仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

14 / 44
第14話「鎧武、決意の必殺キック!」

「すまん。さっきのアレは、嘘だ」

 

チーム・鎧武のガレージに到着した俺は、ラットたちに頭を下げていた。

 

「さっきのアレって、紘汰さんとミッチが引っ越すっていう?」

「ああ。少し驚かせたかっただけなんだ。ごめん」

 

三人は眉をひそめてお互いに目を見合わせていたが、なんとかそういうジョークだったということで納得してくれたようだ。

ピーチインベスを倒している以上、オレンジインベスに連絡が行く筈だ。

あまりここに長居もできない。

俺は、すぐに本題に入ることにした。

 

「なあ、お前たち、最近、舞に会ったか?」

「舞?そういえば、最近、舞も来ませんね」

 

チャッキーが、事も無げにそう答える。

ラットとリカも同様で、連絡も取っていない、ということだった。

―――嫌な方の想像が当たりそうだ。

 

「それじゃあ、最後に舞に会ったのはいつだ?」

「えっと…たしか、日曜日。昼間にバロンとインベスゲームをした日です」

 

やはり、10/6だ。

俺が戦極ドライバーを手に入れた日。

ほとんど毎日ガレージにいるこいつらが、あれからの数日間、舞に会っていないというのはやはりおかしい。

学校に行っているわけでもない舞が、そんなに長い間ガレージに姿を現さない筈がないのだ。

たとえば体調を崩していたとしても、しっかり者の舞なら、連絡を寄越すに決まってる。

 

おかしいことだらけの世界だが、これで一つ、ハッキリしていることが増えた。

舞の不在。

 

思い返してみると、ラットたちもあの日は様子が変だった。

当日の夕刻、バロンとのインベスゲームに赴いた俺に、誰一人として同行しなかったのだ。

仲間意識が強く、そこそこ俺を慕ってくれていた(と信じたい)こいつらに限って、そんなことはあり得ないだろう。

あの日からおかしくなったのは、紘汰たちだけではない。

俺の周囲の人間が、程度の違いはあれど、こぞっておかしくなっているのだ。

 

そんな中、舞だけがいない。

これはきっと、とても重要なことだ。

―――なんとしても、舞に会わなくちゃいけない。

第一、心配だ。

俺は、再びガレージを後にすることにした。

 

「あいつら…紘汰と、ミッチが来たら、俺のことは心配するな、と伝えてくれるか?」

「え?あ、はい、わかりました」

「ああ、あとさ、お前ら」

 

―――ダンスは、好きか?

俺は、そう問い掛けた。

 

「当たり前ですよ!」

 

ラットたちは、本当に当たり前のように答える。

そうか。良かった。

 

「そうか。良かった」

「どうしたんですか、裕也さん?

やっぱり、ちょっと変ですよ?」

「本当に、何かあったんじゃ」

「いや、何でもねえよ。じゃあ、またな」

 

俺は、ガレージを後にした。

俺が変、か…。

そうなのかもしれない。

何もかもがおかしくなったこの世界では、おかしくなってない俺の方がおかしいんだ。

 

異常ってのは、つまるところ、基準となる正常に対してのマイノリティのことだ。

俺の主観から見て、今のこの世界は異常なものだが、この世界の客観において、異常なのはきっと、俺の方だ。

だとしても、信じるところを失くすわけにはいかない。

俺は、俺が思う俺の日常を取り戻したい。

 

その後、何度か遊びに行ったことがある舞の自宅に赴いてもみたが、インターホンに応じる者はいなかった。

その後、一応沢芽市各地のステージを覗いたが、やはり舞の姿は無い。

 

正直、参った。

これ以上、舞のいそうな場所の心当たりが無い。

最後に覗いたレイドワイルドのステージで、俺は立ち尽くしていた。

 

「鎧武のリーダーが何の用だ?ダンスならもう終わったぞ」

 

ダンスを終えたレイドワイルドのデブが、取り巻きを連れて話し掛けてくる。

 

「ただの見学だよ。インベスゲームをする気はない」

「サガラの放送で見たぞ、何やら鎧を着込んで、バロンを倒したそうだな」

「だから、インベスゲームはやんねえって。

あれ、お前ら、あいつはどうした?ほら、」

 

初瀬亮二。

チーム・レイドワイルドのリーダーの姿が、何故か見当たらないのだ。

 

「初瀬さんなら、ちょっと前に辞めちまったよ」

「え?そうなの?なんで?就職?」

「よくわからん。なんか、チャックと植物がどうとか言って」

「え?」

 

チャックと植物?

 

「あと、空にロケットが見えるとか、沢芽市から出られないとか。普通じゃんな?そんなの。

それが、怖いって言って、やめた」

 

空にロケット?

沢芽市から出られない?

 

俺は、デブに訊ねた。

 

「なあ、お前ら、これ見えてるだろ?」

 

俺は、その辺に開いていた小さなクラックを指差して言う。

デブは、

 

「ああ、見えてるよ。だから何だよ」

「なんか思わない?」

「チャックだなあ、って思うだけだろ」

「そこにある植物は?」

「いや、だから、植物だなあって。何なんだ、お前、変だぞ」

「初瀬、どこにいるかわかるか?」

「は?知らねえよ、家じゃねえの?」

「初瀬の家ってどこだ?」

「何だよお前、気持ち悪ぃな…」

「案内してくんねえかな。ああそうだ、ホラ、ロックシード、やるから」

 

俺は、戦極ドライバーを装着して、先程指差したヘルヘイム植物から果実をもぎ取る。

果実は光を放ち、イチゴのロックシードになった。

デブたちはもう大歓声だ。

 

「ウッホワァァァ!スッゲエエエ」

「な?頼むよ。家の前までで良いからさ」

「これ、Aランクじゃねえか…わかった、案内するぜ」

 

ホクホク顔のデブに連れられて、俺は初瀬の家に向かった。

便利だな、戦極ドライバー。

 

「ここの807号室だ」

「サンキューな。あとさ、最近、うちの舞見なかった?」

「舞って、高司舞か?見てねえな」

「ああ、わかった。それじゃここまででいいから」

「高司舞って、彼氏いんの?」

「何だよお前、急に…いないんじゃない?」

「そうか」

「んー、でもライバルは多いと思うけど。まあとにかく、ここまででいいから、ありがとう、またな」

「ああ。またよろしく頼むぜ」

「ディーラー扱いすんなよ。じゃ」

 

デブと別れ、俺は案内されたアパートに入り、エレベーターに搭乗した。

 

チャックと植物。

空にロケット。

沢芽市から出られない。

 

俺自身そうだったが、頭がおかしくなっていた頃には、すべて当たり前のように受け入れていて、気にも留めなかったことだ。

そこかしこにあるクラックとヘルヘイム植物、何日にも渡って空を飛び続ける戦極ロケット、そして沢芽市以外存在しない世界。

それに初瀬は違和感を覚え、怖くなり、チームを抜けた。

初瀬と話す必要がある。

俺は、807号室のインターホンを押した。

出ない。

どんどんとノックもしてみた。

 

「初瀬、いるんだろ!チーム鎧武の角居だ!

話したいことがある!頼む、出てきてくれ!」

 

返事は無かった。

そういえば、とここで初瀬の電話番号を知っていることを思い出し、電話をかけてみる。

電源を切ってはいないようだ。

ドアに耳を付け、中の音に耳を澄ました。

微かに、着信音が聴こえる。

やはり、中にいる。

少なくとも、携帯電話は中にある。

電話に応答は無い。

留守録モードに切り替わるのと同時に、中から聴こえる着信音も止んだ。

 

さて、どうしたものか、考える。

ドアノブをゆっくり捻って押してみたが、当然、鍵がかかっていた。

このまま呼び続けても、出てくるとは思えない。

そもそも初瀬とは大して親しいわけでもない、そんなやつが来たところで、相手にはしないだろう。

ましてや、こんな状況だ。

 

これしか無いか。

一つの方法を思い付き、俺は深呼吸。

仕方ない。

一刻を争う事態なのだ。

仕方が無い。

 

「変身!」

 

オルタネイティヴオレンジアームズ!

花道アナザーステージ!

 

俺は変身し、ドアを一思いに蹴りやぶった。

部屋の奥から、驚愕に満ちた顔の初瀬が現れる。

 

「初瀬ェーッ!」

「うわあああああ!なんだお前!」

「邪魔するぜ!」

 

俺はずんずんと部屋の奥に歩いてゆく。

便利だな、戦極ドライバー。

ドアの修理代っていくらぐらいだろう。

 

つづく


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。