ハイスクール・イマジネーション   作:秋宮 のん

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一話に入り切らなかったので上下巻に分けました。
とりあえず、今頂いているAクラス一年生キャラは全員出しましたよ!
さあ、褒めるがいい!

最初っから最後まで戦闘シーン(クライマックス)状態です!
高レベルの戦いを想定したつもりなので、楽しんで頂ければと思います。


一学期 第四試験 【クラス内交流戦】Ⅰ

一学期 第四試験 【クラス内交流戦】Ⅰ

 

【Aクラス編】上

 

 

 00

 

 

 イマジネーションスクール。万能の力、イマジンを学び研究する浮遊学園都市、ギガフロートに浮かぶ学園。世界に三つしか存在しない学園の一つ、柘榴染柱間学園。新入生を受け入れ、何処の学校でも同じ退屈な入学式を終え、クラス分け試験を経て、イマジネーターの学習能力に頼った早足の教鞭を三日ほど受け、ようやっと一年生達はイマジンによる戦闘授業を許された。

 東雲カグヤと伊吹金剛の決闘騒ぎ以来、一年生達は大人しくしていた。万能の力であるイマジンを、自分だけの特別な能力を得て、使いたがらない筈がない。実際、過去の入学生は、退屈な授業に耐えきれず、決闘を乱発してそれはそれは大騒ぎになっていた。

 だが、今回最初の決闘が学生寮の破壊と来たものだから、さすがに新入生達は大人しかった。いくら一瞬で元通りになるからと言って、あんな物を何度も自発的に体験したいとは思えなかったのだろう。それゆえ大人しかった新入生だが、裏を返せば、それだけフラストレーションを溜め込んでいたとも言える。

 そんな状態で始まったのは、直径一キロ四方の四角い空間で取り行われるシミュレーションバトルだ。

 

 

 東雲カグヤは、傍らに軻遇突智(カグヅチ)の擬人体、≪カグラ≫を連れ立ち、ジャングルの中を必死に走っていた。イマスクが支給した実戦練習用スーツ(体操服)は何処となくミリタリー仕様で、無駄な布地が無く、色は暗色系で統一されている。半袖のジャケットには、大量のポケットがあり、小道具の収納には事欠かないのだが、正直生徒手帳の収納の方が優れているので、サバイバル訓練でもない限りは使いどころは無いだろうと考えていた。

(あんま変わらん気がしてきたけどな! この状況は………!)

 内心毒吐きながら、彼は地面を蹴って低い崖を飛び降りる。木々の間を危なげなくすり抜けながら、自分の戦い易いフィールドを探しまわる。

 今回のルールはシミュレーションスペースでの実戦訓練であり、現在カグヤが挑んだエリアは密林のジャングル地帯となっていた。空から照りつける強い太陽に熱帯の環境は、此処が室内とは思えないほどリアルに再現されている。踏みつける地面すら、時々ぬかるんでいて、ブーツは既に泥に(まみ)れている。

 こんな環境の中で彼等が求められたのは二つのクリア条件である。

 一つは、同フィールド内に居るたった一人のクラスメイト、(すなわ)ち敵を攻撃し、有効とされるダメージを一定以上与える事。これはポイント制になっていて、既にカグヤは50ポイント中、40ポイントを取られている。

 二つ目は、敵に撃破される前に先にタスクをクリアすると言う物。タスクは全で五つ存在し、それが結構な難度を示していた。

 一つ目のタスクは生徒手帳に表示された『見鬼の発動』だった。これをカグヤは余裕でクリア。

 二つ目のタスクは、同じく生徒手帳に表示された。『フィールド内にあるコンソールを発見せよ』っと言う物。これも見鬼を使い、余裕で発見。

 三つ目はコンソールに表示された、とあるエリアを目指せと言う物だった。コンソールに表示された地図を頼りに向かってみると、イマジンによる施錠がされた小屋を発見。なるほど『解錠』つまり『分析』の能力を確かめるタスクだったらしいと判断し、これも得意分野だったカグヤは楽々解錠。小屋にあった小箱を発見する。

 四つ目のタスク、これが何気にとてつもないトラップだった。箱の中にあったのは赤い水晶玉だった。水晶玉は中から文字を浮かび上がらせると、次のタスクをカグヤに伝えた。

 五つ目のタスク。それは、この水晶玉を一時間以上死守すると言う物。それ自体は難しそうではなかったのだが、次に水晶玉から浮かんだ二つの条件にカグヤは絶叫する羽目になった。

 

『なお、この水晶玉は持っているだけで敵に自分の居場所を伝える発信機となっています! 更に、この箱が「解錠」状態にある限り、この部屋から出られません!』

 

 バタンッ!!

 

 絶対破壊不可能のイマジネートがかけられた小屋に閉じ込められたカグヤ。『解錠』の次は『施錠(せじょう)』、封印系の基礎イマジネートを要求された上に、敵に自分の居場所を気付かれた。「どんな嫌がらせなタスクだっ!?」と叫びながら『施錠』を速やかに施し、脱出したカグヤは、そこで猛烈な速度で飛んでくる敵の攻撃に曝された。

 

 

 

 そして現在、敵と交戦しながら逃げ惑う事三十分。カグヤはとっくに限界を悟っていた。いくらイマジネーターでも、身体強化の訓練を受けていない状態で一時間も戦うのはかなり厳しい。なのですぐさま九曜を呼び出し戦闘に入ったのだが、気付いたら崖っぷち状態に曝されていた。

 カグヤの獲得ポイントは現在25ポイント。

 敵獲得ポイントは先程説明した通り40―――、

 

 ヒュンッ! ………ザシュッ!

 

「おわっ!?」

「お兄ちゃんっ! こっち!」

 突如横合いから飛んできた刃が、カグヤの肩を軽く霞めた。慌ててカグラがカグヤの身体に体当たりする様にして方向転換。

 今のかすり傷がヒットポイントと見なされ1ポイントが奪われる。これで敵は41ポイント。残り9ポイントで終わってしまう。

「くそっ! まだか九曜!」

『あと少しお待ちください』

 急かすカグヤの声に応じ、戦場から少し離れた場所にいる九曜が思念で答える。

 九曜がカグヤに命じられたのは見えざる敵の感知だ。カグヤがここまで圧倒されている理由が、殆ど敵を捉えられていない事が原因だった。なんとか九曜に突出させ、カグラで己の身を守りながら此処まで繋いでいたが、不利的状況が全く変わらない。何とか相手を完全に感知しなければと、カグヤは九曜に攻撃ではなく察知を命令したのだが、どうやら向こう側もそれを素早く理解したらしく、攻撃度合いが激しくなってきた。

 木々の間から飛来する投剣を、見鬼でなんとか感知していたが、もう限界だ。

 二本の剣が左右から足場に刺さり、それだけで地面が崩れさる。慌ててカグラがカグヤを掴み持ち上げるが、擬人化状態の彼女は、人一人分を抱えて素早く飛行する能力は持っていない。グライダーの様に落下速度を落としつつ移動し、地面を転がる様にして着地する。更に二本の刃が飛んできて、それをカグラが炎で吹き飛ばすが、後方から放たれた剣に気付けず、カグヤの肩を浅く切りつける。

「ぐっ!?」

「ああっ!? お兄ちゃん!」

 カグヤに飛び付き、自ら神実(かんざね)、火の槌となって防衛体制を取るが、カグヤのスタイルが変われば、剣の攻撃パターンもそれに対応した物へと変わる。完全に万事休すだった。

 その時、遂に九曜が敵を確認する。

「見つけました!」

 疾しる九曜。

 同時、感知された事を悟った敵がカグヤに向けて走る。

 速度は九曜の方が速く、何とか主の元に向かわれる前に接敵できた。

「はあ―――っ!」

「………っ!」

 九曜の手に二本の赤黒い剣が出現。それを振るい敵を足止めしようとする。

 しかし、敵もそれを素早く感じ取り同じく手にした剣で受け返す。一度ぶつかり足を止めるものの、その人物は紫のショートヘアーを揺らしながら、素早く移動。九曜に負けない速度で追い抜こうとする。

 九曜も主の元に行かせぬようにと必死に追いすがる。

 互いに地を蹴って飛び、高低差のある木や枝を足場にし、三次元的な戦闘を開始する。

 地を走り切り合う時もあれば空中で衝突し、火花を散らして交差する。互いに速度と剣の腕を持った実力拮抗の相手だった。

「ならば………っ!」

 先手を取るため、九曜は背中のホルスターから六本の柄を宙へと投げる。それらは赤黒い水の刃を創り出すと、見えない糸に操られるように宙を舞い、敵たる少女へと向かう。

 真直ぐ飛ばされた刃を見据えながら、少女は六の内二本を己の持つ一本の剣で見事に弾き飛ばす。

 残り四本の刃は少女の動きを見切ったかのように素早く散開し、彼女の背後へと移動する。同時に飛び出した九曜が、彼女を正面から挟み撃ちの体勢に入った。

 少女は臆せず、九曜に向かって刃を振るう。

 九曜の二刀と少女の一刀が激突。同時に彼女の後ろに迫っていた剣が、飛来した別の剣によって叩き伏せられた。

 気付いた九曜が少女を弾き飛ばし、六の刃を自分の近く待機させる。

 少女もまた、四つの刃を空中に従え、九曜と同じようなスタイルを取っている。

 容易に攻撃できない。同じタイプ故にそう思考すると同時、主の苦悶の声が聞こえた。

「ぐあっ!」

「我が君っ!?」

 正面の敵への警戒を解かず、主を案ずる九曜は、その危険な状況を確認した。

 四本の刃が、宙を自在に踊りながらカグヤに向けて攻撃している。カグヤは神実した軻遇突智の槌で何とか応戦しようとしているが、ダメージが大きくなっているのか、上手く戦えずにいる。

「飛べ………っ!」

 少女が呟くと同時、四本の剣が投擲される。

 九曜もそれに合わせ六の剣を操り、迎撃と反撃を試みる。

「『剣の繰り手(ダンスマカブル)』………剣よ、逆巻く風となれ………っ!」

 少女が投擲した剣に新たなイマジネート(術式)送り込む。

 途端、ただ真直ぐ切っ先を向けるだけだった剣達がその場で回転を始め、手裏剣のように飛来する。

 だが、それを確認した九曜は、素早く剣達に命じ、正面からではなく上下からの攻撃に転じる。回転する事により正面からの攻撃力を増した剣達だが、逆に上下からの攻撃を受け易くなり、また弾かれ易くなっていた。四つの刃同士が接触し、計八本の剣が周囲へと弾かれる。

 残った九曜の二本の剣が、走りよる少女へと迫る。

「『糸巻き(カスタマイズ)』、2重から4重へ………っ!」

 少女が呟いた瞬間、彼女の手にイマジンらしき力が増幅しているのを感じた。

 咄嗟に九曜は腰にある六つの内、四本を取り出す。

 少女は己へと向かっていた二本の剣を易々と弾き返し、勢いを利用して九曜へと斬りかかる。

 九曜は取り出した四本の柄と、手にしていた二本の柄を組み合わせ、一つの柄を創り出すと、巨大な水の刃を創り出し、一本の大剣として振り被る。

「………脚部っ! 3重追加………!」

 刃が重なった瞬間、強烈な衝撃波が九曜の手に圧し掛かる。剣の強さだけでなく、勢いを付けた突進力まで強化され、さすがの九曜も弾き飛ばされてしまった。

「しま………っ!?」

 慌てて空中で体勢を立て直した九曜は、自分を弾き飛ばした少女が、空中を滑るように跳びながら、後ろを振り返り、生徒手帳から取り出した四本の剣を合わせ、八本の剣でこちらを狙っているのを確認した。

(まずい………っ!)

 察した九曜が大剣を分離、二本の剣を構えつつ、残った柄を中心に広がる形で水が噴き出し、バリア上に展開される。

「『剣弾操作(ソードバレット)』。最大出力………っ!」

 

 ゴウンッ!!

 

 バアァンッ!!

 

「―――っ!?」

 空気が弾ける音の後に水が粉砕される強烈な音が鳴り響く。

 目視できなかった九曜は、自分が近くの木にはりつけにされた事で、やっと悟る。自分が少女の放った剣に反応も出来ず貫かれてしまった事を。

(不覚っ! これでは我が君の元へ………っ!)

 九曜の右肩と左足を撃ち抜き、木に縫いつけたのを確認した少女は、身体が地面に落下するより早く体制を整え直し、再び地を走る。

(驚いた、な………、まさか、勘で六本も叩き落とされるなんて………)

 あの一瞬、九曜は己自身でも気付いていなかったが、音速に届く勢いで射出された剣を、本能だけで四本叩き落としていた。しかし、残りの二本を叩き伏せようとした時点で、剣となっている水の強度が限界を迎え、弾け飛んでしまったのだ。バリアに使っていた水も、あっさり貫かれ、彼女は木に縫いつけられたと言う事だ。

(ともかくこれで、カグヤ………、目視でき、た………)

 少女は視線を前方に向け、少し開けた場所で空中を踊る剣と戦っているカグヤに向けて、一気に加速する。

 木々を飛び抜け、上方から一気に剣を叩き降ろす。

 カグヤは瞬時に少女の接近に気付き、軻遇突智の槌を振るい、迎撃する。

 爆発と共に弾き返された少女だが、地面に着地すると同時に動き回り、近接戦の超至近距離に入りこもうとする。

(やっぱ、金剛との戦いで、俺が近接戦苦手なのに気付かれてるか………っ!)

 カグヤとて、近接戦が全くの苦手、っと言うわけではなかった。だが、生来、身体の脆かったカグヤは、事戦いに於いて自分の身が危険に晒される様な距離での戦いは避ける様にしてきた。ヒットアンドアウェイ、遠距離攻撃、近接の中距離などと、できるだけ距離が開く戦いを好んだのだ。もちろん、掴み技や投げ技の様な至近技もしっかり身につけた彼だが、非力だったので全ては合気柔術の類になってしまう。つまり、剣での斬り合いを近接距離でやるのは、カグヤの最も嫌いな距離と言う事だ。

(やり方が無いわけじゃないが………、やっぱりやり難いしな~………。仕方ない! 近づけずに戦う!)

「カグラ! 頼む!」

 苦手な距離での戦いを避けるため、カグヤは槌を放り、擬人化した状態の軻遇突智、≪カグラ≫を呼び出す。

 炎を様な真っ赤な髪を翻し、僅かに浮遊しながら13歳未満と思しき少女の姿となって、カグラは両手を翳し、次々と火の球を打ち出す。

「それそれっ!」

 ドンッ! ドンッ! っと撃ち出される炎弾を、紫の少女は左右に身を振ったり、僅かに身体を逸らすなどして巧みに躱して行く。

 カグラもできるだけ動きを読んで打ち出しているようだが、やはりイマジン体とイマジネーターには危険察知の差が如実に違う。少女が避け切れない炎弾に対し、空中の剣を射出して打ち消すのに対し、反撃で飛来する剣にカグラは片手を振って炎の壁で覆う様にして薙ぎ払っている。つまり、攻撃を見切れず、空間事まとめて弾いているのだ。

 少女の方は炎弾を完全に見切り始めた様で、最初は身体にかすらせていた炎弾を、今は無傷で回避し、撃ち落とし始めている。最早その姿は剣と踊る舞姫。『剣舞姫(ソード・ダンサー)』と言って差し支えが無かった。

「これならどうよっ!!」

 完全に攻撃を見切られたのが癪に障ったのか、カグラは両手を合掌するように合わせ、手の中で炎を一瞬溜めてから、解き放つように左右に払う。放たれたのは炎の嵐だ。大量の炎が渦巻いているのではなく、高温の火の粉がまるで花弁の様に咲き乱れ、渦を巻いて剣の少女を呑み込もうと迫ってきている。

「―――ッ! 『剣の繰り手(ダンスマカブル)』………! 剣よ、わが身を守る盾となれ………っ!」

 瞬時に術式(イマジネート)を編み上げた少女は、四本の剣を自分の正面に整列させる。剣は、彼女の正面で上方に二本、下方に二本整列し、そのままくるくると扇風機の様に回り始め、やがてカン高い風斬り音を鳴らすほどに回転し、炎の嵐を堰き止めた。

「な、なによこの程度でっ! ろくに神格も有していない剣で―――っ!」

 高位の攻撃を受け止められ憤慨したカグラは、更に力を込めて押しのけようとする。実際、剣の少女が使っている剣は、購買部で購入した鉄の剣だ。能力で作ったわけでもなければ、付属効果を有している訳でもない。もちろん、耐久破損に対するコーティングなどもされていない。イマジンにより、ある程度強化はされているかもしれないが、それでも炎の嵐を受け止め続けることなど出来ようはずもない。

(だから、次の手を打ってるん………だよ………?)

 少女が内心ほくそ笑むのと、カグヤがカグラを抱えて飛び退くのは同時だった。

 カグヤが飛び退いた後の地に、一本の剣が真上から突き刺さり、爆発でもしたような衝撃で地面を吹き飛ばす。

 転がるカグヤは、空中で狙いを定めている、もう一本の剣を目にする。

 彼が立ち上がり、カグラを背に庇うのと同時に、剣は射出され―――赤黒い閃光が、それを途中で叩き落とした。

(!)

 少女が視線を向けると、九曜が使っていた黒い柄が、柄だけで飛来し、そこから刃だけを射出し、射撃するかのように攻撃して来ていた。

 少女は剣の盾をずらし、この射撃を全て弾き返す。

(そっか………、刃は水だから、その場に留めずに撃ち出せば。飛び道具に、なる………)

 勉強になると一人頷きながら、二本の剣を操り交差させるようにして柄を叩き落とした。

あれ(、、)、あんな事出来るなんて………、なんてシールドビット?)

 などと考えながら、他の柄が周囲にないかと視線を巡らせる。どうやら他には無いようだ。

 再び距離を稼いだ事で、カグラは強気で、しかし、危うく主を危険に晒してしまった事に憤慨した表情で両手を地面に向けて翳す。

「もうお兄ちゃんに近づけてやるもんかぁっ!!」

 叫んで術を発動した瞬間、地面を貫いて噴火する様な火柱がいくつも出現する。火柱その物が高温を持っていて、傍に近寄る事も出来ない上に少女の周囲にも乱立し身動きが取れなくなってしまう。

(こ、この炎はさすがに………―――っ!?)

 防ぐ事が出来ないと悟り、腕で顔を庇いながら、熱気だけで身体を焼かれ始める感触に、苦悶の表情を浮かべる。

「………あうっ!?」

 が、唐突に胸に手を当て、苦しそうな表情になったカグヤが片膝を付いた。

 気付いたカグラが「しまったっ!?」っと言う顔をして、慌てて炎を消し去る。

「カグラ! まだ消してはダメ!」

 遠くから飛んできた九曜の忠告より早く、剣の少女が再びカグヤとの距離を詰める。

 慌てに慌て、爆炎の球を幾つも打ち出し遠ざけようとするカグラ。

 だが、慌てているイマジン体の攻撃など、危険察知に優れたイマジネーターに当たるわけもなく、カグヤの側面を狙うように逸れながら攻撃を躱されてしまう。

 主に接近されたくない一心で、追いかける様に幾種の炎を打ち出しながら追いかけるカグラだったが、剣の少女に夢中で、自分に迫ってきた剣に気付く事が出来ず、気付いた時には側頭部を剣で貫かれてしまった。

「カグラ!?」

「伏せてっ!!」

 一気に距離を詰めた剣の少女が、カグヤの首を狙い剣を振るう。その剣をすんでんのところで現れた九曜が受け止める。肩と脚から僅かに光の粒子を零しているところ見るに、縫い付けられた剣を折って、無理矢理身体を引き抜いて来たようだ。イマジン体は身体全てがイマジン粒子。怪我をすれば血ではなく、粒子の粉が、破損した肉体部分を取り戻そうと零れ出すのだ。見た目は人と違うが、役割は完全に血液と同じだ。

 九曜は剣激で少女を払うが、少女の方も待ったを掛けるつもりはない。

(残り5ポイント………)

 残り数値を確認し、更に叩き付ける様に剣撃を放つ。

 繰り出される少女の剣を、九曜は当然の様に受け、巧みに捌いて行く。

 九曜の持つ二刀の剣は実に巧みで、某SF映画で御馴染のフォトンソードの様に繰り出される。正直使っている武器、剣の正体が水だと言う事を思えば、アレと戦い方が似ても同じかもしれない。

 高速流動する水の刃は物理的な刃と違い、力を入れなくても物を切れる。故に九曜の剣捌きは、体重を乗せ腕で振るう物ではなく、手首の返しなどで操られている。

(………ちょっと、やり難い)

 それは戦い方だけではない。武器の差にも言えた。

 流動する水の剣は個体ではない。故に刃毀(はこぼ)れしない。切れ味が落ちる事が無い。対して少女の剣は次第に刃毀れしていき、折れてしまいそうなほど亀裂が走る。

「は―――っ!」

 掛け声と共に振り抜かれた刃が少女の剣を叩き折った。

 少女は跳び下がる。同時に頭上から二本の剣を呼び、追いかけてくる九曜に向けて撃ちおろそうとする。

 九曜は同じように己の柄を呼び、水の刃を呼び出し、刃をぶつけ合う。その衝撃で少女の操っていた剣が折れる。

(同じ戦闘スタイルなのに、武器の性能差も技量も違う………っ! ずるい………)

 少女は膨れながら胸の生徒手帳をタップ。九本の剣を呼び出し、一本を手に、残りを操り、九曜を迎え撃とうとする。

「『剣の繰り手(ダンスマカブル)』………! 剣よ、刃を狩り、迎え撃て………っ!」

 刃が踊る。

 八本の剣が一本一本意思を持ったかのように舞い踊り、九曜を迎え撃つ。

 九曜も同じ数の剣を呼び出し、両手に二本の剣を携え真直ぐ突っ込む。

 空中で刃同士が剣を交える。

 少女と九曜も互いに剣を交差させる。

 九曜の方が動きが速い。手数も切り返しの技術も早い。

 何とか九曜の動きを妨げようと剣を操るが、その全てが九曜の操る剣に(さまた)げられ、―――約一分間の攻防で全ての剣が外側へと弾かれてしまう。

「嘘―――っ!?」

 驚愕する少女の剣を九曜は片方の剣で外側へと弾く。開いた懐に向けてもう片方の剣を突き出す。同時に回避できないように頭上から幾つもの剣が飛来し、少女の逃げ道を塞ぐように降り注ぐ。

(避けられない―――っ!?)

 回避不可能の檻に閉じ込められた少女は、一瞬、世界が停止したような感覚を得―――殆ど条件反射の領域で頭上の剣を睨み、必死に手を翳す。

(此処で余所見………?)

 九曜が疑問を抱きながらも突き進もうとする。

 後少しで切っ先が少女の胸を貫こうとした瞬間、頭上の剣が数本、自分の支配から外れた。

「九曜ッ!!」

 主の呼びかけと操作で、九曜の身体が突然後ろに引っ張られる。まったく逆方向への衝撃に苦悶の表情を浮かべる。

 その九曜を追う様に、九曜の剣が四本、頭上から地を突き刺して行った。

(私の剣の支配を奪った………っ!?)

 残り四本は操り切れなかったのか、身体を切り裂かれながらも、すぐに走り出し、更に弾かれていた剣を再び支配下に置き―――、

「『剣弾操作(ソードバレット)』………! 最大速度射出………ッ!」

 

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 

 空気を爆発させたような音が鳴り響き、四本の刃が高速射出。

 迫る刃に、九曜は二本の剣で応戦する。

「はぁ―――ッ!」

 

 バギンッ! バギンッ! バギンッ! バギンッ!

 

 舞う様に回転した九曜は、飛来した四本の剣を全て叩き折る。が、九曜の目は驚愕から大きく見開かれた。すぐ目の前に、再び自分に迫っている四本の刃があったからだ。

(時間差で射出された―――ッ!? それも全ての剣が先に撃った剣の影になる様に………っ!?)

 驚愕する九曜は、それでも剣を弾こうと応戦する。停止に近付きつつあった身体を無理矢理動かし、身体を避けながら刃で迎撃する。

「―――ぁぁッ!!」

 声にならない叫びを上げながら振り抜き、肩に迫った一本を叩き折る。手首が悲鳴を上げるのを無視して返し、左脇を狙った剣の鍔に当て弾く。両腕の振りで無理矢理作った反動を利用し、体勢を整え、右足を無理矢理引き、迫った刃を躱す。

 そこまでだった。最後の四本目が軸足となった左足を貫き、九曜を地面に縫い止める。

「く………っ!」

 その好機を逃さず、少女が走る。カグヤに向けて突き込む様に剣を構える。

 カグヤは九曜に渡されていたらしい水の剣を片手に焦りの表情ながらも迎え撃つ構えを見せた。

(撃ち抜く………ッ! ―――ッ!?)

 刹那、少女は再び世界が停止したような感覚を得た。

 思考が加速したのではない。その証拠に停止世界は一瞬で過ぎ去り、再び少女は走っている。

 それは直感だった。

 世界が止まった様な感覚と共に、その瞬間に降りた天啓とでも言うかのように、直感的に感じ取ったのだ。

 少女は手に持つ剣をもう一度、『剣弾操作(ソードバレット)』の限界を超えた速度で打ち出す奇襲を考えていた。だが、あの停止した世界で直感が伝えていたのだ。その攻撃をカグヤは必ず躱すと。

 同時に対処法も教えてくれた。

 それは言葉でも、ビジョンでもない。もちろん思考でもない、なんとなくと言った曖昧な感覚であったが、少女は逆らう事無くそれに従い横に跳ぶ。

 自分の左側、カグヤにとっての右側へと回るようにしながら―――そのままの体勢で『剣弾操作(ソードバレット)』のオーバースピードで撃ちだす。()()()()()()()

 強烈な爆音が響き、射出された剣に引っ張られ、少女が飛ぶ。

 カグヤは咄嗟に右手を反応させ―――クンッ、っと、肩が妙な痙攣を起こし、刹那のタイミングをずらした。

(届く………っ!)

 悟った少女が剣を突き出す。何とか回避しようと身を引くカグヤだが、少女は剣を操り、切っ先を肩口へと命中させる。そのまま勢いに任せカグヤを押し倒し、地面に縫い止める。

 瞬間カグヤの左腕が瞬き、少女のわき腹に剣を突き立てた。

「ぐ………っ!」

 少女は歯を食いしばりながら剣を捻り、刃を心臓へと向ける。

 カグヤは右手で刃を捕まえ、無理矢理制止しようとする。背後からは九曜が再び駆け付けているのが感じ取れた。更にカグヤの左手が再び剣を振り上げる。時間との勝負!

 少女は渾身の力を込めて、刃を心臓部分へとスライドさせ―――!

 

「―――そこまでっ!!!」

 

 待ったがかかった。

「ポイント、カグヤ42 菫58 勝者八束(やたばね)(すみれ)

 赤銅色のロングストレートに赤茶の目、手足が細く、背は低めでそれなりの胸を張った女性教諭。比良(このら)美鐘(みかね)が、フィールドを元の無機質な室内に戻しながら告げた。

 カグヤは疲れ切った様に脱力し、同じく菫も疲れきってカグヤの上に倒れ込む。

 

 

 01

 

 

「ま、負けた………。学園の最初の授業で負けてしまった………」

「アイ、ウィン………っ!」

 思いっきり落ち込むカグヤの横で、Vサインを作って無表情に勝ち誇る菫。

 二人は一キロ四方の無機質な真っ白な部屋にいた。この部屋が先程まで密林のジャングル地帯だったなど、未だに簡単に納得できない。実際に経験したカグヤでさえ、イマジンの常識外れには驚かされる。

 だが、もっと驚かされたのは学園での治療だった。

「あいてて………っ!」

「あうぅ~~………! 脇腹が………!」

 カグヤは右肩を、菫は右脇腹を押さえて痛みを訴える。

 今回の戦闘で最も重傷箇所だったのだが、実は学校側から治療行為らしい事は殆どされていない。軽く傷口を塞いでもらった程度で、無理をすればすぐに開いてしまいそうな状況だ。しかも授業で教えたからと包帯すら巻いてもらえず、それ以上はなにもしてもらっていない。学園側からがしてくれた事と言えば、やけに備えの良い救急セットを手渡されたくらいだ。

 最初にこれを目にした二人は、さすがに呆気に取られ、「イマジンとかでパパッと治療したりとかわっ!?」「せめて、衛生兵的な人からの応急処置は………っ!?」と抗議したのだが、美鐘教諭は冷笑を浮かべた。

 

「万能な力を使い出すと人間はすぐに思い上がったり、力の上に胡坐をかいたりするからな。命に別状がない限りはイマジンの治療はしない事になっている。イマジンが必要無い所では我々学園側が関与する所ではない。そのために最初の授業で何度も治療の授業をしただろう? 自分で自分の怪我を治療できるようになったら一人前だ」

 

 などと大変ありがたい言葉を貰う事になった。

 仕方なく二人はすぐにガーゼや薬を取り出し、治療に取り掛かったのだが、二人とも身体中傷だらけで、痛みを堪えながらではどうしても手間取ってしまう。おまけに重傷箇所は本気で傷口を薄い膜の様な物で塞いでもらった程度の様で、痛みは全く緩和されていない。とても自分で自分の治療など出来そうになった。

 仕方なく二人は、多少の気恥しさを我慢して、互いに互いの治療をする事にしたのだ。

 念のため伝えておくが、さすがのカグヤも治療中に菫に手を出す様な不届きはしていない。

 治療が終わって、やっと余裕が出た二人は勝利と敗北を実感する事が出来た。

 痛む箇所を押さえながら。

「………あれ? カグヤ? 九曜とカグラ、は………?」

「ん? ああ、二人ともお前に相当ダメージを与えられたから一旦消えてもらって修復待機中。消えてる時の方が自己治癒早いからな」

「イマジン体………、不思議? 私、頭撃ち抜いたのに………」

「コアが無事なら死んでねえよ。コアは頭には無いしな。………でも、仕組みは人間と同じらしいからな、頭を撃ち抜かれると、しばらく思考回路が完全にダウンするんだってよ? 考えようにも考えるための脳が損傷して考えられない―――みたいな?」

「それじゃあ………、イマジン体は、どうやったら死ぬ、の………?」

「大体皆一緒で、心臓の辺りだよ。人型なら胸だ。つっても、胸を撃ち抜けばコアが破壊できるってわけじゃねえらしい? ………おっとこれ以上詳しく聞くなよ? これ以上は『イマジン体医学論』とか言う専門分野で俺も詳しくない」

「イマジン体、使ってるくせに………」

「だからお前より詳しいの! ………詳しい事はこれからじゃないと学べんだろう?」

 不貞腐れるカグヤに菫は勝ち誇ったような表情(をしたと思われる無表情)で、笑う。

「物知り顔で、実は大して知らない脇役メインキャラ………」

「テメエは自分の剣がどんな風にイマジンが作用して飛んでいるのか説明できんのかよ………?」

 額にバッテンマークを浮かべながら反論するカグヤ。菫は自分のからかいに素直に反応してもらっている事がご満悦らしく、無表情ながらも瞳だけ楽しそうに潤ませていた。

 ―――が、それはすぐに冷たい物へと変わる。

「それはそうとパンツ返して」

「あら? 気付いてた?」

 カグヤは悪びれもせずに片手を開く。そこからマジックの様に出現したのは紫色のショーツだった。

「意外な色のチョイス。しかし結構似合ってる気がして俺としては役と―――」

 

 サクッ!

 

「ちょっ―――!? おおおおぉぉぉ~~~~~~~っっ!? 本気で手の甲に剣を刺す奴があるかよ~~っ!? コメディー描写とかじゃねえんだぞっ!? いってぇ~~~~~っ!!」

 小さな剣をカグヤの手の甲に刺した菫は、素早くパンツを取り戻すと、ちょっと気恥ずかしさを覚えながら、彼の背中でパンツを穿く。

「私がトドメ刺す時に取った………!」

「お前事飛んでくるとは思わなかったからな………。一応言っておくが、本当はパンツじゃなくて生徒手帳を取ろうとした」

「なんで、もっと難しい………パンツを取ってる、の………?」

「たぶん癖。あと邪念入ったかも? 女が敵の時は大抵こうすると動きが鈍るから、一応覚えてたんだよ。ちなみに本来は男に使う技らしいと聞いた時は、俺でさえ度肝を抜かれた」

「度肝、抜かれ、た………っ!」

 意外な真実に目を見張る菫は、何も言わずにカグヤの右手を取って治療を始める。

「待てっ! 待て菫っ!? 俺が悪かった! 謝るからその手にたっぷり塗った、明らかに薬ではない刺激物を傷口に塗ろうとするのは止めてくれっ!! タヌキさんに怒ったウサギさんでもその量はさすがに躊躇したと思うぞっ!?」

「………ちっ」

 菫は仕方が無い様に謎の刺激物を救急セットの中に戻した。

「何故そんな物が救急セットの中に存在している………?」

 何か恐ろしい物の片鱗を見た気がしたカグヤが辟易していると、美鐘教諭が可笑しそうに笑いながら、菫を賞賛した。

「見事だったぞ八束。一年生では難しい基礎技術『予測再現』の一つ『回答直感(アンサー)』を見事に会得したようだな」

「「?」」

 美鐘教諭の賞賛の意味が解らず、菫とカグヤは同時に首を傾げた。

 教え子二人の視線を受け止め、美鐘は教師らしく語る。

「八束、お前、瞬間的に時間が止まったような錯覚を得ていなかったか?」

「! あった………」

「まだイマジネーターとしての基礎知識は教えていなかったな? イマジネーターはイマジンを使用した『能力』以外にも、幾つもの基礎能力を有している。これは訓練すればイマジネーターの誰もが使えるものであり………、同時に上級生徒の圧倒的な力差の原因ともされる重要な技術だ」

 それを聞いた二人は、やっと重大さに気付いて目を見合わせる。

「東雲、お前は既に『見鬼』『解錠』『施錠』の基本は使える様だな?」

「? 『視覚化』と『解析(ハッキング)』の事ですか?」

「お前がどんな認識をしているのか知らんが、たぶんそれであってるぞ。っと言うかお前には今はあまり詳しく話さない方が良さそうだな? ………、まあ、それらもイマジネーターなら誰でも使えるようになる基礎技術だ。お前は飛び抜けて基礎技術の習得が早そうだが………。八束が使って見せたのはその基礎技術の一つで、直感を加速させたものだ」

「「直感の加速?」」

 二人が同時に首を傾げる。続いてカグヤは「思考加速じゃないんですか?」っと尋ねる。

「違う。八束、お前は景色がスローモーションになった様に感じたか?」

 菫は首を振って否定する。

「そう、実際にはほんの一瞬だけ時間が停止した様に見えたくらいだっただろう? ゲームがバグを起こして一瞬だけ停止した様にな? 思考が加速しているのなら、景色が止まっていても思考は通常通りの筈だ。そうでなかったのは直感の方だけが加速し、最善の答えだけを瞬時に認識したからだ」

「解ん、ない………」

 菫が無表情ながらも眉を顰める。

 僅かに思案顔で考えてから、カグヤは噛み砕いて説明する。

「つまり、『問題』に対し、推測や予想、計算なんかの『過程』を経て、『答え』を出すのが普通の思考。この時の『過程』をともかく早くしたのが『思考加速』で、………『問題』に対して『過程』をすっ飛ばして『答え』を出すのが『直感』って事だろう?」

「じゃあ、直感が“加速”する、って………?」

 菫の質問にカグヤは視線を逸らす。頭の中では必死に考えているようだが、残念ながら答えが出て来なかったらしい。それを可笑しそうに見つめながら美鐘が説明を引き継ぐ。

「『直感加速』は、『問題』に対して呼び出した『答え』を出し、その『答え』から生じた『新しい問題』から、再び『答え』を叩きだし、『最善の行動』を導き出す物だ」

 菫は再びカグヤに視線を向け、カグヤは難しそうな表情で必死に頭を働かせて噛み砕いた説明を試みる。

「ええっと~~~………? 例えばさっきの戦闘で言うと、最後に菫が俺にトドメを刺しに来た時、あの時、菫は剣を普通に射出しようとしてたよな?」

「うん」

「だけどたぶん、ただ撃たれただけだったら俺はその攻撃を凌げた。俺の『直感』がその脅威を知らせてくれてたからな。それと同じで菫もこのまま攻撃したら凌がれる事を『直感』したと思うんだよ? ………え? どう?」

 不安げに尋ねるカグヤに頷いて肯定。

 ホッとしたカグヤが説明を続ける。

「菫は『直感』で“攻撃を凌がれる”事を感知した。攻撃と言う『問題』に、凌がれて失敗すると言う『答え』を叩き出したわけだな? 此処までが普通の『直感』だ。………んで、菫は“攻撃を凌がれる”って言う『新しい問題』に直面したわけだが、その問題を瞬時に『直感』で再び『答え』を出して、自分ごと突っ込んできただろう? つまり、こう言った風に連続で直感を使用するのが『直感加速』………なんだと思う?」

 自信なさげに言い終えたカグヤが確認のために教師を見る。教師は正しいと頷く。

「直感だけが加速しているので、思考は置いてけぼりだ。だから何故自分がその答えに辿り着いたかなどの理由は解らない。ましてやこれはイマジネーターの思考すら放棄した回答の先取りだ。経験から来る物でもないので、直感した本人すら置いてけぼりだよ」

 聞いたカグヤは、この『直感加速』が経験による物でも無く、理由不明で訪れる物だとするなら、相手の直感する答えを計算し、誘導すれば、罠にはめる事もできそうだと考え―――すぐにその作戦を放棄した。それだけの高レベル思考をできないわけではないが、出来ても嵌めるための罠を用意できない。せっかく相手を誘導しても肝心の罠が無いのなら意味はない。今の段階では使えない手だと判断して思考を捨てる。

 同時に思い至る。恐らく二年生や三年生はこの『直感加速』を普通に使える。そして誘導も容易いのだろう。ならば彼等の戦略はどう言った物になるのか? 当然、これらを上回る戦略と戦術と力押しと言う事になるわけだ。考えるだけで頭が沸騰しそうだ。自分には扱いきれない得物らしいと知り、それを自在に使っているであろう先輩達を素直に称賛した。

「………っとは言え、今回八束が勝てたのは“運”が良かったと言う方が正しいがな」

 美鐘教諭が最後に付け加えた発言に、僅かながら菫はムッとした。しかし素直に反論したりはしない。菫自身、その“運”の正体には気付いていたからだ。

 だから代わりにカグヤへと視線を向けて尋ねる。

「右肩………、どうかし、た………?」

 尋ねられたカグヤの表情が一瞬で歪む。嫌な質問をされたと言わんばかりだ。だが、言い渋る表情とは裏腹に、隠しても無駄だと解ってるかのように説明を始める。

「金剛に噛み千切られた肩が気になるだけだよ」

「????」

 カグヤの回答に菫は沢山の?を頭に浮かべた。それも当然だろう。金剛とカグヤの決闘から既に三日以上経過している。カグヤに右肩を身を乗り出して無遠慮に覗き込むが、傷痕らしい傷痕も無く、完治している様に窺える。あるのは先程菫が自分でつけた傷ぐらいだ。

「やめれ! くすぐったい………!」

 身悶えするカグヤの頬に朱が染まる。至近距離から覗くと、実に女の子らしい表情で、本当にこれは男なのだろうか?と、別の疑問に思考が逸れそうになる。

 カグヤは菫をなんとか引き離してから詳しく説明する。

「傷は治ってるよ。でも、痛みが結構強く残ってんの。咄嗟に動かそうとすると一瞬痙攣起こすくらいにはな………」

「イマジンで、治療してもらった………と、聞いた………」

「保健室に治療能力持った先輩が待機してくれてたからな。でもあの先輩、文字通り怪我しか治してくれんかった………。神格を受けた後遺症にまでは全く手を付けてないみたい? ………ええっと、怪我は治しても毒は消さなかったみたいな?」

「神格?」

 菫の質問攻めに多少辟易したような表情でカグヤは説明を続ける。

「簡潔に言って神様レベルのすっげぇえ攻撃。肉体よりも、魂に刻まれるダメージの方がデカイから、ずっと痛みが残るんだよ。ってか実際、ただ痛いだけじゃなくて、機能不全も起こしてるぞ? 未だに右肩が高く上げられん」

 金剛は自分の身体全てを鬼化―――鬼神化―――させる事で疑似神格を得ていた。疑似神格と神格の違いは、実はペナルティーがあるか無いか程度の差だ。故に与えられたダメージはカグヤも金剛も同レベルの物だったのだが………、身体に疑似神格を宿していた金剛と違い、あくまで神格を外側で使うタイプだったカグヤは、金剛の攻撃を受けた個所に、後遺症を残してしまったのだ。神格は神格で打ち消す事が出来る。カグヤも神格を傷口に流し込む事で治療しているが、これが簡単な物でないらしく、未だに神格のダメージが抜けないのだ。

 菫はもっと詳しい説明を求める目でカグヤを見たが、カグヤもこれ以上自分の弱点を晒したくないのか、思いっきり視線を逸らすばかりだ。

「じ~~~~~~………っ」

「あ、諦めない奴め………っ!」

 半眼でずっと見つめる菫から必死に視線を逸らすカグヤ。二人の姿が相当可笑しかったのか、美鐘はクスクスと忍び笑いを漏らしながら二人に提案する。

「まだ他の組み合わせで終わっていないところもある。観戦しに行ったらどうだ?」

「よしそうしよう! 今すぐ行こう! ほらほら菫! 質問は後でもできるが、観戦は今しかできないぜ!」

 必死に話題を逸らすカグヤに対し、不満顔ながらも渋々と言った感じに菫は従い―――立ち上がったところで違和感に気付き、慌てて両腕で胸を庇った。

「か、かぐや………っ!?」

 震える声で名を呼びつつ、菫の顔がドンドン赤くなっていく。

 同じく立ち上がって先行しようとしていたカグヤは、菫の反応に、何事かと不思議そうに振り返る。

 そのカグヤに向けて菫は、かなり険のある声を涙目で発した。

 

「いつの間にブラ取ってたの………っ!?」

 

「ああ、それならパンツの時だよ? パンツ取る前に先にブラ取ってた。そのあと生徒手帳取るつもりだったんだけどな? なんでかパンツを取っちまって? ………ああ、安心しろよ? お前のブラは今頃、九曜がちゃんと洗濯してお前の下着ダンスの中に―――」

 菫の『剣弾操作(ソードバレット)』がカグヤの背中に突き刺さった。

「お………っ! ごああああぁぁぁ~~~~! す、菫! ちょ………っ! これは―――!? ヤバイッ! マジでヤバイッ! 漫画じゃないんだから本気でコレヤバいんですけど………ッ!? 刺さってる!? 血出てる!? コメディー描写する能力もない人間にはマジで致命傷―――!」

「―――死ね」

「瞳孔が開ききってて怖いっ!?」

 菫はカグヤを無視して一人立ち去る。

 背後では、カグヤが教師に向けて治療を求めていたが、美鐘教諭は心底可笑しそうに笑いながら「命に別状がない限りは治療しない!」と冷たく突き放していた。カグヤの「これでも命に別状が無いと言うのかァッ!?」っという訴えはまるで聞いてもらっていない。

 

 

 02

 

 

 先程、菫とカグヤの戦っていた部屋が一キロ四方の空間だと説明したが、厳密な意味ではそれは間違いとなる。実際には三十メートル四方程度のスペースの内部空間をイマジンにより一キロまで広げて伸ばしたという仕組みになっているらしい。そのため、部屋の外に出る時、歪んだ空間を通り抜ける時の違和感を感じたりするが、特段の問題はない。ただ、空間に作用する強力無比な攻撃でもしてしまっていたら、引き延ばされた空間に亀裂が生じ、異空間の彼方に飛ばされていたかもしれない。一年生でそれだけの芸当をやってのけれる者が居ればの話だが………。

 内部の空間に比べ、実際は三十メートルほどの部屋だ。階段を上り、真っ白な廊下を進むと、所々に強化ガラス製の窓ガラス設置されている。一番近い手前の窓を覗けば、背中に刃を突き刺されているカグヤが、九曜を呼んで必死に治療行為に励んでいる姿が見下ろせる。心無し、九曜の表情が呆れに染まっている様な気がするのは気の所為だろうか?

 とりあえず、今この窓に用はない。菫の目的はまだ戦闘中の別の部屋だ。近場の窓から順に覗いて行き、確認していく。

 自分達の戦闘がどの程度の早さで終わったのか基準が解らなかったが、部屋を覗いてみる限り、ついさっき終わったばかりの者達が多く見受けられる。先程の自分達と同じように、気恥しい思いをしながら互いの傷を治療し合っているのが殆どだ。中には治療が下手くそな相方に当たったり、わざとふざける輩に一方的に治療され、ミイラになってしまっている者も見受けられる。場所によってはなんだか良いムードになっている男女を見つけて冷やかしてやりたいと言う気持ちを駆り立てられた。

(今は………、こっち、優先………)

 惜しむ気持ちを抑えながら、菫は未だしぶとく戦闘しているグループを探す。

 この戦闘用の空間、総称『アリーナ』が幾つ存在するのかは知らないが、確か、クラス毎にフロアを分けて固まっていたはずだ。菫が入った部屋は大体フロアの真ん中辺りだったので、どう言った道に進もうと周囲は同じAクラスの対戦カードとなっている。

 そろそろAクラスのフロアが終わりそうになったところで、菫はやっとお目当ての物を発見した。窓の下に見難いが、小さな電光掲示板があり、そこに対戦カードを表示されている。

 対戦カードは………、機霧神也(ハタキリシンヤ)vs水面=N=彩夏(ミナモ エヌ サイカ)だった。

「………オワタ」

 

 

 03

 

 

 草木の殆ど無い荒野のフィールド、そこにいくつもきり立っている小さな岩山の一つに、水面=N=彩夏は爆炎に塗れながら激突した。

「ばは………っ!」

 打ち付けた背中が肺を圧迫し、体内の空気を強制的に吐かされた。血は………、辛うじて出ていないが、当然襲ってくる息苦しさに彼女ならぬ彼は必死に息をしようとする。

 だが止まれない。

 彩夏は、呼吸に専念しようとする己の本能を精神力でねじ伏せ、酸欠の血を無理矢理脚に流し、必死にその場を離れる。土煙に紛れ何とか数メートル離れたところで、極太の高質量ビームが山ごと貫き消滅させる。衝撃に吹き飛ばされた彩夏は、投げ出された体を地面に何度も打ち付け転がりながらも、中断していた呼吸を試みる。

 やっとの事で勢いが衰え、地面に突っ伏したところで止まり、やっとの思いで呼吸を再開できた。誤っていくらか砂も一緒に吸い込んでしまったが、タスクで使用した『呼吸再現』による『フィルター』効果が発動し、不純物は吸い込まずに済んだ。

 荒い息をゆっくり大きくする事で、早鐘を打つ心臓を宥めながら、彩夏は「やれやれ」と冷や汗を流す。

 学園支給の実戦練習用スーツ(体操服)を、敢えて女性用のスカートタイプ(一応色んな種類があるが、彼はミニを選んだ)にしていたのだが、今更ながら失敗だったかもしれないと苦笑する。これだけ荒野の地面を転がり回っていては、さすがに身体中が傷だらけになってしまう。男子用のズボンか、スリット付きロングスカートにしておくべきだった。

 普段は二つに結わえている黒い髪も、あまりの戦闘の激しさに片方は解け、もう片方も半端なところまでズレている。いっそ、両方外してしまいたがった、髪ゴムを掴んで捨てる暇も惜しいほどに追い詰められていた。

「いやいや、それにしたってアレは異常だろう?」

 彩夏は宙に浮かぶそれを見て苦笑する。

 そこには機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)が太陽を背にして飛んでいたのだが、その容姿は普段彩夏達が知るそれではなかった。

 まず、空中を飛ぶための巨大飛行バックパックが背中に取りつけられ、足にはミサイルポッド付きのショックアブソーバー搭載の巨大なレッグ。腕にも機械的なアームが取り付けられ、まるで腕その物が機械化したような作りになっている。頭部にはヘッドギアが装着されていて、目の部分にイマジンで創り出されたらしいスクリーンがゴーグルの様に展開されている。両肩にはこれまた巨大な対地ミサイル砲弾が取り付けられ、先程大量のミサイルを撃ったのが嘘の様に再装填されている。何より危ないのは右腕に装着されている『戦艦砲』だ。入学試験で見た、及川(おいかわ)凉女(すずめ)が彼のために作りだした『混ぜたら危険作品』。アレは彼女の能力であったはずであり、その本体も甘楽(つづら)弥生(やよい)によって破壊された筈だ。それがどうしてここにあるのかは解らない。解らないが目の前に脅威が存在する事は事実だ。かなり巨大で重量も相当あるはずだし、そもそも右肩にだけ装着していてはバランスも悪い。なのに空中で姿勢を保っていられるのは、ある程度イマジンによる姿勢制御の所為かだろう。恐らくタスクの中にあった『バランス再現』と言う奴だと彩夏は予想する。

 だが、それら異質な変化よりも、彩夏を“異常だ”と思わせる変化が彼にはあった。

 当初、彼と遭遇戦に陥ってしまった彩夏は、自分の能力『物質特性変化』の『罠錬成』を行う事で有利に事を進めていた。

 神也は人間ではありえない身体能力を発揮して、岩場を足場にアクロバティックに飛び周り、能力で呼び出したのか、それとも生徒手帳に持参して来たのか、グレネードランチャーで攻撃してきた。

 彩夏は岩に能力を作用させ、強度を上げる事でグレネードを防ぎ、足場にしようとした岩を砂の塊に変えて埋めたりと、かなり有利に事を進めていた。最後には接近戦に持ち込み、能力で己の身体能力の特性を変化し、一時的に強化スペックの肉体状態に変え、殴りかかった。武器を取り上げ、効率良く打撃を当てていく。残念ながら格闘技の経験はなく、護身術程度に習った武術も、一般人に毛が生えた程度。到底イマジネーターの戦いで特筆するの技術ではなかった。

 それでも、どうやら自分の物理攻撃ステータスが、相手の物理耐久ステータスを上回っていたらしく、思いの外打撃は効き、神也も苦悶の表情を漏らした。拳越しの感触がやたらと固い物だったが、効いているなら考える必要はないと判断した。

 ポイントは順調に溜まり、一方的な展開になっていた。時折反撃で拳が飛んできたが、能力で強化した状態なら彩夏の耐久力の方が勝り、まともに受けても大した事はない状態だった。そもそも簡単に片手で受け止めてしまえた。

 勝てる! そう思った彩夏は神也の額を思いっきり殴り飛ばし吹き飛ばす。そのまま神也が地面に倒れる前に飛び掛かり、飛び蹴りで踏みつけて必要ポイント獲得。彩夏の勝利―――っとなる筈だった。

 変化が起きたのは殴った次の瞬間だった。額を殴られた神也が吹き飛び宙を舞った瞬間、突然彼の身体が変質した。

 典型的な日本人と同じ、真っ黒だった彼の髪と瞳が、突如加熱したかのように赤へと変色した。既に朦朧としていたはずの瞳は獰猛に見開かれ、飛び上がっていた彩夏を捉える。その瞳には、幾何学(きかがく)模様が浮かび上がっていた。

「あはははははははははははッッ!!!! ようやっと完成したぜェ!!!!」

 次の瞬間、彼の上げた雄叫びと共に、彼の身体が機械ギミックでフル装備されたのだ。

 まず最初に左手に呼び出した大口径グレネードを御見舞いされ、容易く吹き飛ばされてしまった。その後はミサイルの雨をひたすら食らい、弾幕に使用したミサイルが再チャージされる間隙に、あの『戦艦砲』を撃たれた。ともかくあの砲撃を喰らえば一撃死だったのでそれだけは避けようと奮闘した。だが、変質した神也の猛攻は文字通り息つく暇も与えさせてくれず、気付けば互いに後一撃で目標達成のポイントに迫っていた。

 神也49ポイント。

 彩夏47ポイント。

 どちらも一撃で勝利を掴み取れるポイント差だ。これだけ見れば接戦と言ってもおかしくないかもしれない。

(でも、私は最初、一方的に1ポイントも取らせずにこの点数まで手に入れていたんだよ? それが今では逆転された上に、勝機を掴めていないと来た………!)

 完全に彩夏が追い詰められていた。おまけに彼の直感は主を裏切る様に『敗北』の二字を予感していた。

 イマジネーターは常に勝利する方策を見つけ出す思考パターンを持っている。それが敗北を提示する事は本来ありえない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな相手は本来上級生しかありえない。イマジネーターの同級生は、絶対的に実力が拮抗するのだ。それがイマジネーターと言う物の性能(、、)なのだから揺るがし様が無い。それが揺るがされると言う事はつまり―――、

「“人間”じゃない、って事だな………」

 確信的に予測する。

 知識は何もない。授業でもそれらしい事はまだ習っていない。“多種族”などと言う存在も、この学園に来て「いるんだろうなぁ~~?」程度の認識しか持てていない。

 それでも理解出来た。偶然にも、カグヤと金剛の戦いを見れていた事が大きかった。

 直感する。推測する。確信する。

 コイツは間違いなく『神格』を持つ物の類だ。

 それも金剛の様な『疑似神格』でも、カグヤの様な『神格武装』でもない。更に言えば『神格ステータス』と言うイマジン変色体を持っている物でもない。

 生まれつき、デフォルトで備わっている存在。“神”そのものだ。

「勝てるわけ、無いね………」

 彼の額から顎にかけて、一滴の汗が流れ落ちる。顔は笑っていたが余裕はない。他にどんな表情をしていいのか解らなくなっただけだ。

 先程まで、神也はまったく神らしい気配を見せはしなかった。それどころか彩夏はこの相手に勝てるとまで確信したのだ。それが変質した。恐らくは元々神だった者が、今になって正体を表わしたと言う事なのだろう。

 特にあの幾何学模様を映し出す目、あの目には脅威の表れが強く出ているように思えた。アレはイマジン変色体が、イマジンに反応して髪の色と同じように変色を促しただけかと思ったが、どうやら違う。あの目の幾何学模様の方が本質なのかもしれない。それが解ったところで彩夏には何もできない。

「けど………、不思議な物だ………。諦めなんてまったく思い浮かばないっ!!」

 確定された負けを目前にしても、彩夏の心は折れなかった。むしろ喜んで火中へと走り出した。

(勝てる望みは一つだけある! 私の『直感』は否定しているが、それでもこれ以上の策が無い以上、やるしかない!! 失敗したらその時に考えるのみ!)

 彩夏は走る。ただ真直ぐに。能力とステータスによる身体能力の全てを使ってひた走る。

 神也は身体中に装備したミサイルを一斉斉射する。

 彩夏はもう1ポイントも取られる訳にはいかない。爆撃の雨の中、掠りでもしたら、その瞬間に敗北が確定する。

 能力により脳内パルスを活性化。強制的に引き上げた動体視力と思考加速に加え、僅かに身体速度を向上させる。スローモーションになった世界でも、所狭しと迫ってくるミサイルの大群を回避しきるのはとてつもなく難しかった。それでも彩夏は足りない分を無理矢理身体強化して通り抜けていく。

 彩夏の能力は物質の特性変化だ。それは錬金術に似ていて、逸脱した変化を与える事はできない。例えば石をゴムにする事は出来ても、水にする事はできない。肉体強化も、筋肉の強化に必要な体内の栄養を血中から取り出し強制的に急成長させているにすぎない。そのため、強化できる度合いには限界があり、使えば使う程体内の栄養を身体に奪われ、生命力が低下する。何より空腹感が力を入れようとする気力を奪っていく。脳内加速は疲労感を与え、眠気さえ襲ってくる。能力自体の代償、過度な能力使用による味覚の低下は、現状では無視できるが、己の中からあらゆる物が絞り尽くされていく感触をはっきりと感じ、彩夏の精神力をあっと言う間に削られていく。

(この一回きりが勝負ッ! 間に合え―――ッ!)

 走る。奔る・疾しる。

 肉体と精神力の限界で動けなくなるその一瞬まで、彼は足を止めずにひた走る。

 爆風に引っかかっていた髪留めが外れ、炎で髪先を焦がしながら、ギリギリの隙間を飛び込み、更に加速して足がもつれそうになりながら、彩夏は走り―――弾幕を抜けた!

「ひゅうぅぅぁあ~~~~~~~~~~っ!! アレを抜けてきやがったぁぁぁーーーっ!?」

 興奮した面持ちで高笑いする神也。

 戦艦砲はチャージ中でまだ撃てない。

 距離は充分。

「勝負ッ!!」

 彩夏は地面に飛び込みタッチ。地面をゴムに変質させ、走った勢いを利用しトランポリンの応用で一気に飛び上がる。残り全てを掛けた跳躍で、あっと言う間に神也の眼前へと迫る。

「お?」

 神也がニヤけた表情で眼前の彩夏を見る。

 彩夏は両手を掲げて、奥の手を放つ。

「罪人よ! 災禍の歌を歌え! 断罪なる(つるぎ)に、悉くを貫かれよ!!  『災禍讃唱』!」

 

 ゾガンッ!!

 

 突如出現したのは剣だ。逆棘状の刃を持つ痛々しい無数の剣。それらが突如出現し、神也の身体を覆っていたアーマーの数々を打ち貫き破壊していく。

 彩夏の能力は『物質特性変化』。物質の特性を変化させる事にしか使えない。覚えたスキルも『罠錬成』であるため、直接的な攻撃手段として使用するのは案外難しい。それ故にこんな芸当は本来できない。

 これを可能にしたのは彼の持つもう一つの能力『物質錬成』による、“無”から“有”を創り出す能力による物だ。そう、彼は直接物質を創り出し、それを攻撃の手段に使った。

 彼の持つ奥の手は、この『物質錬成』により、相手を閉じ込める檻の錬成だ。『災禍讃唱』はその中でも、今自分が覚えている最も攻撃的な剣の檻だ。

(ペナルティー無しの五回分を一度に使ってしまう奥の手だが、これで武装を全て失い反撃もできないだろう………っ!?)

 彩夏は精神力と肉体の限界を迎え、飛行手段を失った神也共々落下していく。彩夏の視界の端には49ポイントの表示が確認できる。後は重量が重い神也の方が先に落下し、落下の衝撃ダメージで1ポイントを先取し勝利できる―――はずだ。

(………―――ッ!!)

 だが、彩夏の全身を冷たい震えが走る。最初に感じた『敗北』の予感も胸から取り除かれていない。そして―――、

 

 バギャギィィンッッッ!!

 

 金属を粉々に噛み砕かれる、うるさい騒音が鳴り響き、………彩夏は見た。己の作った剣の檻が、神也の手に呼び出された巨大物体に粉微塵に砕かれたのを。

 それは刃の車輪だ。幾つもの刃の車輪が三列四本に並び、巨大な長方形の板に左右から挟まれている。それは電動(ノコギリ)のようだった。放電現象を起こしながら回転するノコギリ状の丸い刃が幾つも並び、それを神也は片手で振り回し、剣の大群を破壊してしまったのだ。

(近接距離なら火力武器は使えないと思ったんだけどなぁ~~………)

 彩夏は笑う。もう笑うしかないから、ただ無為に笑う。

「『技術ノ創造主(テクノクリエイター)』、白兵火力武器、装甲粉砕機『アーマーレイド』」

 神也が笑う。実に楽しそうに。粉砕すべき敵を見定め、獲物を潰す歓喜に、獰猛に笑う。

 次の瞬間―――、刃が彩夏に振り降ろされ、その身体が血肉の飛沫を撒き散らし、瞬時にリタイヤシステムにより粒子の粉となって消えた。

 

「そこまで! 勝者、機霧神也!!」

 

 

 

 04

 

 

「おうぅ………」

 あまりにスプラッタな光景を目の当たりにした菫は、思わず呻き声を漏らして薄目になった。神也は勝利した後も、暴れたりないのか、それとも能力による暴走を起こしているのか未だに暴れ回っている。教師はそれを「早く終わんねぇかなぁ~~?」っと言うぞんざいな眼差しで見守っていた。

 終わった後、二人に感想を聞いてみたいと思っていた菫だったが、これは無理そうだと判断して早々に諦めた。

 結構な時間になってしまったが、他に長引いている所はあるだろうか? そう考えながら菫は来た道を戻ってまだ見ていなかったフロアの探索に向かう。

 

 

 逆側、Aクラスフロア最端部、菫はその三人を見つけた。遠目だと女子三人が集まっている様に見えるが、まだ着替えていない実戦練習用スーツ(体操服)が一人だけ男子の物だった。っと言うかあのセミロングの黒髪をハーフポニーに縛っている頭と、包帯の巻かれた個所には憶えがある。っと言うかよく知った同室の相方で、ついさっき二回ほど殺しかけた相手だ。

 どうやらカグヤも治療を終えて他の対戦カードを観戦しに来ていたらしい。しかし、他女子二人と何やら言い争っている。………いや、言い争っている訳では無いようだ? 一人は疲れて壁に凭れているだけで、もう一人が一方的にカグヤに何か言ってる様だ。

「またセクハラ?」

 ひょこひょこっ、と、空気を読むつもりもなく近づいた菫は、一番ありえそうな質問をした。

「………」

 だが、返ってきたのは意外にも空虚な視線だけだった。カグヤには珍しく、からかいに付き合ってくれない。菫を一瞥しただけですぐに視線を正面の相手へと戻す。

 カグヤの他に居る二人の女性の内、片方、壁に凭れた白い長髪をポニーテールにしている真紅の瞳の小柄な少女で、浅蔵(あさくら)星琉(せいる)。確か龍の力を使う事を得意としていた様な気がするが、詳しくはまだ解らない。

 身体中は傷だらけで、顔半分が包帯で隠れていた。腕や脚にも痛々しいほど包帯が目立ち、片腕を吊り、凭れている方の足は、骨折でもしているのか、板が添えられ固定されていた。リタイヤシステムで退場しなかったのが不思議なくらいの大怪我をしている。

 もう一人の女性は名前しか覚えていない。名前はレイチェル・ゲティングス。夜空の様に黒い髪は腰ほどまで伸び、眼は紅く薄っすらとクマがある。身長は、低く華奢な方だ。カグヤと並ぶと兄弟(姉妹?)に見えなくもない。こちらの怪我はそれほどない様で、身体に巻かれた包帯の数は少ない。カグヤと比べても軽傷の様子から、どうやら勝者組だと解る。

(これで負け組みだったら、星流にどうやって勝ったのか絶対に聞き出す………)

 密かに決心を決めながら成り行きを見守ると、レイチェルが話を戻す様にカグヤへと好戦的な視線を向けた。

「言わなくても解るだろう? 私が挑戦を叩きつける理由くらい」

 レイチェルの言葉にカグヤは眼を細めるだけで応える。

 どうやらレイチェルがカグヤに対し挑戦状をたたき付けている真っ最中の様だ。どうしてそうなったのか大変興味があったので、菫は黙って成り行きを“観賞”。

「別に決闘しようと言ってるわけじゃない。恨みがあるわけでも無し、そんな事する必要はない。………ただ、試合でぶつかった時は“私が勝つ”と言ってるだけ」

 訂正。挑戦状じゃなくて勝利宣言だった模様だ。

 しかし、こんな事にいちいち付き合ったりしないであろうカグヤが真面目に接しているのがやたらと不思議だ。カグヤを良く知る菫は、彼なら「ああ、OKOK~。その時が来たらなぁ~」っと適当に流しそうな物だ。どうしてまともに取り合っているのだろうか?

「別に良いけど、お前が勝つって誰が決めたよ?」

 逆に挑戦的な発言を返したカグヤに菫は瞳を丸く見開いた。こんな挑戦的な発言、相手を挑発する時以外でカグヤが口にした所を見た事が無い。付き合いが短いとは言え、それでも彼らしくない発言なのは確かだと判断できた。

「言うじゃない? でも、アナタの式神、二体とも神様なのよね? 闇御津羽に軻遇突智。有名どころの神様ばっかり使ってるみたいだけど………? アナタはその力の十分の一も引き出せていない。それで私に勝つつもりなの?」

 相手を見下す様な嘲笑めいた目で告げるレイチェルに、こちらも劣らぬ()()()()()()()で、カグヤも返す。

「確かに俺は未熟で、九曜は愚か、カグラの力さえ十全に発揮してやれていないな。ああ、認めるぜ? 俺は全く未熟だ。創り出した僕にさえ劣った存在だ。だが………。“俺とお前の何処に違いがあるよ?”」

 

 ボバンッ!!!

 

 突如、二人の間で強烈な水柱が激突し、周囲に水飛沫を撒き散らす。

 傍にいた星流と菫は思いっきりとばっちりを受け、水浸しになってしまう。星流に至っては、身体が支えられない為、尻持ちまでつかされていた。

 だが、最も水柱に近いはずのカグヤとレイチェルだけが飛沫の一つも浴びずに悠然と立っていた。

 水柱が弾け、収まった後、そこには新たに二人の少女が互いに水の刃を突き合わせていた。

「私の主を………、レイチェルを侮辱するのは許しません」

「我が君への冒涜を、私が許すと思っているの?」

 

 清楚なワンピースに身を包む蒼い髪の女性が、手の中で作った蒼い水の刃を―――、

 黒い装いに身を包む、濡れ羽色の長髪に黒曜石の瞳を持つ少女が、血を思わせる赤黒い水の剣を―――、

 

 互いが互いの首元へと刃を向け合っていた。

「それがお前の悪魔か?」

「ええ、シトリーよ」

 カグヤの質問にレイチェルが答える。

 『シトリー』ソロモンが使役したという72柱の悪魔が一柱。水を司るとされる悪魔。そしてレイチェルの使役するイマジン体。奇しくも対面するカグヤの式神、九曜―――『闇御津羽』と同じ水を司る存在だった。

 シトリーと九曜が刃を突き合わせ睨み合う中、レイチェルはカグヤだけを見据える。

「途中から貴方も見ていたんでしょう? 今回、私は二体の使い魔だけで勝利を収めた。多分に偶然もあったけど、結果勝利したのは私だ。………そっちは?」

「菫と戦った。勝ったのは菫だ」

「聞きたいのはそっちじゃないんだけど………」

 挑発的な苦笑を洩らしながら、しかしレイチェルは「まあいい」と達観したような表情になる。

「シトリー」

 名を呼ばれたシトリーが、視線を一度レイチェルに向けた後、再び九曜へと向ける。意図に気付いた九曜は視線をカグヤに向けて指示を(あお)ぐ。カグヤが頷いて応えると、九曜は瞳を閉じ、赤黒い水の剣を仕舞った。殆ど同じタイミングでシトリーも水の刃を消滅させる。

 互いに人睨みし合ってから姿を消す。どうやらイマジン体の二人の方も戦闘が出来るほど体力が回復していた訳ではなかったらしい。

「それじゃあ、星流を保健室まで連れて行く約束をしたから、私は行く」

 そう言いながらレイチェルは尻持ち付いて非難めいた視線を向ける星流に苦笑で謝ってから肩を貸す。

「あ、そうそう………」

 その去り際に足を止め、レイチェルは肩越しに振り返りながら挑戦的に告げた。

「アナタの“三体目”の式神は、必ず私が引きずり出す」

 瞬間、初めてカグヤの表情が強く強張った。鋭い視線が敵意に満ちたそれとなってレイチェルへと向けられる。それを涼しい顔で受け流しながら、彼女は星流を連れて去って行った。

 

 

  05

 

 

「なにか訳ありかい?」

 カグヤ達と別れた後に星流がそうレイチェルに尋ねる。レイチェルは少しばかり憮然とした表情で答える。

「そうじゃない。ただ、なんとなく………、アイツに負けるのが嫌な気がしただけだ」

 何だか子供みたいな事を言い出しそっぽを向くレイチェルに、星流は苦虫でも噛み潰した様な気分で呆れた。

「そうかい。つまりあれかい? 同じイマジン体使役タイプだったから、思いっきり対抗心刺激されたって言う奴かい?」

「その通りだが………っ!? そうはっきり言われるとだな………!」

 続く言葉が見つからないらしく、レイチェルは頬を薄く朱に染めながら口ごもる。

「だが! 相手も同じような物だったぞ!? アイツも、私と同じように対抗心に燃やされている様子だった。アイツも私と同じ気持ちなんだ、きっと………」

 それはそうだろうと思いながら星流は内心溜息を吐いていた。

 イマジネーションスクール。ここは自分だけの固有的な能力を有する生徒ばかりが集う学園だ。だから、同じタイプの人間に出会ってしまうと、対抗意識を抱かずにはいられないのだろう。

()()()()()()()()()()()|気がして、対抗意識が駆り立てられてるって事かい? まったく子供な………)

 呆れる星流は気付いていない。その“領域”を守ろうとする事こそ、イマジネーターの最大の特徴であり、この学園に入学できる者の絶対条件だと言う事に。

 つまり、気付いていないだけで、自分も同じ立場になれば同じだけ対抗意識を燃やさずにはいられないと言う事に、星流はまだ気付いていない。

 

 

 06

 

 

 切城(きりき)(ちぎり)。刻印名『札遊支者(カードルーラー)』を持つ彼は、黒髪に薄っすら青がかった深緑の眼を持つ、身長の低さにコンプレックスを持っている少年だ。彼の能力はTCG(トレーディングカードゲーム)のカード能力を現実に再現する物で、イマジンの特性としては最も相性が良いとされている。『再現』こそイマジンの真骨頂であり、再現する者が明確な情報となって纏まっているカードと言うのは、スムーズに術式を発動させるのに最適なのだ。教師の中では密かに、一年生の最強能力者になる事を期待されている。更に大風呂敷を広げれば、あの最強の名を持つ事の出来た東雲神威も、当初、札を用いた多系統の能力を再現しようかと迷った選択肢の一つだったりする。

 それほどの大風呂敷を担っていた彼だが、実はしっかりここでオチが用意されている。

 彼の能力はカードゲームのカードの能力を現実に再現する物だ。それはつまり、それだけに自分の手元には多種多様の選択肢が用意されていると言う事なのだが………。

「ぶっちゃけた話! 選択肢多すぎなんだっつうのぉ~~~っっ!!」

 今まで彼は、この能力を活かす為に、自分の部屋で何度もシミュレーションを繰り返し、状況に応じたコンボカードを想定したりと、準備万端のつもりでいた。だがそこに、実戦を体験しないと解らない事実に直面し、四苦八苦させられる羽目になった。

 まず第一に、彼の能力にはカードゲームのルールに則ってしまうため、『手札』という制限が設けられていた。

 能力『魔>>>札<<<怪(イクシードTCG)』を発動すると、好きなカードを手札制限七枚まで手元に呼び出す事が出来る。だが、それから新たな手札を取り出す(ドローする)には、最低でも三分間の時間が必要なのだ。この時間制限についてはまだよく解らないが、うんと頑張れば(つまり本人も何をどうしてるのか解っていない)もう数秒くらい縮められそうな気配はあった。

 ようはイマジネーションの慣れだと判断できるが、何がどうなのかよく解らないと言うのは中々に歯痒い物があった。

 更に問題点第二、ドローするカードはどの種類のカードでも構わないのだが、他のカードとの組み合わせが出来ないと言う事だ。

 例えば某遊戯の王様カードのモンスターに、某白黒カードのクライマックスカードの効果を与えようとすると『対象外』のエラー表示が契の脳内で発生し、カードの無駄消費が起きるのだ。これにはさすがに『安定思考30』のステータスを持つ彼でも絶叫せずにはいられなかった。

 考えてみればゲームルールが違うのだから、他のカードゲームと併用して使おうとしてもできるわけがなかったのだ。

 そして最も契を苦しめている問題が第三の問題点。

 それが“あまりにも膨大すぎる選択肢の多さ”だった。

 此処で彼の名誉のためにも付け加えておくと、別段、契がどのタイミングでどのカードを、もしくはコンボを発動して良いのか解らなかったというわけではない。彼もイマジネーター。その程度の思考は御茶の子さいさいだ。おまけに彼にはおあつらえ向きに『安定思考30』『並列思考50』『高速思考25』『集中力25』のイマジン変色体ステータスを有していた。これらが契の思考を助け、最も効率の良い選択肢を瞬時に叩き出してくれた。

 それはもう本当に速やかに最善策を生み出してくれたのだ。

 

 “軽く七万通りくらい”。

 

 七万通り、全てを“最善”と結果をはじき出してしまった契は汗だくになりながら混乱するしかなかった。正直な問題、後は好みで選んでくださいという状況だったのだが、その後の選択肢もバカにならないほど連続でとんでもない数値を叩き出し続けた。一手打つ度に次の最善策を五万通り―――一つ凌ぐために最善策を四万通り―――一時撤退の方法にまで六万通りの選択肢を思いついてしまう。

 此処に至って彼はやっとの事で気付いた。自分の能力は確かに優秀だ。それに合わせたスペックも自分には備わっていたらしい。だが、圧倒的に契本人が面食らいまくっていた。

 慣れだ。これは単なる慣れの問題だ。自転車と同じで一度乗れれば問題はない。慣れてしまえば膨大な選択肢の中から、自分の求める選択肢を好きに選ぶ事が出来る。この自由性に間違いは起こらない。何せ自分が最善と考えた選択肢なのだ。外れクジは存在しない。だから慣れてしまえばどうという事はないのだが………、乗り方が解っていても、自転車と言うのは中々すぐに乗れない物なのである。しかもこれは自転車に乗れないのに、いきなり一輪車に挑戦する様な物だから果てしなく苦労しそうだった。

「でも、ま………、僕様がピンチなのは完全に別の問題でしょ………?」

 世紀末の様な荒れ果てた荒廃都市のビル陰に隠れる契は、平静を保つために独り言をごちった。そうでもしないと削られた精神が今にも崩れ落ちそうなのだ。

「なによアイツ? もうマジ………ムリぃ………!」

 自然、声が震えそうになった。ビルの陰から覗き込んだ契はこちらに迫ってきている対戦相手を見て、悲鳴を上げそうになった。

 緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)。それが彼の対戦相手。白髪に金色のタレ気味の眼、身長体重はド平均っと言う出で立ちが、本来の彼の姿だったが、現在は黒髪に黒眼、タレ目が消えて髪も眼も恐ろしく濁っている。その濁った眼を見るだけで心の大切な部分が削られていく様な気分だった。何より契の気に障ったのは、彼がこの姿を模した時からひたすら上げ続ける笑い声だ。「げらげら、げらげら」と耳障りな笑いを、何もなくても常に上げ続け、それを聞いてるだけで耳を通して脳に直接攻撃をされている気分になる。

「なんさーもう………っ! なんなんさーもう………っ! 変な笑い上げやがって………! san値削られるんですけどぉ………っ!?」

 契は知る由もなかったが、正にその通りなのだ。

 陽頼は既に、己が能力『這いよる混沌(Nyarlathotep)』の『劣化邪神[陽](ナイアーラトテップ)』を発動していたのだ。これにより、彼の周囲に存在する者は、少しずつsan値を削られているのである。

 リアルsan値、これを削られるのは非常に危険である。特に思考型の契の様なタイプは最も忌避すべき精神攻撃の一つだ。ただでさえ思考を必要とする能力なのに、その思考を阻害されると言うのは二重に精神消耗を促進させる。正直、契はもう帰りたいと、らしからぬ事を何度も考えてしまっていた。

 契も陽頼も知らない事だが、このままでは精神ダメージによる危険性を判断され、リタイヤシステムが発動する可能性もあった。

 契とて抵抗してなかったわけではない。何枚かのカードで攻撃する内に、相手が火の属性に弱い事も既に掴んでいる。それなのに彼が追い詰められているのには理由がある。

 

 ボゴアァンッ!!

 

 突如上がった爆発が、陽頼を巻き込んで焼き尽くす。契がこの近くに仕掛けたトラップカード『万能地雷グレイモヤ』だ。敵を感知し、自分で接近し自爆する機能を有している。

 爆炎を受けて、陽頼は身体中を焼かれて(くずお)れる。

 今度こそやったのか………っ!? 最早願望と言っても差し支えのない心境で契は物陰から様子を窺う。

 

 むくり………っ。

 

 陽頼が………起き上ってきた。

 顔半分を焼き尽くされ、片腕が焼け爛れて溶け落ち、地雷を踏んだ片足は完全に消滅している。全身、無傷な所など無く、腹部に空いた穴は、内臓が見えている事を認識させぬほどに黒焦げだ。

 なのに立つ………。それでも立って、絶やさぬ笑いを浮かべる。

 

 ぐちゃり………ぐちゃり………。

 

 肉が脈動する。それはもはや肉とさえ思えず、まるで粘土か何かである様に、異様に生々しい音を鳴らしながら蠢き、身体を修復していく。いや、それを“修復”と称するには、人間の認識では憚られた。むしろそれは浸食だ。人の体の中に寄生していた謎の怪物が、器の肉が砕けたのを感じ取り、自分用の肉を内側から創り出し、傷ついた“外の肉”を押し出す様に隆起する。浸食に至った肉は、例えどんな傷を負っていようと己の領域だと言わんばかりにぐちゃぐちゃに掻き回して自分の肉へと変えてしまう。蛇の脱皮でも、ガマの油でも、トカゲの尾でも表現はできない。ナメクジが傷ついた体を癒す方がまだ見られた光景だ。最早アレは生物としての構造を完全に逸脱―――否、犯している。

「化、物………!?」

 クラスメイトに対して失礼かもしれないなどと言う考えは浮かんでこなかった。アレ(、、)が化け物で無いと言うのなら何が化け物と言うのか? 恐らくはアレ(、、)以上に化物じみた強さを持つであろう学園最強の東雲神威とって、それ以前に、以前のテレビで見た当時の三年生でさえ、こんな異様な光景を創り出している者はいなかったはずだ。

 どの先輩も、確かに人の形を、もしくは獣や多種族など、ともかく“見られた存在だ”。

(だけど………! これはもう根本的になんか違うでしょう………っ!?)

 削られ切ったsan値が、契に恐怖を植え付けていく。何度も罠に嵌めて殺した相手が、あんな異様な光景を振りまきながら復活し、また耳障りな笑いを上げて向かってくるのだ。最早発狂していてもおかしくない。

「………っっ!!」

 悲鳴を上げそうになる寸前、歯を食い縛って耐える。契の持つ『安定思考30』のイマジン変色体ステータスが、彼の精神を辛うじて繋ぎ止めてくれた。

 このまま負けて良いのか?

 自問に契は泣きそうな気持で反論する。

 いくらなんでも、こんな惨めなまま負けてやれるかよっ!?

 契はカードをドローする。自分の意思で取り出す事のできるカードだが、そのカードを『運命の(ディスティニー)ドロー』だと無理矢理思い込み、口の端を吊り上げる。

 瞬間、周囲を何かの気配が通り過ぎる。

「チィ………ッ!!」

 契はその感覚を既に何度も味わっている。自分も何度か既に撃っているが、今はむしろ撃たれている方だ。

 『探知再現』契達が要求されたタスク。これを使って目標物を見つけ、それを回収すれば勝利となるのだが、これが意外と落とし穴で、レーダーの様に広がるイマジンの気配が、イマジネーター同士に感知されてしまい、互いの位置を教え合ってしまうのだ。つまり―――、

「見つけタァ~~~~~~~~♪」

 急接近する陽頼。身体の修復が中途半端な事も無視して崩れた人間のなりそこないの肉として走り出す。おまけに速い! 何の生物か解らない肉と骨の塊をグチャグチャに動かしているのに、獣以上のスピードで這い寄る様に迫ってくる。

 形容し難きソレ(、、)が、ゲラゲラと嗤い声を上げながら、契に襲いかかってゆく!

「おわ………っ、おわっ、おわああああああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~ッッ!!!!???」

 冗談は抜きだった。

 削りきられたsan値が彼に全く余裕を与えてくれない。いや、それを抜きにしても、ソレ(、、)に這い寄られれば、誰でも涙目になって本気で逃げ出していたかもしれない。

「に、が、さ、な、い、っ!!」

 言葉の通り、陽頼は契を逃がさなかった。脇目も振らずに泣きながら全力疾走した契に、三秒も数えない内に先回りして正面から迫ってくる。

発動(コール)! 『聖なるバリア ミラーフォース』!!」

 契の前に鏡の様な虹色の光を放つ壁が出現する。この壁に攻撃した者は、その攻撃をそのまま返されると言う効果を持つトラップカードだ。

「げらげらげらげら」

 陽頼は不快な笑いを上げながら―――構わず拳を連打した。

 『ミラーフォース』の効果は受け止めた攻撃を跳ね返すと言う物だが、その効果は『一度の攻撃だけを返す』と言う制約がある。ならばその盾に連続攻撃を与えた場合どうなるか? その答えは連続攻撃がやむまで受け止め続けるだ。受け止めた数が多ければ多いほど、跳ね返す威力も増す。むしろこれは好都合とも言えるはずなのだが………。

 

 バビギ………ッ!

 

 聞き慣れない音を鳴らし、ミラーフォースに罅が入る。

 陽頼の連打はまだ続いている。

 更に亀裂がどんどん大きくなり、嫌な音も次第に大きくなって契の不安を駆り立てる。

「う、嘘だろ………!」

 契は状況を理解し、慌てて最後の手札を切る。切り札として先程引いたカードを!

 ミラーフォースが粉砕され、陽頼の拳が契へと迫る!

憑依装着(ライド)!! 『ホーリーエンジェモン」

 瞬間、カードが契の中へと埋め込まれ、彼の全身を光に包んだ。

 契の背に四対の天使の翼が出現し、左の肩に出現したショルダーシールドで陽頼の攻撃を受け止める。右の手の甲には、手甲の様に丸い盾が出現している。その盾から光の剣が飛び出し、同時に契は剣で陽頼に切り掛る。聖なる属性を持った刃が触れ、初めて陽頼が怯んだ様に動きを鈍らせた。そのチャンスを逃さず、契は光の剣で正面の空間を斬る様に円を刻む。

「『ヘブンズ・ゲート』!」

 契の呼びかけに応え、斬られた空間が黄金の門と化す。門は左右に分かれ空間を開くと、門の奥の異空間へと陽頼を取り込んでしまった。

 門が閉じる瞬間、未だにぐちゃぐちゃの彼の肉が、閉じかけた門を掴み取り、這い出ようと抵抗を試みる。しかし、光の吸引力は凄まじく、陽頼の抵抗虚しく、門は完全に閉ざされた。

 一拍の静寂。契にとっては長い沈黙を経て、ようやく勝利を確信してへたりこんだ。

「は、はは………っ! ………いくら不死身でも、異空間に飛ばされちゃえば関係無いでしょ?」

 『憑依装着』それが先程、契の使った奥の手だった。用いるカードの効果を呼び出すのではなく、自分に付与し、カードに記された能力値の限界を超えて行使する事が可能となる。使用時間は一時間、終了後は使用時間の倍の時間身動きが取れなくなってしまう上に、他のカードを使う事が出来ない。おまけに使用中は契の脳内リソースの半分を使用するため精神的な疲労も大きい。効果は大きい半面、使い勝手の良い能力とはとても言えなかった。

「でも、これでさすがに僕様の勝ちでしょう………?」

 安堵の息を吐きながら、契がポイント差を確認しようとした時、突如大爆発が起きた。

 爆発したのは先程契が創り出したゲートだ。ゲートが何らかの力によって破壊されたのだ。

「いやぁ~~~! さすがの私も今のはびっくりしちゃいましたねぇ~~~♪」

 爆煙の中、ゆっくりと歩み出てきたのは、白髪に黒眼の少女だった。膨らんだ胸を張り、腰に片手を付いて、彼女は自信に満ちた笑みを浮かべる。

「御呼ばれながら即参上ッ!! アナタの元に這い寄る混沌、『劣化邪神[陰](ニャルラトホテップ)』の緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)さん! 初お披露目で~~すっ!!」

 ビシッ! っと決めて見せる姿に、契は呆気にとられる。普段の彼なら呆れて見せるか、茶々を入れるか、もしくは一緒にふざける所なのだが、生憎そんな余裕はもはやなかった。

 冗談じゃない。そんな言葉が脳裏を過ぎった。

 本当に冗談事ではなかった。何度殺しても、破壊しても、焼き尽くしても、それでも復活してくる化け物を、やっとの思いで異空間に追い出したと言うのに、そのゲートをぶち壊して、這い出てくるとか、最早驚きも笑いも通り越して、ただ疲れて座り込む事しかできない。

 こんな時、イマジネーターの思考能力が恨めしいと思った。イマジネーターであるが故に、この状況下でも相手の情報を読み取り、状況を正しく理解してしまう。

 あの少女は間違いなく、先程まで戦っていた緋浪陽頼に間違いない。何故男だった彼が女になっているのか解らない。御叮嚀に実戦練習用スーツ(体操服)まで女子用のそれに変わっている。何らかの能力によって変化したのだろう事は予想できた。まだ勝てる可能性も幾つか検討出来た。だが、そこまでだ。

 切城(きりき)(ちぎり)は悟ってしまう。現在目の前にしている存在は神格を有している。それもカグヤや金剛とは違う、その身に当然として神格を有している存在。人間ではない。コイツは本物の化け物(神様)だ。今はその一部を取り出して使っているだけなのだろうが、コイツはその気になれば己の神としての姿をいつでも解放できる。果たしてその時、契に対抗する手段はあるだろうか?

(“神のカード”でも使う………? はは………っ、一体どんだけ出すのに時間を有すると思ってんの………?)

 契は諦めた。諦めるしかなかった。およそイマジネーターとして相応しくない考え方だが、この場に限って言えば仕方のない事だ。イマジネーターと言えどもその正体はただの人間、精神が疲労すれば対抗する意識も失せると言う物だ。この場合、イマジネーターの強靭な精神力を削り取った陽頼を賞賛するべきだろう。

「それでは、最早戦う気力もなくなってしまったであろう契さんには悪いですが………、残虐ショーの続きと行きますかぁ~~♪」

 不気味に笑いを浮かべると、陽頼は中空に手を伸ばす。その手が空間を歪ませ、異空間に仕舞ってあったらしい釘抜きを取り出す。

「それでは締めの残虐ショーとして………、必殺! 私の必殺………っ!」

 飛び上がる陽頼、空中で一回転、くるりと体勢を変え、契に向かって真っすぐ飛来する。

「クライマックスキック~~~~~♪」

「何のために出したよぅ!? 釘抜き!」

 最後に残った精神力をツッコミに使い果たし、契は最後の瞬間に目を見開く。

 

「だぁから、勝負ありだって言ってるでしょう? いい加減にしないと食らい尽くすぞ!?」

 

 バクンッ!

 

「ぎゃっ!?」

 突如出現した“黒い口”が、飛び蹴りの体勢にあった陽頼を丸呑みする勢いで食べてしまった。陽頼は慌てて体をばたつかせ、何とか巨大な“口”の顎を開き這い出ようと試みている。

「まったく………、先生の言う事聞かないと生徒相手でも容赦しないぞ?」

 呆れてそんな事を云うのは、青髪にエメラルドグリーンの目。低めの背で、何故か三角巾とエプロンを装着していると言う謎の井手達(いでたち)をした二十代後半の青年だった。

 彼の名は水無月(みなづき)秋尋(あきひろ)。この学園の教師で、彼等の審判役を担っていた。

「切城、お前が緋浪をゲートに閉じ込めた時点で必要ポイントの獲得に成功していた。緋浪は不死身の属性に頼りすぎたな? 普通の試合なら確かに脅威だったが、今回はポイント制だ。死んでも平気だろうが死んだ分だけポイントは取られるんだから有利とは言えないぞ? って言うかちゃんとアナウンスしたんだから続行してるんじゃないお前ら」

 軽く教師に叱られ、陽頼が「な、なんですと~~~っ!? この私とした事がそんな初歩的なミスを犯してしまったと言うのですかぁ~~~っ!?」っと騒ぐのを、契はしばらく呆然と見つめてるしかなかった。だが、次第に状況が呑み込め始め、勝利した事より生還できたことと、自分を助けてくれた誰かの存在を認識した事により、彼の(たが)が外れた。契は遮二無二に秋尋に向かって飛び付いた。かなり本気泣きで。

「お、おわぁっ!? ど、どうした!?」

「こ、怖かったぁ~~~~っ!! 割と本気で怖かったぁ~~~っ!! もう二度と陽頼とは戦いたくねぇ~~~~~~~~~~~~っっっ!!」

「それヒドイッスっ!?」

 とりあえず戦闘終了。

 契は強敵陽頼に勝利を収める事が出来た。

 

 

 07

 

 

 Aクラス担当(担任ではない)、比良(このうら)美鐘( みかね)教諭から聞かされた事実に、Aクラス勢は驚愕を覚えた。

「実は、今回の試合な? クラス内トーナメント第一試合だったんだ」

 事も無げに言われた生徒達は、戦いの疲れもあって、その場で項垂れるしなかった。非難の声一つ上げられる者もいない。

 現在Aクラス生徒達は、保健室に言った者も含め、全員が教室に戻ってきてた。一部の者を除き、誰も彼もが包帯やらで身体中傷だらけの(てい)を見せている。誰も文句を上げる余裕すら持てていない。

 そんな状況に満足しながら、美鐘は淡々とクラス内交流戦について説明を始める。

「クラス内交流戦は月一に行われる。今回最初のクラス内交流戦はランダムで決定される対戦相手と三試合行い、より勝利数の多い者が選定され、最終的により多くの白星を手に入れた者が優勝、クラス内最強と言う事になる。なお、クラス最強の座を手に入れた生徒は、同じく月一で行われる今回の学年別交流戦に参加できる権利を得る。一年生最初の学年別交流戦は。クラス代表が一名ずつ選出され、トーナメント戦をされる事になっているから、優勝を目指せよ? ………そうそう、クラス代表者に選ばれた生徒はMVP賞として、『スキルストック』が一つ譲渡される事になっている。学年一位には更に『派生スロット』一つ解放されるとの事だ。充分励む様に!」

 美鐘教諭の説明が終わる。生徒は皆、一様に目を丸くして驚いていた。教師の言ったMVP賞が、あまりにも破格過ぎて、言葉を失っていたのだ。

 『スキルストック』は、学生が受けている能力の応用範囲の制限である。『スキルスロット』が一つ増えれば、新たな能力技能を覚える事が出来る。例えば、カグヤやレイチェルの場合なら、新たに使役するイマジン体をもう一体追加する事が出来るようになる。

 そして『派生スロット』。これは能力その物を新たに追加し、更に範囲性を広げる事が出来る。これにより、『火の能力』しか使えなかった者も、その能力の関連性で繋げ、新たに『水の能力』を得られるようになる。

 どちらも破格の褒賞だった。誰もが狙わない筈がない。

 今日勝った者は既に一歩を踏み出す事に成功している。負けた者達は挽回の可能性に掛けて、この先一度も負けるわけにはいかない。二敗すれば、まず間違いなくクラス代表に選ばれる事はないのだから。

 疲れきっていた生徒達に、再び士気が高まり始める。

 今日を含めた三日間。それがクラス内交流戦の期間。試合は全部で三戦。より多くの勝利を勝ち取った者だけが、次へとコマを進められる。

「それとお前ら? ちゃんと飯食った後の授業には参加しろよ? まだお前ら全員、筆記は必要範囲までやってないんだからな?」

 教師の忠告など何の事はなかった。何せこのAクラスの生徒は、規格外(バカ)みたいに頭が良い奴らしか揃っていなかったのだ。筆記で単位を落とすなどと、誰も想像できなかった。




――あとがき――


カグヤ「まさか怪我しても治療してもらえないとは思わなったぞ………」

菫「死ぬかと、思った………」

カグヤ「確かに最初の授業でやたらと気合の入った本格的な応急処置とか教わるな~~、っとは思っていたが、この万能の学園で治療無しとはな」

菫「私達、信用されて、ない………?」

カグヤ「いや、そうじゃないだろうが………、まあ教師の良い分も解る。万能に頼れば、いずれ人の心の方が歪んで行く。俺達も気を付けないとな」

菫「だからカグヤは歪んだ、の………?」

カグヤ「は?」

菫「エロ万能能力」

カグヤ「………。確かに俺の目覚めはエロ技術を身に付けた後だったな?」

菫「こいつダメ」





彩夏「実戦練習用スーツ(体操服)をちょっと説明しようか?」

陽頼「(こくん)」

彩夏「これは男性用、女性用の二種類があり、更にそこから季節二種類に分けられている」

彩夏「男性用は春と夏がノースリーブに迷彩柄の長ズボンだ。ホルスターベルトもあるらしいぞ? 秋と冬用は、これに更にジャケットが付き、更に寒冷用のコートがある。今回は寒冷地での訓練が無かったので、誰もコートは着なかったがな」

彩夏「女性用は男性用とそれほど変わらない。ただ女子の場合は短パンとミニスカートタイプしかないらしいぞ? 動き易さ優先な格好でちょっと恥ずかしい気もするかもな?」

彩夏「ちなみに私は、ミニスカタイプを所望したがね!」

陽頼「………」

彩夏「君………、その姿の時は本当に反応が鈍いね………」

彩夏「まあいいや。そろそろお風呂に行こうか?」

陽頼「(こくん)」





海弖「ゲティングスくんは東雲義弟くんに御執心の様だね?」

ゆかり「良い傾向やね? 自分の領域を守ろうとする強い想い程、イマジネーターを強くする者はないからねぇ~?」

海弖「彼女に引っ張られて東雲義弟くんも対抗心を抱いてくれれば丁度良いバランスになるだろうね? 彼は他人を強くする性質はあるが、自分を強くする才能を欠片も有していないからねぇ?」

ゆかり「この調子でお互いに良い刺激を与えて行ってくれたらええなぁ~~♪」

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