ハイスクール・イマジネーション   作:秋宮 のん

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寝る時間ギリギリ手前で完成した。
書き上げるまで時間がかかり過ぎてたので我慢できずに出してしまいました。

おかげで添削とあとがきが用意できてません………。
できれば内容だけでも皆様の納得のいく物に仕上がっていればと願う次第です。

それではどうぞご覧ください!

【添削終えました】


一学期 第六試験 【クラス内交流戦】Ⅴ

一学期 第六試験 【クラス内交流戦】Ⅴ

 

Cクラス編

 

 

 0

 

 

「はあ………、はあ………、はあ………」

 何もない荒野で、セーラー服の少女は肩で息を荒げ、ボロボロの身体を何とか持ち上げていた。両手に持つ剣は、彼女の姿同様にボロボロに刃毀れしていて、今にもバラバラに砕け散ってしまいそうだ。

 うなじの辺りで纏められた黒く長い髪は、土で汚れて光沢を失い、服はあっちこっちが破れ、赤い模様を染み出させている。それでも彼女は上体を起こし、決して膝を付くまいと脚に力を入れ、剣を構え直す。

 ズズゥンッ! 土煙を巻き上げ、彼女の眼前に降り立った者が上げた騒音。全長十メートルはくだらない鋼鉄の身体を持ったそれ(、、)は、肩に十歳前後の小さな少年を乗せていた。この少年も大した者で、動き回る鋼鉄の巨人に振り回される事無く、肩の上にしっかり二本の足を付けていた。

 巨人はその手に持つ巨大な剣を構え、一気に振り上げる。

 その姿を見て、少女は大きく息を吸い―――、

「ふぅ~~~~………っ、はぁ~~~~………っ」

 ―――吐く。

 数秒の間。

「………はああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっっ!!!」

 気合いの掛け声。

 そして走る。鋼鉄の巨人に向かって、セーラー服に身を包む少女が地を蹴り前進していく。

「フェニクシオガオング!!」

 少年の声に従い、鋼鉄の巨人は剣に炎を纏わせる。

 巨大な剣に纏った炎は、ただそれだけで巨大な火柱となる。

 それでも臆せず地を踏み抜き、飛び上がる少女。身体を駒の様に回転させ、二刀の剣を遠心力に任せ振るい抜く。

 巨人はそれを打ち倒そうとするかのように、炎柱の剣を叩き降ろす。

「『破城鎚(はじょうつい)』ッッ!!」

 遠心力を乗せた少女の剣が、巨人の火柱に激突。

 互いの剣はありえない事に一瞬の拮抗を見せる。

 だが、その瞬間が過ぎ去った瞬間、強烈な爆音と共に二本の剣は砕け散り、炎を霧散させた巨剣が弾き返される。勢いに煽られた少女が勢い良く地面に叩きつけられ、バウンドする。

「かは………っ!」

 体が宙に投げ出され、殺しきれなかった勢いに半回転し、うつ伏せに地面に倒れ伏した。

 巨人はたたらを踏まされはしたが、全くの無傷だ。

「巨大ロボット相手になんつー戦いしてんだよ………」

 巨人と少女が戦う傍らで、黒い少女が作り出している赤黒い障壁の後ろで、胡坐をかいていた少年が思わず漏らす。呆れ半分、関心半分の感想に、障壁を張る少女も沈黙で同意していた。

 一方、巨人の肩に居る少年は、さすがに疲労の色が見え始めていた。

「こ、これで………っ! 今度こそ………っ!」

 少年の願望にも似た呟きが漏れ出た時、少女に異変が起き始めた。

「う、ぐ、あぐあ………っ! がああぁぁっ!!」

 少女が地を掴み、渾身の力を用いて立ち上がろうとする。

 しかし、様子がおかしい。ただ立とうとしていると言うより、何か内側から湧きだす物に突き動かされるように力が過剰に入っている。

「あが、が、ああああぁぁぁぁっっ!!」

 彼女の周囲の空気が、イマジンがピリピリと痺れる様に振動を始め、その圧力が変動し始めている。

 苦しむ様に上げられていた呻き声は、次第に別の何かへと変わっていく。

「あ、ああああっ、あがあアあぁぁァぁぁァッッッ!!」

 

 ブツリッ!

 

 彼女の髪紐が千切れる。

 刹那、まるでそれが合図だったかのように、少女は身体を一瞬で起こし、天に向けて爆発する様に咆哮(、、)した。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」

 

 人の声では無い咆哮を上げ、漆黒の髪が鋼色へと変貌し、瞳は獣の如き金色に変わる。人の耳が髪の間から覗かなくなり、変わりに頭頂部で三角の獣の耳が飛び出す。咆哮を上げる口には、鋭く尖った犬歯が、牙と言う名に相応しい物へと肥大していた。

 何が起こったのか? 彼女を見つめる誰もが咄嗟に理解できず動けずにいた。

 咆哮が止み、落ちついた少女は、獣の瞳で巨人()を捉える。

「ッ!? 勇輝! 気を付けろっ!!」

 傍観していた少年が声を張り上げる。

 それを合図にしたのかの様に、変貌した少女が前進。一瞬で距離を詰め、巨人の胸、ライオンの顔を模られた鋼鉄の胸に、()()()()を突き立てた。

 吹き飛ばされる巨人。地面を轟音と大量の土煙を起こしながら背中を引きずり、倒れる。

 何とか少年の命令に従い、上体を起こした巨人が、その魂無き瞳に映したのは、鉛色の毛を持つ四足歩行の獣が、変貌した少女に取り付く様に重なっている姿だ。半透明の身体を持つ獣は、少女の手足に連動し、爪を、牙を、巨人に向けて繰り出してくる。

 巨人は人間がする様に下半身を丸め、逆立ちする様にして腕の力で飛び上がり攻撃を回避。空中で体勢を変え、脚で地面に着地する。轟音、土煙、地震と見紛う振動を作り出しながら巨人は剣を振り上げ、猛獣と一体になった少女を斬り伏せようとする。だが、獣の(あぎと)が剣に食らいつきそれを阻止、出来た隙に少女の爪が振るわれ、巨人の身体に鋭い傷を付けた。

 巨人の胸のライオンの目が輝き、その口を大きく開くと、ビーム光線と見紛う火炎放射を放ち、少女と獣を纏めて吹き飛ばす。

 吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた少女は、しかし両手の振り払いで炎を消し去り、まったく衰えぬ戦意で()めつけてくる。

 その眼光に、もはや人としての理性は見受けられなかった。

 

 

 

 ドッダンッ!!

 

「はみゅ………っ!?」

 突然の衝撃に目を覚ました甘楽弥生は、状況が呑み込めず、しばし瞬きを繰り返した。

 次第に目覚めてきた頭で、自分がベットの上から落ちたらしい事を知り、ちょっと恥ずかしそうに頬を染めながらあくびを漏らし、身体を起こす。

「ふあ、あぁ………っ!! ………何してるんだよ?」

 自分の落ちたベットを見て、そこで大の字になって眠っているルームメイトを見つけた少女は、呆れたように言葉を漏らした。どうやらこのルームメイトに寝ぼけて蹴落とされてしまったらしい。

「いつもは寝相良い癖に………ふあぁ………っ! 今何時だろう?」

 弥生は寝ぼけ眼をこすりながら時計を確認。現在朝の八時であった。寝坊である。

「僕のベットに居たのは、鳴り始めた目覚ましを僕が起きる前に止めたからなんだねっ!?」

 あっと言う間に真実に辿り着いた弥生は、大慌てで身支度を始める。洗顔と歯磨きを素早く終え、髪を()かしながら前の学校の制服に着替える。鏡でチェックする暇も惜しんでエプロンを掛けると、炊飯器の蓋を開け、白い湯気を噴き出す御米をしゃもじで掬い取り、慣れた手つきでおにぎりを幾つか握り糊を巻く。手早くお弁当箱に収納すると、急いでルームメイトの元に戻る。

「アンドレッ! ほら、起きてよアンドレッ! 遅刻しちゃうよっ!?」

 ルームメイト、オルガ・アンドリアノフの愛称を呼びながら、彼女はちゃっちゃと着替えさせ、髪を梳かして、身支度を済ませる。

「働きたくなぁ~い………」

「なんでイマスクに来たのさぁ~………っ!」

 オルガの寝ぼけ声に苦笑しながらツッコミをして、弥生はオルガの腕を自分の肩に回して担ぎ、いそいそと玄関を出る。

「今日から実戦試合なんだから、ちゃんとしなよぉ~~?」

「いいよ。私はFクラスだからバトらなくても免除だし」

「その内登校日数で問題視されちゃうよ? 出られる時には出ておかないと!」

 甘楽弥生はルームメイトの面倒を見ながら、誰もいなくなった自室に向かって声を掛ける。

「いってきま~~す!!」

 

 

 01

 

 

 この学園に於いて、CクラスとDクラスの戦い方はとても特徴的であり、A、Bクラスの戦闘は、C、Dクラスの間的な印象を与えると言われている。

 特にCクラスの戦いはとてつもなく短絡的で、解り易い。

 何せこのクラスはバトルマニアの傾向がある者が集まり易いと言われているだけあって、誰一人としてタスクをこなそうとしないのである。

 

 

 

 ガガギィンッ!!

 

 鋼がぶつかる音が鳴り響き、何度目かのぶつかり合いに弾かれ合う二人。

 バトルフィールドは荒野。所々に小さな丘があるくらいで基本的に高低差の無い平地だ。そこらへんに申し訳程度に存在するサボテンは、西部劇に出てくるフィールドを思わせる。

 命じられたタスクは、『このサボテンの中で一つだけ花を咲かせている物があるので、それを先に獲得せよ』っと言う物だったのだ。

 

 ドンッ! ドンッ!

 

 ガガギィンッ!!

 

 互いに地面を蹴り上げ、再び剣激が交差する。

 片方は、金髪に赤目、120~130㎝位の小学生のような身長にズタズタに刻んだ学ランに、これまたズタズタのカッターシャツを着込み、齢14歳の少年。右の手にはナイフが、左の手には刃渡り30㎝程の鍔無し直刀。長さの違う刃を巧みに使い分け、対戦相手に斬り込んで行く。

 対するは、長く黒い髪をうなじの辺りで纏めた黒いセーラー服姿の少女。長めのスカートを髪と一緒に翻し、右手一本に携える剣で攻撃を捌いて見せる。そのあどけない顔立ちを無表情にして、フェイト織り交ぜ繰り出される刃を、冷静確実にいなしてみせる。

 少年は黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)。少女は甘楽(つづら)弥生(やよい)

 この二人、試合が始まった瞬間、速攻で『探知再現』で互いを確認し、真直ぐ互いに向けて突っ込み、そのまま戦闘に入ってしまった。タスクなどまったく目もくれず「相手倒せば勝ちでしょ?」っと言いたいかの様な即断即決ぶりだ。

 二人の戦いは大きく分けて二種類の近接戦となっていた。

 一つは互いの制空権内で巧みな刃の対決。最小限の体捌きと、最小限の攻撃で相手を打ち取ろうとする技の応酬戦。

 もう一つは一旦距離を放し、助走を付ける様に走り回り、勢いが付いたところでぶつかり合う騎馬戦の様な体を成していた。

 現状有利なのは畔哉(くろや)。戦闘状況は制空権内での技の応酬戦だ。

「ヒッひ………♪ 弥生ちゃんがんばる~~♪」

 楽しげな声を漏らし、畔哉(くろや)がナイフと剣での斬激の軌道を巧みに変えながら斬り込んで行く。

 弥生は片手に握った剣を最小の勢いで弾き、パリィしていくが、間に合わない場合は両手を使って何とか打点をずらす様に受け流す。

「ほらっ! ほらっ! 受けてるだけじゃ勝負にならない!?」

 挑発する様に―――っと言うより本気で楽しんでいるかのように、畔哉(くろや)笑みを強くする。

 弥生は表情を僅かに「むんっ!」と気合を入れる様に柳眉の端を持ち上げ、速度を上げて対応する。

「そうそう~♪ そう言う感じ~~♪ でも技に対して力を増してるだけじゃ―――」

 途端、何の前触れもなく畔哉(くろや)の手からナイフが放り投げられる。顔面に迫るナイフに気付き、弥生は『直感』を頼りに首の動きで回避。同時に迫ってきた剣を柄と鍔の間で何とか受け流す。

 ―――突如左眼目がけ何かが迫ってくる。

「………っっ!?」

 

 ババギィィィン………ッ!!

 

 鋼の打ち鳴らす音が鳴り響き、弥生に迫っていた何かは二本目(、、、)の剣の(しのぎ)(剣の腹の部分)に受け止められた。

「るぅふ………っ♪ O~~~K~~~♪ これだから戦いは楽しいよねぇ~~♪」

 弥生は胸の生徒手帳から咄嗟に取り出した二本目の剣で弾き返し、畔哉(くろや)が放ってきた三つ目の攻撃の正体を確認する。畔哉(くろや)の右手に、捨てられたナイフの代わりに、千枚通しの様な針が握られていた。先端の尖った短い杖の様なそれは、突き技専用の武器であり、その短さから考えるに暗器の類でもある様だ。

 いつの間に持ち変えたのか判別が付かなかったが、恐らくは学ランの内側に生徒手帳を収納していて、そこから取り出したのだろう。()()()()()()()()

「これでやっと、君の本気が確認できるかなぁ~~♪」

 心底楽しそうに笑いながら、畔哉(くろや)は二本の剣を左右に携えた弥生を見据える。

 弥生の表情は変わらず冷静な無表情………だが、瞳の奥が何か怪しくギラ付いているように見える。

「じゃあ、今度はどんな感じ―――」

 畔哉(くろや)が試す様に前に出ようとし―――その瞬間に踏み込んだ弥生の瞳が至近から覗き込む。

 バババッ!! っと、風切り音が乱舞する勢いで左右から繰り出される連続の剣撃。あわやと言うところで何とか受け止める畔哉(くろや)だが、剣激の乱舞が収まらない。至近距離から次々と繰り出される刃の嵐に畔哉(くろや)の表情が驚愕に彩られる。

「いっ、けぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」

 グッ! と一瞬溜められた刃が、交差する様に同時に切り払われる。

 バギィィンッッ!!! っと言う重い金属音が木霊し、畔哉(くろや)の身体が吹き飛ばされる。

 防御はした。だが、その手に持つ武器は、攻撃の猛威に耐えきれず粉々に砕け散っていた。

 地に着地する畔哉(くろや)。弥生はゆっくりと残心を崩し、剣を下げた状態で畔哉(くろや)を見据える。

「ふふん………っ♪」

 小さく、だが心底嬉しそうな笑みが鼻から漏れた。まるで悪戯に成功した子供の様で、どこまでもあどけない。

 弾き飛ばされた畔哉(くろや)は、ゆっくりと事態を認識し、クツクツと笑いが漏れ始めた。

「ヒッひ………っ♪ そうそうっ! こう言うのじゃなくちゃでしょ!? やっぱり戦いはこう言うのじゃなくちゃねぇ~~~!? 一方的な斬殺も! 命を掛けた刹那の衝動も! 実力拮抗者とやり合う永遠の快感には敵わないっっ!! うん! 本気で一方的斬殺は無しっ! アレは本当に酷いっ!!」

「なんでそこだけ強調してるんだよぅ~?」

 弥生のツッコミにしては弱い疑問などどこ吹く風で、畔哉(くろや)ははしゃぎ回る子供の様に飛び跳ね―――いつの間にか両手にしていたノコギリと釘抜きをそれぞれ構える。

「それじゃあ、ここからが本気の本気っ!! 最後まで付き合ってくれるよねぇっ!?」

 楽しげに語りかけてくる畔哉(くろや)

 弥生は彼が構えた武器にドン引きしながら、両手を腰に添えて呆れた溜息を吐く。

「はあぁ………。………こう言う状況なのに『楽しいなぁ~~』っとか思っちゃう自分はやっぱり異常なんじゃないのかなぁ~?」

 表情を改める。両手の中で剣を一、二度回転させ………構える。真剣な瞳が畔哉(くろや)を見据える。

「るぅふ………っ♪」

 嬉しそうな笑いを漏らし―――瞬時飛び出す。

 互いの距離を一気に詰め、騎馬戦の如き激突交差。

 畔哉(くろや)の釘抜きが叩き落とされ地面に転がり折れ曲がる。

 交差した二人はそのまま走り抜け、Uターンして勢い殺さず再び激突交差。

 

 バボギンッ!!

 

 金属がぶつかった様には聞こえない音が鳴り響き、畔哉(くろや)のノコギリが粉砕されて宙を舞う。

 勢いを付けた激突戦は弥生が圧倒的に有利だった。

 再び交差。

 凄まじい音と共に、畔哉(くろや)が取り出したであろう突撃槍が粉砕され―――宙を回転する弥生が地面を削る様に着地しながら走り抜ける。その肩には僅かに赤い軌跡が滲んでいる。

(速度、上がってる………? それ以上に斬激が鋭くなってる?)

 弥生が気付いた通り、これが畔哉(くろや)の能力『切伐無死(きりきりむし)』の『無死刺(むしさ)され』と派生能力『煌羅魏(こおろぎ)』による『徒火破涅(とびはね)』の効果だ。

 『無死刺(むしさ)され』は彼のテンションが向上される毎に“斬る”力と“刺す”力が強化され、『徒火破涅(とびはね)』は走り続ける事で速度が上昇していくスキルだ。

 二つの能力が連動し、畔哉(くろや)の力を時間と共に強化していき、最終的には誰にも止める事の無い力に辿り着く。

 そして今の畔哉(くろや)のテンションは―――

「さあっ! 行くよ弥生ちゃん!? 切って裂いて千切って抉って喰らって潰して壊して破いて砕いて蹴って殴って踏んで歪めて抱き締めてあげるよーーーーーーーッ!」

 挟み、ナイフ、直剣、ひゃっとこ、ノコギリ、彫刻刀、手裏剣、金槌と、指に挟めるだけの武器を大量に構え、MAXテンションで迫る。

「………むぅ」

 この時、能力を理解した弥生の表情が、不満気に歪められた。

 真直ぐ弥生に向けて直進してくる畔哉(くろや)。手に持つ武器がどう言う指の使い方をしているのか、全てをくるくると回しながら突き進む。それに対する弥生は、迎え撃つが如く正面から踊り掛る。

 騎馬戦の如き衝突戦が再開される。

 交差する度響く金音。地面に叩きつけられる畔哉の工具(武器)。そして軽く弾き飛ばされ宙を回る弥生。

 地面に着地する勢いを殺さず走り抜け、再びUターンして二人は正面から交差する。

 叩きつけられる畔哉の武器。跳ね飛ばされる弥生。衝突戦に於いても、畔哉は自分の優位性を主張するかの如く、何度も弥生を跳ねのけていた。

「ヒッ、ひ………?」

 しかし気付く………。

 交差する度、弥生は跳ね飛ばされ宙を回る。時には赤い軌跡の線を奔らせながら、彼女は何度もぶつかってくる。これは変わらない。だがおかしい。畔哉の取り出した武器が、交差を繰り返す度に二つ、三つ、四つと、数を増やし始めている。

 もちろん弾かれた数だけ生徒手帳から武器は補充している。だが交差を繰り返す度にその手に持つ武器が一度に幾つも削られ、畔哉は弥生に何かが起こっているのを感じ取り―――交差後すぐ、背後に弥生の気配が迫っていた。

「ひょわっ!?」

 思わず意味の無い悲鳴を漏らし振り返った彼の目に、弥生が二本の剣を右手側に思いっきり振り被っている姿が映り込む。

「ベルセルク第三章………!」

 ギュギュン………ッ! っと音が聞こえてきそうな勢いで振り抜かれる二つの刃。独楽が回転するが如く、その剣は畔哉へと迫る。

 『直感』の警報を聞き付け、慌ててガードの体勢に入る畔哉に、振り抜かれた刃は、ついに猛威を振るう。

「『破城鉄槌』ッ!!!」

 粉砕した。

 畔哉のガードに使った武器は一瞬で欠片へと変わる。まるで小さな積木で作られた御城が、子供の体当たりで壊される様に、武器だった者達はあっさり崩れ去り、放たれた衝撃が畔哉の腹に叩きつけられる。

 

 バボゴンッッッッ!!!

 

 衝撃が腹に伝わった頃、ようやっと音が追い付き、爆音が周囲に迸り―――一瞬後、畔哉は衝撃に突き飛ばされ、軽く一〇〇m程後方へと吹き飛ばされていった。

 地面を何度も転がり、土塗れになりながら、叩きつけられる大地に傷を増やし、ようやく勢いが収まり地面にうつ伏せになった時には、衝撃で全身が痺れ上がり、まったく動けない状態になっていた。

『甘楽弥生獲得ポイント46』

 視界の端に表示されたイマジンによる情報をぼうっと見つめ、畔哉はしばし放心していた。が、事態を理解するにつれ、次第にそれは笑みへと変わり始める。

「るぅ、ふふ………♪ 猛姫(たけひめ)様の言った通りだ………! やっぱ戦闘は楽しいや………!」

 畔哉の脳裏に、己がこの学園にやってきた理由となった出来事が思い起される。

 

 

 嘗て、畔哉は殺し屋の家系にあり、仕事で人を殺していた経験を持っていた。

 っとは言え、今時殺し屋が日本で優遇されている訳ではなく、精々恨みを持った一般人が、偶然手に入れた連絡手段で依頼を受ける事があるくらいだった。

 しかし、ある日、畔哉の家に大きな仕事が舞い込んできた。依頼人は何処かの国のお偉いさんだったらしく、気前の良い事に前金が既に送られてきていた。ただし、難易度はZランク指定。不可能と判断されて放棄されたレベルの超難度任務。

 もちろん断る事も出来たが、殺し屋の家系と言うのはどうしても表を堂々と歩く事の出来ない一族だ。こう言った任務を請け負ってこそ、一族の命を繋いでいけると言う物。彼等は手練を多く集め、この任務に当たった。

 畔哉はその中の一人として送られた。

 任務の内容は、この日本の何処かにあると言う『焔山(えんざん)』っと言う名の集落を探し出し、その長、土地神として崇められているとされる女性を暗殺する事。この暗殺対象となった女性の名前は、殺し屋達にとっても聞き覚えのある有名な名であった。

 『焔山』が一体何処にあるのかは全く定かではなかったが、幸いにも京都の付近にあるらしい事を掴む事が出来た。

 周囲を散策し続けた暗殺者達だったが、そのほぼ全員が『焔山』を見つける事が出来なかった。ただ一人の例外を除いて。それが畔哉だった。

 いつの間に迷い込んだのか自分でも解らない内に、畔哉は深い夜の森を歩んでいた。森の奥に一カ所、妖しく光を燈す場所を見つけ彼が駆け寄ると、そこには大きな桜の木が月明かりに花弁を(もゆる)様に輝かせ、世界の中心にでもいるかの様に堂々と屹立していた。

 その木の根元で、一人の女性が幹に凭れかかり、寝こけていた。

 ターゲットだ。

 聞いていた情報より若く見えるが、紅い(ぎょく)のペンダントをしているので間違いない。紅い玉に紐を通しただけの簡素すぎる物など、商品としては何処にも売られているはずがない。手作りにしてももう少し凝ったデザインにしそうな物だ。ターゲットが身につけている物で間違いないだろう。

 他にも柘榴染の赤い羽織りに、明治時代を思わせる和服、紫の紺袴、長い黒髪の端に無造作に結わえられた柘榴柄の髪留めと、ターゲットの情報そのままの特徴が揃っている。これだけ特徴が同じで別人だとしたらそれはそれで出来過ぎている。むしろそこまで似せた何者かを賞賛していただろう。

(殺せる………っ!)

 殺し屋の一族に生まれ、殺す事が何よりの娯楽だと感じていた畔哉。ターゲットを見つけ己が欲求を満たせると解り、歓喜に胸が躍る。

 背後に周り、木の上に昇る。ターゲットの頭上を素早く取ると、彼は懐に隠していたナイフを取り出し、頃合いを見計らって飛び掛かった。

 

「………芸の無い」

 

 飽きれとも言える声が畔哉の鼓膜を震わせた刹那、彼の意識は暗転した。

 次に意識が戻った時、彼はターゲットに踏みつけられ地面に突っ伏していた。

「………。殺す時に笑っていたな? 殺し合いは好きか?」

 見下ろすターゲットの目は、死んだ魚の様で、まるで生者としての気迫が感じられない。畔哉に掛けたはずの言葉も、色々面倒な手順をすっ飛ばして簡潔すぎて意味が汲み取れない様な発言だった。

「? 命が消えるのって楽しいでしょ? それに、時々強敵に会うと、命のやり取りをギリギリで出来る緊張感が堪らないんだよ?」

 踏みつけられている畔哉が、異常者としての顔を覗かせ、笑い掛ける。

 ターゲットは自分から聞いておいてまるで興味がないと言わんばかりの態度で―――、

「取り違えタイプかよ………。うぜぇ………。おいっ、命を弄ぶのが本当に楽しいかどうか試してやる? 疲れるから適当なところで悟ってくれよ? その方が早く殺せる」

 そんな事を言われた後、畔哉はターゲットに一生のトラウマモノを味わされる事となった。

 

 

「ああ~~~~っっ!!? ごめんなさいごめんなさいっ!! 許して下さい猛姫様~~~っっ!? 違うんです違うんですっ! もう充分悟りましたから!? お願いですから人の体で水切りが何回出来るか試すのは止めてぇ~~~~っっ!!!?」

「えっ!? な、なな、なに………っ!?」

 いきなり頭を抱えて一人で絶叫し始めた畔哉に、弥生は驚き五歩くらい後ずさった。

 対して畔哉は弥生に片手で制する様にして叫ぶ。

「落ちつけっ!! 感謝の念を思い出そうとしてうっかりトラウマ思い出しちゃっただけだっっ!!! 俺はしっかり混乱している~~~っっ!?」

「メッチャ攻撃のチャンスだって言われてる気分なんですが………? あ、そうか? すれば良いのか?」

 弥生の攻撃。

 畔哉はまともに受けた。5ポイント取られた。

「なにをする~~~~~~~っっっっ!?」

「うわああぁぁぁ~~~~っっっ!? 正気に戻って反撃してきた~~~~っっ!?」

 飛び掛かる様にして鉤爪で攻撃してきた畔哉を、弥生は交差した剣で受け止め弾き返す。

 弾かれた畔哉が着地する瞬間を狙い、二本の剣で風車の如く回る様にして横薙ぎの一撃を放つ。

 畔哉はナイフを取り出し、刃を逸らす様にして受け止め回避。着地と同時に左右にフェイントを掛けながら移動する。弥生が対応しようとした瞬間を狙い横合いから懐に入り込もうとする。ガラ空きになっている脇目がけ刃を突き出そうとして―――脇から別の刃が突き出されてきた。

「おっと………!」

 自分の腕の間を通す様にもう片方の剣を突き出してきた弥生。

 畔哉は切っ先をバックステップで躱し、その刃が戻るのに合わせ再度接近。

「やあっ!!」

「あっぶなっ!?」

 剣のリーチでは対応できないと判断した弥生は、瞬時に膝を跳ね上げ、畔哉の顎を狙う。ギリギリ両手で受け止め後方に退がる畔哉。

「るぅっふ、ふ………♪ やっぱ楽しいよねぇ♪ 殺し合いだと“殺したら終わり”だけど、殺さなければいつまでだって戦っていられる………! これほど最高な事はないよねぇ~~~~~っ♪」

 二人は互いの側面を取ろうとするかのように移動しながら斬り合っているので、まるで戦いながら踊っているかのようにくるくると舞う。

 畔哉が弥生の右を取れば、弥生はその攻撃を牽制しつつ、畔哉の右側に更に回り込もうとする。それを制しつつ畔哉は更に右側へと回り込もうとする。

 互いが互いの周囲をくるくる回り、次第にその速度が増していく。

 動きは単調な物になり始めていたが、その分互いの速度は尋常ならざる物へと昇華されつつあった。そのため一瞬のミス一つで致命的な一撃を貰ってしまいかねない。単調な動き故に誤魔化しが効かず、手を変える事が出来なくなっていく。

 ―――っと、不意に畔哉の右腕に赤い軌跡が短く奔った。

 畔哉の腕が僅かに斬られたのだ。

 僅かに速度で後れを取ったのかと思い、畔哉は更に速度を上げるが、今度は脇腹に短く軌跡が奔る。

(なんだ………?)

 疑問を浮かべてる内に傷口がまた二カ所も増えていく。畔哉がどんなに速度を上げようとしても、弥生の剣は切っ先ギリギリで畔哉の身体を捉えてくる。一体何が起こっているのか瞬時には解らず―――だが、イマジネーターとしての思考能力が彼の考察を手助けし、致命傷を受ける前にその事実に気付かせてくれる。

(速度じゃねえっ!? 技術かっ!?)

 それは単純な速度によって斬る攻撃ではなかった。とても繊細な剣術における攻防一体の妙技だった。

 畔哉の攻撃を受ける時、畔哉に向けて攻撃する時、弥生は刃の寝かせ具合や手首の僅かな返しでギリギリ切っ先が畔哉に届く様に剣の軌道を調整していた。

(さっきまではこんな繊細な技は出来ていなかったはずだ? もっと力と速度に任せたゴリ押しが、ここまで繊細な軌道を描けるようになるなんて………? つまりこれが弥生ちゃんの能力って事か)

 畔哉は理解した。

 弥生の持つ『ベルセルク』の能力は、畔哉と同じ、戦いのテンションに呼応して強化されていく。それも畔哉の『無死刺(むしさ)され』や『徒火破涅(とびはね)』の様に攻撃や速度だけでなく、技術までも習得する様になっているらしい。

(だが、それだと能力は強化限定で、物理法則に逆らう様な攻撃は出来ないんだろうな? ああ、俺も同じだったぁ~♪ るぅふ~♪)

 心中、弥生に共感めいた物を感じて笑みを漏らす畔哉だが、次の瞬間には真面目な表情へと変貌し、その目は気に入らない物を見つけた様に敵意の色をギラ付かせていた。

「………。そう言うのは俺の能力の方が強い」

 憮然とした表情で、畔哉は先程の弥生と同じような事を言い出した。

 イマジネーターはその想像力によって能力を決定できる。それ故、能力には個体差が生まれ、パーソナリティーの強い感情を抱く。だが、それは同時に、自分達の能力に強い執着を抱かせると言う事でもあり、その領域とも言える場所に踏み入ろうとする者がいれば、敵対心にも等しい対抗意識が芽生える。これはイマジネーター全員に言える、常識的傾向だ。

「負けない………っ!」

「俺が勝つよ♪」

 弥生と畔哉、互いに互いを睨みつけ、全身全霊のぶつかり合う。二人が衝突した衝撃で、近くのサボテンに咲いていた花が一輪、天高く打ち上げられた。

 入り乱れる金属音。超高速で撃ちだされる二人の剣撃斬激が、猛攻となって激突し合う。連続で繰り出される刃と刃。武装の耐久限界を軽く超え、猛攻の最中に幾多の破片が飛び散っていく。

 ノコギリと手斧を砕かれた畔哉が、生徒手帳からクナイと鎌を取り出し猛攻を続ける。

 二本の剣を砕かれた弥生も生徒手帳を二回タップ。弾き出された二本の剣をキャッチして猛攻を止めない。

 一瞬の間断(かんだん)も無く、二人の連撃が幾多も重なっていき、衝撃波が周囲に掛け巡っていく。二人は手だけでなく脚も動かし、互いの制空権すらも競い合っている。時には大きく移動し、時には長らく一カ所に止まり、かと思えば縦横無尽にフィールド中を掛け巡っていく。その間、二人が離れる事は無く、刹那の隙すら逃すまいと攻める手を止めない。互いが持つ能力が、底無しに互いの力を底上げし、隙となり得る瞬間を一切晒さない。

 永遠に続いてしまうのではないかと思われたこの勝負、その一瞬は経験の差となって現れた。

 ズルリ……ッ! っと、弥生の脚が砂に取られ、僅かに滑った。砂地での慣れない戦い。おまけに猛攻を掛けあうと言うバランスの取り難い状況に『ベルセルク』の技術保持では対応しきれない部分が僅かに現れた。

 その刹那に等しい隙に、畔哉は一瞬で潜り込んだ。

 高速戦闘を演じていた弥生の目にさえ、畔哉は消えた様に映り、一瞬後には背後に回り込み、その手に持つナイフで切り掛って来ていた。

 弥生の脳裏に『直感』が発動し、それに合わせ『ベルセルク』が能力を緊急上昇させる。だが間に合わない。それより早く、畔哉のナイフが背中に突き刺さる。

(殺しはしないよ! いくら蘇生可能でもね! そう言うのはもう止めたし、刻印名の効果で出来ないしね♪)

 思考が加速し、スローになる視界。弥生は眼を見開き、迫りくる刃を肩越しに見ていた。

(届け………っ!)

 背中の中心、心臓の位置からやや外れた位置を狙われているのが解ったが、刺されば確実に致命傷。ポイント的にも敗北は間逃れない筈だ。

 故に弥生は必死に念じ、思考を掛け巡らせる。

(届け………っ!!)

 最短ルートで振るえる右の剣を振り返りざまに斬り返そうと必死に動かす。だがこれでは圧倒的に間に合わない。残り距離は15㎝。

(届け………っ!!)

 『ベルセルク』の能力で身体能力を強化。各関節の円滑な動作。神経伝達速度の向上。それでも弥生の剣は圧倒的に届かない。残り11㎝。

(届け………っ!!)

 『強化再現』により、身体能力を向上させ、脚先から腰の捻り、肩までも連動して転身しようとするが、それでも剣は遠い。残り8㎝。

(届け………っっっ!!!)

 目を一杯に見開き、全神経をこの一瞬に注ぎ込む。物理法則に抗わんと全身全霊で剣を振るう! それでも―――、それでも剣は圧倒的に遅く、遠く、届かない。残り………3㎝。

 

(と・ど・けーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!!!!!!!)

 

 心の咆哮。歯を食い縛って握った剣が、刹那に青い輝きを帯びる。

 

 ヒュパンッ! ギ、ギギィンッ!!

 

 奔ったのは青い閃光。上がったのはオレンジ色の火花。起きたのは、弥生の剣が神速の勢いで振るわれ、畔哉のナイフを弾き返した事。

 今度は畔哉が目を見開く。見開いた目で確認しながらすかさず両手のナイフを次々と突き込む。

 

 ヒュパパッ! ………ッパァァンッ!!

 

 畔哉のナイフは悉く、弥生の青い輝きを放つ剣によって弾き返されていく。

 その閃光は速かった。まるで軽い羽でも振り回しているのではないかと見紛う程に、その剣は今までとは比べられない程に速い。その速さは、弥生自身が対応しきれず、勢い余って僅かにつんのめってしまう程だ。

(使いこなせないなら隙が―――!)

 速いだけならいずれボロが出るはずだとナイフの連撃を更に激しくする。

 突如、弥生の剣から青い輝きが失せ、鮮やかなライトグリーンに輝きを変えた。

 今度の剣も速い。だが、青い輝きを放っていた時と違い小回りが利く。斬り返しが早く、手数が多い。先程の青をスピードと例えるなら、緑はラッシュに向いた傾向が見られる。

(なんだこれ? 能力? いや、このイマジンの感じは、能力じゃなくて普通のイマジン基礎技術に思える………? 一体何をしたっ!?)

 驚く畔哉に、弥生は隙を見いだし、一瞬で剣の輝きを今度は赤に変えて一撃を振り抜く。今度は重たい一撃が放たれ、猛攻を仕掛けていた畔哉の攻撃を()き止め、バランスを崩させる。

 右の剣を再び強く握る。鮮やかな青に、アクアブルーに輝く右の剣を、片腕一本で振るい抜く。

 畔哉が対抗しようとナイフを振りかざすが、神速で奔った青い軌跡はV字型に閃き、ほぼ同時に二本のナイフを外側へと押しのけた。

「はああぁぁぁぁっ!」

 スパァァンッ!! 舞う様な動きで、弥生の剣が畔哉の胸に横一文字の傷痕を作った。

 あまりに鮮やかに切り裂かれ、慣れているはずの鋭い痛みに、思わず胸を押さえて身体を強張らせてしまう。すぐに我に返った彼は、二本のナイフで迫りくるであろう攻撃を迎撃しようとする。

 彼の眼前には、既に残心を終え、緩やかに二刀の剣を構える少女の姿があった。

「………いくよっ」

 一言、宣言した次の瞬間に、弥生の二刀の剣が同時に青い輝きを放ち、左右から神速の剣激を繰り出される。全てで五つの青い軌跡が奔り、一瞬で畔哉の身体を鮮血色に染め上げた。

 ゆっくりと膝を付いた畔哉は、そのまま何の抵抗も無く地面に倒れ伏した。

 ほぼ同時に、宙に待っていたサボテンの花が、弥生の腕に落ち、そのまま引っかかる。

「い、一体、今何したの………?」

 倒れた状態のまま、畔哉は弥生を見上げて問いかける。

 弥生も、二刀の剣を背中の鞘に収め、苦笑い気味に答える。

「ん~~~………? 何したんだろう? たぶん『強化再現』? なんか、出来ちゃったとしか言いようがなくて………? でも、能力で発動させたわけじゃないよ? 僕の能力って基本常時発動型でオートだから、あんな事出来ない筈だし?」

「はあ………? なんとなくとかで出来ちゃうわけだ………?」

 呆れた畔哉は寝返りを打って仰向けになると、溜息交じりに空を眺めた。

「あ~あ、これでも家柄的に戦闘には自信があったんだけどなぁ~~? そんじょそこらの素人相手なら絶対負けないと思ってたのに………」

「? ………ああ、だから能力オートの割に向上効果が弱いと思った」

「?」

 弥生が得心したと言う様な声を上げたので、畔哉は視線だけで疑問を表わし尋ねた。弥生は微笑みを浮かべると思い出す様にして説明する。

「僕、元イマジン塾の塾生でね? そこでは此処まで激しい戦闘なんてなくて、僕も運良く一回経験しただけだったんだけど………、その時、塾講師の人に言われたんだよ? 『イマジンはイメージを媒介とする力だ。だから強くなりたいなら現実(リアリティー)より理想(イマジネーション)を優先しろ』ってさ? 現実的なイメージは、“現実的”っと言う枠組みに止まってしまうから、想像の再現化をするイマジンには、余計な枷になるんだって? ………畔哉が僕と同じタイプの能力なのに、僕より能力向上速度が遅い風に思えたんだけど、たぶん、その経験(リアリティー)が邪魔になっちゃったんじゃないのかな?」

「………」

 畔哉は思いだす。

 嘗て自分が殺し損ねた、恩人にして師であった者の言葉を―――、

 

 

「人間って水の上を歩けるのか試してみるか? ………暇だし」

「待って猛姫様~~~~っっ!? 僕の身体を投げて実験しても、それは『水切り』であって、水上歩行と言うのとは違うと思うんです~~~~っっっ!!?」

 山の河原で、簀巻きにされて今にも投げられそうになっていた畔哉は、投げようとしている明治時代風の振袖に袴姿の女性に、必死の嘆願を願う。

「いや、暇だから」

「そんな理由で弄ばれるのはイヤ~~~~~~っっっ!?」

「え? だって、お前人間じゃん?」

「人間なんだと思ってるのっ!?」

「………? 人間だろ?」

(ダメだっ!? ゴミ屑未満の何かを見る様な目だ………っ!?)

 彼女に敗北してから幾日、一方的な暴力による『生死の快楽』の消失をさせられ、死と言う概念にすっかり恐怖を覚えた。その後で殺されそうになる悲惨な場面で、この女性の息子が現れ、なんとか宥めてもらい生き残ったまでは良かったのだが、それから彼女の戯れ解消として飼われる事となり、この様な毎日を日常茶飯事に受ける事となっていた。

「水切りがダメなら、絶対に滑らない話でもしてみろ? 絶対笑わないから。あと面白くなかったら、お前罰ゲームで切腹の実演な? 刃物は人間に使うと勿体無いから………、これで良いや?」

 猛姫と呼ばれた女性はその辺からヤゴを捕まえ、差し出して見せる。

「笑わないのに滑らない話しろとか、罰ゲーム前提の要求された上に、罰ゲームが腹切とか難易度どんだけっ!? そして刃物も使わせてくれない上にヤゴでどうやって腹切実演!? ツッコミどころが多過ぎて対応しきれないよねぇ~~!?」

「ヤゴに失礼な事を言うな。ヤゴは人間より偉い種族なんだぞ?」

「人間一体何処まで下等生物っ!?」

「え? だって人間じゃん?」

(下等生物としてすら見てもらっていない目っ!?)

 恐れから息を飲んでしまった畔哉は、二の句がつげなくなってしまう。猛姫は青い顔で黙ってしまった畔哉をしばらく見つめると―――、

「飽きたな」

 一言告げて、畔哉を適当に投げ捨てた。

 簀巻きのまま、結構高い場所から、水の無い場所目がけ―――。

「―――――――ッッッ!?」

 声にならない悲鳴を上げ、あわや地面に激突と言う瞬間、どこかから飛んできた戦扇が、その先端の鋭い刃にて紐を切り裂き、畔哉を自由にした。空中で身を捻り、なんとか受け身を取って地面に激突した畔哉は、かなり痛いだけで怪我をせずに済んだ。

 戦扇はくるくると回転し、投げた主の元へとブーメランの様に戻って行く。それをキャッチした一人の少年が、溜息交じりに声を上げる。

「猛姫! あんまりクロくん苛めるもんじゃないよ?」

「え? だって人間じゃん?」

「それいいよ。もう良いよその定番ネタ」

 うんざりした様子の少年は、現代風の服装に千早に似た羽織りをきていた。此処、『焔山』ではさして珍しくもない恰好だったらしいが、生憎畔哉は『焔山』の村まで見に行けた事はない。

 畔哉は慌てた様子で起き上ると、その少年の背中に縋りついた。こうしていないと猛姫は気まぐれで畔哉の命を本気で奪いかねないので、畔哉としても大真面目に必死だった。少年の方もそれを理解しているので、苦笑い気味に畔哉を宥めてくれる。

「って言うかそれはもうマジで飽きた………。捨てるのも勿体無いから山の肥料にしようかと?」

「時々、猛姫の発想がリアルに怖い………」

 ちょっと笑えない目で猛姫を見つめながら、少年は乾いた声で笑う。背中に隠れる畔哉も、こくこくと何度も頷く。

 まったく、この少年が、目の前の女性と血の繋がった親子とはとても思えなかった。それなりに長い間、この二人の傍にいた畔哉だが、この二人は母と息子と言う雰囲気をまったく醸し出していない。どちらかと言うと意思疎通が出来るだけのまったく別の生き物が、互いの信頼だけで接しているかのような、そんな違和感すら感じさせる。

「でもクロくん殺すのは止めようよ? 可哀想とかいう問題じゃなくて、もう………、本気で居た堪れないんで………」

 怯えきった目で見上げている畔哉を見て、良心を激しく揺さぶられているらしい少年の発言に、しかし猛姫は全く関心が無い様子だった。

「じゃあ、どうするんだ? 正直、このまま帰すのは納得いかねえ」

「ん~~~………? そうだなぁ~~? ………あ、じゃあイマスクに送ってあげるのはどう? 猛姫の母校でしょ?」

「ああ、それは良いな。あそこならここと同じくらい酷い目に遭いそうだ」

「理由がかなり悪どいよ………」

 彼女が在学中は確かに酷かったらしいが、今ではそこまでではない事を知っている少年だったが、それを口にはしないでおいた。畔哉のためにも。

「じゃあ、そいつをギガフロートに捨てて来い。お前が言い出したんだからお前がやれよ?」

「解ったよ」

 苦笑いしながら、少年は畔哉の頭を撫でてやった。

 こんなとんでもない恩師であったが、彼女は畔哉が旅立つ前に一つだけ教えてくれた。

畔公(くろこう)? あそこで戦うときのコツを教えてやる。今までの経験には頼るな。お前のやる事は常に一つだ。“ただ己は理想で在れ”」

 その一言の意味を、畔哉は意外と早く知る事となった。

 

 

「………解ったよ。猛姫様。………そう言う事なんだね♪」

 畔哉は上体を起こし、ゆらりとした動作で立ち上がる。弥生は警戒して右手を背中の剣へと伸ばす。

「つまり、“こう言う事なわけだ”?」

 畔哉は想像した。今までの経験から培われた暗殺者としての在り方の全てを忘れ、ただ眼前の敵を倒す理想的な自分の姿を空想する。

 切って、裂いて、千切って、抉って、喰らって、潰して、壊して、破いて、砕いて、蹴って、殴って、踏んで、歪めて、最後は戦いの中から友情を見いだし抱き締め合う。それが彼の理想とする戦いの果て―――。

 

 突如、畔哉の全身から赤いオーラが立ち上り始めた。

 

 それはただのイマジンによる『強化再現』であったが、先程とは密度がまるで違う。それは能力で強化されたのではないかと言う程に、濃密な気配を醸し出し、眼前に控える弥生を威圧していた。

 イマジンは正しい意思を持って、正しい運用をすれば、与える力に制限を有さない。畔哉は弥生の言葉と、嘗て恩師から聞かされた言葉により、ついにイマジンの正しい使い方を悟ったのだ。

「んじゃあ? こっからが本番で良い? ヒッひ♪」

「………! ん、じゃあ、本気でやろうか―――っ!!」

 畔哉の威圧に促され、弥生の全身からも鉛色のオーラが僅かに滲み始める。畔哉に対応しようと『ベルセルク』が弥生の能力運用技術を一時的に向上させたのだ。敵が強くなればそれに合わせて強さを与え、何処までも戦わせる。それが弥生の持つ『ベルセルク』の特性。

「るぅっふっ♪ じゃあ、最後に抱きしめてあげる所まで………! いっくよぉ~~~~♪」

「セクハラはお断りで! でも、どこまでだって付き合うよっ!!」

 畔哉のテンションが急上昇し、促される様に弥生も高揚していく。

 二人の戦意が、今正に最高潮に達し、互いに笑みが漏れる。

 同時に飛び出し、二人は今日何度目かの激突を迎え―――!!

 

「よぉし、お前ら歯食い縛れ?(怒」

 

 ドガツンッ!! っと言うとても人の頭を殴ったとは思えない鈍い音が鳴り、弥生と畔哉は頭部を殴打されて地面に顔面から叩き付けられた。

「はっはっはっはっ♪ さっきからポイント&タスククリアで甘楽弥生の勝利を宣言してやってるのに? 教師無視して試合続行とか何考えてんだ? しまいにはお前ら酷い事しちゃうぞ?(怒怒怒」

 細い金属製のフレームの眼鏡を掛け、外ハネした白髪、細い目、体の線は細く、目元に刻まれた皺、額に青筋を立てながらも絶やされる事の無い笑みを浮かべているのは、イマスク数学担当教師、名を折部(おりべ)夏流(なつる)っと言った。

 彼は、二人が試合外戦闘を行おうとしたので仲裁の意味を込めて、二人の後頭部を強打。纏めて地面への熱い口付け講座を披露した次第だ。

「二人ともさっさと傷の応急処置をしてアリーナから出ろ? 俺はお前らの担当になっただけでイライラしてるんだ? なんで学園に娘がいるのに、そこの担当じゃないんだよ!?」

 砂から床に変わった白い空間の中で、弥生と畔哉は互いに頭を抱えながら苦しげに抗議する。

「そ、そんなぁ~~!? 今やっとなんか掴めたっぽいのにぃ~~~!?」

「せっかく盛り上がってたのにっ!?」

「うるさい。Cクラス連中は毎度戦闘馬鹿ばっかだな。ともかくさっさと部屋から出て着替えて帰宅しろ!」

「せ、せめて『決闘』でさっきの続きを―――!」

「おおっ! それだっ!」

「クラス内交流戦の三日間は『決闘システム』の使用禁止中だ。それより早く傷の治療をしなさい!」

「「そ、そんなぁ~!? 不完全燃焼だ~~~~!?」」

 二人は勝敗など関係無しに悲しげな声を上げる。

 Cクラスに於いて、こんな最後になるのは毎度珍しくない光景だった。

 

 

 02

 

 

 基本的にCクラスの人間は本質的にバトルマニアな傾向がある。先程の二人、畔哉と弥生もその例外ではない。畔哉は解り易い例なら、弥生もまた“らしい”例である。彼等は心の奥で“戦いたい”と言う想いを強く抱いている者で、そう言う人間だからこそ、戦闘能力に最も長けていると判断されているCクラスに配属されているのだ。

 誤解無き様に補足しておくが『戦闘力が高い』=『勝利する』ではないので、AクラスやBクラスが、実はCクラスより劣っていると言う意味ではない。その解り易い例として、各クラスの勝利の仕方にある。Cクラスが戦闘優先で勝利するやり方なら、Bクラスはタスクを優先して勝利する。敵を倒して勝利するのか、ルールにより勝利を優先するのか、その違いが時にして本当の意味で勝敗を分ける事に繋がる。もし戦闘を禁止されたタスク勝負のみなら、Cクラスは圧倒的不利に立たされ、実力の半分も出せずに終わってしまう事だろう。戦闘力だけでは手に入らない領域。つまりは総合的な能力値を求められたのがA、Bクラスと言う事になる。

 さて、そんな戦闘特化のCクラスだが、だからと言って誰もが畔哉VS弥生の様にぶつかり合うのかと言えば、そう言うわけではない。これは例外的な意味ではなく、単に個人差の問題である。そう例えば―――、

 

 本多(ほんだ)正勝(まさかつ)VS前田(まえだ)慶太(けいた)っと言う、この名前だけ見たら、戦国時代の武将をモデルにしたVSゲームか何かではないかと勘違いしそうな対戦カードだが、その内容は少々期待を裏切る形になってしまうかもしれない。

 バトルのフィールドとして用意されたエリアは、なんと天空闘技場だった。長さ30mの四角い石造りのフィールド。回りをぐるりと囲む観覧席。その外側は高さ数百メートルはありそうな天空となっていた。っと言っても下の方を見下ろせば、点々と家が見え、まるで東京タワーに闘技場を作った様な風景が広がっているし、アリーナの戦闘フィールドは1㎞四方とされているので、何も闘技場での戦いに拘る必要はない。タスクのルールが『闘技場から飛び降り、無事に地上に着地せよ』っと言うものだと言う事を除けば、割と簡単な内容とも言える。

 普通のイマジネーターなら、自分達の能力を使い、落下のダメージを吸収する事も、むしろ飛行して楽々クリアする事も、頭を使えばワイヤーなどでバンジー風に飛び降りてから、再び戻って階段からゆっくり下りると言うのも反則ではない。A、Bクラスとしては、如何に早く、かつ安全に着地するかが肝だと言いそうな内容である。

 そんなタスクがあるにも拘らず、今回の二人、正勝と慶太も、互いと戦う事しか考えていなかった。むしろ闘技場に出た時点でタスクなど忘れ去っていた程だ。にも拘らず、戦況はと言うと―――、

「ちょーちょーちょー!? 御宅いつまで逃げてるつもり~~~!? いい加減まともにやり合わない~~!?」

「ひっ、ヒィ~~~っ!? だ、だって怖いでしょう普通っ!? なんでこの学園の奴等は刃物を人に向けて振り回す事に抵抗ないんだよぅ~~~!? 危ないだろっ!?」

 慶太の振るう槍を、同じデザイン違いの槍で必死に受けながら逃げ腰になっている正勝。二人の武器は同じ槍だが、正勝の物は装飾の一切無い、和風の無骨な槍なのに対し、慶太の使う槍は、西洋風の装飾が施され、太い矛先は先端部分が二つに分かれていて、斬る、突く、そして絡め取ると言う三つの手段が使える様になっている。

 互いに使う武器は同じで、眼前の敵を倒すと言う判断も同じなのだが………、性格の問題上、正勝は少々弱腰になってしまっていた。

「あ~~~んもうっ!? ちょっと真面目に戦ってくんないぃ!? ってか戦う気あ・り・ま・す・か~~~? ねえなら帰れっ!」

「も、もちろん戦う気は―――! あ、やっぱないです。帰らせて………、いや、でもそれはちょっと、さすがに同じ槍使いに負けるとか嫌だし………」

「なら真面目に戦えよ~~~っ!? ワザとか!? 俺を挑発するためにワザとやってんのかぁっ!? むしろそっちの方希望だわぁっ!?」

「あ、ごめんっ!? もう少し待って………! やっぱ本物の刃物で切り合うとかどうしても勇気が―――わああぁ!? お願い本気で待って!? 待ってってば!? あ、痛いっ!? 今少し切ったよっ!? マジでこれは痛いって! シャレになって無いだろ!? 刺さったら死んじゃうってっ!? うわああああんっ!? なんでどいつもこいつも斬り掛ってくる事に躊躇が無いんだよぅ~~~っ!?」

 慶太の持つ能力は『聖槍・ロンギヌスの槍』。その槍には神の善意が宿されているとされ、ロンギヌスと言う神倶としてのイメージも付加された強力な槍だ。

 そして正勝の能力『戦国最強:本多忠勝』による『蜻蛉切』で、彼の持つ槍は信じられない程の切れ味を持つ超重量の長槍とする事が出来る。更には『無傷の槍兵』と言うスキルにより、彼はジーク東郷同様に『不滅の肉体』を有しており、先程から痛がっている割にはまったくダメージを受けていない。

 まともにやり合っていれば見どころのあるカードだったのは間違いなかった事だろうが、………惜しむかな、この二人の戦いは、痺れを切らした教師が「もう日が暮れたから時間切れで良いか?」っと尋ねてきたところで、慶太が渋々奥の手を出して、やっと勝負が付くと言う、とてつもなく不毛な試合になってしまった。

 後に勝利した慶太は正勝へとこう言った。

「いいかっ!? これで決着が付いたとか思うなよっ!? いつかまた絶対勝負して、この決着付けてやるからな!」

「うん、ホントごめんなさい………」

 Cクラスと言っても、こんな風な意味で不完全燃焼に終わる事もしばしばあったりする。

 

 

 03

 

 

 激戦と言う意味では、こちらこそが正しい意味ではあるだろう。

 闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)VS伊吹(いぶき)金剛(こんごう)

 フィールドは荒野。ただし、周囲を崖に囲まれていて、飛行能力か強力な跳躍能力がなければ向こう岸に飛び移れそうにない。だが、実は空中に見えない透明な足場が存在し、そこを足場にすればイマジンの『強化再現』だけでも二歩で向こう岸に渡れるようになっている。タスクは『見鬼』でもガラスほどの透明にしか見えない足場を利用し、向こう側へと渡ると言う物だ。今までの例に漏れず、A、Bクラスなら、対戦相手の邪魔を掻い潜りつつ、如何に自分が先に向こう岸へと渡るかと言う物になっていただろう。しかし、やはり今回も二人は戦闘する事しか頭にない。

 開始早々、二人はタスクの確認だけしてぶつかり合った。

 金剛は片腕を『鬼化』させて互いに拳を交差させた。最初に苦戦を強いられたのは狂介の方だった。片腕とは言え、鬼化した腕は人一人を易々と吹き飛ばせる力を有している。『強化再現』が誰にでもできる技術とは言え、とても能力に対応できる物ではない。あっと言う間にポイントを半分取られ、大ピンチに陥ったのだが………。異変は突然起こった。自分と金剛のポイントを確認した狂介は、実に嫌そうに舌打ちをして拳を握り直した。

「チッ………。さすがにこの鬼相手に素手で殴り合うのは不利過ぎるかよっ? 殴り合うのは実に良いが、その腕に防御されるとダメージが通らねえって言うのは反則くせぇ………」

「ふんっ、まあそう言うな? これでも一度負けている身なんでなぁ? どうしても勝ちたくて仕方ねえんだ。まあ、確かに………、殴り合いにならねえのは俺としてもつまらなくはあるがよぅ~? ………どうだ? そろそろ出す気になったんだろう? お前の能力をよぉ?」

「ああそうだよ………! くそっ、普通の殴り合いが出来ねえと解った時点で負けた気分だが………、勝負に負けたなら、せめて試合には勝たせてもらうぜ!」

 拳を握った狂介。そのまま前に出て拳を突き出す。

 何の変哲もない拳に訝しく思いながらも、金剛は鬼化していない左手で受け止め、カウンターの右を返そうとする。―――が、左手が拳を受け止めた瞬間、ありえない程の激痛が手の平に広がり、思わず身体を強張らせてしまう。その隙に連続で拳を放ってくる狂介。金剛は狂介の拳をまともに数発、懐に受け止めてしまい、身体に走った痛みに苦悶の表情を浮かべる。

「がああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 痛みに意識を持っていかれそうになりながら、遮二無二に鬼化している右腕を振り回す。さすがに狂介も危機感を感じ取りステップで後ろに下がった。

 鬼の手を突き出し、牽制しながら金剛は自分のダメージの程を確かめる。殴られた個所は、既に痛みは引き、打撲や内出血をしている節は見られない。ポイントを確認すると、あれほど痛みを伴っていたにも拘らず、たったの2ポイントしか奪われていなかった。

 此処で金剛は一体どう言う事だ? と片眉を跳ね上げる。思考を纏める前に狂介が再び前に出る。一瞬だけ逡巡した金剛は大きく後ろに跳び退がった。ここで狂介の表情が笑みに変わった。

「臆したと思ったか?」

 その瞬間に、金剛が問いかけ、狂介をはっ、としたような表情に変える。

 金剛は右腕を元の人の腕に戻すと同時、両の脚を『鬼化』させる。

怪脚鬼足(かいきゃくきそく)! とでも言おうかのうぅっ!?」

 『鬼化』させた脚で地面を踏みつけ、怪物じみた脚力に任せ前へと踏み出る。人の足で作った後ろ向きなベクトルをあっと言う間にぶち抜き、僅かな距離でトレーラー並みの馬力を生み出した金剛のショルダータックルが見舞われる。

「消えろっ! 感・覚!」

 狂介はイマジンの『強化再現』を駆使し、両腕をクロスしてガードしながら斜め後ろへと飛び退きながら、能力を発動する。『強化再現』でブーストした脚力ではあったが、能力による強化をしている金剛に匹敵する物ではなく、僅かに身体を引っかけてしまう。

 バンッ! っと言う空気が破裂する様な音を出しながら狂介の身体が弾き飛ばされる。だが、どうやら浅かったらしく、彼は何の危なげもなく地面に着地した。

 そこで異変が起きる。

 突然、攻撃を成功させたはずの金剛の方が両腕を押さえ、その場に倒れ込んだのだ。

(こ、この痛みは何だ………? ぶつかった肩に痛みが走っているのはガードの瞬間に何かをされたぁ事かも知れんが、何故触れてもいない両腕に痛みやがる?)

 痺れそうな腕の痛みを感じ取りながら、金剛は必死に頭を巡らせる。

 だが、その必要はなかった。

「どうだ金剛? スッゲー痛いだろう? 今、お前は俺の能力で自分の痛覚を数十倍に上げてやってるからなぁ? いくら丈夫なアンタでも、痛覚を直接いじられたらどうしようもないだろう?」

 そう狂介が自慢げに語り始めたのだ。

「俺ぇん感覚を直接操ってるってぇ事か?」

「そう言う事だ。これが俺の能力『狂感覚』による『感覚付与』。そして、今はもう一つ『消感覚』による『I don't have but you have(俺に無くてお前にあるもの)』により、俺の感覚を全部お前に押し付けてる。だから俺に与えたダメージは皆お前が代替わりだぜ?」

 言われた金剛は再びポイントを確認する。

 狂介獲得ポイント22。金剛獲得ポイント31。

 確かに、金剛が先程与えた分のダメージは、ポイントとして認められている様だ。しかし、狂介のポイントはあまり上がっていない。どうやら感覚をいくら押し付けられても、それでポイントが奪われると言う事はなさそうだ。

「しかし、せっかく解り難い能力だろうによぅ? そんなにべらべら喋ってしまって()がったんかぁ?」

「解ったところでどうしようもねえだろ? 例えばホレ?」

 言いながら狂介は自分の脛を出っ張った岩に無造作にぶつける。途端、金剛は脛に激痛を感じ、思わず『鬼化』解いてしまい、脚を抱える様にして蹲ってしまう。

「な? 解ったところで対処できねえだろ?」

「ぐうぅ………! 確かにその通りだが、もう二度とそれはせん方が良いぞ………?」

「あん?」

「ポイントを見ろ」

 言われた狂介はポイントを確認。

 狂介獲得ポイント22。金剛獲得ポイント32。

「ポイント1取られたっ!?」

「自爆もしっかりポイントされるらしいのぅ? この場合は『減点』と捉えるべきか?」

 感覚の代替わりを強要したところで、受けたダメージまで代替わりしている訳ではない。それが解った金剛は一つだけ攻略法を思い付いた。

(やれやれなんて事だ………? これでは東雲と戦った時と変わらんではないか………?)

 頭を振った金剛は両腕を『鬼化』して立ち上がると、明らかな防御の構えを取ってゆっくりと前進し始めた。

「? なんのつもりだよ?」

「ようはお()ぇの能力は攻撃ではない訳だろう? 所詮は痛い様に思わせる幻覚と変わりはねぇ。この鬼の(かいな)と化した『剛腕鬼手』、貴様のヘッポコパンチで撃ち抜ける物なら撃ち抜いて見せろよ?」

 カチンッ! っと言う音が聞こえてくるのではないかと言う程、狂介は表情を一変させ、額に青筋を立てた。怒りで口の端をぴくぴく痙攣させ、彼は声を震わせながら拳を握った。

「言いやがったなテメェ………? 確かに俺の能力は攻撃技じゃねえが………。ヘッポコパンチかどうか、試してみやがれっ!!」

 叫んだ狂介は真直ぐ飛び出し、イマジンにより強化された拳の乱打を放つ。鬼化した金剛の腕は、その攻撃に揺らぐ事無く受け止め続けるが、腕に走る激痛は、尋常ならざる物となっていた。まるで子供が大人の拳を受け止め続けるかの如く、骨にまで響く激痛が金剛を襲う。しかも狂介は己の感覚をも金剛に押し付けている。乱打による疲労感が、拳に、腕に、肩に、全身にと広がっていく。いくら鍛え抜かれた戦士であっても、疲労感を直接与えられては堪った物ではない。金剛は自身がどんなに余裕を持っていても、身体に与えられる感覚は、それを誤認させてゆく。

(ぬおおおぉぉぉ………っ!!! これは想像以上な―――っ! だがまだだ………っ! 今はまだ耐える! 予想通り痛みは激しくともポイントは奪われてはいない! そう遠くない内に必ず好機は訪れる! その時まで今は耐えるんじゃぁぁぁ~~~っ!!)

 例え肉体にダメージは無くとも、激痛と言うのは実際にダメージを受ける以上の効果を持つ。叩かれ続ける腕は痛みと言う感覚を超え、脳内を白く染め上げていき、謎のスパークイメージを生み出す。これはイメージを原動力とするイマジンの操作を不十分にする。金剛は根性でそれに耐えようとするが、生半可な根性ではとても耐えられそうにない。次第に『剛腕鬼手』と化した腕は人のそれに戻りかけてしまう。その事にも気付けぬ程に、激痛と言うスパークが視界を埋め尽くしてしまう。思考能力まで侵され、自分が何のために耐えているのかさえ不確かになっていく。バランス感覚も失われ、力の強弱さえ意識できない。体はぐらぐらと揺らぎ始め、片膝をついて傾いてしまう。

「おらああぁぁっ!! 隙だらけだぞっ!?」

 身体が傾いた事で出来た隙をついて、無防備な側頭部に向け、狂介の回し蹴りが綺麗に入る。『直感』がほぼオートと言える領域で発動し、イマジンをクッション代わりに展開する『緩和再現』が発動するが、緩和されたダメージとは思えない激痛が金剛の脳を直接襲う。

「あぐ、あ………っ!」

 もはや思考はない。何も考える事も出来ず、ただ齎される激痛に呻きを漏らす。

 意識がスパークに占領され、だらりと腕が下がる。

 ここぞとばかりに狂介の全力乱打が身体中に見舞われ、ポイントを奪われ、激痛を超える衝撃が頭の中を通り抜けていく。

「トドメだおらぁぁぁ~~~~~~っ!!!」

 ガッツンッ!! 骨が直接殴られるような音が響き、顔面を殴られた金剛がゆっくりと頽れる。

 両足が膝を付き、全身が脱力していく。金剛の瞳から光が失われていく。

 一瞬の静寂。

 ハッとするかのように光を取り戻す金剛の瞳。

「ぬっ、ぐ、あああぁぁぁ………っ!」

 呻き声を漏らしながら必死に立ち上がる金剛。人の手に戻っていた拳を鬼化させ、一気に振り被る。

「大した根性だけどよっ!? もうとっくに限界だろうがぁっ!?」

 激痛の痺れに緩慢になる金剛の動きより、握った拳にしっかり力を溜めた狂介の拳の方が速い。可能な限りのイマジンを拳に注ぎ、より強力な強化を再現する。振るい抜かれる拳は、未だ振り被っている金剛の拳が放たれるのを待つ事無く、顔面に向かって突き出される。

 ビュンッ! 拳は金剛の頬を掠め、脇に逸れた。

「んあ………っ?」

 刹那に金剛の口の端が僅かに笑みを作る。

(おのれの痛覚を遮断するぅ言う事は、自分の肉体に蓄積されているダメージに無頓着になると言う事。それは自分の体に異常が起きても、気付けんと言う事だ! 拳が砕けていようと、関節に不具合が出ていようと、疲労による筋肉の消耗さえもなぁ! 痛みはその不具合を知らせる信号でもある! それを遮断していては、根性でバランスを整えてやる事もろくに出来まいっ!?)

「貴様の痛覚を俺ぇが受け取っていた分! 解り易かったぞっ!?」

 金剛の剛腕鬼手が狂介を捉え、一気に吹き飛ばした。

 そう、これが金剛の狙いであった。金剛は確かに痛覚を強化され、その上狂介の痛覚を請け負う事になっていた。だが、それは逆を返せば狂介以上に彼のバイタルに詳しくなると言う事でもある。金剛は自分の身体に無頓着になった狂介が調子に乗って全力攻撃する様に仕向けた。結果的に狂介は自分の攻撃で自らの肉体を酷使、傷つけていき、勝手に一人でボロボロになってしまっていたのだ。そんな状態になれば、いくら防御に全力を尽くしたところで金剛の剛腕鬼手を受け止められるはずがない。この戦いがポイント制である以上、金剛に残された勝機はこの一撃に賭けるしかなかったのだ。

 地面を派手に転がった狂介は崖の端でギリギリで、手足を片方ずつ投げだす形になって止まった。その後ピクリとも動く気配はない。どうやら衝撃の強さに脳震盪を起こし気絶している様だ。

 戦術的な勝利は、間違いなく金剛の物となった。ただ、金剛にも予想外の事が一つだけあった。この出来事は予測はしていた。だが、堪えて見せるという気概はあった。まさかそれをぶち抜く程とは思わなかったのだ。

 金剛の与えた起死回生、逆転の一撃。その痛覚を狂介の能力により金剛自身へと押し付けられる。その衝撃のすさまじさは、放った金剛自身にとっても予測をはるかに上回る衝撃となって身体を貫いたのだ。

「やれ、やれ………、我ながら………、見事、な………、一撃よ………」

 そして金剛は地に倒れ伏し、意識を手放した。過剰な神経疲労により、ついに脳が全ての機能をシャットダウンしてしまったようだ。生命維持に必要な最低限の機能を残し、脳は全ての仕事を放棄した。腕を元の人間の腕に戻した金剛は、脳に仕事を放棄され、そのまま眠り行ってしまった。

「そこまで! 伊吹金剛の勝利ポイント獲得を確認! ………がっ、同時に両名の戦闘続行不可能状態を確認! この試合! 引き分けとするっ!」

 教師の宣言により、この勝負は惜しい所で引き分けとなった。

 後に狂介は、この勝負を引き分けとは認めず、己の敗北だと嘆き金剛にこう言ったと言う。

「次やる時は、俺の拳で絶対(ゼッテ)ェ叩き伏せてやるからなっ!?」

 

 

 04

 

 

 廃屋であった空間が元の白い部屋へと戻る中、鋼城(こうじょう)カナミは床にひれ伏し、疲れ切った表情を浮かべていた。彼女に勝利した腰に太刀を二本差している三白眼の少年、桜庭(さくらば)啓一(けいいち)は刀室に刃を収め、くたくた状態のカナミを見下ろす。

「良い勝負が出来たな。最後は能力の構造が勝敗を分けただけだ。互いの実力は拮抗していたと思うよ」

 啓一の言葉に、カナミは「あ~~~う~~~~………」っと意味の解らない呻き声を漏らす。

 彼女の能力『鋼鉄の戦乙女(アイアンヴァルキリー)』は、某変身ライダーの様に、自身の身体にパワードスーツを装着して戦う物だ。両手両足にイマジンセルと言うカートリッジシステムが搭載されており、スピーディーかつパワフルな戦闘を得意としていた。だが、彼女のパワードスーツはあっちこっちが傷だらけで、特にセルを収めた両手両足はズタズタに切り裂かれ、セルを打ち出せないようになっていた。

(こ、この人なんなんですかぁ~~………! 剣が見えなくなるだけの能力かと思ったら、一瞬で姿が消えて、気付いたら負けてたとか納得いかない~~~~………っっ!)

 内心涙をダバダバ流しながら、満身創痍で声も出せず倒れているしかないカナミ。

 それを知ってか知らずか、啓一はカナミを一瞥だけすると階段を上って廊下へと出る。

 彼は廊下に取り付けられた窓から他のクラスメイトの戦闘を観察しようかと思ったが、戦闘に時間を掛けてしまったせいだろうか、殆どの生徒が戦闘を終了していた。Cクラスの戦闘は誰もがガチンコ勝負なので、戦いが長引く事の方が稀だ。タスク勝負に持ち込めばそれこそ一瞬で決着が付く場合もある(過去一度もタスク勝負を行ったCクラスは存在しないのだが………)。戦闘に至っても単純な殴り合い思考なので、時間を掛ける要因がそもそも存在しないのだ。

(AクラスやBクラスはまだやっていそうだが、さすがに見に行くには遠すぎるか?)

 見に行く時間が全くないと言う事もないだろうが、彼も何気にくたくただった。カナミとの戦いで切り札を一つ使ってしまい、身体に負荷がかかっているのだ。

(まあ、このくらいなら少し休めばすぐに回復しそうだが―――ん?)

 不意に気配に気づいた啓一が視線を向けると、何やら言い争っている男女が廊下の端にいた。いや、言い争いうと言うのは語弊だ。明らかに女性の方が一方的に男性の方を糾弾している。

「ちょっと聞いてるっ!? さっきのアレは私をバカにしてたのっ!?」

「いや、そんな事は全然なかったです………」

「じゃあなんで私が完勝しちゃってんのよっ!? しかも一回も反撃されなかったってどう言う事っ!?」

「の、能力的な相性の問題でして………」

「それでもやれる事とかあったでしょうがっ!? あんな勝利納得できないわよっ!?」

「まったく御尤もで………、ははは………っ」

 啓一は二人のクラスメイトの事を頭の中で検索、思い出す。

 ヘッドホンを着用している女子の方は闘壊(トウカイ)響。

 金髪碧眼で常に笑顔を絶やさない男は新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)っと言う名前だった事を思い出す。

「どうした? 何か勝敗についてもめているようだが?」

 気になった啓一は二人に向けて尋ねてみる。

 尋ねられた響は、憤りをそのままに、キッ! と、啓一を睨みつける。

「こいつが戦闘中に最後までただひたすらに逃げやがったのよ!」

「そうか………。お前が悪い」

「え? 何これ? 俺今正に怒られてる最中なのに、なんで関係無い奴にまで責められてんの? しかもついさっきまで何も知らなかった奴に………」

 笑顔を絶やさない悠里だったが、その眼は何だか死んでいるかのようだった。

 彼の言っている事も正しかったので、啓一はうんうんと頷き―――。

(おれ)が悪い」

「真顔でなに言ってんのよアンタ………? ってか何しに来たのよ?」

「いや、ちょっと気になったから声を掛けただけだ。………あわよくば喧嘩に混ざれないかと思ってな」

「なんで混ざろうとしてんのよ………っ!?」

「ちょっと斬り足りなくて………」

「「ああ、その気持ちはちょっと解る」」

 此処でツッコミではなく理解されてしまう辺り、Cクラスのバトルマニア性が窺いしれてしまう。

「まあ、何はともあれ説教はそのくらいにしたらどうだ? それより己は他の対戦が見たい」

「一人で行け! ………ああ、でもちょっと待って。兄貴がまだやってるようなら見たい」

「どっちなんだか………」

 響の手の平返しを聞きながら、悠里も異存はないらしく、立ち上がりながら視線で了承した。

「じゃあ、ちょっと覗いてみるかな?」

 そう言って三人は、未だ対戦中のフィールドを探し、歩き始める。もう殆どの戦いが終了してしまっている中、一カ所だけ数人の観戦者が固まっている所を発見する。どうやらCクラスではそこが最後の戦いの様だ。

 三人は集団に混ざり覗き込む。対戦カードは『虎守(こもり)(つばさ)VS(くすのき)(かえで)』となっていた。

 

 

 ギャガガガガガッ!!!

 けたたましい騒音を立てる刃が、空を切り、そこにあるはずの物を捉えようとする。しかし、そこにあるはずの存在は霧散し、一瞬で別の場所に移動、再び集まり一人の少女の姿を模る。体操服に身を包むプロポーション抜群のショートヘアーの少女、虎守(こもり)(つばさ)は、己が能力『雷虎の化身』の切り札『雷化』により、自身を本物の雷へと変えていた。普段は黒い髪と眼も、能力の影響で変色し、金色に輝いている。

「ま、まったく………、なんでそんな凶暴な物を武器にして使いこなせちゃってるんですか………? こっちは切り札使ってるって言うのに………」

 ぼやく翼に対し、彼女の体を切り裂いた武器、チェーンソーを構える160前後の身長に、金髪碧眼の少女、(くすのき)(かえで)は冷たい程に冷静な瞳で虎守を見つめる。

 睨まれた楓は、とてもつまらなさそうに溜息を吐いた。

「? なに? まさか勝ち目がなさそうで落胆したとか言わないですよね?」

「ええ、まあ………、確かにその『切り札』とやらになられて、私の攻撃が全く通じなくなられた事には遺憾なのですけれどね? 点数的にもアナタが40で私が28と、劣勢な事も解っていますが………、はあ………」

 また溜息を吐く楓。その憐憫に満ちた表情には、一種の諦めすら見て取れる。

 決着が付く前から『諦め』をちらつかされた事で、翼は多少なり苛立ちを感じ始めていた。

 決着付ける前から諦め、こんなだらけた態度を取られるのは不愉快以外の何物でもない。圧倒的不利な状況で徹底的に叩きのめされたと言うのならまだしも、今はまだ接戦と言ってもおかしくないのだ。ならば力の限り出し尽くして挑戦するべきだと言うのに。それが翼にはどうしても許せなかった。

「じゃあ、さっさと終わらせてあげますよ。盛大にねっ!!」

 叫び、身体を一条の雷となって文字通り奔る翼。楓はイマジネーターの危機回避本能『直感』を頼りに攻撃を避け、あるいはタイミングを合わせてチェーンソーを振るい翳すが、雷となった翼の速度はあまりにも桁違いで順調にポイントを奪われていく。運良く当たったところで雷にチェーンソーの刃は立たない。

 身体のあっちこっちを静電気の様な痛みに襲われながら、楓は攻撃を躱しつつ悩む。悩み悩んで悩み続けた結果、瞳を閉じるとまた溜息を吐いて脚を止めた。

 ついに本格的に諦めたのかと、翼は訝しくも思いながらトドメをさすべく彼女に向かって飛来する。

「はあ、まったく………。本当に物理攻撃が全く効かないんですものね………。リンドウの花言葉(誠実)が欠けてしまいますが………、どうか私にムスカリの花言葉を送らないで下さると嬉しいです」

 そう呟いた楓がチェーンソーのエンジンを止め、右手を無造作に突き出し、中指と親指を合わせ力を込め―――、翼の手が楓の眼前を覆い、あと一歩で攻撃が届こうとした瞬間、その指がパチリッと音を鳴らした。

 

 ボワンッ!!!

 

 火の手は突然上がった。

 突然、本当に突然、翼の顔面が燃え上がり、爆発した。いくら雷化していても、無敵になったわけではない。属性化していると言う事は属性攻撃を受ける事でダメージが体に蓄積される。雷となっている翼も、爆発の衝撃と火の手からは逃れることはできず、堪らず顔面を覆いながら地面を転がった。

「う、うああ………っ!?」

 上手く声が出せず、悲鳴を上げられない。口の中や鼻、目の奥にまでじりじりとした火傷の様な痛みが広がっている。生身で受けていればシャレにならないダメージだったはずだ。肉体が雷となっていたおかげですぐに痛みは薄れたが、翼には一体何をされたのかが理解できなかった。恐らく楓に何らかの攻撃をされたのだろうと言う事は察しが付くが、どうやって攻撃してきたのかが全く想像できない。

(ともかく、脚を止めるのはまずいっ!)

 瞬時に奔った翼は、楓がさっきの攻撃を仕掛ける前に先手を打とうと後ろに回り込んで攻撃を仕掛けようとする。

 パチンッ! 再び上がった指の音。

 ボワンッ! そして同様に上がる火の手。

 今度は攻撃しようと突きだした右腕が燃え上がった。

「あ、ぐああ………っ!!」

 今度は根性で悲鳴を上げずに堪える。丸々吹き飛んだ右腕を雷として再生させる。やはり先程同様、生身で受けていればかなりの致命傷になっていただろう。

(く、くそ………っ! 一体何をどうしてるって言うんですかっ!?)

 ちょっと泣きそうになる程の痛みを我慢し、今度は楓の周囲をぐるぐると周る様にして奔る。楓の事を全方位から観察し、何をしているのかを確かめようとしているのだ。

「………うふふっ」

 薄く笑む楓。ばさりと髪を掻きあげる様にして、彼女は再び指を鳴らした。

 それだけだ。たったそれだけで生じた爆発と炎。右足を捥がれ、無様に地面に転がる翼。

「こう言う手品の様な攻撃は、個人的に攻撃しているという実感が湧かないので、物足りなさを感じてしまいますが………、どうか許して下さいね?」

 ズドンッ! っと、いきなり背中から地面にチェーンソーを突き立てられる翼。雷化しているのでダメージはない。チェーンソーはただ身体を通過しただけだ。だが、まるで、翼は体ではない何かを、冷たい刃で貫かれた様な錯覚を得る。

「アナタには物理攻撃が効かないんですもの? だから、こうするしかありませんわ」

 すっ、と、指が出される。

 察した翼が僅かに息を飲む。

「アナタは美しい。だからどうかせめて、その美しさに見合うだけの醜い花を咲かせて下さいね?」

 笑顔と共に、指が―――鳴らされた。

 度重なる爆発。翼の頭が、四肢が、爆発を上げて花の様に身体を飛沫として散らす。

 舞い上がる火の粉が花の様に咲く光景を背にするようにくるりと回った楓は、楽しそうに笑みを漏らし、翼に語る様に呟く。

「『緋紅の夢現花(ひこうのラフレシア)』。私の能力『猛火の火種』による爆発です。どうかご存分に味わってくださいな」

 猛火の花が飛び散る中、楓は68のポイントを獲得し、勝利を収めた。

 ゆっくりと歩き始め、雷化のおかげで五体満足に復活できた翼から距離を放そうとする。途中、フィールドが元の白い部屋へと戻り始めたタイミングで、楓は思い出したように肩越しに振り返った。

「そうそう? 先程のムスカリの花言葉ですが、アレはアナタに送った方が良いかもしれませんわね?」

「………なんですか?」

 雷化を解き、その後遺症とダメージにより座り込んだまま動けない翼は、嫌な予感だけを感じ取り、睨むようにして尋ねる。

 楓は笑みを消すと、満足いかなかったという様に、ただ答えだけを告げた。

「ムスカリの花言葉は………『失望』」

「………(ムカッ」

 優雅に立ち去ろうとする楓に向けて、翼は人差し指を立てると―――、

「えい」

 静かに、しかしたっぷりと怒気を込めて、軽く指を上に振る。

 瞬間、楓の踏み出そうとした方とは逆の脚が突然地面から押し返される様に浮き上がり、思いっきりバランスを崩した楓は地面を踏み損ねて顔面から床に突撃してしまった。

 ビタンッ!!

「きゃんっ!?」

 可愛らしい悲鳴を上げて転んでしまう楓。片手で顔を覆いながらわなわなと肩を震わせて振り返る。

「な、何をなさいますの………っ!?」

「いや、メッチャ腹立ったんで仕返し」

 超直球に返す翼。

「一体何をしたのか知りませんけど………っ! こんな事が出来るなら戦闘中に使えばよろしかったでしょう………!?」

「保険に『雷印』を脚に付けておいたんですけどね? ちょっと使うタイミングなかったんですよ。最初は私の方が有利だったし、後半はアナタほとんど動かなかったし………、それよりですよ?」

 翼は悪戯を思い付いた子供のような嫌な笑みを浮かべると、生徒手帳から手鏡を取り出す。

「美しい物がけがれるのが御好きなら、今の自分の顔が最高じゃないですか?」

 差し出された翼の鏡を覗くと、そこには綺麗な顔をしていたはずの楓の顔が、鼻を赤くして鼻血を垂らし、静電気の影響で髪の毛が羊の様にもさもさになっている姿が映し出されていた。とても先程までの美しい顔立ちをしていた楓とは思えない惨状だったのだが―――、

「………あら♡(ポッ」

「ちょっ!? なんでちょっと嬉しそうにしてんのっ!?」

「はっ!? つい美しさと醜さのギャップで………っ!? わ、私、ナルシストじゃありませんのよっ!? そ、そんな、自分にときめいたりなんてするわけないじゃないですのっ!?」

「そんな、顔を赤くして両手で頬を覆ってイヤイヤする様なツンデレ動作する様な場面っ!? 私思いっきり喧嘩売ったつもりだったんですけどっ!?」

「く………っ! 私に変な属性を目覚めさせようとするなど―――ちょっとドキドキしましたけど―――許せませんわっ! もう一度! 今度こそ全身切り刻んで差し上げます!」

「なんか予定と違うけど、もうこの際どうでもいいや! その喧嘩! 今日の夕食を賭けて買ってあげます!」

 何だか自棄になって叫ぶ悉だが、能力の後遺症で殆ど生まれたばかりの小鹿状態だ。さすがに見かねた比良(このら)美鐘(みかね)教諭は、額に手をやりながら溜息を吐くと、一言忠告の(げん)を述べた。

「生徒手帳の決闘システムはちゃんと使えよ」

「「はいっ!」」

 別に止める気はないらしい………。

 ちなみにこの後、二人は『決闘システム』の使用禁止期間での使用を咎められ、仲良く廊下掃除をさせられた。

 何故か止めなかった教師には何の罰もなかったと言う………。

 

 

 05

 

 

 八神(やとがみ)留依(るい)っと言う少女は、東雲神威のルームメイトだ。彼女は廃墟となった街の中、とあるビルの屋上で座り込み、休憩をとっていた。と言っても、現在は三年生の試合中で誘われたメンバーの一人として、とある人物の護衛をしている最中だったりする。護衛対象は今頃、このビルの屋上の扉から出ないと移動できない異空間の中で、全体指揮やサポートを必死に実行している最中だろう。護衛対象がやられてしまうと、自分のチームが一気に瓦解してしまうので、留依ともう一人が護衛につく事になったのだ。

「どうぞ留依様、紅茶を入れました」

 目の前に差しだされた紅茶を受け取り、留依は差し出してくれた人物に向けて礼を述べた。

「ありがとうマリアさん」

 赤紫の髪を肩ほどで切り揃えているメイド服の女性、ブラッディ・マリアはニッコリと微笑み屋上から周囲を見回す。

 護衛と言っても今は殆ど見張り役なので、ともかくやる事がない。少々暇を持て余すような状況ではあるが、留依としては今はありがたい。彼女はCクラスの生徒であり、例に漏れず、バトルマニアの気質はあるが、自分を大事にする事をこの学園で学んだ。それ故、戦闘に支障が出る程の後遺症を抱えている身としては、争いを避けられる事があり難い。試合には出たいと言う願望はあったので、危険しなかったのだが、チームメイトが気持ちを汲んでくれた事には素直に感謝の気持ちが芽生える。

 紅茶を飲みながら、そんな事を思い浮かべる留依だが、それでもやっぱり暇と言う物は拭いされない。せめて何か話題はないかとマリアに話かけて見る事にする。彼女は中々に話題の宝庫なのだ。

「ねえ、マリア? マリアから見て、今年の一年生は誰が最初に上がってくると思う?」

「私の意見でよろしいのですか?」

 周囲への警戒を怠らずに、マリアは留依の質問に答える。

「マリアの意見が聞きたいと思ったの。神威や刹菜、灯宴真(ひえんま)からは聞いたし、誠一は『生徒会長がそう簡単に自分の意見を他人に聞かせるわけにはいかないだろ?』って教えてくれなかった。ハクアは謝るだけで何も教えてくれなかったよ。十真(とおま)は………今はいないし」

「もちろん、私にも予想はありますけど、その組み合わせは何か意図があるのでしょうか?」

「意図も何も、マリアは上級生破りを果たした七人の一人じゃない? 注目くらいするよ」

 嘗て、世界初の上級生破りに挑んだ七人。神威、刹菜を筆頭にする有名どころ。蒼凪(あおなぎ)灯宴真(ひえんま)、灰羽ハクア、飛馬誠一、石動(いするぎ)十真(とおま)、そして今留依の前に居るメイド少女、『血濡れ侍女(ブラッドメイド)』ブラッディ・マリア。三年生の間では周知の事実であり、特に注目を集める七人なのだ。

 マリアは少々苦い物を笑みに含ませながら、謙遜する様に首を振った。

「破っていません。その称号を掴み取ったのは、間違いなく神威様と刹菜様です。十真様であるならともかく、私達がその名誉を受け取るわけにはまいりません」

「私も誘ってほしかったなぁ、神威、何も教えてくれなかったから」

「神威様には、何か思うところがあっての行動だったのだと思いますが………」

「うん、後から聞いた………。私を十真とくっ付けたくなかったんだって………」

「そ、それは………」

 とてつもなく重い溜息と共に告げられた一言に、さすがのマリアも次の言葉が出なくなった。

「でも、マリアやミスラは良いのに、なんで私だけダメって言うかな? 酷いと思う」

 少しだけ頬を膨らませる留依。思い出すだけでどうしても許せない物を感じて、つい膨れてしまう。

「だからもっと強くなって、神威に私を求めさせるの。そうすれば神威だって私を無碍にしたりできないだろうし」

 少しだけ真剣な表情を見せる留依に、マリアはちょっとだけ微笑ましい気持ちになる。ただ………。

「それと一年生の話はどう繋がるんでしょう?」

「あれ? どうしてだったかな?」

 自分でも話が脱線してしまい、理由が繋がらなくなっている事に今気付いた様子の留依。内心呆れつつも笑顔を崩さないマリアに、留依は少し慌てた感じに言い訳する。

「と、ともかく! 一年生について考察するのだって立派な勉強だし、上級生破りの七人の意見を聞いておくのも悪くない………よね?」

「ですから、私はその栄誉をですね………、はあ………、いえ、簡単でよろしければお答えしましょう」

 このまま話しても切が無くなりそうだと判断し、話を進めるマリア。その気遣いに気付いて顔を赤くする留依。大体留依はこう言う失敗をする事が多い。

「私は、一年生のトップに立つ方は二人のどちらかだと睨んでいます」

「二人? 誰と誰?」

「一人はAクラス、シオン・アーティア。双葉姉妹に話に聞く限り、相当な能力者の様ですよ? もう一人はCクラスの甘楽弥生でしょうか? 彼女の能力は戦闘特化のCクラスではほぼほぼ完成形と言える出来栄えらしいですし? 後は能力の組み合わせ次第とは思いますが」

「能力の組み合わせかぁ~~? 私も色々気を付けないと。またこんな失敗したりしたらとんでもないもんね?」

 そう言いつつ留依は下腹部、臍下丹田のある辺りを撫でる。

 何も言わずそれを見ていたマリアは、多少なり悲哀に満ちた視線を送ってしまう。

「でも能力系で考えるなんて、さすがは日本初の≪デュアスキル≫持ちのマリアだね」

「できそこないの≪デュアスキル≫です。日本初と言うにはまだ不適合ですよ」

 そう返した後、周囲をもう一度見回したマリアは、とある一点を見つめたまま、背中に居る留依に向けて伝える。

「留依様、アナタはきっと、まだまだ強くなれるはずです。でも、それは無理をしなければという前提があればこそです。『姫』と言う役割をこなす大業を、運悪く一人で担わなければならなかった事は同情申し上げますが、それと無理をするのは話が別です」

「え? なに? 突然どうしたの?」

 困惑する留依に、マリアはなおも伝える。

「御自分の事を御自愛ください。アナタを助けてくれる友に、私達がいるのだから。だから約束してください留依様。決して無理はしないと」

「? うん、マリアがそう言うなら約束するけど………、でもどうして? どうして今―――!」

 留依の言葉は途中で止まる迫りくる存在に気付き、マリアの意図に気付いたからだ。

 迫ってきたのは巨大な火の塊。それも超高熱の五メートルはある赤々と燃えた火の塊だ。真直ぐ向かってくるそれに対し、数歩前に出たマリアは自身の血を操り、手の内に巨大な槍を作り出す。

「『漆血槍ツェペッシュ』」

 呼び出された深紅の槍を構え、迫りくる炎弾を真っ二つに切り裂く。

 爆ぜる轟音。撒き散らされる熱と火の子。煙すら立つ事無く、炎に包まれ視界が全てオレンジ色に染まる。マリアはもう一薙ぎ槍を振るう事で全てを薙ぎ払う。すると、先程まで二人しかいなかった屋上に、第三の影が現れていた。

 黒の短髪に多少高めの身長。凶暴なまでに戦意を露わにする猛獣のような表情を浮かべ、鋭い眼光にて、彼女達を見据える。上級生破りに挑んだ七人の一人、蒼凪(あおなぎ)灯宴真(ひえんま)の登場であった。

 その瞳の色は、使う能力のレベルに応じて変わる。先程放った炎が一番弱い『赤』だったが、今は既に『蒼』に代わっている。ランク3の状態だ。

「約束しましたよ留依様。これは試合です。あの時とは違います。ですからどうか、彼との戦闘は避けてください。例えチームが負ける事になろうともです」

 嘗て上級生破り挑んだ猛者が、最上級生となり再び相対する。その壮絶な光景を前に、留依は圧倒され、座り込んだまま動けなくなっていた。それを自覚し、マリアの気遣いが的を射ている事を納得し、その上で彼女は悔しげに拳を握った。

 

 嘗ては自分も、その世界に正面から挑める一人であったはずなのに………。

 

 『姫候補』と言う重荷を再び実感しながら、彼女は羨ましげに激戦の光景を見つめるしかなかった。

 ―――っと、同時に彼女は思う。今年の一年生達は、果たして『姫』としての役割を担えるだけの器があるのだろうかと?

 もしいないのであれば、きっと自分はまた無茶をしなければならない。そうなってしまえば、この光景の中に、自分は二度と加わる事は出来ないかもしれない。その不安が、彼女の中で静かに淀みとなって育ち始めていた。




あとがき

オルガ「あのさぁ~? ちょっと疑問に思ったんだけどさぁ~?」

弥生「どしたのアンドレ?」

オルガ「ウチの学校の制服って、そんな地味なセーラー服だった? 真っ黒じゃん?」

弥生「違うよ。これは僕が前の学校で着てた制服」

オルガ「は? なんでやよはそんなの着てるの? まさかこの学園の制服着るの忘れてそんな格好してるの? 正直女の子としてそのチョイスは………」

弥生「未だにパジャマから着替えようとしない君にだけは、何も言われたくないんだけどね………」

弥生「そうじゃなくて………、生徒手帳読んでないの?」

オルガ「ん~~………?」

弥生「もう………っ、この学園の制服は、支給されるまでに一カ月かかるんだって? 理由は誰に聞いても教えてもらえないんだけど………、それまでの間は、前の学校で着てた制服を着る事って、ちゃんと記載されてるよ? 先生からも通達あったでしょう?」

オルガ「そうだっけぇ~~………?」

弥生「そうだよ」

オルガ「ん~~~………? でも、この学園の制服って見た事無いよねぇ~~? 下界(ギガフロートの外の世界)で放送されてるのは戦闘服ばっかで日常風景とかないし。ここに来てから一度も先輩達を見てないしさぁ~? ………いや、寮長の先輩には会ったけど、あの人私服だったし………」

弥生「僕が引っ張り出さなかったらいつまでも引きこもり続けちゃってる人が何を言うのか………? でも、確かに変な感じだなぁ~? 一体なんでだろう?」

オルガ「まあいいや、興味無いし………」

弥生「自分から話題振った癖に―――っ!?」





正勝「うぅ~~………、なんでここの連中は皆して殺る気満々マンなんだよぅ~~………、マジ怖ぇよぅ~~~………っ!」

詠子「ふふっ、その程度の基本特性も知らずにこの幻争(げんそう)理想郷(ユートピア)に来たと言うのか? 愚か者めっ!!」

正勝「だれっ!? って、確か………詠子ちゃんだっけ? クラス発表の時ちょっとだけ話した………?」

詠子「どうやら、運命の記憶(ディスティニーコード)の消失は間逃れていたらしいな………? ならばまだ救いもあると言う物」

正勝「は、はあ………?」

詠子「良く聞け! 元は一般人でしかなかった私達が、この学園に来て、どうして何の躊躇もなく同朋刃を向ける事が出来るのかっ!? それこそがイマジネーターがイマジネーターと言われる由来! その根底を垣間見る一旦なのだ!」

詠子「イマジン! その理想の杯(聖杯)に満たされし全知の光をたまわった時! 私達の魂には、全てにおける驚異を判別する本能、『驚異判断(レベルスキャン)』を見に付ける事が可能となる! これにより、私達はどの程度の力を使えば過ちとなるのか、安全となるのか、それらを判断する事が出来る様になる! そうっ! 魂の昇華『ソウル・オブ・ハイランク』を得るのだ!」

詠子「故に! 私達は同朋に対して、授けられた理想の力を解放する事に、躊躇が無くなると言う事だ! 無論、全力を出すかどうかは個人の意思に委ねられている。故に洗脳ではない」

詠子「解ったかっ! 解れば貴様も内なる魔性の力を解放する事だ。己の欲に喰われにゅ覚悟があるならばなぁっ!!」

正勝「あ、ああ………(噛んだ………)」

正勝(………。たぶん、説明してくれていたんだろうけど………)

正勝(何言ってるのかさっぱり解んなかったっ!?)

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