ハイスクール・イマジネーション   作:秋宮 のん

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少しずつ勘を取り戻してきたかな?
ついでなので本編じゃあんまり活躍しない教師も書いてみようかと思います。



おまけ編 【作者リハビリ短編】4

4.マザー

 

「ふっ! ……んぐっ! ……ッ!!」

 サルナ・コンチェルト。13歳。ギガフロート地下、特別病棟フロア3番エリア滞在者。

 出身世界:オルトナイテラ。所有能力:『■■■■■■■■■(幻想)

 能力制御、要特訓。

「ふむ……」

 何もない真白な空間にて、歯を食いしばって己が宿す力と向き合おうとする幼い少女の詳細データ付きカルテを手に、白衣の女教師は思考する。

 サルナが別の世界から来訪し、この世界で保護され、真っ当に生きていこうと、己の世界で身につけた能力を制御しようとしているが、その成果は一向に訪れていない。

 今も、彼女は吉祥果ゆかりの能力で作られた空間から出ることができず、能力制御ができずに苦しんでいた。

 サルナの周囲には、火の玉、石ころ、イラット(ギガフロートに存在するイマジンを使える鼠)、ニンジン、風船が、彼女を囲むように浮遊している。サルナは自分の能力で、これらの存在に干渉しないように言われているが、少しでも気を抜くと、何らかの影響を与えてしまうため、未だに外にも出られない状況であった。

「あ……っ!」

 悲鳴に似た声が漏れ、白衣の女教師が視線を向けると、火の玉が水の玉に変わり、ただの石が命を持ったように脈動した。サルナの能力に中てられ、その存在を歪められたのだ。

「……ッ!!」

 急いで能力を制御しようと意識を向けるが、焦りが逆効果となり、ニンジンが腐り、風船がゴトリッ、と音を立てて落ち、イラットは―――、

「キ……ッ」

 ―――イマジンを持たないただの鼠になってしまっていた。

「う、うあ、ああああああああああぁぁぁぁああぁぁああぁあぁあああぁぁぁぁーーーーーっっ!!!」

 また失敗してしまった事に嘆き、頭を抱えて蹲る。とめどなく溢れる涙で濡らした床には、既に多くのシミができている。

 彼女は殆ど言葉を喋らない。既に言葉を理解しているはずなのだが、上手く言語ができないのか喋ることがない。

 それでもこちらの言葉は理解し、毎日訓練して日常生活を手に入れようと努力しているし、周りがそれに協力していることも理解しているようだ。それなのに、彼女は殆ど喋ろうとしない。理由は不明。彼女の過去に何かがあるのかもしれないが、それについて知っているのは、ゆかりを除けば学園長の斎紫(いつむらさき)海手(うみて)くらいの物だろう。

 ただ一つ、素人目にでも言えることは、彼女が本心から必死に能力を制御しようとしている事。そして、何かに深く後悔しているという事だ。そうでなければ、どうしてここまで苦悩しながらも、力の制御を放り出したりしないというのか。

 床に何度も拳を落とし、額を打ち付け、汗と涙で汚しながら、何度となく現実(結果)に打ちのめされながら、それでも彼女はもう一度と挑戦する。

 挑戦して、挑戦して、挑戦して―――そしてまた失敗する。

「うああああああああぁぁぁぁぁあああぁぁああぁあぁあああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!」

 失敗する度に絶望したかのような悲鳴を上げ、何度となく心を砕きながら、それでも彼女はもう一度向き合う。必死に必死に、もはや強迫観念に突き動かされるが如く、彼女は傷つき続ける。

「……」

 それを、ただ見ていることなど、できるはずがなかった。

 彼女のデータと姿を見て、自分が何故呼ばれたのかを、女教師は理解していた。

 幾度かの失敗を経て、また絶叫するサルナに向けて、彼女は歩を進める。

 気付いたサルナは激しく動揺し、飛び跳ねる様にして後退(あとじ)さる。

「だ、ダメ……っ! 来ないでっ!」

 初めてに等しい言葉が拒絶の言葉と言うのに、女教師は内心、悲しいやら微笑ましいやらだったが、構わず彼女に向けて歩を進める。

「ダメ……ッ! やめて……ッ!!」

 彼女の内から力が溢れる。それはイマジンではない異世界の力。理を歪める違法、あるいは異邦の力。巻き込まれれば、女教師とて為す術もない、異端の理。

「大丈夫……」

 優しい言葉と共に、彼女はイマジンを練り上げ、指を鳴らすアクションをトリガーに能力を発動。『癒しの聖域』の能力より『生存本能の吐露』を発動。彼女が指定した空間がイマジンにより支配され、あらゆる超常の力を打ち消した。

 驚き、呆然とするサルナを、女教師は抱きしめる。

「どうか苦しまないで、アナタはとても頑張っています。そしてとても優しい子です」

「やさ、しく、なんて……」

「いいえ、アナタは手も優しい子です。能力の制御だって、誰も苦しめたくないから頑張っている。私が近づいて怯えたのも、私を害したくないから怯えたのでしょう?」

「でも……、私、なにも……っ!」

「いいえ、アナタはとても優しく、そして、ちゃんと制御できています」

「できてない……っ! なにもできてなんか……っ! いまだって……っ!」

「出来ているじゃありませんか? 無機物の石に生命を与え、新鮮なニンジンを腐らせてしまっても、イラットからは命を奪うでなく、能力のみを奪っている。本能的にあなたは、命を奪う事を、生者を死者に変えることを拒んでいるのです」

「ぁ……!」

 女教師はサルナを強く抱きしめる。心寂しく怯えるように震える少女の頭を優しく撫でてやる。

「あなたは他人を思いやれる優しい子。だからどうか苦しまないで。あなたの努力は必ず無駄にはなりません。仮に世界があなたを否定する事があれば、ここにいる私達が全力でそれを阻止します。だから、どうか、そんなに苦しむ努力をしないで」

 サルナは震えながら、女教師の胸に顔をうずめ、しがみつくようにして震え上がった。それは、子供が親に縋りつくかのようで、とても弱々しく、だが何処か安心させられる姿だった。

「大丈夫。あなたの努力は、いつか私達以外にだって認められます。それこそ、世界があなたを殺そうとしたって、アナタを生かすために駆け付けてくれる人達が、きっとたくさんできるはずだから」

 優しく抱きしめ、親身になって接し、当たり前のように寄り添ってくれる。

 間違えた時に叱り、正しい道を教え、相談事には納得いくまで話し合い、何処までも付き合ってくれる。

 挫けた時は、今のように抱きしめて支えてくれる。

 サルナには“その存在”の記憶はなかったが、知識と知っている分には、この人が“その存在”に当てはまる様な気がした。

 聖母のような優しいこの人を、それこそ“母親”のように思えたのだ。

「マザーナイン……っ!!」

 サルナは決して離すまいと、その小さな手で精いっぱい、彼女の事を抱きしめた。

 

 

「イマスク一年生、入学おめでとうございますサルナっ! 挨拶が遅れてゴメンなさいね! 規則上すぐに会いに行けませんでした。それで? もう入学から一月近く経とうとしていますがお友達はできましたか? まだできてない? それはいけませんっ! では、僭越ながら私がサルナのアルバムを同級生にお見せしましょうっ! あの頃のサルナはとてもいじらしくて、言葉数は少ないし、全然素直じゃないんですけど、あれこれ頭を捻って、さり気なく甘えようとしてくるところが物凄く可愛らしく手ですねぇ~~! あらやだ、特に今と全く変わりませんね? サルナはきっと友達出来るのが遅いだけで、友達ができたら一気に親密度上がりそうですね! 余計な事はせず見守る事にしましょう。それはそうと、この頃のサルナったらまた―――!」

 イマスクの保健室にて、ちょっと顔を出しておこうと思って来てみれば、このマシンガントークである。保健室に堂々と設置された『サルナのアルバム』(4年分)を取り出し、思い出話を語り出す母親代わりに、成長したサルナは言い知れない羞恥心に震える。

「こ、この人は……っっ!」

 怒りにも似た感情を抱きながら、途中で止めるでもなく、逃げるでもなく、彼女は白衣の女教師と共にい続ける。

 途中何度も拳を握って、「一発くらいならツッコミってことで良いわよね?」っと思いながらも、結局、時間が許す限り最後まで何もせずに付き合った。

「それじゃあ、私はもう行くけど、そのアルバムは家に持って帰ってくれないかしら?」

「サルナに差し上げましょうか?」

「やめて、同室の人に見られるわ」

「その時はぜひとも私もご一緒したいですね♪」

「どこの国におゃ―――……んんッ!! ともかくやめてちょうだい」

 途中、うっかり言葉にしてしまいそうになった失言を誤魔化し、サルナは保健室を退出しようとする。

「それじゃあまたね、マザーナイン」

「“お母さん”っと、呼んでくれてもいいのですよ?」

 冗談めかして笑いかける女教師に、サルナはほんの少しだけ優しい気持ちに包まれる。

「いやよ」

 




 サルナは異世界転移後から四年間、ギガフロートで能力特訓しているという設定があったので、教師の誰かと絡ませようと考えました。そしたら都合のいいキャラがいらっしゃったので、速攻でマザーナインと絡ませることに決めて、設定確認しながら絡ませたら、なんかこんな感じになりましたね。
 本当は、マザーナインの過去にもついて触れて、タイトルを『傷痕』にするつもりだったんですが、これが短編だと言うのを思い出して止めました。正直戦闘シーンより、キャラクターの掘り下げの方が尺使うわ。
 もう一回リハビリしたら、本格的に本編に移ろうと思います。がんばれ自分!



せっかくなので教師のキャラ紹介載せておきます。

保護責任者:ティピロス
名前:マザーナイン(本名:九重 九守理(ここのえ くすり))
刻印名:鉄血の白衣
年齢:55  性別:女    教師(保険医)
性格:他人に厳しく、自分に他人よりもはるかに厳しくを貫く頑固者。説教が多かったり強引な所が目立つが、実際は学園の中で最も過保護で慈愛に満ちた人物。戦う事を嫌っている。
喋り方:普段は落ち着いているが、治療関連な事になると全力になる。
自己紹介「始めまして1年生の皆さん。私はマザーナイン。あなた達を生かす者です。以後お見知りおきを」
普段「常日頃から健康体である事を意識してください。長く強く生きる為に必要な事です」
説教「あなた、また大怪我をしましたね。そんなに怪我をし続けるのであれば戦いなんて止めてしまいなさい。ん?横暴だって?そんな事知った事ではありません。怪我と言うのは自分にだけ影響する者ではありません。何時だって周りの人を心配させる者です。私も心配する者の1人です。だからこうして言うのです」
戦と(ry「戦いなんてしている暇がありますか!今は一刻も早く治療をするのです!」
不死または超回復系の生徒へ「いくら傷を負っても死なないからといって治療を受けない理由にはなりません。即刻治療を始めますので保健室まで連れて行きます。拒否権?そんなものあると思いますか?」
高慢な部分が目立つ生徒へ「あなた達は特別な力を持っていますがそれが自分の格を上げるものではありません。私からしてみればあなたの様な高慢な生徒は即刻治療するべきなのです。ほら保健室まで行きますよ」
異世界出身の生徒へ「あなた達は……そうですか……。ここはあなた達の世界とは違った場所です。もし気分が悪くなれば何時でも言ってください。全力で対処しますので。(彼らに罪は無い…。そう、無いのです。)」
能力発動「私の前で戦いなんて起こさせません。誰1人として死なせません。それが私の能力『癒しの聖域』です」
対詠子「……………………………………一瞬あなたも治療対処かと思いましたが問題ありませんね(ニッコリ)」
対正義「まーたあなたですか。私は何度も言いましたよね。子供達の事を考えているのなら戦いなんて辞めるべきだと。何?それでは何も変わらない?あなたの目的は勇気や希望を与える事…?……よろしい、ならば今回もまた気がすむまで話し合うとしましょうか」

戦闘スタイル:戦わない。傷ついた対象をとにかく治療する。
身体能力3     イマジネーション103
物理攻撃力3    属性攻撃力3
物理耐久力3    属性耐久力3
治療900

能力:『癒しの聖域』
派生能力:『果てなき医療革命』

各能力技能概要
・『手当ての真髄』≪『癒しの聖域』による能力。自ら行う治療行為の回復量を治療ステータスに応じて上昇させる。ただし本人の思想によりある程度時間をかける≫

・『深く浅い眠り』≪『癒しの聖域』による能力。対象を眠らせその間の睡眠時間の体感時間を変化させる。他人には1日分を3日分にして十分休ませ、自身は1日分を10秒にして仕事を続けている≫

・『超最新鋭医療設備』≪『果てなき医療革命』による能力。他人の能力からヒントを得て新たな医療設備を生み出す能力。代表的なのは神威の『呪樹』からヒントを得たその場にある有害なものを吸収する観葉植物。未知の拉致するUFOからヒントを得た安静な状態を保ちながら輸送する飛行救急車など≫

・『生存本能の吐露』≪『癒しの聖域』による能力と刻印から生まれた無効化系の能力。自身が指定した範囲内での他人や自身へ害をなす能力を全て無効化し、その場のイマジンをその場にいる人物の回復能力の促進に使用する。その性質から止める時以外にはあまり使わないよう言われている。因みに保健室では常に発動されている≫

(余剰数値:0)

概要:【見た目は17歳の少女で髪は白く長く、後ろで編み1つに束ねている。片目は義眼、右腕は自身の『超最新鋭医療設備』にて生み出した医療の道具が内包してある銀色の義手。服装はこれまた『超最新鋭医療設備』で生み出した四次元ポケット的な能力がついた白衣。実家は大富豪。学園のOGで無効化能力者が教師昇格した代表的な例に挙げられる人物。学園の大半の人から『保健室の女傑』とか『鬼婦長』など言われある意味恐れられているが、彼女の過去を知る者や結構な頻度で会う者、勘が異常に鋭い者はこの様子に納得している。彼女の行動は色々とやりすぎる部分が多く、抜き打ちで校内にいる人物全員を対象に身体検査を行うよう学園長に打診したり、かなりの重症を負った生徒を公欠させる様にわざわざ申請して、その間面倒を見続けたりなどある。色々と目に余る部分が多いが実は教師陣の中で1番優しく過保護な人物。1年生の最初にやる最強決定戦の治療までやらせて欲しいと毎年何度もお願いするが、生徒達の対応力を高める為にもしてはいけないと頑なに断られている。また保健委員の生徒達の負担を減らす為にほぼ毎日の様に能力を使って徹夜したり、たまに生徒達の食生活に乱れが見えてきたら自費で大量の食材を買って食堂を借り、しばらくの間無料で食事を提供したりする(おかわり自由)。

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