エリアの守護神~THE GUARDIAN DEITY in THE AREA~ 作:フリュード
「おああああ!!!!」
バシィッ!!!
『ナイスキーパー!!』
「はぁ・・・はぁ・・・」
4月半ば。県総体(インターハイ)東京都予選まで後1ヶ月切った今日、染谷は風巻が打ったシュートを止めたところだった。
染谷は自分のサッカーをすると誓ったあの日以降好調をキープし、練習試合でも先発で出てほぼレギュラーの座を勝ち取ったと染谷の中ではではそう思っていた(実際監督も最初から染谷をレギュラーにしようとしていたが)が、試合で見ていたり練習でシュートを止めているうちに、染谷は気付いたことがある。
(シュートの威力は同じなのに春休みと比べ物にならないほどにコースや動きが全然違う・・・)
染谷は風巻にボールを返した後そう思っていた。
蹴学はシルバ・リカルド・ジェンバが来てから3人は蹴学の選手たちにプレーイングコーチ(プレーをしながら選手に教えるコーチのこと)をしており、それともう一つペドロ監督が持っていたサッカー持論『超絶的パスサッカー』を蹴学の選手たちに叩き込んでいて、それのおかげかここ1ヶ月の選手の動きが確実に違うのを見てとれたのだ。染谷は他校のシュートは止められるがここ最近の風巻やジェンバのシュート、それにシルバのシュートも染谷の動きを読み始めているのか止めるのも少しきつくなってきた(他のキーパーというとシュートを全然止めれていない。FP(フィールドプレーヤー)の成長に追いついていないのだ笑)。
(ペドロ監督、仕事って言ってたから腹が立ったけどだてに海外でコーチングを学んでいただけのことはあるな。しかしやばいな・・・どうしたらシュートを止められる?・・・)
染谷はだんだんその思いが頭の中でグルグル回ってきた。
「・・・・・」
悩んでいる染谷をシルバは厳しい目で見ていた。
その後、染谷はシュートを入れられては考え、シュートを入れられては考えるという悪循環にハマりすっかり調子を落としてしまい今日の練習は終わった。
「・・・・はぁ」
夜遅く。消灯時間も過ぎ、すっかり寝静まったと言うのに染谷は寮の中の庭にあるベンチに座り一人ため息を吐いていた。
あの後、キーパーコーチに聞いてみても、『コウキは今のスタイルを維持していけばOKだよ!』と今の状態の染谷としては役に立たない言葉しか貰えず、なら自分で考えるしかないと染谷は庭のベンチに座り考えていたがさっぱりいい案が出てこない。
今の染谷のキーパースタイルというのは染谷が中1のときに現在名古屋のトップで正GKを任されている過去に日本代表にも選ばれたことのある『
「なにを悩んでいる。コウキ」
そんな悩んでいる染谷に上から少し怒りを孕んだ声が聞こえた。染谷は上を向くとそこにはシルバがいた。
シルバ視点
(何やっているんだコウキ。さっきからイージーなミスを繰り返している)
僕は練習をしながら練習でシュートをはじききれずにゴールに入ってしまい、そのたびに悔しそうにしているユウキの姿を見て、苛立ちと怒りを抑えながら思っていた。
「どうしたんだろ?」
霧島がコウキを見て心配そうに言っていた。
ふと僕は脳裏に傑の言葉がよみがえった。
『コウはいいキーパーだけどとことん悩んだりしてそれがプレーにも影響するからそれが無かったらいい選手だけどな』
(たしかに傑の言うとおりだ。センスやプレーは認めるけどあの性格を何とかしないとナ・・・)
「リュウ。このことは僕に任せて」
「うん・・・レオ君が一番長い付き合いだと思うし。おねがい」
「分かったよリュウ(後でコウキに説教してやるか)」
僕はこの後の行動をたててからリュウにそう言った。
だが、この日に限って予定がかみ合わず、消灯時間が過ぎてしまった。それでも僕は探していると、庭のベンチで項垂れているコウキを発見した。
(練習のときよりも重くなってない?けど言いたいことは言わないとね)
そう思い僕はコウキの所へと向かった。
シルバ視点 終了
「レオ・・・何か用?」
「コウキ。どうして昼間はあんなにミスを犯していた。それに何か悩んでいたそうだが」
染谷はそう言うとシルバは気をかけたときと変わらない声色で答えた。
(これは正直に言ったほうがいいな。シルバの事だからたぶん理由聞くまで部屋に返してくれないだろうし)
染谷は心の中で苦笑してから話そうと決心をする。
「ははは・・・じつは・・・」
そう言い、染谷はシルバに悩んでいた理由を話した。染谷が話している間シルバは真剣に話を聞いていた。いつもあっけんからんとしていて面白いシルバなのに、こういう一面もあるので染谷にとってはありがたい存在だし実際シルバのことを兄のように慕っている。
(とか言いつつもレオも蹴学を優勝させると言う仕事を果たすためにここに入学したうちの一人なんだよね)
理由を話しているときに染谷はそう思っていた。
これは染谷がうわさで聞いた話だが、シルバの獲得にはウン十万と言うプロの契約金と変わりない額をシルバに提示して、『契約』したと聞いている。
この話を聞いたとき、染谷は『目的に腹が立ったし、契約についても何事も金かよ・・・』と思ったが『プロになればこういうのは当たり前になってくるし、シルバほどのスターならそれくらいは当然か』とほんの少しは思っている染谷もいた。
それ以前にシルバは染谷のライバルであり友達でもあるので、染谷はシルバは大体のことは分かっているから何も言わないことにしている。
染谷の話が終わると、シルバは「やっぱり」と言った。染谷はなんだ気付いてたのかと苦笑する。
「傑から性格の事聞いていたけど・・・少し悩みすぎじゃない?まずその性格を直さないと」
「うぐ・・・」
シルバの鋭い一言に染谷は何も言えなかった。染谷自身も幼い頃からこの性格というのを分かっているのだ。こんな事になったのも性格の問題だなと染谷は少なからずは思っていた。
「そうだよ!それにコウキは一年の星でもあるからがんばっていないと」
するといきなり霧島が出てきて染谷に励ましの言葉をかけた。これには染谷とシルバは驚いたが、聞いてみれば染谷をどうしたら立ち直らせるか考えてくれていたという。
「(うはぁ、サンキューリュウ)」
染谷は霧島の優しさが嬉しくて目頭が熱くなる。。
「それにシュートが決まる確率も僕たちがプレーイングしてもまだ半分いくかいかないかだよ。正GKがそんなんでどうする!」
シルバが染谷に励ました。
「GKがそんなんじゃだめだ!」
霧島も染谷にそう言った。
「・・・・そうだな。くよくよしてたって何も始まらないしな」
2人に励まされた染谷は目を閉じそう呟く。
「そうだよコウキ。・・・てかコウキの性格の所為で前にも似たような状況でくよくよしてなかった?」
「・・・・(そうだった・・・・確か中2のときに飛び級でU-15に選ばれたときも全然試合にも出してもらえずにくさってたら傑さんに怒られたんだっけ。)。」
シルバに言われ染谷は昔、傑に言われたことを思い出す。
『未来を担うGKがそんなでどうする。悔しいのであれば人一倍練習をすることだ。それにたとえベンチにいてもオレならこの状況はこうするって頭の中で戦っているんだ。そんなこともせずにただ試合に出たいといっているのだったら代表には要らん!』
(・・・そうだ。それ以降ベンチにいてもただ見るだけじゃなく頭の中で戦うようになったし、もうあんな悔しい思いをしないように人一倍練習をするようになって名古屋の三冠王者の偉業を支えることが出来たんだ)
染谷は過去に傑に言われたことを思い出し、そう思った。
「ありがとう!おかげで何とかなったよ」
ようやく立ち直った染谷は2人に礼を言った。
「ははは。それはどーもコウキは大事な友達だからね。ただ自分なりに励ましただけだよ」
「どういたしまして」
シルバと霧島の2人は染谷の礼にそう言った。
「よーし!明日の練習がんばるぞ!」
染谷はそう大声で言った。しかし直後に霧島に「消灯過ぎてるから大声出すな」って叱られたのは言わないでおこう。シルバはただ笑っていた。
「よっしゃあああ!!!」
バシィ!!! ビシィ!!! バチィ!!!
翌日の練習、昨日の2人の励ましですっかり調子を取り戻した染谷は今まで以上にシュートを止めまくっていた。
「ふふふ・・・すっかり調子を取り戻したね」
シルバは染谷が好セーブを連発しているのを見てそう言い笑っていた。
「今日のコウキはすごい止めるな。こりゃ俺も頑張らねーとな!」
「だな!!」
風巻の発言に皆同意して、いっそうチーム内の雰囲気が良くなった。
(そうだな、自分のプレーをすれば自然と雰囲気が良くなってくるし調子も良くなる。今は仕事のことで考えるのはやめて自分のプレーをすることに徹していこう!)
染谷はそう思い練習をしていた。楽しそうな表情に昨日の悩みはすっかり消えていた。
インターハイ予選もすぐそこまで来ていた。