ハイスクール・イマジネーション   作:秋宮 のん

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や、やっと書けました!
明日も仕事なのに、急いで投稿せねばと、こんな時間の投稿だ!
まだ忘れられてません? 私死んでないよ!? 新しい方に逃げてもないよ!

っと言うわけで久しぶりの復活です!
相変わらず添削してませんので、誤字脱字見受けられるかもしれませんが、そういうのが嫌な方は【添削済み】の表示が出るまで待ってください!

それでは待望の(だよね? だよね?)決勝トーナメントをご覧ください!
一応、送ってもらった新しいスキルで、予定していたシナリオとは別の方向に動いてます!



【添削済み】になりました!


一学期 第十試験 【決勝トーナメント 準決勝戦】Ⅰ

クラス代表戦・第一試合:八束菫VS小金井正純

 

 

 勘違いされ易い話だが、イマジン粒子が開発されたのは学園創立と同じ、2012年と思われがちだ。しかし、実際にはイマジン粒子が開発されたのは2010年の事となり、それから二年の間、この粒子エネルギーをどう扱うかで長い議論が続けられる事となった。核を超越する無限のエネルギーだ。それこそ、世界条約によって没収、管理され、日本以外の一部諸国にのみ、扱う特許が限定的に降りるくらいの扱いになる筈だった。それを回避したのが、イマジン粒子発明家の斎紫(いつむらさき)(かえで)であり、後に評議会に顔を出す様になる重鎮。イマジンを現代でも―――限定的ではあるが―――使用権利を得る事が出来たのは、この男の功績が全て(、、)だ。

 そんな男が作ったイマジンだが、本来これらはイマジンの力で浮かせた浮遊島、≪ギガフロート≫でのみ使用が許された物で、地上でその存在が見られる事はありえない。現役のイマジネーターでも、学生身分で無い者は地上でイマジンを保有する事すら許されていない。これらの違反行為は、一度でも犯してしまうと、その場で死刑が許されてしまう程に重く、現役の学生でさえ、扱いには細心の注意を要求される。

 だが、何事にも例外と言うのは存在するもので、この日本には、唯一イマジン粒子を保有する土地が存在する。

 最初に断っておくが、この土地のイマジンは自然発生している物ではない。そもそもイマジンが自然で発生する物なら、今頃この世界は異能文明が発達した、別の世界観が常識となっていた事だろう。それこそ、嘗て語られていた神話の時代が、未だに続いていなければ説明が付かない程に。

 故に、この土地が保有するイマジンは、()()()()()()()()だったりする。イマジン発生炉は所有していない為、その土地のイマジンはギガフロートに比べると、大した物ではないのだが、それでも、土地丸ごと一つ分を覆い尽くせるイマジンを個人が所有している時点で、天文学的数字を目の当たりにする程、常識外れに値する物だ。

 その土地の名は『焔山』。『えんざん』とも『ほむらやま』と読んでも、どちらでも正しいらしい、その土地は、京都か出雲の何処かに存在するらしいと言われているが、それらしい山も森も確認されておらず、所在不明と言う扱いになっている。

 さて、その『焔山』が出来た経緯については、また別の話にする事にして……、この土地を作り、百人程度の人口を治める主こそ、嘗て黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)が暗殺に失敗した存在『猛姫(たけひめ)』と呼ばれる女性である。

 この土地に萬栄(まんえい)するイマジンは、彼女個人が生み出すものであり、彼女個人の個人財産と言う扱いになっている。一人で土地一つ分のイマジン量を賄えてしまう存在だ。既に彼女は土地内では神と言う扱いを受け、彼女自身、そのように振舞っている。

 そんな彼女だが、これでも一人の子供を授かっている身であり、業腹ながら(←?)親として子供と触れ合う機会と言うのも作っている。現在、その息子は、川辺で二人の少女と魚釣りなどに興じていたりする。

「………、すごく、釣れない……」

 蒼い短髪の少女がぼやく横で、猛姫の子である少年は不思議そうな顔を浮かべる。

「こんなに釣れない人初めて見たよ……」

「……ヒドイ言いよう……」

「そうですよ主君。外の人は大体釣りなんてしません。コツの何一つも分からない上に、魚を捕まえるなら投網を使うような人達ですから」

 少年を主君と呼んだのは、彼の隣で早速もう一匹魚を釣り上げた少女で、こちらは黒くて長い髪が、背の高さと反比例していそうな小さい少女だ。脇には脇差程度の小太刀が置かれていて、いつでも手が伸ばせる位置を意識されていた。

「網はないだろ、網は? 命を奪って生きる者が、逆に奪われる可能性どころか、逃げられる可能性すら潰すとか……、生き方に誠意がなさすぎだろ?」

「……(たける)くん達、よくそう言うけど……、私達からしたら、その方が信じられない……。皆、効率が良くて、安全な食料確保を望むから……」

「それが信じられん……」

「主君、これが外と中の常識の違いです。郷に入り手は郷に従えと言いますが、強要は良くありません」

「いや、そうなんだけど……、あ~~っ! でも納得できないっ⁉」

「……猛くんの、意外と頭硬いところ……、見つけた……」

「見つけましたね……」

 二人の少女と戯れ、頭を抱えだす息子を眺め、少し離れた位置に腰を下ろしていた猛姫は、その光景に対し、微笑ましいと笑うべきか、くだらないと呆れるべきか、それとも何の感慨も浮かべる必要がないとスルーするべきか、ちょっとだけ悩む。正直、自分の反応にさえ、どれを選んでいいのか分からなくなるほど“暇”と言うのが素直な感想だった。

 もはやいっそ転寝(うたたね)でもしてしまおうかと、自分から眠気を持ってくるという器用な事を仕掛けたとき、彼女はその存在に気づき、目を細めた。

「猛、ちょっと物陰にいろ」

 言われた瞬間、猛と刀持ちの少女は、大変慌てた様子で釣竿を放り投げ、首を傾げるだけの蒼い少女を無理やり引っ張り木陰に隠れる。

 しかし、それが間に合うより早く、突然川の一帯で爆発が巻き起こった。熱をともあわない衝撃に煽られ、吹き飛ばされるように物陰に落下した三人は、混乱しながらも、今のが火器による爆発で無いのを認識していた。

 そこから先は、もう三人は何も喋ることなく押し黙る。何が起きて何が起ころうとしているのかさっぱり解らなかったが、猛姫が関わる事態で、下手に行動すると命くらい酸素分子並みに吹き飛ばされていくと知っている。なので、彼らはもはやただの石になったつもりで、災害が過ぎ去るのを伏して待ち続けた。

「やれやれ、とんだ出迎えをしてくれるじゃないか? 久しぶりのあいさつがこれとは、津崎(つざき)特派員にも(たちばな)特派員にもない挙動だ。まさに“君らしい”っと言うべきなのかな?」

 爆発の衝撃により巻き起こった水煙の向こうから、いかにも胡散臭そうな声が飛んでくる。それに聞き覚えがあった、“爆発を起こした張本人は”「ふんっ」と軽く鼻を鳴らす。

他人(ひと)領域()に勝手に侵入してきておいて、ずいぶんな言い草だな? 何の用で来た、楓?」

 果たして、水煙の向こう側から現れたのは、ぼさぼさの白髪にフレームの細い銀の眼鏡を掛け、胡散臭そうな笑みを浮かべている、灰色スーツの男だった。彼こそは斎紫(いつむらさき)(かえで)、イマジン粒子開発者にして、現代日本における政治的支柱、その人である。

()ね」

 にべもなく告げる猛姫。すると、その言葉に反応したかのように空間が波打ち、まるで波紋が広がる様に歪み始める。その歪みはあっという間に楓を包み込んでしまい、因果、事象、概念―――、あらゆるものが彼を追い出そうと一気に押し寄せる。

「まあまあ、昔の(よしみ)だ。もう少し気軽に行こうではないか?」

 言いつつ、まるで肩に引っかかった髪を払うかのような仕草で腕を払うと、(たちま)ち空間の歪みは正され、元の川原の光景に戻ってしまった。

 その光景を一瞥し、猛姫は目を細めつつ尋ねる。

「お前……()()()?」

「君の両親の先輩で、君にとっては第二のパパさんのつもり―――」

 猛姫は無言でその辺の石を拾って投げた。ただそれだけで亜音速を突破した石礫(いしつぶて)が、一瞬で発火し、ミサイルを凌ぐ圧倒的な脅威となって楓の額に迫る。本来なら命中すれば人の頭蓋など、障害物とさえみなされずに吹き飛ぶ威力なのだが、なぜか石は楓の額に命中後、スコーーーンッ!! っと言ういい音を鳴らして空高くに跳ね返ってしまった。

「これでも年齢差と言う物を気にしていたのだが、そんなにお兄ちゃん好きだと言うなら、私のことを兄と呼ばせることもやぶさかでは―――」

 今度は三メートル近い大岩を全力で投げつけた。数メートル進んだだけで自壊してしまうほどの圧で放たれた光速の岩石は、その衝撃波だけで島一つを破壊できそうなほどであったが、なぜかこれも漫画みたいな爆発を上げるだけに終わり、予想される被害は全く発生しなかった。

「短気だねぇ君は? 案外子供な津崎特派員でもここまで短慮ではなかったのだが?」

 しかも平気な顔で肩を竦め、やれやれと頭を振って見せる始末。ここにきて猛姫は、彼に感じていた異常性をもう一段階上の物としてとらえ直す。

「もう一度聞くぞ? お前は()()()?」

 再度の質問に対し、楓はきょとんとした表情で見つめ返し、あっけらかんと口にして見せる。

「『オリジン』だ。おそらくこの世界で最初のね」

 知らない単語に一瞬眉を顰める猛姫。『オリジン』の言葉の意味は知っているが、それが何を現しているのか分からない。それがイマジンと関係することも予想できているのだが、どうしてもそこから先への推測ができない。おそらくは、目の前に立つ開発者に次いで、イマジンを最も詳しく知っているはずの自分が、それ以上のことが解らない。それは、それだけでとてつもない状況にあるのではないかと疑心する。

「知らん。帰れ」

 だが、それはそれとして、猛姫には彼に付き合う道理はない。なので、再三に渡り、彼女は帰宅を促す。

「まあまあ、これでも用があって来たのだ。とりあえず聞くだけ聞いてみないかね?」

「お前が関わって、まともな事件が起きたためしがない。傍迷惑になるのが目に見えてるんだ。帰れ」

 「それを猛姫が言うのかっ⁉」っと言うツッコミは必死に心の中だけに(とど)める息子。

「私の場合は土地クラスの迷惑だが、こいつの場合は冗談抜きで世界クラスの迷惑なんだよ」

 「言葉にしてないのに、ツッコミ拾わないでくれっ!」っと言い返したいところだったが、未だに災害は過ぎ去った気配がないので、やっぱり我慢して平伏す息子くん。

「はっはっはっはっ! 今度の世界規模は文字通り“次元”的な意味で『世界規模』の話になるぞ!」

「………」

 猛姫は無言で何処からか刀を抜き放ち、一刀に伏した。当然のように白羽取りで受けた楓は、やんちゃ小僧の様に軽薄に笑う。なので額にバッテンマークが複数できそうなほど怒りを滾らせる猛姫なのだが、どうしても押し勝てないので、子供の喧嘩にしか見えない。

「そう怒るのも後にしないかね? これでも君にとって興味のある話だよ? そうだね? 例えば、久しぶりに君の友人に会いに行く口実が半ば強制的にできるくらいにはね?」

「………」

 表情を一切変えず対応だけ過激に行っていた猛姫だが、ここにきて初めて力が緩められる。

 楓は刀が下げられた後も、胡散臭い笑みを湛えるばかり。多少嫌そうな表情を覗かせた猛姫だったが、溜息でも吐くように小さく鼻を鳴らすと、いつの間に無手になった手を袖の中で組んで勝手に歩き始める。

「貴様に茶を出すと思うなよ、楓部長(、、)

「安心したまえ! 茶なら(なぎ)君に出してもらうよ!」

「猛! 薙に奥に引っ込んでいろと伝えてこいっ!!」

 苛立った声で催促された息子は、大慌てで飛び起き、一目散に逃げるように走り出すのであった。

 後にこの出来事が、日本支部ギガフロートに災禍を齎すことになるなどとは、誰も予想だにしなかったのだった。

 

 

 1

 

 

 前哨戦が終わり、柘榴染柱間学園では待ちに待った一年生最強決定戦決勝戦が始まろうとしていた。人々は賑わい、市街区からもギガフロート在住の一般人が大量に押し寄せ、我先にと観客席を埋めていく。っとは言え、ギガフロートの総人口はそれほど多いというわけではない。土地の範囲に対し、人が住む住宅街が極端に少ないためだ。そのため、総人口を把握している学園側は、適切な広さの観客席を用意できてしまえる。そもそもイマジンを使用すれば、大会用のドームなど十分くらいあれば余裕で創設できてしまうので、今まで満員追い出しになったことはない。(ただし、ドームが広すぎて観客席が遠すぎるという場合もあるので、広げられる範囲にも限界はある)

 特に当事者である生徒達の湧きようは大きく、誰もが自分のクラス代表が優勝してくれることを望み、年相応の少年少女の顔を見せていた。

 誰もが期待と興奮を胸に、観客席に我先にと集まり、観戦の準備をしている。中には誰が優勝するかトトカルチョする不貞者もいれば、考察が得意なメンバーで集まり、戦況を分析できるようにしていたり、難しいことは脇に置いて、純粋に試合を楽しむつもりでワイワイはしゃいでいる者達と、皆、一人の例外なく湧いていた。

 

「やばい……、昨日、ギガフロート限定のオンラインゲームやりこんでたら完全に寝坊した……っ!」

 

 ………。いや、例外がいた。

 学生寮の廊下を急いで駆ける少女、身長高め、黒く短めの髪に、黒い瞳を持つ明菜理恵であった。

 すでに大半の生徒がアリーナに向かっているのが当たり前の中、登校義務が発生しない決勝トーナメント前夜に、ギガフロート内でしか使用できない特別ネットゲームをプレイしてしまい、普通にお寝坊するという、ある意味学生らしい姿を展開してしまっていた。

「しかし、『ブレイドヴレイバー』はスキルクリエイトが多彩で楽しすぎる……! オリジナルスキルで敵を倒すのが面白すぎる! やり始めたら止まらなかったっ! これでドスキル制とはアツイッ!」

 地上ではお目にかかれないようなありえないクリィオティーに目を輝かせながら、一瞬だけ、決勝戦とゲーム、どちらを優先しようか心の天秤にかけてしまう。

「試合の組み合わせは一緒だし……、たぶん優勝者も同じだよね? だったら内容は後で録画を見ることにして、あのオンラインゲームを……―――いかんいかんっ! こんなところまで来てゲーム三昧に落ちるルートは回避だ!」

 誘惑を振り切り、作り損ねた朝食を寮内食堂の二階、軽食店にてサンドイッチかおにぎりでも買い求めようと通路を早足で駆ける。―――っと、彼女は虫の知らせのようなものを感じ取り、ふと視線をそこに向ける。そこは、二階軽食店から吹き抜けになった一階部分の食堂席が一望できる通路だ。理恵が見下ろす位置、食堂席のど真ん中で、剣呑な空気を纏う三人組を見つけたのだ。

「え? なにこれ? こんなところでイベントなんてあったっけ?」

 知っているはずの“知識”とは異なる現場に直面し、困惑する理恵は買い物を忘れ、身を乗り出すようにして階下の様子を伺う。

「それ以上美幸(みゆき)を侮辱するなら、俺も無視はできないぞっ!」

 三人組のうち二人いる男子、その片方が声を上げた。背は高めで髪は青い。遠目だったので顔立ちが解らなかったが―――などと思った瞬間、相手の顔が何となく理解できた。視力が高くなって顔がよく見えたわけではない。遠目に見えた輪郭を、距離感や温度差などを頭の中で処理し、顔を予想した。イマジネーターの処理能力による分析が行われた結果だ。おかげで光の加減から瞳の色が緑色なのだろうと言うことまで予想できてしまう。

 生徒手帳を取り出し、目で見た顔と、顔写真付きのクラス名簿を閲覧し、個人も特定できた。名前は夕凪(ゆうなぎ)凛音(りおん)。Bクラス。成績はそこそこよく、123という数字が表示されている。さらに理恵は一年生が知らないはずの裏技操作を行い、『総合ランク』という項目を呼び出し、確認する。そこにはF~EXで評価する項目らしい。これには上級生だけでなく、教師のランクまで確認できるため、明確な強さの判別がし易くなっている。大体一年生で、決勝トーナメントに出場している生徒は、全員がD判定の扱いで、クラスランキングで名前が発表されたものは、全員E判定となっている。それ以外は全員がF判定だ。凛音の判定はEだったので、ランキングに名前が載らなかったものの、それなりの実力者なのだと知れる。

「はっ! 愚物風情が俺に意見だと? 貴様、それ相応の用意があって言っているのだろうな?」

 そんな彼に対するのは黒いスーツを着こなす、端正な顔立ちをした色男だ。髪は銀に輝き、うなじの辺りで纏められ、瞳は碧に映え、高圧的な輝きを灯していた。

 すぐさま検索―――しなくても解った。この男は特徴的だったから覚えている。理恵の“知識”より、やや大人し目な印象を受けるが、Aクラスでランキングに名前の挙がった、シオン・アーティアで間違いないだろう。

「え? なにこれ? いったい何がどうなってどうなろうとしてんの?」

「どうやら揉め事のようですね」

 理恵の呟きに答える者が突然現れる。慌てて声のした隣に視線を送ると、そこに艶やかな黒髪を持つ、絶世の姫が袖で口元を隠しながら微笑んでいた。

 一瞬、見とれてしまうほどの美少女に、誰だが思い出せなかった理恵だったが、つい昨日に目撃していたことを思い出す。

「東雲カグヤっ⁉ ―――いや、じゃなくて、迦具夜比売(かぐやひめ)……?」

「はい! ……まだ戻れていません」

 星が輝きそうな笑みで頷き、すぐに苦笑いを浮かべる女版状態のカグヤ―――迦具夜比売。そんな表情の変化一つをとっても『可憐』とか『美しい』とか『愛らしい』なんて言葉しか出てこないのだから堪らない。色々知っているはずの理恵でさえ、ついうっかり惚れ込んでしまいそうだ。

(まあ、これも『月の仙女』の特性ってことなんだろうけどね……)

 その辺の事情は今は置いておき、理恵はあんまり迦具夜比売の顔を見ないように努めながら訪ねる。

「揉め事って? いったい何がどうなってるの?」

「『黒服の宮』が東福寺(とうふくじ)様にお戯れをなさいまして、その事に(ゆう)深き、夕凪の方がお諫め申しましたところ、『黒服の宮』がそれを(あらた)めませんもので」

「ちょい待て」

 迦具夜比売の言い回しが解りづらく、一度額に手を当てて考えてしまう。

「ええ~~っと、要するに『『黒服の宮』(シオン・アーティア)が東福寺(美幸)お戯れをなさいまして(なんかちょっかいかけて)、その事に友深き(友人の)、夕凪の方(凛音)お諫め申しましたところ(怒ったんだけど)『黒服の宮』(シオン・アーティア)がそれを改めませんもので(意にも介さず一蹴した)』ってことかな?」

「左様でございます。……すみません。まだ現代との織合わせが上手く進んでないんです」

 どうやら迦具夜比売は『竹取物語』における時代背景に多少引っ張られているところがまだ残っているらしい。考えてみればイマジン体にはそれぞれ性格設定を細かく決めることもできるのだ。古風な性格に設定すると、こんな感じでちょっと古めかしい言葉を使ってしまう物もいるのかもしれない。―――っと、納得しておくことにした。

 事情が分かって改めて視線を戻したところ、シオンが懐から生徒手帳を取り出し、ゆっくりとした動作で凛音へと近づいていく。

「その蛮勇、いかに愚かな選択であるかを思い知らせてくれる。喜べ! この(オレ)自らそれを教えてやろう」

 そう言ってシオンは自分の生徒手帳と凛音の生徒手帳を合わせる。透明な空間が一瞬広がり、≪決闘システム≫が展開される。以降、決闘中に起きた被害は全てなかったことにできる。同時に、今度は迦具夜比売の懐から黄色の光が明滅した。迦具夜はそれを取り出し確認すると、彼女の(正確には彼の?)生徒手帳が光っており、中身を開くとホログラムのように展開された光の文字で審判を受け持つよう要請が告げられていた。

 確認した迦具夜は小さく嘆息すると、重力を全く感じさせない緩慢な動作で飛び上がり、物理法則すら魅了したかのような、ゆっくりとした落下速度で階下に着地する。

「現状、教師並びに上級生が決勝トーナメントにおいて行動が制限させられているため、一年生ではありますが、この迦具夜比売が立会人を務めさせていただきます。双方、無制限決闘の規則に則り、正々堂々と果たしあう事」

 そう告げた迦具夜の姿に、誰も驚いた表情は見せていない。それどころではないという雰囲気もあったが、誰も女性としてのカグヤに違和感を持っていないという方が大きいと感じられた。

(今はそれが当然だと思えますけど……、これ、元に戻ったら精神的ダメージが大きそうですね……)

 苦笑いを浮かべつつ、心配そうにする美幸が離れ、シオンと凛音が一定の位置を取って向き合う。それを確認したところで、迦具夜は手を掲げ、開戦の合図と共に手を振り下ろす。

「……始めっ!!」

 

 

 2

 

 

 などと言ういざこざが行われている最中(さいちゅう)、むしろ本題とされる決勝トーナメントアリーナ会場では、エキシビジョン同様大きな舞台となり広がり、決勝進出者四名が、会場に登場していた。

 今は丁度、登場した四名の紹介が行われるところだ。

 

『イマジネーションスクール! 日本支部ギガフロート・柘榴染(ざくろぞめ)柱間(はしらま)学園、新入生初トーナメント! 決勝トーナメント! 今、この最初の頂に上り詰めた各クラス最強、四名の生徒が入場しました!! それではさっそく、Aクラスから順に紹介していきたいと思います!』

 

 司会の言葉に合わせ、会場の大画面スクリーンに、茶色い瞳に紫色のショートヘアーをした、スレンダーな少女が映し出される。

 

『Aクラス筆頭! 八束(やたばね)(すみれ)! 刻印名≪剣群操姫(ソード・ダンサー)≫! 予選トーナメントではエキシビジョンマッチで活躍した東雲選手を初戦で討ち取り、また、神格保有者も撃破! 能力「繰糸(マリオネット)」により操られる巧みな剣は、既に予選トーナメントの比ではない! 芸術的な美しき剣舞は、決勝トーナメントでも見せてくれるのでしょうかっ⁉ 八束選手、試合前に一言どうぞ?』

 

「ルームメイト、が……、戻ってきません……。女版カグヤ、間近で見られなかったぁ~~~……っっ!!」

 

『試合前からテンション最悪っ! これで負けたらルームメイトの責任かっ⁉ 始まる前から敗北したかのように平伏してしまっているぞ~~~っ⁉』

 

 映像は切り替わり、金髪碧眼の整った顔立ちをした、少年へと向けられる。引き締まった身体に女受けする流し目がスクリーンに映し出されると、観客席から一斉に黄色い声が上がる。

 

『Bクラス筆頭! ジーク東郷! 刻印名≪不死身の竜人≫! なんと言っても、彼の見どころはその鉄壁の肉体! 予選トーナメント中、二人しかいない、一切のダメージを受けることなくストレート勝ちした選手の一人! もはや無敵に匹敵する能力「竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)」! その比類なき防御能力により、真の力は未だ見せていないもよう! この決勝トーナメントでその真価を見られるのかっ⁉ それでは東郷選手も一言お願いします!』

 

「俺の『鋼の権能』を打ち破る方法か? そんなものは簡単だ。俺が求める花嫁(ブリュンヒルデ)こそが、俺を唯一傷つけられるのさ!」

 

『はいっ! イケメンのウインクで会場の女性陣の黄色い声援と、男どもの舌打ちで観客席がすごいことになっていま~~す! ってか、アンタここに嫁探しにきてるんかいっ!?』

 

また映像が切り替わり、今度は長い黒髪をうなじの辺りで束ねただけのセーラー服姿の少女が映し出される。

 

『Cクラス筆頭! 廿楽(つづら)弥生(やよい)! 刻印名は≪ベルセルク≫! 戦闘特化型が集められるCクラスにおいて、激闘に次ぐ激闘を果たし、力と技だけで辿り着いた戦の申し子! あどけない少女と侮るなかれ! その能力は、名前通りの「戦神狂ベルセルク」! 乙女のようでいて実は狂犬だ! それでは彼女からも一言いただきましょう!』

 

「ど、どうしようどうしよう……!? 負けたら悠里とデート! 勝ったら悠理に御飯をおごってもらう! 今更考えたらどっちみちデートコースだよぉ~!? どうしてこんなことになっちゃんたんだよ~~っ!? どうせ僕なんかにお誘いないと思ってたから余所行きの服用意してないよぅ~~!? や、やっぱりおしゃれした方がいいのかなっ!? でもそんなに意識しなくてもいいのかな……っ!? うわ~~んっ! どうしたら良いのか解らないよぉ~~~! 皆と話し合ったはずなのに何故こんなことにぃ~~~~っ!!?」

 

『失敬! やっぱり乙女だったこの狂犬! 女の子には戦いよりもやっぱり恋愛だよねっ☆ 彼女の行く末を生暖かく見舞ることにしましょう!』

 

 最後に映し出されたのは紫の長い髪を、高い位置で纏めた綺麗な顔立ちの少年が映し出される。その顔立ちに切れ長の瞳は、服装さえ気を遣えばクールビューティー系の女性にも見える。

 

『Dクラス筆頭! 小金井(こがねい) 正純(まさずみ)! 刻印名≪星霊の魔術師≫! トリッキーな戦術が多く飛び交うDクラスにおいて僅差の勝利を収めた猛者! 彼の能力「黄道十二宮招来」から繰り出される星霊魔術は、あらゆる局面に臨機応変に対応できてしまいます! その巧みな戦術は、他クラスを圧倒するに至るのでしょうかっ!? それではトリに、ナイスな一言をいただきましょう!』

 

「俺は、俺に先を託してくれたクラスメイト(仲間)のために、必ず勝利して見せる!」

 

『……はい。正直ここまで来たら最後までボケてほしいところでした。空気を読み切れないDクラス筆頭です』

 

「せめて最後だけはと思ってまじめにやったのに、なんだよこの仕打ちっ!?」

 

『以上、四名! 各クラスの代表選手にして、今回の決勝トーナメント一番乗りの選手となります!』

 

 挫折する少女、ふんぞり返る少年。

 苦悩する乙女、なぜか不憫な扱いを受ける男。

 決勝トーナメント参加者とは思えない空気の中、司会は観客のために大会の説明に入る。

 

『それでは、決勝トーナメントのルール説明をさせていただきます。今大会は四名によるトーナメント方式の戦闘をランダムに選ばれたフィールドで行ってもらいます。勝利条件は二つ。相手に敗北宣言(リザイン)させるか、相手を倒してしまえば勝利です。なお、“倒す”の明確化についてですが、こちらは意識不明状態が一分以上経過した場合か、運営による蘇生不可能領域に迫るダメージを受けた場合を含む、戦闘続行不可能と見做された場合、敗北したと判断されます』

 

 司会の説明中、スクリーンにトーナメント表が表示され、対戦相手がランダムに決定されていく。

 

 第一試合 八束菫VS小金井正純

 

 第二試合 廿楽弥生VSジーク東郷

 

『ちょうど対戦相手が決定しました! 一日目、第一試合の選手以外は、退場願います』

 

 司会の言葉に、頭を抱えていた弥生とジークはゆっくりとした動作で退場し、そのまま観客席へと向かう。

 それを見送ってから、司会は続きの説明を始める。

 

『そして、バトルフィールドはこちらで厳選された数種類の中からランダムに設定されます。ランダムで設定されたフィールドの中には≪崩壊する浮遊島≫≪水没していく豪華客船≫など、ある種の時間制限が存在する特別なものもございます。設定されたフィールドは時に選手を助け、時に牙をむくことでしょう! 環境をどれだけ味方につけるかも、また戦術の一環となるでしょう!』

 

 フィールド設定の間、正純と菫は思考する。事前にルールを説明されていた二人は、あらゆる戦闘フィールドで、予想される戦闘状況を模索していた。特にこういったことに得意なメンバーが集まるDクラスの正純は、他のクラスメイトの助けもあり、あらゆる戦況を予測することができた。思い出すのは前日の夜、エキシビジョンマッチ後の最後の会議に参加してくれたリヴィナ・シエル・カーテシーのセリフ。

 

 

「まず、正純さんの天敵となるのはAクラスの八束菫さんだと思いますー!」

「八束? 確かにAクラスの筆頭だし、強いのはその通りだろうけど……。天敵と言うほどのことなのか? 俺はてっきり廿楽あたりがそういわれると思ってたけど?」

「確かに廿楽弥生さんは正純さんにとって難敵ですよ? たぶん―――いえ、確実に、彼女と接近戦で勝てる人なんて、それこそ同じCクラスの桜庭健一さんか、もしくはジーク東郷さんくらいでしょう。正純さんなんてほぼ即死級です。サーチ・アンド・ダイ」

「やっぱ廿楽が天敵じゃないかっ⁉」

「逆を返せば、接近さえさせなければ勝機はあります。どうも彼女、飛び道具の類は持っていないようなんです。接近させずに倒しきれば正純さんの勝ち。失敗して近づかれれば弥生さんの勝ち。勝負は互いの得意とする距離を死守できるかにかかっているんです」

「な、なるほど……。それなら確かに天敵と言うほどではないが、難敵ではあるな」

「さらに言うと、ジークさんに対しては攻略法自体は既に確立しているんです」

「え? マジでっ!?」

「同じタイプの権能を持った方がCクラスにいまして、その方が窒息させられて負けたという情報が入っているんです。ですからジークさん相手にも、肉体的な損傷を求めず、行動不能にする手段を用いれば、倒すことはできると判断できます。幸い彼も飛び道具の類はありませんし、むしろ弥生さんよりは相性のいい相手だと思いますよ? ヒヒッ!」

「う~~ん、確かに、考えてみると行けそうな手段はいくつも思いつく。フィールドがかなり突飛な物でも対処できそうな気がする」

「ですが、問題は菫さんです。彼女の剣を自在に操る能力は、とてもシンプルで、そしてシンプル故に強力だと言えます」

「どういうことだ?」

「もうすでに知っていると思いますけど、生徒が一人あたりに与えられる能力の絶対値は決められています。例えば、能力一つの絶対値を10と考えたとき、それらの能力で使用できる技能(スキル)は、その絶対値から割り振りされることになります。そして一つの技能(スキル)に割り振った値が5だとしても、その全てを戦闘で使い切れるわけじゃないんです。正純さんの能力に当てはめると、正純さんの能力『黄道十二宮招来』

は10、そこから技能(スキル)『星霊魔術』に10全てを注ぎ込んだとします。けれど、正純さんの『星霊魔術』は12星座の力をそれぞれ使うと言う物です。つまり、単純計算、割り振られた数字が12分割されてしまうんです。対して菫さんの能力は剣を操るだけというシンプルなもので、10の値全てを十全に発揮できるんですよ。もちろん、実際にはそんな単純な話ではないですけど、ほぼほぼ力の差は参考にできるものだと思います」

「つまり、能力のレベル的に俺の方が不利と、リヴィナはそう推察してるのか?」

「いいえ、これは理由の一つに過ぎません。私が天敵と言っているのは能力の相性です」

「相性? 別にそんなに悪くないと思うけど……?」

「先ほどの弥生さんの例を思い出してください。確かに菫さんは弥生さんほど圧倒的な接近戦特化ではないですが、充分接近戦が可能な能力者です。加えて遠距離戦もできる。解りますか? 菫さんは正純さんに対して、ほぼ完璧に対応できるスタイルであり、ほぼ確実に正純さんより強いんです。もちろん、実際に戦えば一方的な展開になったりはしないでしょうけど、それでも結果的には敗北濃厚でしょう!」

「……ちょっとわかりにくい気もするが、何となく分かったよ。つまり、現状の俺では、相手に上回っている要素が一つもないってことだな?」

「はい。ですが、これは能力のみで戦っている場合に限ってのことです」

 

 

 八束菫は思い出す。エキシビジョンマッチ以前、寝る前の雑談として、何とはなしに東雲カグヤに尋ねてみたのだ。自分が正純に圧倒的に敗北するとしたらそれはどんな状況かと?

「フィールドを絶対的に利用された場合だろうな? あんまりみんな気にしてないけど、能力者の戦闘において、領域を支配できるものは圧倒的に有利になるらしいんだ。大体能力なんて圧倒的な力を持ってるんだ。神の力まで使えちゃう奴が、怪力だの光線だの飛ばせるようになったところで、そんなの“人間”の戦い方だ。圧倒的に勝ちたいならいっそ足場を完全に掌握しちまえばいいんだよ。大地の力を自由に操るとか言ってな? だからそうだな~~、菫で言うなら例えば……」

 

「「水辺のある場所なら、間違いなく小金井正純が有利だ」」

 

 

 フィールド決定のルーレットが緩やかになるのを眺めながら、正純は思う。

(例え運が良かっただけの最強でも、負けて良いなんて思えるはずがない)

 対する菫も、真剣な面持ちでスクリーンを睨みつける。ここまでの間、クラスメイトの大半から考察や訓練に付き合ってもらい、限りない恩恵をもらい続けた。

(こんなに、皆が協力的なの……、ちょっとプレッシャー……。なのに、なんでか心地良い……)

 いつも通りの無表情の中、僅かに口元だけを微笑ませ、水のないフィールドが出てくれることを願う。

(勝利の鍵は、フィールドに水があるか無いか……!)

 正純が祈る様に思考した次の瞬間、ルーレットは停止し、一つの平原がスクリーンに映し出され、視界がそれを説明し始める。

 

『対戦フィールドが決定しました! フィールドは平原! なだらかな斜面はあれど、高低差はなく、障害物と言えば周囲に映えた木々だけですが森と言うほど鬱蒼ともしておりません! 戦闘フィールドと言うこともあり、鳥や動物、“魚”や虫などは存在せず、自然としては不自然な緑の地ではありますが、とても豊かと表現できる土地でしょう』

 

(“魚”? 川か池か……! どっちにしても水辺があるなら可能性が上がった!)

(……。大丈夫、かな……? 星琉あたりの予想、では……、水辺の大きさ次第では、私、でも、埋められるって……言ってた……。平原が、舞台なら……、どのみち有利……)

 わずかな光明に笑む正純。思案顔になりつつも自分の有利性を確認する菫。

 しかし二人の予想は、次の瞬間に同時に裏切られた。

 

『なお、今回はこの広大な平原をエリアで区切り、またもやランダムで決定した場所が、戦闘開始エリアとなります。ランダム設定は同時に行われていますので、対戦者お二人が最初に降り立つエリアはこちらだ!』

 

 表示されたエリアは、25等分された平原エリアでも三分の一近くを占領する、とあるエリアだった。

「うわぁ……、湖のど真ん中だ……」

 思わずガッツポーズをとる正純の隣で、完全に目が死んでしまい、影を背景に作り出している菫だった。

 いったい誰だ? バトルフィールド一つ決めるのに、こんなややこしい仕組みをいくつも注ぎ込む事にした奴は? っと言いたげなげんなり顔で(っと言ってもはたから見れば無表情なのだが)菫は溜息交じりにクラスメイトの助言を思い出す。

 もしも、バトルフィールドが海の上とかだったらどうするかと言う話をした時、いくつかな戦略を推察したのだが、結局のところ、Aクラス全員が最後の一言に結論を見出した。

 

「「「「「「「「「「まあ、あとは好きにやればいいんじゃね?」」」」」」」」」」

 

「そうしよう……」

 一言で気持ちを切り替えた菫は表情を改め(傍からは終始変わってるようには見えないのだが)菫はフィールドへの転移を待つ。

 正純、菫は互いに白い光の粒子に包まれ、アリーナ会場からバトルフィールドへと転移していく。

 

 3

 

 二人が降り立ったのはまさに湖の上だ。一面見渡せど、陸地は遠く、彼らの持てる力でどんなに強化しても、すぐに陸地に辿り着くことは難しそうだ。

 幸い、いきなり水上に叩きつけられるということはなく、僅かな足場の上に着地した。

 菫は軽く足踏みをしてみる。それだけで振動が湖面に伝わり、小さな波紋を作る。どうやら足場そのものも土が盛り上がっているだけで、頑丈ではなさそうだ。軽い『強化再現』を加えた一踏みだけで、簡単に崩れてしまいそうなほど不安定だ。おそらく正面に着地した正純の足場も似たようなものなのだろうと、澄んだ水の底が見えないことを確認して中りをつける。

 二人は視界をぐるりと見渡す。障害物らしい障害物はなく、水深もかなりある。『見鬼(けんき)』を使用して水底を探ってみたが、どうやらここは一番深いところでもあるようだ。

(やっぱり……、最悪のケース……。海の上よりましに見えるけど、岸辺を目指す余裕はなさそう、だし……、これ、は……、陽頼(ひより)の案に、乗る、べきかな……?)

 菫は思い出す。クラスメイトの緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)は、予選でこそ連戦連敗であったが、腐ってもAクラス。彼女もしっかり知識面、戦術について意見をしっかり出していた。

『水辺で戦うことになれば、こちらが圧倒的不利です! だったらシンプル・イ()・ベスト! 単純明快な一手で決めちゃえばいいんですよ!』

『緋頼、“シンプル・イ()・ベスト”だ』←(天笠(あまがさ)(つむぎ)

 

『両者、配置につきました! それでは皆様お待たせいたしました! いよいよ決勝トーナメント第一試合……―――っ!!』

 

 上空にイマジンスクリーンによるカウントダウンが開始される中、正純は桐島美冬の忠告を思い出し―――、構える。

『もし、フィールドが有利なモノになったとしたら、絶対に譲ってはいけないタイミングがあります。そこだけは何としても死守しなければなりません。それは―――』

 菫が剣を抜き、大上段に構える。

 正純は力を行使し、瞳を金色に輝かせる。

 カウントが0になり、二人の脳裏に同時に忠告が思い出される。

「「地形判定無視の、開幕一撃に勝負をかけるっ!!」」

 

『試合開始ーーーーーーッッ!!』

 

「フルアクセルバレットーーーーッ!!」

 剣を振り下ろす菫。それに合わせ『繰糸(マリオネット)』の能力で剣を射出する

剣弾操作(ソードバレット)』を、制御不可能領域まで引き上げた速度で打ち出す。彼我の距離は10メートルと満たない。その間に打ち出された刃は、開始の合図に鳴り響くブザーが鳴りやむより早く水を割り、あっと言う間に10メートルを超す水柱を上げて吹き飛ばす。

 まるでレーザー光線を放たれたかのような爆発に観客達が一斉に湧く中、菫は爆心地を注意深く観察する。

 ―――が、すぐにそれは驚愕の瞳に色を変える。

 立ち昇った水柱が落ち、水煙が広がる中、その存在はあった。

 雲のように白く、鋼の仮面のような顔を持つ壁の獣。小金井正純の『黄道十二宮招来』の一つ、『星霊魔術』により呼び出された『牡羊』は、楯のような壁のような異様な獣の姿をして顕現していた。

「『黄道十二宮招来』『牡羊』、物理的攻撃に対する絶対的な防御。それがこいつの力だ」

 水煙と白い獣の影から、金色の瞳を輝かせる正純。更に片手を軽く振るい、次のモーションに入る。

「そして、先手を制した。これで、俺は安心して舞台が整えられる」

 翳した手から『♒』の形をした紋章が浮き上がり、周囲の水が正純の意思に従うように動く。それは周囲に広がり、湖の中にいるもの全てを包み込むように、ドーム状に広がっていく。それはまるで逆側に突き進む津波のようだ。

「お前の能力は剣を自在に操る能力だろ? でもそれって、水中でも制限なく使用できるのか?」

 途端、大小様々な津波が引き起こされ、それらが一斉に菫を襲った。

「うわ……、やっちゃいけない最悪パターン……」

 この瞬間、小金井正純は勝率が上がったことを確信した。

 

 4

 

「え、あああああぁぁぁぁーーーーーっ!!」

 幾重にも襲い来る津波が次々と両断されていく。

 壁となり、攻撃ともなる津波は、しかし、易々と切り伏せられ、ただの水となって落下していく。

 浅瀬にいるのか、足首ほどを水の中につけて立っている正純は、引き攣った表情でそれを見ていた。八束菫が八本の剣を自分の周囲に旋回するように操り、津波を切り伏せる。その姿はまさに円舞。宙を舞い、剣と踊る剣群操姫(ソード・ダンサー)の姿だった。

 正純とカルラの作戦はこうだった。操作系のイマジンであっても、操作されている物を弾き返すことができるのなら、それは負荷をかければ操ることが困難になるという事。ならば、水の中に落とし、水中戦を強制すれば、剣を自在に操ることは難しくなり、『魚座』の力で自由自在に水中を動き回れる正純の方が有利に立ち回れると言う物だ。

 しかし、ここで一つ誤算があった。それは、八束菫もまた、こうなる可能性を考慮し、対策を立てていた。そう、“空中戦”と言う、対抗手段を!

 宙に操る剣を踏み台にして、菫は三次元の空間を縦横無尽に舞い踊る。幾重にも畳みかける大小さまざまな津波は、菫の操る剣に叩き伏せられ、水鉄砲の様に発射される水流も、まるで蝶のような優雅さでヒラリッと躱してしまう。

「く……っ! これなら……っ!」

 正純は水を操作し、自分の正面に特大の津波を作り出して一気に呑み込もうとする。簡単には切り伏せることのできないほどビックウェーブ。およそ正純が作り出せる最大質量。天高く聳え立つ水の巨壁は、まるで巨人の腕の如く、菫に迫る。

 菫は剣を三本重ねて足場にして、その上に立ち、しっかりと構え、派生能力『繰糸紡ぎ(ボビンズ・ドール)』を発動する。

「『糸巻き(カスタマイズ)』、2重から8重へ……」

 自身の体に糸を巻き付けるようなイメージで、薄く強化を施す能力だが、それは一重ねするだけでも『強化再現』を凌ぐ力を得られる。それは、力任せに剣を振り下ろしたくらいでは、到底切り伏せることなど叶うはずもない大津波を、一刀両断に叩き割るほどの力を見せる。

「嘘だろ……?」

 モーゼの様に割れた津波を前に、さすがの正純も呆然としてしまう。

「なんで、力技で津波を切ったりできるんだよ……? マンガじゃないんだから、普通無理じゃねえか……?」

 口の端が引き攣りながら呟く。その間に、空中に配置した剣を足場に跳んできた菫が、こちらに狙いを定めて突貫してくる。

「剣よ、仇なす者を捉えよ……!」

 『繰糸(マリオネット)』による『剣の繰り手(ダンスマカブル)』を発動する菫。命じられた剣が三本、それぞれ別の軌道で正純へと迫る。一本は切っ先を正純に向けたままジグザクに移動し、一本は手裏剣のように回転しながら弧を描き、一本は軌道を螺旋状に描きながら迫り、相手に狙いを読ませない不規則な動きを見せている。

 『剣の繰り手(ダンスマカブル)』で放たれた菫の剣は、正純の動体視力でも見失わない程度の速力だったが、迫ってくる剣の軌道が全てバラバラであるため、目がその動きに付いていけず、どうしても見失ってしまう。目が良ければ良いほど、一つの動きを追ってしまい、別の全く違う動きを見た時に、脳が追いつけなくなってしまうのだ。

 同じように正純も動きに翻弄され、確実に安全と思われる範囲へと逃げるため、大きく距離をとるしかなくなってしまう。三本の剣が命中し、グレネードでも着弾したのではないかと言う水柱が盛大に上がる。

 大きく飛び退いた正純を空中から捉えていた菫は、彼が『魚座』を発動させ、素早く水中移動される前に、五本の剣を『剣弾操作(ソードバレット)』によって撃ち出し、攻め込んでいく。

 確実に当たるかに見えたその攻撃は、しかし、水面をスケートで滑る様な動きに躱されてしまう。よく見れば、正純の足は足首まで水の中に浸かっていて、その両足に『♓』の印が浮き上がっている。

「『(魚座)』の印……。最初から発動してたんだ……」

「出し惜しみして勝てる相手じゃないことくらい、予選で既に想像できていたさ!」

(でも、これでペナルティー無しの上限一杯、使っちゃった、でしょ……?)

 菫は既に正純の『黄道十二宮招来』で、四つ以上の星座を発動するとペナルティーが発生することを知っていた。予選中の試合内容が学園側が録画していて、そのデータを学生がポイントを消費することで購入が可能となっていた。菫は直接買っていないが、ポイントに余裕のあるAクラスのメンバーが、わざわざ菫のために購入し、見せてくれたのだ。おまけに自分なりの意見付きだ。故に、菫は正純の使用済みの能力は全て把握しているし、そうでない能力にもある程度予測できるようになっている。

 剣の足場を作り、宙を蹴る。接近戦に持ち込みつつ、津波に呑み込まれないように注意しつつ、反撃にも注意を払い、自分の周囲にも剣を旋回させる。

 正純は時々飛ばされる剣を『魚座』で回避しつつ津波で反撃を試みる。本当はもっと複雑に水を操りたいところだが、現状、正純に『水瓶座』でそこまで自在に操るスペックはない。残念ながら決勝トーナメントまでの三日間の間では、そこまで複雑な操作を会得するまでには至れなかった。なので、極端に津波となる攻撃が最も有効。精々水鉄砲くらいは放てるが、それもあまり有効な手段とは言い難い。結果的に正純は空中を飛び回る菫相手に、当たりにくい津波を小刻みに連発しつつ、魚座を使って水面を高速移動するしかできない。

 対する菫も、優勢に見えて実は攻めあぐねていた。

 津波は大小様々だが、斬撃で打ち破るにはそれなりの威力で当てなければならない。下手な威力で剣を放つと、その剣は津波に呑まれて菫の守りと攻撃が一気に薄くなってしまう。そもそも菫の空中行動は、『繰糸(マリオネット)』による『剣の繰り手(ダンスマカブル)』の応用であり、少しでも気を抜くと、足場にしている剣の反発力が足りず、一緒に落ちてしまう。菫が宙に配置した剣を足場にできるのは、剣に乗った菫の体重と反発するように、逆側に押し上げる力を働かせているからだ。そのため菫は正純に対しても自分の能力に対してもずっと神経を張り巡らせ続ける必要がある。実戦仕込みで特訓したとはいえ、さすがに三日間の付け焼刃では、どこでぼろが出てもおかしくない。そのため、菫も下手な攻勢に出ることができず、どうしても慎重にならざるを得ないのである。

 結果二人は互いに攻めあぐね、互いに膠着状態が続くことになってしまっていた。

 

 

「あらら……、これは完全に膠着状態ですね……」

「おやおや、これはちょっと長引きそうですねぇ~?」

 観客席で観戦していたBクラス、カルラ・タケナカと、Cクラス、クラウドは苦笑いと人の悪そうな笑みで同じ意見を口にする。

「うん、これはもう、どう転ぶかわかんないね。もはやこれは持久戦になるだろうね。……もしかして僕の不運が感染(うつ)ったかな?」

「え~? これって何か打開策とかないのかなぁ~?」

 身長160cm小柄なFクラスの少年、ジェラルド・ファンブラーは、なぜかボロボロの状態で、体中に異様な気配を放つお札がくっついている自分の姿を眺めながらぼやき、ピンクの髪が光の加減で七色に輝くEクラスの少女、七色(ナナシキ)異音(コトネ)は、誰にとなく質問を投げかける。

 この時、彼女の隣で、Eクラスの(かなで)ノノカが、他よりも距離が近い異音にたいして少し戸惑っていたりする。それが自分の意識のし過ぎなのか、仲のいい友人としての距離としては当然なのか、むしろ自分には実はそういう気があったのだろうかと、顔だけ赤面させながら、一人悶々と考えていたりする。なお、異音は全く気付いていない。

 カルラは異音の質問に対して「ふむ……っ」とわずかに考える素振りを見せた後、一つの方法を思いつく。

「今の正純さんなら、使用できるはずの方法が一つあります。果たしてそれに思い至るかどうかで、一気に形勢が傾くはずです」

「え? なにそれ? いったいどういう方法なの?」

 疑問をカルラに投げかけつつ、なぜかノノカの方に身体を傾ける異音。そのことに更に顔を赤くするノノカ。

 気付かず、真剣な表情でカルラは言う。

「元々正純さんが水のあるフィールドを求めた理由はフィールドを支配し、相手の自由を奪うことが目的でした。だったら、菫さんをその位置に落とせばいいんです。そうすれば確実に正純さんは有利になれます」

「ふむふむ~? つまり、まさ(、、)ちゃんがそれに思い至るのが先か、すみれん(、、、、)が先に拮抗を崩すのが先か、って勝負なのね?」

 いつの間にか特に親しいわけでもない二人に綽名をつけている異音は、得心したように表情を改めるが、なぜかノノカとの距離をさらに縮め、もはや片腕を抱きしめてしまっている。おまけに顔がノノカの耳元まで近づいているので、息遣いが耳をくすぐり、とても平常心を揺さぶられてしまっているのだが、ここまでくると正常な思考ができず、完全に動揺した表情で固まってしまっている。

(……誰からもツッコミが来ない)

 などと実は内心涙を流している異音であったが、誰にもその声は届くことはなかった。なので、仕方なくどんどんノノカにくっ付いて行っているのだが、膝の上に乗ったあたりでノノカの方は静かに気を失ってしまっていた。

 

 

 そしてこちら、黒野(くろの)詠子(えいこ)、オジマンディアス2世、プリメーラ・ブリュンスタッド、サルナ・コンチェルトがスタジアムの照明付近に陣取った、シオン・アーティアを除くカリスマチーム。こちらも詠子が「シオンだけどこ行った?」と言う疑問を浮かべていたが、ほぼカルラと同じ意見に辿り着いていた。ただし、最後の締めくくりだけが違う。

「確かに、この状況はほぼ膠着。一見、八束菫か小金井正純のどちらかが状況を覆すか……、に、思えるが……」

 っと、オジマンディアス呟くと、それに続くようにプリメーラが嘲笑するように締めくくる。

「イマジネーターの戦いにおいて、“膠着”こそ長く続くはずがない!」

 

 

 プリメーラの言う通り、この膠着は五分と続かなかった。

 先手を取ったのは菫だった。彼女は長引くと自分の方が不利であると悟り、一度空高く舞い上がると、そこから急降下と共に全ての剣を攻撃に転じさせる。『剣の繰り手(ダンスマカブル)』で前後左右上方から一斉に、別々の動きで攻撃を仕掛ける剣の襲撃をかける。まるで目に見えない剣士が八人がかりで正純に襲い掛かってるかのように、全ての剣が独立した動きで攻撃を仕掛けてくる。

 菫の『剣の繰り手(ダンスマカブル)』は、決して自由自在に剣を操る物ではなく、前以って設定しておいた動きを、自動再生しているだけなので、設定している動きを相手に憶えられてしまうと、ただのテレホンパンチになってしまう。なので、菫は一度に三つ以上を同時に再生し、相手に動きを憶えさせないようにしたり、途中まで同じ動きだが、途中から違う動きになるパターンを複数持ち合わせるか、いずれかにしている。だが、それでも勘の良い相手や、Bクラス並み相手なら、時間をかけた分だけ憶えられてしまう。そのため現状、菫の実力では、短期決戦スタイルがどうしても求められてしまうのだ。

 正純は既にいくつかのパターンを見抜いていた。だが、さすがに八パターンの軌跡を描く剣を同時に全て回避するのは不可能に近かった。

「くっそ……っ! 『牡羊』!」

 仕方なく、『牡羊』の楯を展開し、八本中、五本の剣を全て弾き返す。

 だが三本の剣が楯の隙間を縫うように旋回してくる。さすがに、これらはかなり至近にまで迫っているので楯で弾くのは難しい。慌てつつも『魚座』で回避しようと試みるが、完全に躱しきれず、僅かに体に刃が掠めていく。

 そうして態勢が悪くなり、しかも楯を展開したことで視界まで塞いでしまい、菫の姿を一時的に見失ってしまう。その隙を突いた菫が正純の死角に入り込み、直接斬りかかってきた。

「しま……っ!?」

 慌てて両腕をクロスさせ、『強化再現』を全力で“耐久”に回し、重く鋭い一撃を受け止める。分厚く強靭なゴムの様になった腕は、僅かに皮膚を切り付けられたものの、重傷だけは避ける事が叶った。

(一瞬、服の方に『強化再現』をしようかと思ったが、もしそうしてたら、斬撃は完全に防げても、圧力で腕が骨ごともげてたな……っ!)

 殺傷だけでなく、軽い打撲のような痛みを感じながら、正純は『牡羊』を菫の背後に向かって広範囲に展開する。

(……? 先に逃げ道を塞い、だ? 接近戦は私の方、が……有利ですよ?)

 訝しく思い、そのことを頭に置きつつ、好機であることを見逃すことはできず、菫は剣激を更に放つ。今度は足場になる剣が一時的に周囲に散ってしまっているため、自分の手に持っている剣のベクトルを利用して無理矢理浮き上がっている。そのため、菫の剣激は剣士の剣術と言うより、剣に振り回される形になっているのだが、この戦法を使い慣れている菫は、巧みに重心を操り剣の動きと連動するので、まさに剣と共に踊る剣舞となっていた。

 正純も正純で、水上では水を蹴って跳び退くというわけにはいかないので、足首の微妙な動きで『魚座』を操り、立ち泳ぎするイルカの様に菫の剣を躱していく。

 菫の剣舞は、剣自体に推進力を与え、それを巧みな重心移動で連撃につなげるものだ。その動きは地面に足が面する必要性がなく、また、空中の高い位置を陣取るため、放たれる剣はまさに縦横無尽。菫の体も上下左右を無視してコロコロ変わるため、剣士の目からしても、次激(じげき)を予想することが難しい。そのため正純も回避が下がるの一択以外、選ぶことが難しい。

「阻めっ!」

 『♒』の刻印を展開し津波を乱発するが、菫が近すぎるため殆どが無意味に周囲を覆うばかりで菫の進行を阻むことができない。唯一効果があるとしたら、周囲一帯を水柱が上がり続けるので、視界がほとんど水で阻まれるのと、菫の『繰糸(マリオネット)』を広い範囲で展開できず、常に菫の背後で追うようにしている『牡羊』加わり、動きで翻弄することができず、どうしても単調な突進しか命じられない。

(やっぱりおかしい……。こんな無駄な攻撃、を……、ここまで勝ち抜いてきた相手がするわけない……っ!)

 好機ではあったが、疑問の方が強くなった菫は、チャンスを捨ててでも、この場を仕切り直すことを選択した。一度飛び退き、距離を離そうとする。―――が、まるでそれを阻むように『牡羊』と津波が道を阻む。

「……っ!」

(やっぱ、り……! 何か狙われてる……っ!)

 危機を感じ取った菫は『糸巻き(カスタマイズ)』を施した一撃を『牡羊』に見舞い、無理矢理作った隙間に入り込み、更に道を阻もうとした津波を切り伏せていく。

(上空へ……っ!)

 咄嗟に距離を取る方向を上空に選んだのは『直感加速』が発動した故だった。だが、そこには、津波を利用して周り込んでいた正純の姿があった。

「想像以上に早く気付かれたな……! 効果は薄いがこのタイミングでやらせてもらうぞっ!」

 正純が叫ぶと同時に『♒』の紋章がまたもや浮き出る。

 同時に菫は気付いた。自分のいる位置が、最初の湖面の位置より低く(、、)なっている。どうやら気付かれないように水位を下げられていたようだ。その意味するところは―――。

「っ! 『剣弾操作(バレット)』……っ!」

 急ぎ、菫は手に持っている剣を『剣弾操作(ソードバレット)』で別方向に射出し、無理矢理方向転換する。それを連続で行いジグザクに移動することで狙いを付けさせないようにしようとする。

 ―――が、正純もここに来てそれをさせるつもりはない。『水瓶座』と『魚座』のコンビネーションで巧みに動き回り、菫の速度に追いすがる。更に距離が詰まったところで『牡羊座』の楯を広範囲に展開し、菫の行動範囲を一気に狭める。

 面による圧迫で空を封じられ、側面は津波で塞がれ、もはや逃げ道は正面突破しかないと素早く判断し、『糸巻き(カスタマイズ)』と『剣弾操作(ソードバレット)』を纏めて一撃に込めて叩きつける。

 鉄と鉄がぶつかる鈍い音が、まるで銅鑼でも鳴らしたかのように鳴り響く。

 一瞬の拮抗すら待たず、簡単に押しのけられてしまった『牡羊』は「ビメェェ~~~ッ!?」っと言う悲鳴を上げて空高く浮き飛ばされる。

 

 刹那、菫の足が捕まれる。

 

「っ!?」

「楯はお前を押し止めるためじゃない! 視覚を封じて回り込むチャンスを作るためだったんだよっ!」

 菫の体を引っ張り、無理矢理津波の中に引っ張り込むと、そのまま滝の如く落下していく。水流の重みと掴みかかった正純の体重に押され、急激に高度を下げられる中、菫はとっさの判断で『糸巻き(カスタマイズ)』+『強化再現』による頭突きを、正純の額にぶち当てる。

「ぐえ……っ!?」

 思いがけない反撃を受け、取っ組み合いに持っていこうとしていた正純は敢え無く引き剥がされてしまう。

 剣を一閃、剣圧で水流を薙ぎ払い、何とか宙に逃げ出し、『繰糸(マリオネット)』の応用で再び浮き上がる。だが、そこで気づく。自分の視界下方、ほんの五メートル下が()になっている事に……。

 自然、周囲に視線が向かう。周囲一帯は(さかのぼ)る津波に囲まれている。その高さはかなり高く、ビルの高さに匹敵するのではないかと思ってしまう。これほど大きな津波を作るには、さすがの正純でも時間がかかるはずだ。そうでなければ、とっくの昔にこの規模の津波をぶつけられ、なす術もなかった。つまり……、

「水を押し上げたんじゃなくて…、水を割って、内側に落とした……!」

 (とつ)状に水を押し上げるのは力がいる。だが、(おう)状に水を割るのなら、それほど力を必要とはしない。それを利用して凹み部分に敵を落とせば、力を抜いただけで相手は水の中に閉じ込められるというわけだ。

「これで…っ! チェックだっ!」

 ご丁寧に津波で天井に蓋をしてから、正純は全ての激流を菫に向けて叩きつける。

 菫は八本の剣を周囲に展開し、超高速回転させ、防御態勢をとるが、大質量の津波相手には気休めにしかならない。せめて水圧だけでも抑えられないかと思ったが、あまりの激流に耐え切れず、あっさり飲まれてしまった。

(『呼吸再現(フィルター)』……っ!)

 激流に浮いた体をもみくちゃにされながら、菫は『呼吸再現(フィルター)』で水中でも呼吸ができるように努める。だが、いくらイマジン技術的に可能な物でも、さすがに一年生の菫では、水中で地上と変わりなく呼吸することは不可能だった。呼吸しようにも、まるで顔をにクッションで押さえつけられているかのように息苦しく、上手く空気を吸うことができない。おまけに激流が操作され続けているようで、常に体をもみくちゃにされ、態勢を整えることすら難しい。

(お、溺れる……っ!)

 強い激流にあてられ、目を開けていることも辛い。水流でぼやける視界では、周囲の状況を確認するのも困難だ。だから菫は『魚座』で急接近してきた正純の姿に気づけなかった。

 急接近した正純の拳が菫の頬を殴りつける。衝撃に脳が揺さぶられ、いったい何が起こったのかと一瞬混乱をきたす。その混乱が止む暇もなく、正純は縦横無尽に水中を駆け巡り、前後左右上下三次元から次々と攻撃を仕掛けていく。奇しくも先ほどとは立場が逆になる。違いがあるとすれば、菫は水流に流され、剣を操作しようにも強い抵抗を受け、上手く操れず、体の方もまともに動かせず、呼吸すら危険な状況。圧倒的不利にあった。

 そう、この状況こそが、菫が最も回避したく、正純が目的とした風景。小金井正純の必勝スタイルが完成していた。

(これは……っ! どうにも、なんないなぁ~……っ!)

 対抗策を練ろうにも、何一つさせてもらえない状況に、菫は歯噛みすることしかできない。

 

 

 観客席、カルラ・タケナカ、クラウド、ジェラルド・ファンブラー、七色(ナナシキ)異音(コトネ)(かなで)ノノカの五人は、ハラハラしつつも興奮気味に観戦していた。

「正純さんが落としました! これで菫さんは対処しようにも体が動かせません!」

「おおぉ~~っ♪ 見て見てすっごいよぉっ! ノノカノノカ~~!」

 自分とは全く関係ないはずなのに、思わず拳を握ってしまうカルラに、興奮してノノカを胸に抱きしめて窒息させる異音。

「いやはや、これではシャチに弄ばれる獲物のようですねぇ~~?」

「今度は菫さんが不運に……。うう~ん……、脱出方法をいくら考えても、どうにかできそうな案が思い浮かばないなぁ~……」

 可笑しそうに笑いながら観戦するクラウドに、苦笑い気味に観戦するジェラルド・ファンブラー。

 ここに来て、彼らが考えるのは状況の逆転だ。戦況をひっくり返すのはイマジネーターにとって当たり前。それを予想できなければ不利になるのは自分達の方だ。観戦する側にあってもなお、彼らはイマジネーターとして思考を巡らせ、戦い、培っていた。だが、それでも、彼らが知りえる限りの方法では、状況の逆転は難しいと感じた。

(私なら……、いえ、事この状況になってしまえばもはや完全に詰み……。あるとすれば、火力に任せて水を割ってしまうことですが、湖を両断できてしまうような力誰もが持っているわけでは―――)

 カルラは思考中、入学試験の出来事を思い出し、少し遠い目になる。

(まあ、あれくらいの火力があれば、できないこともないですかね……? 実際は打つ前にやられちゃいそうですが……)

 とある車いすに乗った兵器製造少女のことを思い出しながら、それでもやはり不可能だと断じる。他にも、火力を打てそうな人物(あくまでカルラの知る限りの生徒)を思い浮かべてみるが、誰であってもこの状況に追い込まれた時点で敗北必須に思えた。

(いや、でも廿楽弥生さんなら水中戦闘を『ベルセルク』で会得してしまいそうですね。ジークさんは……、あれ? 彼でもこの状況はさすがにまずいのでは? さすがの彼の権能も、窒息には対抗できませんよね? おや……?)

 考えれば考えるほど、この状況はあまりにも理不尽な気がしてきた。水中戦と言うのは、小金井正純が八束菫に勝つ方法として考えた上で思いついた方法であったが、いざ状況を目の当たりにして追加で思考してみれば、これほど理不尽な状況はない。カルラの知る限り、このような状況に陥って、逆転できる存在は、そうそういないように思えた。

 余談だが、カルラは残念ながら情報不足で知らなかったが、黒野詠子や桐島美冬のような、水を自在に操ったり大海ごと凍り付かせてしまうようなウィザードタイプなら、この状況でも簡単にひっくり返せたりする。

「思いつく方法としましては、呪術なので直接正純君の状態に異常を与えることが得策でしょうか? これは直接攻撃タイプにはどうしようもありませんね?」

 クラウドは状況を観察しながら、やはり、菫の敗北を濃厚と考える。カルラも口を出さない中、異音とノノカも同意見と言った感じに神妙な顔立ちになる。

 対して、ジェラルドだけは少しだけ違う意見を持っていた。

(本当にそうかなぁ? これくらいなら僕の不運で良くありそうだし、能力化した今なら、これ以上だって起こせるしなぁ~~……)

 ジェラルド・ファンブラーの能力『凶星の加護』は、元々ジェラルドが有している、ありえないほどの不運がもとになって発現している。それは能力抜きの状態でも相当な不運に見舞われていたらしいのだが、それは能力化した時点でとてつもなく危険視されるものとなった。

 Fクラスに配備される生徒は、等しく全員が、他のクラスの生徒に対して圧倒的に戦闘能力が低く、ともすれば劣等感を抱かされるような物ばかりだが、それと同時に二種類存在に分けられている。一つは特化型過ぎるが故に、その他全てを切り捨てるレベルになってしまい、限られた状況でしかその力を発揮できないため、他のクラスに配置してしまうと、本人の成長を阻害する恐れがあるためだ。

 そしてもう一つ、教師による重点的な監視が必要と判断された生徒だ。

 ジェラルド・ファンブラーの能力は、元々の不運を戦闘可能な物として昇華してしまっている。故に、この能力の対象者はありえない理不尽による、致命的な死亡率が異様に高かったのだ。

 クラス分けは、イマジンシステムにより自動で決められているのだが、これを確認した教師たちは、本来ならDクラスに配置したい彼の能力を“異常”と判断せざるを得ず、少々惜しい気持ちにされた。

 そんな彼の能力でも、同じ状況を引き起こせる。それは、Fクラスとして自分の弱さを痛感しているジェラルドには、決勝トーナメントに上がった優秀者がこれで終わるとはとても思えなかった。

 

 

 そう、それはその通りであった。

 例え、ジェラルドにはその確信を持てず、打開策の一切も思いつかなかったとしても、それは事実として存在し、それを察しているカリスマチームがいた。

 状況的に独り言のように推測しあっていた彼らの言葉をまとめ上げるようにサルナ・コンチェルトは呟く。

「仮に、絶対的不可能な状況に追い込まれたとしても、クラスの代表として出た生徒が、たかだが地形の優劣程度勝敗を決めるなんて、それこそあり得ないわ」

 

 

 八束菫は剣を握る。激流に呑まれる中で、何とか両手に握りしめた剣に渾身のイマジンを注ぎ込み、一気に降りぬく。狙いなどはない。狙う先など決められる状況ではない。だがそんなことは関係ない。なぜなら、斬ってしまえば、何も問題ないのだから。

「『糸切り(イトキリ)』……ッッッ! ぶっ、た切れーーーーっ!!」

 振るわれた斬閃。その速度はたいして早くはなく、その力はそれほど力強くもなく、しかし、込められたイマジンは、確かに現象を具現する。

 

 ザッバンッ!!!

 

 刹那、激流は一瞬にして斜めに両断された。

「……へ?」

 思わず呆けた声を漏らす正純。完全無欠に両断された激流は、モーゼの十戒すら霞むが如く完膚なきまでに一閃され、距離も質量も関係なく割断され、水中を及び回っていた正純を強制的に中空へと投げ出していた。

 右斜め上と左斜め下に分けられた激流は、その勢いも失い、まるで固体であったかのように分かたれてしまっている。

 菫がクラス主席の報酬として得たスキルストックに登録した新しい技能。それはある意味、現段階においては無謀とも言える試み。二つの能力を併用して発動することで一つの技として成立させる『デュアスキル』に近い『襲』であった。

 『繰糸(マリオネット)』と『繰糸紡ぎ(ボビンズ・ドール)』を併用した技能:『糸切り(イトキリ)』。変色ステータスの“見切り”と“剣術”を合わせることで、完成された切断のイメージ、あらゆる権能さえも、イマジンの糸と言う認識の下、切り裂く一太刀、それは、この場に存在する大質量の水を、一閃で(わか)ち、同時に正純の『水瓶座』すら切り伏せる、必殺の一閃。

 正純の正面で『♒』の紋章が斜めに(れっ)し、キンッ! と言うあっけない音を立てて消滅した。ここに来て正純も何が起きたかを理解する。

 だがその時には既に、菫は激流に呑まれていた剣達を呼び戻し、空中の道を作り出していた。そして速い。今までが手加減でもしていたかのような速度で急接近をはかる。

「くそ……っ!」

 だが、正純の対応も早い。そして思いっきりもいい。『水瓶座』が破壊されたと知るや、すぐさま『射手座』を発動。無数に出現した光の矢を惜しみなく放つ。

「っ、ああああああぁぁぁぁーーーー……っ!!」

 菫は裂帛(れっぱく)の咆哮を上げ、光の矢に向けてまっすぐに突進。体をひねりながら回避し、躱せぬ矢は『糸切り』で容赦無く切り裂く。矢は無数に存在するので、『水瓶座』の様に術その物を破壊できるわけではないようだが、矢が通じないという時点でもはやこの能力に意味はないというように、菫は進行速度を落とさない。

 そして、正純の腕に、星座の文様が浮かび上がり始める。正純のペナルティースキル『星の痣』が発動し、五感の一つを奪っていく。正純の視界がぼやけ、次第に光を失っていく。どうやら視覚を失ったのだと理解する。

 菫も、五感のいずれが失われたのか“見切り”のステータスが上手く発動し、看破する。視覚を失ったことで空中での態勢すら維持できなくなりつつある隙を突き、菫は一気に接近、正面から堂々と『糸切り』の刃を振り下ろす。

 『糸切り』はイマジンとして存在する力を糸と言うイメージに置き換えて切断する。それは例え、ジーク東郷の鋼の権能『ドラゴンボディ』であっても切断可能な一撃。まさに必殺の技であり、逃れることは不可能な一撃だ。

 正純は『牡羊座』の楯を展開しても守り切れず、『射手座』ではタイミング的に当てるのは難しく、『水瓶座』は既に破られ、空中では『魚座』も意味をなさない。視界を封じられた今、『直観再現』が発動しても回避すら困難だろう。誰もが菫の逆転劇を疑わなかった。この一瞬で、菫が逆境を覆し、瞬きの間に勝利をもぎ取る。カリスマチームでさえ、その姿を幻視した。

 

 『♌』の紋章が輝き、横合いから飛び出した『獅子座』の獅子が、菫を突き飛ばした。

 

 驚愕に目を見開きながらも、可能性として考えていた菫は、既に配置しておいた『剣の繰り手(ダンスマカブル)』の剣に命令、五つの剣が一斉に正純を四方八方、あらゆる軌道で迫る。

 

 空から奔った流星が、五つの剣を全て叩き落した。

 

 今度こそ、目を丸くして驚く菫に、正純は追撃をかけてくる。

「『山羊座』」

 呟きながら『♑』の紋章を両足に輝かせ、展開した『牡羊座』の楯を足場に蹴り、物凄い勢いで菫へと迫る。

 菫は慌てて獅子に剣を叩きつけ、その勢いを利用して前転するように獅子の背に転がり、足が付くと同時に跳躍、獅子を蹴り落としながら二本の剣を呼び戻し、足場を―――作ろうとして、それら全てが『射手座』の光弾に打ち抜かれ、弾き飛ばされた。

「……っ!?」

 先手を打たれ、足場を失った菫は、手元の剣を『剣の繰り手(ダンスマカブル)』で操り、何とか空中での態勢を整えつつ向かってくる正純に切りつける。

 ―――が、タイミングを合わせたはずの一撃は、紙一重で躱され、クロスカウンター気味に正純の拳が菫へと迫る。

「『牡牛座』『―――』……ッ!」

 『♉』の紋章を宿した拳が避けようと身をひねった菫の方に直撃し、爆発でも起きたのではないかと言う轟音を立てて弾き飛ばす。

 菫は自分が裂してあらわになった水底に叩きつけられ、泥まみれになりながらも転がされていく。地面に直撃する寸前『劣化再現』で衝撃を抑えた物の、そんなものは意にも解さないと言わんばかりの激痛が体全体を襲い、痺れさせていた。

 それでも気合で剣を杖代わりに突き立てながら立ち上がり、『剣の繰り手(ダンスマカブル)』で剣達を展開して備えようとする。

 再び、否、三度剣達は光弾の流星にピンポイントで撃ち抜かれ、それぞれ弾き飛ばされ地面を転がる。驚愕に目を見開く中、地面に着地した正純が正面から菫を()()()|ながら、死刑宣告の様に告げる。

「主席の特権を持ってるのはお前だけじゃない。そしてもちろん、この三日間の間に特訓して強くなったのも、お前だけじゃないんだ。『天体観測』全てを星の力の下、俯瞰した状態で見破る力。それが俺が獲得した技能だ。例え『星の痣』で視覚を奪われても、目で見る以上によく見えるよ」

 そう言いながら正純は『水瓶座』の紋章も出現させ、再び水流を操作し始めている。

 危険を感じ、対応するために空中に逃れようとした菫だが、途端に全身を虚脱感と眩暈が襲った。視界がぼやけ、思わず嘔吐しそうになる気持ちの悪さを感じ、手で口元を押さええる。何とか根性で蹲るのは堪えた物の、自分に襲った以上の原因を推察し、またもや驚愕する。

「毒物……? いつの間に……? ―――!」

 思い出し、正面の正純へと視線を向けると、彼の背中に『♏』の紋章が輝いているのが見て取れた。

「『蠍座』の毒さ。さっき、『牡牛座』の怪力と一緒に打ち込んでおいた。咄嗟だったからそれほど強い毒は打ち込めなかったけど、解毒できない状況では相当きついだろ?」

 ほとんど無表情にしか見えない苦悶の表情を浮かべながら、菫は顔色を白くし、状況的不利を自覚し始める。

「お前の自慢の剣舞は、今の俺には全て見えてる。どんな軌道で撃っても全部『射手座』で撃ち抜いてやるよ。剣で戦おうとしても『獅子座』で襲わせて接近させねえし、仮に接近してきても『牡牛』と『山羊』でしっかり相手してやる。今度は『蠍』の毒も強いのを用意してあるしな。時間稼ぎなんてしない方がいいぜ。毒を食らってる上に『水瓶』も使ってるんだ。時間が経てば、また水中に沈めてまた『魚座』の餌食だぜ。何なら残りの『乙女座』『蟹座』『天秤座』『双子座』も披露してやろうか?」

 告げる正純は余裕の表情ながら、しかし、その瞳に必勝の執念を宿し、強く菫を見据えている。

 Dクラスにおいて、間違いなく最強だと確信した二人のウィザード。その二人を差し置いて決勝トーナメントに出場し、挙句二人に訓練まで付き合わせ、無様な敗北などありえてはいけない。

 Dクラス全員―――特に二人の少女のために、正純は必勝の決意と執念を乗せ、断じるように宣言する。

 

「文字通り、今の俺に死角はねえっ! やれるものならやってみろっ!! Aクラス!」

 

 八束菫は、完全に追い詰められたことを自覚した……。




~あとがき~

≪のん≫「クトゥルTRPGがめっちゃやりたい」

≪弥生≫「ここで言う事じゃないよね……?」

≪カグヤ≫「って言うか、投稿遅くなったの、TRPG動画見まくってたことが原因だよな?」

≪のん≫「うん」

≪弥生≫「素直なら何でも許されるってことはないと思う」

≪カグヤ≫「って言うか、TRPG一緒にやる友達いねえボッチのくせに、一体誰とやるんだよ?」

≪のん≫「おい貴様っ! 今の発言は、全国ニコニコ動画視聴者様全員を敵に回す発言だぞっ! ひかえおろー!」

≪弥生≫「のんさんが一番失礼な発言してると思うよっ!?」

≪カグヤ≫「ごめん」

≪弥生≫「こっちも失礼だったっ!?」

≪のん≫「っと言うわけで、近々クトゥルフTRPGシナリオノベルでも書いてみようかなと思ってる。カグヤくん主人公ね」

≪カグヤ≫「え? ……なんか俺、どこでも出てるな?」

≪のん≫「なのはの二次創作からずっと、君って色々キャラ変更しながらも使いやすいんだよね? 衛宮君みたいな感じ?」

≪弥生≫「きのこさんに謝ってっ! あっちは本物のプロだから! 映画化も何本も出してる超大手だからっ!」

≪カグヤ≫「それに俺の派生、投稿作品としてはなのはの二次創作二つと、このハイスクールでしか出てないだろ? 比べる数も足りてないぞ?」

≪のん≫「まあ、そんなわけで、その内書くと思います。クトゥルフTRPGシナリオノベル『――タイトル未定――』をよろしくお願いします」

≪弥生≫「せめて仮でもタイトルつけてから宣伝してよっ!?」

≪カグヤ≫「って言うか今回の話には触れないのか?」

≪のん≫「入れたい内容がいっぱいあり過ぎて、一話では入りきりませんでした。次回は二人の決着です! そしてその陰で少しずつ動き出すあれやらこれやらの出来事! 目が離せないこと請け合いなのでお楽しみに!」

≪弥生≫「最後だけ取って付けたように付け足したね……」

≪カグヤ≫「このノベル、話の深みが一切ない、バトルするだけの物語のはずなんだが……、そんな大風呂敷広げて消化しきれるのか?」

≪のん≫「あ、大丈夫! なんか新しい職場がすごく居心地よくて、割と元気だから!」

≪弥生&カグヤ≫(ああ……、社会人の職場って、ここまで人間を変える重要なポジションだったんだな……。なんだか嬉し涙が出てきそう……)



せっかく、時間も取れて、良い人ばかりの職場に就いたので、あっちもこっちも頑張りたいと思います!
学校生活よりイキイキしてます! むっちゃ頑張るねっ!

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