Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです)   作:五十川タカシ

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Fate/strange Fakeの小説一巻読みました!

着々と広がるfateの世界観に、本当に胸が躍ります。

そして最後に出てきたあの方はやはり●●●王なのでしょうか? そうなると緑茶さんの知り合いってことに……。


第三十話「最低系転生者の憂鬱? あるいは……『』」

 会議を終えた海苔緒は場所を変え、才人にルイズ、ジュリオとアストルフォの立会の下、ケイローンの診察を受けていた。

 ケイローンほどの大賢者ともなれば、肉体だけではなく……肉体と繋がる魂の状態さえも診察することが出来る。

 銀座事件でのジークフリートの夢幻召喚(インストール)以降、日本政府の調査に協力して何度か夢幻召喚(インストール)を行使したのだが、銀座事件での一回目の憑依顕現の如き過剰負荷は掛かっていない。

 おそらくジークフリートの肉体の一部が固定化されたのに伴い、小聖杯化の状態が定着したのではないか……、と海苔緒は内包する魔術知識から推測していたが、どうやらその見立ては間違っていなかったようだ。

 

「ノリオ、貴方の推測した通り……貴方の心臓と片目は既に英霊のモノと化しています。特に心臓部は、英霊の魂を収めることに特化した特殊器官へ変貌を遂げている、と云っても過言ありません。加えて全身もその影響を色濃く受けているのでしょう」

「……そうですか」

 

 

 ケイローンに指摘されたことはある程度自覚していたことなので、海苔緒自身ショックはあまり感じてはいない。

 肉体の頑強さや回復能力は元々だが、運動能力の飛躍的向上や疲労、苦痛に対する尋常ならざる耐性の獲得などは以前では考えられなかったことである。

 某悪魔憑きになぞらえるなら――さしずめ患部は心臓と片目、新部は全身と云ったところか。

 

「しかしそれだけではありません。ノリオ、貴方はジークフリートに感謝すべきだ」

「え?」

「肉体とは違い、貴方の精神への浸食がそれほどではないのは憑依したのが、ジークフリートだったからでしょう。云っていましたね、ノリオ。夢で見たジークフリートは、無色の願望器のような生き方をした英雄だったと」

 

 海苔緒は呆けながらもコクリと頷いた。

 アストルフォの夢ほど頻繁ではないが、海苔緒はジークフリートの人生を夢として追体験するようになっていた。

 

 ――乞われれば助け、願われれば救い。そして望まれれば奪い、頼まれれば殺した。

 

 ただ求められるまま、それに応じたのだ。()の竜殺しの英雄にとって、善や悪など立ち位置の違い過ぎず、正邪の天秤を……自分を求める他者へと委ね、多くの者の願いを区別することなく叶えた。

 その生き方は“施しの英雄”と呼ばれた不死身の大英雄カルナに少し似ているかもしれない(但し、カルナ自身は外典の聖杯戦争(アポクリファ)にてジークフリートを自らの宿敵であり異父兄弟であったアルジュナに似ていると評している)。

 そんな彼が死の間際に願ったことが、自分の信じるもののために戦う“正義の味方”になることだったのはある種の皮肉とも云える。

 

「ジークフリートは願望器のような生き方をしながらも、何者にも染まらず、何者も染めずに生涯を送った。そんな彼をどうしようもなく“意思の弱い”英雄だったと云う者も、もしかしたら居るかもしれません。ですがそれは違う。どうしようもなく“意思が強かった”から、彼は誰も染めず、誰にも染まらず、願望器のような生き方を最後まで貫き通した。……私は彼に畏敬の念を抱かざるを得ない」

 

 ケイローンは目を閉じて、黙祷を捧げるように数秒沈黙を積もらせると、海苔緒たちに対する説明を再開した。

 

「魂とは大別すると……精神を司る部分と肉体を司る部分に分けることが出来ます。これは東洋のタオニズムにおける魂魄理論でも言及されていることです。これをノリオの事例に当てはめるなら、肉体を司る(はく)に関する浸食は相当なものですが、精神を司る(こん)に関する浸食は殆ど進んでいません。むしろジークフリートの(こん)が混ざり合うことなく、包み込むようにしてノリオの(こん)を保護している。こんな事、通常では考えられない。奇跡と云い換えてもいい。これが他の英霊であれば、とっくに人格を乗っ取られてもおかしくはありません」

「奇跡……」

 

 海苔緒を呟いてから、無意識に片手を心臓に当てた。

 胸中で思い出したのは、夢幻召喚(インストール)を行使した際に幻視したジークフリートの微笑み。

 それは痛みの余り見た――ありもしない幻だったかもしれない。

 でもあの時、海苔緒は確かにジークフリートから何かを託された気がした。

 心臓に当てた手を強く握り締め、海苔緒はその重さを改めて再認識しながらケイローンに問う。

 

「じゃあ、キャスターのクラスカードの夢幻召喚は?」

「問題ないでしょう。ですが、銀座事件で行った制限を解放した夢幻召喚は絶対にしないでください」

「制限を解放?」

「説明が足りず申し訳ない。貴方から渡されたあの杖を少し解析して分かったことですが、あの杖には夢幻召喚行使時に制限(リミッター)が掛かるように厳重な設定がなされていました」

 

 あの杖とはカレイドステッキの片割れ、“マジカルサファイア”のことだ。無論、海苔緒の使用するそれは人工天然精霊が未搭載の劣化贋作である。

 あの杖には、クラスカード発動の触媒になるぐらいしか機能が残っていないと海苔緒は考えていたのだが……。

 

「あの杖はクラスカード使用者と、クラスカードの宿る英霊の力の齟齬を埋めるために第二魔法による適合の可能性の補完を行っている形跡があります。例えば聖杯から与えられた知識によれば……英霊にほぼ完璧に適合する人間が存在する場合、極めて低い確率でその人間に憑依する形で召喚されることがあるそうです。その例から分かるように稀な事ですが、英霊の憑依に適合する人間が中には存在している。そしてあの杖は使用者が英霊に適合する要素を並行世界から集結させているのでしょう」

 

 要するに、平行世界に存在する自分から少しでも高い適正値を持つ個体をサーチし、適合要素を杖の使用者にフィードバックすることで、拒絶反応を極力抑えている訳だ(加えて英霊の人格投影をオミットすることで、精神への負担を出来るだけ軽くしている)。

 ……が、それにも限度がある。基点となる使用者からあまりに離れた平行世界の要素は不可逆的な状態まで使用者を汚染するおそれがあるので、底上げできる適合値にも限界は存在する。

 本来の英霊からステータスやスキルのパラメーターが下がるのもそこが理由ではないか、と考えられる。

 そう補足してから、ケイローンは話を続けた。

 

「故に杖の使用者が英霊に適合出来ないと判断した場合、あの杖は夢幻召喚を停止する仕組みになっています。けれど、ノリオ。貴方は銀座事件時、無意識にその制限を取り払ったのでしょう。その結果として貴方は、左眼や心臓を代償にジークフリートを己が身に宿した」

 

 確かに記憶や人格の一部を持っていかれた実感はある。しかしそれでも奇跡の代価としては安いものだった、と海苔緒は思う。

 それにあの時炎龍を倒していなければ、どれだけ被害が拡大するか分からなかった。

 だから海苔緒はその行為自体に後悔は抱いていない。

 海苔緒はあえて、ケイローンに尋ねた。

 

「再度、制限を無視した夢幻召喚を行った場合は?」

「絶対にやめてください。行えば確実に人格や記憶に致命的な欠落が生じるでしょう。それは自らを殺す行為に限りなく等しい」

「……そうですか。分かりました、気を付けます」

 

 そんな答えを返した海苔緒だが、その胸の内では予感めいたものを感じていた。

 

 ……もしそれが自分殺しの愚行だとしても、必要となれば自分はきっと――。

 

 心臓の鼓動に耳を傾けながら、海苔緒はただ何となくそう思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 診察の後は一応の確認ということで、引き続き、ケイローンにジュリオとアストルフォ、才人とルイズという大人数の前でキャスターのクラスカードの夢幻召喚を行うこととなった。

 虚空よりマジカルサファイアを取り出し、念じることによって白いフリフリのドレスを着装する。

 全身を淡い光が包み込んだ刹那――魔法少女姿の海苔緒は出現した。

 このプロセスを省略するため、色々試行錯誤を繰り返したが今の所成果は上がっていない。

 その姿を見てジュリオは口笛を吹き、才人は腹を抱えて笑う。ケイローンとルイズは何とも複雑な表情を浮かべていた。

 そして相棒のアストルフォは……何故だかドヤ顔で親指を立てている。

 海苔緒は無性にイラッと来たが、フリフリのドレスのまま暴れるわけにもいかず、気を取り直してジュリオから渡されたキャスターのクラスカードを握る。

 

「――告げる。汝の身は我に、汝が命運は我が手に。 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 

 床に深紅の魔法陣が浮かび上がる共に、全身の魔術回路が起動する。

 心臓から血潮と共に体中を駆け巡るのは、馬鹿みたいな量の魔力。刺激は脳からではなく、心臓から溢れ出していた。

 まるで自身が心臓に集約させていくかの如き錯覚。毛細血管を疾駆する血流と競い合うように、神経系を巡る魔力がのたうち回る。

 詠唱を紡ぐ度、細胞が発火したかのような熱を持った。

 余剰魔力が突風の如く吹き出し、屋内だというのに海苔緒の周りに旋風が巻き起こる。

 

夢幻召喚(インストール)、クラス・キャスター、真名(ネーム)――メディア」

 

 目を眩むような発光。巻き起こる魔力の旋風が逆流するように海苔緒の心臓へと収束し、光が収まると……そこには怪しげなローブを纏い、マジカルサファイアとは異なった杖を握った海苔緒の姿を見せていた。

 

「どうやら成功したみてぇだな……」

 

 魔術を行使して自己診断を通すが……肉体と精神共に異常はない。

 海苔緒は気持ちを少し緩ませ、安堵の息を吐いた。

 続いて夢幻召喚時のキャスターのスペックを確認していく。

 ステータスは本家メディアと比べると魔力はワンランク下がっているものの、耐久や筋力はワンランク上がっていた(正直意味があるか微妙だが)。

 そして陣地作成、道具作成、高速神言のスキルもBランクにダウン。

 金羊の皮(アルゴンコイン)はEXのままだが、メディア自身が竜召喚スキルを持っていないので意味はない。

 破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)も宝具のランクはCのままだが、今は使い所が思い浮かばなかった。

 

「ノリ、大丈夫?」

 

 さっきとは打って変わって、アストルフォが心配そうに声を掛けてくる。ノリオは『大丈夫だ』と軽く手首を振って応じてみせた。

 ただ想定外だったのは、夢幻召喚の瞬間……メディアの記憶が走馬灯の如く駆け巡ったことだ。

 海苔緒は神妙な顔でケイローンの方を向き。

 

「先生、一瞬だけメディアの記憶が見えました。映った男の顔は多分イアソンだと思います」

 

 感じたのは哀しみ、怒り、絶望。そして帰れなくなった故郷への強い郷愁の念。

 伝える必要はなかったかもしれない。けれど、それでも口にせねばならない、と海苔緒は感じたのだ。もしかしたら内包したメディアの感情に引き摺られての行動だったかもしれない。

 

「……そうですか」

 

 ケイローンはそれ以上追及することはせず、黙ったまま(うつむ)いた。浅く握られた拳は僅かに震えている。

 やはりケイローンは養育者としてイアソンのことに、責任を感じているらしい。

 メディアの姿をした海苔緒は、そんなケイローンの様子をどこか不思議な心地で見守っていた。

 

 

 

 メディアを夢幻召喚したことにより、海苔緒は陣地作成スキルに関しての知識を得ることが出来た。それによれば……地脈制御の神殿を建設する場合、数千年の歳月を経た石材などを使用するのが望ましいとのこと。

 地球ならば重要文化財でも切り崩さない限り不可能に近いが、幸いにもここはハルケギニア。固定化の魔法が存在しており、数千年の時を経た建築資材も珍しくないのだ。

 ジュリオに相談した所……廃墟と化したアクイレイアの廃材を加工して使用すればいいと答えが返ってきた。

 地脈の近くで採鉱された石材を使うのは、確かにベストに近い選択だ。

 詳しく話は日本政府と通して詰めようと、海苔緒が考えていると……。

 

「ちょっと、いいかしら?」

 

 今まで才人と一緒に沈黙を保っていたルイズが手を挙げた。

 

「なんだ、ルイズさん」

「さっきから貴方の口から魔法とか魔術という単語が出ているけど、その違いっていうのは一体なんなの?」

「……ああ、そういえば詳しく説明していなかったな」

 

 

 海苔緒は出来るだけ手短に、魔法と魔術の違いと定義について語る。

 才人は横で激しく首を傾げていたが、ルイズは海苔緒の話を正しく理解した。

 

 

「つまりいくら時間とお金をかけても実現出来ない結果をもたらすものが“魔法”でそれ以外が“魔術”ってことね」

「その定義に当てはめるなら、ルイズさんの虚無魔法の世界扉とかは魔法ってことになるな」

 

 なにしろ次元移動の魔法である。並行世界の運行を司る第二魔法に近しい域にあると云っても過言ではないだろう。

 

「私たちの系統魔法と貴方の云う“魔法”とは違うものでしょ」

「いえ、一概にはそう云いきれません」

 

 ルイズの否定に口を挟んだのは、ケイローンだった。

 

「ルイズさんやティファニアさんが虚無の魔法を行使する様子を何度か見せて頂きましたが……虚無の魔法は“原子操作による事象の改変”という体裁をとっていますが、その力の本質は『』と非常に近しい」

「“『』”?」

「先程ノリオが説明した“魔法”というものは『根源』より流出した力の一端と定義されています。『根源』とは真理であり、また全ての要素が存在する場所と云われています。そしてその『根源』に極めて近しく、そして限りなく遠いものと定義されるのが『』です。文字通りそこには何もかもが存在していない。故にそこは“虚無”と呼ばれることもあるのです」

「虚無って、ちょっとまさか……」

 

 ルイズに対し、ケイローンは肯定の意を示した。

 

「お察しの通りでしょう。“魔法”が『根源』から引き出された力ならば、貴女やティファニアさんが使う“虚無魔法”は『』より引き出される力、と対比することが出来る。少なくとも私はそう考えています」

 

 ケイローンの発言に皆驚いていたが、内心で一番に驚愕していたのは海苔緒だ。なまじ知識がある分、そんな関連があるなど全く考えもしなかった。

 

「非常に興味深い話だ。つまりは我々の世界の虚無魔法と、貴方の世界に存在した魔法はコインの裏表の関係にあると、そう貴方は仰るのですか?」

「はい、その通りです。ジュリオ殿」

 

 ケイローンはジュリオの言葉を肯定した。

 加えてだがケイローンは内心で、とある懸念を抱いていた。

 切っ掛けはつい先刻、海苔緒の体を診療した時……些細な違和感を覚えたことだ。

 海苔緒の体の内側が、どこか外側と接続しているような奇妙な感覚。確認のため、海苔緒の簡単な魔術行使して貰ったところ……その感覚は大きくなり、接続された“外側”から海苔緒の体の内側に魔力が流入していることも判明した。

 おそらく海苔緒自身に全く自覚はないのだろう。

 

(もしかするとノリオの体は……)

 

 そうであるならば、海苔緒が有するという複数の能力に関して説明がつく。

 そういった人間が存在したという事例がない訳ではない。

 しかし決定的な証拠はないのだ。“どちら”に繋がっているにしろ、軽々しく告げられることではなく、海苔緒本人の情緒を不安にさせる可能性が大きい。

 それに飽くまで、現段階ではケイローンの推測に過ぎない。

 少なくとも火竜山脈の神殿建設が終わるまでは、しばらく伏せておこうとケイローンは密かに決意するのであった。

 

 

 




海苔緒の夢幻召喚は、イリヤや美遊ほど完璧でないため、憑依したサーヴァントの感情に多少影響を受けたりします。
けれど乗っ取られるほどではありません、バーサーカーのクラスは別ですが。
魂魄理論はエルメロイ二世の事件簿で触れていたので、少し参考にしてみました。
海苔緒の正体に関しては、ケイローンの独白で大分分かったと思います。
まぁ、あれです。どっかのツンギレとか、一日三回ファブリーズさんとか、似て非なるものですがそういう系です(震え声

では、

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