エリアの守護神~THE GUARDIAN DEITY in THE AREA~ 作:フリュード
渋谷東―蹴学 後半
「おおおおおお!!!」
ビチィ!!!ザシュッッッッッ!!!!
「おっしゃあああ!!」
シルバからの完璧なパスを風巻が豪快に蹴り、キーパーの手をはじいてゴールに突き刺さった。
『ゴォオオオーーーール!!レオの巧みなパスからのFW『ワイルドウルフ』こと風巻 涼が豪快なシュートで決めた!』
『ナイスシュート!!!マッキー!!!』
それを見て、実況の後藤が何度目かのゴールのコールをした。舞衣ちゃんも笑顔でそう言った。
後半20分
渋谷東―就学
前0 - 5
後0 - 7
計0 - 12
後半の蹴学は本来の力を見せ付けるように、後半開始20分で前半の5点を軽々と超え、7点を奪い、12-0と大量リードを奪っていた。
前線で残るようになったツートップのジェンバ・風巻の得点能力に加え、シルバのゲームメイクやリカルドを中心とした鉄壁DF陣。仮にロングシュートやDFが抜かれたとしても・・・・
バシィィィ!!!!!!
『止めたぁぁぁ!!!!GK染谷、エース石井の豪快なシュートを見事にセーブ!!』
石井が完璧だと思ったシュートも守護神染谷によって簡単に止められてしまう。
「嘘だろ・・・あのコースも止められるのかよ・・・」
染谷のスーパーセーブに石井が顔面蒼白でそう言った。
そうした就学の攻撃や守備に、前半にあった渋谷東の積極的な動きは見る見るうちに鳴りをひそめ、後半15分を越えたあたりには守るだけのサンドバッグ状態となっていた。
試合終了までの間、蹴学選手の強烈なシュートが絶え間なく渋谷東のゴールを脅かした。
ピッ、ピッ、ピーーーー
『試合終了!!!我らが蹴学、17-0という大量得点で初戦を突破しました!』
試合終了後、公式戦初勝利に後藤も嬉しさを隠さずにそう言った。
渋谷東 ― 蹴学
前 0 ― 5
後 0 ― 12
計 0 ― 17
ゴール
蹴学
L・シルバ 6点
P・ジェンバ 6点
風巻 涼 5点
蹴学の怒涛の攻撃に終わりを迎えたのは試合終了のホイッスルが鳴ったときだった。
就学が終始試合のペースを握り、17-0と言う残酷とも言える点差で試合は終わった。
「よっしゃー!初戦突破や!蹴学の公式戦初勝利!」
「ああ、そうだな!」
風巻を中心に歓喜に沸く蹴学。
「ありがとなコウキ!」
「はい!!!」
皆が集まる中、リカルドが染谷に礼を言ってきたので染谷は笑顔でそう言い返した。
この試合、5本以上のシュートが放たれたが幾度もシュートストップした染谷も勝利に貢献したうちの一人だ。
「・・・・・・」
「やっと・・・・・終わった・・・・」
対して走るだけのサンドバッグ状態が終わったものの足腰がたたないのか、立ち上がれずその場に座り口数も少ない渋谷東。
「・・・・・恐ろしいほどに両校の雰囲気が真逆な試合は見たことがないな・・・」
ベンチがフィールド上の選手たちのところに行く中、霧島はゆっくりと歩きながらそう呟いた。
霧島の言うとおり試合後の雰囲気が恐ろしいほどに対照的なのが印象的だった。
『あれが蹴学・・・』
『あれからどうやって点を取るのだよ』
観戦していた高校の偵察部隊が口々にそう言う。この試合はそれほどインパクトが強く、また『蹴学』を世に知らしめる一戦であった。
試合後 控え室
「後半の攻撃は良カッタ。次の試合もこのような試合をしてイクヨウニ。」
試合後、ペドロが今回の試合を振り返り、話をしていた。他にも前半と後半の反省など入念にチェックしていた。
染谷はというと頭にタオルを掛け、控え室の隅で俯きながら座っていた。
「ナイスキーパー。」
俯いている染谷に霧島が声を掛けてくる。
「あぁ、サンキュー。」
染谷はそう言い返すとその後また俯いた。それを見た霧島は微笑を浮かべた後自分がいた場所へと戻っていった。
(はぁ、疲れた~前半点を入れる傍ら、シュート数も多かった。けど後半からぐっと減って、いい感じに進んでよかった。)
何をしていたかというとタオルをかぶりながら染谷は考え込んでいたのだ。
「キ。・・・・・コウキ!」
「はっ!?・・・あぁ、レオか。」
シルバの声に染谷が気がつくと、既にシルバが着替えてかばんを持った状態だった。それを見た染谷はすぐに着替え始める。
「ナイスだったねコウキ。この調子で次もがんばってね♪」
「・・・結構腹立つ言い方だな・・・」
おちゃらけたシルバの言葉に染谷も着替えながらそう言い返す。
「よう~コウキ!!ナイスキーだったぜぇ~!!」
「いででででで!!!痛いっすよ風巻さん!!」
すると風巻が染谷に向かって肩に腕を組んで引き寄せて着たので染谷は悲鳴をあげる。
「ありがとな!お前が止めまくってなきゃこの試合どうなっていたか。」
「ちょ!?板東さん!?やめ、いやああああ!!??」
板東も言い寄り風巻のいじりに参加し始めた。
「い、いえ!俺がすべきことをしただけですよ!まだ試合はありますし、がんばっていきましょう!」
『おう!!!』
弄られながら言った染谷の言葉に皆が声をそろえて言った。
「ははは。みんなひとつになったな。」
リカルドがその光景を見て笑いながら言う。
「・・・・・ふん。」
ジェンバはハーフタイム時に染谷と騒ぎを起こしたせいか、気に食わない表情をしながら着替えを済ませた後、さっさと控え室を後にした。
試合後 その夜
「初戦突破できたね!」
「いや、あのチームなら当たり前だろうな。」
「ハハハ。言うねコウキ。」
試合後戻った選手はすぐにフリータイムとなり染谷・霧島・シルバは3人で集まり、まったりと過ごしていた。
「うーん、前半どうなるかとおもったけど後半から爆発したね。」
霧島は今回の試合を振り返ってそう言った。
「確かに。逆にシュートがめっきりと減って暇だったけどな。」
「ははははは!!!けど勝てたのだからいいじゃん!」
シルバはぶすくれた表情で言った染谷の発言に腹を抱えて大笑いする。
「まぁね・・・けどパティのやつ結局徹底して守備せずにずっと前線に残っていたな。」
染谷は試合中に思っていたことを言った。
後半が始まってからも風巻は前線で守備をしながらしっかりとゴールを決めていたが、ジェンバはFWに徹し守備をしないまま結局試合が終わるまで守備をすることはしなかった。
「あいつめ・・・ふざけやがって・・・」
染谷は再び湧き上がる怒りを滲ませながらそう言った。
ましてやハーフタイム時に日本人を差別する発言をしてきたのでパティに対しての怒りが溢れるばかりのものになっていた。
「まぁまぁ抑えてよ。仲間なのだから。ね?」
ハーフタイムでの乱闘騒ぎを見ていた霧島は染谷をなだめた。
「はは・・・(うーん・・・マズイな。パティの態度の所為でコウキとパティの仲が悪くなっている・・・これが試合に響かなければ良いのだけど・・・)」
シルバも心配そうに染谷を見つめていた。
シルバの心配をよそに蹴学は圧倒的な強さを見せ付け、1次予選を難なく通過した。
しかし、染谷が試合中に限らず、普段でもジェンバと喋ることは数えるほどしか無くなってしまった。