ハイスクール・イマジネーション   作:秋宮 のん

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やっと、書き切ったので投稿。
すっかり忘れてたので、新しいスキル獲得希望の方は以下からどうぞ。↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=133151&uid=35209

まだ、添削してませんので、誤字脱字が多いと思うので、その辺は御容赦ください。

【許可が下りたので6のシナリオ追加しました】
【添削終了しました】


一学期 第八試験 【新入生最強決定戦・準備期間】Ⅱ

一学期 第八試験 【新入生最強決定戦・準備期間】Ⅱ

【Fクラス戦・後篇】

 

 

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 下級生達の憩いの場、二階、談話室。そこでは軽やかなバイオリンの調べに合わせた、爽やかな歌声が流れていた。

 茶味がかったショートヘアーに、大きな黒い瞳。黒を基調とした大人し目のワンピースに身を包む少女は(かなで)ノノカは、何処か満足そうな表情でバイオリンを弾いている。その戦慄に合わせ、歌詞の無い歌を歌うのは七色(ナナシキ)異音(コトネ)。長いピンク色の髪が、光の角度により七色に反射させている、幻想的なイマジン変色体を有する、一年生のアイドル少女だ。

 その戦慄に耳を傾けているのは、黒い髪のスポーツ頭の少年、砂山(さやま)(じん)

 身長158センチほど、水色セミロングの髪を持ち、瞳を閉じている少女はソラリス・エーレンベルグ。肩には、何故か逆さ吊りになっていない蝙蝠、キースを連れている。

 彼女の隣で、一緒にソファーに腰掛けているのは、金髪オールバックに、筋肉質な肉体をしている男、クラウド・ジェンドリン 。

 腰まである白い髪と黄金の瞳が特徴的で、身長160cm、黒と蒼を基調としたゴシックドレスを着用している少女はリリアン・トワイライト・エクステラ。

 身長は175cmほどと見られる銀髪に糸目の少年は、逆地(さかち)反行(はんこう)

 以上の五名が、二人の美声と旋律に心を落ち着けていた。歌が終わり、たっぷり五秒ほど余韻に浸ってから、観客達は静かに拍手を送った。

「ありがと~~♪ 伴奏は奏ノノカ、歌手は七色異音が、御送りしました~~♡」

 異音が手を振りながら明るく告げ、ノノカがぺこりとお辞儀をする。五人の観客達も改めて拍手を送った。

 拍手を終え、多少高揚していた砂山(さやま)(じん)は、頷きながら称賛の言葉を贈る。

「いや~、試験中は自分の事で忙しくて聞けなかったけど……、二人とも噂以上だね。今度、俺の作品に使わせてもらいたいくらいだよ。また時間がある時に御話聞かせてもらえたりしないか?」

「もっちろ~~~ん♪ 異音さんはいつでも皆に親しまれるギガフロートの御当地アイドル☆ 御望みとあれば、いくらでもパフォーマンスを見せちゃうっぞ☆」

 ノリノリで返す異音に、尽もご機嫌の笑みを向ける。

「うふふっ、私もとっても楽しませてもらっちゃった」

 白い髪を散らし、黄金の瞳を穏やかに潤ませながら、リリアンも同調する。

「私はAクラスだったから、アナタ達の歌を直接聞けなかったのよね。芸術家としてトップクラスの生徒を何人も輩出してきたEクラスのトップ2コンビの歌を、こんなに早く間近で聞けるなんて、光栄ですね」

「御捻りは、御気持ち次第でっ♪ ファン介入は、プライスレスの御褒美ですっ☆」

「まあ、うふふっ」

 異音の冗談に好意的な笑みを漏らすリリアン。

 和気藹々とした空気の中、自分の手の平を見ていたノノカは、思い出したように皆へと向き直ると、一つ問いかける。

「あ、あの……っ! もう一曲弾いても良いかな?」

 「ええ……っ!?」っと言う驚きの声が上がる。本来、談話室は生徒達の溜まり場であり、気楽に談笑を楽しむための場所である。決して一人の生徒が勝手に楽器を鳴らして良い場所ではない。ノノカも異音も、前以て談話室にいる生徒に確認を取り、むしろ皆から歓迎してもらえたからこそ、こうして我儘を通させてもらっているのだ。っとは言え、既にこの調子で十曲近く付き合っている。普段からトークに慣れている異音でも、授業で歌声を披露する事が多く、そろそろ喉が疲れてくる頃合い。ちょっとで良いから小休憩を取りたいほどだ。無論、声を出すよりは消費するエネルギーが少ないとは言え、ノノカも授業を通して弾きっぱなしだ。疲労を感じていない筈がないだろう。

「え~~っと……、聞かせてもらえるこっちとしては、むしろ感激だけど……、さすがに少し休んだらどうだろう?」

 ノノカの疲労具合を案じて提案する逆地(さかち)反行(はんこう)は、僅かに糸目の片方を僅かに開く。

「ありがとう。でも私、今物凄く弾きたいの。もっともっと、今まで弾けなかった分を取り戻したくて、とっても身体がうずうずして……、胸と指の震えが止まらないの!」

 僅かに興奮気味に胸の前で両手を拳に握る。まるで、新しい玩具をお預けされていた子供の様に、瞳を輝かせていた。

「お願い。皆が良いなら、もう一曲……! ううん! 時間が許す限り引かせてもらいたいかもっ!」

 更に要求するノノカに、少し戸惑いを覚える。少し気になったリリアンは訊ねてみる。

「どうしてそこまでして弾きたがるんです? 試験も終了しましたし、少しはゆっくりしても良いのでは?」

「私、そう言うの考えてません。ああ、いや……っ! もちろん試験は大事に考えてますけど……っ! ただ、私はバイオリンを弾く時に、手を抜いた事はないんです。いつだって全力で弾くし、弾きたいんです。私、とってもバイオリンが好きで……でも、今まで指を怪我して、一生バイオリンを弾けなくなるって言われてしまって……、それでも、好きな事だったから、どうしても諦められなくて、でもどうしようもなくて……、そんな時にイマジンに出会って、全力でバイオリンを弾けた時は、本当に感激でした……」

「そうなんだ……。あれ? じゃあイマジンで怪我も治ったってこと?」

 尽の質問に、ノノカは首を振る。

「残念だけど、そんな簡単に怪我を治せるわけじゃないんです。私は治療系のイマジネーターじゃありませんし。今、バイオリンを弾けているのは、私がイマジネーターとして、最低限必要な機能を確保しようと肉体改善が行われているからなんです。でも、これはイマジネーターの成長本能ですから、完全に怪我が完治するまでには一年は必要になるんです。今、私が『下界』に降りたら、イマジン不足で元の怪我をした手に戻ってしまいます……」

 僅かに憂いを帯びた表情で告げるノノカに、皆、押し黙ってしまう。

 ノノカはここぞとばかりに強く申し出る。

「だからっ! もっともっと、私にバイオリンを弾かせてもらいたいんです! 大好きなバイオリンを思う存分弾ける事が、私の幸せなんです! 私の幸せが、皆にも共有されるのだとしたら、倍も幸せで……! ええっと……、ともかくすっごく幸せなんです!」

 一生懸命に精一杯、言葉を投げかけるノノカに、皆は仕方ないと折れそうになる。しかし、それに待ったをかける(つわもの)がいた。

「ダメだよノノカ。大好きな事でも、ブレーキ管理が出来ないなら、無理はしちゃダメ」

「コ、異音……?」

 異音はノノカに自然な動作で近付くと、まるで抱きしめる様に両手でノノカを包む。ノノカが顔を赤くし戸惑っている隙に身体を寄せ、優しく囁きかける。

「どうしてもって言うなら、後で私が部屋で聴いてあげるから? でも、それでも聞き分けが無いなら、ノノカが逆らえないような事しちゃうよ?」

 いつもと違い、語尾に記号が付かない様な柔らかな声音で囁かれ、ノノカは何だか照れくさい気持ちになって、どんどん赤くなってしまう。視線を合わせられず、必死に逸らしながら問いを返す。

「な、なにする気なの、異音?」

「んっとね……、ノノカが言う事聞いてくれるまで、ずっと声出さない。歌も歌わないし、会話も無音。ずっと仲良くしてあげるけど、無口キャラに路線変更しちゃうっぞ☆」

 パチリッ、片目の瞼を閉じてウインクして見せる。何だか解らないが、とっても恥ずかしい気持ちになったノノカは耳まで赤くして、観念したように息を吐いた。

「異音って、何かズルイ……」

「アイドルは、基本的にずるいんだよ♡」

 異音にここまで言われて決着がついた。さすがにこれ以上食い下がれないと判断したノノカは、大人しく異音に従う事にした。

 そんな二人を見て、クスクスッ、と楽しそうに笑う者がいた。

「さすがのバイオリニストも、アイドルには敵いませんでしたね?」

 ソラリス・エーレンベルグが水色の髪を揺らしながら微笑む。肩に乗った蝙蝠、キースも羽で口元を隠し、ほんのり頬を染めている。

「ソ、ソラリスさん……!」

 恥ずかしくなったノノカが何事か言おうとしたが、彼女の隣に座る強面の少年と目が合い、つい押し黙ってしまった。

 目が合った少年、クラウド・ジェンドリンは、時計を確認して立ち上がる。

「ソラ、そろそろ一度部屋に戻ろう。筆記の課題も出た事だし、ちゃんと処理しておこう」

「はい、クラウドさん」

 クラウドに手を差し出され、その手を借りてゆっくり立ち上がるソラリス。慌ててキースが羽を羽ばたかせると、それだけでソラリスの動きに安定感が出始める。

「それでは、私達はこれで一度……、ノノカさん、よろしければ、また御話ししましょうね」

 手に持っていたハーモニカを胸に抱きながら、ソラリスがノノカに告げる。その事を察したノノカは、また嬉しい様な恥ずかしい様な気持になりつつ「はい!」っと元気よく頷いた。

 

「E、Fクラス! 全員集合~~~!」

 

「黙れ、ソラが怯える……」

 突然の乱入者は、クラウドにあっさり捕まり、片手で首を絞められ持ち上げられていた。登場僅か一行で、彼は失神させられていた。

「ク、クラウドさん……! その方を放してあげてください! 私は大丈夫ですよ……!」

「そうか。ソラがそう言うならそうなのだろう」

 ボトリと無造作に落とされた少年、只野(ただの)(じん)は、口から魂を吐き出しながら、その場に伸びていた。

 ちなみに、これは比喩ではなく、イマジンの満ちる世界でイマジネーターにだけ発生する幻覚で、正しく相手の状況を表わしたエフェクトである。つまり、(じん)が本気で死にかけていることの表れでもある。

「「わぁ~~~~~~っ!?」」

 (じん)反行(はんこう)が慌てる中、ノノカと異音は、互いに顔を見合わせるのだった。

 

 

 1

 

 

 夕刻、職員室奥の面談室にて、黒井(くろい)(しまい)教諭とデスクを挟んで対面するのは、任意呼び出しを受けていた、東雲カグヤとレイチェル・ゲティンクスだ。

 任意の呼び出し、それも放送ではなく、掲示板に張り出した内容にも拘らず、二人は律義にも参上していた。その事に僅かな可笑しさを覚えながら、終教諭は白髪交じりの髪を撫でながら、人の良さそうな笑みを漏らす。

「いや~~、毎度思う事だけど、こうして任意呼び出しに律義に従ってくれて、本当に助かるよ。生徒の自主性を(うた)っているせいで、教師が介入するのが色々面倒事になるからね~。特にこのギガフロートでは、教師は島の最高権力者だ。おいそれと与えられた権能を使う訳にも行かなくてね~」

「“権能”って……、この学園の教師は王族かなんかのシステムなんですか?」

 呆れた調子でカグヤが呟くと、(しまい)教諭は半笑いを浮かべ、否定はしない。既に御歳60を超えているはずなのだが、この教師の顔には、皺らしい皺が殆ど無い。大人の風格こそあれど、石の様に堅そうな皮膚には、歳の衰えをまったく感じさせない。

「まあ、内容を受諾するかどうかは、君達次第なんだけどね? 実は君達を呼び出したのは、トーナメント戦前日に前哨戦として行われる『エキシビションマッチ』に参加してもらえないかと思ってね?」

「ああ……、あの下界で流されるPV映像ですか? 毎年、新入生のトーナメント戦は全国中継されるんでしたっけ? その時にオープニング映像として流される奴ですよね? この三年くらいは、過去の流用みたいでしたが?」

 レイチェルが思い出す様に視線を上に向けながら言うと、終教諭は頷いて続ける。

「知っての通り、エキシビションは完全なボランティア制度だ。勝っても負けても成績には影響しない。もちろん参加しようがしまいが何の得も損もない。強いて損得を上げるなら、学園側から戦いの舞台を整えてあげられると言う事と、ライバルに手の内を晒すと言う事かな? まあ、『決闘』と言うシステムがある以上、得と言えるほどの得でも無いし、新しいスキルを獲得できる月末間近のタイミングで、手の内も何もないんだけどね?」

 損も得も、やはり特になし。

 正真正銘、本気のボランティア戦だと言われ、二人は少々悩ましい感情を抱いた。

 正直に言ってしまえば、互い共、この相手とは戦いたいと言う感情はある。互いに似た性質と能力のイマジン体使役型。どちらが優れているか白黒はっきりさせたい。トーナメント試合に出る機会を失った以上、このエキシビションは渡りに船とも言える。だが、その雌雄を決するのが、単なるエキシビションと言うのはどうなのだろうか? そう言う悩みも同時に浮かぶのも正直なところであった。

 さて、どうしたものかと、二人は顔を見合わせ言葉に窮す。戦いたくないわけではないが、どうにも考えが纏まらない感じだ。正直、ここで断ったとしても彼等に後悔はないだろう。それほどまでに現状は軽い出来事であった。

「五分ほど考えさせてほしい」

「右に同じく」

 レイチェルの提案にカグヤも頷く。

 終教諭を、そうなるだろうと思っていたのか、笑顔で頷いて返す。

 侵入者が訪れたのはその時である。

 バンッ! っと勢い良く扉が開かれ、七三分けの長身の男が侵入してくる。

「入るぞっ! ―――りますっ! 黒井先生に話がある! ―――あります!」

「「とりあえず日本語学んで出直してきやがれ。エセ七三」」

 カグヤとレイチェルの同時突っ込みも無視して、只野(ただの)(じん)は勢い込んで終教諭に迫ると、言い募る。

「トーナメントの管理責任者は黒井先生がしてるって聞いたぞ! ―――聞きました! なんでE、Fクラスはトーナメントに参加できねえんだよっ!? ―――ねえんですかっ!?」

「「いや、ホント、真面目に日本語習え」」

 割と切実な表情で再びツッコミを入れる二人だが、やはり(じん)は取り合わない。

 終教諭は、苦笑いを浮かべつつ、内心呆れたような表情を浮かべていた。

「とりあえずどう言う状況なんだ?」

 話が進まないと判断したのか、レイチェルは扉の向こう、職員室で様子を窺っているE、Fクラス勢の中に紛れていた、クラスメイトのリリアンに質問する事にした。

「私も付いて来ただけの野次馬だから、あまり知ったかぶれないんですけど……、要するに、E、Fクラスにも決勝トーナメントに参加する正当な権利を与えてほしいと言う事らしく……」

 納得したような呆れた様な内容に、二人は何とも言えない気持ちになって宙を仰ぐ。気持ちは解らなくもないし、直談判も否定する程のものではない。ただ、何故こんなに喧嘩腰か? っと、訊ねたい気持ちにはなる。何より、こんな事をしている内に五分が過ぎてしまい、自分達がエキシビションに参加するかどうかの答えを出さなくてはいけなくなってしまった事が、何とも言えない気持ちに拍車をかけていた。

「っで、どうする?」

「黙秘でどうだ?」

「そうするか……」

 レイチェルとカグヤは短いやり取りで方針を決めると、二人揃って案山子に徹する事にした。とりあえず現状を見守る方針だ。

 それを見て取ってから終教諭も、話の相手を(じん)へと移すことにした。

「それで? 学園が既に定めたルールを無視して、トーナメントに参加したいって事で良いのかな?」

「平たく言えば」

「ああ~~……、一応この規定にはちゃんとした意味があるんだけどね? まあ、それを言葉にしても君達には伝わらない事は毎年解ってる事だから……。だからこちらの条件をクリアーできるなら、トーナメントの参加を認めても良いよ?」

「話が早いじゃねえかよ! ―――ねえですかっ!」

「あは~♪ (じん)くん、それ敬語にもなってないよ~?」

「あれって、交渉する気あるのかね~?」

 バーボン・ラックスと妖沢(あやざわ)龍馬(りょうま)の苦言も聞こえていないのか、(じん)は更に教師へと詰め寄る。

「それで何すりゃいいんだよっ!? ―――いいんですかっ!?」

「只野くんはもう敬語諦めた方が良いんじゃないかな?」

「『うん』『その方が』『潔いよね』」

 奏ノノカと球川(たまがわ)(くさび)からも苦言を貰ったが、それでも(じん)はめげない。

 半笑いになりながら、終教諭は毎年出している条件を提示する。

「簡単だよ。E、Fクラスの誰でも良いから、教師立会の元、決闘でA~Dクラスの誰かに勝てばいい。誰か一人でも勝利すれば、その時点今期のトーナメント参加を認めるよ」

「え……、それだけ?」

「それだけで良いよ」

 あまりにあっさり、それも割と現実的に難しくなさそうな条件を聞いて、只野人は呆けてしまう。他のクラスメイト達も一様に戸惑いを見せている。正直、只野人と同じように、トーナメントの参加を声高に要求している者は少ない。それでも、もし参加できるなら、そのチャンスを与えてもらいたいと言うのが本音だ。諦め半分で付いて来た彼等にとって、この提案は、それほど難しい内容には思えなかった。

「ただし、期限がある。決勝トーナメント前哨戦エキシビションマッチ前日までだ。その日になったら、なんと言われようと君達をトーナメントには参加させない。させられない。解ったね」

「ああ、構わねえよ! ―――ねえですっ! ただ一勝するだけでトーナメント参加なんて願ったりだぜ! さっそく決闘を申し込んで―――」

 言い掛けた(じん)の視線がカグヤとレイチェルを捉える。

 「あ、やべ……」っと二人して危機感を感じ取った時には既に遅い。

「まずはお前らからだっ! 勝負しやがれ~~~! ―――しやがってくださいっ!」

 二人は同時に「うへぇ~~~……!」っと言った表情になって後ずさるが、この状況では断るのも難しく、逃げ道はE、Fクラスの集団に塞がれている。しかも、ここには立会人となる教師が腐るほどいる職員室。どうあっても逃げられない。

「レイチェルさんや、お先にどうぞ……」

「いや、今日はアナタに譲ろう……」

「そうか、お前も嫌か……」

「すごく面倒臭い……」

 嫌がる二人を無視して、生徒手帳を突き出しながら詰め寄ってくる(じん)。しかも、何やら他のFクラス勢も戦闘意欲を刺激され始めたらしく、じりじりと間合いを計り始めている。

「―――っと、待てや。お前何処行こうとしてやがる?」

「野次馬に来たのなら最後まで一緒にいようじゃない?」

 こっそり逃げようとしていたリリアンだったが、Aクラス二人を相手にどさくさまぎれの逃亡など叶う筈もなく、強制参加を余儀なくさせられた。

「な、なんで私が……、今日はもうゆっくりしたいと思ってたのに……」

 涙を流しながらも、誰も救いの手は出してくれない。結局彼女もこの事態に巻き込まれ―――、

 

 

 2

 

 

「「「「「何がどうしてこうなった……?」」」」」

 地獄(面倒事)の道連れに、他のクラスからも、Aクラスの巧みな話術に引っかかって巻き込まれた。

「学園の重大事だと聞いて来てみれば……」

 Bクラス、遊間(あすま)零時(れいじ)は、溜息交じりに呆れかえる。

「Fクラス存続の危機だ。―――って聞いたんだけど? いや、協力して良いけど……」

 Bクラス、夕凪(ゆうなぎ)凛音(りおん)は、特に親しくもないAクラスの生徒に親身になって頼まれた割には、何だか拍子抜けの事態に微妙な気持ちになってしまう。

「思う存分、戦えると聞いて来たのは確かですけど……」

 160前後の身長に、金髪碧眼のクォーター少女、Cクラスの(くすのき)(かえで)は、何故か短パン仕様の体操服を着ている。

「ぐす……っ、皆が遊んでくれるって言うから来たのに……、騙された……っ!」

 齢六歳の見た目も中身も正真正銘違法ロリ、原染(はらぞめ)キキが膝を抱えて泣きべそをかき始める。

「ランク入りメンバーの必要行事だと聞いていたはずだが……」

 黒髪で、瞳の色が青の日本人とイタリア人のハーフ、Dクラスベスト5の氷室(ひむろ)凍冶(とうじ)は、何故教師ではなく、Aクラスの生徒の言葉を鵜呑みにしてしまったのかと、今更ながら後悔している。

「て、てめえ……っ! 東雲! お前一体何処からあの情報手に入れやがった……っ!?」

 恐怖に震え上がっている、銀髪を適当に伸ばした少年、風祭冬季は、カグヤの胸倉を掴んで必死に問い詰めている。カグヤは猫かぶりの女性的笑顔を浮かべる。

「さて? 情報とは何の事でしょうか? それはアナタが御姉さんの趣味に付き合わされて着ている執―――」

「どわあああああぁぁぁぁ~~~! ここで口にするんじゃねえ~~~~っ!!」

「自分の姉が、三年生だったのは運の尽きでしょうね~」

「ぐあ……っ! “東雲……神威”、先輩か……! お前らは姉妹揃って悪逆非道だなおいっ!」

「義姉様を悪だと言ったら、この世に比肩する悪が全て消え去ってしまいますが?」

「どんだけなんだよお前の義姉っ!?」

 漫才を始める二人を見て、レイチェルとリリアンは何故か悔しそうに拳を握っていた。

「「く……っ、道連れプラスで弄り倒すとか……っ! カグヤも中々上手いっ!」」

「何について悔しがってるんだよ……」

 決闘に志願したFクラス生徒、森街(もりまち)銀鈴(ぎんれい)は呆れた様に呟く。

「―――っで、最後は私、Bクラスのユリシア・R・A・ローウェルの十名が御相手する事となりました。……リリアンから、この試合が学園の名誉ある物だと聞きました。この試合を全力で務めさせていただきます!」

 腰ほどにもある白銀の髪を後ろで束ねた、エメラルドグリーン(右)とサファイアブルー(左)のオッドアイを持つ、長身の女性、ユリシアが騎士の敬礼をとって終教諭に告げる。やる気はあるようだが、彼女もしっかり騙されている口である。

「はい、皆トーナメントに向けて、クラスメイトのサポートなんかで忙しい中、わざわざ集まってくれてありがとうね。それじゃあ、もう時間も押してるし、皆対戦相手を選んでおくれ」

「なら、まずは言い出しっぺの俺が決める! そこの澄ましたハーフ野郎! 俺と勝負だっ!! ―――勝負だ!」

「言い直して言い直せていないぞ……」

 只野人の御指名を受け、氷室(ひむろ)凍冶(とうじ)は溜息交じりに応える。

 

氷室(ひむろ)凍冶(とうじ)VS只野(ただの)(じん)

 

「じゃあ俺は、そこで嘘っぽい笑い浮かべてる奴にしようかな? なんか俺達と戦うの一番嫌がってそうだし?」

「色々痛感させられた後で、考えさせられているだけなんだけどな……」

 

遊間(あすま)零時(れいじ)VSバーボン・ラックス】

 

「銀髪のあんちゃんは俺の相手よろしく。面白そうだからな」

「俺は心底面倒臭いよ。俺は目立ちたくないって言うのに……」

 

【風祭冬季VS妖沢(あやざわ)龍馬(りょうま)

 

「……貴公は騎士であると窺う? 御相手願えるか?」

「御指名とあらば、喜んで」

 

【ユリシア・R・A・ローウェルVSランスロット・モルディカイ】

 

「アンタは俺の相手してもらおうか? 女を殴るのは性に合わんし」

「解ったよスキンヘッド」

「誰がハゲだコラァッ!?」

「ハゲとは言ってないだろうっ!?」

 

夕凪(ゆうなぎ)凛音(りおん)VS一ツ木(ひとつき)(だん)

 

「丁度良い、アナタとは戦っておきたいと思っていたんです。是非相手をしてもらいますよ?」

「初対面のはずだが、なんか俺恨み買ったか? 思い当たる節はあっても無い事にするが……?」

「ちょっと何言ってるか解りません」

「……これだからFクラスはつまらん」

「なんで物凄く泣きそうな顔になってるんですかっ!?」

 

東雲(しののめ)カグヤVS逆地(さかち)反行(はんこう)

 

「では、アナタの相手は私がさせていただきますね」

「『浅蔵』と言い、『東雲』と言い、私の周囲は、何だか巫女が多いな? 因縁めいたものを感じるよ」

 

【レイチェル・ゲティングスVS御神楽(みかぐら)環奈(かんな)

 

「是非! 是非! 御相手をっ! アナタとやれば、物凄く楽しめそうな気がいたします!!」

錦木(にしきぎ)の花言葉を送りたくなる方ですね」(※危険な遊び)

 

(くすのき)(かえで)VS美海(みうみ)美砂(みさ)

 

「っとなると俺はAクラスのアンタとだな?」

「はい、よろしくお願いしますね」

 

【リリアン・トワイライト・エクステラVS森街(もりまち)銀鈴(ぎんれい)

 

「ひ……っ!?」

「ああ~~~……、余っちゃったから、よろしく。大丈夫。私は強い者にも弱い者にも同じよう闘い苦戦するのだよ………。お前もだがな」

 

原染(はらぞめ)キキVS明菜 理恵】

 

 カードが決まり、場所を移動、学園の校庭で決闘システムを使い、行われる事となった。

「いっちょ、Fクラスの底力を見せてやろうぜ!」

 

 

 3

 

 

 試合ルールは相手を戦闘不能にするか、降参させるかすれば勝利となる、簡単にして実戦的な形式で行われた。立会人の教師は終教諭しかいなかったため、システム上、一試合ずつ、順番はくじ引きで決められる事となった―――のだが……。

 

(くすのき)(かえで)VS美海(みうみ)美砂(みさ)戦。

「ああ~~~っ! 削られるぅ~~! 私の腕が! 脚が! (はらわた)が! 臓物が! チェーンソーでズタズタにされている~~~! うぇへはへははぁ。気持ち良ぃッ! もっとっ! もっと痛めつけてくださいぃっ!」

夾竹桃(キョウチクトウ)の様な愛情表現ですわね……」

 愛用のチェーンソーで切りつける楓に対し、ドМの美砂は、むしろ嬉々として自ら攻撃を受けに言った。自らが口にする様に、腕、脚、腸、臓物を一度に切り裂かれ、盛大な血飛沫を上げ、肉片が飛び散る。

 だが、それだけ盛大なダメージを負いながら、楓が視線を向けた時には、既に全身の再生がほぼほぼ完了している。

(自己再生系の能力者? いえ、そう言う向きではないようですね?)

 一概に言えるわけではないが、治癒系の能力者は、怪我や傷を嫌う傾向にある。好まない物が自分に付属している。その状況を取り除こうとする行為が、イマジンの治癒方法だと言って良い。故に自己再生能力を持つキキは、普通に怪我をするのが怖いし、治癒能力を持つ如月(キサラギ)芽衣(メイ) は、他者が負った傷を(いた)む心を持っている。当然と言えば当然。治癒は怪我を負わせる意思ではなく、癒そうとする意思なのだ。人の理想を反映するイマジンで在るならなおの事、人を労わるイメージで他者を傷つけるなど、結びつくはずがない。

 だが、美砂のそれは、まったく労わりと言う物が存在しない。ジーク東郷の様な不滅の肉体でもなく、人並みの脆さでひたすら再生だけする彼女の能力は、再生能力としても歪さを感じさせた。

 美砂は手を広げ、うっとりした表情で楓に近付いて行く。

「ああぁ……、なんてすばらしい愛なのかしら……。アナタは人を痛めつけるのが御上手なのね……。もっと、もっと凄いのを、見せて下さりませんか……!」

「………」

 何とも言えない表情を取る楓。Cクラス戦の時に感じた戦闘での高揚感が、今は微塵も感じず、どうも調子に乗り損ねている。

 その正体には、案外すぐに理解出来た。出来てしまっているため、楓は「仕方がない」と吐息する。

 踏み込み、交差。チェーンソーの刃で首を切り落とす。刀の様な刃物ではなく、電動鋸の様な刃でズタズタにして切り飛ばしたのだ。血飛沫と一緒に、削られた肉片が飛び散り、かなりのスプラッタが展開。器用に返り血を避けながら、チェーンソーを振るい、血払いをする楓。

 控えていたクラスメイト達も、あまりの惨劇に嘔吐(えず)きそうになる。平気な顔で見ている者も何名かいるが、この学園に於いても、そう言う存在は異端児であろう。

「……やはり、普通に再生するのですね」

 金色の髪を搔き上げながら振り返り、碧の瞳で美砂を見やる楓。そこには、首が繋がり、完全に回復した美砂の姿がある。美砂はニッコリと微笑む。

「はい♡ アナタの与えてくださる痛みを、まんべんなく味わうために、何度でも♡」

 頬を上気させ、うっとりした眼で見つめる美砂。その姿を見て、楓はもう一度、髪を払う度、事も無げに暴いて見せる。

「ダメージをエネルギーに転換し、そのエネルギーを利用して再生しているんですのね」

 楓は既に『見鬼(けんき)』を発動している。美砂に蓄えられているエネルギーを感知し、それが攻撃を受ける前よりも、後の方が大きくなっているのを確認したのだ。

 暴かれた美砂は、それでも笑顔を崩さない。

「正解です。私の能力『被虐神マゾヒディオス』の『被虐神鎧MM』の効果です。私が受けたダメージの一部はエネルギーに転換され、それを利用して体を再生、強化する事が出来るんですよ。例え、首を裂かれようが、全身を切り刻まれようが、燃やされようが、殺されようが、即座に再生する事ができます。全ては皆さんから愛ある暴力を一身に受けるため!」

 キラキラと輝く瞳で告げられ、楓は―――、無表情にその姿を眺める。

「そう……、アナタ既に、壊れてしまっているのね……」

 楠楓は現総理大臣の叔父を持つ御令嬢だ。それ故、色んな人物と関わり合いになってきた。時には金や権力に狂った、異常者すら、彼女の生きる業界では見ようと思えば見えてしまう。そんな世界で狂っていた者達と比べ、美砂は……圧倒的に何かが捻じれ曲がっていた。

 狂っているなどと表現するのは生ぬるい、決定的な何かを捻じ曲げてしまった様な、そんな、“なれの果て”を見ている様な気分だった。

(何より……、私はこの戦いに楽しめそうもありませんわね……)

 ギャップを好む彼女ではあるが、真正のドМに興味があるわけではない。バトルマニアのCクラス生徒だが、一方的に切り刻むのが好きと言うわけではない。故に、楓は、あっさりラストスパートに入った。

 大きくチェーンソーを振り被り、一気に突貫。ノコギリ状の刃がエンジン音を唸らせ、振るい抜かれる。

「『七花八裂(しちかはちれつ)』」

 刹那、閃光乱舞。一瞬にして美砂の体は爆散し、鮮血の飛沫となって霧状に霧散した。

 楓の使用した技『七花八裂(しちかはちれつ)』は、能力とは関係無く、ただ相手をチェーンソーで微塵に切りつけると言う物だが、スキルスロットを一つ消費する事で、本来超常を起こすイマジネーターのリソースを、全て使用する事が出来るようになる。これによって発生する技は、正に必殺技と言って差し支えない代物へと昇華したのだ。

 ただし、本来スキルスロットは、能力を使用するためのパススロット(空き容量)で在り、能力に関係しない物を設定したところで意味はなく、そもそも発動すらしない。楓が使用する事が出来たのは、超常を起こす必要が無く、ただの身体能力でのみ、発動可能だった事が大きい。

 本来ならこんな設定は殴り合いを好むCクラスの生徒でもめったに行わない。何故なら、能力に起因していないスキルなど、能力の劣化版に過ぎないからだ。精々、人として覚えた元々の技を超える事が出来ると言うだけで、能力には匹敵しない力なのだ。

 それでも彼女がこれを選んだのは、単に好みだったからだ。

 だが、それもイマジネーターの一つの正しい形とも言える。己の理想を選び、効率を無視するのは、≪理想主義者≫である『イマジネーター』にとって、決して外れた道ではないのだ。

 文字通り、雲散霧消した美砂だが、ここまで丁寧に破壊されても、赤い霧が独りでに集い、元の肉体を形成して行く。

「うへぇはへぇあへぇ。こんなに丁寧に愛して下さる方なんて、めったに会えません……! ですけど、これでは終わりません。これで終わるなんてもったいない! もっと……! もっと私に―――!」

 ボンッ! 美砂の言葉の途中、小さな爆発が起きる。それも一つや二つではない。脊髄、心臓、脳髄、胃袋、大腸、腕や脚、眼球や口内に至るまで、次々と小さな爆発が起きて止まらない。断続的に続く爆発が、再生する美砂の身体を破壊し続け、死と再生のスパイラル現象を起こしていた。

「『奇想睡蓮(きそうすいれん)』私の最後の能力スキル。水に含まれた酸素を一気に過熱し、一瞬の炎となる事で爆発現象を起こす水属性殺し(ウォーターキラー)の粉末です。人体のおよそ60%以上は水分で出来ていますから、アナタの身体を破壊し尽くした時に大量に混ぜておけば、ほぼ無限ループの業火の花が咲き乱れる事になります」

 楓は髪をかき上げ、つまらなさそうに告げる。

 爆発し続け、身体の自由が全く効かない美砂は、それでも連続する激痛(快感)に、顔を紅潮させていた。

「す、すばらぶべ―――! ……素晴らしいです! あう……っ! でも……! でも、まだ終わっていませんよねっ!? 私は! 私に―――! もっと熱い愛を―――!」

「申し訳ありませんが、御付き合いするつもりはありませんわ」

 ゴン……ッ!

 鈍い音が鳴った瞬間、美砂はぐりんっ、と眼球を動かし、白眼になって地面に倒れ伏した。

 楓は、エンジンを止めたチェーンソーの本体で、美砂の後頭部に打撃を与え、気絶させたのだ。同時、爆発も止み、もう業火の花は咲かなかった。

「元よりそれはアナタの動きを止めるだけの囮です。アナタの攻略法は簡単。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけで、アナタは万人に攻略出来てしまえるんです」

 地面に倒れ伏した美砂に、楓は心底つまらなさそうに呟く。

 この時、彼女は理解してしまったのだ。何故教師がE、Fクラスに決勝トーナメントの権利を与えなかったのか……。理解した楓は、ただただつまらないだけの単純作業を終えた表情で美砂に背を向け、そのまま立ち去ってしまった。

京鹿子(きょうがのこ)の花言葉は……、とてもお似合いですね……」

 

 

 楓が一人で先に帰ってしまった事で、Fクラスから「なんだよアイツ?」っ的な空気こそ発生してしまった物の、元々騙されて無理に引っ張り出されてきた口だ。役目が終われば即解散と言うのも悪い事ではないだろうと終教諭にフォローされ、遊間(あすま)零時(れいじ)VSバーボン・ラックスの試合が続けて行われた―――のだが……。

「『八咫烏(やたがらす)』」

「ぐえ……?」

 零時が眼を見開き、一族に伝わる瞳術を発動する。

 以前、Bクラス戦でも説明した通り、イマジネーターになる前に有している経験は、イマジネーターとしての能力の妨げになる事が大きい。現実のイメージが、理想のイメージを阻害してしまうからだ。故に、零時の瞳術は、Bクラス戦では、あまり出番が無かったのだが……。

「がふ……っ」

 始めの合図と同時に正面に立つバーボン相手に、挨拶代わりに放った幻術は諸に食らい、幻術世界でとんでもないストレスを与えられ、そのまま倒れてしまった。

「そこまで。勝者、遊間零時」

「……え?」

 一瞬で勝負がついた。

 バーボンの能力『正体不明(アンノウン)』を見せる暇どころか、一歩も動かずに決着がついてしまった。

「そ、そう言う事……」

 決着を見て、零時も楓同様に理解し、呆れたような表情になると、やはり楓同様にそのまま立ち去ってしまった。

 

 

「まったく、なんだよアイツ等? 無理矢理連れて来られたからってさっさと消えるって礼儀としてどうなんだよ?」

 一ツ木(ひとつき)(だん)はボヤキ気味に呟き、拳を構える。夕凪(ゆうなぎ)凛音(りおん)VS一ツ木(ひとつき)(だん)の試合だ。凛音(りおん)は青い髪を搔き揚げる様に掻くと、少し困ったような表情で苦笑いを浮かべる。

「なんか悪いな? あの二人も悪気があったわけじゃないと思うんだ」

「あん? いいさ。お前が謝る事じゃないだろう?」

 一応凛音(りおん)がフォローを入れ、それを(だん)が受け入れたところで試合が開始される。先手で飛び出したのは(だん)だ。開幕速攻で地面を蹴り、拳を突き出す。その一撃を危なげなく躱す凛音(りおん)。途端、空を切った拳が、空気の壁を殴りつけ、とんでもない衝撃波となって突き抜ける。その余波だけで十五メートル先にまで破壊の爪跡を刻む。(だん)の能力『一撃男(ワンパンマン)』による『一撃必殺』の効果だ。彼の拳は、ともかく一発当てるだけで相手を強制的に倒す事の出来る効果を秘めている。故に単純な攻撃力ではなく、防御したところで防ぎ切るのは不可能だ。

 その危険性を『直感再現』で感じ取った凛音(りおん)は、距離をとるためバックステップを踏む。

「逃がさねえよ」

 (だん)が追い掛けて拳を突き出す。

 躱す凛音(りおん)。破裂する空気に殴られ、僅かに体勢を崩しかけるが、『強化再現』で強化した身体能力を無理矢理行使して跳躍する様にバックステップ。なんとか体勢を立て直し、(だん)の追撃を剣でいなす。

 凛音(りおん)が光を纏う剣を抜いた時点で、状況は一気に一変した。まず、凛音(りおん)の速度が単純に速くなり、(だん)の拳がかすりもしなくなる。これによって今度は凛音(りおん)にも攻撃のチャンスが生まれ、何度か斬激が叩き込まれるようになった。(だん)もなんとか『強化再現』を防御に回して防いでいるが、クリーンヒットする回数が徐々に増えて行く。

 その光剣こそ、凛音(りおん)の能力『極光の波動』による『極光の波動:剣閃(ライトニングウェイブ=スラッシャー)』であった。その効果は、物理攻撃力、属性攻撃力を上げると共に、攻撃のスピードが僅かに上がる。と言う単純な物だったが、(だん)を圧倒するには充分な効果だった。

「く、くそ……っ!」

(だん)! がんばれ~~!」

 苦悶の表情を浮かべる(だん)は、クラスメイトから声援を送られ、何とかしようと拳を突き出し、フェイントや撹乱を試みるが、凛音は危なげなく対処する。途中、何度か引っかかりそうにこそなる物の、致命的なミスになる事は無く着々とダメージを積み上げ―――……。

「ぐ……、ぐあ……っ」

 ついに立っていられなくなった(だん)は膝を付いてしまい。そこに大きな一撃を叩き込まれて気を失ってしまうのだった。

 決着が付き、そして凛音も他の二人同様に理解する。

 なるほど、これはFクラスにトーナメントをさせるわけにはいかないと……。

 

 

 原染(はらぞめ)キキと戦う事になった明菜理恵は、微妙な面持ちとなっていた。

(う~~ん……、本来彼女と戦うの、私じゃなくて叉多比(またたび)和樹(かずき)だったんだけど、それ潰しちゃったなぁ~~……。まあ、それは良いとしても……)

 彼女は正面で震えながら拳を握る五歳児に対し、どうした物かと思い悩んでしまう。

 他のFクラスと違い、この先の展開をある程度知っている理恵としては、この戦いに対して全力を尽くしたいと考えることにしたのだが、まさか相手が非合法ロリになるとは、やり難い事この上なかった。

(まあ、たぶん、それでも結果は同じ感じになるんだろうけどね……)

 この先の展開の予想に多少辟易した思いを抱いてしまう。それでも実際に自分で体験しようと決めたのは自分だ。気合いを入れ直し、開始の合図と共に彼女は告げる。

「私は強い者にも弱い者にも同じよう闘い苦戦するのだよ………お前もだがな!」

 ビクつき、反応が遅れるキキに対し、理恵は能力を発動する。

「現実と言う物を思い知れっ!」

 見た目には何も変化は見られない。しかし、確実に何かが起こった事だけは伝わった。理恵の力は、その現象が目視できないタイプの物で、基本的に空間に作用し、無差別に効果を与える物だ。

 何をされたのか解らなかったキキは、相手の出方を見る様な悠長な事をしているのは危険と判断し、先手を打つように飛び出す。『強化再現』により強化した脚力で一気に跳躍し、一足跳びに理恵へと接近―――出来ずに地面に転がってしまった。

「にゅきゅ……っ!」

 可愛らしい悲鳴を上げ、ステンッ! と、実に子供らしくこけた。

 しばらくして、顔を上げたキキの表情は、土で汚れ、眼に涙をいっぱい溜めて、今にも泣き出しそうな雰囲気だった。

 「あ、やばっ、泣かせた?」っと、心配になった理恵だったが、勇敢にもキキは袖で涙を拭って立ち上がった。

「ふん……っ!」

 鼻息一つ、涙をグッと堪えた姿に、観衆だけに飽き足らず、対戦者の理恵に審判役の教師まで涙ぐませる意地らしさを見せた。

「な、なんで……、強化出来ないの……っ!?」

 涙目で訴えるキキに、僅かな良心の呵責を覚えながら、理恵は告げる。

「私の唯一の能力『現実法則』は、私を含む全ての人間がイマジンの存在しない現実の法則に縛られる! 『強化再現』をしても、現実的にありえない強化は不可能なのさ!」

 「ほぉ~……!」っと言う感心した様な声が何処かから漏れた。彼女の能力がただの無効化能力ではなく、自分の現実を相手に押し付けるタイプだと言うのを理解した者がいたのだろう。ただ単純に、相手の力を打ち消すのではなく、自分の常識の範疇に収めてしまうこの能力は、実は理恵自身が思っている以上に強力かつ強大な能力だ。イマジンの戦いは自分の理想の押し付け合い。それを地でいき、完成させているのだ。イマジネーターとして、彼女は既に最強の能力者とも言える。

「ず、ずるい……っ! イマジンの学校なのに、イマジン使わないなんてズルっ子!」

「「「あ、確かに……」」」

 キキの子供っぽい発言に、観衆だけに飽き足らず、教師まで頷いてしまった。

「いやいや! これも能力だから! しっかりイマジン使ってるからな!」

 危うく反則負けを食らいそうな気配に危機感を覚えた理恵が必死に弁明する。終教諭は笑顔で手を振り、大丈夫だと伝える。

「ま、負けないもん……っ!」

 そう言って無茶苦茶に拳を振り回して突撃してくるキキに、理恵はどうした物かと悩んでしまう。とりあえず傷付けない様に頭でも押さえておけばいいだろうかと考える。さすがにこのリアル幼女を殴り飛ばすのは犯罪めいて出来ない。

「……!」

 しかし、キキは、自分の頭に手が添えられる寸前、イマジネーターとしての“直感”(この場合は『直感再現』ではない)が働き、咄嗟に手を躱そうと体勢を下げ―――、そのまま勢い余ってキキの頭部が理恵の腹部に深々と刺さった。

「ぶぐ……っ!?」

 油断していた事もあり、予想以上のダメージに悶えながら、理恵はバックステップで距離を取る。

(い、いけない、忘れてた……。“こう言う風に負けるんだった”。油断せずに真面目にやらんと……)

 気を取り直した理恵は、表情を改め、しっかりと構えをとる。

 対するキキも、思わぬ事が攻撃になったと事に戸惑いながらも、彼女なりに構えを取り直す。

「拳の作りがなってねぇ……」

「構え適当~♪」

「背丈の差を考慮してなくても立ち位置が悪いな……」

「幼児と素人相手に容赦無さ過ぎですよ皆さん……!」

 (だん)、バーボン、カグヤがそれぞれ、二人の構えて対峙する姿に苦言を漏らし、彼女達の精神を外側から削りに掛る。唯一環奈だけがフォローを入れるが、二人の助けにはならない。

 周囲の野次に耐えきれず、理恵は早めに戦闘を終わらせようと攻勢に出る。

「やっ!」

 素人喧嘩のローキック。だが、彼女の能力で異質な能力は発動できないキキにとっては、見た目通り子供と大人の戦い。力任せのキックでさえ、驚異だ。

「ひぃう……っ!?」

 キキは慌てて、両手をガードし、蹴りを受け止める。かなり重い衝撃が伝わり、コロコロと地面を転がってしまう。それを追撃する理恵。彼女に覆いかぶさるようにして飛び付き、組敷こうとする。

「や、やぁ……っ!」

 キキは『直感再現』に従い、我武者羅に手を突き出す。

 ガスッ! 手に伝わる衝撃。ビックリしたキキが思わず瞑ってしまっていた目を開いて確認すると、キキの突き出した手が、飛び込んできた理恵に対し、上手い事カウンター気味に決まっていた。しかも見事に顎を掠める位置で在り、骨を伝って脳を揺すられ、脳震盪を起こした理恵は、そのままゆっくりと力尽きてしまう。意識が刈り取られる瞬間、彼女は思う。

(予想はしてたし……、知ってたけど……、ちょっとこれは本気で理不尽だ……!)

 目の幅涙を流しながら、彼女は気を失うのだった。

 

 

 その後の試合結果も、Fクラスにとっては散々な物となり果てる。

 リリアン・トワイライト・エクステラVS森街(もりまち)銀鈴(ぎんれい)の試合は、銀鈴が『一所懸命』の能力の兼ね合わせに使用する、居合の構えを取った。彼の唯一の特技であり、最強の切り札とも言える居合は能力のおかげで半径20メートル範囲なら何処にだって斬激を飛ばす事が出来た。しかし……、

「何をしても無駄ですよ」

 銀鈴の創り出した領域に彼女が踏み込んだ瞬間、その領域はあっさり消滅してしまい、同時に放った斬激は容易く躱され、拳の一撃を貰った昏倒させられてしまった。

 リリアンの能力『イマジンロード』による『イマジンブレイカー』は、全てのイマジンを無効化する能力があり、銀鈴の唯一の能力は、あっさり破られてしまったと言う事だ。

「ひ、ひでぇ……、がく……っ」

 

 

 続く試合は、風祭冬季VS妖沢(あやざわ)龍馬(りょうま)となる。

 冬季はDクラスの生徒らしく、その能力『フォトン』は、物質を粒子化し、粒子化した物質を再び具現化すると言う魔術的な能力者であり、対する龍馬の能力『万能殺し(イマジンスレイヤー)』は無効化能力であったため、冬季の攻撃は殆ど、彼の右腕、『万能消却(イマジンバニッシュ)』によって打ち消されてしまった。

 見るからに相性が良く、初めてFクラスが善戦するかに思え、観衆も「おぉ……っ!」と僅かにどよめいた。

「武器を変更する」

 そう言って冬季が新たに具現化したのは、鎖付きの棒で、鎖の先には棘付きの重たい鉄球が繋がっている。モーニングスターと呼ばれる、鉄球を振り回す武器だった。

(わり)ぃが、能力で作ってる武器なら、なんだろうと……―――っ!」

 モーニングスターを振り回し、遠心力を利用して一気に叩き降ろす冬季に対し、龍馬は固く握った拳を、棘付き鉄球に向けて振り上げる。鉄球が龍馬の右腕に触れた瞬間、それは消滅し、霧状の緑色の粒子を一瞬だけ散らして消え去った。

「―――効かねえぜっ!」

「はい、掛った」

 ガシッ!

 モーニングスターを破壊するため突き出した龍馬の右腕を、冬季は片腕で捕まえ、腕の自由を封じる。その動作と同時にもう片方の手に再び武器を具現化。銃の形状をした射出型有線式スタンガンを作り出し、あっさり引き金を引いた。

「げ……ッ!?」

 ケーブルの先端が龍馬の胴体に接触する寸前、なんとか逃げようと体を退くが、彼の腕を掴んだ冬季がそれをさせない。次の瞬間、盛大な発光と共に、黒焦げになった龍馬は地面に倒れ伏した。

「げ、げほ……っ! これ、電圧……、強過ぎ、ない……?」

「イマジネーター対策のが購買部に売っていたので」

「な、なるほど……、でも、一つだけいいか……?」

「なに?」

「なんで、お前……、執事服……なん、だよ……? がく……っ」

「放っておけっ!!」

 気を失う前に一応一矢報いた(?)龍馬だった。

 

 

 更に続いて、レイチェル・ゲティングスVS御神楽(みかぐら)環奈(かんな)との試合。

 レイチェルは最初、『ソロモンの鍵』の能力で、悪魔アスモデウスを召喚。とりあえず普通に攻撃させて見た。

「アンタ本当にウザい……! 宗教が違うとは言え、私の前で神職者が偉そうにすんじゃないわよ! せめて男にしなさいよ!」

 自身が悪魔と言う性質の所為か、巫女である環奈に対し、敵意を見せるアスモデウス。若干、個人的嗜好が混じっている様な気もするが、それは置いておく。

 固有イマジン体としての能力スキル『焔』により、両手から炎を作り出し自在に操ると、炎を龍の様な形に変え、環奈に襲わせた。

 すかさず環奈も能力を発動する。

「 高天原(たかまがはら)神留座(かむづまりま)す 神魯伎神魯美(かむろぎかむろみ)詔以(みこともち)て 諸々(もろもろ)枉事(まがごと)罪穢(つみけが)れを(はら)(たま)へ清め(たま)へと申す事の(よし)を 八百萬(やおよろず)神達共(かみたちとも)聞食(きこしめ)せと(かしこ)(かしこ)み申す 」

 環奈が指を組み、印を結び、力ある(ことば)を唱えると、アスモデウスの炎は忽ち勢いを失い、まるで蛇のように細くなった。環奈は『強化再現』で身体能力を上昇させ、これを難なく躱して見せる。

 これが環奈の能力『神代の巫女』による『神落とし』だ。神格を持つ物に対し、その神格を弱体化させる。神としての力を弱め、超常の力を通常の域に貶める。それが彼女の力だ。

 『神格』と聞くと、相手が悪魔のアスモデウスには有していない属性に思えるかもしれないが、『神格』とは、つまり人々から畏敬の類。簡単に言ってしまうと、良い悪いを含めた人気の事だ。神として崇められる事も、悪魔として恐れられる事も、どちらも『神格』としては正しい。もちろん、人気があれば『神格』を得られると言うわけではなく、それに見合った功績を立てる事も必要とされている。そう言う意味では、アスモデウスには『神格』を有するだけの“歴史”を充分に持っていた。更に『身滌大祓(みそぎのおおはらえ)』の祝詞を唱える事により、魔の力を清める効果を追加したのは、環奈のアドリブであったが、見事な相乗効果を発揮していた。

 アスモデウスは、まるで乗り物酔いでもしたかのような真っ青な顔になって胸と口を押さえて身を屈めていた。

「うえ……っ、ヤバ……、マジで気持ち悪い……」

「いいわ、退がってアスモデウス」

 今にも吐きそうな僕に対し、レイチェルはあっさり退却させる。

「アナタが魔を用いた力を使う限り、私には勝てませんよ!」

 環奈は油断なく構え、レイチェルが次に出るであろう一手に備える。

「おおっ!? なんか今度こそ行けそうじゃないか?」

 能力による相性の差は絶対的。どうあっても覆し様がない。ここに来てFクラス優勢の兆しに、僅かに沸くFクラスであったが―――、

「なら、この手はどうだ?」

 レイチェルは慌てることなく、腰のポーチからシトリーの紋章が刻まれたカードを取り出す。

 

【挿絵表示】

 

 イマジンを流し込まれたカードが青い輝きを放ち、紋章を中心に野球ボールくらいの水弾が発射される。

「え? あれ? わぷ……っ!」

 咄嗟に祝詞無しの『神落とし』を使用する環奈だったが、効果は発揮されず、諸に水弾を受けてしまう。

「ど、どうし……ごぼごぼっ!?」

 戸惑いの声を上げる前に、環奈に命中した水が独りでに集まり、彼女の口と鼻を塞ごうとする。咄嗟に手で払いのける。払えば簡単に剥ぎ取れるが、元が水の所為かすぐに集まってきて、呼吸器官を封じに掛る。

「ぷは……っ! ぱは……っ!」

 なんとか手で払いのけながら息継ぎを繰り返すが、この間にもレイチェルがどんどん水弾を放ってくるので、身体に纏わりつく水の数が増え、抵抗が難しくなっていく。

(く、苦しい……っ!)

 まだ切り札を有している環奈であったが、頭の隅にそれが浮かんでも、呼吸困難で意識を刈り取られ、まったく集中できず、能力を上手く使用出来ない。

「『劣化再現』だ。カグヤも金剛との決闘時に使っていただろ? シトリーの水の力を一部分だけ取り出して使用した。これはもう魔法のレベルだから、神格は纏わない。お前の力は神には強いが、神ならざる物にはてんで弱いな」

 レイチェルが環奈を看破する様に告げるのと、彼女が気絶して倒れたのは、ほぼ同時の事であった。

 

 

 ユリシア・R・A・ローウェルVSランスロット・モルディカイの試合は、やっと見応えのある試合となった。

 ランスロットは『腐敗の騎士』の能力で作り出した『腐食の剣』にて、攻撃を仕掛ける。見た目は錆びついたレイピアであったが、案外頑丈で、ユリシアが『刀剣創造(ブレード・クリエイト)』の能力で作り出したワンハンドソードとまともに打ち合っている。しかもそれだけではない。

「な……っ!?」

 異変に気付いたユリシアは、もう片方の手に、片手では扱いきれそうにないグレートソードを作り出し、力任せに叩きつけ、その衝撃を利用してなんとか互いに距離を作る。

 ユリシアは警戒しつつもワンハンドソードをエメラルドグリーンとサファイアブルーの瞳で刀身を確認する。ついさっき創り出したばかりの剣は、大して手入れもせず、長年使い込んだ後の様に、錆びつき、刃がボロボロになっていた。

「アナタの剣は、斬った物を錆びつかせる能力があるのですね」

「…………否、我ノ剣ハ、ソレダケニ在ラズ」

 ランスロットがレイピアを地面に刺すと、その切っ先が触れている場所から、地面がじわじわと腐り始めて行く。有効範囲こそ小さい物の、触れればひとたまりもなさそうなのは、火を見るより明らかだった。

「そう言う事なら……、趣味ではありませんが、数を使わせてもらうとしましょう!」

 ユリシアが飛び出し、手に持っていた剣を二本とも捨て、新しくロングソードを二本呼び出し、剣激をしかける。

 ランスロットの『腐食の剣』の効果で、打ち合ったユリシアの剣は次々と錆びて崩れ去っていく。その度にユリシアは新たな剣を作り出し、猛然と仕掛けて行く。

「おおっ! まるでCクラスみたいな展開になってきたなぁっ!」

 スタンガンで黒焦げアフロ状態になってしまった龍馬が、友人のバーボンに手伝ってもらい、髪を元に戻そうとしている最中、多少興奮気味に声を漏らす。

「「比べるなよ……」」

 カグヤとレイチェルが同時に呆れた声を漏らした時、ユリシアの一閃がランスロットの腹部を切り裂いた。

「グウ……ッ!」

 なんとか耐え、追撃されぬように剣撃を放つ。しかし、コツを掴み始めたかのようにユリシアは片方の剣で巧みにレイピアを受け止め、もう片方の剣で、確実にランスロットの身体を傷つけて行く。圧倒的な剣術スキルの差だ。剣で戦う土俵では、ランスロットはユリシアには勝てない。それほどに剣術の差が大きく開いていては、とてもCクラスの戦いとは比べられない。

 ドシャァッ!

 ―――突然、ランスロットの身体が独りでに崩れ去った。

 さすがに驚いたユリシアが距離を離す。すると、崩れ去ったはずのランスロットの体は、削れた断面からボコボコと肉が泡のように膨れ上がり、傷を塞ぎ、新たな肉体を形成していた。これが『腐敗の騎士』のもう一つの力『腐敗身話』。一定以上のダメージを受けると、勝手に腐敗が進み、崩れ去り、新たな肉体が生成される疑似アンデット化を果たす技能。

「…………我ハ死ナン。コノ身ガ死ト隣合ウ限リ」

 ランスロットが(レイピア)を振り抜く。二本の剣を交差させて受け止めたユリシアだったが、予想外の衝撃が剣を叩き折り、彼女の体を遠く後方へと押しのける。地面を転がり、大きく土煙を立ち上らせる。やっと勢いが殺された所で、ゆっくりと立ち上がったユリシアは、自分の体を確認する。

(腐敗は、無し……。直接斬られずには済んだようですね……。しかし、今の一撃は……)

 まるで巨大な斧でも叩きつけられたかのような衝撃を思い出し、推測を立てる。

「腐敗した肉体。疑似的なアンデット化をする事による不死身性。つまり、痛覚を遮断し、脳のリミッターを外す事で、肉体が堪えられない限界を無視した攻撃が可能と言う事ですか」

 確信を持ってユリシアは看破する。

 イマジネーターの戦闘は、相手の能力を看破するのが最低限必要とされるスキルだ。Bクラスのユリシアにはその技能は充分に有していた。

「イマジンはイメージに左右されます。ならば、その見た目や不死身の特性から考えて……、この剣は、どうでしょうか?」

 ユリシアが手を翳す。光が瞬き、集い、極光となり、それがそのまま剣の形として圧縮されるかのように圧縮され、一振りの巨大な剣が作り出される。重く、厚く、光が形になったかのように輝く刀身を持った両手持ちの剣。それをしっかりと両手で柄を掴み、腰を低くして構える。

「派生能力『神なる聖剣(エクスカリバー・グレイス)』」

 彼女の能力『刀剣創造(ブレード・クリエイト)』は、あらゆる剣を作り出すことのできる能力だ。だが、今創り出したこの剣だけは、事情が違う。『刀剣創造(ブレード・クリエイト)』から派生した能力であり、スキルスロット一つ分を使用した一品物。この剣をEクラスの火元(ヒノモト)(ツカサ)辺りが見ていたら、悔しそうな表情で叫んでいた事だろう。

 

「ちくしょう~~~っ! どう足掻いたら、そんなレベルの剣を作れるんだよ~~~っ!? 神話クラスをホイホイ創り出してんじゃね~~~っ!」

 

 ―――と。

 ユリシアが地を蹴る。

 煌めく一閃は、正に閃光。

 ランスロットの右腕が飛ぶ。傷口が輝きに燃え上がり、浄化されるが如く白い煙を上げる。

 たったの一撃で立っていられなくなったランスロットは、そのまま崩れ落ち、眼を見開きながら半ば放心状態へと陥っていた。

「伝説の聖剣『エクスカリバー』の名を模したのは伊達ではありません。この剣は、真実聖剣です。予想通り聖属性を弱点として持っていたらしいアナタには、これ以上ない天敵でしょうね」

 ランスロットは、Fクラスの中でも相当な実力者だった。しかし、弱点となる属性を受け、既に意識を保つ事が難しくなった今、彼に勝機は微塵も残されていなかった。

「そこまでっ! この試合は教師権限でユリシア・レイン・アルヴィル・ローウェルの勝利とする!」

 ついに教師から待ったが掛り、ユリシアの勝利宣言がなされた。

 ランスロットは何も答える事が出来ず、ただ静かにその場で地に伏した。

 

 

 氷室(ひむろ)凍冶(とうじ)VS只野(ただの)(じん)

「ったく……! なんだよ。結局、皆ボロ負けじゃねえかよ……! こうなったら、何が何でも俺が勝たねえといけねえみたいだな! ―――みたいですね!」

「……悪い、なんか聞き取り難いからその喋り方やめてくれないか?」

「……ぶっ殺す!」

「……解ったが、普通に口が悪いだけになってしまうな……」

 凍冶の天然な発言を挑発と受け取った只野人は、膝を立てて腰を深く落とし、拳を地面に当てると能力を発動した。

「ああまったく人が飛んだり火を出したりふざけてやがる。だから俺が現実を思い出させてやる―――やります!」

 瞬間、只野人を中心に、イマジンによる空間が発生する。

 咄嗟に飛び退く凍冶だったが、その有効範囲が圧倒的に広く、難なく領域内に捉えられてしまう。領域はかなり広く、観客状態にあった他の生徒達も巻き込まれてしまったようだった。凍冶は審判役の教師に視線を向けたが、終教諭は何も言わず静観している。とりあえず他の生徒にまで被害が及ぶ空間ではないと判断する。ならば一体何の空間なのだろうか?

(……解らないなら試してみれば良い)

 そう判断して、凍冶は『冷気操作(フリーズコントローラー)』の能力を発動しようと片手を突き出す。

 本来、凍冶の使う能力『冷気操作(フリーズコントローラー)』冷気を操り、吹雪や氷柱を作り出す事が出来るのだが、凍冶はそう言った汎用性のある分野に技能(スキル)設定を割り振っていない。ならば冷気を操ると言う本来の力を引き出す事が出来ないのか? っと言うと、それは違う。彼が有する技能枠(スキルスロット)に、『氷河の鋭刃(グレイシアエッジ)』っと言う鋭い氷の剣を作り出すスキルと『吹雪の超音速(ブリザードフォーミュラ)』背中から吹雪を起こし、推進材の代わりにして高速移動するスキルが存在する。冷気を呼び、氷の礫を打ち出すスキルが無くても、これら二つのスキルの下位存在としてなら『簡易再現』と言う方法で使用が可能になるのだ。

 ちなみに、カグヤやレイチェルの使った『劣化再現』の炎弾や水弾との違いは、≪力の一部を取り出し使用している≫か≪本来組み上げる工程を幾つか短縮して使用している≫かの違いである。つまり、『簡易再現』は威力が劣化する事が無く、強力な術を発動する事が出来ると言う事だ。美冬の『寒冷凍死(コキュートス)』が天候を変えるほど強力でありながら、一部分にだけ効果を発揮させる事が出来たのも、これと同じ理屈にあたる。

 故に、汎用性や手数を好むDクラスで在りがちな『能力設定ミス』はしていない。―――にも拘らず、突き出した凍冶の手からは冷気は発生されず、それどころかイマジンの気配する感じさせない。

(……これはっ!?)

 これと似た現象を、凍冶は既に目撃している。

 原染(はらぞめ)キキと明菜理恵、もしくは風祭冬季と妖沢(あやざわ)龍馬(りょうま)の対戦で、これと酷似する物を何度も見ている。

「……無効化能力か」

 理解し、冷静になる。一年生の彼等には、無効化能力は問答無用で能力を消してくる厄介な物に映るが、……実のところ、無効化能力を使うイマジネーターなど、二年生以上にはごまんといる。それこそ『対無効化能力』『無効化耐性』などと言った能力スキルまで普通に持っている者までいるくらいだ。中には、教師の使う『キャンセラー』の術式を読み解き、再現している者までいる。故に、単純な無効化能力は、イマジネーターにとっては対して脅威にはならない。それこそ、先の二戦で証明されてしまった様に、能力に対しては絶対でも、それで勝利を掴めるかどうかは別の話に至る。

 そんな理屈を知らず、しかし凍冶は先の二戦でなんとなくは予想していた。どんな強力な無効化能力でも、付け入る隙はあると。しかし―――、

「……!」

「気付いたか?」

 ニヤリと只野人がほくそ笑む。同時に飛び出し、拳を突き出してきた。

 咄嗟に両手をクロスして受け止めるが、ガードの上から殴り飛ばされ、軽く地面を転がされる。

 すぐに立ち上がり臨戦態勢を取るも、思いの外両腕が痺れてしまい、上手く動かせない。

「……! やはりか……!」

「そうさ! 『現実回帰(これがリアルだ)』! 俺の能力『現実』は、イマジンなんてふざけた(もん)を纏めて否定する。ここじゃあ、テメエらが見下す『下界』と同等の力しか引き出せねえ。スキルだ権能だのとふざけた御飾は抜きにして、純粋な喧嘩と行こうぜっ!」

「……くっ!?」

 只野人が飛び出し、拳と蹴りの連打を見舞う。それらは全て喧嘩殺法、武術の心得など無く、重心はバラバラ、時に振りが大きく、隙の大きい瞬間も多い。しかし、経験だけはやたらと積み重ねた、野生の勘が如く、的確に鋭い個所を突いてくる拳は、中々に受け止めるのが厳しい。

「おいおい……、アレってもしかして『強化再現』も消してるのか?」

「それどころか、イマジン変色体ステータスも効果を失ってるはずだよ」

 レイチェルの呟きに、ついさっき意識を取り戻した理恵が、眩暈の残る頭を庇いながら補足する。その発言には、Fクラス以外の全員が眼を丸くしてしまった。

 イマジン変色体ステータスは、イマジンと結び付いた肉体細胞の活性化具合を数値化した物で、いわゆるイマジネーター限定の『体質』と言っていい。それを打ち消すと言う事は、(イコール)イマジネーターでなくすと言う事に等しい。只野人が自身で言っていた通り、イマジンを完全に排除した下界の喧嘩にまでレベルを落とされたと言う事になる。

「なら、普通に考えれば勝敗は単純な体格差と、素の戦闘力だが……」

 ランスロット呟き、二人を観察する。

 凍冶はヘッドフォンを首に下げている所が特徴的に映るだけで、目立った体格はしていない。多少背は高めにも映るが、それも平均よりやや上と言った感じだろう。対する只野人は長2m20㎝の筋骨隆々な大男。明らかな体格差。それはイマジンを排斥した空間に於いて、圧倒的な戦力差を意味する体躯(たいく)であった。

「くそ……っ!」

 叩き込まれる拳に、ガードしていた腕を完全にやられ、思わず逃げ出す凍冶。やられた両腕は腫れ上がり、袖の隙間から青く変色しているのが見て取れた。完全な内出血と重度の打撲だ。とても腕を使える状況ではないだろう。

 只野人は追いかけ追撃を掛ける。作戦も考えも無く単純な追撃に、しかし『直感再現』すら打ち消された空間では、もはや愚策とも言い切れない単純にして圧倒的な脅威を見せつけていた。

「逃げたところでどうにもなるかよ! 俺は不良やってた頃、ワールドチャンピオンを名乗ってたおっさん相手に勝った事があんだぜっ! ―――在りますぜっ!」

 敬語をミスりながらも、只野人はその過去が本物である事を証明する様に前蹴りを放ち、凍冶の背中を突き飛ばす。

「……ぐあっ!」

 それだけで体をくの字に曲げられそうになり、学園の庭に飾られた茂みの中へと突き飛ばされてしまう。

「おらっ! トドメだ!」

 只野人は追いかけ、茂みごと叩き伏せる様に拳を叩き落とす。それが決め手となった。

「……ふっ!」

 

 ガスンッ!

 

 瞬間、茂みの中で四つん這いになっていた凍冶は、そのまま横に転がろうとするかの様に片脚を撥ね上げ、変則的な回し蹴りを放つ。腰を捻ったその蹴りは、只野人の拳を躱す助けにもなり、突っ込んでいた(じん)の顔面にカウンターとなって突き刺さる。

「ぐ、ぐあ……っ!」

 良い感じに顎の根元辺りを蹴りつけられ、自分の勢いも利用されたとあって、さすがの巨漢もぐらりとよろめき、数歩下がる。

 その隙を逃す事無く、立ち上がった凍冶は、腕が使えない事も構わず只野人の横に回り込みながら、無理矢理な体勢になるのを無視して跳び回し蹴りを放ち、(じん)の後頭部をしっかりと捉えた。

 ズンッ! と重い音を響かせ、(じん)が地面に突っ伏す。同じく無理な体勢で空中蹴りを放った凍冶も同じように地面を転がったが、こっちはすぐに立ち上がると、間髪いれずに、呻きながら起き上ろうとする(じん)の頭を再び蹴りつけ、額を地面へと叩きつける。そこまでしてやっと、只野人は動かなくなる。

「勝者、氷室凍冶くん」

 終教諭の宣言により、決着が付く。何気に追い詰められた凍冶はホッとして、その場に座り込むのだった。

 

 

 4

 

 

「アレって、一体何がどうなったん?」

 明らかに只野人優勢だったはずの場面に、どうして凍冶が勝ててしまったのか? その疑問が解けず、バーボンは答えを求めて誰ともなく質問する。

「ああ~~……、たぶん、普通に体格だろうと思うぞ?」

 そんな意外な答えを出してきたのは、最後の試合準備をしていた東雲カグヤだった。

「は? 体格なら(じん)の方が圧倒的に勝ってたろう?」

「それは―――」

 バーボンの疑問に答えようとしたカグヤだったが、それに応えるより早くレイチェルが当然の様に説明を割り込ませる。

「見た目の体格ではない。この学園に来てから成長した肉体能力が、既に只野人より、氷室凍冶が優れた物になっていたということだ」

 説明を奪われ、カグヤは「コイツはまたぁ~っ!?」っと言いたげな涙目を浮かべていたが、レイチェルはがん無視で対応。バーボンも答えが知りたいだけなのでカグヤには取り合わない。

「それってどう言う事なん?」

「忘れたのか? この学園は、卒業して下界に降りればイマジンは失われる。それでもこの学園を卒業すれば、全ての就職に対して有利に働く程の恩恵が貰える。それは、如何なる就職先で在ろうと対応できる能力を有していると判断されると言う事。つまり、イマジンを失っても、培われた物が失われる訳ではないと言う事だ」

「……え、えっと?」

 言い方が難しかったかと悟り、レイチェルは更にかみ砕いて説明する。

「イマジンが与えてくれるのは超常の能力だけじゃない。身体的な成長の効率化も与えてくれる。我等は既に、試験一日目に大量の食物摂取をしていただろう?」

「ああ、あの大食いになっちゃった奴ね?」

「あれは、イマジンが我々の身体能力を個々の理想に合わせて改造するために、大急ぎで栄養を要求した結果起きた現象だ。我々の体は既に、自分達の理想的な肉体になる様に改造が始まっている。今更イマジンを打ち消された所で、チンピラの喧嘩程度ならまともに演じられるくらいの体は仕上がっていると言う事だよ」

「おおっ!? マジかよっ!?」

 事実を知り、驚くバーボン。

 この仕組みこそが、イマスク卒業生を各職場が受け入れる理由である。イマジネーターとなった過去さえあれば、どんな分野であっても肉体的スペックは完成し、必要な知識量は十二分に溜め込まれている。娯楽、芸術、スポーツ、考古学、如何なる分野であっても元イマスク生ならすぐに順応できるだけの下積み出来上がっているため、育て甲斐のある即戦力となってくれることだろう。

 イマジネーションスクールは、ただ戦闘をするだけの学園ではない。能力を得、得た能力を使いこなすために奮戦し、敵の能力を看破するために知識を集め、レポートを作成できる程に理解する。ただ戦う事だけをしている生徒でさえ、一大学生と同じだけの知識量を習得する事になる。それを自然とさせる学園、それがイマスクであり、この学園が学園としての体裁を維持している所以(ゆえん)である。

「でも、それなら俺達だって条件は同じだろう? なんで俺だけがこんなあっさり負ける事になるんだよ?」

 只野人は、昏倒から僅か数分で目を覚まし、聞いた話に苦言を漏らした。これには終教諭が答える。

「それは君達がFクラスとされる理由かな?」

「……最弱って事ですか?」

 不服を隠しきれない表情で訊ねる只野人に、「違う」とはっきり答え、終教諭は説明する。

「我々が生徒をクラス分けしているのには単なる成績だけを指している訳ではない。そもそも『優れたイマジネーター』とは、どんな存在だと思う?」

 誰も答えを返せず首を傾げる。終教諭は早々に結論を告げる。

「それは、より“現実感から遠い理想を抱く者”だ」

 「は?」と言う声が何処からか漏れる。

「“強い想い”や、“高い理想”を持つと言う事ですか?」

「それも違う」

 環奈の質問をバッサリ斬り落とし、終は続ける。

「常識的に、あるいは物理的に、あるいは世間体的に、不可能とされる事を理想として臨む者ほど、より強いイマジネーターとなれる」

 例えば、他人とは違う趣味を曝け出し、不和の中にいる者が、そんな自分を受け入れてほしいと望んでいる場合だったり。

 例えば、毎日の大半を寝て過ごしていたいと言う考えだったり。

 例えば、己の存在故に他者の全てを崩壊させてしまうと知りつつも、それでも自分を世界に認めてほしいと望んだ場合だったり。

 例えば……、既に決着のついた願いを、今もまだ望んでいる者であったり……。

 そう言った、『現実では不可能な事』を望む者ほど、優秀なイマジネーターになれるのだと終教諭は語る。

「“高い理想”でも“強い想い”でも無い。ただ、“不可能を望む”事こそがイマジネーターの最も必要とされる素質なのだよ。そう言った性質の強い者、不可能な現実を望む者達を、我々は『Aクラス』として纏めた」

「“不可能を望む”……、ね~……?」

 カグヤが僅かに影のある表情で呟くが、その声は誰の耳にも届かなかった。

「逆に、その理想性が薄い―――もしくは理想がはっきりしていない者達を、纏めて、我々は『Fクラス』として纏めた。正直、君達は結構崖っぷちなのを自覚した方が良いだろうね?」

「ぐぅ……っ!」

 終のキツイ一言に、只野人は奥歯を噛みしめた。

 確かに只野人はこのイマスクに居ながら“イマジン否定派”の考えを抱いている異端児だ。その事を完全に看破され、実力すら劣っていると判断され、Fクラスとして纏められた悔しさと、その評価通りの結果になってしまった不甲斐無さに、行き場のない憤りを感じていた。

「君達に一学期中の決勝トーナメントの参加を認めないのは、君達が弱いからではない。出場したところで君達の糧にならないからだ。戦っても絶対に勝つ事は出来ず、両者共に益を得られない。それは学園と言う組織である我々としては、教育の遅延でしかない。全ては君達をより早く成長させるためのカリキュラムなのだと理解してほしい」

「なら、その『絶対』を覆せば、私達はその予想を超えられると言う事で良いんですよね?」

 教師の言葉に、斬り込みを入れたのは、身長は175cm程の銀髪糸目の少年。これから最後の試合に挑むFクラスの生徒、逆地(さかち)反行(はんこう)だった。

「私がAクラスに勝てないと言う『絶対』を、最初に破って見せます。例えそれがどんなに困難な道のりでも、私は―――私達(、、)はやります!」

 

 

 5

 

 

 こうして始まった最終試合。カグヤは『神威』の能力『闇御津羽・九曜』を呼び出し、試しに軽く戦わせてみる所から始まった。

「九曜、まずは小手調べ。相手の力量の判断基準が欲しい。可能なら倒しちゃってもいいが、油断だけは無しで」

「承りました」

 黒い柄を握り、赤黒い光に見える水の刃を両手に展開した九曜は、返事と共に駆け出す。

 九曜は闇御津羽の神。闇御津羽には“水速(みずはや)”の意味も含まれ、主の未熟さに足を引っ張られてなお、素早い動きを見せる。

 反行の左側面に入った九曜はそのまま斬激を繰り出す様に振り被り、それに反行が反応した瞬間を狙い更に回り込んで、まったく逆の右側面から斬激を放った。

「っ!」

 全身体能力ステータスが最低値に収まっている反行には、これを躱す術は『直感再現』しかなかった。だからこそ、九曜は先にフェイントをかけ、発動した『直感再現』に従えない状況を作り出したのだ。解っていても、身体が動かないのなら対応のしようは無い。

 そう計算された攻撃を、何と反行は腕を振って弾き返した。もちろん腕には『強化再現』で耐久値を上げている。刃物より鋭利な水の刃であっても、容易くは切れない。

 九曜は慌てることなくステップを踏み、翻弄する様に駆け、前後左右、上下に至るまで縦横無尽に攻撃を仕掛けるが、その全てに反行は反応し、躱し、弾き、全てに対処しきって見せる。

「?」

 ここに来て、九曜は疑問を感じ取る。Fクラスとは言えイマジネーター。イマジン体である自分が、一撃必殺で倒せる相手で無い事は解り切っていた。しかし、ここまで完全に攻撃を読み切られる事は予想外だ。

 一度距離を取って間を開けた九曜は、相手を見据えながら僅かに思案する。

(Fクラスとされている人間が、果たしてここまで完全に躱す事が可能かしら?)

 自分は本来の神格を未熟な主に引っ張られ、相当に零落している。それでも速度と攻撃の鋭さなら、平均的なイマジネーターよりは強い自信がある。主の援護なしなら全てのイマジネーターに敗北する確信はあれど、その過程で自分の得意分野が勝る自信はあった。

(現に結果は負けていると言うのなら、何らかの身体強化系の能力者と言う可能性も高い。私の役目は、彼に勝つ事ではなく、我が君が勝つために情報を引き出す事。なれば……)

 地を蹴り神速の勢いを持って飛び込む九曜。

(如何なる方法で強化しているのか、見定めるまで)

 九曜はイマジン体固有スキル『ユニット』を使用し、腰に差している黒い柄をイマジンで操作し、射出、手に持つ柄と合わせ全てを組み合わせると大量の水で大剣の刃を作り出し振り被る。

 例え見た目は大剣でも、創り出している刃が水である以上、九曜の手には重量の負担は無視する事が出来る。つまり、剣速をまったく落とす事無く重攻撃を放つ事が出来るのだ。

(見た目には重量系の攻撃で、初速が遅れる様に見えるフェイント。どう対処する?)

「そこっ!」

 九曜が剣を振り抜く一瞬早く、踏み込んだ反行が完璧なカウンターで肘を打ち込む。

「かふ……っ!?」

 自分の勢い利用され、鳩尾に肘がめり込んだ九曜は、衝撃に吹き飛ばされ、地面を転がってしまう。

「ふぅっ!」

 追撃を掛ける反行の蹴りが側頭部を狙う。

 息苦しさに耐え、なんとか上げた肩で受け止める。しかし、衝撃を殺しきれず、ふらついた所を拳の連打。それも洗礼された、研ぎ澄まされた鋭い拳が放たれ、防御し損ねた拳が容赦なく体に突き刺さる。

 身体中から緑色のイマジン粒子を散らしながら、殆ど反撃する事が出来なくなる九曜。隙をつかれ、肩を掴まれ、思いっきり腹部に膝を叩き込まれる。

「がふ……っ!」

 口からを僅かに粒子を散らし呻く。間髪いれず拳が左右から顔面に入り、トドメの回し蹴りを受けて大きく後方に飛ばされる。主の足元まで転がってしまった九曜は、呻きながらも何とか立ち上がろうとするが、ダメージが大きくてすぐに立ち上がる事が出来ない様子だった。

「もう良い九曜。なんとなく解った」

「は……っ、お見苦しい所を見せてしまい……申し訳ありません」

 主の命に素直に従いながらも、主の前で無様な姿を晒してしまった事を歯噛みする九曜。

「いや、たぶん、お前がやったら絶対勝てない。アレはそう言う類いだと思うよ」

「? ……はっ」

 意味を理解できず、それでも九曜は命令に従い粒子となって消える。

 一方、反行の能力をなんとなく予想したカグヤは、少々困った表情をしていた。

(九曜が攻撃力を上げた時点で、相手の戦闘力が上がった様に見えた。だとすると、相手に合わせて戦闘力が向上するタイプの能力者って事なんだろうが……、そうなると一番有効な手段は金剛との戦いと同じ、俺自身が戦う事なんだが……)

 思考すればするほど面倒な事になりそうな予感ばかりが頭の中を過ぎ去り、思わず表情と態度に出てしまう。

 そんなカグヤに対し、しっかり構えをとる反行が言葉を投げかける。

「君に一度聞いておきたい事があったんだ。訊ねても良いかい?」

「? 何事?」

「以前、君と君の御姉さんの神威先輩が話しているのを少し見たんだ。……っと言っても、皆が良く知る食堂での決闘騒ぎの事だけどね」

 カグヤは質問の意味が理解できず首を傾げる。どうせまだ話の途中なのだろうと思い、無言で言葉を待つ。それを見て取ってから、反行は訊ねる。

「君は、もしかして彼女のためにこの学園に入学したんじゃないのか?」

「そうだが?」

 すんなりと回答したカグヤに、反行は確かめる様に質問を続ける。

「君はこの学園で何を目的にしているんだ?」

「そう言う将来的な事を赤の他人に訊ねるかよ普通……、いや、別に隠す様な事でも無いから良いけどよ……」

 多少うんざりした表情になりつつも、カグヤは淀みなく回答を告げる。

「義姉様の願い果たすためだ」

「……。それはつまり、君は御姉さんの頼みなら、なんでも言う事を聞くって事かい?」

「当然だ」

 反行は一度瞑目し、あの時からずっと感じていた物を確かめる様に確信を突く。

「君は、御姉さんの頼みなら、それが他者を害しようが、自身に不利益な事で在ろうが、迷い無くやるつもりの人間なのかい?」

「ああ」

 即答。

 それだけに、反行は確信する。

 この少年は歪んでいる。彼の中では完全に姉と自分の主従関係が成立し、自分の意志を排し、義姉の意思となって動く者。『他者の意思』なのだと理解した。

「そうか……、だったらやっぱり……」

 反行は地を蹴り飛び出す。

「君にだけは負けられないな!」

「……は?」

 意味が解らず、難しい顔になってしまいながら、カグヤは突き出された拳をなんとかいなし、続く流れる様な連打も円を描く様に捌き、外側へといなす。

 そのいなしていた腕が掴み取られ、無理矢理引き寄せられる。

(やべ……!)

 掴まれていない方の手を腹部に挟むようにして配置。次の瞬間、手の平越しに拳が突き刺さり、腹部に鈍痛が走る。

「……っ!」

(大丈夫……っ! この程度なら堪えられる……っ!)

 軽く吹き飛ばされたカグヤが後方に数歩よろめく。そこに向けて放たれる拳の連撃を、自身の直感で躱し、続いて放たれた回し蹴りをなんとか両腕で受け止めてガード。ガードごと吹き飛ばされ、地面を一回転分転がったが、すぐに立ち上がってバックステップ。

「ハアッ!」

 そこに『強化再現』で強化した跳躍力を駆使し、一歩で踏み込んできた反行の拳が腹部に突き刺さる。

(『限定強化』……!)

 腹部へのダメージに対して、集中的に耐久力の『強化再現』を行う。もちろん、反行の拳も強化されているため、ダメージを相殺する事は出来なかった。

「がふ……っ!」

 肺から空気を吐き出すタイミングを見計らった様にぐるりっ、大ぶりに身体を捻った反行の回し蹴りが側頭部に炸裂する。

 『強化再現』をしてあった分、大げさな距離を飛ばされたが、自分から地を蹴っていた事もあり、致命打にはならずに済んだ。それでも、自分が圧倒的劣勢に立たされている事くらいは承知している。

「おいおい……、ここに来て俺がFクラスに負けるとか、さすがにそれは無いだろ……」

 自分が最後を務めたのは偶然だが、それでも今まで全員がFクラスに圧勝しているのに、自分だけが負けたらとんだ笑い者扱いだ。さすがにカグヤもそう言った対象にされるのは御免被りたい。なのに、この実力差と能力のズルさは何なのか? そんなどうしようもない愚痴を漏らす意味でカグヤは呟いた。

「Fクラスだからなんですか? 例え学園の基準で最下位のクラスであっても、それを覆せない可能性は0じゃないんですよ?」

 「そりゃそうだ」っと、内心で頷きながらもカグヤは口や態度には出さないでおいた。どうやら、反行には「俺がFクラスごときに負けるとかねえわぁ~」みたいな発言に捉えられてしまったのだろうと察したからだ。

 カグヤの性格上は「お前何勘違いしてんだよ?」っと言ってやりたいところだったが、相手はFクラスの生徒。こちらの発言の意味をちゃんと汲み取るAクラスでも、後で冗談に済ませられるBクラスでも無い。コミュニケーションとしては、勘違いは正すより、自分の言葉が失言だったと認める方が正しい。―――が、自分は昔から意識してやっていた所為で、かなり口が悪い方だと自覚している。ここは下手に何かを言わず、無言で肯定しておくのが良いだろうと判断。反行の続く言葉を黙って聞いた。

「例え、一学期内でFクラスがAクラスに敵う可能性が99%無いのだとしても、決して0じゃない。僅かでも可能性が残っていると言うのなら、私は―――私達(、、)はその可能性を掴み取るっ!」

「………」

 決意を込めて拳を握る反行。

 地を蹴り、駆け出し、固く握った拳を突き出す。

 拳を突き出す中、彼は入学試験の事を思い出していた。

 

 

 6 【かんろ提供】

 

 

 逆地反行と言う少年は、元々気弱な性格の少年であった。

 自分の意思を持たず、主体性を持たず、何をするにも流されるだけで、あらゆることに怯えているだけの少年だった。イマジネーションスクールに入学志望したのでさえ、親に受けるだけ受けてみろと勧められたからにすぎなかった。

 そんな彼が、能力に目覚め、受験者の一人を倒せてしまったのは、奇跡的な偶然としか言いようがなかった。それでも、彼の中で何かが変わるわけではない。いくら強い力を手に入れても、本人の根底が変わるわけではないのだから。彼の転機が訪れたのは、その後の、第三試験の時であった。

 

 あの入学試験をなんとか乗り越え、怯えながら魂祭殿に触れた反行はある光景を幻視する。それはいままでの学園内で上級生に挑んでいく人々の姿であった。ある者は策を巡らせ、またある者は自身が極限と言えるまで鍛えて挑んだ。さまざまな者がいたが、どれもが『上級生』に打ち勝つという壮大な目標に向かって走っていった。それを見た反行はただただ凄いと圧倒された。そして彼は思った。あの人達みたいになりたいと。すると場面が変わる。それを見た反行は驚愕した。何故ならば上級生に挑んだほとんどの人が暗い表情を出し、「勝てなかった」「不可能だった」「もう諦めよう」と呟いていたのである。

彼はその風景に納得いかなかった。彼は幻視の中で叫ぶ

 

“貴方達は上級生に打ち勝つという目標で走っていった! 私はそれを凄いと思った! 目指したいと思った! けれどもなんですかこれは!? 何故諦めるのですか! 何故不可能と言うのですか!?”

 

 これは彼の生涯の中で最初の叫びであった。

 沈んだ表情の一人が呟く

 

“俺達も最初は自分なら出来る、自分ならやれると思ったよ。けれど知ったのは自身の身の程知らずだけだったよ。無理だったんだ”

 

 そう言うと一人はまた俯いた。

 それを見るのは嫌だった。彼等のあんな顔など見たくなかった。そして彼はその思いのまま叫ぶ。

 

 

“だったら私がやります! 私が上級生に打ち勝って、不可能を打ち破ってみせます!”

 

 その叫びを聞いた人々は口々に言う。

 “不可能” “無理” “無謀”

 入学前の臆病で意思の無い彼ならば、この言葉に心が折れていただろう。だが―――、

 

“無理だんて、無謀だんて、不可能だなんて誰が決めたんですか! 例え敗率99.9%でも0.01%がある! 0.0001%がある! 100%なんてないのですよ!”

 

 挑戦者として挑む彼等を見た反行はその夢と共に強き意思を心に宿していた。

 

“やってやりますよ! 私は! 学園最強すらも打ち砕いてみせます!”

 

 その強き意思を持ち、無謀なる夢を語った。

 その夢に彼等は頭を上げる。

 一人は言う。“本気か?”と……。

 

 彼は答える。“本気だ”と……。

 

 また一人は問う“無謀だ”と……。

 

 彼は答える“無謀でも構わない”と……。

 

 彼は言う。

 

“最期まで挑んでみせますよ! 貴方達が目指していたように!”

 

 そう強く言い放った。

 

 彼の言葉から少し経った後、突如一人が笑い出した。

 その男は言う。

 

“こいつは馬鹿だ”

 

 その言葉に応える様に、他の何者かが続ける。

 

“ああ、正真正銘の馬鹿だ”

 

 その言葉に怪訝な表情を見せる反行。気付けば、俯いていた影達は、皆反行の事を見つめている。疑問に答えるように彼等は語る。

 

“まさか負の結晶たる俺達に、未だその言葉を投げかける者がいるとはな”

 

 彼ら曰く、自分達は上級生に挑み、敗北した際に出てきた悔しさや悲しみが密集して生まれた存在らしい。故に常に悲しみしかなかったのだ。

 

“だが同時に、お前が語る無謀な夢を諦められなかったからこそ、絶望している感情でもある。だからこそお前の言葉に惹かれちまったらしい”

 

“その希望、決して容易い物ではない”

 

“例え、勝利の可能性が残されていようと、極小の勝利を掴めるかどうかなど、雲を掴むに等しい事”

 

“言うは易し、叶えようと思って叶えられる物なら、我等も絶望などしなかった”

 

“アナタが一人でどんなに足掻いたところで、達成できる筈が無いでしょう?”

 

“……だから”

 

 そう言うと、彼等は光となり反行に集まっていく。

 

“持っていけ、俺達の想いを……”

 

“そして叶えてみせろ、お前の夢を……”

 

 その答えを聞いた反行は涙に溢れながら答える。

 

“はい! 叶えてみせます! 貴方達の夢を! そして私の夢を……っ!”

 

 そして光に包まれ―――、

 気が付くと、彼は再び魂祭殿の前に立っていた。彼の目の前には反応を示す水晶がある。

 白い光が気泡の様にゆっくりと溢れ、空に向かって無数に昇っていた。

 それと同時に教師からの合格と言う声が響く。

 その声を聞いた彼は、強き意思を持って向かう。もはや彼には怯えなどなかった。彼は、逆地反行は、この瞬間から一つの夢へと向かう挑戦者となったのだ。

 

 

 7

 

 

 拳が届く。歓声が上がった。

 今まで一方的だったFクラスが、Aクラス相手に善戦を繰り広げ、未だ状勢は覆る気配が無い。これはひょっとするとひょっとするかも? そんな期待がE、Fクラスの中でどんどん大きくなってきている。

 対して、対戦相手として連れて来られた他クラス勢は、黙って戦況を分析していた。

「何故東雲は能力を使わない? アレでは不利になるばかりだろう?」

「たぶん、使わないのでは無く使えないのだろう?」

 凍冶の質問にレイチェルが推測を語る。

「逆地の能力は、相手の強さに比例して身体能力を強化する対応の物だと推察する。だから九曜で戦わせた時はかなり強かった印象だが、今は幾分弱化している様に見える」

「なるほど、東雲はイマジン体を戦わせるのが主力。それが仇となったわけだ」

「でも、あの()()()()()……、『武器化』も出来たよね? それはどうして使わないの?」

 原染(はらぞめ)キキの質問には風祭冬季が答えを推測する。

「武器が強過ぎるのが欠点なんだろう? 『神格武装』なんて使えば、自身も強化される。強化されれば、相手も強化してしまう。手段が無いなこれは……」

「ならっ! 今度こそ俺達の勝ちだろっ!? ―――ですよねっ!? 反行が、俺達の道を切り拓いてくれるに違いないぜ! ―――違い……ないぜっ!」

「今、最後だけ敬語思いつかなかったんだな……」

 只野人に龍馬が乾いた声でツッコミを入れる中、唯一この結末を知っている明菜理恵は微妙な面持ちで行く末を見守っていた。

「……。いずれにしても、さ……」

 理恵は誰にともなく呟く。

「この勝負は、力に恵まれなかった者が、その信念の強さで打ち勝つ試合だ……」

「……」

 理恵の言葉に無言の肯定をひっそりと抱き、レイチェル・ゲティングスは劣勢に立たされている東雲カグヤを見つめる。

「……、嫌な奴だ」

 

 

 次々と放たれる拳に、防戦一方のカグヤ。手で払い、半歩退いて躱すも、反撃する気配は一切見られない。いや、表情こそポーカーフェイスだが、薄っすらと浮かんだ汗が、余裕の無さを表わしている。

 反行が強く踏み込み拳を突き出す。

「……っ!」

 短く息を吐きながら、下げた左と、上げた右の腕を交差させた中心で拳を擦り合わせる様にして勢いを削り、なんとか受け止める。続いて来た反対側の拳は避け、再び突き出された拳には抜き手のカウンターに見せかけ、腕が擦れ合う様にして勢いを削り、反対の手の平でなんとか受け止める。

 今度は距離が近づいた事で掴み技に入られ、危うく投げられそうになったが、両足で相手の踏み込んだ膝に乗せる様にして飛び退き、無理矢理引き剥がす。

 地面を転がる様にしてなんとか距離を取るも、軽やかなステップを踏みながら迅速に距離を詰められ、左腕の連打を飛ばしてくる。

 地面に足を滑らせるようにして自分の位置を移動させる歩法で上手く距離を支配し、なんとか致命打だけは避けるも、反撃の隙を窺えない様子であった。

(さすがに……、どうした物か……)

 多少の焦りを覚えながら、表情には出さず、反撃に見せかけた牽制で何度か抜き手を放つが、僅かな時間稼ぎ程度にしかならない。上手くペースを掴みかねていた。

 拳の連打が来る。何度目だと思いつつも、ただの連打にも数パターンが存在するので対応が一々面倒だ。腕をクロスさせ、踏ん張りつつも距離感を半歩ずらす。相手の拳が一番力を発揮する、伸び切る距離よりも半歩分後ろの位置で、身体をやや前傾姿勢にして固定。反行の拳はクロスした腕に接触するが、本当に触れた程度にまで抑え込まれ、大した衝撃は届かない。

(それでも痛てぇ~よ……っ!)

 内心一人愚痴りながら、相手の微妙な距離調整に合わせて姿勢をずらし有効打を回避する。

 ドンッ! 突然踏み込んできた一撃に、慌てて飛び退く。飛び退く最中、ほぼ空中の位置で拳が腕にめり込む。互いに『強化再現』をしているので、破裂する様な鈍い音が炸裂するが、ギリギリダメージは抑えた形になる。ガードした腕は吹き飛ばされた物の、なんとか体勢は崩されずに済んだ。

 更に踏み込み、反行の拳が飛び出す。だいぶ要領を掴み始めたのか、無駄が無くなり、半身の姿勢で片腕の連打で追い詰めに掛ってくる。

 地面を滑る様なステップで回り込むようにしながら避けるカグヤだが、先程よりも確実に追い詰められ始めていた。

「逃がしません! 例えアナタがAクラスでも、今日、この日! この試合だけは私達が貰います!」

 軽やかなステップインで近距離から飛ばされる拳が、少しずつ距離感を掴み始め、カグヤのガードに命中して行く。回避できる数が次第に減っていき、ガードごと弾き飛ばされる数も増えて行く。

()……っ!」

 危うく貰いそうになった拳が、ガードしている腕に確実なダメージを与えて行った。右腕がピリピリと痛みを訴え始めたのを感じて、大胆に飛び退こうとしたが、寸前のところで思いとどまり、前方向に向かって飛び込むようにして前転、相手の後ろに回り込む。ほぼ同時のタイミングで、反行が思いっきり踏み込み、右の拳を突き出していた。回り込んでいなければ確実に仕留められていた一撃に、空ぶった空気と、踏み込まれた地面が土煙を上げて盛大な爆発音を響かせた。

(ただの『強化再現』でそれはちょっとおかしいだろう……?)

 愚痴っぽく漏らしながら、片膝を付いた状態で相手の様子を窺うカグヤ。

 反行はゆっくりと振り返りながら、決意に満ちた瞳をカグヤに向ける。

「アナタにとったら、所詮私達はFクラス(劣等性)かもしれません。それでも、私達だって努力を惜しまないし、勝利のために何だってやります。その意思だけは誰にも負けません」

 拳を握り直し、反行は構える。

(他人)に言われたという理由だけで戦っているアナタと違って、自分の意思で、戦い、目指す物を持っている私達は、絶対に負けませんっ!」

「……!」

 踏み込む反行。

 その姿がスローモーションのようにゆっくりと映る世界の中で、カグヤの思考は内側に埋没した。

(コイツは何を言っているんだ……?)

 心がざわつく。反行が何を言っているのか一瞬理解できない。

 自分の中で噛み砕く。

 つまり、コイツは、東雲カグヤには自分の意思はなく、義姉、神威の言う事だけを聞く人形の類か何かだと思われていると言う事なのだろうか?

 思い返せば心当たりなど無いわけではない。いや、むしろ自分からそのように振舞ってる節などいくらでもある。

 それらは全て、“彼女が望んだから”こそ、そうして振舞ってきた物だ。不服など無かった。不満など無かった。いや、多少気が引ける事はあれど、彼女の言い付けに逆らう理由など何一つなかった。だから彼女の言葉には全て従い、そのように振舞ってきた。この身はいつだって、彼女のためにだけ存在し続けてきた。

 だからそう思われても仕方ないし、事実そうなのだろう。

 なるほど、だからコイツは自分に対して因縁めいた事を言っていたのかと理解する。

 強い自分の意思で、自分が決めて、目指す物にまい進する者にとって、他人の意見に動かされ、操られている者の姿は、腹立たしい物に映った事だろう。この存在にだけは負けない。ただの操り人形相手に、己の意思を持たぬ者に、自身の夢のため、意思を持って戦う自分が負けるなんて事は許せない。そんなところなのだろう。

 

 フザケルナ……ッ!

 

 (たが)が外れた様に心の内から激流が流れ込む。

 嘗て、似た様な事があったのを思い出す。

 あれは、恩人で在り、仇でもある彼女(、、)が、義姉と二人で話していた時の事だ。

「あの子が何を選ぶにしても、その選択はあの子に在るべきでしょ? そう言う風に育てたのがアナタだと言うのなら、せめてあの子には自分の意思で考える時間を上げたらどうなの?」

 そんな会話をしているのを偶然聞いた事があった。

 あの時も、カグヤは腸が煮えくり返りそうな激情に駆られた。

 他人の意思に従う事の何がいけない? 他人の言う通りに行動する事の何が悪い?

 そんなに自分で決めた事の方が偉いのか? 自分で決めれば何でも正しいのか?

 フザケルナだ!

 そんな理屈など、ある筈がないだろう!

 正義感ぶって、正しい風な言葉を並べて、主人公気取りにでもなっているのか?

 

 世界が時間を取り戻す。迫る拳に対して、全力を持って踏み込み、額をぶつけた。

 『強化再現』は自身の内側に来る衝撃吸収にのみ全力を注いだので、額が割れ、僅かに血が滲むが構わない。普通なら衝撃で気を失いそうになるが、衝撃は吸収したのでその心配はない。

 人体で肘や膝などに次いで固い、額にぶつけた事で、反行の拳は逆に強過ぎる衝撃を貰い痺れ上がった。顔をしかめ、一瞬の隙が生じたところに、カグヤは踏み込む。

「バカにしてるにも程がある……っ」

 裏拳を軽く振り上げ、顎を殴打。顎を揺さぶられた衝撃が骨を伝い脳に至り、軽い脳震盪を起こさせる。

 反行は立っていられなくなり、膝が屈しそうになるのをなんとか堪える。

 その隙を突き、掌打を懐に押し当てるカグヤ。

 まずいと判断して無理矢理飛び退こうとする反行だが、その襟首を素早く掴み上げられ引き止められる。

「逃がすかよっ!」

 カグヤの顔が至近に迫る。ポーカーフェイスだった表情は激情に歪み、明らかな憎悪が色濃く出ていた。

 掌打を捻る様にして撃ちこまれる。発揮された一撃は、打撃ではなく、振動による圧力攻撃。浸透勁(しんとうけい)に類似する零距離衝撃。

姫咲(ひめさき)流裏技・天皇(すめらぎ)

 ズンッ! っと言う音がしたのではないかという錯覚と共に、重い衝撃を受けた反行は、今度こそ立っていられなくなって倒れ込む。それでも地面を無理に転がる事で、なんとか距離を取り、僅かな間を作りながらも瞬時に立ち上がって見せる。

 だが遅い。既にカグヤの手には『神実(かんざね)』によって神格武装化している黒刀の闇御津羽が握られている。同時に反行の能力『空想学園の反逆者達』が『空想強者に異を唱える者』を発動させ、身体能力を強化するのだが―――、

(なっ!? なんで出力が出ないっ!?)

 反行が予想していた程の効果が発揮されず、ふらつく身体を立て直す事が出来ない。『空想強者に異を唱える者』は相手が強ければ強いほど、その効果を飛躍的に向上させる効果を持つ。相手が上級生であれば、同等に匹敵するステータスを有する事が出来るほど、この能力は強力な物なのだが、どうした事か、カグヤを相手にする時は思っている程の出力がまったく出てこない。神格武装を手にした今でさえ、その効果はあまりに微々たるものだ。

 迫るカグヤを視界に捉えながら、反行は腕をクロスさせ、『強化再現』で防御を固めることしかできない。

「姫咲流・桜花―――ッ!」

 下段の構えから弧を描く様に斬り上げ、逆下段に戻る逆Uの字を描く独特な斬激が炸裂。強化された耐久値を超え刃が食い込み、血飛沫が花弁のように舞う。

雛罌粟(ひなげし)!」

 止まらず、カグヤの斬激が三角形を刻む様に放たれ、更に血飛沫の花が散る。

飛燕草(ひえんそう)!」

 蹴り上げを顎にくらい宙を舞う反行、続けて追う様に飛び込んできたカグヤに斬り上げをくらい、更に身体を捻って横一文字の斬激を腹部に食らってさらなる赤い花が咲き誇る。トドメに蹴り飛ばされ、地面を転がる。

「奥義・落花流水(らっかりゅうすい)!」

 空中で投げ出された闇御津羽の柄頭を踏みつける様に蹴りつけ、空気を切り裂く様に投剣された。刃の切っ先は反行の足を貫き、軽い衝撃が周囲に奔る程の力で地面を突き刺し、縫い止める。

「がはう……っ!」

 全身を襲う衝撃に痺れ、反行の動きが完全に止まる。

 着地したカグヤの手に、炎が湧きたつ。

「テメエが俺にどんな印象を抱こうが知った事じゃねえ……」

 炎は次第に大きくなり、カグヤの周囲で蜷局(とぐろ)を巻いて行く。

「だが、俺の信念がお前に劣っているだと? なんでそんな事をお前に決められなきゃならねえんだよ?」

 炎は形を成し、六角柱の柱を合わせた一角を持つ龍の形を成す。

「俺は義姉様の願いを叶える……。それが例え―――!」

 「既に、必要ではない願いであっても―――」っと言う言葉の続きを心の中だけで叫び、カグヤは拳を握り、神を招来させる。

「『軻遇突智』!!」

「ゴアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 カグヤの命に従い、雄叫びを上げた炎の荒神軻遇突智は、六角柱の身体をガラガラと鳴らし、関節から炎を迸らせながら反行へと突撃する。

 刃に縫い止められ、動く事の叶わない反行は、それでも『強化再現』を全力で用い、なんとか攻撃に耐えようとする。

「まだだ……っ! 例え、どんなに少ない可能性でも! 私達は、決して諦めたりなど―――!」

 言葉の途中、突然異変が起きた。反行は『空想学園の反逆者達』の能力の切り札となる効果を発揮しようとした。しかし、何故かその力は発動せず、反行に与えていた力も次第に失われていく。

(どうして……っ!?)

 驚愕する反行の目に、嘗て見た、先輩達の姿が幻視される。彼等は反行を一度振り返るが、一様に首を振ると、そのまま立ち去る様に遠のいて行ってしまう。まるで、「お前が戦うべき者はコイツじゃない」と語るかのように―――。

「どうして……っ! どんなに小さな可能性でも諦めず、いつか、いつか必ず……! あの東雲神威にだって勝って見せると誓ったじゃないですか……!?」

 彼等が立ち去って行く意味が解らず、言葉を投げかけるも、彼等は決して振り返らない。彼等の遠ざかる背中を見つめたまま、反行は炎の中に呑み込まれて行った。

 

 

 試合終了。勝者は東雲カグヤだと終教諭の宣言がなされるのを、何処か遠くに感じながら、反行は視界に広がる空を眺める。空はすっかり赤味を宿し、暗くなる前の最後の輝きを湛えていた。

 どうして彼等は自分から離れて行ってしまったのか、その疑問だけが反行の脳裏を駆け巡り続ける。負けたことよりも、そっちの方がショックだった。

 不意に、視界に誰かが映り込む。視線を向けると、黒く長い髪を肩にかけた少女顔の東雲カグヤが、こっちを見下す様な視線を隠そうともせず見下ろしていた。

「さっき、義姉様に挑むとか何とか聞こえたが……」

 険しい視線の正体はそれか、と納得する。どうも、この少年は自分の義姉の事になると感情の起伏が極端になる、と反行は妙に冷静な頭で考える。そんな反行に対し、東雲カグヤは吐き捨てる様に言い捨てた。

「義姉様に勝てる可能性なんて絶対的に0だ。既存の可能性に縋ってる奴が、俺と同じ目標を掲げるんじゃねえ。あの人の足元に及びたければ、せめて0から可能性を引っ張り出すくらいの事はして見せやがれ」

 それだけ言ってカグヤは離れて行き、二度と反行に振りかえる事はなかった。

 「自分と同じ目標」っと言う言葉に、少しだけ驚き見開いた目で立ち去る背を見つめる反行。

 ―――っと、立ち去ろうとする途中のカグヤを、レイチェルが軽く肩を押す様にして手を突き出した。

 

 ドシャッ!

 

 そのままカグヤは地面に突っ伏し、痙攣を始めた。

「うん、やっぱりお前、もう色々限界だったな。なんか妙に格好つけてるから、絶対何か誤魔化してると思った」

「テメエ! 人前で諸に突き飛ばしてくれてんじゃねえよっ!! ああ~~~っ、くそっ! 立てねぇ~~~~っ!!」

 じたばたと藻掻くカグヤだが、地面に突っ伏したまま一向に起き上れる気配がない。それだけ身体に蓄積したダメージが大きかった事が今更になって解った。

「まったく……、“そんな恵まれない貧弱体質で、素手の殴り合いなんかするからそうなるんだ”」

「―――ッ!!」

 反行は耳を疑った。レイチェルの言葉に「うるせぇ!」と憎まれ口を返すカグヤを見つめながら、ようやく“彼等”が去って行った理由を思い知る。

(どれほどかは解らないけど、彼もまた、肉体的に恵まれなかった弱者の側の人間だった訳か……)

 弱者でありながら、それでも強者に挑もうとする強き意思を持つ者。彼もまた自分と同じ存在だったのだと思い知り、納得する。

(通りで力が溢れないわけだ。彼は私よりも身体能力が劣っていたのでしょうね。だからこそ、能力は効果を発揮せず、“彼等”もまた、“私達”が戦うべき相手ではないと判断したのでしょう……)

 妙な納得と共に、襲ってくる眠気に身をまかせながら、反行は取りとめもなく最後に浮かんだ疑問を思い浮かべる。

(彼が自分の意思を持っていると言うのなら、何故、彼は彼女の言葉に従うのでしょうか?)

 その疑問の答えを彼が知るのは、まだずっと先の事であった。

 

 

 8

 

 

 全ての試合が終わり、Fクラスの生徒達は思い知る事になった。どうして自分達は一学期中に決勝トーナメントに参加できないのか? それは、Fクラスには、現状では戦闘力として数えられるレベルに達していないと言う事実が存在するからだ。

 それは相当にショックを受ける事実ではあったが、だが同時に、希望が潰えていない証拠として、二学期以降は決勝トーナメントに参加できるようになると言う事を教わった。

 今は自分達の弱さを受け入れ、これから強くなっていけばいい。落差はあれど、皆そう考えを改め、それぞれが帰路に着いた。

 

 その夜、教師の許可を貰った上で、Bクラス勢は総出でこっそり外出。練習用アリーナにてBクラストップランカー、ジーク東郷の訓練を計画していた。他のクラスに一切手の内を明かす事無く、じっくり研鑽を積める様にと、カルラ・タケナカが考えた訓練メニューであった。

 その練習用アリーナにて、件のカルラは地面に突っ伏しながら驚愕の表情で、その光景を眺めていた。

「ふぅ~~……、やれやれ、さすがに危ない所だったな」

 そんな声を漏らし、剣を地面に刺して肩の凝りを解すジーク東郷。彼の周囲には、彼に一斉に挑んだ筈のBクラス生徒全員が倒れ伏し、敗北を露わにしていた。

「しかし、不滅の肉体であっても油断はできない物だな? 窒息に毒に、脳震盪、幻と、結構弱点が多かったりするんだな? これは決勝トーナメントも油断できない」

 そんな風に自分の弱点を羅列するジークだが、カルラは驚愕のあまり、何も言葉を掛けられなかった。

(策は弄した、全力を尽くした、ありとあらゆる可能性を模索し、全てを試み、Bクラスの全員で挑んだ……。それなのに……)

 それなのに、ジーク東郷はたった一人、戦場の勝者として立ちつくしている。その事実は、あまりにも異常な物として目に映った。

(異常過ぎる……! いくらBクラス最強とは言え、アナタの強さは新入生の中では明らかに破格過ぎる……!)

 認めざるを得ない。他のクラスの強さがどれほどなのか、まだ見当が付いている訳ではなかったが、それでもここまでの事実を突きつけられ、カルラは確信を持って認めるしかなかった。

(紛れもなく、ジーク東郷は、一年生最強の生徒です……っ!)

 

 新入生、決勝トーナメントは、既に間近に迫っていた……。




~あとがき~

≪司≫「なあ、アンタに聞いてみたい事があったんだがいいか?」

≪カグヤ≫「なんだよ? もう用は済んだから帰りたいんだが? この後別の用があるし」

≪カルラ≫「そうです。この人には速やかに出て行って欲しいんですけど?」

≪カグヤ≫「さて、腰を落ち着かせてじっくり話そうじゃないか?」

≪カルラ≫「出て行けって言ってるでしょう!」

≪司≫「実は最近ずっと気になってたんだがな?」

≪カルラ≫「話進められたっ!?」

≪司≫「なんか、食堂でも談話室でも、上級生の姿を見ないんだよな~?」

≪司≫「お前、上級生に知り合いいるんだろ? 何か知らないか?」

≪カグヤ≫「カルラが、ツッコミ入れてくれたら話しても良い」

≪カルラ≫「なんで私に要求が来るんですかっ!?」

≪カグヤ≫「ありがとうございます」

≪カルラ≫「ああっ!? しまった~っ!?」

≪カグヤ≫「俺も良く知らんが、義姉様曰く、この一ヶ月間の間は、上級生が妄りに下級生と接触しちゃいけないんだとよ? 理由は教えてもらえなかったが」

≪司≫「そうなのか? なんでなんだ?」

≪カグヤ≫「もっと、カルラがツッコミ入れてくれるなら調べてきても良いぞ?」

≪カルラ≫「二度も私がそんな手に乗るとでも?」

≪司≫「そうだ、カルラは突っ込まれる方が好きなんだぞ! “突っ込まれる方がっ!”」

≪カルラ≫「なんで誤解を招きそうな所を強調するんですかっ!?」

≪カグヤ≫「時間が空いてる時に調べて来てやるよ」

≪カルラ≫「司に突っ込んでもOKだったんですかっ!?」

≪カグヤ≫「ありがとうございます」

≪カルラ≫「しまったっ!? またしてもっ!?」

≪司≫「いっそ、カルラを貸す代わりに何か要求できそうだな? アンタ」

≪カグヤ≫「おい、なんだその魅力的な提案? Aクラス相手に商売が出来るぞっ!?」

≪カルラ≫「私の存在が一クラス丸ごとに影響する訳無いでしょうっ!?」

 ガチャッ!

≪菫&契&星琉&彩夏&レイチェル≫「「「「「今の話本当なら、一枚かませてっ!」」」」」

≪カルラ≫「えええええぇぇぇぇ~~~~~っっっ!!!??」

≪司&カグヤ≫「「おおぉ……っ、カルラさんモテモテ」」

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