Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです)   作:五十川タカシ

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今回は色んなフェイトネタを複合してみました。

タイトルは仮面ライダー剣からイメージしてます。


第七話「切り札は自分だけ。故のエヴォリューション・セイバー」

 数分の間に状況はさらに最悪の事態に転んだ。

 まず第一に、反撃に転じたアストルフォの【触れれば転倒!】が炎龍に弾かれた。

 もしかしたら正規の宝具でないから弾かれたのかもしれないが、炎龍の鱗に弾かれたというより、炎龍の纏う淡い光に弾かれたような様子である。

 そのため、アストルフォは馬上槍を失い、逃げの一手に回っている。

 第二に才人に限界が訪れた。原作でも分かる通りガンダールヴは無敵ではない。戦い続ければ限界が来る。かなり無茶をしたのだろう。

 炎龍の行動を見て、『炎龍は我らの味方だ。天意は我らに在り、いけ! いけ!』とでも囃し立てられて鼓舞された帝国軍の第一波を凌いだ才人だが、その後すぐ倒れてしまった。

 正確には……倒れる前、一瞬だけデルフが才人の体を乗っ取り『相棒はもう限界だ。後は頼む』と告げて失神した。

 加えてルイズも限界だろう。

 海苔緒は機杖を連射して時間を稼ぎながら、思考する。慮る。考える。『危険な状況に陥れば陥るほど冷静沈着となる鋼の精神』により、危険になればなるほど海苔緒の思考は研ぎ澄まされ、クリアなものへと切り替わる。

 どうにかすべきは炎龍だ。アレさえ倒してしまえば相手の士気がガタ落ち、それ所か敵は完全に恐慌に陥り門の内側へと逃げ帰るだろう。

 

 

(何故、炎龍はアストルフォを集中的に狙う?)

 

 原作を思い返してみれば、とても分別がつく生き物とは思えない。襲うなら手近な帝国軍の連中でいい筈だし、そもそも門を潜って此方に来る必要もない。

 

 

(それにあの淡い砂みたいな光はなんだ? いや、そんな表現が原作にあった筈……)

 

 ――冥府の神、ハーディ。

 門の向こう側に居る神で、帝国に門を開く技術を貸与した存在。

 彼の神が原作で最初に姿を現した時、『光の砂が女性の姿を形作った』という様な表現があった。

 確かハーディの趣味は自分の御眼鏡に適う、強い魂魄を収集すること……。

 

(魂魄、魂……霊。まさか……)

 

 いや、現状そう考えた方が、辻褄が合う。

 アストルフォとパスで感覚を共有している海苔緒は、炎龍から加護というか……何かの巨大な霊魂の一部のようなものを知覚している。

 あの炎龍はハーディから何らかの力を分け与えられているのだと、海苔緒は推測した。

 そして目的は多分、英霊であるアストルフォの魂だ。

 門の開閉にはハーディの力が関係している。

 門が開いた時、ハーディはアストルフォの強い魂魄を何らかの手段で感じ取り、興味を持った。そして自分の駒である炎龍に何かしらの力を与えて、門を越えさせた。

 杜撰な推理かも知れないし、穴だらけかも知れない。

 けれど今の海苔緒にはそれが一番しっくり来る。

 ならばアストルフォを霊体化させれば、問題は解決する?

 ……いや、否だ。大人しく炎龍が門の向こう側に引き返すとは思えない。

 なによりハーディは人間の都合など到底考えてはくれない。

 アストルフォが消えたことで炎龍が通常の状態に戻れば、手当たり次第に人を襲うだろう。皇居などが襲撃されれば目も当てられない。

 海苔緒一人なら逃げただろうが、今の海苔緒にはパートナーであるアストルフォが居た。

 つまり元より炎龍が銀座に出現した理由がどうあれ、海苔緒はここで炎龍を倒さねばならなかった。

 

 

(クソッたれ! もう成るように成れだッ!)

 

 海苔緒は機杖の連射で停滞した帝国軍の動きの隙を突き、才人に付き添っているルイズの方を向く。

 

「おい、確かルイズさんとかいったか。アンタさっき逃げる手段はあるって云ってたな!」

 

 海苔緒は帝国軍を機杖で迎撃している最中、才人やルイズといくらか言葉を交わしており、撤退の手段があることをしっかりと確認していた。

 

「ええ、あるわ。でもあのアストルフォって子が……」

 

 ルイズは不安そうに空を仰ぐ。空ではアストルフォと炎龍の追い駆けっこが続いていた。

 

「いや、アンタと才人で逃げてくれ」

「え、何云ってるの! そんなことしたら貴方たちが……」

「……俺はここに残る。何せ、あの炎龍を倒さなきゃいけないからな」

「炎龍ってあのドラゴンのことッ!? 無理よ、あんなのどうやって倒すって云うの?」

「大丈夫だ。手段はある。だからアンタは才人を連れて早く逃げろッ!!」

 

 言い返そうとしたルイズは海苔緒の今の表情を見て、とある人物を思い出した。

 アルビオン王国の王子、ウェールズ・テューダー。ルイズと才人が救えなかった人物である。

 全然違う顔なのに、ルイズには海苔緒とウェールズ王子の顔が重なって見えた。

 

「でも……」

「いいから行け、はっきり云って足手まといだ」

 

 海苔緒はそう云って強く突き放した。

 勿論嘘である。ルイズにも才人にも先程の戦いで散々フォローしてもらった。海苔緒だけならあっという間に帝国軍の攻勢に呑まれただろう。いくら感謝したって感謝し切れない。

 本当ならクラスカードを限定展開(インクルード)させ、出てきた武器を才人に譲渡することで、才人に炎龍を倒す協力をしてほしかった、と海苔緒は内心で思っている。

 動こうとしないルイズに海苔緒は嘆息し、

 

「安心しろ、こっちは死ぬつもりなんてさらさらねぇ。だから才人と一緒に逃げてくれ。お願いだ」

「…………分かったわ。貴方も、アストルフォって子も、絶対死なないで」

 

 

 しぶしぶ納得したルイズは虚無魔法【世界扉(ワールド・ドア)】を発動して撤退した。

 それを見届けた海苔緒は正面へ向き直り、機杖を再度連射する。

 

 

(こんな状況でこの場に残るとか……俺も大分理性が蒸発しているらしい。間違いなくアイツの夢のせいだな)

 

 

 こんな状況だというのに、思い出しただけで海苔緒の顔から笑みが零れる。

 ここ数ヶ月で海苔緒が見るようになった夢――それはとある無鉄砲騎士の驚きに満ちた冒険の記憶である。

 帝国軍の足止めを済ますと、海苔緒は機杖を投棄し、代わり虚空から一本のステッキを取り出した。

 魔術礼装カレイドステッキ、個体名『マジカルサファイア』の劣化贋作である。

 人工天然精霊が憑依していなければ、第二魔法を応用した無限の魔力供給能力もない。海苔緒のしょっぱいパチモンだ。

 尤も海苔緒自体が『尽きることのない莫大な魔力』を有しているし、何よりカレイドライナー本編では『魔力(みず)を無限に供給できてもそれを汲み出す変身者(バケツ)の容量が小さければ、それに見合うだけの活用しかできない』と明言されている。

 海苔緒の『尽きることのない莫大な魔力』が一定量ずつしかアストルフォに魔力を供給出来ないのは、前述の理屈かもしれないし、ステータス劣化の原因に繋がっている可能性もある。

 ともかく『劣化マジカルサファイア(仮)』ステッキに出来ることは、クラスカード発動の鍵となることのみ。

 

 ――クラスカード。

 Fate/kaleid linerに登場する英霊の力を宿した特殊な魔術礼装。

 海苔緒は転生特典の一つとして望み、アストルフォ召喚と同時に入手した。

 海苔緒自身、転生の特典として多数のことを望んだのだが、実は全ての要望を覚えている訳ではない。

 いくつかは二十歳になった頃にはすっかり頭から抜け落ちており、未だに思い出せない特典もある。

 

 

(俺の限定展開(インクルード)じゃ、あの大剣(・・・・)の真名解放は出来ない。残る手段は夢幻召喚(インストール)だが、こっちも上手く同調も出来ず、十秒で耐え切れなくなって途中で中断してる)

 

 補足するなら、その後海苔緒は泡を吹いて倒れ、三日の間眠っていた。

 

(……まぁ、やるしかねぇ)

 

 海苔緒はステッキに魔力を込め、変身を開始する。

 旋風が巻き起こり、眩しい光が海苔緒を覆う。

 衣服は消え、眼鏡やカラーコンタクトも取り払われ、蒼と金の双眸があらわとなり、結った髪が解放されると染められた髪が銀色へと戻った。

 代わりに身に纏うのは純白のドレス。サファイアの使い手であるルヴィアゼリッタや美遊とも異なる姿。

 フリル過多のその衣装は、煌びやかなウエディングドレスのようであり、門の向こう側から来た帝国の人間の目にはハーディ教団の正装のようにも見えた。

 ただ纏った海苔緒当人には、まるで死に装束のように感じる。

 

 

「ハラキリってか……いいぜ、やってやる」

 

 変身を終えた海苔緒は自嘲するように笑い、経路の繋がったアストルフォに念話を送る。

 

(すまん、アストルフォ。しばらく魔力供給出来ない。その間耐えてくれ!)

 

 

 とは云っても単独行動のスキルの持つアストルフォなら大丈夫だと確信はあった。

 

(ノリ、まさか……)

 

 海苔緒は念話を一方的に打ち切るとアスファルトに膝を付き、クラスカードを地面に置く。瞬く間に展開されるのは強力な魔法陣。

 海苔緒はさらにステッキの柄を、魔法陣の中心――即ちクラスカードの上に置いた。

 行使するのは己が肉体を触媒とした英霊召喚の魔術儀式。

 

「――告げる。汝の身は我に、汝が命運は我が手に。 聖杯のよるべに従い、この意、この(ことわり)に従うならば応えよ!」

 

 全身に火が入るように、海苔緒の体の一部の神経が魔術回路へと変貌を遂げていく。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 魔法陣より光が溢れ出し、

 

夢幻召喚(インストール)、クラス・セイバー、真名(ネーム)――ジークフリート」

 

 

 刹那、海苔緒の世界(からだ)は捩じれ、歪み……理を逸した。

 

 

 

 海苔緒は己の体が爆発したかのように錯覚した。

 何せ、魂の純度が違う、密度が違う、硬度が違う、強度が違う。

 英霊というあまりに膨大な情報(たましい)が、海苔緒の精神を削る、塗りつぶす。肉体を蹂躙し、犯し尽くす。

 現実にそうならないのは海苔緒の『某野菜人並に頑強な肉体に、某聖剣の鞘と同等の無限回復能力』と『危険な状況に陥れば陥るほど冷静沈着となる鋼の精神』が肉体の崩壊を防ぎ、精神の圧潰を無理矢理せき止めているからに過ぎない。それも遠からず限界が来る。

 そして現状、カードとの同調は全く出来ていない。

 何故なら海苔緒の体は、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンや美遊・エ●●●●ースのような●●の機能を有していないから。赤き弓兵の腕を移植した青年や、竜殺しの心臓を受け継いだホムンクルスのように肉の繋がりを持たないから。

 夢幻召喚(インストール)の行使により、海苔緒の体は小●●に似た機構に可変したが、それは飽くまで形が似ているだけで、英霊を許容出来るだけの器を得た訳ではない。

 故に海苔緒は英霊の魂を体に納められない。

 海苔緒は夢幻召喚(インストール)を続ける。

 

「ギギギッ……ガガッ!」

 

 

 海苔緒の口から声にならない悲鳴が漏れる。海苔緒の全身には凄まじい激痛が奔っていた。海苔緒自身の魂の蓄積が、白血球のように憑依に抵抗している。

 感じているのは肌の裏側にくまなく焼き鏝を押し付けられ、且つ高圧の電流を流されているような途方もない痛み。

 精神を直接ズタズタに斬り裂かれているかのような錯覚すら感じる。

 けれど狂えない。『危険な状況に陥れば陥るほど冷静沈着となる鋼の精神』が海苔緒の正気を保つ。海苔緒は痛みを無視し、それでも夢幻召喚(インストール)を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海苔緒の精神(こころ)は極光の中にあった。

 

 ――焼く、灼かれる、燬き尽くされる。

 

 存在自体(シタケノリオ)を消滅せしめんとする英霊の白き威光(たましい)。その灼熱の奔流(うみ)を海苔緒はただ前へと進む。

 しかし同時に歩みを進める度に、海苔緒の精神(からだ)は砕け、壊れていく。

 

 ……こんなことに意味はない。

 ……全部無駄だ。

 ……どうせ死ぬだけ。

 ……まだ間に合う。

 ……早くやめろ。

 

 自身から湧き上がる無数の雑音(ノイズ)

 

 ……自分でも何故こんな自殺紛いな行為を続けているのか分からない。どうして自分はこんな――、

 

 ……いや違う、否だ。一つの意地がこの行為を続けさせている。

 

(おまえ)相棒(サーヴァント)だったら、こんなとこで諦めんのか?』

 

 そんなちっぽけな意地(おもい)だけが、海苔緒の背中を支える。

 故に伸ばす、己の手を前へ、前へ――、

 途中左目が焼き切れるが、海苔緒は一顧だにしない。

 

(……捉えた)

 

 不意に海苔緒の残った視界(みぎめ)に映るのは、光の先に佇む竜殺しの英雄の後ろ姿。

 大剣を背負い、背を晒した鎧を纏い。

 当然のように彼は白い極光(じごく)の中に立っていた。

 その姿はまるで赤き弓兵が如く、ただ黙したまま、その背中は雄弁に語りかけてくる。

 即ち、それは……、

 

 

 

“――――ついて来れるか”

 

 

 ならば答えは決まっている。

 海苔緒は精一杯の虚勢を張り、残る全て(おのれ)を振り絞って叫んだ。

 

 

「クソッタレが…………正義の味方気取りか、この野郎!! スカしてねぇで、さっさと力を貸しやがれッ!!」

 

 海苔緒の声に応じるように少しだけ竜殺しの英霊が振り向く。

 ()の英雄の横顔は……僅かに微笑んで見えた。

 

 ――かくして奇跡は成就する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海苔緒の魂の一部が完全に上書きされ、肉体の一部がジークフリートに置き換わる。

 左目、心臓等々……元の紫竹海苔緒の体には、もはや再生し(もどら)ない。魂そのものが完全に上書きされたため、不可逆の状態に陥ったからだ。

 けれど同時に、竜殺しの心臓を手に入れたことにより歯車が噛み合い、海苔緒の体は完成し、完全な小●●としての機構を獲得する。

 竜殺しの心臓はそのまま、英霊の魂魄(ジークフリート)を収める器として機能を始動させた。

 開始されるのは完全なる英霊との同調。

 竜殺しの大剣を背負い、悪竜の血を帯びた(ドレス)を纏い、

 少女のような容姿であるが、その外装と中身は彼の英霊と似通っていた。

 

 

 “彼”より放たれる圧倒的な重圧に、近づこうとしていた帝国軍の兵士たちは全員停止した。

 彼は大剣を背中から引き抜き、正眼に構えた。その双眸の内、蒼かった筈の左目は深い空色に変わっている。

 すると炎龍が急にアストルフォから離れ、彼の方に向かって直進する。

 まるで、より極上の餌を見つけたかのように、炎龍は大きく口を開けて彼へと迫る。

 だが彼は、炎龍を迎え撃つかのように剣を構えたままで、

 

「――来いよ、炎龍。悪竜(ファブニール)みてぇにぶった斬ってやらぁ!」

 

 掲げた大剣に魔力が凄まじい勢いで収束し、橙色の光が満ち溢れる。

 

 

 ――()は悪竜を殺戮せしめた伝説の聖剣。

 

 

 上空から降下する炎龍は完全に彼との距離を詰め、

 

 

幻想大剣(バル)――――」

 

 その咢や爪で、彼を引き裂かんとするその瞬間、

 

「――――天魔失墜(ムンク)ッ!!」

 

 その名の如く、彼の振りかざした大剣より、天魔(げんそうしゅ)すらも無窮の天から引きずり下ろし、威光なき大地へと叩き落とす一撃が放たれた。

 黄昏の光が周囲を包み込み、辺り全ての音は掻き消える。

 銀座中心で巻き起こる極大魔力の爆発と、その余波による凄まじい暴風。

 炎龍を覆っていた淡い光は引き剥がされ、黄昏の光が炎龍の鱗をいとも容易く断ち切った。

 そして全てが収まった時、帝国の兵士たちは信じられないものを目撃する。

 ――そこにあったのは正面から綺麗に二分された炎龍の遺骸と、真っ赤な竜の鮮血で鎧を染め上げた一人の騎士。

 

 帝国の兵士の誰もが絶句し、唖然としたその後、誰もが血塗れの騎士の視界から逃げるように門へ向かって全力で走っていった。

 これにより戦線は一気に瓦解する。

 

『龍殺し! 炎龍殺しだ!! あんな化け物に敵う訳がない。皆殺しにされるッ!!』

 

 大勢が似たようなことを叫びながら、我先にと帝国軍は門の向こう側へと逃げ帰る。

 後に元老院や皇帝にはこんな報せが届くことになる。

 

『門の向こう側には、炎龍すら一撃で屠る世にも恐ろしい戦士が居た……、と』




こんな感じで銀座事件編は終了です。
次回からその後のゴタゴタと、その処理の話になります。

銀髪オッドアイのノリオ解放バージョンは、オトボク2の彼に似ている容姿をイメージ(ただし少し擦れているというか、目つきが悪く若干不良っぽい感じです)。

追記
 
ノリオの魔法少女姿の記述をエムロイ教団からハーディ教団に訂正しました。

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