ハイスクール・イマジネーション   作:秋宮 のん

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読者参加型作品です。
作者のキャラでのプロローグです。ご参考になればと思います。
詳しい説明はhttp://www.tinami.com/view/697248をご覧ください。
投稿先はhttp://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=41679&uid=35209っとなっております。
また、注意事項などはhttp://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=93745&uid=35209に載せていく予定です。


プロローグ

ハイスクールイマジネーション

 

プロローグ00

 

 

 見渡す限りに大地と空しか存在しない平野。高度一千万メートルに届こうと言う空の彼方からでさえ、地平線の先を見通すが困難な大地。空には雲一つない完全快晴。太陽は頂点に高く上り、影を作る事無く大地を照らす。

 誰が信じるであろうか? この地が日本上空に作られた浮遊塔であり、よもや約三千ヘクタールっと言う小さな島の上だとは誰も思わないだろう。否、思える筈がない。この景観と数値は、明らかに矛盾している。数値上は沖縄と変わらぬ面積を示しておきながら、上空一千万メートルの高さから地平線しか望めぬなどと、地球の規模から考えて明らかにおかしい。

 だが、それは事実存在している。存在するこの島に、今、二つの影が空から舞い降りる。

 いや、舞い降りたと言うのは語弊だ。なんせその二つは、自由落下に任せ凄まじい音を立てて地面に落下したのだから。

 地響きでも起こしたのではないかと疑う程の爆音、上空高く巻き上げられる砂塵。

 煙となって立ち込める砂が、自然の起こす風に乗って払われるまで、しばしの時間を要した。

 やがて煙が晴れ、二つの落下地点から、小さな穴を開けた二つの影がむくりと体を起こす。

 

『ついにっ! ついにッ!! ついに~~~~~~ッ!!! やりました! 成し遂げました! この学園始まって以来の快挙!! 奇跡!! 神話の再現ッ!!! 我々は、歴史的瞬間を目の当たりにしたのですっ!!』

 

 続いて響いた男の声は、二つの影を映すモニターを観察するとある会場で発せられた物だ。会場はプロ野球ドームなどを軽く埋め尽くさんばかりの巨大ステージとなっていて、中心から多角面に配置されたモニターを取り囲むように出来ている。その人数は、都市一つ分の人口が一気に寄せ集まったのではないかと言う大人数となっている。

 モニターを観察する観衆達は、響き渡る実況の声に耳を傾けながら、モニターを取り憑かれた様に注視する。

 

『未だ嘗て誰もなす事が出来ないとされた一年間の壁………っ! 絶対不可能とされ、最弱と最強の打ち合いであっても、多対一であっても、その事実話す事が出来ないとされていた事実を………っ! 今この瞬間、二人の二年生がやってのけましたっ!! それも麗しき少女が二人、ついに三年生を打ち倒す快挙を見せたので~~~~~~すっっ!!!』

 

 モニターに二人の少女の姿が映し出された。

 瞬間、固唾を飲んで沈黙を守っていた観衆が一斉に割れた。

 空気振動だけで強化ガラスを粉砕するのではないかという大音量に、会場が熱く燃え上がる。

 モニターに映し出されたのは二人とも同じような少女だった。

 細かな違いはあれど、二人とも巫女装束を纏い、黒く長い髪をストレートに垂らしている。細かな違いと言えば、片方は髪を無造作に流していて、あまり装飾のされていない簡素な巫女装束なのに対し、もう片方は白い髪を片側だけ結い纏めていて、腰にはとぐろを巻いた龍の家紋と刀を帯びていると言う事だ。

 互いに満身創痍で、立っている事さえ億劫だと言わんばかりの疲労が見て取れる。服はボロボロになり、露出した肌が際どい所まで晒されている。恥部を隠すのも辛そうに、震える手で服を整えながら、二人は互いを見て弱々しく笑い合う。

 

『皆様どうか拍手を送ってください! そしてどうか二人の名前を心に刻んでいただきたいっ! 術と式神を巧みに使い、事象干渉にすら至った齢二十歳の彼女の名は、東雲神威ッ!! 対するは長年彼女と因縁のライバルであったと言い、この学園でもまた並び立つ双頭、同じく術と、退魔の剣技を取得した齢十八の少女の名は朝宮刹菜ッ!! 絶対不可能とされた上級生撃破を辛くも成し遂げた二人の名です!!』

 

 再び会場が拍手と歓声で沸く中、笑い合う二人、神威と刹菜は、隠しきれない疲労感を引きずりながら話し始める。

「刹菜、まだやれそうか?」

「上級生を相手にしたのよ? アナタに付き合う以上の疲労を抱えてまだやれると思うの?」

「はっははっ! その通りだな! ………私も見栄を張って前のめりに倒れ込むのがやっとだ。とてもこれ以上は続けられそうにないよ。まだ少し、試合は続いていそうだがな………」

「私達はこれ以上無理だと思いますよ? 下級生で残ったのは私達二人だけなんですし、よくやった方じゃないの? ………悔しい気持ちは一緒だけどね。それでも、もうこれ以上三年生を相手に戦えるなんて、見栄もはれないわ」

「私もだよ………。だから刹菜、最後に一回だけ付き合え」

「はいはい………。最後は私達の決着でしょ? こればっかりはどんなに疲れていても付き合うわよ」

「―――っとは言え、互いにもう一撃が精一杯といったようだがな?」

「一撃相手してあげるだけでも満足してよ。決着がつく前に撃ち合ってる最中に力尽きてシステムリタイアさせられるかもしれないんだから?」

「無論、解っているさ」

 二人が最後の一撃を宣言し、互いに構えを取ると、意外な行動に観衆達が更にヒートアップする。

 観衆達の存在を知る事も出来ない遥か彼方で、二人は互いの力を解き放つ。

「カムイラム!!!」

「夢幻鬼道流奥義・甕布都神(ふかみつのかみ)!!!」

 最後の激突を果たす二人の姿を目の当たりにする観客の中、多くの少年少女達が胸を躍らせ瞳を輝かせた。十八歳未満の彼等は心の昂りを抑える事も出来ず、ただ感動に震え上がっていた。

 一体、何人がこの瞬間に同じ思いを重ねた事だろう?

 

((((いつか、自分も―――ッッ!!))))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロローグ 01

 

 

「ちょっとぉ―――っ!? 本気なの弥生っ!?」

 滋賀県内、とある中学校、放課後の時間、三年生の教室にて、少女の声が木霊する。

 声の主である眼鏡に長髪の少女は、目の端を吊り上げ、未だ席に座り、帰り支度をしている友人に問いかける。

 その隣では、同じく心配そうに眉を顰める、長身、短髪、無表情の少女が見下ろしていた。

 叫ばれた本人、黒く長い髪をうなじの辺りで束ねた少女、甘楽弥生が苦笑いを浮かべる中、メガネの少女は更に続けて質問する。

「一般高校受けないって本気なのっ!? 調理系の高校からオファー来てたんでしょっ!?」

「一般高校受けないって事は………、何処の高校? 弥生、成績悪くは無いけど、専門校は家庭科以外は難しいでしょ?」

 友人二人に問いかけられ、弥生は苦笑いを消せないまま、素直に答える。

「うん、えっと実は………『イマジネーションスクール』に通ってみようかな? って思ってます?」

「「はぁっ!?」」

 二人の友人は同時に声を上げた。

 

 『イマジネーションスクール』

 それは、現在この世界に三つしか存在しない超オカルト技術により空に浮かぶ、浮遊都市にして、『イマジン』なる万能にして謎の力を研究する“学校”の総称である。

 入学基準がとても広く、下は物心ついていればいくら低くても許され、上限年齢は二十とされているが、それ以上であっても入学テストは基本的に許されている。国籍及び過去の履歴をまったく問わない、正に開いた門。

 しかし、これだけ候補者を広く募り、毎年一校だけでも数千規模の参加者があるにも係わらず、実際入学できた生徒はかなり上下差が激しい。たった一人しか入学できない時もあれば、参加者全員が入学できてしまえたなどと言うケースも良くある話だ。ただ、上限年齢を超えた参加者が入学できた試しは、未だに一度もないと言われている。

 

「正気なの弥生っ!? あそこはテレビでも有名な―――いいえっ! 今や世界的有名な超戦闘派学校なのよっ!? 確かに入学出来れば、生徒は皆、研究協力者扱いにされて、毎月お金も貰えるって話だし、全寮制なのに男女同棲している学生カップルもいたりするとか聞くけど―――っ!?」

「落ちつけ、最後のはわざわざ上げる必要があった?」

 長身少女の冷静なツッコミを無視し、メガネ少女は更に語気強く言い募る。

「弥生っ! アンタ足がちょっと速くて、体力が男子の平均に毛が生えた程度の、家庭科好き少女でしょうがっ!? そんなアンタがなんでバトルでスクールなスカイなタワーに上る必要があるのかっ!?」

「“スカイなタワー”?」

「気にするな弥生。コイツはせめて“スカイタウン”と言うべきところをわざと間違えてるんだ」

「シャラップ! ともかく納得のいく理由を提示してもらいたいのよ私は!」

 メガネ少女が眼鏡をキラリと光らせながら問いかけ、弥生は少々戸惑いがちに頬を掻く。テンションの上がるメガネ少女に対し、長身少女は落ち着いた様子で友人のフォローをする。

「まあ、それは私も気になってるんだよね? 弥生、栄養士になるのが夢だってずっと言ってたじゃない? それがどうして突然『イマスク(※イマジネーションスクールの略)』に入るなんて言い出したのさ?」

 友人の落ちついた質問で答え易くなった弥生は、一度くすりと笑ってから答える。

「きっかけは今年公開された日本の『イマスク』の『全校生徒最強王者決定戦』の会場に行った事かな?」

「ああ、アレ会場に行っても直接見られるわけじゃないから、ぼったくりじゃね? って噂の? 行ったの?」

「とんでもないよっ!? テレビ中継何かと比較にならない臨場感に、リアルタイム観戦! 解説者の細かい説明は、バトル中に素人にも解らない内容を的確に説明してもらってるし、いつどこでバトルが始まってるのか解らないのに、画面は常にバトルを見逃さず中継されているし! 何より迫力が違い過ぎるんだよっ!? ぼったくりなんて言う奴等は、直接見た事無い連中の妄言だね! 絶対ッ!」

 机に手を付き、身を乗り出して興奮気味に断言する弥生に、友人二人は呆気にとられる。

「おおっ!? 珍しく弥生が興奮してるわね………っ!?」

「それで? その迫力に呑まれて自分もやりたくなったの?」

「端的に言えばそう言う事になるかな?」

 長身少女の冷静な返しに、弥生も自分のペースを取り戻し椅子に座り直して返す。

「って言うかね? 元々僕が栄養士になりたかったの、僕が担当したスポーツ選手がオリンピック常連になるってジンクスを語られるくらいになりたいって言うのが理由だったんだけど………、自分で身体動かすのって、元々好きだったし何より―――」

 一瞬、弥生は言葉を途切れさせ、あの戦いの瞬間を思い出す。

 絶対不変と言われた上級生と下級生の壁を世界初成し遂げられた瞬間。

 贔屓目無しに歴史の目撃者となったあの名場面は、今でもニュースで何度となく取り上げられている。

 だが、弥生が最も心に残ったのは、三年生撃破の瞬間ではなく、その後すぐに行われた最後を振り絞った一騎打ちだ。満身創痍の身体に鞭打って、持てる最後の力を結集した好敵手との決着。あの時、弥生の胸の奥に燻っていた物が目覚めた。それは二度と眠りに付く事を許さぬほど、今も胸の奥で低い唸り声を上げ続けている。

 この何かを解き放ち、存分に暴れさせてやりたい。その欲求が、弥生に決断させる要因となっていた。

「………僕は、どうしてもあそこに行きたくなった」

 はっきりと決意を口にされ、友人二人は押し黙ってしまう。

 長く三人で付き合っていただけに、彼女の進路(決断)に、戸惑いを隠せない。

 二人の反応を感じ取った弥生は、ニッコリ笑って何でも無いように語る。

「大丈夫だよ? 『イマスク』って、怪我人も多いし、死者もかなりだって言うけど………蘇生率100%だし」

「それ逆に不安になる要因だろ?」

「何より、戦いばっか目立ってるけど、ちゃんと文化方面の大人しい研究課程もあるって話だし、向こうに行っても栄養士の勉強はできるみたいだしね?」

 笑う弥生に対し、友人二人はまだ不安そうな表情をする。

 ただ単純に進路が変わると言うだけではない。険しいと一言で語る程度の問題でもない。

 世界に三つしか存在しない『イマスク』の一つは日本上空をゆっくりと移動している。この浮遊の技術も、日本上空にとどまった移動も、全ては正体不明、研究中のイマジンによるものだ。その力を人間が使用するだけでも不安はある。単純な魔法技術と言うにはあまりにも万能が過ぎる力だ。正に神の力を盗み取っているに等しい。世界の理、物理法則、異世界間交流、新たな生命の誕生、法律的、研究段階的禁止事項は幾つもあるものの、それら全てが可能となる、万能の過ぎる力(、、、、)、そんな物に関わる事の恐ろしさと不安に、身近な者が関わる事でやっと認識した友人二人。彼女達の心中は穏やかな物であるはずもないだろう。

 それを長い付き合いから、なんとなく感じ取った弥生は、もう一度元気づける様に満面の笑顔を向ける。

「本当に心配しなくて大丈夫だって! 僕だって、個人的に色々調べた上で行くって決めたんだから、後悔なんてしたりしないよ? もし途中退学になっても、『イマスク』に在籍していたってだけでポイント高いから、別の高校に転入させてもらえるかもだし!」

 軽く両手の拳を握って、「がんばるっ!」っと言うポーズをとってみる弥生だが、友人二人の顔は浮かないままだ。内心焦りながら弥生は何かもっと『イマスク』を褒める所はなかっただろうかと模索し、思い付いた一言を伝えてみる。

「何より御飯がすごく美味しいらしいよっ!!(キラキラッ!」

 個人的には一番重要な内容だったと後に語る………。

 あまりにも瞳を輝かせてバカな事を言ってくるので、友人二人は彼女らしさに救われたかの様に笑いを零した。同時に噴き出されて、弥生の方が頭に?を作りながら、よく解って無い笑みを向ける。

 友人二人は、同時に頷き合うと、弥生に向けて笑顔を向けた。

「もう解ったよ。弥生がそう決めたって言うなら何も言わない。がんばって行ってきなよ! そしてどうせなら一番目指しておいでさっ!」

「私も止めない。でも、たまには連絡寄越しなよ? 一応は研究学校みたいだし、色々スケジュールが大変そうだけど、私らは応援してるからさ」

「………! ありがとう二人とも!」

 友人の声援を受けた弥生は嬉しそうに笑いを漏らすと、安堵の表情を浮かべた。

「これで僕も、心おきなくイマジン塾に通えるよ」

「「………は?」」

「ん? だからイマジン塾。『イマスク』に入学するために勉強できる塾の事だよ? 今日から放課後は、毎日通う事になってるの! 何しろ入試試験までもう日取りもないからね! 今日から死ぬ気で特訓しなきゃ!」

 捲し立てた弥生は、鞄を持って立ち上がると、片手を上げて、いそいそと帰路に付く。

「それじゃあ、二人ともまた明日ね~~♪」

「「ちょ………っ! ちょっと待ちなさ~~~いっ!?」」

 慌てる友人二人を余所に、弥生の疾走は止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロローグ02

 

 

 ドバッシャアアァァンッ!!

 

 出雲のとある山にある神社にて、境内の池から大きな水音が鳴り響く。まるで飛び込みしようとした者が失敗して、お腹から水面に打ち透けてしまったかのような盛大な音に、驚く者は誰一人いない。唯一存在する人間は、その池の音を鳴らした本人だけだ。

「ぶは………っ!!」

 その本人であるところの少年、東雲カグヤは、浅い池から身体を起こし、息を荒げながら、自分を叩き落とした犯人を見上げる。

「………いい加減、諦めたらどうかしら? 無駄な努力を積み重ねると言うなら、その心が折れるまで相手をしても、こっちとしては何も困らないのだけれど?」

 ずぶ濡れの彼を見降ろす、黒い装束に身を包む少女は、煩わしそうに告げる。黒曜石を思わせる冷ややかな瞳はカグヤを見ていながら、まったく興味が無いと言わんばかりに空虚だ。

 その視線は生物は愚か、存在そのものを認めていないと言う様で、見られているだけで心が削られる眼差しだったのだが、見つめられている少年の方はあまり気に留めていない様に標準的な表情だ。

 男にしては長いセミロングの黒髪は、水に濡れた今は顔を隠し、女性的な雰囲気を見せてさえいる。前髪で隠れた瞳は青みを帯びた黒色で、顔立ちは丸みを帯びている。やはり女性的顔な上に、彼の身体つきも極めつけの様にほっそりしている。着ている服も青の袴を穿いた巫女装束。濡れてはり付いた胸元にはささやかながら膨らみがあるようにさえ見える。何も知らない人間に、彼の姿を見せれば100%が女性と答える事だろう。

 少年は身体を起こし、水を含んだ服と髪を軽く絞って身体を軽くする。池から出ながら黒い少女を見つめ返す。彼の眼差しは動じていない―――っと言うよりは普段から見下され慣れていると言う様に見える。だが、それでいて何故か卑屈さがまったく感じ取れない。まるで高次の存在と対した時の適切な態度を弁えていると言うかのように、まったくまったく意に介していない。

「文句言われても止めるつもりなんて無いぞ? お前は義姉様からのプレゼントなんだしな」

 態度を弁えていながら、不遜とも言える言葉使いで黒い少女を軽く睨めつける。しかし、その声もまるで声変わりする前の幼子の様で、やはり女性的だ。不遜ではあるが威圧感に乏しく、非難めいたセリフすら甘え事を言っているように聞こえる。

「それが気に入らないと言っているのよ。私が従うのは私の生みの親であり、主でもある神威ただ一人………。それをどうして弟と言うだけでアナタに譲られなければならないのかしら? 闇御津羽(クラミツハ)の名を与えられて生まれた私が、ただの人間如きに従えると思うの?」

 その声は静かで、とても透き通っている。侮蔑も嘲笑も無く、ただ事実を語っているという皮肉ささえ存在していない。目の前に存在している野球ボールとバスケットボール、どちらが大きいかを聞かれ、答えただけの様に、感情すら籠っていない声音だった。

 常人ならさすがに心労を覚えるか逆切れしたくなるような、まったく存在を確認していない声に、やはり少年は慣れていると言わんばかりの表情で普通に答えを返す。

「だから義姉様は『カグヤに屈服させる事が出来れば』っていう条件を付け加えたんだろ? それが今に至る状況なんだから、諦めるしかないって。恨み事や愚痴なら義姉様に言ってくれよ。イマジンも持たない俺に、『イマジン体』である君を力尽くで屈服させるなんて、無茶ぶりさせられているのはむしろ俺の方なんだからな」

 呆れたように呟きながら、少年は手に持っていた小太刀を構える。既に何度も打ち合った後なのか、既にははボロボロになっていて、いつ折れてもおかしくない。

「………、何かしら考えがあるのなら付き合うのも良いのだけれど、アナタは半年間、ただ私に体当たりしていただけに見えるのだけど?」

「とりあえず殺されないらしいからな? それなら我武者羅にやってみるしかないかと思って? 時間制限も特にないからゆっくりやらせてもらってるぜ?」

「この半年間で、アナタの人柄は良く解ったつもりよ。案外一筋縄ではいかないところも、神威に似ているわね。さすがに彼女に育てられただけの事はあるわ」

「そう思うか?」

 突然少年が満面の笑みを浮かべた。まるで自分の事を褒められた子供の様に無防備な笑みだ。その笑みも当然女性的ではあるが、黒い少女に比べればとても人間味溢れている。

 その笑みを受けた黒い少女、闇御津羽は、僅かに微笑を浮かべた。

「ええ、さすがは我が主。イマジンを未だ持たぬ人間に、ましてや全ての人間の中で最も才に恵まれていないであろう存在に対し、ここまでの逸材に仕上げた。感銘の意を言葉で表す事が出来ないほど」

「だよなっ!」

「ええっ!」

 ここにいない別の誰かに対して、何故か意思疎通した二人が胸を張って笑い合う。この瞬間ばかりは闇御津羽にも人間味を感じられた。

 だが、すぐに表情を消すと、少女は少し寂しそうにカグヤを見つめる。

「それでもアナタは私には勝てない。イマジンを使う者、『イマジネーター』に普通の人間が敵わない事は理解しているでしょう?」

「解ってるさ。今まで一番近くで見てきたんだからな。『イマジネーター』に人は絶対勝てない」

 認めた瞬間、唐突に少年の笑みが挑発的な物に変わる。

「でもお前には勝てる」

「っ」

 その笑みが浮かべられた瞬間、先程まで分を弁えていた少年の雰囲気は消え失せていた。そこにいるのには、何処までも他者を見下した愚者の顔だ。王座に付くでもなく、蛮行を振るうでもなく、ただただ相手を見下す愚か者の視線。

 闇御津羽の瞳が細められる。

 それがスイッチだったかのように、彼女の背に三対の黒い翼が出現した。その翼は影から現れたかのように黒く、一切の光を帯びず、柔らかそうな羽毛の気配すら全く見せていない。触れれば切れそうな鋭利な翼を広げ、腕組をしてカグヤを見据える。

「その言葉がはったりでない証明をしてみなさい」

 自分を見下す者に対しての怒りも無く、軽蔑も侮蔑も無く、ただ言葉の真意を判別してやろうと言うかのように彼女は迎え撃つ構えを取る。弱者に対する絶対強者の構えの様に。

「そんじゃ驚いてもらおうかねっ! オン・アミリタ・テイセイ・カラ・ウン!!」

 刀を地面に突き刺したカグヤは、両手の指を複雑に組み合わせ、印を結ぶと真言(マントラ)を口にした。

阿弥陀如来(あみだにょらい)の真言? しかし、イマジンも持たぬ身で唱えたところで、ただの言葉に過ぎないはず?)

 ―――っと、その時彼女は一瞬だけ浮かべた疑問が、確かな隙を作った。時間にして瞬きに等しい一瞬に、それは起こった。

 二人のいる庭には、山の中にあるにも拘らず壁による隔てりが存在せず、庭と森が一緒になっていて、境が全く解らない。そのため、二人のいる場所は境内の庭にも拘らず、幾つかの木々が彼らを取り囲んでいる。その囲んでいた木々に貼られていた数枚の札が、淡い光を燈し、光の線を伸ばす。線は闇御津羽へと集中し、彼女の体を束縛していく。

(っ! この札はこの半年の間に、彼が練習と称した一人遊びのために貼った物っ!? まさかこれを作るための布石………っ!? いや、それよりもこの光には微小ながらもイマジンを感じ取れる! 一体何処から術を発動できるだけのイマジンを―――っ!)

 尽きぬ疑問を一蹴したのは、思考の世界における一瞬。瞬きの間もなく彼女の頭はクリーンな状態へと落ち付き、冷静に判断する。

(どのみち、この程度の束縛でどうこうできるはずも―――っ!)

 束縛を破ろうと腕に力を込め、簡単に光の束縛を破ろうとした時、破られる一瞬早く、カグヤが次の手を打つ。

「オン・バサラ・ダトバンッ!!」

 印を組み変え、続く真言(マントラ)に導かれた札が輝きを持って光の輪を作り、彼女に新たな束縛を追加していく。

(今度は大日如来(だいにちにょらい)真言(マントラ)ッ!? しかし、まだ………っ!)

 新たな術に対し、鋭利な黒い翼で切り裂くべく、落ちついて対応しようとする闇御津羽に、もはや待った無しでカグヤの真言(マントラ)が綴られて行く。

「オン・アキシュビヤ・ウン! オン・アボキャシッデイ・アク! オン・アラタンナウサンバンバ・タラク!」

 次々と印を組み変え、真言(マントラ)を唱え、それぞれの札に呼びかけ、新たな束縛の術を組み上げていく。

阿閦如来(あしゅくにょらい)不空成就如来(ふくうじょうじゅにょらい)宝生如来(ほうしょうにょらい)まで………? コレでは複数の術が絡み合って上手く力を制御できないのでは?)

 カグヤが使っているのは間違いなくイマジンを行使した仏教の神の言葉を再現した、呪的効果を持つ真言(マントラ)だ。カグヤが今口にしたのは、それぞれの如来の御力を借りるための言葉で、それぞれが役割の違う仏の力を一度に呼び寄せてしまっている。カグヤ自身がどのような意味を用いてこれらの術を行使しているのかは解らないが、既存の言葉と知識を用いている限り、それらは世界における常識から逸脱してはいない筈だ。

 イマジンは他者と自分のイメージにより、力の優劣が大きく左右される。

 

 

 例えば、『ロンギヌス』と『グングニル』を例に挙げると解り易い。

 『ロンギヌス』とは、その真実を辿って行くと、実は『ロング・ギヌス』と言う言葉がなまった物が由来とされている。『ロング・ギヌス』、つまり『長い槍』の意味だ。

 元々『ロンギヌス』は聖人キリストを処断した、ただの槍だった。だが、聖人の血を浴びた槍がただの槍であるわけがないと言う“イメージ”が、『ロンギヌス』の逸話と存在を創り出した。

 イマジンの仕組みとは、この原理をそのまま現実に存在する理の一部として認めた物。つまり『イメージ』を『本物』に変えるものだ。

 なら、より強いイマジンとは何か? っと言う疑問に戻る。

 先程述べた『ロンギヌス』、この名を聞いた者は『何でも切り裂く槍』っと言うイメージを持っている者が多い事だろう。それはつまり、相手と自分が同じイメージを持つと言う事になる。このイメージ、ひいては情報を共有している事がイマジンの強弱を決める。『ロンギヌス』程のビックネームなら、知らぬものは殆どいない。故に、この名を持つ能力は、名の由来に則る限り、その力を強力な物として維持できる。

 しかし、実はこの能力、簡単に弱体化させる落とし穴が存在する。それが逸話や歴史、伝承などに記される明確な“弱点”である。

 今述べた『ロンギヌス』で例えるなら、その正体、『ロング・ギヌス』こそが正にそれだ。『ロンギヌス』の由来を聞いた者の中には、こう思った者もいたのではないだろうか?

 

「あれ? じゃあ、『ロンギヌス』って、有名な偉人の血を浴びたってだけで、実はただの長い槍なの?」

 

 ―――っと。

 これが落とし穴である。

 伝承などに則り、その強力さを再現すると言う事は、同時にその弱点までも再現してしまう事に他ならない。一度「この能力は実は弱い」と思われてしまえば、その力は一気に激減してしまうのだ。

 ただし、相手と自分の間だけでイメージを共有する事で発動しているのがイマジン―――っと言うわけではない。なので、「この能力は弱い!」っと思い込む事で、相手の力を弱体化できるなどと言う事は無い。もしそんな事をしてしまえば、そいつは呆けた顔のまま、身体をバッサリと二分割されてしまう事だろう。

 これに対する対処としてあげられる例が………、ここでやっと挙げられる『グングニル』の例えだ。

 『グングニル』は、その逸話を辿れば、主神と名高いオーディンの持つ、神槍であり、絶対命中の力が宿った本物の神具だ。

 『ロンギヌス』とは違い、弱点らしい弱点も無く、深く探れば探る程、その力はより神話級の物として強化されていく。深く知り、広く知られる事。これこそがイマジンの力の源であり、強力な能力を誇示するコツだと言える。

 ならば、オリジナルの能力を作るよりも、既存の情報に則った能力を作るべきか?

 実はこれもそうだとは断言できない。

 能力向上の一手段として有効と言うだけだ。

 例えば『ロンギヌス』と『グングニル』、その再現された槍をぶつけ合えば、どっちが強いと感じるだろうか?

 先程の情報を持っていたとしても、人は次の様なイメージをしてしまうのではないだろうか?

 『ロンギヌス』=全てを切り裂く槍。破壊系。

 『グングニル』=絶対命中の槍。必中系の槍。

 このイメージでぶつかりあったら強いのは、どちらだろうか? 殆どの人間が『ロンギヌス』だと答えるのではないだろうか?

 こう言ったイメージの逆転により、『ロング・ギヌス』とまで貶められた存在は、神槍である『グングニル』を超える力を引き出す事が出来る。イメージの逆転が出来るのなら、完全に一から個人の創造で作り上げた能力であっても、上手くイメージさせられる名と、個人の強いイメージにより、オリジナルも相当の力を引き出す事が出来るのだ。

 

 

 さて、長く語ったところで話を戻そう。

 現状、カグヤが行ったのは、既に既存の能力、真言(マントラ)だ。この存在が既存の物である以上、“他者のイメージ”と言う影響を受ける事になる。それを無視して自分のイメージのみを優先すれば、忽ちイマジンは力を失ってしまう。『炎』と明言していた能力で『氷』を創り出そうとしている様なものだ。そんな物、誰もイメージとして認識する事は出来ない。故に誰もが『否定』をイメージし、その影響を受けた、自称『炎』は能力として完成する事無く消滅するのだ。

 『凍らせる炎』っと言う物なら例外だが、既存として存在していないわけではない。ただし、使用者本人の強固なイメージ力は必要とされそうではあるが………。

(つまり、彼が今作り出した能力は、身勝手なオリジナル―――いえ、魔改造品(失敗作)ではなく、既存の情報を元に作りだした『再現』であるはず。それをどうして邪魔になる様な術を次々と重ねたと言うの………?)

 冷静に視線を彷徨わせながら思案する闇御津羽。同時にただ増えただけの束縛術式を破壊しようと更に力を込める。

 だが、全てに於いて彼女は出遅れた―――否、カグヤが早かった。

 手を合わせ合掌の形に印を結ぶと、彼は束縛一つが破られるより早く、言葉を紡ぐ。

「金剛界に遍く如来を奉りて、邪なる者、(これ)を持って、呪縛せよっ!!」

 瞬間、幾つも束ねられていた束縛術式は、一瞬で纏まり、一つの強力な束縛結界へと変わった。まるで立体形の曼陀羅の中心にいるかのように、幾つも折り重なる薄い膜に閉じ込められた闇御津羽は、力を出す事が叶わず、地面にへたり込んでしまう。

(! 複数の如来の力を借りたのは、一つの大きな術を完成させるためっ!? そのために力を借りる如来を、全て金剛界の如来に限定していたっ!?)

 日本神話の神の名を与えられて生まれた少女は、同じく日本に渡った仏門にもある程度詳しい。

 カグヤが真言(マントラ)を唱え、力を借りた如来は、阿弥陀如来(あみだにょらい)大日如来(だいにちにょらい)阿閦如来(あしゅくにょらい)不空成就如来(ふくうじょうじゅにょらい)宝生如来(ほうしょうにょらい)の五柱。これらは全て金剛界の如来とされている。つまり、大きな括りとして見れば纏める事が出来ると考えられる。そのイメージが、術を融合させると言う発想を手助けし、能力として形作らせたのだ。

 さすがに闇御津羽の名を与えられた一柱の神を体現する少女でも、相手が五柱の如来の力を借りてくれば、僅かな隙を作ってしまう。その隙目がけ、カグヤは刀を持って飛びつく。

「………甘いわっ!」

 静かに発破を掛けた彼女は、強力な拘束空間の中で、手に持つ小さく黒い板きれから飛び出した赤黒い刃によって、カグヤの刀を両断した。

 構わずカグヤは飛び付く。手に持っていた刀を何の躊躇いも無く放り捨てながら。

 驚きで目を見開く彼女の眼前に、首に手を回したカグヤの顔がアップで映る。

 カグヤはそのままノンストップで近づき―――黒い少女の唇を奪った。

 全体重を掛けられて倒れ込む少女。同時に少ないイマジンで形成されていた術式が力を保てなくなったかのように霧散した。

 瞬時に翼を広げた闇御津羽は、その鋭利な黒翼によってカグヤを弾き飛ばす。

 背中が地面に付く前に体勢を整え、何とか足で着地した少女は、己に起きた異変に気付き、カグヤが何故イマジンを使用できたのかその答えに至った。

「いつから? 一体いつから、私のイマジンを奪っていたの(、、、、、、、、、、、、、)?」

「半年間ずっと………」

 地面を転がっていたカグヤは即答した。

 痛む身体をなんとか起こしながら、視界の邪魔をする前髪を軽く払いながら不敵な笑みを向ける。

「お前はイマジン体だ。お前の身体は義姉様がお前自身を形成するために大量のイマジンを使用しているらしいな? お前の肉体=イマジンだとするなら、逆に生きるためにイマジンを消費し続ける存在だとも言える。なら、もしかすると余分なイマジンを消化しきれず漏らしている可能性もあると考えたのさ」

「それが事実だとしても、さほど多くのイマジンは集められなかったはず。どうやって能力に至るだけの質量を得たの?」

「だから半年かけたって言っただろう? お前は攻撃する時にもイマジンを消費する。だが、攻撃時には消費しきれなかったイマジンが、僅かだが周囲に漏れ残る。それをその辺に張り巡らせた札に吸収させて力を溜めさせていた」

「言うは易し。それをするためにはイマジンを感じ取り操作しなければならない。今までイマジンを使った事の無いアナタが、それをどうやって成し遂げられたと言うの?」

「義姉様の仕込みを舐めんなよ? そんなのイマジンを自覚して一生懸命慣らして、なんとなく解るようにしたんだよ! 俺がこの半年間をただ遊んで暮らしていたと思ったのか? ………毎日お前の残り湯とか、身体を拭いたタオルとか、使用したお箸とか、お前の身体をミクロ単位でも削る要因になった物は全部回収して色々比較しまくって感覚に教え込ませたんだよっ!!! おかげで俺、お前の使ったタオルなら匂いだけで解るようになったぜっ!!」

「執念だけは認めても良いけど、私は軽蔑するわ」

 完全にやっている事がストーカーのそれと同じだと言うのに、カグヤはむしろ開き直った様に胸を張った。大声を出すのが苦手な闇御津羽は、冷やかな視線を送りながら、冷静に分析する。

「その変態行為が実を結んだ事に免じて通報はしないでおいてあげるけど、まさかこれで勝ったつもりじゃないでしょうね? 例え、先程の口付けで私から直接イマジンを奪っていたとしても(、、、、、、、、、、、、、、、、)、それでを私倒せるだけの力は取り込めなかったはずよ?」

臍下丹田(せいかたんでん)の総量の事を言ってるのか?」

 『臍下丹田』とは、へその下辺りに存在する、とある内臓器官である。人間がイマジンを使用するには、この臍下丹田にイマジンを蓄積し、そこから人間の使用し易いエネルギー体へと変換して能力として発動させている。ただし、人間が臍下丹田に溜められるイマジンの総量は決して多いとは言えない。

「強化に使えば五時間強、放出系に使えば二、三発が限界だってな? 義姉様から聞いてるよ。お前みたいなイマジン体は全身がイマジンだから例外だが、それでも攻撃に使用するだけの余分なイマジンは持ってないらしいじゃないか? ………まあ、お前は浮遊都市(ギガフロート)にいる義姉様から常にイマジンを送ってもらっているみたいだけどな?」

「解っているのなら―――」

「でも、俺の勝ちだ」

 言葉を遮り、カグヤは断言した。

「さっきのは外側のイマジンを裏技で使っただけだった。だから半年かけてもあの程度の手品しかできなかった。でも、今度は………」

 カグヤは己の下腹部辺りを撫でると、そこに感じる確かな熱を確かめる。

「今度は正真正銘の、『イマジネーター』としての能力だぞ?」

 瞬間、初めて警戒心を抱いた闇御津羽が翼を掲げて飛び出す。

 同時に動いたカグヤが必死の形相で術式を創り出す。

「ノウマク・サラバ・タタギャテイビャク・サラバ・ボッケイビャク・サラバタ・タラタ・センダ・マカロシャダ・ケン・ギャキギャキ・サラバ・ビギンナン・ウンタラタ・カンマン―――!!」

 カグヤの真言に応じ、溢れかえる炎が少女の周囲を包み込む。

五行相生(ごぎょうそうしょう)! 木生火(もくしょうか)!」

 新たな術式を挟み込まれた炎が、周囲の木々に燃え移り、更に激しく炎を燃え上がらせる。猛火となった炎が闇御津羽を包み込み、その動きを阻害する。

 闇御津羽は瞬時に翼を広げ、風圧で炎を簡単に払いのける。

 だが、その時には既に、カグヤは可能な限りの距離を取っていた。

「あまねき諸仏にきえし奉る。助祭の静粛に。東方降三世(とうほうこうさんぜい)夜叉明王(やしゃみょうおう)西方大威徳(せいほうだいいとく)夜叉明王(やしゃみょうおう)南方軍荼利(なんぽうくんだり)夜叉明王(やしゃみょうおう)北方金剛(ほっぽうこんごう)夜叉明王(やしゃみょうおう)。圧伏せよ、清めたまえ。砕破(さいは)したまえ。呪縛の鎖を打ち砕き、出でよ………っ! 高龗神(たかおかみのかみ)!!」

 カグヤの言霊に応じて、池の水が柱を上げた。水柱が割れ、中から青白くも神々しい一匹の龍が姿を現す。

 その龍の姿を目の当たりにした闇御津羽は、警戒の色濃い表情で龍を睨めつける。

貴船(きふね)の龍神が、祈雨(きう)でも願われ私の前に立ちはだかりますか?」

『確かに皮肉も良いところよな? 同一神として語られる我らが合い謁とは。………のう? 闇龗神(くらおかみのかみ)?』

 龍神の清んだ声が大気中に響く。龍神の声は清み過ぎていて男女の区別がつかない。そもそもそんな区別が無いのかもしれない。不遜な物言いは、神々しい姿に見合う、威厳を感じさせた。

「私を罔象女神(みつはのめのかみ)として呼ぶのは止めて頂戴。私は闇御津羽としてここにいるのだから。アナタでなければ今頃町一つくらいは道連れにしていたところよ?」

『おおっ、おおっ、余程今の自分を作った主が好きと見える。作られた身故に、主に依存するは仕方のない事かも知れんがな』

「? そうなのか?」

 話を聞いていたカグヤが、自分が召んだ龍に問いかけると、龍は頭を一度頷かせるだけで答えた。

『さて、闇龗神(くらおかみのかみ)よ? 未熟な主に呼び出されたこの身だ。長く付き合ってやる事が出来ぬ。品のない事心苦しいが………、行かせてもらうぞ?』

 鎌首を擡げた龍神に対し、闇御津羽の少女も翼を広げて応える。

 互いに間を置くなどと言う事はせず、僅かな反動を付けてから勢い任せにぶつかりあった。互いに纏う神格をぶつけ合っているのか、直接ぶつかっている訳でもないのに、互いの間で衝撃が反発し合い、周囲に風圧が巻き起こる。木々を倒し、池の水を巻き上げる暴風は、想像するより早く終了を見せた。闇御津羽の突撃に耐えきれず、貴船の龍神がその身を光の粒子へと綻ばせ始めたのだ。

『やれやれ、この身を精製するイマジンが決定的に足らなかったか………。少々癪ではあるが、闇龗神に対して、この程度の身で捨て駒役を担えたと思えば、良しとするか』

「捨て駒役?」

 黒く鋭利な翼を一気に広げ、高龗神を八つ裂きに伏した闇御津羽は、龍神の最後に残した言葉に疑問の言葉を漏らす。その答えは、思案するより先にやってきた。気付いた時には肩を掴まれ、眼前にカグヤの姿があったのだ。それも近い。先程唇を奪った時と全く変わらぬ距離に迫っていた。

(しまった………っ! 先程よりも隙が大きい………っ!)

 少女とて、カグヤの事を失念していた訳ではない。確かに人間が体内に収められるイマジンの総量は多くない。それでも、イマジン体が人間にイマジンを吸われれば、臍下丹田の分、解り易く言えば人間の器官一つ分のイマジンが奪われる事になる。それは大変な消費である。闇御津羽は主である神威より、常にイマジンを供給してもらっているが、それも決して多いとは言えない。戦闘状態と己の身体の安全を考えるなら、これ以上の消費は危険だと解っていた。だからカグヤへの注意を忘れていなかった。

 それでもカグヤは入り込んできたのだ。黒い少女の注意の隙間を掻い潜り、彼女の不意をついて見せた。

 再び押し付けられる唇。先程よりも高い位置に飛んでいた所為で僅かに浮遊感を感じる不安定さの中で、カグヤは少女の頭を片手で抑え付けて、無理矢理深く口付けしていく。

 創られたとは言え、彼女も女としての自我を持つ。多少なりの羞恥心はあったが、それ以上に戦闘における冷静さが強く反映される。例えここでイマジンを吸われても、戦えなくなるほどではないと判断し、高龗神と激突した衝撃から復活次第、反撃に移ろうと考えた。

「………っ。………っ!?」

 しかし、その考えは一瞬の内に吹き飛んだ。

 僅かな浮遊を終え、地面に落ちた二人だったが、カグヤは絶対に逃がすまいと、無理矢理少女を押し倒す。対する少女の抵抗は、実に弱々しいものであった。力の入らぬ手で、カグヤの腕を掴んだり、緩く握った拳で胸を叩いたりと、押し返そうとはしているようだが、あまりに弱々しい。抵抗する気が本当にあるのかさえ疑問に思えてくる光景だ。

 それも仕方のない事だ。現在彼女は、大量のイマジンを吸われ続けると同時に、自分を支配する術式か何かを体内に直接送り込まれているのだから。

 カグヤは口付けにより闇御津羽からイマジンを供給し、素早く臍下丹田に集め、それを瞬時に術式に変え、同じく口移しで送り込んでいるのだ。

 口で言うのは簡単だが、実際問題、これはかなりの難度の高い技術だ。カグヤは自分のからだの外にあるイマジンを操作できると言う、イマジネーターにも難しい技術を確立させる事で、口移しによるイマジンの吸収を行えるようになっている。だが、臍下丹田に集めたイマジンを使用する事自体は完全に初めてのはずだ。それでも先程のような龍神を呼び出せてしまえるのは、カグヤの技術ではなくイマジンの万能さ故だ。だが、臍下丹田に取り込んだイマジンを瞬時に術に変え、それを口移しすると言うのは、体内で術を完成させ、器官を通って口から放出しなければならない。つまり、高度な技術を必要とされると言う事だ。どれか片方だけなら、並みのイマジネーターでも練習すればすぐに使えるようになる。だが、それを同時に行うと言うのはかなり苦しい事になる。解り易く言えば、超ハイスピードで呼吸を繰り返しているような状況だ。それも限界一杯まで息を吸って、ギリギリまで吐く、それを繰り返すに等しい。

 実際苦しいのか、少女の顔を押さえるカグヤの表情には必死さが滲み出ている。傍から見れば、女の子の唇を強引に奪っている少年の図なのだが、その必死さにはそう言った色気が全く感じられない。

(腕に力が………っ! それに、妙に舌使いが上手い………っ!)

 気にする所はそこではないのだが、無視する事が難しいほどにカグヤは丹念に舌を使っていた。口の中を荒々しく蹂躙するかのように、だが、的確に急所となる部分を意識の隙を突く様に舐め上げたりと、時間が経つにつれ、そっちの方にばかり意識が吊られてしまう。

(私が………っ! 私の中が、彼に蹂躙されて………っ! 支配されていく………っ!!)

 術式の影響で抵抗する力をドンドン奪われ、同時に忠誠心を植え付けられていく。

 闇御津羽は、己の自爆覚悟でカグヤを突き離そうと考え、己の身体を形成するイマジン体を、元のイマジン粒子に分解し、爆発してやろう決断し―――書けたところで、思い止まる。

(彼は………、ただの人間だったはず………。イマジンもろくに使えず、それどころか才能や資質、素質までも持ち合わせていない凡人以下の存在だったはず………。いくらあの主の弟とは言え、それが簡単に出来てしまえるものなの………?)

 侵入してきた舌が、彼女の弱い所を全て知り尽くしたかのように蠢き、最早無視できない感覚が口内を駆け巡っている。

(イマジンを外側で感じることだって………、ましてや操ってしまえる事なんて………、普通できる筈がない………。そんな事、半年なんて短い期間で成し遂げられるはず………っ!?)

 少女は思い出す。この半年間の間、彼と交わしと言葉の中にあった決意。

 

「いつか、俺が義姉様を倒す。それが義姉様の願いだから」

 

 笑うつもりも呆れるつもりもなかった。彼が嘘をついているとも思っていなかった。

 彼はそういう人間だ。そう言う人間として育てられた。

 自分の義姉のためなら、己の命も、他人との友情でさえも、簡単に犠牲にできてしまえる。そんな風に育て上げられた。

 だから、彼が本気なのは解っていた。それでも不可能だと思っていた。

 東雲神威は世界に二人しか存在しない上級生破りを成し遂げた規格外の化け物だ。そんな人物を相手に、同じ上級生破りをしようなど、天地がひっくり返ったところで足元にも及ばない。出来る筈がない。そう思っていた。

(だけど………、彼は不可能だと私が判断した屈服を………、今私に()いろうとしている………っ! 少なくとも、私の予想を超える力を持っている………っ!)

 彼女の頬が上気する。それは与えられた感覚によるものだったのか、それとも支配の術式が(もたら)した錯覚だったのか? それでも彼女は己の動悸を受け入れた。

 抵抗を止め、カグヤの頬に両手を当て、逆にキスを受け入れる。彼女が受け入れた事により、カグヤは強引さを僅かに緩め、優しい動きで唇を味わう。

 少女も受け入れ応じる。

 それはまるで、キスを楽しむ恋人同士の様な、そんな光景だった。

 やがて、唇を放したカグヤは、マラソンでもしてきたかのような汗まみれの顔で彼女の表情を窺う。

 カグヤと同じように荒い呼吸を繰り返す黒い少女は、上気した頬のまま、カグヤを見上げていた。

「俺の物になるか?」

 カグヤの問いに、少女は僅かに逡巡する様に視線を逸らす。

「………とりあえず降りてください」

 その返答に訝しく思いながらも、カグヤは素直に従う。

 腰だけを起こし、座り込んだ体勢になった少女は、自分の中にあるイマジンをフル活用し、カグヤの支配術式を無理矢理打ち破って見せた。

 警戒したカグヤが、折れた刀を拾い構えるが、少女は座ったままカグヤを見つめるだけだ。

 カグヤは刀を再び捨てる。

 それを待っていたかのように、座り方を正した少女は、カグヤの前で跪いて見せる。

「我が主の試練を見事に乗り越え、私を屈服させた御方。主の命に従い、これよりは貴方様の下僕となりましょう」

 恭しく告げられ、カグヤはやっと肩の力を抜いた。

「おうっ、これからよろしくな」

 言葉は元気だったが、表情は軽く青ざめ、嫌な汗が巫女装束の重量を増やしている。

 最早多くを語るだけの余力が無いのか、少年はすぐに室内に戻ろうとするが、思い出したように立ち止る。

「闇御津羽? 今日からお前は俺の式神だ。今はイマジンが無いからちゃんとした主になってやれないけど、俺の(しもべ)である限り、お前には新しい名前を付けるからな?」

「新しい名前ですか?」

九曜(くよう)一片(ひとひら)。お前を最初に見た時、思い付いた名前だ。俺はこれからお前を九曜と呼び続ける。いいな?」

「承りました」

 (こうべ)を垂れる闇御津羽(あらた)め九曜一片。

 それに気を良くして笑顔で頷くカグヤは、再び部屋に戻ろうとする。

「カグヤ様、一つだけお訪ねしてもよろしいですか?」

「え? なに?」

 疲れている所を呼びとめられ、多少嫌そうな表情をする。

「カグヤ様は、普通に女性は好きでいらっしゃいますか?」

「それは何の質問だ? いや、大抵好きだけど………」

「もし私が男性であったとしても、同じ事をしたのでしょうか?」

「………」

 戻ってきたカグヤが(おもむろ)に九曜の胸へと手を伸ばす。さすがに一瞬躊躇を見せたが、九曜が逃げ出さないのでそのまま確認してみた。しっかりとした膨らみが手の平に返ってくる。しばらく真剣な表情でその膨らみを確認し続けるカグヤは、不安そうな声で呟いた。

「本物………だよな?」

「本物です。別に私が本当は男だったという落ちを言ったわけではありません………っ」

 さすがに多少恥ずかしいのか、僅かに頬を染めて言う少女に、カグヤは安堵したように手を放す。

「ってか抵抗しないのかよ? おかげで堪能できたけど?」

「主の為さる事ですから」

 九曜の忠誠心に下僕の鏡を見たかのような気がして、カグヤは多少慄いた。この少女が本当に自分の僕で収まってていいのだろうか? などと脳裏に過ぎらせたがすぐに自分で手に入れた物だと自己完結した。

「それで? さっきの質問の意図ってなんだよ?」

「いえ、もし私が男性だったなら、今の手が使えなかったので屈服できなかったというのではないかと思いまして」

「さっそく僕に疑われてる………?」

 表情に影を指して、軽い絶望を味わったカグヤは、すぐに表情を改めると、言い難そうに眉を曲げる。

 頬を掻きながら視線を逸らしたカグヤは、言葉と表情だけ何でも無さそうに装いながら告げる。

「別に、他にも手が無かったわけじゃねえよ。準備はしてたし。………まあ、義姉様がこの試練を“屈服させろ”じゃなくて“倒せ”だったとしても、俺は九曜を屈服させる事を選んだけどな」

「それはどうして?」

「………」

 ついに背を向けてしまったカグヤは、それでも声色だけは変えずに、出来るだけ淡々と答えた。

「お前が俺の一番の僕になってくれたらいいなぁ~~………って、思ったからだよ」

「////////」

 九曜の頬に朱が差した。

 カグヤが言った言葉の意味は、この半年間の付き合いからすぐに読み取れた。

 それは遠回しながらも、互いの関係性を変えるつもりはないと宣言しつつも、それでも最大限、彼の想いを込めて告げられた、告白だった。

 半年という月日の間、ずっと自分を見つめ、歯牙にもかけぬ相手に必死に挑み続け、ついに屈服させる事で覆した少年の、現状に於いての精一杯の口説きに、不覚にも、少女は胸を打ち抜かれていた。

 自分を屈服させた男が、その想い故に成し遂げたのだと思うと、僕としてそれほどに嬉しい事などない。そんな気持ちが湧いて来たのだ。

「これより幾世幾万の時が過ぎ去ろうと、私は一生カグヤ様に御仕え続けます。ああ、親愛なる、我が君………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロローグ03

 

 

 東京、とある家の居間で、二人の親子がテレビにロボットヒーローをキラキラした瞳で眺めていた。

 ロボットは、子供向け番組にヒーローらしく、必殺技を叫んで長年の宿敵を打ち滅ぼした。

「やった~~~~っ!!!」

「おぅしっ!!」

 両手を上げて喜ぶ子供と、拳を握ってガッツポーズを取る父親。

 二人は一緒になって喜び、騒がしくはしゃぎ回る。

「父ちゃん! ロボットってスゴイねっ! 強いねっ!」

「おうっ! ロボットは男のロマンで出来てるんだ! 凄くて当たり前だぞっ!」

「うを~~~っ! マジでっ!? ロボットすげぇ~~~っ!」

「そして父ちゃんは今っ! ロボット開発スタッフの一員だからな! 本物のロボットを作ってんだぞっ!!」

「おを~~~~~~っっ!? 父ちゃんすげぇ~~~っ!!」

「そうだろう! そうだろう!」

 純粋な子供のキラキラした尊敬の眼差しを受け、父親は年甲斐もなく胸を張って笑った。何処にでもあるようで、だがとても幸せな家族の光景に、食事の準備をしていた母親は、呆れた様に、しかし微笑ましそうに笑っている。

「じゃあ、父ちゃんの作ったロボットが悪者と戦うのっ!?」

「え? ああ………、いや、それは無い………」

「ええ~~!? なんでぇ~~?」

 急にテンションが落ちて仏頂面になる息子に、父親は苦笑いを浮かべた。

「今の世の中は平和だからなぁ~~………。ロボットが戦う相手もいないんだよ。良い奴をぶん殴ったら、ロボットが悪者になっちゃうだろ?」

「そうだけどさぁ~~~………っ!」

 不服そうにブ~たれる子供に、父親はニッカリ笑って息子の頭に手を置いて撫でる。

「心配すんな! 例え戦わなくたって、ロボットが最強なのは変わんねえよ! ロボット最高~~~っ!!」

「おおぉっ!! ロボット最高~~~~っ!!」

 簡単に機嫌を直した子供が諸手を上げてはしゃぎ始める。

 ロボットの事で熱く語り合い、はしゃぎ回る姿は、子供が二人いる様で、母親は微笑みながらも半分呆れるばかりだった。

 

 

 だから、そんな幸せが急に断たれた事に、二人(、、)は衝撃を受けるしかなかった。

 突然仕事場から届いた一報に、母親は血の気が引いた。

 病院で冷たくなった父を見た時、息子は理解が出来なかった。

 墓前で、親戚達を招き、御経を耳にする間も、母は悲しみ、息子はどうして良いのか解らず呆然とするしかなかった。

 息子は泣かなかった。決して強かったわけではない。非情だったわけでもない。ただ父親が居なくなった事実をどう受け止めて良いのか解らなかった。彼が親の死を受け入れるには、あまりにも幼すぎたのだ。

 だから、彼は必死に考えた。自分は亡くなった父のために何をすればいいのだろうかと。子供の未熟な頭で、考えて考えて考え続け、やっと答えを見つけ出した。

 それは、幼いながらも確かな覚悟の元、決意した将来の目標だった。

 

 

 墓前、父が亡くなってから五年目の春。子供だった彼は十歳になっていた。幼くはあるが、もう少年と言って差し支えない年だ。彼は、父親の形見となった家族の写真の入ったロケットを首に下げ、それを手の中で握り締めながら墓の父に語る。

「父さん、俺『イマジネーションハイスクール』に入学する事にしたよ。塾にも通って、ちゃんと力の使い方も理解したし、先生もきっと合格できるって言ってくれた。俺、絶対入学してみせるよ。そして父さんの言った事を証明するんだ。ロボットは最強だって!」

 彼は跪くと、墓に花を添える。

「塾で友達もできたんだよ? カグヤさんって変な人と、弥生さんって言うすっごく強い人。カグヤさんはなんか色々隠してる感じで強いのか弱いのか、結局わかんなかったよ。でも、弥生さんは本当に強かった。戦う機会が一度しかなかったけど、すっげぇ印象に残ってるよ。まさか俺のガオングに生身で立ち向かってくるとか思わなかったし、“塾生最強”なんて言われてるだけあって、むちゃくちゃ苦戦したよ。だから、あの人に勝てた時は本当に嬉しかったなぁ~」

 少年は目を瞑り、塾生時代の半年間を思い出す。

 辛い事も、大変な事もあった。

 塾で真っ先に仲良くなれた女の子が、虐めにあって辞めて行った時は本当に悲しかった。でも、自分は負けずにここまで来た。ようやく来た。

 少年は眼を開くと、立ち上がり、父に別れを告げる。

「もう行くよ。母さんも待ってるし………。しばらく来れなくなるかもだけど、それは俺ががんばってるって事だと思って許してよ? また必ず、嬉しい報告をしに来るからさ」

 少年はそう言って踵を返した。父の言った事を証明するため。亡き父に、泣く事の出来なかった代わりを果たす為、彼は向かう。万能の力、『イマジン』を扱う浮遊都市学園、『ギガフロート』に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロローグ04

 

 

 目の前に広がる光景。私はそれが何なのか、しばらく認識できませんでした。

 誰かが私に呼びかける声も、すぐには理解できず、音である事自体解らなかった。

 寝ている状態から上体だけ起こしたのも、意識してやったと言うより、半ば反射行動だったのかもしれない

「お姉ちゃん! お姉ちゃんっ!!」

 漠然と意識と言う物を掴み始めた私は、聞き覚えのある声がすぐ近くで私を呼んでいる事に気付く。半開きの視線を向けて相手を確認した瞬間、霞み掛っていた意識が急速に覚醒して行った。

空女(あきめ)………?」

「お姉ちゃんっ!!」

「えっと………?」

 目の端に涙を浮かべた少女が、泣き笑いの表情で私に飛びついてくる。

 私は咄嗟に両手で抱きとめながら、混乱する頭で周囲を確認する。

 真っ白の部屋に、真っ白のベット。その上で寝ていたらしい私に飛び付く妹………? それから男女四人の大人。男性の一人は白衣を着ているからお医者様? 女性の一人はスーツ姿をしている。何処かの会社の人? OLには見えませんけど………? 残りの二人は私服姿で、どこか見覚えのある顔立ち………、っと言うかもしかして―――?

「お父さん………? お母さん………?」

「ああっ! そうだよ凉女(すずめ)! 私達が解るか!?」

「凉女っ!! 凉女! 本当に、良かった………っ!」

「えっと………?」

 私はまだ状況が掴み切れない。もう一度周囲を見回して、自分の格好を確認したところで、ここが病院の病室だと言う事がやっと解った。私はなんでこんな所にいるのかしら?

 事態を上手く掴めない私は、とりあえず気になっている事を聞いてみる事にした。

「ねえ? 空女も、お父さんもお母さんも、なんだか雰囲気変わってないかしら? それとも、私が寝起きでおかしくなってるのかしら?」

「そう思うのも仕方がない! お前は三年間も眠り続けていたのだからな!」

 お父さん………だと思う人が泣き笑いをした顔で教えてくれる。

 三年間? 私が眠り続けた?

 どう言う事なのかしら?

 もしかして私………!

「い、いつの間に私は冬眠ができる体質になっていたのかしら………っ! 次からは、うっかり三年間も寝過してしまわないように気を付けなきゃ………!」

 むんっ! と、私は軽く拳を握って決意を固めていると、胸の中で何処か嬉しそうな抗議の声が上がった。

「お姉ちゃん何言ってるのよぅ~~! でも、この反応間違いなくお姉ちゃんだよぅ~~~っ!!」

「ええっと………? 見慣れない制服だけど………? もしかして空女?」

「そうだよ! 妹の空女だよぅ~~! 今気付いたのぉ~~~っ!?」

 ますます腕に力を込めて私に抱きつく妹の頭を撫でながら、私は両親に目を向ける。安堵したような表情で皆涙を浮かべている。皆に心配かけてしまったのかもしれない。でも、その事に付いて謝る前に、もう一つ確認しておきたい事がある。私は困った表情を作って、頬に片手を当てながら両親に訪ねる。

「私、全然お腹が減ってないの? 三年間も何も食べてないのに、大丈夫なのかしら? 痩せる時って、胸から痩せると言いますし………?」

「そんなところ、今はどうでも良いよぅ~~~っ! あと、お姉ちゃんの胸は相変わらずのメロンですぅ~~っ!!」

 不安を口にする私に、両親は何故か涙声で笑い始めてしまった。妹も泣きながら抗議するけど、何処か嬉しそうな響きの涙声。何だか皆変な感じなのだけれど、私が冬眠している内に宗旨替えしたのかしら? 私、流行りに追い付けるか不安だわ?

「お前は相変わらず、ズレた事を言う子だ。自分が三年間も眠っていた事や、その理由については考えないのかい?」

「あらぁ~~? 私はなんで寝てるのでしょう? お父さん、お母さん、私に何があったのかしら?」

「マイペースお姉ちゃんのバカぁ~~~~っ!! でも嬉しいよぅ~~~っ!!」

 あらあら………? 空女も何だか分からないけど大変ね?

 

 

 私はお父さんとお母さんに話を聞いて、自分が事故で頭を強く打ち、三年間の間、原因不明の植物状態になっていたのだと教えてくれました。どうして私が目覚める事が出来なかったのか、その原因は未だに解っていないそうです。

 でも、解っていないななら、なんで私は眼を覚ましたのかしら? そんな疑問を口にした時、ずっと黙っていたスーツの女性が初めて口を開いた。

「それについては私が説明します」

「まあ、ご親切にどうも。私、及川(おいかわ)凉女と申します」

「いえ………、名前はもう聞いているわ?」

「ですけど、名前を尋ねる時は、まず自分からと申しますし?」

「そ、そう………、律義なのね? 私は名前を名乗る事が出来ないのだけれど、とある学園都市の研究者をしている者です。現に不明の昏倒に状態にあったアナタは、現代の医学では目覚めさせる事が出来なかったの。そこで、アナタの担当医が私にコンタクトをとってきたのよ。名前だけは聞いたことあるんじゃないかしら? 『イマジン』の存在を?」

「『想像』ですか?」

「お姉ちゃん、英文じゃない」

 妹に訂正され、もう一度顎に指を当てながら、視線を上向きにして考える。

 確かに、何処かで聞いたことあるような単語だったような………?

 …………?

 …………?

 …………?

 …………!

「あっ、テレビでやってる漫画みたいな戦いをしている学校の………!」

 思い出して両手を合わせる私に、女性は頷きました。軽く、三十分くらい時間の経過した(、、、、、、、、、、、、、)時計を一瞥して、本当に安堵したように息を吐きました。もしかしてこのお仕事、とっても大変なのかしら?

「万能と言われた力『イマジン』。私達はそれを学生の協力の元、研究しています。その研究で判明したのですが、『イマジン』を投与された病人は、一時的に症状を回復させる可能性がある事が解りました。私は、アナタに『イマジン』を投与し、原因不明の植物状態から、覚醒させたのです」

「それはそれは、誠にありがとうございます」

「ですがっ!」

「あっ、よろしければこちらのリンゴなどいかがですか~~?」

「続きがあるので話を聞いてください! 割と真面目な話しです!」

 誠意をもってお礼申し上げたつもりだったのですが、何故か怒られてしまいました?

「先程も申しました通り、『イマジン』は依然研究段階にある未知の力です。例え医療関係とは言え、外部に無償で漏らすわけにはいきません。未知の力故に、暴走の危険性が無いとは言い切れません。そして、『イマジン』で治療された者も、体内の『イマジン』が尽きると、元の病状に戻ってしまいます」

「つまり私が目を覚ましていられるのは、とても短い間の話だと言う事でしょうか?」

「はい」

「今の内に勉強しましょう! 未来に持っていけるのは知識だけですし!」

「お姉ちゃん潔過ぎッ!? そして考え方が意外とシビアッ!? もっと女の子らしい事考えようよぅっ!?」

「子作りは、さすがに時間的に猶予が無いと思うんですよ~~?」

「女の子らしいけどぶっ飛んだぁっ!?」

「話を戻して良いですか………?」

 スーツの女性がとっっっても疲れた表情で溜息を吐かれました。

 まあ、どうやらお仕事の疲れが溜まっていらっしゃるようです。労わって差し上げないと。

「アナタに投与した『イマジン』が尽きるまで後一晩。それまでに、アナタには決めてもらいたい事があるの」

「なんでしょうか?」

「『イマジン』は外部の人間には提供できません。ですが、それが学生であったとしたら、その限りではありません」

「お母さん、入学手続き書って何処にありますか?」

「意外な理解力っ!?」

 女性が驚き、両親が戸惑う中、妹が慌てた様子で私に問いかけてきます。

「良いのお姉ちゃんっ!? あの学校に入学しちゃったら、ずっと戦い続ける事になるんだよ!? とっても痛いことしないといけないし、すっごく大変だよぅ!?」

「空女ったら、慌て過ぎよ? だって、まだ選択肢は貰ってない(、、、、、、、、、、、)じゃないですか?」

「へ?」

 呆けた顔をする家族。私が女性に微笑みかけると、女性は目を丸くしてから頷きました。

「その通りになりますね。学園に入学すれば研究協力者と見なし、合法的に『イマジン』を無料提供できます。ですが、出来なければこの話はなかった事となります。つまり―――」

 

「入学試験を受けて見ない事には、入れるかどうか解らないと言う事ですよね?」

 

 家族と、今度はお医者様まで一緒になって目を丸くしていらっしゃいます。皆なんでそんな可笑しい顔するのかしら? 思わず私の顔も弛緩して笑ってしまいます。

 女性が私にくれたチャンスとは、『イマジネーションハイスクール』に入学して、合法的に『イマジン』による治療をさせてもらえると言う物です。ですが、これには大きな落とし穴があるのですよね? だって、もし入学試験に落ちてしまえば、学園側としては私を招き入れる理由が無くなってしまいますもの。そうなれば選択肢なんて、最初からないのと同じ事です。

「もし私が受かったら、そのまま入学させていただくつもりではいますけど、せっかくなので今夜一晩、じっくり考えさせてもらいますね?」

「お、お姉ちゃん! そんな簡単に決めちゃっていいのぉ!?」

「では迷ってみましょうか? ………どうしましょうっっっ!!?」

 頭を抱えて本気で悩む私。不安要素ばかり頭の中に羅列した結果、何だかとんでもない事をしでかしてしまった様な気になってきます。………どうしましょうっっっ!?

「ごめんなさいお姉ちゃん! 私余計な事言ったっ! お姉ちゃんはお姉ちゃんの考えで行けばいいと思いますぅ!!」

「解りました♪」

 妹の助言に従っていつも通りの私に戻ります。とりあえず不安要素は忘れる事にしました。

「では、答えはYesと考えて良いのですね?」

「はい。でも、よろしいのですか?」

「?」

「私、結構やんちゃな方ですよ? もし、私や家族が、入学した所為で悲しむ様な事があれば、ちょっとお痛するかもしれません」

 そう言って微笑み掛けた私に、女性はむしろ好感的な表情の笑みを向けてきました。

「アナタはきっと合格しますよ。我が校に入学できる生徒には奇妙なジンクスがあるんです。過去にいくら戦闘経験を持っていようが、優秀な能力を想像できようが、落ちる者は落ちます。なのにどうした事か、我が校に合格する生徒は全員、自分の領域(、、、、、)を守ろうとする人間ばかりでした。試験には何も意図した細工をしていないと言うのにです? きっとあなたは合格する事でしょう。“家族”と言う、領域を持ったアナタは、絶対に………」

 言ってる事は良く解りませんでしたが、とりあえず私は微笑み返しておきました。

「テヘぺろっ♪」

「それ違うっ!?」

 




弥生「あとがき解説コーナー!」

弥生「このコーナーは、『ハイスクールイマジネーション』における、あらゆる疑問を解説するコーナーです! 主に能力面での詳しい解説を取り扱ってるんだよ!」

弥生「今回僕が解説するのは『イマジネーションスクール』についてです」

弥生「『イマジネーションスクール』、タイトルの順番を逆にしただけのこれは、世界に三つしか存在しない、万能の力『イマジン』を研究している学園都市です。物語の舞台となるのは、その一つ、日本上空を漂っている浮遊島、通称『ギガフロート』」

弥生「土地の大きさは三千ヘクタール、高さは約一万六千メートル。なんと沖縄くらいの大きさに、エベレストの二倍の高さになるよ!」

弥生「『ギガフロート』は学園の名前ではなく、あくまで浮遊島の事を指した名前なんだけど、このギガフロートが日本上空にあると、ちょうど真下の地域は影が差しちゃいそうだよね? ギガフロートは上空約一万五千メートル、積乱雲の頂にも上る高さにあるんだけど、それでもこの大きさの質量があると影が出来ちゃいそうだよね?」

弥生「ところが安心! ギガフロートの周囲には、イマジンによる膜で覆われていて、上空から受けた光を真下へと受け流す事が出来る仕組みになっているんだって! だから大きな影が出来る事はないだってさ! ………それでも薄い雲と同じくらいには光を遮ってしまうらしいよ。万能の力を使っているのに、なんでなのかな? やっぱり研究段階の力だから、謎なところも一杯あるってことなのかな?」

弥生「ギガフロートが日本上空にあるのは、ちゃんと理由があるんだよ。一つは、このギガフロートが日本の物であると言う事を解り易く他国にアピールするため。もう一つは、日本における他国に対する政治的な武器として牽制を行っているため。万能の力『イマジン』を所有している国は日本の他にも二つだけ。現在、政治的立場で劣勢に追い詰められ始めている日本は、その政治的戦力として、どうしてもギガフロートの存在を誇示しなければならないらしいんだ。詳しい内容は僕には解らないけど、ギガフロートが日本上空にある事が、日本の政治を守っているって事なんだろうね」

弥生「今回はこの辺にしとこうか? ギガフロートについて、また話す機会もあると思から、そろそろ次の相手にバトンタッチだよ!」




勇輝「はい、僕からは『イマジン塾』について解説させてもらいます」

勇輝「『イマジン塾』とは『イマジネーションハイスクール』がどんな学校かを知ってもらうために創設された塾校です。毎年入塾する生徒は後を絶たず、とんでもない人数が通っているそうです。残念ながら塾の数は日本全体で三十八カ所しか存在していません。その理由はギガフロートから送ってもらえる『イマジン』が限られているためです。例え塾であっても外部には違いないと言う事で、送ってもらえるイマジンは決められた質量分しか送ってもらえないそうです。塾生だった僕達も、イマジン不足で能力を模索出来なかった事は多々ありました」

勇輝「制限された状態でイマジンを使用しても、その本来の力を発揮できるものではないそうですが、『イマジネーター』としての素質がある人は他の塾生に対して圧倒的な戦力差を見せつける時があるそうです。弥生さんはその筆頭としてよく話に上がる人でした。カグヤさんも、そう言った噂の絶えない人だったそうですが、あの人は塾生時代目立った事は一つもせず、能力の開発にのみ全力を尽くしているようでしたよ? あと、ずっと傍に置いている九曜さんを維持するために、最低限のイマジンを欲していたのも理由だったみたいです」

勇輝「『イマジン塾』では、イマスクの入学上限年齢以上の人も入塾できるので、結構な年齢層の方がいらっしゃいました。中には現役の軍人さんや、特別なカリキュラムを受け、『イマジネーター』になるためだけにその人生を費やしている人もいたみたいです。ですけど、なんでかそう言う人がイマスクに入学出来たって話は聞かないんですよね? 入学生はもっぱら、根っからの一般人が殆どだって聞いてます。何か違いがあるんでしょうか?」

勇輝「以上、イマジン塾のレポートでした」






カグヤ「九曜、質問したい事があるんだが、良いか?」

九曜「何なりと、我が君」

カグヤ「俺が高龗神を召喚した時、お前の事闇龗神って呼んでたろ?」

九曜「ええ、私の名の闇御津羽乃神は、その名の由来を辿れば高龗神と同一視されている神ですから。高龗は祈雨や止雨(祈晴)、天候の水を操る神で、闇龗は地中蓄水や湧水など、地下の水を司る神とされていますが、どちらも同一の神で龗神っという水神として、全ての水を司るものだとも言われています。私は神威から井戸水の底に沈んだ黒曜石を媒介として闇御津羽乃神として創り出されました」

カグヤ「その辺の知識は俺にもあったけど………。俺、今までお前が水系統の能力を使ったところ見た事無いんだけど? むしろ、影みたいな黒い翼を刃みたいにしたり、赤黒い剣を創り出して切り裂いたりしてるけど、アレはなんなんだ?」

九曜「アレも私の、闇御津羽乃神としての由来から創り出している武器ですよ。軻遇突智乃神が十拳剣により首を切られ、その血から生まれたのが闇御津羽乃神となっています。赤黒い剣は、その色が表わす通り軻遇突智の血です。神の血を媒介にして刃を作っています。私は水を司る神ですから、液体である血を、まして自身の血ともなれば操れない事はないのです」

カグヤ「なんで刃なんだ? 血だから赤黒いのは解ったけど?」

九曜「別に刃である必要はなかったのですが、消費の少ない形状となると、やはり刃だと思ったので。無論、消費を考えなければ光線の様に射出する事も、盾として使用する事も出来ます」

カグヤ「でも、いくら水を操っても物を切ったりできるのか………?」

九曜「超高速で流動する水は鉄をも切り裂きます。私がそれを利用して刃を創り出しています」

カグヤ「つまり、あの剣は常に動いてたって事か? 振動剣かよ………」

カグヤ「それで、翼の方はどうなんだ?」

九曜「アレは本物の闇と、私の媒介となっている黒曜石を使用して創り出した物です。私は井戸の底、つまり、光も届かない暗き底の神として扱われていますから、闇をある程度使用する事が出来るのです。それを黒曜石と言う人類最初の神器としての“刃”の効果を得た物なのです」

カグヤ「なんで翼なんだよ?」

九曜「いえ、別に翼ではありません。飛べませんし」

カグヤ「飛んでたじゃんっ!?」

九曜「翼ではなく、神格で飛んでましたから。飛行ではなく自在移動ですから」

カグヤ「レベル高ぇな………!?」

カグヤ「それにしても、黒曜石が人類最初の神器って………、まあ、確かに原初の最強の武器として通じなくもないだろうが………、原始過ぎないか………?」

九曜「我が君、私も我が君にお尋ねしたい事があります」

カグヤ「なんだ?」

九曜「我が君は、何故私に勝てると思ったのですか? 『イマジネーター』が普通の人間に負ける事など絶対にないと知っていたはずですが?」

カグヤ「イヤだって、お前は『イマジネーター』じゃなくて『イマジン体』だろう? なら、工夫次第で勝てるとは思ったんだよ」

カグヤ「まあ、それでも義姉様が傍にいる時は、『イマジネーター』と対峙しているのと変わらないから、絶対手を出したりしないと決めてたけどな」

九曜「それで、神威が私の傍にいる時は神威の世話ばかりに執心だったのですね」

カグヤ「イヤ、アレは単に義姉様の世話焼きたかっただけだ」

九曜「我が君………、何処まで神威に調教されているのですか………?」

九曜「しかし、我が君? 『イマジネーター』が使用できる能力は初期限定で二つまで、その能力で使用できる技能が三つまでと聞き及んでいますが、真言、高龗神、そして私と、三つの能力をどうやって使用できるようにしたのですが?」

カグヤ「イマジンの能力には制限なんて無いぞ。本来はな。だが、万能過ぎる力は、時に本人達の意思に反して災厄を齎す事もある。だから、学園では使用能力のレベルに制限を付けてるんだよ。そもそも『能力』なんて限定するのも、半分はその意味が含まれてんだから」

カグヤ「それに、俺は能力を一つしか設定してないぞ?」

九曜「それは?」

カグヤ「『神威』日本に流出した神仏を限定で使用が可能になる能力だ。それで仏門の神を一時使役して使える範囲を限定する事で『真言』を使用したんだよ。正確には“一時使役”と言う技能を会得して、限定的に神の力を使用する技として使用してたんだよ。九曜の使役をしてからは、すぐに破棄した能力だけどな」

九曜「何故そのように?」

カグヤ「九曜を使役した後の戦術を考えたら、“一時使役”ではお前への負担が大きすぎるだろ? “一時使役”を覚えるのは後回しにして、今は完全使役型の能力を幾つか覚えて行こうと思ってな」

九曜「そうだったのですね。疑問にお答えしてくださってありがとうございました」

九曜「ところで、最後にもう一つだけ質問してもよろしいでしょうか?」

カグヤ「能力の名前の由来か?」

九曜「予想できたと言う事は………、やっぱりそうなのですね………」

カグヤ「義姉様の名前から由来する物を思い付いた!」

九曜「なんと言う邪気の無い笑みでしょうか………」







当作品は読者参加型の作品です。
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