Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです) 作:五十川タカシ
ゲームやってた訳ではないです、年末前の激務で全然執筆の時間が取れませんでした。
まさかあんなに忙しいとは……正直舐めていた。
後ゲート最新刊読みました。
ゲート編のプロットで、半オリキャラとして『カティ殿下の隠し子』とか考えていたのですが……ちょうど原作がカバーしてくれたので良かった良かった。
ゲート編は原作とも違った結末を考えていますので、ご期待して頂ければ幸いです。
オリジナル作品の方は来年から連載出来れば、いいなぁと思ってます。まだ全然書けてないですけどね……ORZ
ケイローンとしばらく会話を続けた後、海苔緒は風に当たり続けて冷やした体を温める為、船室で休むことにした。
ケイローンはそのまま甲板に残り、一人で思案に
そんなサイクルを何度か繰り返す内に陽は沈み……その夜、海苔緒はアストルフォに誘われ、甲板で星空を観賞した。
はっきりと透き通った夜空に浮かぶ満点の星々は、まさに天然の
船員から貰った毛布に
こうして夜は更け――また朝が訪れる。
朝日と共に見えたのは……数ヶ月前にエンシェントドラゴンにより壊滅的な被害を受けた海上都市アクイレイア。ガリア国境付近の火竜山脈の麓に位置する人工島と水路で構成された街だ。
ルイズとティファニアに与えられた【アクイレイアの聖女】の称号もここから来ている。
かつてはイタリアのベネツィアを思わせる優美な街並みを誇った都市は、未だ無残な姿に荒れ果てたまま。住人の多くが死傷したため、復興の目途が立たないのである。
才人たちは、そんなアクイレイアの景色を複雑な表情で眺めていた。
かつて……とはいっても一年経つか経たないかだが、栄えていた頃のアクイレイアに訪れていたこともあった才人とルイズ。
生き残った住人を勇気付けるために何度か慰問に訪れたこともあったそうだ。
それ故思うことも多々あるのだろう、と……当人でない海苔緒にも容易に理解出来た。
そうして……エンシェントドラゴンの残した爪痕を目の当たりにして間もなく、一行は宗教都市ロマリアへと辿り着く。
規則に
さすがハルケギニア各地の神官たちが『光溢れた土地』と形容するだけあって、宗教都市ロマリアの市内には豪華絢爛な寺院がずらりと並んでいる。
但し、濃厚な光には濃密な影が付きまとう。
陽光の指す通りを煌びやかなお仕着せを纏った神官たちが歩む……その隣では、日の差さぬ裏通りにて貧民たちが肩を寄せ合って貧民
似たような風景がそこらかしこで見て取れる。
レコン・キスタの反乱、ガリア戦役、加えてエンシェントドラゴンの復活。
立て続けに起きた災禍で生じた難民が、ここ宗教都市ロマリアに流れ込んできた結果だ。
何というか……煌びやかな神官と襤褸のような服を纏った難民たちの対比は世の中の不公不条の縮図を示すようにも見える。
けれどルイズに云わせれば、神官たちのお仕着せは大分地味になっているし、各宗派の寺院の前で行われている炊き出しの質や量も増えているとのことで、『ここも大分マシになったわね……』と溜息混じりに呟いていた。
前教皇の尽力の成果だそうだ。そうであるなら、以前はどれほど酷かったのだろう?
海苔緒はふと、隣のアストルフォに視線を落とす。
アストルフォが現在サーヴァントとしての姿だが、腰の剣と白のマントは具現させていない。
武器となる剣は当然として……マントを具現させていないのはロマリア聖堂騎士団とのトラブルを避けるため。
ロマリア聖堂騎士団――宗教都市ロマリアで唯一武装を許されたロマリア精鋭中の精鋭。皆一様に銀糸の織り込まれた純白のマントを纏い、狂信にも似た信仰の下で彼等は文字通り“死ぬまで”戦い続ける。
そんな彼らの装いはアストルフォの騎士姿に類似していた。
聖騎士という同じルーツを持つが故の相似だろう、と海苔緒は思った。アストルフォもロマリア聖堂騎士団を見て、かつての十二勇士とそれに付き従った聖騎士たちを思い出した様子である。
ともかくロマリア聖堂騎士を騙った等と文句を付けられないため、海苔緒は事前にマントを外してくれと、アストルフォへ頼んでいた。
『もう、大げさだなぁ……ノリは』
そう云いつつもアストルフォは海苔緒の要請通りマントを外してくれた。ティファニアも同様に大きめの帽子で耳を隠している。
エルフとの和睦が水面下で進んでいると云え、ブリミル教徒にとって
エルフとの完全な和平はまだまだ遠く険しい道のりと云えよう。
――そうこうしている内に目的地が見えてきた。巨大な門だ。その先にあるのがブリミル教の総本山に置かれた宗教庁、ロマリア大聖堂。五本の塔が五芒星を描き、その中心に巨大な塔が建てられている。その建築様式はトリステイン魔法学院にとても良く似ている。
当然のことだ。トリステインにある魔法学院はこの大聖堂を模して造られたのだから。
ただ規模が違う。魔法学院とは赤子と大人ほどに大きさが異なっている。それだけロマリア大聖堂は荘厳で巨大だった。
フランスの凱旋門の如き大層立派な門を潜り、海苔緒や才人たちは中心の塔まで馬車で送って貰い、そこから徒歩で会議が行われる広間まで案内を受けた。
会議場には先んじてガリア代表の面々が待機していた。
メンバーは女王であるタバサ、女官の恰好をした使い魔の風韻竜、シルフィード(人間体の時は本名のイルククゥを名乗っている)。加えてタバサの親衛隊とも云うべき東薔薇騎士団団長に任命されたバッソ・カステルモールが護衛として同行している。
彼は元々下級貴族の出で、タバサ(シャルロット)の父オルレアン公シャルルに見いだされ、、忠誠を誓っていた騎士。
ジョゼフがシャルルを殺害した後はジョゼフに従う振りをしつつ、ジョゼフを打倒しタバサを女王として擁立する計画を練っていた。
タバサとその母であるオルレアン公夫人を才人等がビダーシャルから救出した後、国境を越える際に協力してくれたのも彼でもある。
そうであるから、カステルモールにとって才人は主君であるタバサやオルレアン公夫人を救った恩人である筈なのだが……、
「よぉ! 久しぶりだなッ、タバサ」
才人が無遠慮に声を掛ける。一国の女王に対しては無礼千万とも取れる挨拶。
けれどタバサは途轍もなく嬉しかった。立場を変わろうと、自分に接する態度が全く変わらない彼がどうしようもなく好ましかった。
――自分を絶望の檻から救ってくれた勇者。残る己の一生全てを捧げたいと思った相手。
最初は崇拝と恋慕の入り混じった感情であったが、時間を掛けて混じり合うことによりそれ等のタバサの想いは才人に対する深い愛情へと醸成されたのだ。
その気持ちは今も変わらず、ルイズと結婚した後も燻り続けていた。
タバサは対してコクリと頷くと、顔を真っ赤にして俯いてしまう。そして時折才人の方へ期待するような視線を送っている。
現代的且つ下種な物云いをあえてするなら、タバサの顔は俗に云う【
キュルケは友人として掛けようとしていた声を止め、ニヤニヤとした表情を浮かべた。
それと相反するように護衛のカステルモールは、見る見る内にギリギリと歯を軋ませるような壮絶な表情で才人を睨み付けた。もし仮に帯剣していたら、怒声を上げ問答無用で斬りかかりそうな勢い。
「カ、カステルモールさんも、おッ、御久しぶりデスネ……」
威圧されてぎこちなく才人が挨拶をすると、カステルモールは睨み付けたまま『フンッ!』と一瞥くれるだけであった。
カステルモールの気持ちは分からなくもない。タバサが女王の地位を妹のジョゼットに譲ろうとしている件も、何割かは才人のことが理由に絡んでいるだろう。
何よりカステルモールは聞いてしまったのだ。
女官として側に侍るシルフィードとタバサとの会話で、『妾でも、四人目でも、私は構わない』とタバサが発言していたのを。
ちなみ三人とはルイズ、シエスタ、ティファニアのことである。カステルモールからすれば正妻のルイズと結婚して未だ数ヶ月というのに、妾が二人も居るのは激しく乱れている。
英雄色を好むと云っても限度があるだろうッ!!
……こんな盛りの付いた犬のような色狂いに、断じて亡きオルレアン公の娘であるシャルロット様は任せられないッ!!
亡くなった尊敬する上司の娘に悪い虫がついて憤慨する熱血部下の如き心境で、カステルモールは才人を敵視していたのだった。
そんな才人をルイズも睨み付けているかと思えば……そんな訳でもなく、飽くまで冷静に事の成り行きを見守っていた。
結婚前ならこの場で同じく激怒しただろうが、結婚して確固たる繋がりを得たことにより、ルイズの中で少し余裕が出来たためだろう。
同時に自分一人で才人を支えることの難しさもここ数ヶ月で実感した。出世により妬まれた才人を守るためにも使用人であるシエスタの協力は不可欠であるし、ティファニアも同じような理由と多少の同情で同衾を許していた。
加えて才人を支えていくためにルイズはシエスタ、ティファニアと間に協定も結んでいる。
タバサの事情を知っているが故に、ルイズもタバサまでなら許容してもいいかもしれない……位には奇跡的にも態度を軟化させていたのだ。
だが赤の他人の女は駄目だ。ルイズは許せない。……後、親友である姫様も。世界が終ろうとも絶対に。
ルイズがそんなことを思っている最中、使い魔のシルフィードはタバサの気持ちを代弁しようかと迷っていた。
『見るのね! お姉さまはこんなメスの顔をして、お前に卵を産ませて欲しがってるのね!』
――とか、そんな感じに。
が、そんなことを云うと主人であるタバサに飯抜きにされてしまうことをパブロフの犬的に覚え込まされていたので、シルフィードはあえて何も云わないことにする。
……
幼い韻竜の思考は、単純且つ極めてドライだった。
口を開く代わりにシルフィードが目を泳がせたそのタイミングで、再び会議室の扉が開かれた。
トリステインの女王アンリエッタと護衛の銃騎士アニエスの両名を引き連れて、この会議の主催者であるジュリオ・チェザーレが姿を見せたのだ。
「やぁ、久し振りだね、サイト。それにルイズも。頼んだ通り……どうやら例の二人も連れてきてくれたみたいだね」
つい二ヶ月前にガチの殴り合いをした相手へ見せるものとは到底思えない、雅で爽やかな挨拶だった。ちなみに表情も満面の笑み――いつもの飄々とした伊達男の顔だ。
才人とルイズは面食らったように固まるが、ジュリオが構うことなく話を続ける。
「二ヶ月前はすまなかった。怒りの余りに、ぼくも我を忘れていたんだ。許してくれるとありがたい」
いけしゃしゃとそんなことを云い放った。大した面の皮の厚さだ。
ルイズは何となく、才人を巡って取っ組み合いを繰り広げたこともあるアンリエッタの方に視線を泳がせた。
けれど才人は、その厚い面の皮の下に強い激情を秘めていると知った。だから下手に軽口を交わすことも出来ず、警戒した才人はぶっきら棒に告げる。
「俺は別に構わねぇよ。ただ謝るなら俺じゃなくて、タバサの方が先だろ。……お前を御咎めなしにしたのも、タバサだしな」
……それが筋ってもんだろう、と才人は振り向かずに後方のタバサを指した。
ガリアの女王であるタバサに殴りかかろうとしたのだ。いくら事情があるとはいえ、本来なら厳罰は免れなかったのだが、タバサ本人がジョゼットに関することで一部非を認め、ジュリオを無罪放免にしていた。
「ぼくとしたことが、それは失礼した」
才人とルイズに優美に一礼すると、軽い足取りでタバサに近づく。
しかし付き人であるカステルモールとシルフィードが、当たり前のように立ちはだかる。
カステルモールは才人相手の時のような、あからさまな怒りこそ表には出していないが、冷たい眼差しでジュリオを牽制する。対してシルフィードはガルルッと獣のように唸って威嚇した。
ジュリオが肩を竦めるが、二人は全く意を介さない。
「カステルモール、シルフィード。大丈夫、下がって」
そんな二人に、タバサは下がるよう指示をした。
「しかし……」
「でも……」
「――いいから下がって。大丈夫、問題はない」
一言目より明らかにタバサの語調が強くなった。元々感情が押し殺して喋るタバサだからこそ余計に強調される。
顔を見合わせた二人は渋々タバサの命に従って後ろに付く。けれどもジュリオに対して目線は外さない。不作法を働けばいつでも飛び掛かれるぞ、と言外に告げているようであった。
ジュリオは少し距離を置いて膝を付き、臣下の礼の如き姿勢を示す。
「ご機嫌麗しゅう、シャルロット女王陛下。ジョゼット様は息災でしょうか?」
「お蔭様で。バリベリニ宰相は非常に有能。ジョゼットの護衛の件も助かっている」
タバサは簡潔に即答した。
バリベリニ宰相とはロマリア出身の助祭枢機卿のことである。タバサの女王即位に伴ってガリアの宰相に就任した。
原作ではヴィットーリオ教皇の命に従い、タバサとジョゼットの入れ替わりを画策した人物の一人だったが、この世界においてはジュリオの協力要請を受けて真面目に宰相を務めている。
護衛に連れてきたロマリア聖堂騎士をジョゼットやオルレアン夫人の警護に回すことにより、二人の安全をより高めていた。
異端審問に掛けられるリスクを考えると、良くないことを考える輩も動きが取れなくなる。抑止力として聖堂騎士は機能を果たしているのだ。
加えてバリベリニ宰相は、ジョゼットが陸の孤島に軟禁されていた事実を醜聞ではなく、子を想っての致し方のない処置……つまりは美談として、情報を巧みに操作してガリアの世論をコントロールして見せた。
腹黒なのは変わりないが、バリベリニ宰相の策謀はガリア王家を害する方向には向いていないので、イザベラに多少警戒されているレベルである。
そしてジョゼフの娘であったそのイザベラは、タバサやジョゼット……加えてその母親であるオルレアン夫人と良好な関係を築いている。
今頃もタバサと同じ位に溺愛気味のジョゼットの補佐についているだろう。
「やはり考え直しては頂けませんか? ジョゼット様は未だ己の出自を知って数ヶ月と経っておりません。女王となるだけの知識と覚悟――そして何よりも、自らの意思は御有りなのかと疑問に思います」
ジュリオの発言は不敬と取られてもおかしくないものだったが、カステルモールは何ら反論しなかった。迷っているのだ。
オルレアン公シャルルの双子の娘の内、どちらが女王としてガリアを治めていくべきか……カステルモールはまだ答えを出せないでいる。
けれどタバサは、ジュリオの言葉に心動かされる様子はない。
「足りないものはこれから補えばいい。ジョゼットにも何度も意思を確認している。新しい政治体制への移行と共にジョゼットに女王の地位を譲る。これは決定事項」
既にオルレアン公派の有力貴族には概要を伝えてある。彼等は一様に戸惑った様子だったが……ジョゼフ王が敷いたような圧政を二度と繰り返さないためだと説明すると、皆納得してくれた。
イザベラと共にタバサはガリアを生まれ変わらせる準備に着々と進めている。
新しいガリアには、新しい王が必要で……それは自分のように過去に囚われて生きてきた人間には相応しくないと、タバサは思っている。
それはジョゼットのような何の確執も持たない人物がなるべきだ、とも。
「自分の妹に、女王の地位を押し付けるおつもりか?」
穏当に聞こえるが、ジュリオの言葉には静かな怒気が混じった。
タバサはジュリオの訴えを真っ直ぐ受け止めて、
「そうかもしれない。けれど、わたしは
ガリア王族において双子の存在は禁忌であり、政争の原因としても忌み嫌われていた。だから双子として生まれたタバサとジョゼットは、生まれて間もなく離れ離れとなり、互いの存在すら知らなかった。
このままタバサが女王を続ければ、ジョゼットは女王の双子の妹として一生日陰者の道を歩むことになるだろう。禁忌の子……、と後ろ指を指されるかもしれない。
タバサはそんな道を妹に歩ませたくはない。光溢れる道を堂々と歩んでほしいのだ。
それは厚かましい押し付けかもしれない。……けれど、そこには不器用ながらもタバサの妹を想う気持ちが確かにあった。
タバサの瞳に湛えられた強い意志を目の当たりにして、ジュリオは深い溜息を付く。
「どうやら思いのほか、御決意は固いようですね。分かりました。ただ一言だけ御無礼を。“ジョゼットを悲しませる奴は何人たりともおれが許さない。それだけは覚えておけ!” ……失礼致しました。ですがどうかお忘れなきよう」
途中ジュリオはあえて口調を素に戻した。カステルモールもさすがに許容出来なかったのか飛び出しそうになるが、タバサは片手を横に伸ばしてカステルモールを制止する。
「シャルロット女王陛下!? しかしッ……」
「問題はない。ジョゼットの件は肝に銘じておく」
「……感謝致します。女王陛下」
――こうして剣呑な問答は終わり、会議は開始されることとなる。
元々非公式の側面の強い会議であるので人数は少数だ。殆どが顔見知りであるが、海苔緒とアストルフォ、ケイローンだけはそうでもないので、会議の初めに改めて自己紹介をした。
海苔緒が大型の竜を真っ二つに斬り裂いたと知って、アニエスやカステルモールは少しだけ驚いたように眉を顰めたが、才人という前例を知っていることもあり、予想していたよりは驚いていない。
タバサの使い魔シルフィードに至っては本当に嫌そうな顔をしている。無理もない。 同種ではないとはいえ、自分と同じドラゴンを両断したと聞いて喜ぶ筈もないだろう。
三人の自己紹介の後、いよいよジュリオの話が始まり……、
「まず初めに皆様にお伝えしたいことがあります。つい数ヶ月前に封印から復活し、ハルケギニアを襲ったエンシェントドラゴンに関してのことです」
耳朶に触れた瞬間、全員の身が固くなる。
「歴代の虚無の担い手が残した資料を解析した結果……世界を燃やし尽くした災厄【エンシェントドラゴン】。それは一個体の存在を示すものではなく、一つ種……つまり複数の個体を示すものだと判明致しました」
「――ッ!?」
ジュリオの言葉に、会議の場に居た全員が絶句した。
休みは入りましたので今度こそ早く更新したいと思います。
では、