Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです)   作:五十川タカシ

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遅くなって申し訳ありません。
休み明けから仕事の忙しさが増し、更新出来ませんでした。
しばらくは更新が鈍ると思います……ORZ

そして残業代をfate/goにガチャにつぎ込んだり……
我様欲しかったんですが、ランスロとジャンヌ絶対殺すウーマンさんにゼル爺さんが出たので、そこで止めました。
☆4サーヴァントプレゼントキャンペーンは、ジークフリートかヘラクレスにする予定です。


Gate編
第四十二話「伊丹耀司、彼の地にて斯く戦えり。もしくは舞台裏の蠢動」


 銀座事件より約一か月後。日本の正式発表が行われた。

 明らかにされた三つの異世界の存在――それ等を繋ぐ三つの門が日本に存在しているという事実が世界各国を驚愕や熱狂の渦へと呑み込んだ。

 未だ手付かずの自然や資源、広大で肥沃な土地、加えて魔法という未知の技術体系。

 

 ――まさしく黄金にも勝る宝の山。

 

 それを現状日本が全て独占しているという事実を聞いて、周辺国も指を咥えたままで居られる筈もない。

 お零れに預かろうと日本に接近を図る国もあれば、ロシアや中国など“日本が秘匿していた神聖エルダント帝国との非公式交流”を痛烈に批判し、国連を通じて各国(日本を除く)で異界に通じる三つの門を分割統治するという過激な案を上げる国もあった(もっとも、ロシアと中国に関しては、自国が関わるウクライナや東南アジア方面の領土領海の問題を棚から下げられた途端に口を噤んでしまったが)。

 だがロシアや中国がこれしきで諦める訳もなく、パイの切り分けを狙う国は他にいくらでも居る。

 そんなパイ皿に乗せられてしまった日本だが、アメリカ合衆国の支援もあって各国の追及の第一波を何とか凌いだのであった。

 アメリカの支援は決して同盟国の友情からではなく利害の一致による行動であったが、彼の合衆国が日本にとってこの上なく頼りなる味方であることもまた事実。

 ……かくして各国の今後千年の趨勢を決める新たなパワーゲームは、日本を中心として幕を開けたのだった。

 

 

 

 銀座に突如として出現した門――その向こう側、ファルマート大陸は第一特別地域と呼称されることとなった。そしてエルダントの存在する世界を第二特別地域、ハルケギニアを第三特別地域とした。但し特別地域と呼称しているが、国内と定義されたのは第一特別地域のみで、第二特別地域と第三特別地域は日本の国外扱いであり、その境界である門はある種の国境にも似た扱いを受けている。

 今も接続地点であるそれぞれのゲートには自衛隊が駐留、警護している。

 ――とは云っても第一特地のような門を巡る戦闘が、第二特地や第三特地で起こる筈もなく、飽くまで銀座事件の悲劇を繰り返さないという建前の下に第一特地の二割にも満たない数の自衛隊員が第二、第三特地に派遣されたのであった。そして今の所、第二、第三特地に問題はない。

 問題があるのは第一特地だ。三つの特別地域の中で唯一敵対勢力の存在する異世界。

 銀座事件から三か月ほど経過した所で……門を奪還せんと、ファルマート大陸側から数万の将兵がアルヌスの丘に殺到していた。

 既にエルダントの翻訳指輪とハルケギニアのコモンマジックであるリードランゲージにより情報を収集を重ねていた日本側は、敵側の戦力が連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)ではないかとアタリをつけていた。帝国と呼称される銀座事件の首謀者グループに従属する属国や属州の軍隊の集まりである。

 事件の直前に数人の日本人が拉致されていたことも捕虜たちの証言から判明しており、日本の自衛隊特地派遣を後押ししていた。

 おそらく帝国の目的は日本と従属国で戦力を削り合わせ、自国の軍事的パワーバランスを保つことだと――その時点で日本も予想はしていたため、帝国と属国の分離工作なども検討はされたが……何分、時間が圧倒的に不足していた。

 敵への工作は取り敢えず棚上げして、第一特地に投入していた陸上自衛隊三個師団相当で襲来してきた敵軍を迎え撃つこととなる。

 中世の欧州や古代ローマ帝国の如き装備をした軍隊への対応に関しては、トリステインとエルダント等の他の異世界から戦略的アドバイスを受け入れ、それに基づき陣地や戦略を構築――その結果、見事に敵戦力を撃滅。

 後に戦場から回収された旗や鎧に武具を銀座事件の捕虜たちに見せることで、敵襲が予想通り連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)であったことが判明。

 これにより帝国と連合諸王国との間に軋轢が生じた可能性を考慮しつつ、さらなる情報を収集するために六個の深部情報偵察隊が編成され、特別地域の探索が始まった。

 その中には無論……二重橋の英雄である伊丹耀司二等陸尉の姿もあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀座の門を潜り抜けた先にあったのは、どこまで続く蒼穹だった。

 日野自動車社(開発はトヨタ自動車)製の非装甲汎用車輌――高機動車、通称“高機”の助手席に乗って揺られている第三偵察隊の隊長伊丹は、空を仰いでのんびりと呟く。

 

「どこまで続く青い空……まさに異世界って感じだねぇ」

「そうすっか? 自分には北海道の空と変わらないように見えますけど」

 

 伊丹に反論したのは、運転席でハンドルを握る倉田武雄三等陸曹だった。

 彼は北海道の名寄駐屯地から召集された隊員である。加えて伊丹と同じくオタクであり、伊丹が上下関係に鷹揚であることもあって気軽に話しかける仲になっていた。

 さらにもう一人が伊丹の言葉に口を挟む。

 

「空の色なんて変わらないものですよ。エルダントの空も日本と大差ありませんでしたし」

 

 高機の後部座席……副隊長である桑原惣一郎陸曹長の隣に座っている古賀沼美埜里一等陸曹の発言だった。

 彼女は元々政府の非公然活動要員――所謂ゾンビ―・ユニットとしてエルダントに派遣されて非正規活動に従事していたが、銀座事件後に死亡扱いから特例措置で原隊に復帰し、この度第三偵察隊に編入されたのである。

 このゾンビ―・ユニットの件の問題に関しては一悶着も二悶着もあったが……ゾンビ―・ユニットが前政権の意向に従って動いていたことがあってか、マスコミはあまり取り沙汰にはせず、結局有耶無耶のまま他の異世界に関する無数の話題の中に埋もれてしまった。

 

 ……まぁ、それはさておき。

 

 同様に他の偵察隊にもエルダントで非公式活動に従事していた隊員が、最低一人は組み込まれていた。異世界での活動経験を持つ者を偵察隊に入れることで、任務をより円滑に進めることを意図しての采配だ。

 銀座事件後に伊丹と美埜里に面識を持ったことが、今回の第三偵察隊の編入に繋がったかどうかは伊丹にも分からないが、美埜里が頼りになる隊員であることは間違いない。

 ――但し、同じ女性隊員である栗林志乃二等陸曹が美埜里に対して一方的なライバル意識というか敵愾心を抱いている様子で、伊丹はその件に関して少々の不安を感じていたりもする。

 

(栗林のやつも、なんで態々突っかかるかな……?)

 

 後部座席から顔を乗り出して意見を飛ばす桑原の言葉を聞きつつ、伊丹は事の原因を考察してみた

 

 

 

 

 栗林は女性隊員でありながら格闘徽章を持つ実力者であり、同年代の男性隊員にも負けない自負を持っていた。それだけに美埜里の存在は、彼女にとって色々衝撃的だったようだ。

 ほぼ同年代でありながら階級は上。自分と同じく格闘徽章を持ち、特殊作戦群の隊員などに交じってエルダントに派遣され、非正規活動に従事していたエリート中のエリートである女性。

 まさしく栗林が抱いていた己の理想を体現する女性自衛官が美埜里であった。

 ……だというのに現物に会ってみれば、ガチガチのオタク女子且つ筋金入りの貴腐人で、挙句に自分の理想の隊長像を粉々に打ち砕いてくれた伊丹と仲良くオタトークで盛り上がる始末。

 これらの要因が栗林の美埜里に対する敵愾心の原因とみて、まず間違いないだろう。

 栗林と親しくなりつつある同隊員の黒川茉理二等陸曹に事情を聞いてみた所……栗林は学生時代に同じ学校のオタクたちから幾つもの迷惑行為を受けていて、それがオタクに対する嫌悪感情の理由になっているらしかった。

 今の所は栗林が美埜里に突っかかっては、美埜里に柳の如く受け流されている。美埜里は栗林のことを大して気にしていないようであった。

 栗林は美埜里に何度か格技訓練を申込んで対決しているが、勝率は美埜里に軍配が上がっていた。

 美埜里曰く栗林との実力は伯仲しているそうだが、栗林の頭に血が上り過ぎて冷静さを欠いているのが敗因に繋がっているとのこと。

 格技訓練を見学していた他の隊員たちが密かに“技の古賀沼”、“力の栗林”……というどこかで聞いたことがあるような渾名を付けたことを、未だ二人は気付いてはいない。

 そんなこんなで本来は富田章二等陸曹が伊丹たちの高機に搭乗する筈だった所を美埜里と入れ替わる形で、栗林と同じ車両に乗っている訳だ。

 普通の隊長ならば二人の対立を解消するために奔走するのだろうが、伊丹は栗林に少しばかり釘を刺した以外は何もしていなかったりする。

 

『いやだって俺が栗林に直接注意しても話がこじれるだけだろうし、こういうのはさぁ……桑原のおやっさんとかベテランに任させるのが一番だって』

 

 既に栗林と美埜里の仲を何とかしようと同じ女性隊員である黒川が動いており、伊丹も隊長として協力して欲しいと頼まれたのだが、伊丹はこんな返答を黒川にしていた。

 その後、黒川から失望や蔑みの目で見られたり、数度に渡って嫌味を云われたりしたが……レンジャーや特殊作戦群に入れられようとも蟻の中のキリギリスであり続けた伊丹には全くの馬耳東風で、何ら堪えてはいない。

 それよりも美埜里と話をする度に、少し前に電撃離婚した元嫁の梨紗のことを思い出す方がよほどストレスの種であった。

 離婚の原因に伊丹はまるで心当たりがなかった。だが形から入って形のまま終わった結婚生活であった自覚は伊丹にもある。もしかしたら、先輩と後輩に戻った今の距離感こそが正しいのかもしれない。

 しかし胸にポッカリと穴が開いたような虚無感と云うべきか。元々開いた穴を埋めていたモノが再び抜け落ちた感覚を伊丹は覚えていた。

 元より伊丹は“あの出来事”以来、自身の内にあったナニカが欠けてしまっているのだ。

 他人から『オマエは空気が読めない』と数えきれないほど指摘され続けてきた伊丹だが……正確云えば、空気の変化を機敏に察しているがあえて空気を読まずに行動しているというのが正しい。

 “母親の一件”で親族や周囲の人間から『お前はこうすべきだ』とか、『お前はこうあるべきだ』等と散々同調圧力を掛けられ強要され続けた伊丹は、他人に合わせることにひどく疲れてしまったのだ。

 要は吹っ切れたのである。こうして伊丹は他人に合わせることを良しとせず、出来るだけ楽な道に進むという生き方を貫くことを決意した。

 周囲の人間からまるで流されていくように生きている男だと伊丹はよく誤解されるが、実際は真逆で周囲の流れに逆らって生きているのが、伊丹耀司という男であった。

 楽な生き方を選んでいるだけだと、伊丹は云うが……楽な生き方を選ぶために周囲に逆らうことに使うエネルギーは相当なものであり、一般の人間からすれば絶えず他人からの批判に晒され続ける伊丹の生き方のほうがよほど辛く過酷なものなのかもしれない。

 

(やめだやめ、梨紗を考えるのは無しにしよう。……それより森の中の村か。コダ村の村長に人間が住んでるのか聞いたら、否定のジュスチャーのような仕草をして知らない単語を口にしてたな。もしかしたら住んでるのは亜人……いや、エルフだったり? だとしたら、金髪に色白で耳が長かったりするのかな?)

 

 出来るだけ元嫁のことを考えないように思考を趣味の方面に逸らしつつ、伊丹は隊の面々を引き連れながら森辺の村を目指すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――神殿都市ベルナーゴ。

 

 そこは冥府を司る主神ハーディを祀り、祖先の冥福を祈るために多くの人間が巡礼に訪れる聖地。

 伊丹たちはエルフの村へ向かっているのとほぼ同時刻。神殿都市ベルナーゴの中枢に存在する地下神殿の、とある区画に彼女たち二人(・・・・・・)は居た。

 

「何をしているの? 粘土なんてこねて」

 

 話しかけたのは、褐色の肌にやや赤みの差した銀髪の少女。ハーディ教団の正装である白ゴスを纏う彼女は若干胡乱な目付きをして、もう一人の少女を見つめた。

 すると粘土を弄っていたもう一人の少女は、作業を一旦中断してから答える。

 

「……趣味とリハビリを兼ねた意義のある創作活動よ。何か文句があるのかしら?」

 

 小鳥の囀りにも似た――溶けるような甘い声であったが、同時に嗜虐の色を秘めていた。

 もう一人の少女は艶やかな白い肌に、青みがかった紫の髪をした少女。彼女も褐色の少女と同じく白いゴスロリ衣装を身に着けている

 もしも彼女をよく知る人物が器用に両手の指を動かしている姿を見たならば、きっと驚愕したことだろう。

 

 

 ――そう、かつての月の裏側での彼女をもし知っていたなら。

 

 

 

「ああ、そういえば貴女……ハーディと同じ趣味だったわね」

「失礼ね。確かに以前はそうだったかもしれないけれど、今は違うわ。少なくとも他人を人形にするのはやめにするつもりよ。ハーディのあのコレクションを見せられて……自分がどれだけ醜悪だったのか自覚させられたもの。今思うと、あの人に袖にされてしまったのも当然よね」

「あの人…………ああ、例の恋のお相手ね。そういえば聞いていなかったけれど……どんな相手だったの?」

「そうね、しいて云うなら…………今の貴女みたいな人だったわ」

 

 そう告げて、紫の髪の少女は褐色の肌の少女を射抜くように見つめる。その視線の先は褐色の肌の少女の心臓部に埋まった一枚のクラスカード(・・・・・・)があった。

 そのカードが黄金の王に奪われた少女の心臓の代替として機能し、今の彼女を半英霊(デミ・サーヴァント)たらしめている。

 

「そういうこと。月の聖杯戦争にも参加していたのね――お兄ちゃん(・・・・・)、は」

「私もまさか、彼がオリジナルの聖杯戦争に参加していたとは知らなかったわよ。厳密に云えば――別人かもしれないけれど」

 

 彼女たちは本来舞台から退場した筈の存在だ。

 けれど気付けば両名共このファルマート大陸へと知らぬ間に流れ着き、ハーディの導きによって神殿都市ベルナーゴに迎え入れられた……それぞれ一枚のカードを携えて。

 

「それでジゼルはどうしたの?」

 

 紫髪の少女は、自身が愛好するバレエの演目と同じ名を持つハーディの使徒のことを尋ねると……褐色の肌の少女は思い出したように目を瞬かせてから答えた。

 

「ジゼルなら数日前にランサーを伴って竜が封印されている場所に向かったそうよ。どこかの世界から入手した傀儡竜の技術を応用して制御する算段が整ったらしいわ。腐っても魂を司る神ね、頭どころか魂まで縛り上げて手駒にするつもりなんでしょ……今の私達と同じみたいに」

「私の云えた義理ではないのだけれど、人を人形扱いしてくれて本当に性根が腐っているわね、あの女神。貴女どうにか出来ないの?」

「駄目よ。ルール・ブレイカーを投影して試してみたけど効かなかったもの。腐ってもやっぱり神霊ね」

「本当に忌々しいわ。私も羽や毒どころか、ハイ・サーヴァントとしての能力の殆どを失ってしまったし。この縛りさえなければ、今頃例の門を潜って日本に向かっている所よ。きっと元の世界では失われた(トイ)が山ほど溢れているでしょうに」

 

 紫髪の少女は唇を噛んで、本当に悔しそうに表情を歪める。その表情の変化を見た褐色の肌の少女は呆れたように嘆息し、自嘲するように笑みを浮かべた。

 

「しかたないわ。貴女も私も以前同じで誰かの駒であるのは今も変わらないもの。なら、人形のように踊るしかないじゃない……精霊ウィリの如く誰を死ぬまで踊らせるのか分からないけど」

「それもそうね。で、ハーディの命令(オーダー)は?」

「近々、門を潜ってきた連中の相手をして貰うから準備を整えておけって。――だから今から召喚するわ」

 

 褐色の肌の少女は新たに刻まれた下腹部の令呪を撫でる。加えてだか彼女の全身に刻まれた特別製の令呪も未だ残っている。

 

「召喚するクラスと触媒は?」

「決まっているわ、バーサーカーよ」

 

 褐色の肌の少女が胸元に手を当て、クラスカードを活性化させて姿を変える。赤い外套に黒い軽装の鎧。まさしくそれは、理想の果てに摩耗した錬鉄の英霊の写し身であり贋作。

 そのまま投影魔術を行使すると、少女は巨大な岩の斧剣を地面に突き立てる。

 

「さぁ始めましょう…………新しい聖杯戦争を」

 

 褐色の肌の少女の笑みにつられるように、紫髪の少女も嗜虐に満ちた笑みを浮かべた。

 




ちなみに美埜里さんと栗林の声優さんは同じ人だったり。

謎の少女二人………………一体何者なんだ?


では、

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