ハイスクール・イマジネーション   作:秋宮 のん

13 / 37
二話同時公開の大ボリュームッ!!

………すいませんっ! 大風呂敷でした!
ただ単に一話分に収まらなかっただけですっ!

久しぶりの投稿となりましたが、今月に間に合って本当に良かった。
それではCクラス編後篇をお楽しみください。


【添削まだです】


一学期 第六試験 【クラス内交流戦】Ⅵ

一学期 第六試験 【クラス内交流戦】Ⅵ

 

Cクラス編後篇

 

 

 

 

 

 ―――剣は凶器だ。

 人を殺す為に、最も洗練された刃。

 決して美術品などではない。

 

 ―――剣術は殺人術だ。

 敵を屠るために編み出された術だ。

 決して煌びやかな舞ではない。

 

 

 『桜庭流』

 元を辿れば、剣を使えなかった剣士が編み出したとか、女が編み出したとか、ともかくまともな史実が残っていない。由緒あると言っていいのか胡散くさい内容も多い。そんなあやふやなままで継がれてきた剣術だから、今に残る内容は全部装飾華美と言える様な技ばかり。美しさを追求した剣術など、もはや剣術ではない。

 剣の師である祖父さんや父上は「時代に則っているのだ」と言っていたが、そんな物は詭弁だ。

 剣は凶器。剣術は殺人術。

 実際に人を斬れと言っている訳じゃない。剣術をどう使うかは人の意思だ。殺さずを貫くのも、また選択の内だ。だが、根本的な部分で、俺達はそれを忘れちゃいけない筈だ。剣術を流派として受け継ぐ俺達は………。

 

 だから俺は、桜庭流の美しさを全て廃した、新しい―――(いや)、本来の『桜庭流』を極めて見せる。

 俺の選択は正しかったと言う事を証明するために、俺は負けるわけにはいかない………。

 

 

 00

 

 御門(みかど)更紗(さらさ)は名誉ある一家の出で、古い仕来りなどを忠実に守ってきている。そのため、彼女の朝は普通に早い。目覚ましのアラームなど生まれてこの方セットした覚えが無い程だ。そんな朝の早い彼女だが、眼を覚ますと大抵ルームメイトは先に起きている。

 今日も今日とて、発現した能力のペナルティーでおいそれと言葉を紡げない更紗は、あくびを噛み殺しながら洗面所で顔を洗い、タオルを水に浸して絞ると、部屋に戻ってベランダを目指す。ベランダの外では、ルームメイトが半裸の状態で寒風摩擦などをしていた。筋肉が鎧の様に身についた姿は、もはや肌を晒しているように見えない程に立派に隆起していた堅そうな印象を与えられる。同居人が女性である事を気遣っているのだろう、毎回ベランダのカーテンは締められており、着替えもベランダに用意してある。

 更紗がベランダに出てくると、筋肉質の男はすぐに気付いて振り返る。

「おうっ、御門。相変わらず朝が早いなぁ?」

『金剛さんの方がとっても早いです』

 更紗はフリップボードに素早くペンを走らせ、文字で会話する。手に持っていた濡れたタオルを差し出すと、同居人、伊吹(いぶき)金剛(こんごう)は嬉しそうにそれを受け取る。

「おおっ! 気が利くな? ありがたく使わせてもらおう。………むんっ! 中々に気持ちい」

 濡れタオルで体の汗を拭き取った金剛は、外に出していた服を素早く着こみ、室内へと戻って行く。女性の前でいつまでも裸を晒さない様にと、今朝の寒風に曝さない為の配慮だ。こう言ったところで気を使えるのは、何気に知られていない金剛の良い所だ。

「しかし、同室になった時も聞いたが、本当に良かったんかぁ?」

『何がですか?』

 金剛の質問の意図が理解できず、更紗は首を傾げながらフリップボードに質問を書いて見せる。

「手を出す気が全くないとは言え、むさ苦しい男と同居生活など、御門としてはあまりいい気はしないのでは? と思ってな? ………構わんと言ってもらった身だが、やはりそれなりに時が経てば生活のリズムと言うのもある。互いの生活リズムを狂わせている場合もあるだろぅ?」

『金剛さんは、気になる事あるんですか?』

「いや、俺は特にな………。むしろ女性の方が気にする事は多かろうと思ったのだが………?」

『大丈夫です!』

 自信有り気な顔で片手に拳を作り、気合いを入れる様な仕草で応える更紗。金剛は納得しながらも、やはり心配ではあるらしく、少しだけ迷う様な視線を送ってしまう。

 更紗は、そんな金剛の姿に可笑しそうに笑い掛けながら、フリップボードの端、『音』と書かれた青いマークに触れ、イマジンを指先から通す。

『内容が長くなるので、音声モードでお話しますね?』

 イマジンを通す事により、フリップボードの全身が震え、その振動により音声を発する。これは購買部で売っている、卒業した生徒達の商品の複製品だ。音声はイマジンを通す事で所有者のパーソナルを認識し、声色まで精密に再現してくれる。言葉を喋るイメージで音声が発せられるので、時々頭で考えるだけに留める筈だったものまで言葉として発してしまう事もあるのがたまに傷だ。

『御門家は由緒ある家柄なんです。多少厳格な所もありますけど、私は比較的順応している方だと思っています。この生活に違和感を覚えた事もないですし、他人との差異もちゃんと自覚しているつもりです。だから、誰がルームメイトだとしても受け入れた―――なんてことはないんですよ? もちろん最初は大きな男の人が同居人でちょっと怖かったですけど………、金剛さんは優しい人だって思えました。だから今は平気です!』

 最後に曇りの無い笑顔を添えられ、さすがに金剛も納得するしかなかった。ここまで純粋に気持ちを向けてくれる女の子を疑う事も出来ない。そう判断して、彼は頷き一つで納得する事にした。

『それに私、能力的に悲鳴とか上げたらかなり大惨事になると思いますから………。私の期待を裏切る時は色々覚悟してもらう事になっちゃうと思います………』

 ぞっとする台詞が最後に漏れ、慌ててイマジンを切る更紗。金剛は隣人のちょっと怖い所を知って、むしろ可笑しい気分になった。なので遠慮なく豪快に笑い飛ばす事にした。

 いきなりの笑い声に驚いた更紗だが、すぐに頬笑みで返す。

「さて、そろそろ朝食の時間だなぁ~? たらふく食って、今日こそ白星を貰ってくるとするかな?」

 

 

 01

 

 

 燃え盛る炎に囲まれた地で、金剛は今回の白星も危ぶまれていた。

(やれやれなんと言う事だ………。この組み合わせはぁ、あまりにも俺に不利過ぎだなぁ………)

 クラス内交流戦二日目。金剛の相手は闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)の妹、闘壊(トウカイ)響だった。

 バトルフィールドは山中。何の変哲もない子供達が冒険気分で入り込める程度の浅い木々に覆われた見晴らしの良い、高低差の少ない山であった。タスクは山の中にある木で、一本だけ花を咲かせている物があるので、その木の花を一輪ゲットすると言うものだ。ちなみにこれは『見鬼』でも発見は難しい。もちろん目視では時間がかかる。そこで活用されるのが『探知再現』っと言われる索敵能力だ。イマジンを波の様に周囲に放つ事で一種のソナー効果を発揮する。これにより、『木』と『花』二つの条件が揃っている物を探し出すと言うのが教師が用意したタスクの内容だ。『探知再現』は能力ではないので、隠蔽しようと思えば簡単に出来てしまえる。例え探し物であっても、狭い範囲を低い精密さで感じ取るのがやっとだ。この再現術をどのようにして使いこなし、花木を見つけ出すのかと言うのは、実に発想力を刺激されるタスクだろう。

 無論、Cクラスには当たり前の様に無視されてしまったわけで、金剛も響も、速攻でぶつかり合った。その結果が今の金剛の窮地だ。

「悪いけどさ? アンタの弱点は食堂での決闘で確認させてもらってんのよねぇ? アンタと私の相性は最悪。私の得意とする能力は全て属性攻撃。対するアンタは属性攻撃が最大の弱点。おまけに私はあの“女”とは違って接近戦も得意。アンタに勝ち目なんて無いのよねぇ?」

 勝ち誇る響に、苦悶の表情を浮かべる金剛。

 彼女が勝ち誇るのは決して自惚れなどではない。実際金剛が苦手とする属性攻撃は響の得意とする能力であり、そのステータスも攻撃方面に振られている。周囲は彼女の能力『フェアリーエレメント』による『火炎舞踏(フレイムダンス)』で炎を操り、周囲は炎に包まれ逃げ道を塞がれている。金剛の身体にはあっちこっちに火傷の痕があり、じっとしている今でさえ、周囲の熱気に当てられ大量の汗を体力と共に流し続けている。

 金剛が決闘した相手が“男”だと言う事を除けば、あの騒ぎを無駄にせず、しっかりと観察していたと言う事になる。その洞察力もCクラスとしては十二分だと判断できるだろう。

 「だが―――」っと、金剛は口角を持ち上げる。

闘壊(トウカイ)妹よぉ? 俺の弱点を突き、最も効果的な手段を講じたその手腕は褒めてやろう。だが………、“お前一体いつの俺と戦っているつもりなんだ?”」

「? なに? 今更負け惜しみ?」

「言い方が悪かったのなら言い変えてやろう? “負けた俺が、いつまでもあのままだと思っているのか?”」

 付け加えた金剛は右手を振り上げ、地面に向かって平手打ちをする。

「出でよ! 『大江山の羅生門』!!」

 金剛の手から地面に向かって―――否、領域に向けてイマジネートが打ち込まれる。途端、地響きが起こり、大地が隆起。金剛の背に巨大な門が、『羅生門』が出現した。

「な、なによこれっ!?」

「東雲とやりあった時になぁ? 俺はまだスキルストックに空きが一つ空いてたんだよ? 奴との戦いに敗し、その反省の意味も込めて、新しいスキルを習得しておいたのよぉっ!」

 出現した羅生門は、ただ門として現れたわけではなかった。その全容から淡い光を放ち、炎に蹂躙されていた領域を支配し始める。忽ち炎は淡い青色へと変貌し、鬼火の様にゆらゆらと怪しく揺らめき始める。次第に金剛の身体にも変貌が見え始める。身体全身が(あかがね)の様に変色し、筋肉隆々の身体が固くなる様に圧縮されていく。額の突起は、まるで『鬼化』した時の様に角として屹立(きつりつ)する。

「な、何よその変身っ!? 『鬼神化』のニューバージョンってわけっ!?」

 変貌した金剛の姿に、さすがの響も警戒の色を強める。見た目は『鬼神化』の時に比べると小さくなっていて、あまり力強そうそうには見えない。だが、明らかに圧縮されたと解る筋肉は、全身が石の様に固い印象を受ける。直接触れば、それが生物である事さえ否定したくなる事だろう。恐らくは極限まで圧縮された結果なのだろうが、そこから放たれるパワーは、未だ計り知れない。何より注意すべきは『見鬼』によって確認できる『神気』だ。つまり、今の金剛は『神格』を得ている。神格を有していない筈の金剛が神格を纏っていると言う事は、間違いなく『鬼神化』を使っている。

「アタシも神格持ちじゃないけど、だからこそ教師に聞いてみたのよね? 『神格を持たない能力を神格化するのは良い方法ですか?』ってね? 答えは△だったわ。その方法だと確かに『神格』は得られるけど、後付けで得る神格は『疑似神格』になる。そして『疑似神格』は必ず神格を使うための代償を支払わせる結果に至る………ってね? つまり、アンタのそれも『疑似神格』で、しっかり代償を要求されるって事よね?」

 響の質問に金剛は応えず、ただ山の如く立ちつくすのみ。

 それを肯定と捉えた響は、僅かに取り戻した余裕から笑みを作る。

「あたしは直接見たわけじゃないけどさぁ? 確かアンタ、疑似神格の代償に『()っちゃくなる』んだって? いいの? 子供の身体じゃあ、明日の試合までに傷ついた体も体力も回復しないよ? ってか何よりさ? あたしがアンタとやるのに神格対策を考えてないとでも―――」

「御託は良い」

 突然金剛が口を開き、響の言葉を途中でバッサリと切り落とした。

「まずは俺を倒してみせい」

 金剛が挑発する様に言いのけ、一歩前へと踏み出す。

 それに合わせる様に響は二本の短剣を取り出す。いや、短剣と言うには語弊があるだろう。その剣には刃が無く、柄だけになっている。それを短剣と呼ぶにはいささか語弊があると言うものだ。だが、それは短剣となりえる。

 響が柄を握り締めた瞬間、彼女の能力『フェアリーエレメント』が発動し、属性を刃として付与する。

「『水麟氷乱(アイスダンス)』!」

 水の属性を付与され、水の刃を作り出した。無論、ただ水の刃が出来たわけではない。“水”と言う属性を“刃”と言う形状に付与したものだ。すなわち、形状も質量も、想いのままに変換可能と言う事だ。

「氷龍!」

 クロスさせる様に両腕を切り開く響。そのアクションに合わせ、刃となっていた水が大量に噴き出し、激流となる。激流は一瞬で凍りつくと、龍の姿を模った。作り出された氷龍は、周囲で青色に変化してしまった炎を呑み込み、次々と鎮火させ、変わりに氷の柱を林立させてゆく。一瞬で辺りは氷漬けとなり、フィールドその物が変わってしまった。

「【氷龍月花】」

 キーワードを口にし術式命令(コマンド)。氷龍は踊り狂い、フィールド全体を氷漬けにし、周囲の温度をドンドン下げていく。しかし、金剛の背に出現している羅生門に対しては何度ぶつかっても跳ね返され、逆に氷龍の方が氷の破片を散らしている始末だ。

「………ぬんっ!」

 それ横目に見ていた金剛が鼻息を一つ、気合いを入れて裏拳を放つ。拳をもらった氷龍は、あまりにも容易く砕け散り、騒がしい音を響かせながら粉々になって宙を舞う。まるで氷ではなく、飴細工の龍だったと思わせる程の見事な壊れっぷりに、破られた響の方が呆れて肩を竦めてしまう。

 金剛が呟く。

「一応言っておくが、氷や土は一概に属性攻撃とは言い切れん。確かに“属性”は存在するだろうが、アレらは物質………立派な物理攻撃だ。残念だが、東雲が使っていた式神の水の刃に比べると圧倒的に劣っているぞ?」

「あぁん? 何自慢げに言い出してんの? あたし、一度も氷龍でアンタを攻撃してないでしょうが? 本命は別だし………」

 ニヤリと笑った響は柄に、今度は風の刃を付与する。

「『風雲鳥飛(ウィンドダンス)』! 【風刺針投】ッ!!」

 【風刺針投】響の使うスキル『風雲鳥飛(ウィンドダンス)』の応用技の一つであり、極限まで圧縮した風の針を飛ばす技で、その風の針はあらゆる障壁を貫くイマジネートが掛けられている。例え金剛が物理防御に優れていても、仮に属性防御がステータス数値の全開であったとしても、何らかの防御能力を展開していたところで、それらを貫通して金剛の心臓を貫くは容易かった。

「………なるほどな」

 自分に向かって加速する風の針に気付いた金剛は、納得の呟きを漏らし、片腕を掲げ―――、ブンッ! と一振り、飛来した三本の風の針を容易く弾き飛ばしてしまった。

「えっ!? 嘘っ!?」

 ありえない出来事に目を奪われた響は、その瞬間だけ隙を作ってしまう。

 金剛はその隙を見逃す事無く地を蹴って前進。地面を吹き飛ばしていく勢いで踏破し、正面から堂々と拳を振るい抜く。

「―――ッ!?」

 だが、そこはやはりイマジネーター。一撃必殺の脅威に対し、『直感』が働きすぐさま跳躍してギリギリ回避。直前に殴られた空気が大爆発を起こし、響の身体が上空高くに打ち上げられた。

「やばっ!? 空中っ!」

 『風雲鳥飛(ウィンドダンス)』で風を操り、必死に姿勢制御をし、動けぬ空中で金剛の追撃に備える。残念ながら彼女の『フェアリーエレメント』は、あくまで属性を付与する物であり、自由自在に属性を使いこなすと言う域には達していない。風を操れても飛行などとてもできない。

 そして予想通り、爆発で上がった土煙をぶち抜き、巨体の金剛が砲弾の如く迫りくる。

(なら、『水麟氷乱(アイスダンス)』で激流をぶつけて質量で押し返すっ! それが無理でも途中で凍らせれば、軌道はずらせるはずっ!)

 短剣の柄に発動している『フェアリーエレメント』を『水麟氷乱(アイスダンス)』へと変更。風を消して水の刃を取り出す。両手を振り被り水を解き放とうとした響は―――、突然左右から現れた“危機”を『直感』で感じ取り、反射的に迎撃してしまう。

 左右に放たれた水刃は、現れた“危機”を見事に斬り裂いた。現れた“危機”は黒い翼を持つ少女と、緑色の服を着た少女の二人。どちらも女に生気が宿っておらず、人形の様に虚ろな表情をしている。そして攻撃を受けた個所からイマジン粒子の粉が飛び散り、輝いていた。それが彼女達の正体を表わしている。

(イマジン体っ!?)

「生憎、東雲の様に深く掘り下げた設定をしていないので、できそこないの人形程度だがなっ!!」

 金剛の声が正面からして、ハッとする。しかしもう遅い。迎撃に要した一瞬の間が、金剛を迎撃するタイミングを失ってしまう。

 そして、響は見る。金剛の右腕が肥大化し、更に鋼鉄を超える強度へと進化しているのを。

「うそっ!? これは『鬼化』っ!? アンタ、その姿で『鬼化』してなかったのっ!?」

「生憎この姿は『大江山の羅生門』で神格を得た、俺の『鬼ステータス』が『鬼神ステータス』へと変わった事による影響じゃっ! 悪いが一撃で仕留めさせてもらうぞぉっ!!」

 放たれる一撃。

 響は全力で考えられるだけの防御手段を試みるが、既にこの時点で勝敗は決していた。

(だめだっ!? あの拳………っ!? 城塞都市(トロイア)級の神話でも、防げない―――っ!?)

 拳が直撃した瞬間、響の体は吹き飛ばされる刹那の間に、メキメキと音を上げ体の半分が潰され―――教師手動のリタイアシステムにより姿を消した。

 

『オーバーダメージを確認。教師権限により、勝者を伊吹金剛とし、闘壊(トウカイ)響を強制リタイヤさせました。伊吹金剛、改めて、君の勝利です』

 

 教師のアナウンスを聞いた金剛は、地面に着地すると『鬼化』させていた腕を元に戻し、『大江山の羅生門』も地中へと戻した。姿が元の人に戻ったところで身体についた霜を手で払い落す。

「やれやれ、東雲に感謝だな。あの一戦が無ければ『大江戸の羅生門』は使えなかった。『鬼神化』でも、倒せたかも知れんが、それでは氷龍で作られた冷気で身体の動きが鈍った所を、あの風の針で射殺されていた。………しかし、鬼のステータスが鬼神のステータスに代わるだけで此処まで簡単に風の針を叩き落とせるとはのぅ? アレに何の脅威も感じなかった。『鬼化』した腕で簡単に弾き飛ばせるとすぐに解ったぞ。苦手な属性攻撃であっても、神格を得るだけで此処まで違ってくるとは………、いやはや我が事ながら奥が深い」

 自分で体験したイマジンの奥深さに関心の声を上げながら、金剛は身体の至る所をチェックし、殆ど無傷である事を確認する。

「うむっ! 今回はわれながら快勝であったっ!」

 満足げに頷きながら元に戻った白い部屋から出ていく彼は、実に愉快そうに肩を揺らすのであった。

 相性が悪さを克服する事。これもこの学園では当たり前に見られる姿であった。

 

 

 02

 

 

 さて今度は、闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)VS本多(ほんだ)正勝(まさかつ)との試合なのだが、こちらは前回の心配事がそのまま反映されてしまっていた。

 正勝の『無傷の槍兵』の効果でポイントを取る事の出来ない狂介が、自身の『感覚付与』『I don't have but you have (俺に無くてお前にあるもの)』で痛覚に訴えかける作戦に出たのだが、逆に正勝の臆病さに拍車を掛けてしまい、ただひたすらイタチゴッコが続く始末になっていた。

「テメェッ!? ホンット! いい加減にしろよっ!?」

「ヒィ………ッ!? ご、ごめんなさいっ!?」

 バトルフィールドはブロック体で出来た簡単な高低差がある程度の部屋だ。障害物と言える程のブロックは少なく、長い槍使いでも存分に力を発揮できる。

 そんな状況で逃げの一手なのだから狂介の怒りも尤もだ。

 今もブロックを壁に、身体半分隠した状態で狂介と睨めっこしている状態で、正勝は怯えた瞳をしていた。

「うぅ~~………、素手が相手だから今回はどうにかなると思ってたのに………、攻撃したら、こっちが痛くなるとか反則だぁ~~………っ! おまけにダメージないのに、こっちが受けた痛みはメチャクチャ倍増されてるし………」

「そう言う能力なんだよっ! ってか、普通ダメージ入らねえお前の方が反則的な状況のはずだろうっ!? なんでお前が逃げの一手なんじゃ~~~!!」

 狂介の尤もな怒声に、逆に委縮して物影に首を引っ込めてしまう正勝。彼自身も、このままじゃいけないと解ってはいるのだが、自分の攻撃が倍の痛みになって返ってくるという状況で『勇気を持って』などとはとても言い出せなかった。(マゾ)じゃあるまいし、そうと解ってて攻撃する意味が全く解らない。

 ちなみに、今回のタスクは、色の違うブロックの周囲を二周するっと言う、うっかり気付かぬ内にクリアしてしまいそうな内容だったりするのだが、やはりCクラスの連中にはタスク条件その物が頭に入っていない様子だ。

「け……っ! やってられるか……っ!」

 さすがに業を煮やした狂介は、その辺のブロックを思いっきり蹴りつけ、吐き捨てる。その時の足の痛みがフィードバックされ、「ぎゃっ!?」っと声を上げる正勝を無視し、完全に腐ってしまう。

「俺さ、入学試験の時、お前の様子見てたんだぜ? 敵に追い込まれた時に槍の一撃で一刀両断にしてたろ? おまけに姓名が『本田』だ? イマジネーターになったとしたら“割断”くらいやってのけるんだろうな、って、期待してたんだぜ? 今回対戦相手になった時なんかワクワクが止まらなかったくらいだ………」

 期待に満ちた内容とは裏腹に、その声色には、明らかな落胆が色濃く現れている。

 それが解る故に、正勝は申し訳なさと、勝手な期待に対する精神的圧迫感(ストレス)に、頭を垂れて気落ちしていた。三角座で影を背負っている姿がやけに様になっている。

「あ~~あ………、ホントくだらねぇ~~。こんなのが“戦国最強”とか、マジ笑える~」

「………(ぴくっ)」

「まあ、所詮は昔の原始人だしぃ? イマジネーターとかみたいな超常の存在と比べる事の方が可哀想? 見たいな感じィ~? つまりそれって“戦国最強”って実は大した事無いとかぁ~? ははっ! そう考えたら笑えてきたぁ~!?」

 狂介は嘲るように嗤い声を上げ始めた。

 断っておくが、決して狂介とて悪人ではない。本気で過去の偉人をバカにし、軽んじている訳ではないのだ。ただ純粋に期待していただけに、この戦闘好きのCクラスで遭遇してしまったがために、裏切られた思いがあまりにも大きく、ついつい言い過ぎてしまっているだけなのだ。

 それでも口が止まらない。それだけ彼の落胆が大きかったっと言う事なのだろう。

 だが、狂介はこの時油断していた。決してしてはいけない相手に、致命的な油断をしていた。だから気付かない。敵の様子が変わり始めている事に。解らないからこそ、彼は最後の地雷を踏んでしまう。

「強いって言っても、それ原始的なレベルって事だぁっ! はっはっ! お疲れ様ぁ~~っ! “や~~い、戦国最強~~!?(笑い)”」

 

 ズガンッ!!

 

 切れた。

 ブロックが―――、

 狂介の腕が―――、

 そして、正勝が………。

「悪いけどさ、僕にだって譲れないモノはある」

 斜めに切り裂かれたブロックがスライドして行く中、その影からゆっくりと姿を表わしていく正勝が、静かな、しかし、とても強い印象を与える言葉を放つ。

「君は言うべきではなかった。僕だけならまだしも、御先祖様まで罵った罪は果てし無く重い………」

 彼は鮮やかな仕草で槍を構えると、先程とは別人と見紛う凛々しい表情と鋭い眼差しを持って告げる。

「………さあ来なさい。適当にあしらって斬り捨てます」

「………え? いや、ちょっとなに? そのいきなりの変わりよう? なんか付いていけないんですけど? ってか、こっちに攻撃したのに、なんでお前痛み感じてないわけ?」

 あまりの変化に片腕を庇う事も忘れて問いかけてしまう狂介に、正勝は、澄ました顔で淡々と告げる。

「この程度痛みの内には入りません」

 一言だった。たった一言で全ての理由を纏めた正勝は、『蜻蛉切』により極限までに強化された槍の先を突きつける。

 己の痛覚を全て押し付けている狂介には解らない事だったが、正勝の『蜻蛉切』はありえない切れ味を有する物だ。それこそ、黄金すら発泡スチロールに熱線を通すが如く、易々と切り裂いてしまえるほど。それを達人の技を持って振り抜かれれば、痛覚さえ感じさせずに手足を切断する事が可能になってしまえる。

 つまり、痛みを押しつけている狂介だが、実際与えられた痛みはほぼ0なため、押しつけられている正勝の痛みも無いに等しい状態だ。

 故の「痛みの内に入らない」発言である。

 それを長々と説明する事無く一言で言いきってしまった正勝。その姿と態度を見て、急なギャップに思考が付いて行けず、狂介は別の方面に理解を広げていた。

(明らかにさっきまでとは違う落ち着いた雰囲気………、だけど性格が変化したとか、キレたとか、本気モードに入ったとかそういうんじゃない感じだ? アレは………。ああ、何かどっかで一度見た事あるわ~~………)

 何故か溜息が出そうになりながら、狂介は結論付ける。

(スポーツマンとかだと割と多くいるらしいんだよなぁ~………。何かがきっかけで、物凄く調子が良くなる、“最良の状態(ゾーン)”ってやつに入ったりするの………)

 “最良の状態(ゾーン)”っとは、技の名ではない。言ってしまえば絶好調を表わす言葉だ。人により“最良の状態(ゾーン)”にも違いがあるらしいが、ともかく雑念が無く、自分でも驚くほどに目の前の事に集中できる状態を指すらしい。スポーツマンに於いては、これを自発的になれるだけで、かなりの利点となる。

 戦闘を旨とするこの学園に於いても、これは例外ではない。ただ一つ、違いがあるとすれば………、イマジネーターの“最良の状態(ゾーン)”は、入っているかいないかの差一つでも、半端無い強化に繋がると言う事だ。それこそ圧倒的に。

 

闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)。ダメージオーバーにより強制リタイヤ。本多(ほんだ)正勝(まさかつ)の勝利を認めます』

 

 教師からのアナウンスが流れたのは、それから三分後だったと言う………。

 

 

 03

 

 

 ジャジィンッ! バラバラ………。

 

「あらまぁ~?」

 砕かれたチェーンソーが地面に散らばる様を持ち主である(くすのき)(かえで)が頬に手を当てながら見つめる。

 その傍らでは、対戦相手の黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)が限界と言わんばかりに大の字で寝転がっていた。

 二人ともボロボロで、身体中は切り傷だらけ。服のあっちこっちが血に濡れ、大きく露出している。楓など、片胸が晒されてしまっているのだが、そこに付けられた大きな傷の所為で艶めかしい物にはとても思えない。チェーンソーと一緒に斬られた、出来たばかりの新しい傷で、血の量も危機感を与えるには充分だ。

「個人的にはかなりサフランの花言葉の如く『歓喜』の時間だったのですけど………、武器を失った上に時間切れとは………」

「ぜぇ、ぜぇ………っ! ああくっそっ! 今までで一番楽しかったのにぃ~~~! 身体が全然付いていかねぇ~~~っ!」

 手足を軽くばたつかせダダをこねる畔哉だが、その所為で身体から余計血が流れ出すのに気付いてすぐに大人しくなる。

 それに苦笑気味に微笑みながら、楓はゆっくりと腰を下ろし、周囲を見回す。

「それにしても………、気付いて見るとすごい有様ですねぇ~?」

 今回のバトルフィールドはジャングル地帯だったのだが、楓と畔哉の周囲は完全に木々が一掃されていて、殆ど土が剥き出し状態だ。まるでカマイタチを伴った台風でも発生したのではないかと言う光景に、我が事ながら呆れてしまう二人だった。

「って言うかまだ時間あるなら聞いて良い? 君が使ってたのにちょっとした疑問が?」

「なにかしらぁ? 意識がある内にならお答えしますけど?」

 互いのポイントを確認しながら楓が船を漕ぐように頭をふらふらさせつつ返す。

「さっき使った『七花八裂』って言うの? あれ、一体何なの? 能力っぽくなかったのに、なんであんなに強い技だったんだよ?」

「さあ、なんでかしら? 確かにアレは能力ではなくて、ただ八つ裂きにするってだけの技なんですけどね? ただ『強化再現』で強化して攻撃してるのではなくて、空きがあったスキルスロットに入れてみただけなのよ? あんなに強くなるとは私も意外だったわ」

「そんな話、教師からは何も聞かされてないんだけどな~? もしかして、俺等が知らないだけで、『スキルストック』には、何か強くなる秘密があったりするのか?」

「さあどうかしら? でも『スキルスロット』も、ただの『特技設定』とは、思わない方が………、ああ、すみません、そろそろ血が………」

 くらり………っ、と来た楓は、そのまま地面に倒れると、光の粒子となって消え去った。

 

(くすのき)(かえで)、出血多量につき、リタイヤシステムが自動発動しました。よって勝者は、黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)

 

「う~~ん、全力を尽くした末の勝敗だったんだけど………、なんか勝った気がしない。もっとバシィッ! っと、決められないものかなぁ~?」

 未だに不完全燃焼を続ける畔哉。彼が満足行く勝敗は、果たして訪れるのだろうか?

 

 

 桜庭(さくらば)啓一(けいいち)VS虎守(こもり)(つばさ)の戦いでは、『雷化』によって啓一の斬激、剣による物理攻撃を完全無効化して有利に立っていた翼だったが、啓一の有するステータス『斬れ味:500』の効果を活かされ、斬激を届かされてしまった。

 ステータスの効率的発動は、それなりの難度があったため、全部で五回分しか届かせる事ができなかった啓一だったが、苦戦の末に勝利を勝ち取った。

 

 鋼城(こうじょう)カナミVS前田(まえだ)慶太(けいた)戦では、終始互いに一歩も譲らぬ激戦が続き、一進一退の様相を呈していたが、慶太の切り札『I know Longinus・ the truth, and truthreleases you(聖槍・真理を知り真理が君を自由にする)』によって、彼の能力その物でもある『聖槍・ロンギヌスの槍』の過去を得、絶大な神速と貫通力のある槍の連撃が繰り出され、カナミを圧倒した。

「う、うわわああ~~~~っっ!!」

 ズガガガガガッ! と言う破砕機の様な音を響かせ、彼女が能力で作ったパワードスーツ『鋼鉄の戦乙女(アイアンヴァルキリー)』が、絶え間なく破片を散らしていく。生産系の能力とは違い、変身系の能力で作られた彼女のパワードスーツは、イマジネートによって破損部分をいくらでも回復する事が可能だ。だが、“イマジン”補給ではなく、術式処理を意味する“イマジネート”で修復するのだ。イマジンを流し込めば瞬時に回復すると言うわけではない。そのため集中できるタイミングが無ければ修復行為は困難で、彼女のスーツは殆ど剥ぎ取られていた。

 胴部分は完全に剥ぎ取られ、急所を守る物は無くなっている。手足の防具は傷だらけで、殴るにしても拳が剥き出し状態になっている。ポイントも既に45ポイントも取られていて圧倒的に不利な状態に追いやられている。なのに、怒涛の攻撃は全く止む気配がない。防御に全力を尽くしていてもポイント戦ではジリ貧にされて終わってしまうだけだ。

(これ以上、堪えるのは無理………っ!! ポイントが残っている内に勝負に出るしかない………っ!)

 身を守る鎧を完全に剥ぎ取られ、しかし、まだ彼女の武器であるイマジンセルが健在であった。ガントレットと膝下に30mm径、長さ8cmのイマジンセルが装填されている。これを爆発させる事でスピードとパワーを得るのが彼女の主流の戦闘スタイルだ。イマジンセルの補充は背部装甲のリアクターによって行われるのだが、残念ながらこちらは既に破壊されてしまっている。

(残りのセルで何処までいけるか解んないけど………っ!)

「それ………っ! でも………―――っ!!」

 防御していた手足を広げ、怒涛の攻撃に対して無防備を晒す。攻撃が迫るのを痛みと共に感じ取りながら、カナミは全力で拳を握る。

「『フルブラスト』ッ!!」

 手足に装填されている各八つのイマジンセルが全て一斉に爆発される。超圧縮されたイマジンエネルギーが次々と叩き込まれ、カナミの能力を瞬間的、爆発的に引き上げられる。

「ッ!? やべ………っ!?」

 焦りの声を、笑みを浮かべながら漏らす慶太。『直感』を頼りに瞬時に行動を変更。怒涛の勢いで突いていた槍を一撃必殺の刺突へと変え、渾身の力で突き込む。

 拳と槍が激突し、空気の爆発による轟音が鳴り響く。強烈な衝撃波が周囲を撒き散らし、槍は拳を、拳は槍を―――互いに押しのけようと鬩ぎ合う。高密度のイマジン同士が押しつけられる事で眩い発光現象を起こしながら、二人は渾身の力を振り絞る。

「撃ち抜けええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっっっ!!」

「貫けよォォォォォーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 真っ白に輝くイマジンの発光。その光は次第に慶太の放つ赤い色へと変色して行く。

「く………っ!?」

 カナミが歯噛みした瞬間、光が弾け、衝撃波にカナミの身体が押し返されてしまう。

 地面を転がるものかと根性で地に足を突き耐える。地を滑り、だいぶ後退したところでやっと勢いが止まる。だが、身体中が痙攣して一瞬だけ隙が生まれてしまう。その一瞬目がけ、慶太は槍を突き込みに来ていた。

「もらったぞぉーーーーーっ!!」

 戦慄するカナミ。勝利を確信した慶太。

 突然危機を知らせる『直感』。

 慶太は驚愕するが、『直感』が何について危機を知らせているのかが理解できず、行動を変更できない。目の前には確実な勝利が存在している。カナミは動く事が出来ず、カウンターを狙える状況にはない。周囲に罠らしき物もない状況で、一体何が“驚異”となり得るのか理解できない。

 そして、それが勝敗を決定した。

 

 ブシャアアーーーーーッッ!!

 

 突然カナミの身体から蒸気が勢い良く噴出される。正しくは、彼女が纏っているパワードスーツの冷却機がその仕事を実行し、冷却材を噴出しているだけにすぎない。だが、()()()()ではなかった。

 この時、『直感』を得ていたのは慶太だけではなかった。カナミも同じく勝利への『直感』を感じ取っていた。

 慶太の槍が突き出される中、カナミも全力で攻撃に転じようとする。無論間に合わない。圧倒的にタイミング遅れている中でカナミは必死に拳を振り被る。先に突き出される慶太の槍は、白い蒸気を押し退け、彼女の胸を一直線に貫いて―――は、いかなかった。

 刹那にバチリッ! っと言う音共に、矛先がねじ曲がり、中程までが吹き飛んでしまった。

「な、なんだとっ!?」

「うっそっ!?」

 驚愕する慶太。同じく驚くカナミ。

 二人は知る由もなかった。カナミの『フルブラスト』使用後に排出される冷却材は、イマジンの摩擦によって起きる熱量を冷却するための物だ。これはイマジン物質論に関わるので詳しい説明は省くが、イマジンの摩擦によって熱を持ったイマジン物質は、物理的に冷やすよりも効率の良い冷却方法が存在する。原子よりも細かい粒子であるイマジンを簡易分解し、熱を持った部分を取り外し、冷えた部分を構築する。っと言う方法だ。カナミの『排出』はそれを最も効率的に行われる仕組みとなっているのだが、その排出している蒸気は、イマジンを“押し退ける”っと言う性質を有しているのだ。つまり―――蒸気が排出される一秒間に満たない僅かな間、彼女は疑似的なキャンセラー空間を形成している状態になっているのだ。

 それを慶太の本能が感じ取ったが故の『直感』。

 それをカナミが本能的に理解したが故の『直感』。

 砕けた槍を突き出した状態で無防備な慶太に、カナミの全力の拳が突き刺さる。もはや逃れようもない状況に、慶太は強く笑みを作った。

 

「素手で俺をぶっ倒すかよ………!? やっぱ期待通りじゃねえかよこの学園………っ!」

 

 僅か一秒にも満たない刹那の間、決してそんな長台詞を吐いていられる時間はなかったはずだと言うのに、それでもカナミの耳には確かにそのセリフが届いた様な気がした。そして―――、

 吹き飛ぶ慶太。腹部を拳大に陥没させられ、地面を激しく転がり、彼は地に伏した。

 二人の勝敗を分けたのは、二つの偶然だった。

 一つはカナミの蒸気がイマジンを押しのける事が出来ると言う事。

 もう一つは、慶太の使用する武器が、イマジンによって形成されていた物だと言う事。

 それは単なる偶然かもしれない。だが偶然で勝敗が決したと言うのなら、それは運に左右される程に、互いの力が拮抗していた証拠でもあった。

「勝っっっったああぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~………っっっ!!!」

 勝利を実感し、拳を天に振り上げたカナミは、アナウンスを確認するとともに地面に倒れ伏して目を回してしまった。間違いなく、今回一番、満足の行く戦いが出来た人物に違いないだろう。

 

 

 そう、鋼城(こうじょう)カナミは間違いなく今回一番満足した人物であった。

 時間をかなり引き戻し、こちらでは新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)甘楽(つづら)弥生(やよい)の対戦カードが始まったのだが………。

(う、嘘だろ………っ!?)

 悠里は自分自身を疑っていた。嘗て、下界(ギガフロートの外の世界)で名の知れた不良を貫いていた自分だったが、よもやこんな事に直面するとは思いもしてなかった。

(あ、ありえねぇっ!? 俺が………っ! まさか、そんな………っ!?)

 未だ嘗てない衝撃に、目の前の対戦相手を控えた状態で解り易く動揺してしまう悠里。戦闘も始まっていないのに、思わず後ずさりまでしてしまう姿に、さすがの弥生も困った表情で首を傾げてしまう。

(く………っ! や、やめろ………っ!)

 思わず顔を庇う様にして視界を制限する悠里だが、戦闘中と言う事もあり、なんとか腕の隙間から相手を確認しようとする。しかし、そこに移る存在を目にすると、どうしても込み上げる感情に駆られてしまう。

(バ、バカな………っ!? まさか本当に………っ!? 俺は―――“一目惚れ”してしまったと言うのか………っっ!?)

 悠里に、衝撃が走る。

 ザワ、ザワ………、っと、あらゆる動揺が彼を掛け巡り、鼓動は速さを増し、血流が顔に集まって行く。視線は目の前の少女から外せなくなって行き、見えるはずの無いキラキラとした光の輝きまで目の中に移り込んで来るようだ。

「お、お、お、おおお、おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっっっ!!!??」

「ひゃう………っ!?」

 いきなり(魂の)雄叫びを上げる悠里に、驚いた弥生が飛び退く。

 片手に持っていた剣を胸に抱く様にして飛び退く姿まで、悠里の目には可愛らしい少女の愛らしい仕草にしか映らない。本物が目の前にいても美化して行く思考、それを『恋』と言わず、一体何と形容するのかっ!? 少なくとも悠里には思い付かなかった。

「か、可愛い………、弥生可愛い………」

「あ、あの………? 大丈夫?」

 思わず訪ねる弥生に、悠里は何も考えずに即答。

「全然」

「先生っ!? これって戦闘続行して大丈夫なんですかっ!?」

 慌てて教師にヘルプする弥生だが、教師からの回答はない。それより早く悠里が答えてしまったからだ。

「大丈夫」

「大丈夫じゃなかったのではっ!?」

「うん」

「じゃあ、やっぱりまずいんだよねっ!? 勝敗は引き分けで良いから、ここは一旦中止して、今すぐ保健室に行った方が―――」

(中止―――だと………っ!?)

「それはダメだッッッッ!!!!!!!」

「ひゃぁうん………っ!?」

 血走った眼で見つめながら、物すごい剣幕で訴える悠里には『理性』の二文字が完全に失われているようにしか見えなかった。何しろ中止しない理由が―――、

(中止したら、合法的に弥生と一緒にいられる時間が無くなっちまうだろうっ!?)

 ―――なのだから………。

「え、えっと………? じゃあ、攻撃しても大丈夫ですか?」

「バッチ来いっ!!」

 手を広げて受け入れ態勢を万全にする悠里。

(何だか行きたくない………)

 さすがに戸惑いを覚える弥生だったが、そこは彼女が持つ能力『ベルセルク』の常時発動効果により、瞬時に気持ちが入れ替えられる。

 剣を逆手に持ち変え、地を蹴り、左右に身体を振りながらフェイントを織り交ぜ接近して行く。

(『計測(トレース)』!)

 悠里は『模倣(コピー)』の能力により、相手のイマジンと身体の動きを計測して行く。『計測』を完了し、『記録』する事で、彼は他者の能力を『模倣』する事が出来る。それが彼の『模倣』の能力だ。

 僅かに出っ張っていた地面を蹴りつけ飛び上がった弥生は、そのまま得物を捕らえに掛る獣の如く飛び掛かる。

 刃が迫る中、悠里は眼を一杯に見開き、必死に次の段階へと移る。

(根性……っ! 『記録(メモリー)』………っ!!)

 本来『記録』移るには、最低でも二分以上の『計測』が必要なのだが、悠里は決して目を逸らそうとはせず、それを僅か十秒足らずやってのけてしまったっ!? そして―――、

 

 ズバッと斬られた。

 

 地に倒れ伏す悠里。

 踵を返して様子を窺う弥生。しかし、悠里は立ち上がってくる気配はなく、流れる血が止まる気配もない。『ベルセルク』の能力さえ、戸惑いを覚え始める中、彼女は恐る恐る声を掛ける。

「えっと………? ねえ、大丈夫?」

 プルプル………ッ、っと、彼の腕がゆっくりと上がり、グッ! っと親指を立てた。

「|脳内保存、完了《風にたなびくスカートの間から見えたおみ足最高でした》………っ!!」

 そして、悠里は満足した顔で気を失った。

 

『勝者、甘楽弥生』

 

「ええええぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!!!!????」

 今季最高の驚愕を得る事となった弥生は、意味も解らず二つ目の白星を獲得したのだった。

 だが、間違いなくこの勝負一人勝ちしたのは、新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)だったに違いない。

「不完全燃焼とかそういうレベルじゃな~~~~~~いっっ!? 何このモヤッと感ッ!? 一体どうすればいいんだよぅ~~~~~~っっっ!!!?」

 以降、甘楽(つづら)弥生(やよい)は、この日を境に新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)から猛アタックを受ける事となるのだが………、同時に苦手意識を持ってしまう事となる。

 彼等はこの後、二転三転するラブコメ人生を展開していく事になるのだが、それはまだ先の話である。

 とりあえず、こうして二日目無事(?)に終了したのだった。

 

 

 04

 

 

 イマジネーションハイスクール、柘榴染柱間学園の学園長、斎紫海弖は変人的な天才だと言われている。変人である事を認める彼だが、天才と言うのだけは否定している。何しろ彼の親戚は学生の頃にイマジンを発明してしまった稀代の天才なのだ。彼に比べれば自分など大した存在ではないだろう。

 天才を否定する彼が、この学園の学園長の席に着いたのは、他でもないその親戚に頼まれたからだ。故に彼は天才ではないと自称する頭脳を使い―――この学園で暇を持て余していた。

「事務仕事なんて楽勝過ぎてつまらん………、やはりこの学園の醍醐味は試合だが………、さすがに見飽きるなぁ~~………」

 げんなりした表情でそんな事を呟きながら、彼は学園長室の机で沸騰した青汁を啜っていた。

「ちっ、パンチが足りん………」

「沸騰青汁に何を求めてるんですかっ!?」

 偶然書類を届けに来た比良(このら)美鐘 (みかね)のツッコミに、海弖は深刻そうな表情で返す。

「全くだな。せめてコーラとドリアンとヤモリの黒焼きをミックスしてから―――………いや待て。炭酸は温めたら抜けてしまうじゃないか? ラー油の方が………くそっ! インパクトが薄いっ! この学園に私は何年学園長をやっているんだっ!? なんて体たらくな発想だっ!」

「既にアグレッシブ全()ですよっ!!」

 額に手を当てて苦悩する海弖に、条件反射のレベルで突っ込む美鐘だが、海弖は全く意に介した風はない。

「せやったら海弖くん? おでんを入れてみるのはどうやろうか? 煮干しの粉末をまぶしたらそれなりに美味しそうやろ?」

「なるほど。健康にも良さそうだ………。さすがゆかり様だ。では早速………」

「いきなり出てきてとんでもない提案をしないでくださいゆかり様っ!? 海弖先生も突っ込む前に準備終えないでくださいっ! どんな早技ですかっ!?」

「さあ飲み給え氷野杜(ひのもり)くん」

 いきなり現れた半透明姿の昭和幽霊教師、吉備津ゆかりの提案を実行した海弖は、流れる動作で自分の補佐役である氷野杜(ひのもり)八弥(やや)へと御茶(汚染物)を渡す。

「ごくん………っ」

「躊躇無く飲んだっ!?」

「学園長の命令は絶対ですから………、それと失礼します………」

 空になったコップを置いた八弥は、急ぎ足で学園長室を出ようとする。

「ど、どちらへ………?」

「“花を伐採しに行く”以外に何があるのですか………っ!?」

 ※直訳:トイレです。

「急いで行って来て下さいっっっ!!」

 真っ青な顔で手を口とお腹に当てた八弥は、速く動くと死ぬと言いたげな緩慢且つ必死な挙動で学園長室を後にした。

「さて………、今年の一年生は豊作ではあるが、バラエティーに乏しいのが難点なのだよねぇ~~?」

「昨年はいろんな能力の幅が多い子らが揃ってたんやけどねぇ~~?」

「アナタ達は、娯楽の犠牲者に対する―――ッ!?」

「無い」「あるよ~~?」

「―――慈悲は………ってっ!? 台詞の途中で即答しないでくださいっ!? しかも二人とも違う答えですかっ!?」

 ぐったりと肩を落として息を整える美鐘。元々ツッコミ気質ではない為、この二人に煽られるのはとてつもない心労が(かさ)む。その点、八弥は逸早く察し、敢えて火種を受け入れる事で早々に脱落(脱出)したようだ。

「もう良いです。疲れるので話は膨らませない方向で………」

 諦めて告げる美鐘に、海弖は「え? なんだよこいつ~? 遊ばないのかよ~~?」っと言う非難の目で見詰めつつ、イマジン操作で立体スクリーンを空中に呼び出す。

「そう言えば今日はクラス内交流戦の三日目だったねぇ~? 上級生はともかく、一年生はCクラス以外はつまんなくなる日だね?」

 海弖の対象がいない質問に、ゆかりが―――美鐘の事を「なんやろこの我儘な子は~? もう少し老人の遊びに付きあってあげよう言う真心を持てへんかったんやろうかぁ~?」っと言う眼差しを向けながら―――答える。

「そやねぇ~~? そんでもCクラスでまともに動ける子はやっぱ限られとるみたいやねぇ~?」

「動ける生徒の様子は見ておくのも良いんじゃないですか?」

 「うるさいお前ら、こっち見るんじゃないっ!」っと言う視線を全力で返しながら告げる美鐘の言葉()()を聞き入れ、海弖はつまらなさそうにCクラスの戦いを観察する。

 

 

 三日目ともなると、どの生徒も疲労が現れ、消耗戦の体を見せる。戦闘特化のCクラスも例外とは言えない―――が、“特例”とは言えるかもしれない。Cクラスの場合、疲れが回っていようが関係無しにともかくぶつかり合うのだ。それはもう、身体を引きずってでも前進する勢いで。

 海弖の呼び出したモニターに、最初に映し出されたのは闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)VS鋼城(こうじょう)カナミの様子だった。

 例の如く、狂介の『I don't have but you have (俺に無くてお前にあるもの)』によって痛みを押しつけられたカナミが大苦戦している。

「はあ、はあ………、ポイント的にあと少し………っ! いつの間にか右足と左腕の骨を折られてるけど、次でポイントゲットだ………っ!」

「痛い、痛い痛いイタイイタイイタイ………ッッ!! この能力! ズルくて卑怯だと思います………っ! 折れてないのに骨が折れた痛みを受けるわ、更に無理して動こうとする痛みまでこっちに押し付けられて、精神的にどうにかなっちゃいそうですっ!!」

 自分の体を抱きしめ、全身の痛みに涙をボロボロこぼしながら、歯を食いしばったカナミは完全に自棄くそになって飛び出す。

「だから………っ! もうこれで倒れてくださ~~~いっ!!」

 脚部装甲に収められたセルカートリッジをロード、残りの力を全て使い強力な一撃を放つ。

 咄嗟にガードする狂介だが、既に片腕は折れている。防ぎ切れるはずもなく、大幅にポイントを奪われ撃沈してしまう。

「うご………っ!?」

 そして、その痛覚をもろに受けてしまったカナミも精神の限界に達し、気絶してしまった。結果はドロー判定。

 

 

「これは勿体無いねぇ~? ポイント的には勝っていたんだけど」

闘壊(トウカイ)君の能力は、実は『劣化再現』を自身の感覚に使えば、ある程度緩和出来てしまえるんやけど………、さすがにまだ『劣化再現』は誰も使えん見たいやねぇ~?」

「そう難しい技術ではないのですが、人はどうしても“強化”の方に思考が行きやすいですから。そもそも『劣化再現』の対象は“自身が支配している範囲”でしかできませんし、攻撃ダメージも減らせないのでは、戦闘に使用できるとは思えないんでしょう?」

 海弖、ゆかり、美鐘はそれぞれ意見を述べつつ別の画面を検索する。

 

 

 別の画面では(くすのき)(かえで)が圧倒的なポイント差を付けられ、今正に膝を付き、敗北が決したところであった。

「そ、そんなぁ………っ!? どう言う事ですか? 以前の二試合とはまるで別人の強さじゃないですか………っ!?」

 驚愕する彼女を余裕の表情で見降ろす新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)は、得意げに腰に手を当てて見せる。

「悪いな。今まではちょっと能力の相性で無様な姿を見せちまってたが、昨日の試合で弥生と戦ったおかげで、俺も実力が発揮できる様になったんだよ」

「こ、これがあなたの実力だと言うのですか………っ!?」

「詳しくは秘密だが、俺の能力は他者の身体能力のコピーみたいなもんでね? 一試合目は偶然にも身体能力による攻撃を一切しない奴だったんで不覚を取った。二試合目は運命に翻弄されてしまって負けたが、その運命が俺を変えてくれた」

「………弥生さんに頭を強打されたのですか?」

「胸を貫かれたんだ」

「リタイヤ、早急にお願いします」

「いや待てよっ!? 俺がどうして強くなったのかに関係してるんだから聞いてけよっ!? 弥生の身体強化の能力を俺の能力でだなぁ―――!?」

 

 ザシュッ! ←(自決)

 

「自ら命の危機に瀕する程に嫌がったっ!? チェーンソーなのにっ!? ムッチャ痛いはずなのにっ!? そこまでする程俺の話を聞きたくなかったのかよっ!? 本気で傷ついたぞ今のはっ!?」

 

 

「次だな」

「次やね」

「せめて外野くらいは考察してあげようとは思わないんですかっ!?」

 

 

 闘壊(トウカイ)響VS虎守(こもり)(つばさ)の戦闘は、こちらも丁度終わったところらしい。何やら戦場の荒れ具合から、とても高難度の属性能力における戦闘があった様子だが、勝利を収めたのは翼の様で、地面に突っ伏しながらも満面の笑みで拳を半端に振り上げはしゃいでいる。

 本多(ほんだ)正勝(まさかつ)VS伊吹(いぶき)金剛(こんごう)戦の様子は、二試合目では真価を発揮した正勝が、三試合目でまた情けないモードへと逆戻り。ダメージを受けない肉体を持つ正勝に対し、金剛は首を絞めて、酸欠に追いやる事でこれをクリアー。ポイントは入らなかったが、不滅の肉体を持つ相手を正攻法で初めて倒したと言う意味では、見事な勝利と言えるだろう。モニターに映る彼は、少々不服そうな表情ではあったが………。

 黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)VS前田(まえだ)慶太(けいた)の戦いは、教師三人が、最初に見ておくべきだったと後悔した。どうやらこの二人、何やら息が合ったらしく、三日目とは思えない超激戦の切り合いを演じて見せ、互いに一歩も引かぬまま、ついに体力の限界に達して前のめりに倒れてしまったのだと言う。後に録画を見た教師から、彼等は賞賛に値するファイターだったと評価を受けたくらいだ。

 

 

「どれも良い試合を見せているじゃないか。………Cクラスとしては落ちついた出だしなのが少々つまらんがね」

「何事もなければその方が良いでしょう。あまり荒事を望む様な事を言わないでくださいっ」

「リタイヤシステムを採用してからもCクラスの子はヤンチャばっかりしてはるからね~? ちょっと不安やったんやけど、今回は何事もない感じで安心―――」

 笑顔のゆかりが胸を撫で下ろすと同時、複数表示されるモニターの中に、赤い光が(とも)った。それを見た海弖は実に楽しそうな笑みを口の端に浮かべた。

「やっぱCクラスは毎度あるみたいだね?」

「なにを暢気な!? 生徒は誰ですかっ!?」

 美鐘が海弖のモニターを勝手に操り、赤くなった画面をピックアップする。そこには、土煙で視界が悪くなっていて、異例な事にフィールド内に教師が立っている姿が映っていた。

『ああ~~~~………、今監視()てるのって、学園長かい? ちょっとまずい事になってるよぅ~~?』

 画面から送られる通信を耳にして、美鐘はハッとして問いかける

香子(かのこ)? 一体どうなってるの?」

『あれ? ミカネ~? 学園長室にでもいんの?』

 聞き覚えのある声にこちらの画面(恐らくはカメラとなっているイマジンサーチャー)を覗き込む女性教師。青みのある黒髪ツインテールに長身で痩せ形をしたメガネかけた教師の姿が画面に映り、苦笑い気味に報告する。

『いやさぁ~~? あの桜庭(さくらば)っていう一年生マジでヤバイでしょう? アレたぶん、Cクラスじゃ頭一つ分跳び抜けちゃってるよ? なんせ、今さっきこっちが強制リタイヤかけたのに、その()()()()()()()()()()()()()()から』

「―――っ!?」

 思わず息を飲む美鐘。

 リタイヤシステムは、意外と脆弱なイマジネートではあるが、それでも一年生が概念操作を行ってもどうこうできるような代物ではない。そのシステム自体を切ってしまうと言う事は、本来ありえない事なのだ。

「ん~~………? たぶん、桜庭君は『切れ味ステータス』持ってたはずやから、それになんかプラスする様な能力が発動したんやろうね? 結果的にシステムに干渉する程度の切れ味を剣が得たんやろ? まあ、偶然もあったやろうけど、ホンマ今年の一年生は豊作ばっかやねぇ~~♪」

「なにを楽しそうにしてるんですかゆかり様っ!?」

『ああ~~~………っ、ミカネ~~? 実はまずい事って言うのはそこじゃないんだわ~~~?』

「え?」

 話に続きがあると知って美鐘はモニター越しに耳を傾ける。香子は、多少言いにくそうにしながら、“まずい事”を語る。

『リタイヤできなくなった対戦相手の甘楽(つづら)がね? なんかシリアスな顔になってやる気満々なんだよね? だから学園のルール上、私ら教師陣は、生徒が戦う意思を可能な限り尊重しなきゃいけないでしょう? “教師制限”のイマジネートが適応しちゃって、私も助けにいけないんだよね~~~………。これ、まずくない?』

「あらまぁ~~~? 甘楽さん、下手したら冗談無しに死んでまうなぁ~~♪」

「なんで楽しそうにしてるんですかっ!? 少しは慌ててくださいゆかり様っ!?」

「いかんっ!? 早く映像記録の準備だっ!!」

「学園長は慌てる方向が間違ってますっ!!」

 

 

 05

 

 

 時間は少し(さかのぼ)る。

 桜庭(さくらば)啓一(けいいち)甘楽(つづら)弥生(やよい)は互いに剣による競い合いをしていた。純粋な剣の技量は圧倒的に啓一にあったが、そんな物は弥生の『ベルセデク』が急速学習させ、あっと言う間に拮抗する腕前となった。だがそれでも、弥生が不利な状況は依然として変わらなかった。

(う~~ん………、まさか見えないってだけで此処まで厄介だったとわねぇ~~………? 二刀使えば何とか捌けるけど、間合いが計り難くてこっちから攻めるのが極端に難しいなぁ~~………)

 啓一の『見えざる刃』の能力『幻刀』は、刀を透明にして隠す程度の能力ではない。その存在自体を完全に隠蔽し、認識できなくさせる。本人は気付いていないが、これは『認識領域』と呼ばれる、高位領域に対する高等幻術に当たる。未熟さ(ゆえ)か、自分にまで幻術を掛けてしまうのが少々傷ではあるが、それは啓一の技量で完全にカバーされている。

 高等幻術に守られている剣は、『見鬼』を使っても視認する事は出来ない。弥生がなんとか捌けているのは、此処が何の変哲もない荒野である事と『ベルセルク』で強化された野生の感覚が驚異となる物を『直感』で捉えさせ、対応させているからだ。

 次第にポイント差は啓一に傾いて行き、32対44っと言う具合になりつつある。

(仕掛けるなら今しかないかな………? できれば心情的には『ベルセルク』だけで行きたいんだけどなぁ~~………)

 弥生の持つ派生能力は、手数を増やす為でも、強力な武器を手に入れるたんでも無い。彼女が選んだ『ベルセルク』の能力だけ(、、)で戦っていくための命綱の様な物なのだ。そのために選んだ派生能力は、弥生にとっては“反則”にしか思えないのである。

(使用制限、あくまで“知識の蒐集(しゅうしゅう)”に留めよう。あくまで戦闘は『ベルセルク』で行くっ!!)

 それでも、弥生は使用する事を選んだ。『ベルセルク』の補助程度に留め、しかし、使える戦術は全て使いたいと言う欲求を―――それをさせる程の好敵手を前に、抑える事など出来なかった。

「全ての邪悪なる者よ、我を恐れよ………。力ある者も不義なる者も、我を討つに(あた)わず………」

「?」

 弥生の口から、鉄のぶつかり合う音に紛れ、言葉が紡がれていく。それは彼女が自分に課した鍵だ。この言葉()、『聖句(せいく)』を唱えなければ、その力が使えない様にし、うっかり使ってしまわない様にしているのだ。

「―――我は最強にして、あらゆる障碍(しょうがい)を討ち滅ぼす者なり………っ!」

 最後の一節を唱えた弥生の脳裏に、劇的な変化が訪れる。それは、ありとあらゆる情報の本流だ。刃を重ね、闘志をぶつけ合い、力と技を競い合う眼前の敵に対するありとあらゆる情報が急激に養われていく。

「解った………」

 理解と共に呟きを漏らした弥生は、啓一が剣を突いてくるタイミングに合わせ、何の躊躇も無く腕で受け止めた。

「!?」

 その、あまりに意味不明な行動に対し、一瞬戦慄する啓一だったが、瞬時に理解しその場を飛び退いた。

「コイツ………」

 充分な距離へと逃れた啓一は、腕を庇いもしていない弥生を見て獰猛な笑みを漏らす。彼女の腕は刃が刺さったにしては、大した出血をしていない。怪我をしているにも拘らず、腕の力も抜けているようには見えない。それもそのはず、啓一は彼女の腕を貫いた瞬間、二つの事実に気付いていた。

(………(おれ)の剣の技量を見抜く事で、見えざる剣でも突きは腕の延長線上の先に必ずあると悟り、腕で受け止める事で刃の長さを計ったな)

 おまけに啓一の得物が刀である事も見抜かれた。御丁寧に透明になっている彼の剣には弥生の血がべったりと付き、視認する事も出来てしまっている。いくら『幻刀』でも、刃ではない“血”までを対象として隠す事は出来ないのだ。彼の能力が幻術に特化していない事もそうだが、彼の刻印名は『斬裂(キリサキ)』。斬る事に特化した刻印だ。『幻刀』も、幻術系ではあるが、あくまで隠す事だけが目的であり、効果は自分が持つ刀のみに限定されるからこそ、使用可能な能力なのだ。

(おまけに刃を受け止める時、骨と筋肉の隙間に刃が通るように途中で微調整された。アレでは腕に穴が開いただけでダメージと言えるダメージも無かろう。動脈まで避けられたのか、血も大して出ていないとは驚きだ)

 これで弥生は啓一の剣の長さを正しく理解する事が出来、同時に自分が受けるダメージ個所を、自分の意思である程度制御できるのだと解った。これが啓一が気付いた二つの事実だ。

「だが、『幻刀』が己の全てではないっ!」

 刀の血を払い、踏み込む啓一。度重なる連撃を放ち、それを避ける弥生を追い詰めていく。

「元より、己の剣技を持って戦うが己の主流っ! 能力が破られた所で、元の立ち位置に戻っただけの事っ!」

 ガギンッ!! 

「ぬ………っ!?」

 渾身に近い一撃が弥生の剣によって軽々と止められる。止められる事自体はおかしい事ではない。だが、僅かに違和感の様な物を感じ取ってならない啓一は、至近から弥生を睨みつけ、その真意を探ろうとする。しかし、弥生は真剣な表情でこそある物の、違和感の正体を表情には決して出さない。

(なればこそっ! 力付くで引きずり出す事こそが必定ッ!)

 斬り返し、再び連撃を放つ。

 軽々と躱す弥生の視線が常に自分の目を見ている。

(目を見る事で相手の行動を予測しているのか? ならば、それを利用し誘い出すまで!)

 一瞬、振りを大きくし、攻撃を外して間を開ける啓一。その一瞬の間にすかさず入りこんで来る弥生に対し、瞬時に斬り返して上段から剣を振り降ろす。

 弥生もこのフェイントは読んでいた。左の剣を切り上げ、しっかりと啓一の剣を受け止め、右の剣で攻撃を仕掛ける。

「もらったっ!!」

 啓一は左手を腰に回し、そこに『幻刀』で隠していた二本目の刀を抜き放ち―――、

 

 ガギィンッッ!!

 

 ―――その剣の鍔を抑え込むように、弥生の右の剣が打ち付けられ、止まった。啓一が二本目の刀を抜く事を読まれていたのだ。

 ありえない状況に驚愕する啓一。『直感』の速さでは決して対応できぬはずのタイミングで、見事に二の手を封じられた。その精神的ショックは意外なほど大きい。

 だが、それ以上に大きな衝撃が、彼女の口からこぼれ始める。

「二刀流が完成したのは宮本武蔵の二天一流が最初だ。それより過去の時代、二刀流はただの御遊びでしか成立せず、また先の未来でも、その難度故に使い手は少ない。その技を流派として取り入れられたのは、武蔵より後期となる。アナタの剣には修正されつつあるクセの様な物が見られる。恐らく自分の流派で覚えたコツの様な物が癖になるほど染み付いているから。武蔵より後期であり、その“コツ(クセ)”を持つ剣の流派は、およそ三つ。その中で、アナタが“修正”する理由が当てはまる物は『桜庭流』以外に存在しない」

(流派を………っ!? 見抜かれた………っ!?)

 この衝撃は先程の物とは比較になる物ではなかった。確かに、弥生の言う通り、啓一と直接剣を交え、彼が動く事で漏らす“情報”を元に辿れば、桜庭流に辿り着く事は出来る。だがそれは、()()()()()()()()()()()の話だ。

 『桜庭流』はメジャーな流派ではない。確かに、その剣技の美しさから日本演武の一つとして認められてはいるが、それでもマイナーな流派だ。テレビなどで取り上げられた事もなく、一般の知識では知る事も出来ない。

 それをどうして弥生が知っているのか? それも啓一の動きから推測してしまえる程に熟知しているのか?

(言うまでも無い………っ! これが弥生の隠し持つ派生能力の力だ!)

 イマジンはイメージによってその力を固定化、再現する。っで、ある以上、弥生の『ベルセルク』は、神話で読み解かれる以上のイメージを得ることはできない。故に『持ち得ていない筈の情報を習得する』などと言う芸当はできないと判断できる。ならば、それを可能にしているのは間違いなく『派生能力』の方なのだろう。

「一体、如何なる能力かは解らんが………っ! 情報を得るだけの力なら、己の剣技で押し切れるっ!!」

 啓一は刃を弾き、一足飛びに下がりつつ叫ぶ。確かに流派は見抜かれたが、未だ『桜庭流』の技は一つも使用していない。ならば、まだ勝機はある。そう考えた上での叫びだったのだが―――、

「流派を見抜いたのは、その剣技に対応するためじゃない。アナタの行動を知るためだよ」

 眼前に、甘楽弥生が既に迫って来ていた。

 慌てて剣を振り抜き牽制するが、弥生はその隙間を巧みに縫ってなお迫ってくる。仕方なく啓一は地面を蹴り続け後ろへ後ろへと下がっていく。

 なのに逃げ切れない。

 何処まで逃げても動きを先読みされるように距離を詰められる。

 ならばと退がるのを止め、強引にカウンターで押し返そうとすると、スルリ………ッ、と当たり前の様に脇をすり抜けられ、簡単に背後をたられてしまう。完全に全ての動きが読まれ切っている。

「ぐおおおおぉぉぉぉぉ~~~~~~っっっ!!」

 それでも対応し、振り返り様に剣を振り抜くが、完全に見切った上で弥生の反撃が放たれる。

 弥生34。啓一45。

 弥生の獲得ポイントが加算されるのを視界の端で捉えながら、啓一は歯を食いしばる。ダメージが少なかった事を利用し、なおも前に出て連撃を放つ。今度は『見えざる剣』の二刀攻撃。速度も申し分ない上に手数も倍だ。そう簡単に攻略される筈がない。

 だが、弥生はそれを全て躱し、最小の力で受け流す。最後に放った振り降ろしも、軽くはを当てて受け流しつつ外側から体を密着させられてしまう。ありえない程の圧倒的な差を見せつけられた。

「『桜庭流』とは違って美しさが無いね? 君が矯正しようとしているのは、見た目の美しさよりも実戦的な剣術なのかな? ………でも、君の考えは失敗かもしれないよ? 確かに剣は実戦的で実用的だと思う。動きの無駄も殆ど無い正確な攻撃だ。でも、だからこそ先が読み易い」

「っ!?」

 実戦的な剣術と言うのは、言ってしまえば『型』を外し、出来る限り『無形』で挑むと言う物だ。だが、ただ刃を振り回せば人が斬れるわけではない。そのために、最低限の『型』は残ってしまう。それは必然的に、“効率の良い動き”っと言う“一つの型”を作るのと同義なのだ。無論、実際はそんな単純な話ではないが、ここは理想を具現化し、再現する力を得れるギガフロート。戦闘における理想のイメージがあるのなら、イメージに近づけようとイマジンの成長補助が加わる。結果的に啓一は『効率の良い型』を無意識に作り出してしまい、それを正確に再現してしまった。ならば、その情報を瞬時に読み取れるらしい能力を発動している弥生には、テレホンパンチよろしく、次の攻撃を教えながら攻撃しているのと同じように映るのだろう。

「“失敗”………っ、だと………っ!?」

 だが、啓一の胸中を揺らしたのは、そのような瑣末な問題ではなかった。ただそれだけと言うなら、むしろ好敵手に出会えた喜びに打ち震え、むしろ喜び勇んで渦中に身を投じていた事だろう。

 だが、それだけではなかったのだ。弥生はあまり深い意味で言ったつもりはなかっただろう『失敗』の一言。恐らくは、戦術的、刹那的判断のミスと言う意味で言ったのであろう言葉。だが、啓一には、己が目指すと決めた道その物を“失敗”と言われた様なそんな気がしていた。

「剣は凶器だ………! 着飾った美しさなど必要無い………! 物斬りとして覚悟を決めた時から選んだこの道を、………そんな簡単な言葉でかたずけられてなるものか~~~~~~~~~~っっ!!」

 再び放たれる怒涛の如き連撃。しかし、弥生にはまったく届かない。先が読めている上に、それに対応する速度も啓一を超えつつある。もはや今のままでは彼女を捉えるのは叶いそうになかった。

「ならば………ッ!!」

 啓一は『見えざる剣』のもう一つの能力『神速』を発動する。

 『神速』は一回の使用で一秒間の間だけ超越した速度を出せる様になる。一日に使用できる回数は十回が限界だが、鋼城カナミと虎守翼の二人にも、対応させる事をまったく許さずに仕留めた極上の能力だ。例え次の動きが見えていても躱される事はなく、そもそも動きを目で追う事すら叶わぬ正に“神速”の斬激。彼は惜しみなく、その権利を五回分使用し、神速五秒間による一人物量攻撃を仕掛けた。その手数、無量大数に迫る数となった。

 

 フォバアァァァァァーーーー………ッッッ!!!

 

 空気が斬り裂かれる鋭い音が一度に重なり、ソニックブームによる衝撃波を放ちながら、周辺一帯をズタズタに斬り裂いて行く。黄金の塊であろうとも物量で粉々に粉砕戦とする剣の勢いに対し、弥生は―――ライトグリーンに発光する右の剣と、アクアブルーに発光する左の剣。左右の剣を合わせ持ち、次々と迫る斬激の嵐を斬り結び、弾き返して対応していく。一秒間だけでも万はくだらないであろう斬激の雨を、彼女はしっかりと受け止め、一つのクリーンヒットも許さない。

 危機感に煽られ、咄嗟に残り五秒の権限も使用するが、僅かに彼女の体を数カ所浅く切っただけで止まり、敢え無く時間切れに至ってしまった。

 弥生34。啓一48。

 表示されるポイントだけ見れば優勢なのは啓一だった。だが、彼の胸中にあったのはたった一言、「見誤った………っ!!」と言う後悔の念だけだ。

 『神速』を使用したのは間違いではなかった。だが、狙うのが早すぎた。使うべきは後もう二ポイント先取してから使うべきだったのだ。十秒間の神速を耐え凌いだ弥生でも、その全てを受け切る事は出来ていなかった。つまり、もう二ポイント分のダメージを与えてから使っていれば啓一の策略勝ちになっていたのだ。

 無論、そんな結末は啓一の望むところではなかったが、今回に限っては“後悔”せざろ終えない。啓一の『直感』が告げているのだ。「お前は勝利を逸した」と………。

「ベルセルク第二章………」

 呟きを聞き、慌てて飛び退く啓一だが、大技を全て躱された今、彼の動きはどこかぎこちない。その隙に見事入り込んだ弥生は振り上げた右の剣の柄頭で、啓一の左腕を打ち付け、左の剣を逆手に持ち変え、先とは逆に下から上に柄頭で左腕を突く。腕の神経を打撃により麻痺させられた啓一は、刀を零さないようにするので精一杯になる。次に来る攻撃を避けようと、全力で後ろに下がろうとするが、それより速く、弥生は剣を持ち変え直し、一気に懐に入り込んで両の剣を交差させる。

 迸る鮮血が、啓一の胸を左右袈裟懸けに奔る。

「………『打倒』」

 弥生の呟きが告げると同時に、啓一は地面に倒れ伏した。

 弥生42。啓一48。

 ポイントにはまだ差があれど、この一撃を持って啓一は思い知らされる事となった。今の弥生は、桜庭啓一では決して止める事が叶わないのだと………。

(俺が………、負けるのか………?)

 この時啓一は、自分でも驚くほどの衝撃を受けていた。それも仕方ない。本人気付いてはいないが、彼は先程の『神速』に己の信念を全て掛けていたのだ。それを正面から打ち破られたとあっては、それは己の信念が敗北したのと相違無い。例え本人がそこまでの覚悟を意識していなかったとしても、彼の心はその事実を無視できない。

(俺は………、俺は何のために家を出たんだ………? 証明するためじゃなかったのか………?)

 (かつ)て、桜庭流は名こそ通らなかった物の、現代まで生き残った立派な剣術であった。その剣術は敵を打ち破り、幾千万と屍の山を築く殺人剣。その技の切れから、まるで花が散るかの如く美しく、決して敵を寄せ付けぬと言われたほどだ。

 しかし、現代に於いて、桜庭の剣はその美しさに重きを於かれるようになっていった。殺人を求められなった現代では、剣術も演舞へと姿を変えてしまったのだ。

 桜庭啓一は、そんな流派の姿を背景に、先祖代々受け継がれていると言われた本物真剣を見ていた。その真剣を見ていると、まるで剣が語りかけてくるような気がして、不思議と愛着が生まれた。剣はずっと語っている様に思えた。それは言葉として捉える事は出来なかったが、不思議と意思の様な物を感じ取れた。

 イマジンの存在しない下界では、そんな事はありえない筈だ。例え本当に語りかけられていたとしても、啓一にはそれを正しくくみ取れるだけの物はなかった。それでも思っただ。この先祖から受け継がれてきた刀は、嘗ての剣術が失われ、演舞へとなり果てた流派を前に、一体どのような心境なのだろうか? それはきっと、考えるだに哀しい物の様に思えた。

 それからずっとだ。ずっと、剣が嘆いている様な気配が感じられるようになったのは。

 人を斬りたいわけではない。殺人剣が今に必要だと思うわけでもない。

 それでも、それでも流派は変えるべきではなかった。変わるべきではなかったのではないか? 古流の剣術として、桜庭流はずっとその意思を貫く事こそが必要だったのではないか? その意味と意義があったのではないか?

 桜庭啓一は想う―――

 

 ―――剣は凶器。

 人を殺す為に、最も洗練された刃。

 決して美術品などではない。

 

 ―――剣術は殺人術。

 敵を屠るために編み出された術。

 決して煌びやかな舞ではない。

 

 剣術をどう使うかは人の意思。殺さずを貫くのも選択の内。

 だが、根本的な部分で、自分達はそれを忘れてはいけない筈だ。剣術を流派として受け継ぐ自分達は………。

 

(だから俺は、桜庭流の美しさを全て廃した、新しい―――(いや)、本来の『桜庭流』を極めて見せる………っ! 俺の選択は正しかったと言う事を証明するために………っ! 俺は負けるわけにはいかない………っ!!)

 

 そう、決して負けらない………。

 この地で何度敗北しようとも―――。

 決して負けてはいない―――。

 

 “桜庭流”だけは―――、決して負けられない―――。

 

 

 06

 

 

 空気の破裂する凄まじい音と共に、その変化は現れた。

 桜庭啓一の前進が、突如茜色に染まったイマジンのオーラを放ち始めた。

 その凄まじきオーラが巻き起こす激しい風から顔を腕で庇いながら、甘楽弥生は圧倒されていた。

 全身からオーラを放って見せる相手と戦ったのはこれが二度目だ。ただし、一度目は戦う前に試合終了となり、戦う事が出来なかった。

 故に、彼女は今初めて戦う事となる。イマジネーターとして一段階上に上がった者との戦いを。そして―――、

 

 ズバンッ!!

 

「―――っ!!」

 

 一瞬で身体中に奔った鮮血の軌跡。宙に飛び散る血の雫を目に映しながら、甘楽弥生は戦慄を覚えた。

 彼女の眼前に、今年初めて現れた()敵の姿。荒れ狂う茜色のイマジンオーラを纏い、理性を失った眼を向ける桜庭啓一であった者。彼女は自覚する。一年生初となる『暴走能力者』との戦いが始まった事を。

 

 

 派生能力『斬り裂き魔(ジャック・ザ・リッパー)』。それが桜庭啓一が発動した暴走能力だ。狂化(バーサーク)されて、身体能力、各攻撃力が1.5倍、斬れ味が2倍になる。と言う暴走能力に相応しい強力な力だ。その力の程は、既にベルセルクでかなり強化された状態にある弥生が―――、

 

 ズバババババンッ!!

 

「うあ………―――っ!!」

 弥生42。啓一126。

 何もできずに一瞬で、一方的に攻撃を受ける程の物だ。逆転しつつあった点差はあっと言う間にオーバーキルで打ち取られ、敢え無く膝を付く。

 負けを自覚し、多少なり悔しそうな表情の弥生だったが―――次の瞬間、眼前に迫る刃を『直感』で捉え、訳も解らぬまま体を捻ってギリギリ躱す。

 後になって冷や汗が流れ始める弥生は、一つの危惧を思い出し、恐る恐る啓一の姿を確認した。

 啓一が、両の手に刀を握ったまま、未だに戦闘態勢にいる。その眼に理性は無く、その姿には敵意しか纏っていない。

「………。前に、僕も同じ事があったけどさ………、僕もこんな風に見えてたのかなぁ?」

 自嘲の様に呟き、弥生は剣を握る手に力を込め直した。

「ねえ? 聞こえてる? もう勝負は付いたよ? 君は勝ったんだよ? もう剣を収めて良いんだよ?」

「………斬る」

 地を蹴り、眼にも止まらぬ速さで幾多の剣撃を放つ啓一。弥生は咄嗟に飛び退きながら急いで『聖句』を口にする。

「“第二章………我は、戦場に於ける強敵を打倒せんがために、巧みなる技を身に付けん………っ!!”」

 ベルセルクの聖句を唱える事で、その恩恵を強く引き出した弥生は、強敵に対する能力向上速度を躍進(やくしん)させる。目にも止まらぬ速さで繰り出される剣激を、『直感』を頼りに剣で弾き、パリィする。刃がライトグリーンに輝き、絶え間なく放たれる連撃の嵐に何とか対応させる。

(何とか攻撃を凌いで、隙を見つけなきゃ―――っ!)

 ゾガンッ!! 思考の途中に聞こえた音は、字にするとそんな風にしか表しようがなかった。突然の衝撃にたたらを踏んで退がる弥生は、何が起きたのかすぐには理解できなかった。目の前にいたはずの啓一が消え、いつの間にか自分の後ろにいる。首だけで振り返り、その事を確認して、ついで違和感を覚え、視線を下に―――左の脇腹が、まるで獣にでも噛み千切られた様にごっそり失っていた。

「あ………っ! くあぁ………っ!」

 痛み、とは………理解できなかった。とんでもない喪失感を脇腹に感じながら、全身が痺れたようになって力が抜けていく。噴き出しかけた血を、イマジネーターの生存本能が『復元再現』によって疑似的な血管の管を作り、出血を何とか抑えようとする。だが、噴き出す。溢れて溢れて、理性的な判断を全て呑み込まれて、その場に蹲ってしまう。いつの間にか取りこぼした剣が、地面と接触した音も、彼女の耳には届いていなかった。強過ぎる激痛はイマジンでシャットアウトしている。それでも大きすぎる負傷が、彼女の精神を大きく掻き乱していた。

 やがて体に光の粒子が集まり始める。リタイヤシステムが発動したのだと頭で理解しながら、弥生はなんとは無しに視線を上げ―――啓一が刀を振り被っている姿を目にする。

 

『――― 警・告・ッ!! 回・避・せ・よ・ッ!! ―――』

 

 脳裏に奔った全力の思考が、生存奉納の叫びが、弥生の理性を置き去りにして行動させた。

 落ちた剣を拾い、二刀で受け止める。刀身をライトグリーンに輝かせ、全力で押し返そうとし―――二本の剣ごと、右側頭部を斬られた。

 啓一の剣は地面に激突し、強烈な衝撃波を生み出す。その衝撃で後方に飛ばされた弥生は、地面を何度も転がり、身体を強く打ち付けた。何とか勢いが失われて身体が止まった時、弥生は薄れかけた意識を取り戻しながら、一つの事実を目の当たりにした。

 身体を覆っていたリタイヤシステムの粒子が斬られ、その輝きを失っていたのだ。

(斬られた………っ? イマジネート(術式)を直接………っ!?)

 そんな事が可能なのか、それすら解らない弥生だったが、事実が目の前にあるのだから納得するしかない。おまけにそれを証明するかのように、啓一は自分に働きかけたリタイヤシステムの粒子を、自らの剣で斬り裂き消滅させてしまったのだ。

(暴走状態にあって、自分を邪魔する可能性のあるもの全てを斬り伏せる………。それが彼の求めた狂化(バーサーク)………)

 弥生は思い出す。視界の半分が赤く染まる啓一の姿を見て。

 嘗て、自分も『ベルセデク』の能力を『暴走』させた事があった。それは弥生が設定した物ではなかったが、伝承にある『ベルセデク』としては至極当然とある能力だった。故に彼女は尋常ならざる力を手に入れ、悪鬼羅刹の如く戦い、強敵を追い詰めた。

 だが、彼女は敗北し、そしてその記憶の一切を憶えていなかった。残ったのは、暴走による“後遺症”だけだった。

 赤く染まる視界の中で、啓一の姿は、まるで嘗て過ちを犯した自分の姿の様に映った。

「おい生きてるか甘楽?」

 声に気付いて眼だけで視線を向けると、すぐ傍に、靴が見えた。全身を見る事が出来ないがどうやら教師が直接乗り込んで来たらしい。

「お前じっとしてろよ? もう試合は終了してんだ。あのバカは私が止めてやるから、お前はイマジンで出来るだけ治療してろ? 『応急再現』はできるか? まだ習ってないだろうが意地でやれ。そして待て。今生徒会に連絡したから、時期に上級生の医療班が来る。それでお前は助かる」

 教師の顔が確認できず、名前も思い出す事が出来ないまま、それでも弥生は言葉の意味だけをしっかり理解した。理解出来たことで、どうやら自分の着られた右側頭部は、重傷だが脳損傷にまでは至っていないらしいと理解する。

 

 ―――なら、まだ“死力”を尽くせば動ける。

 

 弥生は手に力を込め、震える四肢で何とか立ち上がろうとする。

「先生………、僕が寝てたら、啓一はどうなる………?」

「あぁん? 聞いてなかったのか? 私がなんとかするっつってんだよ? 安心しろ。教師に掛ればお前らひよっこ以下の生卵なんざ―――」

「ああ、やっぱりそうなんだ………。じゃあ、やっぱがんばんないと………」

 何とか二本の肢で立ち上がり、生徒手帳から取り出した剣を杖代わりにする弥生。教師は教師で、そんな弥生に唖然とした表情を向けていた。

「はあ? なんだよお前? なんでまだ頑張っちゃってんの? 死にそうな怪我してんだから大人しくしてろよっ!?」

「ああ………、ごめんなさい先生………。それが一番良いのは解ってるんですけどね………? “先輩”としては、出来たばかりの“後輩”くんに指導しないといけないって言うか………?」

「だからお前、何言って―――」

 言葉の途中で口を閉ざした教師は、しばし思案顔になってから再度訪ねる。

「“先輩”ってのはあれか? “アレ”の先輩か?」

 教師が暴走状態の啓一を指差し尋ねる。弥生の眼には教師の姿は見えていなかったが、尋ねられている事は解ったの「はい」っと、はっきり答えた。

「ああ………、そう言う事かよ………。そう言う事ね………。ってか、マジでやる気か?」

「はい」

「………ああクソッ! 生徒にそう言われたらあたしら教師は何もできなくなっちまうんだぞっ!? もし何かあったらどうする気だっ!?」

「自己責任の出世払いで」

「死んだら出世もねえだろっ!」

「じゃあ、絶対生還だ………」

 弥生は疲労困憊の表情で必死に笑みを作って軽い風に告げる。そして一歩前に踏み出し臨戦態勢を取る。

 弥生は知っている。暴走して強くなる事のあまりの虚しさを………。

 彼女は知っている。嘗て、イマジン塾で相原(あいはら)勇輝(ゆうき)と初めて戦った時、その圧倒的な強さの前に、彼女は思わず『ベルセルク』の狂化に至ってしまった。そして大怪我をして、“後遺症”を残して、おまけに敗北した。だと言うのに、糧にすべき敗北の記憶も残らず、ただ負けた事実と“後遺症”と言うマイナスしか残らなかった。仮に勝ったとしても、勝った記憶を持たず、その実感すら得られないのなら、それに一体どれほどの価値があると言うのだろうか?

 だが、その心理に気付けたのは、弥生が暴走した上で敗北したからこそだ。もし暴走した上で勝ってしまっていたら、弥生は心の何処かでこう思ってしまっていたかもしれない。

『暴走すれば、勝てる』

 そんな考えを残していれば、いつか自分はまた暴走能力を使ってしまっていた事だろう。何も考えず、ただ勝利のためだけに、全てを投げ出していたかもしれない。

(でも、僕は負けた。だから、この力に頼ることの愚かさをちゃんと痛感できた………。啓一がこれからこの能力とどう向き合っていくのかは解らないけど、でも、もしここで僕が負けてしまったら、彼はこの恐ろしさ本当の意味で理解できないままになってしまう)

 そしてその役目は、教師であってはいけない。明らかに実力差のある相手に負けたところで、敗北感など生まれようはずがない。『負けて当たり前』の結果に、人は何も感じない。

 だからこそ、ここは同級生であり、そして試合場の対戦相手であり、ルール上では既に一度勝っている弥生でなければならない。弥生が今ここで、実戦で彼を打倒する事が出来れば、それは彼に敗北を与えた事になる。彼自身もその事実を心の奥に楔の如く刻む事だろう。

「だから………、今、僕が頑張らないと………っ!」

 強い投資を込めて、弥生は二本目の剣を取り出し、握る。

 身体は完全満身創痍。とてもではないが戦える状態ではない。このままでは勝つ事は愚か、戦う事も出来ないだろう。

(出来ればこうなる前に戦いたかったけど、今更言っても仕方ない………、よね………)

 弥生は心中覚悟を決めると、自分の内側でゆっくりと(かんぬき)を外していく。

(いい弥生………っ!? 絶対に見誤っちゃダメだよ………っ!)

 最後に自分で自分に忠告し、彼女は嘗て『返上』した神格を取り戻すため、その『禁句』口にする。

 

「“悪魔の心に獣の御姿を持ち、人の意思を持って我は祖国の敵を打ち破らん”」

 

 弥生の心のイメージに存在する扉が、その閂を落とした。扉が開き、その奥で蠢く物に手を伸ばす。掴んだ鎖を引き寄せ、嘗て返上した神格を引っ張り出す。

 

 ―――引っ張り出された獣は、あっさり弥生の事を呑み込んだ。

 

「が―――っ!? ぐがぁ………っ! ガァ、ア・ア・ア………ッ!!」

 弥生の全身が総毛立ち、早まる脈拍が異常な血流を作り出す。弥生に流れる血が、別の物へと入れ替わるように駆け巡り、肉を、骨を、別の何かが浸食して行く。

 強く食いしばった歯が鋭くなり、牙を作る。黒かった瞳は金色を帯びて獣のそれへと変貌を始める。髪留めがブツリと音を立てて切れた瞬間、解放されて広がった髪が鈍い鋼色へと変色。そして天に向かって、彼女は()()した。

「ガアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!」

 未だ対戦フィールドを維持していた空間が振動し、世界の全てが恐怖を感じ取ったかのように震えていた。

 咆哮が下火となり、ゆっくりと収まる。一度天を仰いだまま大きく息を吸った弥生は、下に俯いてからゆっくり吐き出す。

 顔を上げた時、そこには人の意思をしっかりと宿した、甘楽弥生の表情があった。

「暴走まで三分も持ちそうにないし、使う事自体ヤバいんだけど………。でも、この状態なら動ける。一気に―――行くっ!!」

 何事か言おうと教師が手を伸ばすより早く、啓一が対応するよりも速く、全ての時間が彼女に追いつくよりも(はや)く―――、獣となった弥生が、ルビーレッドに輝く二刀の剣を次々と叩き込んで行く。吹き飛ばされる啓一を追って、彼女は自分で作り出した勢いすら追い抜いて、息も付かせぬ連続攻撃を四方八方から叩き込んで行く。

「ベルセデク第一章………っ!! 『一気呵成』………ッッ!!」

 言霊を追加し、更に能力を上乗せ強化。地面を粉砕し、大気を押し退け、啓一の身体を次々と刻んで行く。

「ダ・ガ・ガ・ガ………ガアアアァァァァーーーーーーッッッ!!!!」

 しかし、啓一もそれに屈しない。一瞬で四方に刃の結界を作り、弥生の攻撃を全て押しのけてしまう。その上地面に脚が付いた瞬間、弥生に負けず劣らずの超加速を始め、フィールド全体を駆け巡りながら斬り合いを演じる。その実力差は完全に拮抗。互角だった。

(互角じゃダメ………ッ! もう視界が正常じゃなくなってきた………ッ! これ以上は長引かせれない………ッッ!!)

 弥生の心のイメージが、巨大な獣に弥生と言う心が(むさぼ)られていく姿を見せる。冗談ではなく、弥生がイメージする通りに、胸の奥に仕舞った、とても大切な部分が刻一刻と喰い荒らされていく様な焦燥を感じていた。

 ほんの僅かな制限時間の中で、弥生はそれでも勝利に向けて、己が全てを解放してぶつかる。

 弥生の前進を鋼色のオーラが包み、一瞬だけ啓一を超えるそ管を作り出す。

 弥生の腰の辺りに、白くてふさふさした獣の尻尾が生える。

「………ッギガアァァァッッ!!」

 側面に躍り出た弥生が剣を振り降ろす。しかし、啓一がそれを読んでいたと言わんばかりに刀を切り替えされる。

 啓一の剣は、彼の持つ『切れ味ステータス』によって異常な鋭さを有している。それが『斬り裂き魔』によって更に強化され、ありえないレベルの切れ味となっていた。弥生の左腕を、持っていた剣ごと両断してしまう程に。

「………っう!?」

 薬指と中指の間から肩まで綺麗に両断され、左腕の断面を晒す事になった弥生。それでももう時間が無い。痛みをイマジンと脳内麻薬で無理矢理(ぎょ)し、今度は背後に回り―――込む途中で左足を両断され、地面を転がされた。

 片足となった弥生は速力を大きく失う事となった。そこへ追撃してきた啓一の剣が、彼女の右手にあった剣を粉微塵に斬り崩し、右側頭部を切り裂いた。

「うあぁ………ッッ!!」

 さすがに今度は頭蓋骨を切り裂かれ、その奥まで斬られたと解った。致命的なダメージを受け、それでも弥生は残った右脚を使って全力で跳ぶ。前へ前へ、残った右脚を自損する程の力で踏み抜き、右足の足首を犠牲に、ついに啓一の懐へと飛び込む。

 敗北を想像する暇など無い。

 策を弄する程のゆとりも無い。

 自身の損傷を顧みる余裕など無い。

 ただ前へ、眼前のクラスメイトを救わんがために、彼女は全てを振り絞る。

 だから弥生は、自分より早くカウンターで放たれた刃が右胸を丸ごと吹き飛ばし、風穴を開けられようと、その刹那の僅かな時間を持って右の掌打を叩き込む。

 獣の爪の様に開かれた五指(ごし)が、イマジンによって無理矢理引き出されたバカ速度で叩き込まれる。その右腕に全てイマジンと力を込めて、無理矢理の代償に自損して行く事も顧みず、五指の爪は、啓一の胸を穿ち、心の臓を抉り取った。

 二人の背中から血飛沫が火山の噴火の様に噴き出したのはほぼ同時。一瞬の静寂を経て―――、

「ばふぁあぁっっ!!」

「………えぼぉあっ!」

 ―――二人は口から少量の血を吐いて倒れ伏した。

 

 

 

 




あとがき

畔哉「そう言えば、弥生が時々言ってる『ベルセルク第三章』っとかってアレはなんなん?」

弥生「ああ、アレ? 能力に関係する事なんだけどね? 僕の能力『ベルセルク』は戦場に於けるベルセルクの役割を一章毎に区分してるんだよ」

畔哉「じゃあ、あの『破城鉄槌』とか言うのも?」

弥生「そうだよ。『ベルセルク』の役割は全部で五つ―――、
第一章:戦場の兵を一掃する一騎当千。
第二章:強敵たる将の打倒。
第三章:堅牢なる城塞の突破。
第四章:王の不屈を打ち破る。
第五章:戦場の終わりと共に眠り、再来する戦場にて救国の蛮兵(ばんぺえ)たれ。
この五つの役割にそって、僕は『ベルセルク』の力を再現してるんだ」

畔哉「そんな事してたんだなぁ~~」

弥生「本当は必要が無いんだけどね? 『ベルセルク』の能力は本来これ全部を持つ物だから。この区別は、僕自身の未熟さを補うため、再現率の効率化を計った結果かな? 戦場に合わせて力を引っ張り出さないといけないから大変なんだけど、『獣の神格』を返上してるから、こうしないと大変なんだよね」

畔哉「能力一つにとっても、多様なイメージを重ねる事で強力に出来るんだなっ!」

弥生「前にカグヤが言ってたよ………。『“チュウニビョウ”がいたら此処で最強張れるぞ』って………。実は意味が解らないんだけど、想像力豊かな人達なのかなぁ?」

畔哉「“チュウニビョウ”………っ! なんかすごい奴なのかもなッ! 要注意だっ!」

弥生「うんっ!」

正勝「………」

正勝(俺、会ったかもしんない………)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。