にはロケットが飛んでる夢。

夢の中の俺は、沢芽市から出れなかった。

沢芽市から出たら、沢芽市に着くんだ。

何回やっても同じ。

挙げ句の果てには、目の前に怪物が現れて、チーム鎧武の角居が、変身して、それと戦い始めた。

あー怖かった。怖い夢だった。夢で良かった。本当に、怖い―――

 

「ひっ!」

 

カーテンを開けて、アパートの8階から沢芽市を見渡した俺・初瀬亮二は、それが夢じゃなかったことを知る。

至るところに、これまでの比じゃない数の、えっと、確か、"クラック"が開いてて、大量のインベスが蠢いてる。

 

「どうなってんだよ!」

 

俺は、思わず叫ぶ。

我ながらパニクってた。なんだこれ、なんだこれ、どーすりゃいいんだ。

とりあえず、戸締まりを確認しなきゃ、と玄関に向かった俺は、ドアが無いことに気付いた。

そうだ、角居の野郎めが壊したんだ。角居の野郎め!

 

ちょっとずつだけど、思い出してきた。

 

そう、あの緑色の化け物、ブドウインベスに角居がやられて、そしたら葛葉が変身したっていうオレンジインベスが出てきて、俺たちに訊いたんだった。

 

―――俺たちが、おかしいって思うか?

 

角居は、それにおかしいって答えた。

そしたら、オレンジインベスは、角居に掌を向けて、なんかやったんだ。

角居は、そのまま気を失った。

 

『お、おい、角居に何したんだよ』

 

俺が恐る恐る訊ねると、オレンジインベスは、答えた。

 

『ちょっと記憶をいじっただけだ。これでまた、裕也は元通りになると思う。

で、お前はどうなんだ、初瀬?お前も、』

 

俺は食い気味に答えた。

 

『おかしくない!葛葉ぜんぜんおかしくないよ!良いよな!尻から果実、良いよな!』

『ウッホワアアア!そうか!お前はそう思うか!良かった!でも、』

 

オレンジインベスは、嬉しそうな声を上げた後、

 

『お前は、インベスになっちゃダメだ』

 

そう言って、俺に何かを手渡した。

 

『か、葛葉、これ、なに?』

『裕也のと同じやつだ。戦極ドライバー。お前のベルトだよ』

 

戦極ドライバーと、ロックシードだった。

俺は、呆気に取られてしまった。

 

オレンジインベスは、少し笑い声を上げてから、こう続けた。

 

『ああ、初瀬、お前弱いからなあ。

おまけだ。これとこれも付けてやる。

ウッホワアアア!戦極ドライバーデラックスセットだぜ!

良かったなあ、初瀬!

あ、使い方、わかるか?』

 

その後、わけもわからないまま戦極ドライバーの使い方を教えられた。

オレンジインベスは、何やら楽しそうにしていた。

 

『裕也は、連れてく。悪いな』

『お、おい、まさか、殺すのか』

『殺さないって。裕也を、殺すはずない』

 

オレンジインベスは、倒れた角居をお姫様だっこした。

キモい絵面だった。

 

『じゃあな、初瀬。戦極ドライバー、ちゃんと使えよ』

 

『お、おい!』

 

オレンジインベスとブドウインベスは、突然現れたクラックの向こうに消えていった。

 

そうだ、その後、俺は、とりあえず家に帰って、いっぱい考えて、考え疲れて眠っちまったんだった。

そうだった。

思い出した。

 

―――そんで俺は、これからどうすりゃいいんだ?

 

だってよ。

朝になってみたら、町には大量の化け物だぞ。

こんな状況で、俺に何が出来るってんだよ。

それに、オレンジインベスも、ブドウインベスも、正真正銘化け物だった。

角居は世界が変になった原因を探るとか言ってたけど、そんなの、どこに手がかりがあるってんだよ。

出来ることなんて、一つもねえだろ。

出来ることなんて―――

 

違ぇ。

違ぇだろ。

何が出来るかじゃなくて、考えなきゃいけねーのは、"どうしたいか"だろ。

 

どうしたいって、そりゃ、日常を取り戻したい。

レイドワイルドのメンバーたちとつるんで、踊って、バイトしたり、城乃内と遊んだり、インベスゲームの結果に一喜一憂したり、そんな毎日が、俺は好きだった。

俺には学も無いし、正直、お先真っ暗だと思う。

それでも、俺は、俺の"今"が、好きだった。

 

いつまでもそうしてられるって思ってたわけじゃねえ。

でも、もうちょっと、もうちょっと続いても良かっただろ。

それが、急に終わっちまった。

何もかもがおかしくなって、俺は、チームすら辞めちまった。

 

そうだ。

レイドワイルドのあいつらは、あと城乃内は、どうしてる?

こんな怪物だらけの町で、逃げ場の無いこの町で、あいつらは、今、どうしてんだ?

インベスに襲われてるかもしんねえ。

そんなことになったら、あいつら、死んじゃうかもしんねえ。

そんなの、そんなの、絶対に嫌だ。

おかしくなっちまってるけど、あいつらは、俺のダチだ。

死んだら、すげえ嫌だ。

 

散らかった卓袱台の上の戦極ドライバーが目に入る。

 

『戦極ドライバー、ちゃんと使えよ』

 

「戦極ドライバー…」

 

角居は、こいつを使って、アーマードライダー鎧武に変身した。

そんで、ブドウインベスを追い詰めていた。

負けはしたものの、それはブドウインベスがズルをしたからだ。

この力があったら、もしかしたら、怪物とも戦えるのかもしれない。

 

「あああああ!」

 

やめだ。

ごちゃごちゃ考えんのは、性に合わねえ。

俺は、オレンジインベスから貰った戦極ドライバーデラックスセットをポケットというポケットに分けて突っ込み、部屋を飛び出した。すんげえかさばるなこれ!

 

角居は、考えるのをやめんな、だとかなんとか言ってたが、知ったことか。

考えてじっとしてたら、あいつらが死んじゃうかもじゃねえか。

そんなの、絶対に嫌じゃねえか!

 

エレベーターは1階に停車してる。

待ってる時間が勿体ねえ!

俺は、全速力で階段を駆け降りて、途中で一度転げ落ちて、でもすぐに立ち上がって、走る。

鼻血が出てる。さっき顔から行ったせいだ。

体も痛い。でも、俺は、走る。

走り続ける。

アパートから出て、まずはレイドワイルドの溜まり場を目指す。

 

―――インベスだ。

目の前に、数体のインベスが現れた。

インベスゲームで出てくる奴の、デカいバージョン。

 

そいつらは、グギョーだかボギェーだかキモい鳴き声を上げると、俺に気が付いて、ゆっくりと近付いてきた。

俺は、戦極ドライバーを取り出し、あいつに教わった通りにした。

ここを、こうするんだったな。できた。

 

 

「よし…」

 

 

そして俺は、"二つの"ロックシードを、解錠した。

 

 

「行くぜぇ!」

 

―――マツボックリ!

―――チェリーエナジー!

 

そして、オレンジインベスに教わった通りに、

 

「変身!」

 

―――マツボックリアームズ!

一撃インザシャドウ!

ミックス!

ジンバーチェリー!ハハーッ!

 

俺は、二つのロックシードの鎧を身に纏った。

全体的に黒くて、胸のとこに少し赤が入ってる。

俺目線で見た感じ、角居のより強そうに見えた。

―――二つのロックシードで、強さも二倍!

オレンジインベスは、そう言ってた。

わかりやすくて、実に俺好みだ。

 

左手には、真っ赤な弓が現れる。

弓なんか、持ったこともねえ。

でも、大事なのは、集中力、らしい。

 

俺は、ぎりり、と弓を引く。

 

ピコン!

 

「―――印籠を渡してやるぜ!」

 

俺は、かっこよく叫んでから、矢を連続で放ち、途中何発かミスりつつ、その場にいたインベスたちを、一匹残らず射ち抜くことに成功した。

 

「よっしゃあ!」

 

インベスの爆発が生んだ煙の中、俺は、ガッツポーズをした。

 

行ける。

戦えるぞ。

強いぞ、俺!

 

―――角居がアーマードライダー鎧武なら、俺は、そう。

アーマードライダー、

 

「アーマードライダーレイドワイルドだ!」

 

ちょっと長いな。

 

つづく


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