―――俺は、自室で目を覚ました。
夢を見てた。妙な夢だった。
沢芽市中にチャックが開いてて、キモい実を付けたキモい植物が生えてて、空にはロケットが飛んでる夢。
夢の中の俺は、沢芽市から出れなかった。
沢芽市から出たら、沢芽市に着くんだ。
何回やっても同じ。
挙げ句の果てには、目の前に怪物が現れて、チーム鎧武の角居が、変身して、それと戦い始めた。
あー怖かった。怖い夢だった。夢で良かった。本当に、怖い―――
「ひっ!」
カーテンを開けて、アパートの8階から沢芽市を見渡した俺・初瀬亮二は、それが夢じゃなかったことを知る。
至るところに、これまでの比じゃない数の、えっと、確か、"クラック"が開いてて、大量のインベスが蠢いてる。
「どうなってんだよ!」
俺は、思わず叫ぶ。
我ながらパニクってた。なんだこれ、なんだこれ、どーすりゃいいんだ。
とりあえず、戸締まりを確認しなきゃ、と玄関に向かった俺は、ドアが無いことに気付いた。
そうだ、角居の野郎めが壊したんだ。角居の野郎め!
ちょっとずつだけど、思い出してきた。
そう、あの緑色の化け物、ブドウインベスに角居がやられて、そしたら葛葉が変身したっていうオレンジインベスが出てきて、俺たちに訊いたんだった。
―――俺たちが、おかしいって思うか?
角居は、それにおかしいって答えた。
そしたら、オレンジインベスは、角居に掌を向けて、なんかやったんだ。
角居は、そのまま気を失った。
『お、おい、角居に何したんだよ』
俺が恐る恐る訊ねると、オレンジインベスは、答えた。
『ちょっと記憶をいじっただけだ。これでまた、裕也は元通りになると思う。
で、お前はどうなんだ、初瀬?お前も、』
俺は食い気味に答えた。
『おかしくない!葛葉ぜんぜんおかしくないよ!良いよな!尻から果実、良いよな!』
『ウッホワアアア!そうか!お前はそう思うか!良かった!でも、』
オレンジインベスは、嬉しそうな声を上げた後、
『お前は、インベスになっちゃダメだ』
そう言って、俺に何かを手渡した。
『か、葛葉、これ、なに?』
『裕也のと同じやつだ。戦極ドライバー。お前のベルトだよ』
戦極ドライバーと、ロックシードだった。
俺は、呆気に取られてしまった。
オレンジインベスは、少し笑い声を上げてから、こう続けた。
『ああ、初瀬、お前弱いからなあ。
おまけだ。これとこれも付けてやる。
ウッホワアアア!戦極ドライバーデラックスセットだぜ!
良かったなあ、初瀬!
あ、使い方、わかるか?』
その後、わけもわからないまま戦極ドライバーの使い方を教えられた。
オレンジインベスは、何やら楽しそうにしていた。
『裕也は、連れてく。悪いな』
『お、おい、まさか、殺すのか』
『殺さないって。裕也を、殺すはずない』
オレンジインベスは、倒れた角居をお姫様だっこした。
キモい絵面だった。
『じゃあな、初瀬。戦極ドライバー、ちゃんと使えよ』
『お、おい!』
オレンジインベスとブドウインベスは、突然現れたクラックの向こうに消えていった。
そうだ、その後、俺は、とりあえず家に帰って、いっぱい考えて、考え疲れて眠っちまったんだった。
そうだった。
思い出した。
―――そんで俺は、これからどうすりゃいいんだ?
だってよ。
朝になってみたら、町には大量の化け物だぞ。
こんな状況で、俺に何が出来るってんだよ。
それに、オレンジインベスも、ブドウインベスも、正真正銘化け物だった。
角居は世界が変になった原因を探るとか言ってたけど、そんなの、どこに手がかりがあるってんだよ。
出来ることなんて、一つもねえだろ。
出来ることなんて―――
違ぇ。
違ぇだろ。
何が出来るかじゃなくて、考えなきゃいけねーのは、"どうしたいか"だろ。
どうしたいって、そりゃ、日常を取り戻したい。
レイドワイルドのメンバーたちとつるんで、踊って、バイトしたり、城乃内と遊んだり、インベスゲームの結果に一喜一憂したり、そんな毎日が、俺は好きだった。
俺には学も無いし、正直、お先真っ暗だと思う。
それでも、俺は、俺の"今"が、好きだった。
いつまでもそうしてられるって思ってたわけじゃねえ。
でも、もうちょっと、もうちょっと続いても良かっただろ。
それが、急に終わっちまった。
何もかもがおかしくなって、俺は、チームすら辞めちまった。
そうだ。
レイドワイルドのあいつらは、あと城乃内は、どうしてる?
こんな怪物だらけの町で、逃げ場の無いこの町で、あいつらは、今、どうしてんだ?
インベスに襲われてるかもしんねえ。
そんなことになったら、あいつら、死んじゃうかもしんねえ。
そんなの、そんなの、絶対に嫌だ。
おかしくなっちまってるけど、あいつらは、俺のダチだ。
死んだら、すげえ嫌だ。
散らかった卓袱台の上の戦極ドライバーが目に入る。
『戦極ドライバー、ちゃんと使えよ』
「戦極ドライバー…」
角居は、こいつを使って、アーマードライダー鎧武に変身した。
そんで、ブドウインベスを追い詰めていた。
負けはしたものの、それはブドウインベスがズルをしたからだ。
この力があったら、もしかしたら、怪物とも戦えるのかもしれない。
「あああああ!」
やめだ。
ごちゃごちゃ考えんのは、性に合わねえ。
俺は、オレンジインベスから貰った戦極ドライバーデラックスセットをポケットというポケットに分けて突っ込み、部屋を飛び出した。すんげえかさばるなこれ!
角居は、考えるのをやめんな、だとかなんとか言ってたが、知ったことか。
考えてじっとしてたら、あいつらが死んじゃうかもじゃねえか。
そんなの、絶対に嫌じゃねえか!
エレベーターは1階に停車してる。
待ってる時間が勿体ねえ!
俺は、全速力で階段を駆け降りて、途中で一度転げ落ちて、でもすぐに立ち上がって、走る。
鼻血が出てる。さっき顔から行ったせいだ。
体も痛い。でも、俺は、走る。
走り続ける。
アパートから出て、まずはレイドワイルドの溜まり場を目指す。
―――インベスだ。
目の前に、数体のインベスが現れた。
インベスゲームで出てくる奴の、デカいバージョン。
そいつらは、グギョーだかボギェーだかキモい鳴き声を上げると、俺に気が付いて、ゆっくりと近付いてきた。
俺は、戦極ドライバーを取り出し、あいつに教わった通りにした。
ここを、こうするんだったな。できた。
「よし…」
そして俺は、"二つの"ロックシードを、解錠した。
「行くぜぇ!」
―――マツボックリ!
―――チェリーエナジー!
そして、オレンジインベスに教わった通りに、
「変身!」
―――マツボックリアームズ!
一撃インザシャドウ!
ミックス!
ジンバーチェリー!ハハーッ!
俺は、二つのロックシードの鎧を身に纏った。
全体的に黒くて、胸のとこに少し赤が入ってる。
俺目線で見た感じ、角居のより強そうに見えた。
―――二つのロックシードで、強さも二倍!
オレンジインベスは、そう言ってた。
わかりやすくて、実に俺好みだ。
左手には、真っ赤な弓が現れる。
弓なんか、持ったこともねえ。
でも、大事なのは、集中力、らしい。
俺は、ぎりり、と弓を引く。
ピコン!
「―――印籠を渡してやるぜ!」
俺は、かっこよく叫んでから、矢を連続で放ち、途中何発かミスりつつ、その場にいたインベスたちを、一匹残らず射ち抜くことに成功した。
「よっしゃあ!」
インベスの爆発が生んだ煙の中、俺は、ガッツポーズをした。
行ける。
戦えるぞ。
強いぞ、俺!
―――角居がアーマードライダー鎧武なら、俺は、そう。
アーマードライダー、
「アーマードライダーレイドワイルドだ!」
ちょっと長いな。
つづく