ハイスクール・イマジネーション   作:秋宮 のん

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Cクラス編、エピローグです。



【添削まだです】


一学期 第六試験 【エピローグ】

 エピローグ

 

 

 二人が倒れ、フィールドが白い部屋に戻った瞬間、狙い澄ましていたかのように多くの二年生達が一斉に二人の元へと駆け寄る。

「どちらもバイタル危険値! 特に女子の方は一刻の猶予も無いぞっ!」

「男子は此処で治療するっ! 女子の方は保健室に運べっ!」

「担架乗せましたっ! 運びますっ!」

「静香入りますっ! 男子の方、治療入りますっ!」

 次々と行動に入る二年生達。教師は愚か、三年生にすら頼る事無く、彼等は自分の役割を理解し、行動に移っている。無駄も無く、迷いも無いその動きは、教師が入り込む余地など考えられない状況であった。

(やれやれ、こうなると私の出番がホンットないなぁ~~………)

 安堵と呆れの溜息を吐きながら、三橋(みはし)香子(かのこ)教員は部屋を後にするのだった。啓一が眼を覚ましたのは、それからわずか三十分後の事だ。

 

 

 保健室………っと言うにはかなり設備の整った治療室に運ばれた甘楽弥生は、そこで二年生達によるイマジンの延命処置を受けていた。輸血を施しつつ、血が身体を巡る様にイマジンで流動を制御したり、肺に酸素を取り込ませたりと、ともかく傷を治す以外の方法で応急処置をしていた。

 そこに急ぎ足で入室してきた二人のEクラス一年生達。

 一人は白衣を纏った小さい丸メガネを掛けた男子、九谷(クタニ)(ヒカル)

 もう一人は、セミロングの茶髪で、軽く巻き毛気味のナース服少女、如月(キサラギ)芽衣(メイ)だ。

「九谷光っ! 治療に入りますっ!」

「如月芽衣ですっ! 同じく治療に参りましたっ!」

「来たか治療タイプッ! 俺達が延命できるのは後二十分が限界だっ! それまでに終わらせろっ!」

「「はいっ!」(えっ!? 二十分も持たせられるんですかっ!?)」

 二年生の言葉に良い返事をしながら、芽衣だけは内心イマジンの延命能力に舌を巻いていた。

 二人はすぐに治療に取り掛らず、弥生(患者)の状態を観察する。

 この時、芽衣は自分が持ち得る医学書などの知識を引用して観察しているのに対し、光は『総合病院』の能力『診断』を使用する事で、芽衣より素早く状態確認を終えた。

(左足の切断は大したことはない。綺麗に斬られてる分、イマジネーターの回復力なら縫い方を間違えない限り勝手にくっ付く。左腕も同じ。能力で治療すればすぐに治る。右足は足首から先が完全に粉砕しているな? 此処は再生させるしか手が無い。右腕は見た目は酷いが、皮膚が剥がれただけだ。医療ジェルでコーティングしてから包帯でも巻いておけばすぐに治る。左脇腹は大腸まで達している。破損規模は大きくないが肉を削られ過ぎている。これは能力治療でどうにかするしかないな。問題なのは右胸のと右側頭部の重傷。右胸は肺を一つと心臓が半分撃ち抜かれている。穴も大きい。普通ならこれだけでも即死していたところだ。右側頭部は能力治療の前に手術が必要だ。出血が脳の奥にまで流れ込んでいる。血の塊を少しでも残せば後遺症として残りかねない………)

 上級生がすぐに治療しなかった理由もここにある。いくら万能足るイマジンの力を持っていても、正しい治療法をしなければ、人命に係わる。そのため治癒術師が現れるまで、彼等は絶対に延命以上の手出しをしなかったのだ。

「芽衣、お前の治療能力は廊下で聞いた通りで良かったな?」

「はいっ! 右脚、左脇腹、胸の肺と心臓は私が担当しますっ!」

「任せた。僕は頭部の手術に取り掛る。………これより『手術(オペ)』を始めるっ!!」

 光は『総合病院』の能力『手術』を発動。イマジンにより医療器具を取り出すと、それを使って脳の治療に取り掛かる。

 その間に芽衣も『アスクレピオスの杖』の能力『アスクレピオスの知恵』を発動。イマジンによって作られた杖を取り出すと、周囲に存在する万物から力を汲み取り、接続した左足と、左腕を繋ぎ合せていく。ある程度繋がったら、ギプスを取り付け固定。素早く用意されていた治療具の中からジェル状の治療薬を取り出し、皮膚の捲れた右腕をコーティング。軽く固める様にして包帯を巻いて、それから能力によって治癒して行く。

 此処までの工程を診断含めて僅か五分で仕上げる。

 続いて左脇腹に『イマジン樹皮』と呼ばれる餅の様な弾力のある樹液を取り出し、損失した肉の代わりにして埋めていく。この樹皮は、イマジンを取り込む事を前提として生まれた、このギガフロート固有の植物から取る樹液の塊を更に加工した物だ。生物に対して順応力が高く、僅か数日で新しい肉の役割を果たす。イマジネーターが使用すれば数ヵ月後には、イマジンを失っても普通の肉へと遺伝子が書き換えられていると言う優れ物だ。ただし、このギガフロートに於いても希少価値がとても高く、学園内の、治療能力者だけが教師の許可を取って初めて使用を許される類の物だ。今回は既に学園長から直々に許可が下りているので、使用を悩む必要も無かった。

(でも、樹皮は肉の代わりになっても骨や器官の代わりにはならない。大腸は先に縫い上げたから良いけど、右足と胸の穴を補うのは無理。こっちは私の切り札で“無かった事にする”しかないっ!)

「終わったぞっ! 頭部の治療をしろっ!」

 八分経過。光の指示が飛んで芽衣は患者の頭部を『アスクレピオスの知恵』で治療。後も残さず完全にくっ付いた事を確認してから、改めて杖を地面に付いて意識を集中。『アスクレピオスの杖』の本領を発揮する。

「『アスクレピオスの杖』発動………。右足と右胸を限定に、負傷個所を無かった事にしますっ!!」

 地面を突いた杖から、展開陣(魔法陣の様な物。イマジンは魔法以外も存在するので総称としてそう呼ばれる)が展開され、淡いサンライトの光が灯る。芽衣が指定した患部に集い、円環状の展開陣を生み出す。その円環がカチカチと、まるで時計の歯車の様に小刻みに回転して行き、それに合わせて傷口が塞がっていく。否―――、これはもう、塞がると言うより無くなっていく様な現象だった。

 傷は僅か一分足らずで消え失せ、元の身体が戻っていた。

「『手術』終了だ―――!」

 バサリッと白衣を翻し、光は宣言するのだった。

 

 

 学生寮の食堂にて、桜庭啓一は淀んだ空気を纏っていた。

 自分が眼を覚ました後、話を聞かされ、意外とへこんでいた。

 対戦相手が担架で運ばれたと事や、回復役の生徒が呼ばれた事もあり、クラスメイトはほぼ全員が事情を知るところとなっている。

「………飯が不味くなるからさぁ? いい加減気を取り直したらぁ?」

 牛丼を頬張っていた闘壊響は、向かい側の席から啓一に言うが、彼の方は応える気力さえ無い様子だ。

 響の隣にいた兄、狂介も、掛ける言葉が見つからず、我関せずで海鮮丼を掻き込んだ。

 啓一の隣の席にいた虎守翼は、多少気遣わしげな表情で何とか啓一を慰めようと試みる。

「だ、大丈夫ですよ? 今までイマスクで死者が出たって言う話は沢山ありますけど、蘇生失敗確率0%って言うじゃないですか? きっと何事もありませんって?」

「それは既に何事か起きているのではないかしら?」

 啓一の逆隣りに座っている楠楓は、額に一筋の汗を浮かべながら突っ込む。

 突っ込まれて慌てる翼だが、続く言葉は見つかっていない様子だ。

 啓一の正面に居る伊吹金剛は、この食堂のメニューに載っていた巨大漫画肉に被り付きながら、啓一の様子をただ黙して窺う。その隣にいる本田正勝は、更に隣にいる黒玄畔哉が『モザイク丼』と言う何故かモザイクが掛っているように見えるこの学園の珍料理を、とてつもなく狂っていそうな表情で、実に美味しそうに食べているものだから、むしろこっちに気を散らされてなんどころではなかった。油断すると胃が裏返りそうな気分になるのだ。

 ちなみ畔哉は『モザイク丼』の感想を「もう一度食べたいとは思えないが、何故か食べてる内は病み付きになる味だったぞ?」っと語っていたらしい。

「やり過ぎたことは事実だろ? 反省すんのは当然じゃね?」

 響の隣で大盛りカツカレーを頼んでいた新谷悠里は機嫌が悪そうに語る。

 啓一の肩が少しだけ反応したのに気付き、翼の逆隣りにいた前田慶太が注意を促す。

「おい………」

「本当の事だろ? 斬って斬られてはこの学園じゃ珍しくないだろうけどよ? だからって俺達は命の取り合いしてるわけじゃねえんだしぃ? そこは弁えないといけないんじゃないのか?」

 何故か棘のある様な言い方で、しかし正論を言う悠里に、慶太は押し黙ってしまう。翼も何事かフォローをしようとしているが、次に出る言葉が見つからない。

 響は、この空気が早く終わらないものかと視線を逸らしてしまう。

「………その通りだな。俺は強くなる事を目的に、あの『斬り裂き魔』のスキルを設定した………。でも、蓋を開けてみればあんな事を………。アレでは、剣ではなく、理性を持たない化け物じゃないか………情けないっ!」

 本気で落ち込んだ様子で告げる啓一に、更に場の空気はお通や状態になっていく。

 「誰でも良いからこの状況をどうにかしろよ? 俺こう言うの苦手なんだよっ」っと言う視線を狂介が皆に送るが、悠里は無視し、啓一は気付かず、他は気付いていても言葉が見つからない様子だ。慶太の隣に居た 鋼城カナミは、ギャグのつもりだったのか、自分が使っているイマジンカートリッジのセルを取り出し、「食べます?」などと言い出していたが、啓一は無反応だった。仕方なく自分で齧り始めた時は、正勝が青い顔で驚いていたが、やはり場の空気全体は変わらない。こんな状態で夕飯を続けなければいけないのかと絶望感にくれかけたところに、救世の女神は現れた。

「あっ! 皆ここにいたんだぁ? 楓………さんだよね? お隣空いてる?」

「え? ええ、空いてまネリネの花言葉を体現する存在が此処に―――っ!!?」

「はへ?」

 楓の隣に腰かけたのは、ネギ玉丼を大盛りにしてもらっている鋼色のロングヘアーをした黒い瞳を持つ少女で………頭に三角の獣の耳がぴょっこり生えていた。

「「「獣耳(ケモミミ)ッ!?」」」

 正勝、悠里、カナミの三人が思わずと言った感じに声を揃える。

 ケモミミ少女は、皆の反応が理解できないらしく、頭に?を浮かべながらネギ玉の卵を潰して混ぜていた。

「………これ、本物ですの?」

 クイッ、

「ひ………っ!? ひゃああぁぁぁんっ!?」

 思わずケモミミを摘まんでしまった楓だったが、少女が予想以上に敏感な反応を返してきた物で、逆に自分もビックリして手を放してしまう。

 両手で耳を押さえた少女は、真っ赤な顔に涙目になりながら楓の事を混乱したように見返してきた。

「ご、ごめんなさい………。そこまで反応されるとは思わなくて………」

「さ、触っちゃダメ………っ! 触られるとすっごいゾワワッ、てするんだからっ!」

「………ほう?」

 いつの間にか少女の背後に周っていた狂介が、悪戯を仕掛ける少年の表情で耳をクイッ―――、

「あ、ひゃあ、あああああぁぁぁぁん………っっ!!」

 不意を打たれた少女が、更に顔を真っ赤にして、何とも言えなさそうな表情で喘ぎ声を漏らした。

 ほぼ向かいに居た正勝は、顔を真っ赤にして慌てて視線を逸らしてしまう程、その顔はちょっとヤバい物があった。

「なにすんのっ!?」

 慌てて自分の耳を庇い、振り返りながら睨みつける少女だが、上気した頬と涙の浮かんだ目では、全然怖くなかった。そのためちょっと調子に乗った狂介は更に耳掴もうと手を伸ばす物だから少女は両手で耳を隠すようにし庇う。それでも調子に乗った狂介がしつこく手を伸ばす物だから、少女の顔から表情が一瞬で消え―――、身を低くして懐に滑り込むと、狂介の顎目がけて垂直に蹴りを突き刺した。

 轟沈した狂介を更に踏みつけ、彼女は虫を見る様な目で見降ろした。

「いい加減に()なよ?」

「マジすんません………」

 「まったく失礼な………っ!」と憤慨しつつ席に戻った少女は、正面を見て、モザイクの掛った丼飯を食べる畔哉が初めて目に入って肩をびくつかせた。

「畔哉、何食べてるのっ!?」

「僕にも解らない。だが美味しい(ニタァ~」

「その笑み怖いっ!?」

「あれ? そう言えば君誰? なんで名前知ってんの?」

「なんでも何も一試合目で対戦したじゃない? ………そんなに違って見える?」

 ピコピコと片耳を動かしながら小首を傾げる少女に、畔哉は意外そうな表情を作った。

「え? もしかして弥生?」

「そうだよ」

「え? うそっ!? どうしたのその耳と髪?」

 ガタンッ!!

「ああこれは―――ビックリしたぁっ!? どうしたの悠里?」

 ケモミミ少女改め甘楽弥生が答えようとすると、悠里が席を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。一度弥生を見て、ついでその隣の席に視線を送ったが、そこにはBクラスのカルラタケナカが既にいた。

「? 何か?」

 Bクラスのメンバーと話していたカルラは視線に気づいて問い掛けるが、悠里は舌打ちして視線を逸らすと席に座った。

 カルラと弥生が同時に首を傾げたが、二人とも自分達のグループへ意識を戻す。

「ええっとね………? これは『イマジン侵食』って言う奴かな?」

「“侵食”?」

 言葉の意味深さに気付き、啓一が弥生を見て問いかける。弥生は啓一に視線を向けると、少しだけ優しい表情を作った。

「うん。暴走系の能力を使う人にたまに見られるんだって? 僕も塾生時代に一度だけやらかしちゃってね? こうならない様に『ベルセルク』の神格の一部を返上してたんだけど………」

 一度間を置き、弥生は一口ネギ玉を食してから、なんでもない事の様に説明を続ける。

「能力の暴走って言うのは、僕達“術者”よりも、“能力”の方が立ち場が上になっている状態らしいんだ。だから、暴走能力を続けると、いずれ肉体がイマジンに結合し易い物へと変化して行き、最終的にはイマジンその物と入れ替わっちゃうんだって。なんて言ってたかな? 先生は『能力を再現するためのイマジン体になる』って言ってたよ?」

「端的に言うと人間を止めるって事ですか?」

 カナミが質問すると、弥生は頷いて応える。

「そう、そしてこれはそれによる変化って奴。『イマジン変色体』と違って、イマジンに侵されて変わっちゃってるの。放っておくと戻せなくなってヤバいんだって?」

 ガタンッ!!

 騒がしい食堂内でその音が上がった。周囲は音には気付いた様だが特に反応はない。だが、Cクラスのグループで固まっていたこの場所は違った。音を立てたのは悠里だ。席を勢いよく立ちあがって椅子を倒してしまったのだ。そして彼は、とても険悪な表情で啓一を見下ろしている。

 啓一も、信じられないと言いたげな表情で目を見開き、弥生の事を見つめていた。

 皆も、少々驚愕の内容に、言葉を失っている様子だった。

 悠里が何事かいいける前に、啓一は素早く頭を下げた。

「すまなかった! (おれ)が無茶な事をしたばっかりに―――!!」

「ていっ」

 弥生は啓一の謝罪を無視して、彼のとんこつラーメンから手付かずのチャーシューを全て取り上げた。

 素早い行動に唖然とする啓一。チャーシューをネギ玉と一緒にして美味しく頂いた弥生は、啓一の事を一瞥した後、視線を逸らして軽く笑った。

「僕も塾生時代にやらかしたって言ったでしょ? だから他人とは思えなかったの。………良い物じゃないでしょ? 暴走なんて? ただそれを知ってほしかったんだよ。それさえ気づいてくれれば、僕は報われる。謝罪じゃなくて御礼を言ってほしかったから………、頭を下げた大そうな見返りよりも、このチャーシューみたいに簡単な見返りだけ貰いたかったから………、だからそんなに仰々しくしないでよ? この耳と髪だって明日には元に戻ってるんだから」

「弥生………、だが………」

「どうしてもって言うなら、刹那的な事で返してよ? 僕、ずっと長い間引きずられるのって苦手なんだよ。………同じミスでも二度も三度も繰り返すって言うのは、案外あり得る事なんだよ。でも、重ねたミスの数も、立派な経験になっていくと僕は信じてる。一々その話を引き摺らせるのは反省とは言わないよ。間違った事をしたならその場で叱る! でも二度も三度も叱らないっ! 一度のミスに対して叱るのは一度きり! ………じゃないとさ? 人って簡単に壊れちゃうから? だから僕はそんなに引きずってほしくない。ねっ?」

 最後に視線を合わせて笑い掛けられ、啓一はそれ以上の言葉を告げなくなった。だから代わりに彼は一つの決意をして、弥生の言う通り、見返りを返す。

「解った………。君がそう望むと言うのなら、己は今回三試合目で付いた白星を、君に返そう。これは君が持つべき白星だ」

 啓一の言葉に、今度は弥生が軽い衝撃を受けた。

「良いの? 啓一せっかく三連勝なってたのに?」

「知っていたのか………」

「保健室で芽衣って子から聞いたんだよ」

「そうか。だが、これは大きな見返りだと思う。俺が君に勝ちを譲れば、今度は君が三連勝した事になる。Cクラス代表は君になる事はほぼ決まった様な物だ。この見返りは大きい。己としてもこれなら割り切れる。君と己の望む形での落とし所として、これ以上ないのではないか?」

 一瞬呆然としてしまった弥生だったが、啓一の言う通り落とし所としてはとても都合が良い事に思えた。

「じゃあ、来月の学年最強トーナメントでは絶対勝たなきゃね! もらった勝ちの分まで頑張るよ!」

「ああ、己の分も―――いや、皆の分も頑張って来てくれ」

「うん!」

 こうして話はまとまった。結果として啓一は気分を取り直し、少しだけ晴れやかな気持ちで食事を始める。他のメンバーも空気が軽くなった事に安堵し、お腹の虫の要求に素直に従い始める。

 一人立ち上がったままの悠里だったが、この様子では今更自分が何か言う事も出来ないと悟り、溜息一つで諦めた。

 代わりに彼は、自分のカツカレーを片手で持ち上げると、おかしな行動を始めた。

 まず、カツカレーに乗っているカツを隣の翼に差し出す。

「もらっとけ」

「?? はい?」

 意味も解らずカツをゲットする翼。

 続いて席を離れた悠里は啓一にも同じように渡す。

「もらっとけ」

「?? ん?」

 意味も解らずカツを豚骨スープの中に投入された啓一。

 悠里はそのまま楓と弥生の間に来ると、結構強引に割り込んだ。

「ところで弥生! そのネギ玉って美味しいのか? 俺も頼んじゃおうかなぁ~?」

「ふえ?」

 いきなり割って入ってきた悠里に困惑する弥生。間に割って入られた楓は何事か文句を言い掛けたが―――スッ、………さりげなくカツカレーの皿が楓の前に差し出される。

 この時、楓だけでなく、翼と啓一もようやく意味を汲み取った。楓が差し出された悠里の皿から最後のカツを頂戴すると、それに合わせて翼が悠里の座っていた場所へスライド。同じく翼が空けたスペースに啓一がスライド。そして啓一が空けたスペースに楓がスライド。悠里の席を空けてやる。出来たスペースに座った悠里は見事弥生の隣を確保し、彼女からは見えない位置で親指を立て『グッジョブ』サインを協力者たちに送った。何故か三人も親指を立てて答えていた。

「ああ………」

「そいう事ですか………」

「協調性高いなぁ………」

「やれやれ………」

「え? 何これ………?」

「アニキ、後で教えてあげる………」

「おかわり~~! あ、でもモザイクは無しで」

 カナミが達観し、正勝が苦笑い、慶太と金剛が呆れつつ感心。解らない狂介が首を傾げ、そんな鈍い兄を気遣う響。そして畔哉だけ、何にも気付かず食事を続けていた。

 結果的にこれが更に雰囲気を軟化させたらしく、彼等は弾む様に会話を始めた。食事の終了間際になって、喰い過ぎに気付くまで、その雰囲気が壊される事はないだろう。

「弥生ってスゲーかわいいよな。今度デートしようぜ!」

「ふ、………ふええぇぇぇぇ~~~~~っっ///////!?」

 悠里が爆弾を投げ込んだ事は、その後とてつもなく有名になった。




あとがき











芽衣「治療、無事に済んで良かったです」

光「そうだな」

芽衣「Eクラス以下は、戦闘は自由参加ですから、ポイントを稼ぐのは大変ですね。私達みたいな非戦闘員は特に」

光「ああ、その中でも治療能力者はともかくポイント獲得が困難だからな」

芽衣「減点があるのって、治療能力者だけですよね………」

光「患者がいないとポイントが入らない。リタイヤシステムで運ばれてくる奴を治療しても、治療の仕方や工程時間次第では減点対象………」

芽衣「しかもその後の経過を見て、後遺症や違和感が残るようなら大幅減点………」

光「本当に、治療組の責任感は重すぎるよ」

芽衣「まあでも、私はそれぐらいの責任あってこそ、医師としての覚悟が持てると言う物だと思いますけどね」

光「なにを言ってるんだ芽衣?」

芽衣「あ、あれ? おかしなこと言いました?」

光「そんなルールなど無くても、人の命を預かる物が、全力を尽くさずしてどうする? 覚悟は、ルール無用で備える物だぞ?」

芽衣「………!」

芽衣「はいっ! そうですねっ! 私も気持ちを改めないと!」

光「ああ、そうのいきだ」

夏流「九谷(クタニ)(ヒカル)如月(キサラギ)芽衣(メイ)。評価10点プラス」

芽衣&光「「こんな所も評価されてたっ!?」」






作者「それでは、今度はDクラス編でお会いしましょう!」

作者「あと、E、Fクラスは纏めてやろうと思ってます。がんばりますっ!」

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