おまけ編、ついに完成ですっ!
個人的には待たせた甲斐のある濃厚な物となったと思いますが、本当にバトルシーンばっかりなので、読んでる人も疲れてこないかちょっと不安です。
一緒になって楽しめれば本当に幸い!
遅くなりすぎて忘れられていないかが不安ですが、これを機に思い出していただければ何よりですっ!
パソコンのクラッシュ! データ破損! 多すぎるキャラのまとめ! 多種多様な個性の確立! 新作ゲームの誘惑達! 艦これ売り切れのショック! 幾多の困難を乗り越えれずに崖を転がりながらなんとか仕上げたこのおまけ編! どうぞご覧ください!
そして私は寝るっ!
ぐ、ぐぅ~~~………。
【添削完了】
ハイスクールイマジネーション おまけ編
・最強の教師
「一年生全員で私に一撃を入れる。それが勝利条件なぁ?」
「「「「「「「「「「………は?」」」」」」」」」」
吉祥果ゆかりに告げられた授業内容に、一年生達は思わずと言った感じに声を漏らした。
半透明な体に大正時代を思わせる着物にブーツを履いた姿。長く黒い髪と瞳は、彼女が日本人であることを言葉で語らずとも伝えている。
この学園に於いては、噂に名高い幽霊教師で、三年生からも良く慕われている彼女だが………、こんなことを言い出した理由は、前文で述べた通り『恒例行事』という名の授業だからだ。
時にして、学年最強決定戦を終え、新しい能力や
話だけは聞かされていた一年生達だったが、いざ呼び出された何もない荒野で、いきなりこんな事を言われては面食らってしまう。
「えっと………先生? 嘗めてるとかそういうのじゃないんですけど、“全員”っていうのは、マジで『全員』なのか?」
さすがに気になってしまったのだろう、
「はい、スタートや」
―――華麗に無視された。
突然、ゆかりの背後から大量の岩石が飛んできて、次々と油断しきっている生徒達めがけて飛来していく。
しかし、そこは未熟なれどもイマジネーターの生徒達。次々と能力で迎え撃ち、華麗に回避し、他人の後ろに隠れてやり過ごしたりと、慌てながらも見事な対応をして見せる。
「ぬぅおおぉいっ!? 東雲っ!? 何故俺ぇん背中に隠れとるんじゃいっ!?」
「こういう時、金剛の後ろが一番安心なんだよ。お前、絶対避けないで迎え撃つし、パワータイプだし、体デカイし、ミスっても結構頑丈だから盾になるし」
「素直なら何でも許すと思ったら―――ぬおっと危ないっ!?」
背中に隠れる
岩石はバスケットボールより少し大きめのサイズで、軽く投げつけられた程度のものだ。一つ一つはイマジネーターにとっては、それこそ球遊びに過ぎない程度だろう。だが、これが千や二千の大軍となって投げつけられたとあっては、さすがに彼らも慌ててしまう。いくら常人よりは頑丈な肉体を有していても、岩石一つ分のダメージは身体を押しのけるに十分な衝撃がある。何度も受け止めていれば打撲となり、悪くすれば骨だって砕ける。たとえ肉体が無事でも、これだけ立て続けに投擲されれば生き埋めにされてしまう。下手な対処が許されない攻撃だ。
「だからって………今更………」
「この程度の
華麗なステップを踏むように躱す
ガツンッ!
「イッテェ~ッ!? もろ頭打ったぁ~~~っ!?」
「
て気持ちの良さそうなことをぉ―――っ!? 私としたことが失念していましたぁっ!? 私も混ざりますからぁ、二人で岩石の雨と、クラスからの『あ、こいつダメだ………』ッ的な視線を思う存分浴びましょうぅ~~~~っっ!!!」
「黙れ
「本気で当たったんですね………」
「あ、いや………、違うっ!? そうじゃなくてだな
「…ん? もしかして俺の影に隠れてたのか? すまん。俺の能力『カイザーフェニックス』の恩恵効果で、基本的に俺の体は不死なんだ。いや、正しくは死んでも復活するわけなんだが………、死ぬ度に耐性が付く能力なんで、わざと食らいながら避けていたんだが………、後ろにいたなら撃ち落とすべきだったか…?」
「
「………」
「………」
「菫~~! シアン~~! お前たちは悪くないぞ~~~っ! ちょっと異色な奴が混ざっていただけだからなぁ~~~っ!?」
後方からレイチェル・ゲティンクスのフォローを受けながら、二人は視線を交わし頷き合った。
「「後で満郎
「何言ったの今ぁ~~~~~っ!? 俺いったい何されちゃうのぅ~~~~っ!?」
Aクラス上位ランカーの二人に目を付けられ、既に断末魔に近い悲鳴を上げる満朗。
そんな生徒達をとても微笑ましそうに見ていたゆかり―――の背後に、既に
零時は手に持っていたナイフをゆかりの首元へと走らせ、捨て台詞一つ吐く事無く
「『世界を区切りましょう』エリアC形成。『世界に押し付けましょう』エリア内での殺傷行為不可。背後からの攻撃にペナルティーとして五分間のコサックダンス」
ゆかりの足元から円状の光が走り、それがゆかりと零時を包めるぐらいに広がる。ゆかりの能力により、支配するべき空間を設定され、その空間内を自由に設定できる様にした証拠だ。
ゆかりの能力『都合のいい箱庭』は、“自分の本体”から地続きになっている場所を円で区切り、その空間内を自由に改変できると言う、『概念操作系』の最も理想的な能力だ。彼女が支配した空間では、どんな現象も起こせるし、設定に矛盾さへなければ、ゲームの様にルールを追加する事も出来る。
そのため、零時はゆかりの後ろで全力のコサックダンスを踊らされることになった。学年最速の脚を無駄に活かして………。
「ぎゃああああぁぁぁぁ~~~~~っ!!! 何か精神的にこれは辛いっっ!!!」
「まあ、なんてすばらしいコサックやろ~」
低い姿勢で脚を入れ替え、土煙を上げながら泣き叫ぶ生徒を、微笑ましそうな瞳で肩越しに見つめるゆかり。
その正面、今度は三人の生徒が降り注ぐ岩石を破壊しながら突っ込んで来ていた。
先頭を走るのは
それに僅かに遅れて付いてくる
「教師相手に出し惜しみは無しっす! ヴァジュライオーーーーッッッ!!!!」
暁の持つ日本刀『吠丸』の真名『ヴァジュライオー』を口頭により解放。彼の背後の地面が砕け、赤い鎖に拘束されし巨大な鬼が姿を表わす。鎖が千切れ、鬼が解放された瞬間、怒号を上げた鬼が、暁の身体を包み込むようにして倒れ込み、己が身体を銀色の鋭い鎧へと変貌させた。
『鬼神羅刹 ヴァジュライオー』
暁の能力『鬼との運命』により発動する
剣を振り被る暁。しかし、ゆかりは平然としている。
それもそのはず、先程、零時相手に使用した空間はまだ生きている。このまま剣で攻撃してもゆかりを傷つける事は出来ない。もちろん暁もそんな事は百も承知だ。だから、彼が標的としたのはゆかりではなく、彼女が形成している空間そのものだ。
『都合のいい箱庭』は、範囲指定した空間との境界が歪んで見えるため、能力の効果範囲がとても解り易い。その境界を上級基礎技術『条件指定再現』を行い、特定の物を斬れる様に強化して、切り裂こうとしたのだ。
だが、攻撃は空間を空振るだけに終わった。『条件指定再現』は上級技術であるため、暁にはしっかりと再現する事が出来なかったのだ。それでも暁は諦めずに何度も剣を振り払う。当然、剣はただ空振りを続けるだけだったのだが、ようやく弥生が追い付く頃、暁の纏っていた鎧が脈動を始めた。脈動は次第に大きくなり、鎧全体に血管の様な物を浮き彫りにさせる。それが刀にまで至った時、突然刀が膨張、そして弾け、中から新しい光を纏った刃が現れる。暁はその刃を、確信と共に振り降ろす。
ビギンッ!
光を纏った刃が、ゆかりの作った結界に触れ、亀裂を走らせる。程無く結界は儚い音を立てて砕け散った。
『ヴァジュライオー』は使い手と共に進化する。使い手が望み、それに見合うだけの力があるなら、鎧となった『ヴァジュライオー』も、それに合わせて進化を繰り返す。今回は、暁が概念系の能力を切り裂く望みに応え、刃を進化させたのだろう。
これが暁の思惑で在り、そして続く弥生が『ベルセルク』の直感で感じ取った最高の
「あらまあ~~♪」
結界を砕かれ、無防備になったはずのゆかりは、弥生が降り降ろす刃を楽しげに見ながら、ひらり…っ、と、重力を感じさせない動きで舞う様に避けた。
弥生が続けて左右の剣を交互に重ね打つが、まるで当たる素振りを見せない。ひらりひらり…と踊る様にくるくる回って避けるだけだ。暁も
「か、躱されるのって、なんか不完全燃焼………!」
「予想してはいたけど、受けるどころか笑顔で躱されると結構ショックっす………」
もどかしそうにその場で足踏みをして駄々をこねる弥生と、がっくりと項垂れてしまう暁。ゆかりがあまりにも高く飛び上がってしまったため、空を飛ぶ手段を持ち合わせていない二人は、歯痒い気持ちで見送るしかできない。
着地場所を予想して追いかける手もあったが、ゆかりの能力を考えると、向かった先にトラップを作られるだけなので追うだけ無駄だ。空中戦の出来る者に任せるしかない。そう考えて二人が諦めかけたところ―――、ようやく追いついた狂介が、なんと迷う事無く暁に飛び掛かり、その肩を踏み台代わりにして高く飛び上がった。
「ぐお………っ!?」
ヴァジュライオーの鎧を纏っている暁でも、いきなり踏み台にされては堪らず
暁を無視して、狂介は飛び上がる勢いが衰えぬ内に弥生を呼ぶ。
「おいっ! 弥生っ! 俺を先生の所まで蹴り上げろ~~~っ!!」
弥生は迷う事無く暁の頭を踏み台にして飛び上がった。
今度は『ベルセルク』と言う身体強化の能力で踏み潰された暁は、弥生を高く飛ばす代わりに、地面に仰向けになって倒れてしまった。
「んご………っ!? アンタ等、これで成功しなかったら覚えとれよ~~~~っ!!」
暁の
「失敗するかよっ! 『
狂介は『消感覚』の派生能力を使った
彼の使ったこの能力は、直接攻撃が大好きなCクラスでは珍しい『概念操作系』で、『直接攻撃系』に対して、ほぼほぼ絶対的効果を発揮するので、何かと厄介な能力として注目されている。
「ああ~~………、私に自分の痛みを押し付けて、怯んだ隙を付いて落とすつもりなんやろけどね~~………?」
ゆかりは指をパチリと鳴らし、それを合図にして結界を形成。支配空間が弥生、狂介、ゆかりの三人を捉える範囲で形成される。―――が、それに
何か言いしれぬ物を感じたが、今更作戦を中止する訳にも行かず続行する。
弥生が全身の力を使って身体を振り、狂介の背中を蹴飛ばす。その勢いを利用して更に高く飛ぶ狂介―――、
「んぎゃあぁっ!?」
突如、狂介を蹴りつけた弥生が背中をのけぞらせて悲鳴を上げ、目測を誤ってしまう。明後日の方向に飛ばされてしまった狂介は、空中から飛来中だった岩石に正面衝突して弾き飛ばされた。更に弾かれた先でも岩石に激突してしまい、更に更にまた別の岩石にぶつかる事を繰り返す。通算六回くらい岩石に衝突した狂介は、満身創痍の状態で地面に叩きつけられ、そのまま起き上れなくなってしまった。
「や、弥生……、テメェ………! 何してやがる………っ!?」
「だ、だって………っ! ムッチャ背中が痛いだもん………っ!!」
自分の背中を労わる様に撫でる弥生は、自分に一体何が起こったのか誰よりも早く理解していた。だが、理由が解らない。何故
その疑問を読み取ったかのように、空中でくるりと回って元の体勢に戻ったゆかりが、ニッコリ笑顔で解説する。
「恭介くんはCクラスやから失念してはったんかもねぇ~? 『直接攻撃系』と違って『概念操作系』は自分が支配できる範囲でしか効果を発揮せん力やから、同じ『概念操作系』同士の戦いになると、純粋に支配力の高い方に力の差が傾いてしまうんよ~~? 要は、どちらがより強く概念を支配できるかの勝負になるわけで、今私が展開している結界は、私の完全支配下に置いた空間やから―――」
説明の最中、ゆかりの背後に大きな影が差す。
突如現れた影の正体は戦闘機。今この瞬間までステルス機能を使い、その存在を隠していたのだ。
その戦闘機の名は『三原空専用マルチロールSTOVL機:エアレイド』通称『エアレイド』と呼ばれる、
更紗は胸が少しだけ膨らむ程、息を吸い込み、最大の“想い”を込めて叫ぶ。今だ説明中で隙だらけのゆかりに―――!
「“落下しろーーーーーーーっっっ!!!!!”」
ドーーーーーンッッッ!!!
更紗の『言の葉』の能力に従い、強制落下。地面に激突した衝撃で炎を上げて大爆発を起こした。
空と更紗を乗せた『三原空専用マルチロールSTOVL機:エアレイド』が………。
「~~~~~~~~~っっ!!?」「お、俺のエアレイドが~~~~~~っっ!!?」
爆炎の中、『言の葉』のペナルティーを避けるため、必死に悲鳴を殺して吹き飛ぶ更紗と、作戦の失敗やダメージより、自慢の戦闘機が爆発炎上した事に悲鳴を上げる空の姿が映えた。
ゆかりは「あらあら♪」と漏らしながら優雅に地面に着地して、先程の説明の続きを語る。
「―――っとまあ、こんな風に私の支配下空間で『概念操作系』の能力使っても、それを私の“能力の範疇”と見なしてそっくりそのまま効果を返せるやね。こう言う相手の能力を自分の能力支配下に置いて“返す”技術を『交差再現』って言うんよ? ついでにこれを
人差し指を一つ立てて語るゆかりは、自分の両脇を挟み込むように現れた二人へと視線を向ける。
「今度はDクラスのトップウィザードがお相手なん?」
「はい!」っと答えたのは黒長髪に下駄を履いた少女、桐島美冬。
「うむっ!」っと答えたのは、同じく黒長髪をした少女だが、なぜかゴスロリ服に黒いマントを装着している小さな少女。その身長は低く、およそ140cmほどという幼児体系。なのに、その表情は魔王然とした冷笑を浮かべ、自信に満ちた瞳でゆかりをねめつける。冷静にゆかりを観察する美冬とは、ある意味対照的な視線を向ける
「さすがはヴァルハラに迎え入れられし現代のエインヘルヤル! されども、我らとてエンディアへと赴く第二のプロメテウスとならん者! このブラック・グリモワールの叡智と、魔道を紡ぎたてるキャスターが力を合わせ、第三次元へと引き戻してくれるっ!!」
「要するに、直接攻撃なら『意趣返し』は使えないと言いたいんです!」
美冬が詠子の言葉を通訳する。そのタイミングを待っていたかのように、二人は同時に手を翳し、能力を発動する。
美冬の手に、淡く白い光が灯り、彼女を中心に熱が失われていき、冷気が立ち込めていく。
詠子の背後に、二つの書物が出現し、それぞれが勝手に開き、バラバラとページを捲っていくことで、魔法の自動詠唱が行われる。それに伴い、詠子を中心に熱気が立ち込め、次第に炎が沸き上がっていく。
「止まりなさい! 冷酷の地で! ≪コキュートス≫!」
「六星編・1章、三星編・3章、同時詠唱! 煉獄の
本当は≪インフェルノ≫と叫びたかったらしいところを見事に噛んでしまった詠子。彼女の噛み癖を知っている数名が「よりにもよってそこで噛むのか………」っと、言いたげな哀愁に似た表情を浮かべる。
美冬は真剣な表情は崩さず、「これで同学年には、全員に知られることになっちゃいましたね………」などと同じく哀愁に満ちた思いを浮かべるのだった。
そんなボケを見事にかましてしまったわけだが、状況はそれとは異なり、壮絶な物となり始めている。
美冬の能力『魔法創造』によって造られた
対して詠子能力『魔道』の
その二つが渦巻き、まるで二頭の竜の如くうねりを上げ、ゆかりを中心にグルグルと回転を始める。『
凍土と劫火の地獄。その二つの力が、次第に回転する輪を縮めていき、ゆかりへと襲い掛かる。
対極となる二つの力を制御し、美冬と詠子は同時に叫ぶ。
「「≪ニブルヘイム≫!!!」」
二人の『
凍土と劫火の竜巻に同時に
「疑似的な『
本当に嬉しそうに笑うゆかりは、二つの猛威に曝されてなどいないと言うかのように、平然とした顔で教師らしく解説し始める。
「二つ以上のイマジン能力は、同時に使うまでやったら問題ないけど、その二つを同時に使って一つのスキルとして発動するのは教師でも“無理”と称されるほどの超高難度アルティメットスキル。幾多の能力者が、能力と派生能力を同時に使ったスキルを編み出そうとしはったけど、その殆どが上手く組み合わせることができず、展開式が崩壊したり暴発したりで上手く行かん始末やった。そやけど、なんでもちょっとした裏道いうんは在るものでな? 二人以上の能力者が互いの能力を全力で使用し、互いの能力を正確に把握、そして上手く互いの
我が事のように微笑むゆかりに、詠子は魔王然とした笑みで追記する。
「更に言えば、私の『黒の本=三星編』の第三章に記述された対イマジン術式も同時に展開することで、スピリットである貴女にもスルー不可能なダメージを与えることが可能! 鬼殺しやベルセルクの剣とは違い、今度は避けなければ本当にダメージを受けることになるのだ!」
「そうだったのっ!?」
「普通に攻撃しても駄目だったんっすかっ!?」
「俺がコサックした意味は何だったんだよっ!?」
直接攻撃をゆかりに仕掛けてしまった弥生、暁、零時がショックを受ける。それを聞いたカグヤと菫は同時に呆れた声を漏らした。
「弥生はともかく、零時は『肯定再現』で斬撃を有効にくらいしてると思ったんだが………」
「暁はともかく、零時は『否定再現』でスルー不可にくらいしてると思ってった………」
「す、すまん………」
「「ちょ………っ!? こっちは“ともかく”扱いとかどういうこと~~!?」」
弥生と暁が抗議の声を上げる隅で、地面に突っ伏している狂介は「俺は話題にすら出してもらえないのかよ………」っと涙声で呟いていたのだが、もちろん誰も聞いていない。
そんな
「こういう能力にも、もちろん付け入る方法があったりするんやよ?」
ゆかりは再び
「『把握再現』現状の
呟きを最後に、ゆかりは猛威の中へと姿を消した。
熱気と冷気、物理法則上は互いに消し合うはずの力が、イマジンにより維持され続け、ありえないレベルで急激な温度変化に曝され、万物の全てが塵へと帰り、なおも細かく砕かれていく。
熱の変動で影響を受けるのは物質だけではない。大気すらも激しい上下運動を強制され、すでに嵐などと表すには生易しい
ゆかりが最後に行った行動が気がかりだった美冬と詠子は、未だ油断なく見据えていたが、いつまで経っても変化は訪れず、
地獄の中に影を見つけたのは、その時だった。
「「っ?」」
影の正体を直感的に悟り、逸早く
突如、地獄として君臨していた『ニブルヘイム』の術式は、互いに絡みつくように
「私の能力『都合のいい箱庭』のスキル『世界を区切りましょう』で範囲指定した空間は、原子レベルで私が自由に弄れる空間やよ? それはイマジン能力も例外やないん。もちろん、能力その物を真っ向から打ち消すのはイマジン戦の常識、“理想の押し付け合い”になってしまうから、簡単な事やないけどね? 能力を打ち消すんやなく、術式の隙間に自分の術式を押し込んで、そのまま能力を
凍土と劫火の双頭蛇が牙を剥き、冷気と熱気による甲高い鳴き声を上げ威嚇する。
「やばい………」っと生徒達が戦慄する。『
「それじゃあ、この攻撃を、みんなで頑張って防いでみよう~~♪」
楽し気に告げたゆかりは、『世界を動かしましょう』のスキル効果で、双頭蛇を疑似的に操り、ゆかりを中心に波紋を描くかの如く、次々と生徒達に襲い掛かった。
「きゃ、きゃああああぁぁぁぁ~~~~~~っっ? 助けてください師匠~~~っ!」
フリルがたくさんついた不思議の国のアリスのような恰好をした少女、
「師匠~~~~~~っっ!?」
ぼんっ!
「んきゃあああぁぁぁ~~~~~~っっ!」
そして絵心も双頭蛇の片割れに掠め、一瞬で発火した。
「ぬおっ? この属性は俺ん天敵………っ! 東雲! 今度は守っては―――!」
「あんっ? なんか言ったかよ!?」←既に彼方。
「相変わらず姑息なほどに反応の早い―――」
カチンッ!
『こ、金剛さ~~~~んっっ!!?』
東雲カグヤの行動に苦言を漏らしていた金剛は、そのまま氷漬けにされてしまった。更紗が、イマジン使用のフリップボードで音声を発し、名前を呼ぶが、もちろん金剛からの返答はない。
「よし! ジーク! 今度はお前がおれの盾にならないかっ!?」
全力で走っていたカグヤが、同じく逃げていたジーク東郷に追いつくと、そんな無体なことを言い始めた。
「ふざけているのか貴様はっ?」
「当然だ! あの規模の攻撃じゃあ、人一人盾にしても盾の役割を果たせるわけないに決まってるだろ? 真面目に言う奴がいるかよ!」
「じゃあ、なんでわざわざ聞きやがった?」
「バカやって飛び込んでくれたらネタになるなぁ~~~………っと?」
ジークは黙ってカグヤの襟首を掴み、そのまま双頭蛇の元へと投げつけた。
「おおおわあああああぁぁぁぁっ!!? タンマッ! タンマッ! これはシャレにならねぇ~~~~~っ?」
空中でじたばた暴れるカグヤは、逃げている途中だった誰かを藁にも縋る思いで捕まえ、そいつを蹴り飛ばす反動を利用して間一髪双頭蛇から逃れた。
「ぐおおおおぉぉぉぉっ!!? 熱いっ! 熱いぞ貴様~~~~っ!! 生産系のEクラス生徒を攻撃の淵に投げ込むとはどう言う了見でぇ~~~いっ!!」
ちっこい少年の姿をした男は、なぜか双頭蛇の炎の中にもまれながらも、リアクションを取るだけの余裕を見せていた。
彼はアルト・ミネラージ。一年生では数少ない異世界出身の本物のドワーフである。そのため炎には幾分耐性があったのだろう。普通の人間なら一瞬で炭化する火力に、苦しみ悶えるくらいの“余裕”はあるらしい。
地面に着地したカグヤは、その姿を見て苦い顔で片手を立てた。
「正直、今のはマジでごめん。今度何か奢る。………生きてたらな」
その言葉に応えられる人物は、すでに火の中にはいないようだった………。
「やれやれ………、盛大にやってくれよるな、あの幽霊教師」
破壊の爪痕を未だ広げ、被害者を量産する双頭蛇を眼下に、長い金の髪を風に揺らす、プリメーラ・ブリュンスタッドは、幼児体系の童顔に似合わぬ悟り顔で溜息などを吐いていた。
ありえない事に、彼女がいるのは上空、何もない空間で寝そべるようにして戦闘状況を観察している。
『浮遊再現』。本来、一年生の初期段階で使えるはずのない、そもそも習ってもいない技術を、彼女はすでに習得していた。っと言っても、その完成度は教師が見れば『その状態で戦闘はできない』とすぐに見破られたことだろう。『浮遊再現』は『超跳躍』や『滑空』の再現とは違い、イメージを維持し続けなければ意味がない。浮遊するというイメージは、これがなかなか難しく、途中でイメージが崩れ、落下してしまうなど二年生でも起こりうる事故だ。まして『飛行再現』のように自由自在に空中を移動するなどと、とてもできるものではない。
それでも、彼女は、まだ教えられていないはずの技術を知り、未熟ながらも使用して見せている。これはすでに十分異常としか言いようがない。
「しかし、イマジンとは確かに恐ろしい………。絶対的な力を持つはずの
一人何かに納得したらしいプリメーラは、目を細めながら頷いた後、「しかし………」と疑問に思い至り小首をかしげる。
「このような逸脱した力、本当に人間だけの力で作り出したものなのか? ………いやいや、この世界に幻獣や神は存在していない。“我”と言う存在さえ、イマジンの力を利用して生まれたに過ぎない。異世界とのリンクもイマジンが出来てからだったはず………。異星人? いや、いまだそんな存在は確認されていないのは確か。ならばどうやってこの力を生成した? イマジンを作り出すエネルギーの元とは何だ?」
何か重大な問題に近づきつつあったプリメーラは、そこで『直感再現』が働き、寝返りを打つように体を捻り、迫り来ていた劫火を躱す。同時に『浮遊再現』を維持するのが難しくなり、自由落下を始める。
「た、たすけて~~~~~~っっ!!?」
劫火の中から何者かの声が聞こえた気がしたが、それが何者なのか認識できなかった。なのでプリメーラは気に掛けることもせずに戦場へと落下していくことにした。
「さて………、さすがに教師レベルの力。手合わせするのも忍びないが、我も使命を帯びる身………。今回は余興程度に抑えておくか?」
一人悟った風に呟き、プリメーラは地面に着地する。
その隣に、劫火に吹き飛ばされ落下してきた少年、
(それでも生きてんだから、俺もスゲ~~………)
誰からも忘れられてしまっているので、勇人は自分で自分を褒めてあげることにした。涙を流しながら。
「おぶろわは~~~~~~っっ?」
「満郎君っ?」
「おい、満郎が吹き飛ばされたぞっ?」
「(キランッ!)」アイコンタクト→「ふっ(コクリッ)」
「「だっしゃああぁぁぁ~~~~~っっ!!」」
バシコ~~~~ンッ!!
「がほばは………っ?」
「み、満郎君が菫さんとシオンさんに同時スパイクされて再び劫火で吹き飛ばされて………っ!?」
「お、おう………」←再び落下。
「(キランッ!)」アイコンタクト→「ふっ(コクリッ)」
「「だっしゃああぁぁぁ~~~~~っっ!!」」
バシコ~~~~ンッ!!
「やめばはぁ~~~~っっ?」
「満郎が無限バレーボール拷問状態に~~~~っ?」
バーボン・ラックス少年と美冬に見守れながら、菫とシオンにバレーボールよろしくスパイクされまくられるという、二人の腹いせを今受けることとなった満郎を視界の端に、カルラ・タケナカは状況打開のため、とある二人の人物の元に近寄っていた。
「カグヤさん、レイチェルさん! お二人の力を貸してください!」
「「断るっっ!!」」
同時に振り返り、同時に即答されてしまった。
しかし、軍略を得意とするカルラ、親指を立ててめげずに交渉を続ける。
「息ピッタリ! これなら何の問題もなく任せられます!」
「「絶対嫌だからっ!!」」
なおも拒否する二人の言葉は、示し合わせたかのようにピッタリ揃う。
「でも、この状況を打開するには―――、満郎さんがスパイクサンドバックから解放されるためには、どうしてもイマジン体使いのお二人の力が必要なんです!」
「「よしっ! 日影! 協力してくれっ!」」
「………は?」
唐突に話を振られた少年、八雲日影は、何気にトレードマークとなりつつあるアホ毛を『?』の形にして首を傾げてしまう。
「日影様、これは好機かと? このお誘いを受けて、日影様の御友人関係を広めるべきです」
日影の傍らに控える、彼のイマジン体、金髪碧眼のエプロンドレス姿のメイド少女、紫電は心持期待に満ちた瞳で主を促す。
「え、やだよ………。こんな僕が協力しようとしてもチームワークを崩すだけだし」
―――が、自虐癖のあるらしい日影は、せっかくの紫電の助言も
だが、主思いの紫電としても、ここで容易に引き下がっては、懐刀の名が泣くと言うもの。カグヤとレイチェルが未だに辛抱強く待ってくれている内にどうにか説得したいところだ。微妙にカグヤの表情だけが曇っているあたり、次の発言次第で悪印象を与えてしまいそうでもある。ここは彼のほうから歩み寄れるように誘導したい。
「日影様、相手はどちらも日影様の能力『刀剣之顕現』に類する、イマジン体を顕現させる能力者ですよ? 全く興味を惹かれないと言えますか?」
「そう言われちゃうとそうなんだけど………」
興味が出始めたのか、二人のことをちらちらと視線を向け始める日影。手応えを感じた紫電が、トドメの一言を告げようとして―――、
「あ、すみません。火と水の属性がほしいので、ないならご遠慮願えますか?」
先に、カルラにトドメを刺されてしまった。
日影は肩をすくめて紫電に苦笑を送る。
「だってさ?」
「左様………で、ございます、か………」
心底残念そうにしょんぼりする紫電。
さすがに悪い気がしたカルラだが、この間にも満郎がスパイクサンドバック(何気に凍土がネット、劫火がブロックの役割をするような行動を見せ始めている)を続行され続けているので悠長にしていられない。
「お願いします! お二人の力がどうしても必要なんです!」
「「力は貸すけど、こいつと比較されるのは嫌だ!!」」
同時に互いを指さすカグヤ&レイチェル。
「行動、言葉、発音まで何から何までピッタリ揃えられるのに、どうしてそんなに仲が悪いんですかっ!?」
「………え? 仲悪いか、私たち?」
「良くはない………、っと思うが?」
「なんで二人揃って微妙顔っ!? ここで疑問を述べられる方が不思議っ!?」
カルラのツッコミに、二人は左手で頭の後ろを軽く掻きながら、右手を軽く振って「いやいや………」っと否定して見せる。
「譲れない一線があると言うだけで、別に本人を嫌っているわけじゃない」
「俺の分野を取られたくないと言うだけで、嫌悪感とかはないな」
「じゃ、じゃあ、もしかしてお二人は仲がいいんですか?」
「「いや、全然」」
「お二人の関係や如何にっ!?」
背後でタイミングよく爆発音が起き、カルラのショックが強調された感じになった。この時、餌食になった
何とか協力を仰ごうと頼み方を変えてみようかと考えたカルラ。その肩を左右から別の人間に同時に叩かれ、言葉が詰まる。振り返って確認すると、白い長髪をポニーテールにしている真紅の瞳の小柄な少女と、長い髪をツインテールにしているゴスロリ姿の少女―――に見える男子。
「大丈夫だよカルラさん」
「ここは私たちに任せろ」
二人はそう言うとカルラが何か言い返すより先に前へ出る。
彩夏はカグヤの前に立つと、すかさず胸元のリボンを緩め出した。
「カグヤ………、吊り橋効果を利用して私と親睦を―――」
「
カグヤはビクつき、一目散に逃げだそうとしたが、そのタイミングを見計らったように星琉が彼に聞こえる声を意識してレイチェルに話しかける。
「レイチェルの能力の高さなら、カルラの策を確実に成功させられるだろう?」
「もちろんだとも星琉!」
意気揚々と答えるレイチェル。そして、その隣では逃げ出したように思えたカグヤが既に火の神カグラを顕現させてスタンバイしていた。
「どうしたレイチェル? やらないなら俺だけでやっちまうぞ?」
なぜか自分だけは最初からやる気でしたよ?と言いたげな態度をとって見せている。
「なんでお前が上から目線なんだ! そもそもお前と協力するなどと誰が―――っ!」
憤慨するレイチェルがそこまで言葉を発したタイミングを狙って、更に星琉が呟く。
「つまりレイチェルよりカグヤの方が空気を読める?」
「協調性の湧く煽りが来たので乗せられることにした! 合わせろよカグヤッ!」
レイチェルがカグヤの隣に立ち、背後に火の悪魔アスモデウスを顕現させスタンばる。
「いや、別にお前と協力するなどとは―――」
「………?」←肩部分の服をずらしてにじり寄る彩夏。
「今ならお前とフォークダンスを完璧に踊って見せられる気分にされたぜっ!!」
二人は、星琉と彩夏に乗せられていると分かった上で、
星琉と彩夏がカルラに振り返り親指を立てる姿に、何とも言えない脱力感を抱きながら、カルラはとりあえず作戦内容を二人に説明しようとする。
「え~~っと………、では作戦ですが―――」
「「ああ、それ人選の時点で既に分かってるから説明しなくていい」」
二人揃って振り返りもせず片手を振ってそっけなく答える。我慢できずにカルラは頭を抱えて座り込んでしまった。
「これだからAクラスは面倒くさいんですよっ!!」
嘆くカルラ。その反応に、何気にAクラス全員が満足そうな表情をしていた。弄り好きのAクラスにとって、打てば鳴るような反応を見せるBクラスは、相当好まれているのだ。愛すべき弄り相手として。
「あのっ? そろそろ満郎さんの回復が間に合わないのでっ! 助けてあげてくださ~~~いっ!」
―――瞬間、二人は全く同じ動作、タイミングで手を翳し、それぞれのイマジン体に命令を送る。
「
「
血のように朱い髪に蝙蝠の翼を持つ少女の姿をしたアスモデウスが、急成長し、妖艶な女性の姿へと変わる。頭には二つの角が飛び出し、肢体は凹凸をはっきりさせた艶めかしい物へと変わる。その姿は美しくも、どこか恐ろしい雰囲気をまとった悪魔の姿があった。
同じく炎の様に赤い髪を持つ幼女の姿をしたカグラは、全身を炎に包まれ膨張、十メートルに及ぶ火柱となり、そこから出た六角柱の物体がいくつも連なる大蛇の様相を現す。
『ゴアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッッ!!!!』
角を持つ蛇と言う火の神、
正体を現した炎の悪魔と火の神、その主である二人がイマジネートを繰り、双頭蛇に対抗するため、最大火力を命令する。
「アスモデウス!
「
妖艶な美女となったアスモデウスが手を広げ、全身から炎を迸らせ、
命令を受けてからの僅かなタイムラグを経て、火を司る悪魔と神は、同時にその劫火を放ち、完全に同化させ、より巨大な炎を生み出した。
巨大な炎が双頭蛇に激突! スケールだけ言えば炎の方が大きいのだが、威力が勝っているのは明らかに氷炎の双頭蛇の方だった。それでもゆかりは、むしろ嬉しそうに学生二人を褒め称えた。
「これはお見事! イマジン体を介した『襲』は通常の『襲』と比べ、難易度ばかり上がって威力は同じという、大変なだけの技術やねんけど………。それをDクラスのお株を奪うかの如くここまで完璧に合わせてしまうなんて!
ゆかりはべた褒めしながら、しかしと片目を瞑って続ける。
「せやけど、こっちは三重の『襲』、なんぼ規模が大きいゆうても二重の『襲』では分が悪いかなぁ~~?」
実際、『襲』は、二重三重と重ねた分だけ一次元上に行くような都合の良い力ではない。(単発と二重では差があるが…)重ねた分だけ効率よく威力を底上げできるが、圧倒的な力差を作るというわけにはいかない。Aクラス二人が作り出した巨大な炎であっても、Dクラストップウィザードの二人が作り出したイマジネートを、教師であるゆかりに制御されたうえで操られる三重『襲』には到底及ばないのである。せめて同じ
「そんなことは………」「………解ってるさ」
レイチェル、カグヤが同時に微笑む。
ゆかりがその笑みに気づき、
清楚なワンピースに身を包む蒼い髪の女性が、大量の水を背から両手に集め―――、
黒い装いに濡れ羽色の長髪を風に靡かせ、黒曜石の瞳でしっかりとゆかりを捉える少女が、両手に持つ、黒い柄のような物を取り出し、それを二つ合わせ、水の弓矢を作り出し―――、
水の悪魔シトリーと、
「ヴァッシャーパイルッ!!」「
シトリーの巨大な水の杭と九曜の強弓となった水の矢が同時に放たれ、混ざり合い、『襲』となってゆかりを襲う。
「なるほど。狙いはそっちやったか」
納得の笑みを作ったゆかりは、双頭蛇の片方、凍土だけを動かし、水の『襲』を迎え撃たせる。
この瞬間に拮抗が崩れる。双頭蛇が三重の『襲』として機能していたのは、詠子、美冬の
つまり、ゆかりは今、三重スキルではなく、二重スキルを同時に二つ制御している状態になってしまったということになる。カグヤとレイチェルがイマジン体を使いやっているように、
劫火と業火、凍土と激流。二つの力がぶつかり合い、炎の大爆発と、流氷の霜柱が同時に上がる。ゆかりを中心に濃霧と熱気が立ち込め、完全に視界を遮断してしまう。
「そんでこのタイミングに来るのがこの二人の挟撃なんやね?」
視界ゼロの濃霧の中で、ゆかりは一年生の名簿を思い出しながら、迫ってきている二人の気配を言い当てた。
一人は、この濃霧の中でも光って見えてしまいそうな(もちろん気のせい)スキンヘッド少年、
もう一人は明菜理恵という名の少女で、その能力は『現実法則』。彼女が『現実』と認識する法則を世界レベルで強制することができる。つい先ほどまでは味方の能力まで制限させてしまう恐れがあったため、自発的に抑えていたが、この絶好の機会に能力を発動して挟撃に参加したのだ。
「『限定再現』! 対象をゆかり先生にだけに能力を発動! うりゃああぁぁぁ~~~~~っ!!」
難しいイマジネートを顔を真っ赤にして発動させる理恵。下手に範囲を広げ、
「一撃当てればさすがに先生でもノックダウンさせれるはずだ! 必殺・マジシリーズ! 『マジ殴り』!!」
ゆかりが『現実法則』に囚われている隙を狙って、男の拳がしっかりとゆかりの背中を狙う。この瞬間、概念的には間違いなく男の拳は届いていた。
「イマジン基礎技術、『
ゆかりが気合を入れた声を出すと、全身からイマジンの粒子が破裂するように押しのけられ、彼女に施されるイマジネートの全てが解除される。ゆかりの霊体もイマジン体なので、体に“ラグ”(テレビの砂嵐のように一瞬映像が崩れて見える現象)が軽く生じてしまったが、同時に理恵が施していたイマジネートも完全に雲散霧消してしまう。
「うそんっ?」
法則を押し付けるという無効化能力にも匹敵する自分の能力を、気合いだけで押し破られた(傍からはそんな風にしか見えない)ショックで、理恵は半泣きになってしまう。
自由になったゆかりは、『喝破』の影響で自分の体が不安定になっていることを利用し、
「嘘だろっ? 『肯定再現』使てるんだぞ?」
「『肯定再現』でも『肯定』する対象が不安定になれば、設定をやり直さんと意味がなくなるんよ~~♪」
ゆかりはそう笑いながら男と理恵を取り込む形で結界を生成。『世界に押し付けましょう』の効果を発動。
「水入りバケツを持って一分間直立不動」
理恵と男が廊下に立たされる学生よろしく、両手に水入りバケツを持った状態で直立不動を強制された。
「「なんか地味に嫌だこれっ?」」
「学校のペナルティーなら、やっぱりこう言うのやないと面白くないやろ~~~♪」
最近では授業を受けさせないことの方が学校側にとって不利益であるため、全く見られなくなった罰則だが、これは現代の観点から当てはめても確かに空しくなってくる光景だ。未だ濃霧が晴れていないことが彼等にとって唯一の救いかもしれない。そう、例えば、
ユノ・H・サッバーハ。刻印名:
本来、イマジネーターに対して暗殺は有効な手とは決して言えない。どんな状況にあっても不意を突いた一撃は『直感再現』に感づかれ、躱されてしまう事が多いからだ。そのあと連撃で何とかしとめようとしても、躱され続け、結局“戦闘”に移行してしまうため、イマジネーターを暗殺するのは無理だとさえ言われている。
ただし、その理屈を覆せるのもまた、同じイマジネーターと言う前提条件だ。暗殺の能力に長けた一撃必殺の刃を確実に届かせる。ユノの能力はそのために作られたものだ。
能力『暗殺技能』と派生能力『影移り』、その二つを同時に発動。本物の『
濃霧の中で視界はゼロ。幽体のゆかりに影がないのが残念だったが、暗殺技能に優れたユノにしてみればこの濃霧の中で音も気配も感じさせずに接近するなど容易いことだ。相手が教師ということも考慮し、カルラの立てた“作戦”が整うまで待ち続けてきた。殺気を微塵も出すことなく、ゆかりの背後を取り、彼女が新たな結界を作り出すより早く、自分の影から打ち出されるナイフが、まっすぐゆかりの胸を貫く。
ゆかりの胸を中心に、大きな空洞が生み出され、彼女の霊体に穴が開いた。
「取った!!」
崩れた霊体の風穴を見て、咄嗟に歓喜の声を上げるユノ。―――が、ゆかりの霊体がゆっくりと肩越しに振り返り、その顔が再びニッコリと笑まれた瞬間、違和感に気づき青ざめる。
「―――ってないっ!? 嘘っ!? みんな警戒―――!!」
周囲に警戒を促すより早く、ゆかりの結界がユノを捉えた。
「『断絶再現』自身の中でイマジンの存在しない空間を作る中難度技術やよ。御覧の通り、霊体の私が使うと、完全に“私のいない空間”を作れちゃったりするわけやね~~♪ はい、攻撃失敗した子はペナルティーとして『三回周ってワンと鳴く』を5セットほど」
「ありきたりで、一番きついペナルティーワン~~~~ッッ!!」
容赦ない羞恥ペナルティーを次々と受けることになってしまう生徒達。幽霊教師のニッコリ笑顔を僅かたりとも歪ませる事叶わず、皆歯噛みするばかりである。
まだ濃霧が晴れないうちに
「く、くそっ! これじゃあそのうち俺もやられちまうっ! どうすれば………! そうだ!」
殆ど戦闘に参加していないのに、とばっちりなどで多大なダメージを受けてしまっていた
「『フォートレス!』」
満郎の宣言に応じ能力が発動、塔の頂上の部屋に満郎を収納した状態で居城が出現する。
「はーはっはっはっはぁーっ!! 見たかこの巨大な塔をっ! この塔は正規のルートを通らないとこの部屋に入れないようになっているのだ! だが、内部は無数の罠が張り巡らされていて、その全てがイマジンにより効果を強制されている! 例え幽霊だって効果はあるぜぇ! しかも罠の数は本当にすごいからなっ! 絶対突破不可能だ! 俺自身でさえ把握してないほどだしなっ! 後先考えずに作りまくったからな! もう、俺もここから地上に戻れる気がしないぜぇ~~~っっ!!」
「………太陽の神子よ、奴は自信たっぷりに何を言っているのだ?」
「触れてやるでない
黒髪黒眼のドイツ人。鋭い目つきと鋼の肉体を持つ男、
満郎のボケが炸裂した所為なのか、攻撃の波が止まる。このタイミングを逃すことなく察知したゆかりは、ここで次のステップへと移行する。
「そんなら、そろそろ先生も
『攻撃』。今更そう言われてもピンとこない生徒が大半だった。攻撃なら先ほどからしていたのではなかったか? この先生は何を今更わざわざ『攻撃』を宣言したのだろう?
その疑問の答えに、辿り着いていた生徒は、教師がついに
「おい………、いつから岩の雨は止んだ?」
誰かが呟く。
いつの間にか、あれだけ絶え間なく振っていた岩の雨は止み、静寂が訪れていた。
嫌な予感―――そんなものが生徒たちの胸中に生まれた瞬間、まるでそれを狙ったかのように影が差した。
それは急な影だった。何かが頭上に現れたというより、ちょうど太陽に分厚い雲でもかかったのではないかと思えるほどに、周囲一帯を暗がりにする大きな影だった。
八束菫は『直感』に従って空を見上げる。―――一瞬で顔が硬直した。
隣に立っていた東雲カグヤがそれに気づき、自分も天を仰ぐ。―――意味もなく薄ら笑いが込み上がった。
影が濃くなり、気づいた者が増え、続々と見上げ―――皆一様に呆然とし始める。
「ああ………、これはあれだ。あの人だわ」
「うん、俺も知ってる。あの有名な方ですね?」
「え? なに? どうしたの?」
「それでは知っている皆さん、声を揃えて御一緒に、せ~~~の………っ!」
この瞬間、知っている者は、この状況を作ったゆかりに対して、こう称した。
「「「「「「「「「「マダラがいる~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!??」」」」」」」」」」
百メートル級は在りそうな大岩が、空から隕石の如く飛来してくる光景に、生徒たちは戦々恐々に悲鳴を上げた。
「え!? なにっ!? “マダラ”って何っ!?」
「にゃんこ先生ですかっ!?」
「
「空に上がった岩の数が落ちてくる岩の数と合わないと思ったら、これを作っていたというわけですか、………ははっ」
「ティアナちゃん? しっかりして? 目が行っちゃってるわ~~」
「ううっ………ひぐっ………おとーさん、おかーさん………」
「キキちゃんがこのタイミングでホームシックッ!? いや、むしろ走馬燈ですっ!?」
「………、あ~~………」
「満郎く~~んっ! 能力の意味がなくなった上に逃げることもできなくなってしまったからって、希望を捨ててはいけませ~~んっ!」
「ねえ…満郎? 今どんな、気持ち? どんな気持ち………?」
「菫、さすがにもう煽ってやんな。なんかシャレにならんくらい可哀想になってきたから………」
さすがの事態に生徒一同は混乱の坩堝状態に陥っていた。
甘楽弥生は皆の叫んだ理由が解らず、一人混乱。
夜刀神ティアナは、冷静にこの状況を受け止め、普通に思考がショートしてしまい、双子の姉、夜刀神メリアに支えられる。
若干八歳のイマジネーター
塔の上で呆然とするしかない満郎に至っては、美冬のフォローも空しく、八束菫から追い打ちをかけられ、放心したまま涙を流すしかなくなり、さすがに見ていられなくなったカグヤが菫を止めに入っていた。
もはやカオス状態に近い混乱の中、彼等は正しい判断ができているのか、自分達でさえ自信が持てなくなり始めていた。
一年生の頭脳、カルラは乾いた笑みを浮かべながらカグヤとレイチェルへと水を傾けてみる。
「ほら、今ですよお二人とも? 今度こそ先を競ってあれを打ち砕いてみては? あんなの打ち砕いた日には、誰が優秀か一目瞭然ですよ?」
「そんなことを言われてもだなぁ~………。ロノウェ、あれをどうにかできるか?」
「はっはっはっ! 御冗談を主? あれを砕けるなら、私はウルルすら打ち砕けてしまいますよ?」
「だよなぁ~。おい、カグヤ? 今回譲ってもいいぞ?」
「九曜、いけそうか?」
「申し訳ありません。私でもエアーズロックは厳しいかと………」
「カグラは?」
「あれが砕けるなら、私は神話上、伊邪那岐を恐れなかった」
「だよなぁ~………」
カグヤ、レイチェルは二人視線を合わせた後、同時にカルラの方へと振り返る。
「「ごめん、ちょっと無理」」
「ですよね~~っ」
ちょっと涙目になりながらカルラは同意した。最初からそれほど大きな期待は寄せていなかったのだ。
隕石落下まで、目測で約一分。割と長く感じられるが、対処法が解らない現状では死の秒読みと例えても過大発言ではないだろう。
さすがに諦めるしかないのかという焦りが生まれそうになる中、
「ふっふっふっ! カルラ! どうやら今回の頭脳戦は私の勝ちだな!」
「なんです突然? 何か良い方法でも思いついたんですか?」
「ウチには! あの大質量を破壊せしめる希望を持った“危険物コンビ”がいるのを忘れたのかっ!!」
「「「「「「「「「「ま、まさか………っ!?」」」」」」」」」」
静香の発言に、かつて入学試験での悪夢を思い出した一年生達。
一斉に生徒の視線を集めたのは、静香の『先達の教え』の能力『コロンブスの卵』により、既に伝達を受けスタンバイしている二人の姿―――!
ウェーブのかかった長い小麦色の髪をした、線の細い車椅子に座っている少女、
入学当初とは違い、機械的ギミック装備を全身に装備している異世界出身、新神機神の機械少年、
泣く子も恐れる、『混ぜたら危険コンビ』の登場であった。
「今回に限っては思いっきりやって良いとのことで………っ! よろしく凉女!」
「切り捨てごめんの覚悟です!
凉女は『
「
「『機神化』『
『機神化』『
嘗ては、彼にこう言った火力バカとも言える驚異の標的になることを本気で恐ろしいと感じた生徒達だったが、今は味方としてこれほどに頼もしいと感じたことはない。皆の期待を一身に受ける中、神也はその期待に応えて見せようと言わんばかりの笑顔と共に―――!
「
ドゥドゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!
およそ聞き覚えのない轟音を鳴らし、『ドラグナーブラスト』は、その高エネルギーの奔流を吐き出した。
エネルギーゆえに砲身に反動はなく、合わせられた照準はズレることなく巨大落石へと直進。高熱量の発生で周囲の大気が吹き荒れる中、生徒たちは期待に満ちた視線を向ける。
エネルギーは直撃し、着弾個所を超加熱。岩の表面を真っ赤に染め上げ、更に深くへと侵入。激しい温度変化に曝された岩壁が、大きな爆発現象を起こし、粉塵を巻き上げた。
皆が感嘆の声を漏らし、様子を窺う先で、土煙はすぐに消え去り―――変わらず落下してくる大岩の様相を見せていた。
神也は力なくその場に膝を付き、激しいショックの中で呟く。
「………火力が………………足りない………」
「「「「「ホントに足りてねぇ~~~~~~~~~っっっ!!?」」」」」
生徒達から悲鳴にも似た合いの手(?)を受け取りながら、しかし神也は項垂れるしかない。なにせ、今のは神也が凉女と協力して撃てる最大火力だったのだ。
武装だけなら他にも対戦車ライフルや、空爆ミサイルなど、いくらでも存在している。だが、あまり過剰な装備を付け加えすぎると、装備する神也に負担がかかりすぎて兵装一つ分につぎ込める火力が低下してしまうなどの減少が発生してしまう。そのリスクを考えた上で現状使える最大火力が『ドラグナーブラスト』だ。それが撃ち負けたとなれば、現状の神也の力では、あの大岩を破壊するには至れないと言う事実を認識せざる負えない。
この事実は火力好きの神也には強烈なショックで、そして周囲の生徒達にも相当なショックとなり、焦燥感をさらに駆り立てる結果となった。
「くそ………っ! ≪神格―――≫!!」
焦ったジークが切り札を切ろうと己の剣を刃を掴もうとする。
それを見たカグヤは、慌ててジークの腕を掴んで止める。
「待てジーク! それはまだ早い!」
「ならどうすると言うんだっ!? 俺以外に隕石を砕ける者がいるかっ!?」
「僕がやりますっ!!」
ジークに答えたのはカグヤではなく、巨大なライオン型ロボットの背に乗る、ツンツン頭をした十歳の少年、
「ガオング! ファイティングモード!」
勇輝の号令に従い、四足歩行型のライオン型巨大ロボットが変形を開始。二足歩行型の巨大なロボットへと姿を変える。
「フェニクシオンッ!」
続いてそれに手を翳し呼ぶと、天空から赤い光が瞬き、巨大大鳥型のロボットが気勢を上げて舞い降りてくる。
その姿を認めた『ガオング・ファイティングモード』が膝を曲げて跳躍。空中でフェニクシオンと重なる。
「合体ッ!!」
フェニクシオンとガオングの体が分解され、そのパーツが合わさ合い、一体の二足型ロボットが誕生する。真っ赤な巨大な翼と、太い手足を持つロボットフォルム。ガオングとフェニクシオンの合体した、新た存在―――。
「完成っ! フェニクシオガオング!! 愛と正義に勇気を乗せて! 勇輝とフェニクシオガオング! 只今参上!!」
フェニクシオガオングの肩で、ビシッ! っとポーズを決めて名乗りを上げる。決して彼は中二病ではない。彼は十歳だ。年齢相応なのだ。まだ温かい目で見られるべき存在なのだ。
何より、今彼が使っている巨大ロボットは冗談なくアニメヒーロー並みの力を持つ、スーパーロボット。物理法則を無視した超強力兵器。油断ならない。
「いやぁ~~、勇輝君、心意気は買うけどさぁ~? さすがに君の力じゃ隕石は止められないでしょう~~?」
成り行きを見守っていた
振り返った勇輝も、闘矢に向ける表情は笑っていたが、焦燥感を隠しきれてはいなかった。
―――が、そこに反応を見せたのは神也であった。彼は立ち上がると、自身の派生能力『技術チート』により『
「巨大ロボット、神機バージョン! 『ロボゴット(仮)』! ここに完成っ!」
神也の姿はロボットの中心、心臓の位置に収納されてしまったので、傍からはその表情を窺うことはできないのだが、どこかに取り付けられているらしいスピーカーから発せられる声からして、かなりキラキラした瞳で叫んでいることは間違いないだろう。
「………はっ!? 今です凉女さん! 二人に力を貸してください!」
作戦の失敗で呆然としてしまっていた静香が我に返って凉女に指示を出す。あれを砕ける最大の一手を思いついたのだ。しかし、能力で作戦内容を伝えられているはずの凉女は何故か表情を赤くして潤んだ瞳を返してきた。心なしか羞恥心を堪えつつも怒っているような表情に見える。
「衆目の前で下着を晒すなんてできませんっ!!」
「カルラッ! 凉女さんは一体何を言ってるのっ!?」
「ごめんなさいさっぱりです。Aクラスの方なら解る方がいるのでは?」
あまり期待していないような視線を近くにいるAクラスメンバーに向ける。
カグヤは「俺でも解んねんよ」と答え、レイチェルも「あれが解る脳細胞ではないな」と皮肉に返し、
及川凉女を理解するのは、Aクラスにも難しいという事実に、カルラと静香は揃って乾いた笑いを浮かべたのだが―――、
「それならスカートを押さえるか、ズボンに穿き替えればよかろう!!」
「なるほどっ!
「「「「「「「ええぇ~~~~~っっ!? 会話できるのかお前ぇ~~~~~~っっ!?」」」」」」」
その場にいた七名全員が驚愕の声を上げる中、オジマンディアス2世はさも当たり前と言いたげな表情を返して見せた。
「民の言葉を理解せずして何が王かっ?」
太陽の後光でも受けていそうな威厳たっぷりな姿であったが、なぜか納得できないので皆微妙な表情にならざる負えない。
助言を受けた凉女は車椅子にミサイルを装着、切り離さずに点火し、その推進力を利用して浮上。爆風に煽られスカートが豪快にはためくが、オジマンディアス2世の助言通りスカートを押さえているので下着を晒すことはない。黒のストッキングで包まれた足は、結構見えてしまっているが、本人ストッキングはセーフラインらしい。
勇輝と神也の間まで浮上した凉女、そのタイミングでミサイルを切り離し、彼女は能力を発動。
「
次々と作り出されるのはロボットのパーツと思われる機械。しかし、ロボット本体を作り出せるはずの凉女はそれをしない。不思議に思う生徒達をよそに、その意味を理解した勇輝と神也は、同時にロボット動かし凉目を挟み込むように飛ぶ。途中で体が分解し、互いのパーツが混ざり合い、凉女と勇輝を取り込み、新たなパーツも合わせ、再び一体のロボットとして『合体』する。
完成したのは全長十五メートルを超す巨体となった漆黒と純白のパーツで彩られた新たなフェニクシオガオング!
「夢の三神合体………ッ! 完成っ!」
勇輝の言葉に続き、三種類のコックピットが一体となった操縦室で、凉女と神也も続いて唱和!
「「「『
「対社比0.5割増しですっ!」
「火力が三十倍アップでヒャッホォ~~~~っ♪」
「愛と正義と友情の完成形ですっ!」
「ツッコミ待ちなんだよなこれは?」
思わずと言った感じにカグヤが隣にいる美冬に訪ねるが「わ、私に聞かないでください」とどもり気味に返されるだけだった。
三神合体ロボットは、なぜか発声出来るらしい雄叫びを上げると、両肩と脇から二門ずつ巨大な砲門を取り出すと、それを隕石に向け、エネルギーをチャージし始める。隕石落下まで、後三十秒に差し迫った中、エネルギーが収束を完了し、一気に力を開放する。
「「「必殺っ!! ゴット・ブレイザーーーーーーーーーーー!!!」」」
なぜか物凄く息が合ってしまう三人が声を揃え、超巨大な光の柱となりて、エネルギー砲は発射される。
光の柱は隕石に直撃すると、『ドラグナーブラスト』同様に表面を真っ赤に加熱して焼き溶かしていく。先ほどと違うのは、その範囲が圧倒的にデカイこと。そして、熱量が届いていない範囲に、複数の亀裂が入っていっていることだ。
「い、いける………っ! いけるっぽい!」
亀裂が広がっていく光景に、
「「「「「「「「「「いっけぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!」」」」」」」」」」
「「「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!」」」
声援に押されたスーパーロボットは、レンズの瞳を真っ赤に発光。雄叫びを上げて最後のエネルギーを全て叩き込む!
ドッ、ドオオオオォォォーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!
豪快な爆音が轟き、太陽に匹敵する発光を
歓喜を上げる生徒達。それに応えるように光を反射させ、雄姿を見せつける巨大ロボット。それはまさに、相原勇輝が理想と掲げたスーパーロボットの姿。同時に
その雄姿と、歓声を上げ、口々にお礼や称賛を口にする生徒達をとても眩しそうに見つめる教師は、自然と優し声音で呟く。
「本当に頼もしい生徒の姿を見られて嬉しいです………。―――じゃあ、その調子で
爆煙を貫き、二つ目の隕石が姿を現し、生徒達は一斉に驚愕の声をあげさせられた。
「「「「「「「「「「やっぱりマダラだった~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!!!」」」」」」」」」」
やっと脱したと思えた矢先、新たに続く脅威に生徒達は半泣きになりなりそうだった。依然崩さない教師の笑みが、どこか小悪魔的にさえ見えてくる。
「三人とも~~! もう一回お願いできますか~~~っ!?」
「な、ななな、何やってんだいきなりっ!?」
いきなりの無謀な行為に
それに返ってきた勇輝のセリフは、当然と言えば当然の、とてつもなく絶望的な返答であった。
「すみませんっ! さっきの砲撃は三神合体で得たエネルギーをほとんど全て放出することで叶った威力なんです! ですからもう一発撃つまでにはさすがにチャージが必要で………っ! これが落下するまでに二発目を打つのは無理なんです~~~っ!!」
「エネルギー調整してますけど、砲撃に全て集中しても間に合いませんねぇ~~~?」
「火力の弱点は、連射できない事だった………っ!」
「「「「「「「「「「をおおおおぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~いぃっっっっ!!!」」」」」」」」」」
理想を体現する力、イマジン。理想を叶える力があればなんだってできてしまいそうだが、相手もイマジネーターなら話は別だ。どんな世界でも、上手い話と言うのは中々ないものである。
「くそっ! 『
危機を察知した
続き、楓と
「
「できると思うが、さすがに高すぎて当たらねえよっ!?」
理恵と男があわあわした様子で相談しあうが、彼等は彼等で壁に直面してしまっている。
「くそっ! 今度こそ、今度こそ使うぞっ!」
「いや、待てぇぃっ! 次は俺んに試したいことがあるっ!」
再びジークが切り札を切ろうとしたところで、今度は金剛が待ったをかける。先ほど氷漬けにされていたのだが、どうやら
「行くぞっ!! 『大江山の羅生門』!!」
金剛が右手を地面に叩きつけ、『羅生門』を呼ぶ。隆起した大地が鬼の形相を描かれた門となり顕れ、周囲に青い鬼火を広げ、金剛が支配する領域を作る。鬼火が領域を形成し終えると同時に、神格を獲得した金剛の体が
「『大江山の羅生門』のイメージからいけば、ここで使えば………『鬼神化』!」
金剛は疑似神格を得ることで、全身を鬼の姿へと変貌させる事ができる能力を持っている。しかし、『大江山の羅生門』を会得した時点で疑似神格を得る必要はなくなったと言ってもいい。だが、設定した能力を変更しているわけではないこの状況で、本物の神格を得ている状態で『鬼神化』を使用するとどうなるのか? その答えは既に予想できていた。
「………古来より、日本に限らず、強い力を持つ奴っていうのは単純にデカイ奴だって現されることが多い。大ムカデ然り、巨人然り………。だからってこいつは在りかよ?」
変質していく金剛の姿に、嘗て彼と戦い辛くも勝利を掴み取ったカグヤは、相当にげんなりした表情でぼやく。
鬼の神格を得た金剛が、更に『鬼神化』により『鬼神』として相応しい神格を有するべく、イマジンが辻褄合わせを行われる。その結果、地上に五十メートル級の超巨大な鬼が誕生していた。
「ブガアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!」
咆哮を上げる鬼神。その咆哮だけで大気が震え、地響きすら錯覚させられる。
「これが俺の能力の多重合わせ技! 『
金剛は右腕を振りかぶると、肩から筋肉を脈動させ、腕全体を一回り膨れ上がらせるほど力を溜め込む。イマジンによる強化再現も施され、まるで山の一角と見紛う威風を称える。
危険を察し、隕石の落下減速に努めていた『
「『
拳が撃ち込まれ、寒山の噴火の如き爆音が轟く。落下していた隕石は一瞬で停止し、拳を撃ち込まれた個所から亀裂を走らせ、一気に崩壊を始めた。
二度目の奇跡。巨大隕石破壊の功労者に、皆が賛辞と歓喜の声を上げる。しかし、今度も歓声は長くは続かなかった。またゆかりが何か仕掛けたのではない。先ほどのスーパーロボットと違い、今度の破壊は純粋な打撃破壊。つまり、大小さまざまな破片は残ってしまう事になる。そしてその破片は、小さい物でも二階建て一軒家一つ分くらいは余裕でありそうな大きさ。それも数は広範囲に雨の如し………。
「アホ金剛~~~っ!! どうせならしっかり全部ぶっ壊せよ~~~~~っ!?」
「なんじゃと東雲~~っ!? これでも精一杯配慮したわいっ! 破片くらいは自分達で何とかせいっ! それともこのままリベンジでもしたろうかいっ!?」
「
「謝るな~~~っ!! 俺ぁ、勝負したかったんじゃぁ~~~~~っっ!!」
「売った喧嘩をスルーされたからって、売ってもいない喧嘩を無理矢理買わんでくれるかっ!?」
「巨人と小人の漫才してないで、そろそろ対処した方がよくないですか?」
「とリあえず、大きいノは任せるヨ!」
「爆散させて更に小さい破片にします!」
陽凜と楓が空に手を翳し、次々と隕石の雨を粉砕させていく。
「『
陽凜の能力で爆弾化した人形達が次々と空に跳び上がり、隕石に体当たりしながら爆発していく。さらに、その爆発事態、楓の能力によって多重爆発を起こしているため、思いのほか次々と大岩が、普通の岩くらいのサイズまで削れていく。爆弾を持った爆弾人形が隕石に向かって自爆テロを仕掛けているような光景に、生徒一同はちょびっと寒気を感じてしまう。このコンビの攻撃もできる事なら受けたくはない類のものだ。
それでも岩の大きさはトラック一台分は在りそうな大きさ、二人が撃ち落とし損ねた物も多く、未だ危機は去っていない。
ダガガガガガガガガガガガッ!!!
突然空中にあった岩の破片の多くが次々と粉砕されていく。何事かと空を見上げた
「『ベルセルク』!!」
「『瞬閃』!」
甘楽弥生と遊間零時が、空中の岩に飛び乗り、ピンホールかビリヤードの如く岩から岩へと乱反射を繰り返しながら粉砕していく。二人の高速空中曲芸に、標的となった岩々は次々と
「『特殊弾生成:パリィ』!!」
二丁拳銃を持った
「『
「私のために………、いやっ! 私の代わりに働けっ!! お前たち!」
『
「『英霊召喚』」
厳かに宣言したリク・イアケスの能力もまた軍勢。ただし、彼の呼び出した軍勢は嘗て彼の国に仕えていた本物の英霊達。イマジン学に於いて『魂』の所在は、諸説云々のあるため、その辺の細かい内容は省くが………、リク王に仕えし英霊達は、一切の迷いなく、王の権能に強化された力のままに岩を迎撃する。持ち出される迫撃砲が次々と火を噴き、見事な統率を見せてながら花火のように粉砕していく。飛んできた岩の破片は、リク王の傍に控えるメイド隊が一斉に布を翻し、王専用のテントを作り防いで見せた。
「『
そう、一年生とは言え彼らはイマジネーター、あまりに規格外の高レベル攻撃に対応出来ないものも確かにいたが、それでも彼らが共通して対処できるレベルと言うのは、かなり上位に設定されている。巨大隕石も、その規模が小さくなれば、個人で十分に対応するくらいの力を有しているのだ。
チュドオオオオオォォォォーーーーーーーーーーーーッッッ!!!
「ぐおわああああぁぁぁぁ~~~~~~っっ!!」
「ああぁっ!? 満郎君が岩の雨で要塞ごと下敷きに~~~………っっ!?」
「満郎くん!? なんて素敵すぎるプレイッ!? 私も頑張って岩の雨に曝され―――ぶぎゃんっ! サイコーーーーッッ!!」
「「………頭痛くなりそう」」
要塞の下敷きになる満郎の姿に心配する美冬。むしろ羨望の眼差しを向けて自ら岩の下敷きになりに行く
「うふふふっ♪ ホンに皆逞しいなぁ~~~♪」
岩の雨を全て粉砕したところで、ゆかりが再び微笑を漏らしながら片手を空に突き出す。それだけで生徒全員が戦慄し、慌てて上空を確認した。そこには予想通り、間髪入れずに危機が到来していた。
「それじゃあ今度は、一度に
一つの大岩を中心に四つの大岩が囲むようにして落下してきた。もはやメテオスウォーム状態である。
「今度はどうするっ!? 誰が対処するっ!? それとも今度こそ使うかっ!?」
ジークが叫びつつ剣を構える。レイチェルがとりあえず早まらないように止めるが、正直その表情はすぐにでも頼りたそうに引き攣っている。
カグヤが慌てて対処できそうな相手に声をかけ、確認を取っていく。
「金剛っ!」
「すまんっ! この体にまだ慣れていなくてなぁっ! もう限界だっ!」
言う間に金剛の体は縮んでいき、元のサイズに戻ってしまう。『鬼神化』の能力が不安定になり、解除されてしまったのだ。
「危険物トリオッ!」
「エネルギーチャージがまだ足りません………」
「火力! 火力の禁断症状が………っ!」
「“危険物”って僕らのことですかっ!?」
凉女、神也、勇輝がそれぞれ返答。スーパーロボット『
「菫っ!」
「無理」
即答。
「
「任せろっ! やっと使えそうなカードを見つけ―――ああぁ~~~っ!? 嘘っ!? このタイミングで風に飛ばされたぁ~~~っ!!」
愚か。
「カルラッ!」
「ちょっと泣きそうな顔しないでくださいっ! ………思いのほか可愛くて何かに目覚めそうになります(ボソッ」
「今何か怖いこと呟かなかった?」
「いけますか啓一さんっ!?」(スルー)
「任せろっ!」
「『
嘗て、己を暴走させた力を発動した啓一は、同時にイマジン基礎技術『劣化再現』を起動する。『劣化再現』は、本来発動する能力の力を、言葉通り制限し、削減させるものだ。強化と違い必要なさそうにみられるが、実際この能力はとても重要な役割を持っている。今回のように暴走の危険性を持つ能力であっても『劣化再現』を行うことでセーブをかけ、暴走させずに能力を使えるようにできる。
(落ち着け………っ! 慎重にだ………っ! もう暴走なんてしてたまるかっ。目を覚ましたら勝ち負けが決まってたなんて言うのはもうごめんだっ! 弥生が俺を助けるためにしたように、あくまで俺が制御できる範囲だけをくみ取って使用するんだ………っ!)
『斬り裂き魔』の力が、啓一をバーサーク状態にしようと浸食を始める。その効果を最小限に抑え、力だけを汲み取っていく。全身に回ろうとしていた“力”は、啓一に抑え込まれ、二本の刀にだけ流れ込む。刃が温度の無い熱気を孕み、尋常ならざる切れ味を与える。
(くそ………っ! これ以上はもう無理だっ! これ以上やると意識を持っていかれてしまう………っ! 俺には一割程度の力も引っ張り出せないのかっ!?)
思ったほど力を汲み取れなかった事に歯噛みする啓一。その背中に、何者かの手が添えられた。
『
突然、啓一の体にありえない量の力が漲る。何事かと背後を見やると、そこには赤い籠手を左腕に装着した
「僕の力で君の力を増幅したんだ。っと言っても今の僕では、本来力を強化することしかできなかったんだけどね? 『譲渡再現』っと言うのがあって助かったよ。完全ではないが、力を譲渡できた」
『譲渡再現』は自分の力を相手に分け与える技ではない。本来これは、相手に自分の有しているものを“譲渡”の言葉通り『献上』するに等しい。自分の持っているジュースを容器ごと誰かに譲渡すれば、自分の分のジュースはなくなってしまう。容器渡してしまっているので、新しくジュースを注いでもらうこともできない。そんな風に相手に全てを差し出してしまう技が『譲渡再現』なのだ。
啓一はそんな彼女の姿に背中を押され、二刀をしっかりと構えた。
「必ず破壊して見せるっ! だが、これでも俺が破壊できるのは一つだけだ!」
啓一の訴えを聞いて、カルラは別の相手に視線を向ける。
「
「不完全にはなるができるっ! 足りない分はオリジナル危険物トリオに修正させれば問題ないはずだ!」
イマジン基礎技術特殊例『同化再現』である。全く同じイメージは、イメージ同士を融合させることが可能だ。イマジンにより実態を作られる存在も、存在を固定する前の希薄状態であれば、同化させることができ、互いの足りない部分を補い合うことができるのだ。ただし、これは同じイメージ系の物だけに限られた方法で、“特殊例”っと言う特別なカテゴライズに分類される。
「エネルギーが回復しました! 完全ではありませんが、これなら一つ破壊するなら十分に可能です!」
「火力撃ち放題!! ゆかり先生! 本当にありがとう!」
「………救急セットで足りますか?」
新生“危険物トリオ”のちぐはぐな会話についていかず、カルラは別の相手に目を向ける。
「金剛さん! 今の状態で何人までなら隕石まで投げられますかっ!?」
「両腕だけなら『鬼化』できる。羅生門はまだ発動しているから、二人くらいならぶん投げられるぞ?」
「では、一つは男さんに! もう一つは“デュー”さんにお願いします!」
言われた二人、
「よしっ! 拳さえ届けばどんなものでも破壊できる!」
「………いいだろう」
両腕を『鬼化』させた金剛は、残る全ての力を出し尽くすつもりで二人をそれぞれ一つの隕石へと投げ飛ばした。
「っで、残り一つは誰がやる?」
二人が空中に投げ飛ばされた隙に、ジークはスタンバイ状態で問いかける。
しかし、先程まで声掛けをしていたカグヤと、ジークを制していたレイチェルの姿は、いつの間にかどこかへと消え去っている。変わりに声をかけられたカルラは、目的の相手を探してキョロキョロと周囲に視線を巡らし………、
「お待たせっ!
急いで現れたのは、カードを飛ばされ相当疲労する結果になったらしい。
「ま、まさか、ただ風に飛ばされただけかと思ったら………!」
「せ、先生が大気を操って、カード飛ばしてたとか………、もっと早く気づいてれば楽だったのに………!」
「ああ、あれって契くんが、間抜けだったわけじゃなかったんですね………」
「カルラ、僕様に対する評価酷くないっ!?」
何はともあれ、全迎撃の準備が整った。このタイミングでちょうど目標に到達した男とcode:Dullahanが同時に第一迎撃を始めた。
「ぶっ飛びやがれ~~~~~っっ!!」
男の拳が直撃、『一撃必殺』の効果が発揮され、ほぼ強制的に隕石が粉微塵に粉砕された。
「……無駄だ」
『必滅』の能力で『DiesIrae』を発揮したcode:Dullahanは、全身を黒いオーラに包まれる。オーラを纏った手を翳し、無造作に隕石に触れた瞬間、まるで最初からそうであったように、巨大隕石であった大岩は、宙に舞うほどの粉塵へと一瞬で姿を変えた。“終焉”と言う因果を引き寄せる
それでも直接触らなければ力を発揮できない二人には、これが精いっぱい。残る三つは悠然と落下を続けている。
「
交差するように放たれた二つの斬撃。音速に迫る剣速が、ソニックウェーブを起こし、微弱なプラズマ現象を起こし、小さく桜色の火の粉を散らす。まるで花弁が散るかの如く軌跡を奔らせ、イマジンエネルギーを纏った斬撃が隕石に直撃する。二刀の斬撃は隕石を大きく削り取り、その原型を留める力を失わせ、粉微塵に粉砕する。威力のほどは金剛の『鬼神轟拳』に引けを取らないことを証明してみせた。
「こちらも行きますっ!!」
「火力祭りで涙出てきたっ!!」
「四月の旬の果物はなんでしたっけ?」
一人だけ意味不明の発言を漏らしながら、危険物トリオが再び最大級の火力を打ち放ち、隕石を爆散させる。一瞬で塵芥に変えるところはcode:Dullahanと同じだが、彼の能力が因果律操作―――概念系なのに対し、こちらは純粋な火力で行っているのだから、とんでも具合は言いしれないものがあるだろう。だが、さすがに続けざまに放った超火力の所為か、それとも『同化再現』上手くいかなかったのか、はたまたすでに『四重襲』状態に近いイマジンの術式が崩壊したのか、夢の三神合体ロボは、関節の隙間から大量のイマジン粒子を噴出させながら空中分解してしまった。
「残る一つ! やっちゃってっ!」
「
召喚されたのは巨大な赤いドラゴン。頭部に上下二つの口を有する、神格を纏いし神々しい龍神。下の方の大きな口を開き、己が領域とも言える空を覆いつくす隕石に向かった吼え
「殲滅せよ! サンダーフォースッッッ!!」
強烈な破壊の雷が赤い龍の口内から放たれ、隕石の中心に直撃。隕石は三つに分解され、その過程で大部分の岩が複数の破片へと分解されていった。
つまり、約三分の一以下にはしたが、完全には壊せなかった。
「「「「「「「「「「おいっ!!?」」」」」」」」」」
「あ、あれぇ~~~~?」
契は想定内の力が発揮されなかったことに首を傾げ―――、そのまま全身の力が抜けきって地面に突っ伏してしまう。同時に赤き天空竜の姿も霧散してしまった。
「な、なんで………っ! こんなに………っ! 疲れて………っ!?」
「ええっと………、たぶん自分で設定している力に、自分自身の実力が付いて行っていなかったのではないかと………? だから威力半減?」
「半分も出てないんですけど~~~っ!!?」
静香の推測に泣きが入ってしまう契。以前にも想像はしていたが、さすがに『神のカード』と称される力は、自分には早すぎる代物だったらしい。
幸い、残ってしまった三つの岩は、
「じゃあ、ラストで三十個?」
ゆかりは先ほどの倍の大きさの隕石を冗談みたいに投下した。本気で地球最後の日の再現をするかの如く。
「「「「「「「「「「限度ってものを考えろ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
生徒達の魂の声。
余談だが、授業中だった上級性も、さすがにこの光景は教室から見えたらしく、皆が一様に「うわぁ~~……」っという半ば放心状態に近い表情を作りながら同じことを考えたそうだ。
((((((((((ゆかり先生………、今日も絶好調だ………)))))))))
上級生達はすぐに授業に戻ったと言う。
―――っで、
「
たまらず皆の意見をカルラが代弁する。
「ようやくかっ!? 任せろ!! 神格―――!!」
「『世界を区切りましょう』エリアH形成。『世界に押し付けましょう』東郷くんは三分間、権能の使用方法を忘れますぅ~♪」
「俺はネタ要因として扱われているのか~~~~~~っっっ!!!??」
「先生鬼畜にも程がありますよ~~~~~っっっ!!?」
嘆くジークとカルラに、ゆかりは「ほんまBクラスの子らはええ反応返してくれるわ~~♪」っと御満悦の表情だった。
さすがにこの状況はもうダメかもしれないと、皆が混乱し始める。自棄になって我武者羅に走り出す者までいたが、当然足で逃げれる場所などどこにもない。
「よしっ! 今こそお前の出番だ!」
妹、闘壊響に背負われている
「無理だよっ!? お前ら一体何と戦ってんのっ!? これ、もう地球存亡を賭けた~~ってレベルですよっ!? 槍使いにどうこうできるレベルを超えてんですけどっ!? っつか、よく五つまでは対処できたよねぇっ!? もう既にその時点で付いていけないんですけどぉ~~っ!?」
「うるせえぇっ!! 弱音より先にやれることやりやがれっ!」
「無理と言ってるのにかっ!?」
「はんっ!? 本気で無理とか言ってんのかよっ!? よく聞けよ? てめえの信じる“戦国最強”ってのは、語尾に(笑)でも付くのか?」
「………」
恭介の挑発的な台詞を聞いた瞬間、突然静かになった正勝は『戦国最強:本田忠勝』の能力を使い『蜻蛉切』を発動させ、己が持つ槍を英霊武装へと昇華させ―――、
「………結び割れ、『蜻蛉切』」
―――ヒュカンッ! っと、振り抜かれた槍があっさりと大気を両断、隕石の一つを真っ二つに切り裂いた。
「聞き返すよ………」
ヒュカンッ! ヒュカンッ! ………っと、続け様に放たれる斬撃が、いっそ冗談なのではないかと疑いたくなるほど、簡単に隕石を両断していく。その数と速度が次第に増え、まるで空に斬撃の網を作るかの如く刃の軌跡が刻み終えると、彼は悠然と槍を下ろし、恭介へと問い返す。
「何の語尾に(笑)が付くって?」
恭介の眼には、本田正勝の背後で粉塵の如く切り刻まれた岩の破片達が、彼の存在感を強く称えているかのように見えた。
「へへっ、やっぱお前、スイッチが入ると一番
「ってか、そんなことできるなら最っ初からやれよっ!!」
このタイミングで動くべき人間、それを求め、レイチェルと共に先だって動いていたのだから。
「弥生! 菫! シオン! お前達で先生に強襲を掛けろ! たぶん、これが最初で最後のチャンスだ」
「降ってくる隕石の欠片は私たちが対処する。他の支援組は既に指示を出し終えている。急いでくれ」
カグヤとレイチェルの二人に突然声をかけられた三人は、しかし、素早く行動を開始した。“最後のチャンス”っと言う部分は既に全生徒の総意になっていたからだ。
ここまでの攻撃も対処も、生徒達は“様子見”のつもりだった。無論、あまりに規格外すぎて予想以上の被害を被ってはいるが、それも“許容の範囲内”だ。
(ここまでの戦い、で………、ゆかり先生の、攻撃パターン………読めた)
(今ここで動かねば、こちらの体力が持たぬ。攻勢に出られる今しか好機はない!)
(実は良く解ってないのは僕だけなんだろうなぁ~~………。『ベルセルク』の効果で直観的に分かったから行動してるだけだけど………。結果オーライだよね?)
走り出す三人に合わせ、カグヤ、レイチェルは己の僕に指示を出す。
「九曜、援護してやれ」
「ロノウェ、お前もだ」
無言で頷き、僕たる神と悪魔は速やかに行動を開始する。
主たる二人は軻遇突智とアスモデウスを呼び出し、進撃する三人の頭上に落ちようとする岩を破壊していく。しかし、心なしか二人とも随分と威力が落ちているように窺えた。
(くそ………っ、やっぱイマジン体二体同時の襲なんて離れ業、おいそれとするもんじゃねえな………っ!)
(想像以上に頭が、身体が重い………っ、ふとした瞬間に瞼が閉じそうだ………っ)
『襲』とは、単純な技術だけで完成させられるような甘いものではない。他人とイメージを重ねるということは、他人のイメージに浸食されるという事でもある。その影響は知らない者が想像する物とは別種の負担だ。正確ではないが例えるなら、常に周囲からヤジを飛ばされるマラソンのようなものだろうか? 他人を抜いても置いていかれても、周囲から悪意に満ちたヤジを飛ばされ続け、一番で上がれば死刑、最下位になればリンチ、二位以下は全財産の罰金。そんな無茶苦茶なルールを敷かれた中でマラソンを始めるような、心も体も徹底的に貶められるような感覚。それはもう、本当にただの“負担”でしかない。襲とは、それほどの“負担”を強いられるものであり、上手くすればするほど、その“負担”を軽減できるという程度なのだ。決してゼロにはできないし、あのゆかりでさえ、少なからぬ消費はしている。(彼女の場合はそれ以上のスタミナがあるのでそのようには見えないが)
カグヤもレイチェルも、既にスタミナの限界に到達していた。そして、限界に達しているのは、当然二人だけではない。
常に多大な状況変化に、細かな指示を出さなければならないカルラや静香も、脳をフル回転し続け、相当な疲労を溜め込んでいる。
『襲』を行った、読子や美冬はもちろん、『襲』を繰り返ししてしまった危険物トリオや光希などは、既に戦闘不能域にまで入っている。
この状況では目立ってはいないが、
そう言った後方支援組を守るために
これらの理由から、実は一年生達には、これ以上戦闘を続けるだけの余力が残されていないのだ。つまり、これが最初に訪れた好機であり、続くことのできない最後の好機と言うことだ。
「いけ………っ!」
菫は『
シオンは自分の役目をちゃんと理解していた。この状況で自分が頼まれた理由は至極当然。『オーディンの瞳』で未来を予知し、二人の援護をするとこだ。個人的にはこんな支援役は不本意なところはあったが、相手が学園最強の教師と合っては仕方ない。ここは黙って従おう。
「『世界を区切りましょう』エリアE形成。『世界に押し付けましょう』未来に対する不確定要素を肯定」
ゆかりは能力を発動し、未来視を封じてきた。シオンを中心に半径五メートルが彼女の造った結界内だ。
シオンは心底気に入らないという表情を作りながら足を止める。
(ああ、黙って従ってやろうではないか………っ! 不本意ながら、この俺が“囮役”をな………っ!!)
ゆかりの結界は重ねる事ができない。ここまでの間にその弱点に気づいた彼等は、三人の中で最も厄介そうなシオンを投入することで彼に能力を使わせ、その効果範囲を“安全圏”にした。もちろん、ゆかりの結界は重ねる事は出来なくても、結界内に新たな結界を複数造ることは可能だ。だからこそ、囮役はシオンでなければならなかった。シオンの予知能力なら、自分がどのタイミングで結界に囚われるか先に解ることができる。その範囲も含めて。自分が結界に包まれ、力を封じられるタイミングで、弥生、菫は結界の境界部分にいなければならない。でないと、新しい結界に二人が捕まってしまうからだ。
シオンが足を止めたのは十メートル付近。弥生、菫がその時点でいる場所は残り六メートル付近。結界内一メートルに入る物の、このタイミングならゆかりはシオンを捕らえた結界の“外側”に新し結界を張らなければならなくなる。そうでなければ二人を取り逃がしてしまうからだ。
その想定通り、ゆかりは結界を作ろうとして―――頭上に飛びかかってくる複数の影を捉える。
ジーク、正勝、
「『世界に押し付けましょう』殺傷不可。ルールを破った方は腰の切れ抜群のフラダンスをしてもらいますぅ~♪」
「「「「「「しねえよッッッ!!!!」」」」」」
ゆかりの無体な発言に対し、ジーク達六人は、“彼女の足元”を突き刺すことで応えた。
「あら?」
ガシャンッ!! っと言う音が鳴り響き、『肯定再現』によって結界への攻撃を有効にした六人分の斬撃が、ゆかりの結界を打ち砕いた。
(ゆかり先生の能力の弱点その1………、結界を作らなければ能力を発動できない!)
そう、これがゆかりの最大の弱点。自分が支配している空間―――『結界』を作り出さねば、彼女は何もすることができない。故に、攻撃するのはゆかり本人ではない。こちらの動きを
本来、イマジネーターは追い込まれた状況になると、本能として『直感再現』をオートで発動させ、適切な判断を下させるのだが、この『直感』が発動する条件として“自身に危機が迫っている時”っと言う内容がある。つまり、直接的な攻撃を避け、彼女の周囲を囲むようにした攻撃の檻には、『危険無し』と判断され、『直感』が働かないと言うことだ。また、戦闘を常識とする人間にとって、自分に直接的な攻撃をしない攻撃と言うのは、どう対処するべきか迷わせる。そういった心理的な遅延すら利用し、彼ら六人は『拘束役』を担った。
「じゃあ無視してこっちを―――」
ゆかりは残り三メートル地点と言う結構近い場所にまでやってきた弥生、菫へと結界を作る弥生を中心に半径二メートル半の結界。六人のサポートは届かないギリギリの距離。その結界を、支援役を仰せつかっていた九曜が水の刃で穿ち、ロノウェが蹴り砕く。イマジン体である彼等には、人間ほど精密な『イマジン再現』は使えないが、そこは主であるカグヤとレイチェルがちゃんと付与してくれている。さすがに二人も、遠くに離れたイマジン体に『肯定再現』を付与する行為は、現状でかなり厳しかったらしく、表情に苦痛が滲み出る。それでも主力の二人を減速させる事無く送り届け、ついに二人がゆかりへと届く。
拘束役の六人が道を開けつつ、ゆかりの包囲を維持する。弥生が左右の剣にありったけのイマジンを込め、強化。ルビーライトの輝きを纏わせ突きを放つ。菫も弥生に一歩遅れる位置に陣取りながらも、彼女を支援するように控えていた八本の剣を『
「あらあら、ちょっと追い込まれちゃいましたね」
しかし、それでもゆかりの表情から余裕は消えない。霞もしない。
ゆかりを中心に、半径二十メートル圏内が大きく結界で包まれた。
「デカいぞ! 全員で砕け!」
ジークが咄嗟に指示を出し、それぞれ六人が思い思いのやり方で結界を粉砕する。
ガッシャアァァンッッ!! 盛大な音を立てて結界は確かに砕けた。だが―――、
「えっ!?」
「嘘やろっ!?」
「これ………っ!?」
零時、暁、菫がそれぞれ驚愕の声を漏らす。
結界は砕けた。確かに砕けたのだ。
だが、砕けたのは六人が攻撃した僅かな範囲、“一部の結界だけが砕けたのだ”。
「私の区切れる結界の範囲は最小一平方センチメートル範囲。数は現状ではほぼ無限かなぁ? 最大まで試したことはないけど………。まあ、つまり、この二十メートル範囲の結界は、一つの大きな結界やなくて、複数の小さな結界の集合体ってことやね? ………残りの結界全てに『押し付けますぅ』」
誰も反応できない、対処できないタイミングで、ゆかりはニッコリ笑顔のまま殊更に告げる。
「幽霊スタイルに期待の一発芸『ポルターガイスト』! 全員、先生より離れる方向に吹き飛びぃ」
その時起きた衝撃は、襟を掴まれて引っ張られるとか、ダンプカーに撥ねられたとか、
そんな中、それでも空中で体を回転させ、体勢を立て直した者がいた。廿楽弥生だ。
表情はかなり苦しそうに歪められていたが、それでもやっと生み出したチャンスを棒に振るまいと、彼女は残った力の全てを費やし、今自分にできる全てを費やしにかかった。
『特化強化再現』で強化した一刀をゆかりに投げつけ、進行方向中の結界を可能な限り破壊。投剣によりフリーになった手で菫を捕まえると、彼女が地面に落ちる前に無理矢理引っ張り返し、ゆかりに向けて投げ返す。
「菫っ! お願いっ!」
懇願に失っていた意識を取り戻した菫は、訳も解らぬまま空中で体制を整え、ほぼほぼ本能的に剣を構えてゆかりに向けて突きを放つ。その進路を邪魔する結界は全て、先に投げられた投剣により破壊されている。それでも僅かな隙間の中に、切っ先を真っすぐ伸ばす。
「その作戦はもう通じませんよ?」
半径二メートルの小さな結界が菫を包むように展開される。菫の剣は『肯定再現』で結界を砕けるようにしてあるが、結界の中からでは効果がないらしく、壊れる気配は見られない。
(やっぱり………っ! 結界を作り出す基準となる地面、か………、境界部分じゃないと………、攻撃を受け付けないんだ………っ!)
それに気づいても、今の菫ではどうすることもできない。空中なので地面からは遠い。境界に届くまでには間に合わない。なす術はなく、ゆかりが何事か命じようとする―――そのタイミングを狙い! 菫の影から彼女は現れた。
『
「あらあら………♪」
しかし、そこはやはり歴戦の猛者。結界形成に拘らず、眼前に迫ってきた刃をしっかり目で捉えながら体を反転させつつ横に回避。菫をやり過ごそうとする。
だが、それに『直感再現』が菫に発動。ここで攻撃が失敗することが、決定的な敗北に繋がる状況に、イマジネーターの本能が警報を鳴らしたのだろう。咄嗟に『
「あらまあぁ………」
攻撃を避けられてもなお連続で切り返してくる。その対応速度の速さに、ゆかりは驚嘆の声(っと言うにはマイペースだが)を漏らした。
(でも、ちょっと遠すぎかなぁ? この距離やったらギリギリ結界が間に合―――!)
結界を作り出そうとしたゆかりは、直前に『直感再現』が発動、背後の存在に気づく。そこにはいた人物はゆかりに気づかれたことに驚愕しつつ、必死に掴んでいた矢を突きつける。
派生能力『顔無し』の『
ゆかりは顔も名前も思い出せないその相手に対し結界を形成し、剣の方は体捌きで躱そうと咄嗟に考え―――もう一つ足元近くに潜り込んでいる存在を『感知再現』によって捉えた。
両手で自分の顔を隠していた日本人形のような長い黒髪を持つ小さな少女は、自分の存在を認識されたことに『直感再現』で気づいて驚愕の表情でゆかりを見上げてしまう。
「
ゆかりは早口でそこまで言うと、結界を自分を包める範囲だけに展開、さらに、周囲にいくつもの結界を同時に展開していく。
その意図に気づいたカルラが急いで全員に指示を出す。
「
既に疲労を蓄積している生徒達だったが、それでも彼らはカルラの指示に従いすぐさま行動を開始する。
「でぇいっ!」
菫を投げた影響で地面に倒れた状態になってしまっていた弥生だが、それでも必死に立ち上がって走り、片手に握った剣を振り払い、近場にあった結界を一つ破壊する。
「『
「六星編、1章から4章、三星編、2章、多重詠唱開始! 黒のえいひっを味わうといい!」
しっかり台詞を噛みつつ、四属性の魔法を発動し、周囲一帯の結界を一掃する読子。
「『
派生能力『
その他にも何人もの生徒が疲労した体を引きずりなんとか全ての結界を砕き伏せた。
(さすがにもう逃げ場がないだろ………っ!?)
この状況で結界の破壊に手を貸すことができなかったカグヤは、状況を確認してそう結論付ける。
菫の剣、勇人の矢、
(消えたっ!? 能力による隠蔽じゃないよなっ!?)
(
(もう何も解んないよぅ~~~~~っ!?)
三人が驚愕の疑問を浮かべる中、その答えに逸早く気づいたのは、偶然位置的にそれを確認することができたカグヤとレイチェルだった。
「くそ………っ! 頭にあったのに失念していた………っ!」
「ゆかり先生の結界は領域支配系………っ! つまり―――っ!!」
二人はゆかりの消えた頭上、彼女が自身を包んだ結界の上部を確認して同時に叫ぶ。
「「つまり―――、上下に対する制限はないっ!!」」
円で囲んだ結界上部、約十メートル上空にゆかりはいた。
その存在を確認した菫は片眉だけ動かし、表情を曇らせて歯噛みした。
これで一連の攻撃は完全に途切れた。間が開いてしまった以上、もうゆかり追う気力は残されていない。そもそも既に気力の限りを尽くしている状態なのだ。ここで最後の攻撃が失敗したとあれば、全員精神的なダメージからイマジネーションが落ち、能力戦に注ぎ込む気力はなくなってしまう。
つまりこれで………、一年生達の敗北が決定―――、
「違う………っ! ま・だ・っ………!!」
生徒全員が表情に隠し切れない落胆を滲ませる中、それでも菫は足を踏み出した。
ズンッ! と重い地鳴りを鳴らして踏み出し、一瞬の間でアイコンタクトを送る。彼なら意図を汲み取ってくれるという信頼を込めて。
果たしてそれは確かに伝わった。彼女のルームメイトである東雲カグヤは、菫がしようとしていることが理解できなかった。だが、彼女が求めていることは正確に感じ取り、解らないままその求めに応じる。
「
自身のイマジン体を神格武装へと変換する命令を出し、同時に視線だけでレイチェルに要求を伝える。
「ロノウェ!」
「後ろから失礼しますっ!」
意図を汲み取ったレイチェルが己の悪魔に正確に命令を下す。
神格武装たる黒刃の日本刀となった
このタイミングで菫が助走の勢いを殺さぬよう、両足を一気に屈め、跳躍の態勢に入る。その姿を見せるだけでいい。彼女はそう確信していた。そしてその核心を裏付けるように、意図に気づいた静香が能力を使い伝達。指示を伝えられた
(? この状態で打つ手がこれだけ? 間が開いてしまった以上、こんな直接攻撃は―――)
ゆかりが疑問を浮かべた時、菫を追いかけるように飛来する物体を見つける。それは、菫を上空で捕まえると、菫を乗せて左右にフェイントをかけながらゆかりへと迫った。
『三原空専用マルチロールSTOVL機:エアレイド』通称『エアレイド』。
「ていっ」
ゆかりは指を下から上に、軽く線を引くように振る。僅か五センチ程度の結界が『エアレイド』を貫くように捉え、その下部に高速で動かされた石が激突、そのまま装甲を貫いた。相当常識外れの速度で放たれていたのか、『エアレイド』は得意の空中戦を演じることもできず、菫を巻き込み爆発してしまった。大きな爆煙を上げ
「いっけ~~~~っ! 菫~~~~~~ッッッ!!!」
煙を貫き、菫が剣を構えて飛びかかる。
「フェイントにはなっていませんよ?」
なんの工夫もなく、ゆかりはひらりっ、と身体を捻って普通に躱した。
すかさず菫も『
だが、ゆかりは軽く指を振ると、僅か一センチの結界を複数作り出し、菫の前に柵状に展開。その結界全てに『侵入不可』を付け加える。鉄格子に引っかかったように進行を阻害された菫は、このまま落ちるものかと結界を掴み取るが、まるで手応えを感じない。確かに何かを握っているはずなのに、手のひらは空気を掴んでいるような感触があるだけで、そのまま滑り落ちていく。いや、“滑る”と言う“現象”すら起きていない。
「『侵入不可』は『壁』を作ってるわけやないから摩擦は起きひん。当然、紐や棒みたいに掴まったりはできひん言う事やね」
ゆかりの説明を敗北者に宣告するかの如く響く。元々飛べる能力を有しているわけではない菫は、そのまま翼を捥がれた鳥の如く、地上に向かって落下を始め―――
「それじゃあ、ばっちり決めなさぁい~、
薄くなっていた煙の残りを全て払いのけるように、
驚き目をむくゆかりの視界に、落下していく方の菫の頭部に、ぴょこんとアホ毛が飛び出す。かと思えばその姿が霞んでいき、亜麻色のポニーテール美少女が姿を現した。菫とは似ても似つかない凹凸のはっきりした妖艶な体つきを持つこの少女を、ゆかりは頭の中の生徒名簿から瞬時に呼び出し、称賛の笑みを浮かべた。
(お見事! 最初に三原くんの『エアレイド』に搭乗した状態で八束さんと合流してたんやね!)
(でも、先生相手にこの程度では不意を突いたとは言えへんよ)
ゆかりは瞬時に手を翳し、カリナを退けた『侵入不可』の結界は柵状に展開、菫の進行を阻止しようとし―――、
「先生の能力の弱点、その2………複数人と戦う時、空中戦には向いていないっ!」
カルラの声が響くと同時、柵状に展開されていた結界が全て砕け散った。
視線だけを下に向けて確認すれば、そこに能力武装『聖槍・ロンギヌスの槍』を携えた
ゆかりの結界は地面に円を描いた領域を支配するものだ。上下において制限がない長所は、時と場合によって短所となる。地上では気にしなくてよかった結界の広さも、上空となると話が違ってくる。ゆかりが空中戦を仕掛けている間、地上に残った者達は、地上からゆかりの結界を破壊するだけで空中の味方を援護できる。対してゆかりには上空から攻撃する手段がない。つまり、最も能力を使用しにくいフィールド、それが空中。常にデフォルトで浮いていられるゆかりが、可能な限り地上に戦闘したがる理由でもあった。
「くそ………っ! さすが教師レベル………っ! これっぽっち壊すだけで、もう………っ!」
全力を使い果たした慶太はその場で倒れてしまう。
活路を得た菫が刃を突き出す。
ゆかりは慌てず今度は極小結界の大軍で菫を覆い尽す。切り替えの早さに
時間がゆっくりと流れる錯覚の中、菫の表情に僅かな焦りが生まれる。自分を包む結界がベクトルを操作し、自身を押しのけようとする気配、それを感じ取って額から一筋の汗が伝う。
ゆかりが手を翳し、能力を発動しようとする様が映り、焦燥感高まっていく。
「『響き渡る歌に想いをのせて』………、『歌は世界を変える』! 聴いてくださいっ! ≪大海の歌≫!!」
突如響く美声が、大海原をイメージする歌を奏でる。
歌声が大気を震わせた瞬間、世界は当然のように一変、果てしなく水平線の続く海原へと変わった。
瞬間、ゆかりの結界が全て崩れ去り、その効果を失った。
「っ!?」
「先生の弱点その3は~~♪ 地続きになっている場所しか区切れないっ♪ ってことですよね~~~♪」
音楽に合わせながら台詞を挟んでいるのは、この世界を歌声一つで作り変えた張本人、『魅せる歌姫』の刻印名を持つ、
(まあ、弱点その3は、地上に円を描くと言う結界形成時のスタイルから、“地面の上じゃないとつくれないのかも?”っていう確証の無い予想でしかなかったんだけどな………ぶくぶくっ!)
(おかげで私達まで溺れるの覚悟で、こんな大規模変革を要請しないといけない羽目になってしまいました………ぶくぶくっ!)
カグヤとカルラがお互い溺れながら思考の中だけで愚痴を零す。何しろこの作戦、水平線が見えるほどの大海を作り出す。当然地上にいる人間は一人残らず足場を失って海の中にどぼんっ。歌っている異音だけは歌を中断させるわけにもいかないので、
正真正銘ラストチャンス。この好機を無駄にしまいと、限界速度まで上げた菫の剣が、カグヤから託された神格武装が、ゆかり目掛けて薙ぎ払われる。
「ここまで追い込まれたのは、一年生では三組目かなぁ~~………?」
懐かしむような柔和な笑み。
ゆかりの身体が突然はっきりとした存在感を帯び―――空中を蹴ってステップ。舞う様な動作で菫の剣を横に躱した。
「―――っ!?」
明らかに物理現象を味方につけたような回避速度に驚愕する菫。それでも無理矢理剣を飛ばした反撃を試みようとする。だが、それより先にゆかりの人差し指が菫の眼前、額のあたりへと突き付けられる。
「これはイマジン基礎技術特異系『実態再現』。『受肉』とも言って、実態を持たない私みたいな特殊な例を持つイマジネーターしか使わへんタイプの技術。空中を蹴ったのは『浮力再現』の一種。こっちのお勉強はまた今度にして―――」
ゆかりの人差し指の先に、イマジンが集まり、ライトグリーンに輝く粒子の球体が形成される。
「頑張ったご褒美に見せたるな? イマジン基礎技術“最終高難度技術”『
菫は動けない。かろうじて能力で剣を操り、空中に留まって入る物の、ゆかりに“銃口”を突きつけられた状態で身動きが全く取れない。
助けるものもいない。誰もがゆかりの言葉を聞き、呆然と空を眺める事しかできない。歌も止み、海の水がひいていく間も、誰も言葉を発せず頭上を見上げるしかない。
誰かが呟いた。この静寂に耐えられないと言わんばかりの悲痛な声音で………。
「数=実力? 一つ作るのが教師歴三年間レベル? ………じゃあ、これ、一体何年分だよ?」
ゆかりの周囲、星の数の如く煌く粒子の球体。数えることも億劫な星々の輝きに、もはや対抗できるだけの精神力を持つ者はいなかった。
「じゃあ、最後の締めに、この球体の攻撃力、自分の体で確かめてみようか?」
ゆかりの無慈悲な一言の後に、指先の球体が弾き出され、菫の額を打ち付ける。それが合図となり、急速に落下する菫を追い越す勢いで星の数ある球体が全て雨となって降り注ぐ。それはまさに流星群の如く、人の身で立ち向かうことを許さぬ閃光のカーテンコール。
死力を尽くし、悪あがきとばかりに防御行動に出た者もいた。しかしそれら全てが無駄だった。
能力で作り出した盾も、迎撃に放ったイマジンも、主を庇おうと前に出たイマジン体も、その全てがすり抜け、確実に生徒達の頭部へと直撃していった。
「「「「「「「「「「いってぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっっ!!!!!!」」」」」」」」」」
パッコーーーーンッッ!! っと言う、意外に軽い音を響かせ、
完全に水がひいた大地にバタバタと倒れる生徒達に、地上に降り立ったゆかりが口元を隠し可笑しそうにしながら説明する。
「純粋なイマジン粒子だけを取り出すとな? 『
本当に可笑しそうにしているゆかりに対し、生徒達はもう完全にグロッキー状態だ。あれだけ驚異的な能力バトルを繰り広げておきながら、最後の締めをゲンコツにされたとあっては精神的なダメージは計り知れない。肉体的にも精神的に、もはや立ち上がることができなかった。
「うぅ………っ! 痛い………!」
「お、俺、不滅の肉体のはずなんだが………っ! ものスッゲェー痛い………っ!」
「痛い痛い痛い………っ! これ、イマジン能力全部無視してくんのかよ~~~っ!」
「お兄ちゃんっ!? ちょっとお兄ちゃんっ!! 九曜~~! なんかお兄ちゃんだけ本気で気絶してるんだけどっ!?」
「カグヤ様は相当脆いから、拳骨でも十分死ねるわね………」
「え、衛生兵~~~!」
涙目になって痛がる菫。己の権能を当然の様に無視されたジーク。自分の精神にも使っていた能力を解かれてしまった
ゆかりもさすがにこれ以上は続ける意味も無いと判断し、この時点で終了を告げようと、何の気無しに髪を手櫛で梳いた。
プツン………ッ、っと言う音が本当にしたのかどうか怪しいほど、本当に軽い手応えと共に、ゆかりの手から髪の毛が一本だけ切れて宙を舞った。
もとはイマジン体で構成されている身、実体化していられるのも僅かな間だけ。切れた髪は宙でイマジン粒子へと戻り、最初からなかったかのように霧散した。
その粒子の破片を目で追い、ゆかりが本日一番に目を見開いて驚いていた。
長く生きてきた身の上故、感動が乏しく、最近はそんなに驚かされることのなかったゆかりにとって、驚愕を意識できるだけの衝撃が表情に現れる。親しき仲でないと気づけないほど、その反応は希薄なものだったが、それでも上級生たちが見れば口を揃えて言ったことだろう「ゆかり先生がそんなに目を見開いてるところなんてレアですね」と………。
(確かに………、確かに私はこの授業をする時は、自分の能力レベルを相手にする学年のレベルにまで落としてる。教師本来の力は当然、能力の神髄すら使わないと決めてる。………それでも、それでもまさか―――)
ゆかりは驚愕を飲み込み、代わりに胸の内から湧き上がってくる歓喜を面に出しながら満面の笑みを作る。
(まさか、教師に赴任して以来、初めて私に“触れた者がいようとは”………っっ!!)
歓喜の眼差しを菫へと向ける。未だに頭を押さえて痛がっている菫に、ゆかりは慈愛の想いを眼差しに込めて見つめる。
髪を切られたのは、おそらく最後の一撃。自分が『受肉』した時の一振りだ。あの時確かに、ゆかりは菫の剣の振りが、途中で自分を追い掛けるように僅かにぶれたのを目にしていた。あの時は完全に躱したつもりだったが、僅か髪の毛一本分、逃げきれていなかったらしい。その一本分すら躱したと思っていたゆかりの予想を超え、触れて見せたのは、間違いなく菫の実力だろう。そこに行くまでには確かに多くの仲間の力を借りたかもしれない。だが、言葉にするときつくなってしまうが、その程度の道作りは、嘗ての生徒達も必ず作って見せていた。正直驚くほどのことではない。そのチャンスを活かし、髪の毛一本分にたどり着いたのは、八束菫以外の何者でもないのだ。
だからゆかりは、称賛と賛辞と敬意を込めて、もう一手だけ、生徒達に御享受することにした。
「『第二覚醒再現』」
呟きと共に展開されたのは、ゆかりの能力『都合のいい箱庭』が展開する結界『世界を区切りましょう』のスキル。今までさんざん使ってきた結界の生成。………だが、今までとは違う。今までは地上に円を描き、縦長の柱のように領域を支配する結界だったのに対し、今作り出されている結界は完全な球体となっている。生徒一人一人を囲み、大きなボールの中に閉じ込めるように展開された結界に、生徒全員が囚われてしまった。
「これは能力を設定したレベルより、さらに上の段階に昇華させる『覚醒再現』っと言われものや。残念ながら使用法は確立してないんよ。おまけに全ての能力で使えるわけでもない。汎用性の高い能力程覚醒しないとも言われてる。『覚醒再現』に至るには、能力者個人によって難易度が異なってるからなぁ~。たぶん、一年生の皆にはまだ早い技術やろうけど、私の授業に“勝った”御褒美として特別にせさたげるなぁ~」
表情は笑みだ。今までに見たことのないほど綺麗な笑みだ。だがどうしてだろう、生徒達は皆一様に恐怖しか感じることができなかった。
ゆかりは僅かな“
『一年生恒例行事・最強の教師、吉祥果ゆかりとの対戦。勝者:一年生………?』
あとがき
≪菫≫「………」
≪弥生≫「………」
≪美冬≫「………」
≪啓一≫「………」
≪レイチェル≫「………」
≪カグヤ≫「………」
≪ジーク≫「………」
≪カルラ≫「………」
≪和樹≫「………」
≪静香≫「………」
≪金剛≫「………」
≪
≪終≫「それでもお前ら、せめて教室は間違わずに来られなかったのか? ここEクラスだぞっ!? しかもなんでEクラスの生徒が誰もいないんだよっ!?」
応えられるものなど、誰もいなかった。
最強と戦うのは程々にしようね♡