Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです) 作:五十川タカシ
次の次くらいでノリオが切り札を使う話になると思います。
「アンタたち、一体……?」
才人の海苔緒たちに対する第一声はそれだった。ルイズの眼差しを見る限り、抱いている思いは才人の同じらしい。
まぁ当然だろう。二人ともさっきの漫才が嘘のように真剣な表情をしていた。
何と返そうかと海苔緒が考えていると、先にアストルフォが口を開く。
「ボクはアストルフォで、こっちはノリ。そしてこの子はヒポグリフだよ。で、君たちの名前は?」
お気楽な調子のアストルフォの名乗りに、才人たちは戸惑いつつも答える。
「俺はサイト、こっちは……」
「ルイズよ。それより私たちは、名前じゃなくて、貴方たちが何者かってことが聞きたいの!」
「そうなんだ。じゃ答えるけど、ボクはノリのサーヴァントで、ノリはボクのマスターだよ」
ニッコリと笑ったアストルフォの返答に、才人とルイズはギョっと驚いた表情をする。
「サーヴァントって、使い魔ってことかッ!」
「まさか貴女、ヴィンダールヴ? それにそっちの子は……」
どうやら才人たちは、アストルフォがサーヴァントと聞いて虚無の担い手とその使い魔を連想したようだ。
海苔緒はこの時点で知らなかったが、ロマリア教皇のヴィットーリオが死亡したことにより、ジュリオからはヴィンダールヴのルーンが消失していた。
騎乗という面において、ライダーのクラスとヴィンダールヴは類似している。アストルフォがヒポグリフに乗っていたことが、誤解を加速させた面もあるだろう。
サイトは叫ぶように云う。
「アンタたち、やっぱりハルケギニアの人間かッ!?」
(ああ、そういう勘違いをするのか……)
本当は『ハルケギニア出身ではないですが、知ってますよ』と答えて色々話を聞いたりしたかったが、そんなことをすれば後々ややこしいことになるのは確実だ。故に海苔緒はあえて知らないフリをすることを決めた。
海苔緒は内心を隠し、素知らぬ顔で才人たちに尋ね返す。
「悪いがこっちは、アンタ等が何を云ってるのかさっぱりだ。ヴィンダールヴとか、ハルケギニアとか、もしかしてこの騒動と関係あんのか?」
「何云ってんだ。さっきの魔法は……あれ?」
そこまで云って才人は首を傾げた。
思い出してみれば、さっき海苔緒が使った魔法は虚無ではなく風の系統魔法らしきものだった筈。才人もルイズも虚無と四系統の魔法が併用出来るなどいう話は聞いたことがない。
才人たちの中で新たな疑問が浮かび上がる中――、
「ノリ、空からこっちに向かって来てる」
アストルフォはこちらへ迫る竜騎兵の団体を知覚し、パスを経由して海苔緒も少し遅れてそれを感じ取る。
同時に、数百メートル先で進軍を停止していた帝国の部隊が再び動き始めようとしていた。
「ちッ、時間切れだな。アストルフォ、手を重ねてくれ」
「分かった。アレを出すんだね」
海苔緒の伸ばした右手に、アストルフォは絡めるようにして左手を重ねた。
アストルフォが思い描くのは金の穂先を持った馬上槍。カタイの王子、騎士アルガリアから手に入れた魔法の武器。
その想いに応えるように、海苔緒はアストルフォと重ねた手を伸ばし、虚空から美麗な装飾がされた巨大なランスを引き抜く。
「――来い、
現れたのは欠落した筈のアストルフォの宝具【
不意のことであった為か、才人たちも驚いた様子である。
海苔緒の『ありとあらゆる武器を虚空より取り出し、使うことが出来る能力』は欠陥が多い……というか欠陥だらけである。もしかしたら海苔緒の得た能力の中で最も使い勝手が悪いかもしれない。
まず海苔緒単体で能力を使用した場合、出せない武器が多数存在し、仮に出せたとして見た目だけ、その大半が模造劣化品であった。
数年の経験則から、武器の再現度は武器を出した当人の知識に比例すると海苔緒は理解した。
本物を識らなければ、本物は出せない。まったく役立たずの能力である。
けれど数ヶ月前、アストルフォを召喚してちょうど一ヵ月が過ぎた時。
『ノリの能力を使って、ボクが武器を取り出したり出来ないのかな?』
海苔緒の能力の大半は既にアストルフォに説明済みだった。
おそらくは気まぐれというか、パッと思いついてあまり深く考えずアストルフォも提案したのだろう。
海苔緒も勢いにつられ、色々試行錯誤した結果……、
出せたのだ、アストルフォの欠落した宝具【
つまり本物を知る者の協力があれば、海苔緒の能力は本物の武器を引き出せるのだ。
けれどまだ欠点は多々残っている。
武器を離すと数秒と経たず消える。うっかり戦闘中に離せば武器が無くなるし、弓、銃火器、手榴弾等、遠距離の射撃武器や投擲武器は手から離れて直ぐに消失してしまうので至近距離でなければ絶対に命中しない。
但し他人には譲渡出来る。けれど受け取った人間が手から武器を離せば、同様に武器は消失する。
加えて海苔緒は虚空から出した武器を使いこなせない。
虚空から出した武器を海苔緒が手にすれば、その武器の用途、扱い方、使用方法などは分かるが……それは飽くまで脳が理解しただけであって、肉体に経験は蓄積しない。
つまり精々取扱い説明書を事細かく読んで記憶した程度のことでしかない。
頭だけで理解しても、剣は正しく振るえない。当たり前の理屈である。
だから現状、一部の例外を除き海苔緒のこの能力は自分で使うより、他人のサポートに回った方が、効率がいいと云える。
「アストルフォは空の連中を頼む」
「ノリはどうするの?」
「【アレ】を使って才人たちを地上から援護する」
槍を握ったままヒポグリフに騎乗するアストルフォに対し、海苔緒は長大な銃を構えるようなジェスチャーを見せる。
「あ、【アレ】かぁ。なら、空からの方がいいんじゃ……」
「いや、生憎と扱い馴れてねぇんだ。それに撃つ時は止まってねぇと駄目だからな」
「でもそれだと、ノリが……」
心配そうに見つめるアストルフォに、海苔緒は精いっぱいの虚勢を張った。
「大丈夫だ。危なくなったら令呪でも何でも使ってお前を呼び戻す。それに切り札もあるって云ってるだろ」
(まぁ、出来れば使いたくないんだよなぁ……ぶっちゃけ、本当に使えるのか怪しいし)
心の内を悟られぬよう海苔緒が気を使っていると、やや俯いて何か考えている様子だったアストルフォが顔を上げる。
「……分かったよ、ノリ。出来るだけ早く空の方を片付けて戻ってくるから、それまで待ってて」
「ああ、任せた」
それだけ言葉を交わすと、アストルフォは【
多勢に無勢だが、【
(さて、こっちもやりますか……)
槍と盾を構え集団で進軍する遠方の部隊に視線を向けた後、海苔緒は才人の方へ向き直り、言葉を掛ける。
「おい、アンタ。確か才人とか云ったな。武器は必要か?」
(アストルフォが海苔緒をノリという名前で紹介したため)未だに海苔緒やアストルフォを女性と誤解している才人は、何かこの子、口調が荒っぽいなと思いつつも、己の握ったボロボロの剣に視線を送る。
「ああ、出してくれるならありがたいけど……」
「だったら手貸せ!」
戸惑う才人を余所に、海苔緒は才人の剣を持っていない方の手を強引に掴むと、無理矢理重ねた。
ルイズは『ちょっとッ! サイトに何するのよ……』と云い掛けて、先程の海苔緒とアストルフォが武器を取り出した光景を思い出す。
(もしかして……)
「才人、アンタが今まで使った剣の中で一番強いものをイメージしてくれ」
「一番強い……剣?」
「そうだ、一番強い剣だ。頭の中でソレを強く思い浮かべてくれ」
そう云いって海苔緒は才人を誘導した。
ここまで云えば、出てくる武器はおそらく一つしかない。
(一番強い剣……武器)
才人は己の頭の中でソレを強くイメージした。
それはかつてのガンダールヴが使った伝説の剣。六千年の時を生きた意思を持つ魔剣『インテリジェンスソード』。そして多くの冒険を才人と共にした心強い相棒でもある。
エンシェント・ドラゴンとの戦いで失われたその本体を、才人は強く強く思い浮かべる。
(……来た!)
海苔緒は虚空から伸びた剣の柄を重ねた手で掴みとる。
「今だ、才人! 一気に引き抜けッ!!」
才人は頷くとソレを虚空から一気に引き抜いた。
「嘘……だろ?」
引き抜いた武器の姿を見たルイズが大きく目を見開く。
何より引き抜いた才人本人が驚いた。
「「デルフ!!」」
引き抜かれた剣の正体……それは紛れもなく失われた筈の魔剣【デルフリンガー】だった。
才人には分かる。砕け散ったあの日より重さも感触も、何一つ変わってはいない。
何より左手に刻まれたガンダールヴのルーンが教えてくれる。これが本物のデルフリンガーだと。
才人のルーンが蒼く輝くと、その光がデルフリンガー本体に伝播し、収束する。
するとデルフリンガーの鍔の部分が独りでに可動する。
「う、う~ん……ああ? 相棒に、娘っ子じゃねぇか。ここは――」
剣の鍔から声が男の声が響く。まるで寝起きのような調子の声だった。
「デルフ! ずっと起きないから心配してたんだぞ?」
ボロボロの剣を捨て、デルフを両手で握った才人は嬉しそうに声を掛ける。
そこでやっとデルフは己の状態を自覚したようだ。
「…………おでれーた! 何で俺っちの
「それが俺にもよく分からないんだ。こっちの子が砕けて無くなった筈のお前の本体を出したつーか、召喚したつーか?」
上手く状況を説明出来ない才人は、『説明してくれ』と乞うように視線を海苔緒へ向ける。
「何だ、しばらく見ねぇ内にまた新しい娘っ子が増えてやがる。おい、娘っ子。アンタ名前は……?」
娘っ子と声を掛けられて、海苔緒は『またか』と嘆息した。
うんざりといった表情を浮かべ、海苔緒はデルフに応じる。
「悪いが俺は娘っ子じゃねぇ。名前は紫竹海苔緒、年は二十歳。性別はお・と・こ・だ!」
「え、男ぉぉッ!!」
「これまたおでれーた! おめぇさん、そんなナリして男か!」
サイトとデルフの驚く声が重なる。
海苔緒の容姿も原因の一部だが、海苔緒が来ている服が女っぽいということが主な誤解の原因だろう。現在着ている服はアストルフォがチョイスしたコーディネートだ。
ちなみにアストルフォが来る前は、ユニ○ロやシマ○ラで衣服を済ませていた。
海苔緒は苦々しい話題を早々に切り替えることにする。
「そんなことより注意しろ。その剣、手から放したらすぐ消えるからな」
「は、消える? 一体どうして?」
「どうしてもこうしてもそういう仕様なんだ。デルフとかいう奴が剣に宿ってるみたいだが、才人が手から剣を放したらすぐに左手の紋章に戻った方がいいぞ。消えたくなかったらな」
海苔緒は万が一、デルフが消滅しないよう才人に忠告した。
「つまり俺っちの復活は一時的なもんって訳か。で、この状況は一体どういうこった?」
「それもよく分からない。ノリオ……だったか、アンタはこの状況に心当たりがないのか?」
才人の問われた海苔緒は内心ですまないと思いつつ、無知を装った。
「俺もこの騒動の原因は分かんねぇ。だが銀座の中心で魔法みたいなのが発動して、巨大な門が開いたのを感覚的に捉えた。どうやらその門からこいつ等や向こうの十字軍みてぇな連中が凄い勢いで雪崩れ込んでるらしい」
「魔法、門、やっぱり虚無の魔法……?」
海苔緒の説明を聞いて、ルイズはブツブツと独り言を呟く。
対して才人は海苔緒に再度質問するのであった。
「アンタ、魔法を知ってるのに、ハルケギニアを知らないって云うけど。だったら何者なんだ?」
「俺からすれば、アンタたちこそ何者って感じなんだがな、つうか、ハルケギニアってどこだよ? (……本当は知ってるけど)。けどな、お互いゆっくり自己紹介する余裕はねぇだろ」
海苔緒は顎をしゃくる。
示した方向である前方からゆっくりと、しかし確実に迫る軍隊の姿があった。
「今はあっちに対処するのが先決だろ?」
「確かに」
才人は海苔緒に同意し、剣を構えた。
「うわ、すげー数だな、相棒」
「けど、七万を相手にしたあの時よりは大分マシだろ」
「ちげぇねぇ」
デルフの軽口に才人が応じる。
そのまま敵に突っ込みかねない雰囲気だったので、海苔緒は才人とデルフを引きとめた。
「待ってくれ、俺が魔法で纏めて吹き飛ばす」
「吹き飛ばす? どうやって」
「こいつを使うんだよ」
海苔緒は虚空から武器を取り出す。その武器はまるで巨大な鉄の槍のようにも見えるが実際は違った。
「なんだ、ソレ。対戦車ライフルか何かか?」
「――違う、機械で出来た魔法の杖、【
「え、それが杖なの?」
海苔緒が出したのは、棺姫のチャイカにて、チャイカ・トラバント等の魔法師が使っていた武器、
海苔緒自身もよく分からないのだが、この世界において棺姫のチャイカに相当する作品、――担姫のアンジェリカ(著・菅野省吾)を読破している途中、唐突にアルトゥール王国系統の魔法の知識が海苔緒の頭に思い浮かんだ(知識を思い出す基準は本当に曖昧で、ドラ○エをプレイしたり、ダ○の大冒険を読んだりしても、海苔緒はその系統の呪文を使えなかった)。
そして同時に、その知識を元にして
おそらく機杖を使うために必要な首の紋章が浮かび上がったのだろう。
あらゆる
「才人、この接続索を俺の首の紋章に繋いでくれねぇか」
「……ああ! 分かった」
初めて見る機杖に目を奪われていた才人は、驚き戸惑いつつも海苔緒の指示に従い、機杖の機関部とケーブルで繋がった首輪のような接続索を受け取った。
刹那、才人のガンダールヴの能力が発動し、機杖を反射的に解析する。
(何だ、これ!?)
正常な魔法の効果を発揮するためには周囲の環境に合わせて、詠唱を細かく調整する必要があるが、時間と手間さえ掛ければ個人で城すら吹き飛ばす威力を発揮することもある。
才人はガンダールヴの力により、機杖のポテンシャルの凄さを正確に把握した。
「これでいいか?」
接続索が首に巻かれたことにより、海苔緒と機杖は繋がり、機杖は海苔緒の体の延長と化す。
「すまん、助かった。じゃ、見てろよ」
海苔緒は
それに合わせ機関部と連動する
周囲に温度、湿度、魔力の流れ、濃さ、等々――周囲の環境に合わせて海苔緒は呪文を選び、長い詠唱を紡いでいく。
機杖の銃身を中心に魔法陣が幾重にも展開し、統合されていく。歯車が噛み合うように、バラバラであった細かい術式が複合されることにより、一つの強い術式が完成する。
丁寧に、ゆっくりと確実に術式を組み上げ……やがて都合十数節の詠唱により魔法は完成する。
「――顕れよ〈
巨大な波のような指向性衝撃波が、隊列を組んだ前方の軍隊を呑みこみ……瞬間、まるでボーリングのピンのように、完全武装の兵士百数十名がいとも容易く弾き飛ばされた。
隊列は完全に崩壊し、その殆どが吹き飛ばされた衝撃で行動不能となる。
そうしてこの一撃が、侵攻を続ける帝国軍に対する反撃の狼煙となるのであった。
実はこの作品を書きつつ、なろうに掲載するための小説も書いてます。
連載開始したら報告しますので、その時は応援して貰えると嬉しいです。
では