Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです) 作:五十川タカシ
友人から聞いて、最初自分はからかわれているのではないか? と疑ってしまいました。それほど衝撃的でした。
多分規制やカットシーンが沢山あるんでしょうね……(白目
けれども今からとても楽しみです。
そして申し訳ないのですが、ロマリアの会議は次回に持ち越されました。
ケイローンと海苔緒の話を入れたら膨らんでいしまい、今回でロマリアまで辿り着かなかったという……ORZ
多重クロスということで色んなキャラを絡ませたいが故に進みが極端に遅くなる。
けれど、それ等がないと薄っぺらい内容になってしまう。
何と云うか……ジレンマです。
ギージュとモンモラシー等の案内でド・オニエールを一通り見回した翌日、海苔緒たちは竜籠に乗り込んだ。才人にルイズ、それにティファニア、ケイローンも、だ。
シエスタに関しては、今回は屋敷で留守を任されている。シエスタ本人は不満そうだったが、日本の関係者が屋敷を会談に使用する関係で屋敷を閉めきる訳にもいかなかった。
一行が目指す先は、風石により空を翔るハルケギニア特有の乗り物――“フネ”の停留場。
ルイズの友人であるキュルケ……その実家であるツェルプストーが所有する【オストラント号】に乗船するためである。
ロマリア連合皇国の首都であるアウソーニャ半島の宗教都市ロマリアまでの距離は遠い。
通常の“フネ”ではガリア上空を通過する最短ルートでもトリステインからロマリアまで快速船で三日は掛かる。
しかし帆船である“フネ”に比べ、オストラント号は就航当時から三倍程度の速度を出すことが出来た。
何せオストラント号には、コルベール先生がゼロ戦のエンジンを独学で解析した末、発明した水蒸気式プロペラ推進機関を搭載されているのだから。
現在では日本から持ち込んだ部品を組み込むことで(銀座事件より前のこと)、オストラント号は推進機関の軽量化と推力向上を同時に実現し、ロマリアまで約十五時間程度で到着出来るらしい。
そんな訳でコルベール先生は、日本の関係者からも一目を置かれている。日本風に云うならば……いい意味で変態科学者ということだろう。
停留場に海苔緒たちや才人たちが着くと、既に先客が待っていた。
「――遅かったじゃない、ルイズ」
どこか間延びした艶のあるマイペースな女性の声。燃える様な赤い髪に、褐色の肌が特徴的な美しい女性だった。後……ティファニアほどではないにしろ、胸が大きい。
「アンタ、本当にゲルマニアの代表としてロマリアの会議に出るのね……キュルケ」
どこか呆れた口調でルイズは、友人であるキュルケに告げる。
そう、待っていたのはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。ルイズの実家――ヴァリエール公爵家にとっての不倶戴天の敵であるツェルプストーの娘である。
以前は魔法学院の宿舎の部屋が隣同士で喧嘩が絶えなかったルイズとキュルケだが、苦楽を共に困難を乗り越えてきたこともあって……二人は今、良好な関係を保っている。
ルイズは才人の、キュルケのコルベールの、互いに想い人の愚痴や惚気話を云い合ったりする程度には、二人の仲は落ち着いたのだった。
「仕方ないじゃない。アルブレヒト三世閣下が出席なさらない……って云うのだから。他にも色々な所をたらい回しになった挙句、ツェルプストーにお鉢が回ってきたのよ」
ヴァリエール家と因縁を結んでいるだけあって、ツェルプストーは新興のゲルマニアの中では大分古くから続いており、代理の大使に選ばれる家の格としては問題なのだが……、
「ジョゼフが倒れた影響で、ゲルマニアで権力争いが激化しているっていうのは本当なのね。キュルケ、アンタの家は大丈夫なの?」
……これだから成り上がりの野蛮な国は、とルイズは少しばかり思ったが、さっと胸の中に引っ込めてあえて発言には出さなかった。
以前であれば特に意識せず口に出し、キュルケを無為に刺激したかもしれないが、才人と結婚した今のルイズは大人なのだ。……そう、色々な意味で。
皇帝であるアルブレヒト三世がロマリアの会議に参加しない理由は、帝政ゲルマニアの権力基盤が不安定になり、国から離れられないから。
元々アルブレヒト三世は身内を蹴落として、皇帝の座を付いた。
政敵であった親族たちは立派な鎖の付いた頑丈な扉を閉ざされた塔に幽閉されている。
アルブレヒト三世は、幽閉された親族の
かつて無能王ジョゼフは、アルブレヒト三世に面と向かってその件を『健康のためだね! 贅沢は体に悪いからな。優しい皇帝だな、あなたは!』と盛大に皮肉っていた。
そんなジョゼフが倒れ、ガリアが圧制から解放せれると……今度はゲルマニアでアルブレヒト三世打倒の動きが密かに広がったのだ。
打倒運動を焚きつけているのは、政敵であった親族に付き従っていた貴族たちである。
そうした貴族の多くはアルブレヒト三世によって処断されるか、さもなくば左遷されたのだが……『ジョゼフが倒された』との一報を機に、一挙に団結したとのこと。
彼等はアルブレヒト三世が幽閉している親族の解放と、アルブレヒト三世の退位を目的に活動を開始した。
これによりアルブレヒト三世はすっかり疑心暗鬼に陥り、ゲルマニアでは不穏な空気が流れている。
「大丈夫よ、ウチはほら……中央の権力闘争にも慣れっこだもの。それよりも……その月目、貴方がミスタ・シタケかしら?」
婀娜っぽいキュルケの視線が海苔緒へ向けられる。
好意があるとか、ないとかそういう問題ではない。興味がある人物に対しては、自然とそんな視線を投げるのがキュルケ。さすが『微熱』の二つ名持ち。もはや呼吸をするレベルだ。
月目(色の違う双月に、ちなんでいる)……つまるところ、オッドアイはハルケギニアにおいて不吉の象徴なのだが、キュルケは全く気にした様子はない。
もっとも才人に関わったハルケギニアの住人達も、今更そんなことを気にしないが。
月目が原因で捨て子にされたであろうジュリオは、自分の月目を何も含むものがなかった才人だからこそ、好意をもって友人関係を築きたいと思ったのかもしれない。
海苔緒としては、キュルケのような押しの強い積極的な女性は苦手な部類なのだが、短い期間に多くの人物と接してきたお蔭か、平常に接することが出来た。
「ああ、俺が紫竹海苔緒だ」
「そう、やっぱり貴方が『竜殺し』のノリオなのね。ルイズの手紙の通り、華奢な体をしているわ。これで火竜より二回り以上も大きい『炎龍』とかいうドラゴンを倒したなんて信じられない位に……」
そう云っている内にキュルケは、いつの間にやら海苔緒との距離を詰めていた。
艶めかしい褐色の手が、海苔緒の顎を弄ぶように撫でる。
「なっ、ちょ――!」
「貴方……驚いた顔もかわいらしいのね。まるで本当に女の子みたい。不味いわね、こういうタイプは初めてだわ」
少しばかり悪戯心でからかう心算が海苔緒の反応を見て、キュルケは興が乗ってしまう。そのまま顎を撫でていた指を海苔緒の頬へと移そうし……、
「はい、は~~いッ! ストップ、ストップ!!」
真っ赤になって硬直している海苔緒と、妖艶に微笑むキュルケの間にアストルフォが割り込んだ。
「あら、貴方は……」
キュルケは最初、桃色の髪ということでルイズの従兄妹か何かと思ったが、ルイズの手紙に書かれていたもう一人の人物を思い出す。
「ボクは海苔緒の
声色が変わった。アストルフォの表情も、蠱惑的というか小悪魔めいたものに切り替わる。
アストルフォは、海苔緒の頬を撫でようとしていたキュルケの手を気付かぬうちに握っており、そのまま両手をキュルケの手に添えて膝をつき忠誠を誓う騎士の如きポーズを取って見せた。
見惚れる様な洗練された動き。さすが色男と語られるだけあって、女性の扱いには長けている。
女性を相手にする時、アストルフォは雰囲気を入れ替えることがある。スイッチが入れ替わるというか、チェシャ猫が豹にトランスフォームするというか……海苔緒はこの状態のアストルフォのことを密かに『イケメンモード』と呼んでいる。
昨日の夜もギージュと行動を共にしたアストルフォが、ギーシュの取り巻きであった女の子たちを最終的には自分の取り巻きに変えていたのだ。
『アストルフォを何とかしくれ!』とギーシュに泣きつかれた海苔緒だが、鋭い視線で『自業自得よ!』と語るモンモラシーの手前、何も出来なかったのである。
「貴方のこともルイズから聞いているわ。異界から召喚された異教の聖騎士様だって。随分と情熱的なのね。信仰を守る騎士なのに……いけない方」
ただらぬ雰囲気を発する二人。海苔緒はオロオロするだけで何も出来ない。
そして流石に拙いと思ったのか、ルイズが止めに入った。
「ちょっとキュルケ! 何やってんのよ!! アンタ、コルベール先生はどうしたの!?」
その言葉の効果はてきめんで、キュルケの全身から発せられていたフェロモンが霧散する。『ごめんなさいね』という言葉と共にアストルフォから手を離すと、ルイズの方へ駆け寄った。
「聞いてよ、ルイズ! ジャンったら最近ますます研究に夢中で全然構ってくれないのッ! そりゃ……チキュウの物は素晴らしいわ。化粧品とか、服とか、バックとか、今では無いのが考えられないくらいにッ!! ルイズもそう思うでしょッ! でもでも、全く構ってくれないのは酷いと思わない? 今回の会議だって本当なら同行してくれる筈だったのに、ニホンから来た研究者との仕事が忙しいからキャンセルするって云うのよッ!! ホント、どう思う――ルイズ!!」
キュルケの喋りは本当凄い勢いだった。ルイズはキュルケの勢いに負けて、一歩も二歩も後ろに下がってしまう。
「ちょっと、ちょっと!! そんな捲し立てないでちょうだい! 話ならオストラント号の中で、いくらでも聞いて上げるからッ!」
「そう……じゃ、ついて来て! 他の皆も急いでね、こっちよ!」
そんなこんなでルイズはキュルケに引っ張られ、他の皆はそれに続いてオストラント号に乗船した。キュルケのペースに皆が呑まれたのだ。
空の旅は快適なものだった。天気は快晴、甲板を吹き抜ける上空の風は心地よく、海苔緒はケイローンと共に下界の様子を眺めている。
アストルフォはオストラント号を忙しなく駆け回り、船員であるツェルプストーの使用人達から話を聞いているようである。
ルイズとキュルケは船内でガールズトークを繰り広げており、ティファニアはそれに付き合っているそうだ。
そして才人は連日の勉強や、日本の大使や関係者の相手で疲労が溜まっており、船室のベッドで仮眠をとっていた。
キュルケがケイローンに絡まなかったのは海苔緒も意外に思ったのだが、どうやらケイローンの雰囲気がコルベールのことを思い出させるらしく、余計に寂しくなるのでキュルケはケイローンに近づかないようしているらしい、とのこと。
「凄い景色ですね」
海苔緒は甲板から見える地上の様子を見て、感慨深く呟いた。
ジークフリート化した片目をさらに魔術で強化するば、海苔緒は遥か彼方をはっきりと見通すことが出来るが、アーチャーであるケイローンはさらに遠くを見据えることが出来る。そう思うと、ケイローンの凄さを改めて実感する。
それから思いついたように、海苔緒はケイローンに質問を投げた。
「……先生は空飛ぶ船に乗ったことはなかったんですか?」
不意に紡がれた海苔緒の言葉に、ケイローンは些か戸惑った様子で、
「海苔緒殿、その先生というのは……?」
「もしかして迷惑でしたか? 呼び捨てには出来ませんし、アーチャーと呼ぶのも(型月的に考えて)少し不味いですよね。先生という言葉が一番似合うと思って呼ばせて貰ったのですが……」
敬語なのはケイローンが明らかな目上だからである。海苔緒がアストルフォに敬語を使わないのは……あの人柄だからこそであろう。
不安そうな海苔緒の視線に気付いて、ケイローンはやんわりと答えた。
「いえ、そういうことならば構いません。教師として貴方を教え導くことが出来るかは、まだ分かりませんが……導く者として再びその名で呼ばれるのは、本当に嬉しい限りです」
ケイローンの返答に、海苔緒はほっと胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます。ケイローン先生。それと、俺のことは呼び捨てで構いません。俺、そんな全然大したヤツじゃないですし」
「いいえ、そんなことはないでしょう。貴方は既に竜を打倒し、多くの人の命を救っている。その行いは英雄として称賛されるべき偉業です。謙遜は美徳でもありますが、度が過ぎれば卑屈にもなってしまう。貴方はもっと自分を誇ってもいいのですよ」
「いや、でも……」
海苔緒は言葉に詰まった。
そんなモノは借り物だと、自分の力ではないと、そうはっきり口に出してしまいたかった。
だが、一切合切をケイローンに打ち明ける勇気を、今の海苔緒は持ち合わせていない。故の気まずい沈黙。
ケイローンは海苔緒に気を使ってか、話題を切り替えてくれた。
「話が逸れてしまいましたね。では、好意に甘えて貴方のことは以後、ノリオと呼ばせて頂きます。それでノリオ、『空飛ぶ船に乗ったことがあるか?』という質問ですが……残念ながら、生前の私は、このオストランド号のような空を翔る船に乗ったことはありません。神々の中には
「それは……」
海苔緒も知っている。ケイローンの弟子であるヘラクレスやカストール、アキレウスの父ペレウスや、ケイローンの狩猟の師である女神アルテミスの加護を授かった女傑アタランテも乗船したと謳われる伝説の船。
そしてその船に勇者たちを招集したのもまた、ケイローンの弟子であるイアソンである。
「あれはちょうど……アキレウスが生まれてまだ間もない頃のことです。私は友であるペレウスから赤子のアキレウスを預かり、アルゴー船の出航を見届けました。今でも瞼と閉じれば、潮風と共に思い出すことが出来る。威風堂々たる英雄達の姿と、彼等と共に誇らしげな笑みを浮かべるイアソンの顔を……」
「でもイアソンは……」
海苔緒はそれ以上口に出すのを躊躇った。アルゴー船で旅に出たイアソンは結果的に故国であるイオールコスの王位を継ぐことは叶わず、その後にイアソンはコリントス王の娘と結婚するためにメディアを裏切り、激怒したメディアからの報復を受けて全て失ってしまう。
イアソンはその後、当てもない放浪の末に……かつての栄華の象徴であるアルゴー船の残骸に埋もれて果てた、と伝承では云い伝えられている。
「云いたいことは分かります。確かに
ケイローンは沈痛な面持ちで静かに語る。彼等の保護者であった身として、彼等の最期に思うところがあるのだろう。
だがケイローンがかぶりを振って、話を続けた。
「ですが、それでも彼等の生きた人生の中には確かな輝きが存在していたのです。それは僅かな瞬きのような光だったのかもしれません。けれどそれだけはきっと、誰にも否定することは出来ないでしょう。ですから、私にとって彼等は今でも誇らしい自慢の弟子であることに変わりありません」
ケイローンは迷いの全く見られない晴れ晴れとした顔で、そう云いきる。
本心で云っているというのは、海苔緒にもはっきり伝わった。
ケイローンにとって、弟子であった人物達は皆一様に大切な存在なのだ。
「そうですか……」
頷く海苔緒に、ケイローンは云おうか云うまいか、躊躇っていたことを口にする決意をした。先生と呼ばれたからには、その役割を果たしたいと思ったからだ。
まだ短い縁ではあるが、ケイローンは既に海苔緒のことを幾分か理解し始めていたのだった(勿論転生者である等とは、考えもしていないが)。
「ノリオ、教え導く者として老婆心ながら一言だけ云わせてください。――過ちは誰においてもあるものです。貴方が何を抱えているかは分かりませんが、貴方は必要以上に自分を追い詰めている節があります。辛い時は、辛いと口に出した方がいい。貴方はそういう事が苦手なのでしょうが」
ケイローンはさらりと海苔緒の本質を云い当てた。
海苔緒自身も考えないようにしているのだが、……心のどこかで贖罪の機会を探していた。
認めたくはないが、日本政府に積極的に協力しているのは母のためであると同時に、自身の二度目の生の意味を見出そうとしてのことだ。
海苔緒が似合わない無茶や無理をしているのも、根本にそんな想いが隠れているから。
――そして或いは、己の心臓を動かす
「……ありがとうござい、ます」
上擦ったような震える声で海苔緒はケイローンに感謝した。覆われていた心が少しだけ露わになって、海苔緒の目から一筋の涙が溢れる。
悩みを打ち明けることはしなかったが、それでも海苔緒はケイローンの傍らで少しの間静かに泣いた。
ケイローンはそんな海苔緒の姿を優しい目で、終始見守ったのだった。
次回はなるべく早く投稿したいと思います。
乙女の作法の2もやりたいんですけどね……ORZ
遅れたらごめんなさい。
では、