不条理が支配する沢芽市。
角居裕也は、遂に自我を取り戻した。
オレンジインベスの秘書を名乗るピーチインベスが現れ、裕也は、新たに手にしたオルタネイティヴオレンジロックシードで、アーマードライダー鎧武オルタネイティヴに変身した!
「変身!」
オルタネイティヴオレンジアームズ!
花道アナザーステージ!
「ここからは俺のステージだ!」
新たなロックシードで呼び出した鎧は、形こそ、この間まで使っていたオレンジと同じもののように思えたが、色が違う。
熟れる前の果実の色に似た、青だった。
左手に現れた、オレンジの果肉を象ったような刀も、オレンジロックシードのそれと同形。
こちらも鎧と同じく青、橙色のそれよりも、手に馴染むような気がした。
「大将軍紘汰に逆らうつもり?」
「何が大将軍だ!ただのバカ殿だろ、あんなもん」
俺は、二本の刀を構える。
刀なんてまともに使ったこともないが、無いよりマシだ。
湊耀子を名乗る桃色のインベス―さしずめピーチインベスといったところか―が、俺に向けて、一気に間合いを詰める。
俺は咄嗟に一歩後ろに飛び退いた。
びゅん。
目と鼻の先を、ピーチインベスの爪先が通り過ぎる。
ハイキックだ。
俺が避けたことは予想外だったらしい。
一瞬、ピーチインベスの動きに動揺が現れた。
その隙を逃さない。
俺は、二本の刀を交互に振るい、斬撃を浴びせかけた。
そして、腹部めがけて蹴りを一発。
ピーチインベスは後ろに吹き飛び、倒れた。
「え、なにこいつ、強い」
「ああ、強いんだよ、俺は!」
これでも、古株のビートライダーズだ。
インベスゲームが流行る前は、喧嘩でことを済ませていた。
鎧武を組んでからはご無沙汰だったが、喧嘩なら、それこそ死ぬ程やってきたんだよ!
態勢を整えるのを待ってやる義理は無い。
今度はこちらから間合いを詰め、起き上がりざまのピーチインベスを、再び両手の刀で切りつける。
1、2。
リズムを取るように。
反撃の隙を与えるな!
しかし、一発、空振ったところを突かれて、左肩に蹴りを食らった。
青の鎧で守られていないところを的確に狙った蹴りだった。痛い。
たまらず、左手の刀を落とす。
咄嗟に右の刀を横凪ぎに振り、追撃を防ごうとするが、動きが大味すぎたか、ピーチインベスはやや屈んでそれを回避、一気に俺の懐に飛び込み、その勢いで俺を押し倒した。
しまった、マウントポジションを取られた。
「あら、強いんじゃなかったの?」
「どけよ、重いっつーの!」
一発、二発、顔面パンチが入る。
衝撃と音がマスク越しに嫌というほど伝わってくる。
着込んでてこれだ、生身で喰らったら顔の形が変わる。
もしくは顔が残らない。
やはり、化け物だ。
「大人しく従ってくれないかしら?
手荒な真似は好きだけど、大将軍の手前、あまりしたくはないの。
大将軍、あなたが来ないから心配してらっしゃるのよ」
秘書、と言っていたな。
こんな奴、いつの間に雇っていたのか。
しかし、本当に俺のことを心配してるんだな、あいつは。
―――だったらこんな化け物差し向けんな!
「いいからどけっつーんだよ!」
右手の刀を、ピーチインベスの脇腹に突き立てた。
これは痛えだろ。
体をバネのようにしてピーチインベスを押し退け、先程のお返しにパンチを一発入れる。
奴の態勢が崩れた。今だ。
―――適当にいじってたらオレンジスカッシュとか叫ぶんですけど、これなんなんですか?
―――それは必殺技だ。
戦極凌馬との会話が、脳裏にフラッシュバックする。
俺は、戦極ドライバーを操作した。
オルタネイティヴオレンジスカッシュ!
戦極ドライバーが叫ぶ。
「なるほど、こういうことか!」
理屈はわからないが、身体能力が高まってゆくのを感じた。
俺は、勢いよく地面を蹴り、跳躍。
ピーチインベスに向けて、渾身の跳び蹴りを放った。
「オラァァァ!」
「あああああ!」
ピーチインベスは吹き飛び、10数メートルほど先に派手に転げた。
「あいつに伝えろ!会社は辞めるってな!」
俺の必殺技。
名付けて辞表キック。
ピーチインベスはよろめきつつ立ち上がり、捨て台詞を吐きながら逃げ出していった。
「覚えてらっしゃい!」
「古典的だな!」
もっと他に何か無かったのか。
ピーチインベスの姿が見えなくなると、俺はドライバーからロックシードを取り外し、変身を解除した。
手の中の、青いロックシードを見つめる。
勝った。
俺は、勝った。
よし。
さて、これから何をするべきか。
この世界に何が起こっているか、原因を突き止めなければならない。
もしかすると、紘汰たちを元に戻すことだってできるかもしれない。
いや、必ず元に戻す。
俺はそう決意した。
とりあえず、仲間がほしい。
戦極のように、この世界の異常性に気が付いている者がいるかもしれない。
もしくは、初めから毒されていない者。
誰か、いないか。
誰か―――
舞。
そうだ。
世界は、俺がシドに戦極ドライバーを貰った時からおかしくなった。
そして、俺は、それからというもの、一度も舞に会っていないのだ。
当日、舞は俺の呼び出しに応じず、その後ガレージに顔を出した際にも、そこに舞の姿は無かった。
確かその日は電話もかけたはずだが、これにも舞は出なかった。
そして、今日もだ。ガレージにはラット、リカ、チャッキーしかいなかった。
そうだ。
世界がおかしくなってから、舞の姿が見えないんだ。
そして俺は、おかしくなっていた間、それを全く気に留めなかった。
俺は、すぐにスマートフォンを取り出すと、舞に電話をかけた。
出ない。
何度か試してはみたが、結果は変わらず。
まさか、舞の身に何かあったのか。
下手をすると、紘汰やミッチのように―――。
とにかく、舞を探す必要がある。
俺は、メンバーたちから話を聞くために、再びガレージに向かうことにした。
つづく