とりあえずその日は疲れたので解散ということになった。
紘汰とシドは物足りなかったらしく、シドが持っていたバイクみたいなロックシードで再び森へ向かっていった。
俺はというと、とりあえずチーム鎧武のガレージに向かうことにした。
「裕也さん!」
ガレージでは、メンバーのミッチが出迎えてくれた。
こいつは本当は進学校に通っている。路上で着替えているところを見た。
紘汰と舞のことが大好きで、俺のことはいまいち慕ってないように見える。
この間、舞さん、舞さん、紘汰さん(2:1の割合)言いながら抜いているところを路上で見かけた。
学歴社会になって久しいが、こういう奴が偉くなっていくと考えると、正直ゾッとする。
「おう。調子はどうだ?」
「バロンの勢力は拡大する一方です」
「ふむ」
バロン、というのは、駆紋戒斗という男がリーダーを務めるダンスチームだ。
金に物を言わせてロックシードを買い漁り、今この街で最強の勢力を誇るチーム。
リーダーの戒斗のダンスはというと、全体的に脚が上がっていない。
なんでダンスやってるんだろう。辞めたらいいのに。
「だけど、もう大丈夫だ。俺たちはこれから先、インベスゲームでは負けない」
「え?どういうことですか」
「こういうことさ。変身!」
オレンジアームズ!花道オンステージ!
俺は変身した。
ミッチ他鎧武のメンバーたちは驚いていた。
「ウッホワァァァ!スッゲエエエ」
「裕也さんスッゲエエエ!」
「だろ?」
ミッチたちは、俺の変身へのリアクションもそこそこに、ダンスの練習を始めた。
そういえば舞がいない。生理だろうか。
「1、2、3、4」
ミッチがカウントを取る。その直後からもうテンポが違う。
それなりに長いことやってるはずだが、未だにこいつら基本がなってない。
自分のチームにこんなこと言うのはアレだが、なんでこいつらダンスやってるんだろう。辞めたらいいのに。
「そんなわけで俺、バロンと戦ってくるよ」
「行ってらっしゃい裕也さん!」
「頑張ってくださいね!」
「おう!」
俺はガレージを出た。
応援に来ない辺り、さすが俺のチームメイトだ。辞めたらいいのに。
俺は戒斗に電話を掛けた。
「もしもし、戒斗か」
「弱小チームのリーダーが、俺に何の用だ?」
「インベスゲームしようぜ」
「うん」
この男、話が早くて助かる。
俺は早速、指定された西のステージへ向かった。
西のステージには、チームバロンと戒斗の顔ファンたちが集まっていた。
「なんだ?一人か」
「ああ。いいからさっさとやろう」
「うん」
戒斗は、ロックシードを三つ出すと、インベスを三体召喚した。
高等技術らしいが、今の俺に勝てると思うなよ。
変身!花道オンステージ!
チョチョイのチョイで三体のインベスを蹴散らしてやった。
ロックシード三つゲットだぜ。ヒマワリ、ヒマワリ、アンドヒマワリ。
「なんだと…」
戒斗が苦い顔をしている。
「おい!それをどこで手に入れた!」
「シドから貰った!」
「シドだな!」
戒斗は走り去っていった。途中で脚を挫いていた。
ただでさえ上がらない脚なのに!
「待て戒斗!シドなら今この街にいないぞ!」
紘汰と森でハッスルしてるからな。
「何…?!」
戒斗は立ち止まり、脚を引きずりながらこちらに歩いてきた。
「じゃあ俺はどうすればいい!」
「そう言われてもな…」
この人、いつもこんな喋り方なのかな。バイト先とかで苦労しないんだろうか。
そもそもバイトしてないのかもしれない。
俺はこんなに金に困っているというのに。
いくら稼いでも、チーム鎧武のロックシード代に消えてゆく。
そもそもうちのメンバー、誰も金を出しやしない。
黙ってれば俺が金を用意すると思ってやがる。
ミッチなんか明らかに金持ってるのに。
段々腹が立ってきたぞ。
そのくせダンスができれば幸せだの何だの、大人の世界をなめるなよ。
俺だってそろそろ親の目が痛いんだ。
ああ、本当に腹が立ってきた。
「俺、鎧武やめる」
「は?」
戒斗はキョトン顔だ。
「ダンスやめる。就活する」
「え?お、おう…そうか」
「だからこれ、売ってあげるよ」
「いくら?」
「20でどう?」
「ふざけるな!高すぎる」
「18」
「15は?」
「17.5」
「わかったよ。今か?」
「今」
「ザック!持ってこい!」
交渉成立だ。とりあえずこの金で資格でも取ろうかな。俺の就活は始まったばかりだ!
つづく