仮面ライダー鎧武オルタネイティヴ   作:瀬久乃進

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ウッホッホウッホ!
不条理が支配する沢芽市。
角居裕也は、遂に自我を取り戻した。
オレンジインベスの秘書を名乗るピーチインベスが現れ、裕也は、新たに手にしたオルタネイティヴオレンジロックシードで、アーマードライダー鎧武オルタネイティヴに変身した!


第13話「必殺!辞表キック」

「変身!」

 

オルタネイティヴオレンジアームズ!

花道アナザーステージ!

 

「ここからは俺のステージだ!」

 

新たなロックシードで呼び出した鎧は、形こそ、この間まで使っていたオレンジと同じもののように思えたが、色が違う。

熟れる前の果実の色に似た、青だった。

左手に現れた、オレンジの果肉を象ったような刀も、オレンジロックシードのそれと同形。

こちらも鎧と同じく青、橙色のそれよりも、手に馴染むような気がした。

 

「大将軍紘汰に逆らうつもり?」

「何が大将軍だ!ただのバカ殿だろ、あんなもん」

 

俺は、二本の刀を構える。

刀なんてまともに使ったこともないが、無いよりマシだ。

湊耀子を名乗る桃色のインベス―さしずめピーチインベスといったところか―が、俺に向けて、一気に間合いを詰める。

俺は咄嗟に一歩後ろに飛び退いた。

びゅん。

目と鼻の先を、ピーチインベスの爪先が通り過ぎる。

ハイキックだ。

俺が避けたことは予想外だったらしい。

一瞬、ピーチインベスの動きに動揺が現れた。

その隙を逃さない。

俺は、二本の刀を交互に振るい、斬撃を浴びせかけた。

そして、腹部めがけて蹴りを一発。

ピーチインベスは後ろに吹き飛び、倒れた。

 

「え、なにこいつ、強い」

「ああ、強いんだよ、俺は!」

 

これでも、古株のビートライダーズだ。

インベスゲームが流行る前は、喧嘩でことを済ませていた。

鎧武を組んでからはご無沙汰だったが、喧嘩なら、それこそ死ぬ程やってきたんだよ!

 

態勢を整えるのを待ってやる義理は無い。

今度はこちらから間合いを詰め、起き上がりざまのピーチインベスを、再び両手の刀で切りつける。

1、2。

リズムを取るように。

反撃の隙を与えるな!

しかし、一発、空振ったところを突かれて、左肩に蹴りを食らった。

青の鎧で守られていないところを的確に狙った蹴りだった。痛い。

たまらず、左手の刀を落とす。

咄嗟に右の刀を横凪ぎに振り、追撃を防ごうとするが、動きが大味すぎたか、ピーチインベスはやや屈んでそれを回避、一気に俺の懐に飛び込み、その勢いで俺を押し倒した。

しまった、マウントポジションを取られた。

 

「あら、強いんじゃなかったの?」

「どけよ、重いっつーの!」

 

一発、二発、顔面パンチが入る。

衝撃と音がマスク越しに嫌というほど伝わってくる。

着込んでてこれだ、生身で喰らったら顔の形が変わる。

もしくは顔が残らない。

やはり、化け物だ。

 

「大人しく従ってくれないかしら?

手荒な真似は好きだけど、大将軍の手前、あまりしたくはないの。

大将軍、あなたが来ないから心配してらっしゃるのよ」

 

秘書、と言っていたな。

こんな奴、いつの間に雇っていたのか。

しかし、本当に俺のことを心配してるんだな、あいつは。

―――だったらこんな化け物差し向けんな!

 

「いいからどけっつーんだよ!」

 

右手の刀を、ピーチインベスの脇腹に突き立てた。

これは痛えだろ。

体をバネのようにしてピーチインベスを押し退け、先程のお返しにパンチを一発入れる。

奴の態勢が崩れた。今だ。

 

―――適当にいじってたらオレンジスカッシュとか叫ぶんですけど、これなんなんですか?

―――それは必殺技だ。

 

戦極凌馬との会話が、脳裏にフラッシュバックする。

俺は、戦極ドライバーを操作した。

 

オルタネイティヴオレンジスカッシュ!

戦極ドライバーが叫ぶ。

 

「なるほど、こういうことか!」

 

理屈はわからないが、身体能力が高まってゆくのを感じた。

俺は、勢いよく地面を蹴り、跳躍。

ピーチインベスに向けて、渾身の跳び蹴りを放った。

 

「オラァァァ!」

「あああああ!」

 

ピーチインベスは吹き飛び、10数メートルほど先に派手に転げた。

 

「あいつに伝えろ!会社は辞めるってな!」

 

俺の必殺技。

名付けて辞表キック。

ピーチインベスはよろめきつつ立ち上がり、捨て台詞を吐きながら逃げ出していった。

 

「覚えてらっしゃい!」

「古典的だな!」

 

もっと他に何か無かったのか。

ピーチインベスの姿が見えなくなると、俺はドライバーからロックシードを取り外し、変身を解除した。

 

手の中の、青いロックシードを見つめる。

勝った。

俺は、勝った。

よし。

 

さて、これから何をするべきか。

この世界に何が起こっているか、原因を突き止めなければならない。

もしかすると、紘汰たちを元に戻すことだってできるかもしれない。

いや、必ず元に戻す。

俺はそう決意した。

 

とりあえず、仲間がほしい。

戦極のように、この世界の異常性に気が付いている者がいるかもしれない。

もしくは、初めから毒されていない者。

誰か、いないか。

誰か―――

 

舞。

 

そうだ。

世界は、俺がシドに戦極ドライバーを貰った時からおかしくなった。

そして、俺は、それからというもの、一度も舞に会っていないのだ。

当日、舞は俺の呼び出しに応じず、その後ガレージに顔を出した際にも、そこに舞の姿は無かった。

確かその日は電話もかけたはずだが、これにも舞は出なかった。

そして、今日もだ。ガレージにはラット、リカ、チャッキーしかいなかった。

そうだ。

世界がおかしくなってから、舞の姿が見えないんだ。

そして俺は、おかしくなっていた間、それを全く気に留めなかった。

 

俺は、すぐにスマートフォンを取り出すと、舞に電話をかけた。

出ない。

何度か試してはみたが、結果は変わらず。

まさか、舞の身に何かあったのか。

下手をすると、紘汰やミッチのように―――。

とにかく、舞を探す必要がある。

俺は、メンバーたちから話を聞くために、再びガレージに向かうことにした。

 

つづく


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